EU における金融ビジネス 4: トレードファイナンス ~ 欧州経済の歴史から見る EU の現状と貿易金融の役割について ~ トレードファイナンス営業部営業推進グループ長衣斐洋兵
トレードファイナンス ( 貿易金融 ) とは 狭義の意味 輸出入に伴う生産 集荷 仕入 輸送 加工 引取 販売 決済等の各段階における資金の融通 信用供与 広義の意味 貿易商品の開発から将来の販売に係る国際貿易の取引 貿易決済に関連する資金供給や信用供与 リスク回避手段の供与 コーポレートファイナンス 企業の信用力に基づいたファイナンス プロジェクトファイナンス 事業の将来キャッシュフローに基づいたファイナンス トレードファイナンス 貿易取引における リスク と 代金回収までの時間 を埋める金融サービス 輸出企業 商品 Gap 輸入企業 輸入者のクレジット 支払い代金の調達 支払いサイトの延長 代金の早期回収 カントリーリスク リスク 支払い利息の低減 代金回収までの時間 代金回収の効率化 売掛金のオフバランス 2
本講義の流れ 1. 中世における欧州各地での貿易拡大 2. 中世から近世の植民地拡大と貿易金融の発展 3. EU からみる欧州統合 = 経済圏の更なる統合 EU 経済の抱える課題 貿易金融の果たす役割 4. トレードファイナンス事例紹介 3
1. 中世における欧州各地での貿易拡大 初期の中世ヨーロッパ貿易 10 世紀から 11 世紀にかけてヨーロッパ各地で余剰生産物が増え それらを交換する商人という職業が生まれ 定期市などが頻繁に開催されるようになる 地中海地域 : イタリアのヴェネツィア / ジェノヴァ / ピサ等の海港都市が東方貿易を行い イタリアからは毛織物等を輸出し 香辛料や絹織物を東方から仕入れ ヨーロッパ各地に販売し膨大な利益を上げる 北海 バルト海地域 : 北ドイツやイギリスのロンドンが北ヨーロッパ商業圏を形成し 木材 海産物 毛皮 穀等の交易で栄える 4
1. 中世における欧州各地での貿易拡大 初期の貿易金融 地中海商業圏と北海 バルト地域商業圏を結ぶ重要地域としてドイツのケルン / ミュンヘンやフランスの シャンパーニュ地方 / パリ / リヨンにおいて両替商 銀行が支店を構え 両替や手形決済を提供 西洋各国における貿易取引の増大に伴い 信頼に基づく貿易決済手段が発達 商業圏拡大に伴い信用に基づく貿易決済が定着し 決済 信用手段としての手形 1 利用及び貿易金融が急速に発達 普及 貿易取引増大に伴う資金需要に対応すべく 商人兼両替商が初期の銀行として両替や手形決済に加えて前貸や立替金融を開始 例 ) 約束手形 : 将来の時点での支払約束 1 手形文言 : 約束手形 2 金額 3 支払約束文言 4 支払人の名称 5 支払期日 6 支払場所 7 支払地 8 振出地 9 手形振出日 10 受取人 1: 手形とは 一定金額の支払を約する有価証券 作成時点では金額に見合った資金がなくとも 手形を振出人の信用力で将来の特定日に支払うことを約束し 支払期日を延ばすことができる 5
2. 中世から近世の植民地拡大と貿易金融の発展 欧州植民地拡大に伴う貿易金融の発展 15~17 世紀半ば ヨーロッパ人によるインド アジア大陸 アメリカ大陸への植民地主義的な海外進出が盛んに 大航海時代 それまで海上権はイタリアが主導権を握っていたが この頃よりスペイン人 ポルトガル人 オランダ人 後にイギリス人へと移行 新大陸貿易では 欧州にて繊維や雑貨を大量に買い付け これらを加工し 新大陸に輸出し 新大陸から金や銀等の鉱産物を欧州に輸入するという貿易が確立 欧州 - 新大陸間の貿易増加に伴い航海期間が長引くに応じた貿易決済が増え 輸出前貸しや貸付等の近世の国際金融の原始的形態が具現化 植民地政策に係る貿易金融 王国が貿易を独占的に運営し 金融業者は対政府融資を行い それと引換に独占的貿易権を獲得 政府公認の貿易商人として主導権を握る 南ドイツの金融業者 フッガー家やヴェルザー家等の富豪商人 銀行は政商的宮廷銀行と呼ばれ ハプスブルグ王国の新大陸植民地政策に係る貿易金融を供与し 巨万の富を蓄積 しかし 大航海に伴い航海期間は長期化 貿易資金負担が増大化 また 長期航海に耐える大艦隊組成資金 新大陸の農業発展に対処する開発資金は次第に膨大となり 国王の借金が巨額に膨れ上がる 国際通貨として君臨したスペイン金貨は 財政赤字の補填からハプスブルグ王国の国力とともに衰退 6
2. 中世から近世の植民地拡大と貿易金融の発展 多国籍銀行の確立 貿易の発展 拡大とともに 国際ネットワークを通じて国際金融業務を展開する多国籍銀行が確立されていく 多国籍銀行とは 貿易金融 為替業務から生じる国際決済に必要となる支店や子会社等の海外拠点網を持ち これらネットワークを利用し 国際決済機構に参加し 国際的に預金 信用供与の事業を行う 植民地経営に関連し 拠点網を拡大 本国との貿易及び植民地生産の生産金融に従事 取引先となる多国籍企業の国際的事業展開に随伴し 金融的側面を担う相互補完的役割として展開 国際通貨での決済等に対応すべく国際通貨金融市場に活動拠点を設置 商業 金融資本の発展 地中海貿易に始まる 貿易金融 為替業者 貿易特権と政治金融とが結び付いた癒着構造 多国籍銀行 7
2. 中世から近世の植民地拡大と貿易金融の発展 イギリス植民地貿易とファクタリングの発展 スペイン艦隊を破り世界的に勢力を拡大してきたイギリスは 17 世紀半ばより海外進出 植民地化を推進 18 世紀には産業革命 植民地経営に成功し 国際金融の中心地としての地位を確立 19 世紀前半 イギリスはインド シンガポール 香港等のアジア地域における植民地貿易を活発に行い ファクタリングとういう形態の貿易金融が普及 ファクタリングとは : 輸出企業が販売企業 ( 輸入企業 ) に対し保有する輸出債権をファクタリング会社 ( ファクター ) に譲渡することにより 同債権に係る回収リスクをヘッジするサービス また 当該債権をファクター宛に売却することで資金調達も可能 植民地貿易の拡大とともに遠距離貿易が増加し 資金回収までの時間長期化による必要資金 信用保証への需要が増加 ファクタリング活用による信用供与や早期資金化はこれら需要を充足させ 植民地産業を促進 8
2. 中世から近世の植民地拡大と貿易金融の発展 国際通貨とは 国際取引 当該国以外の第三国においても使用される契約通貨で 世界で通用する機能を備えたもの 国際通貨ポンド 植民地の拡大により イギリスは大英帝国を築き イギリスが世界を支配 世界の工場 世界の銀行となり 通貨ポンドは支配的立場を築くこととなる 1816 年に金本位性が採択され ポンドは金に基礎を置く初めての通貨として 世界的な貿易の契約通貨 決済通貨として使用された 金 1 オンス ( 約 31g)=3 ポンド 17 シリング 10 ペンス半 固定為替相場 金本位制度の下では為替相場は固定相場である為 ポンドは為替が安定しており 世界の貿易決済はロンドンに集中 通貨による世界経済支配 9
3. EU からみる欧州統合 = 経済圏の更なる統合 EU( 欧州連合 ) とは 欧州連合条約に基づき 経済 通貨統合 共通外交 安全保障政策 警察 刑事司法協力等のより幅広い分野で の協力を進めている政治 経済統合体 経済 通貨統合については 国家主権の一部を委譲し 統一的な通商政策を実施する世界最大の単一市場を形成 EU( 欧州連合 ) の形成 20 世紀後半 欧州諸国の海外植民地は次々に独立を宣言し 欧州の経済基盤が脆弱化 1989 年には東西ドイツ統合による安全保障環境が大きく変動 単一市場の形成 関税同盟 共通通商政策 域内市場統合 共通農業政策 単一通貨 ユーロ の導入 : ユーロの国際化 統一通貨 ユーロ の導入により 世界市場において単独で競うには弱い国であっても 競争力を高められる体制を構築 原加盟国 1958 年 ドイツフランスイタリアベルギーオランダルクセンブルク 第一次拡大 1973 年 イギリスアイルランドデンマーク 第二次拡大 1981 年 ギリシャ 第三次拡大 1986 年 スペインポルトガル 第四次拡大 1995 年 オーストリアスウェーデンフィンランド ポーランドチェコハンガリーエストニア ラトビア 2004 年リトアニア第五次拡大マルタ キプロス スロバキア スロベニア 2007 年 ブルガリアルーマニア 第六次拡大 2013 年 クロアチア 10
3. EU からみる欧州統合 = 経済圏の更なる統合 欧州債務危機の振り返り 時期 イベント 2007 年下期サブプライムローン問題の発生 2008 年 09 月リーマン ブラザーズ破綻 11 月中国が緊急経済対策を発動 ( 総額 4 兆元 ) 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 10 月ギリシャの巨額簿外債務が発覚 国債の格付下げ 11 月 UAE 政府系企業が返済繰り延べを債権者に要請 ( ドバイショック ) 04 月欧州中銀が国債買取プログラムを開始 05 月ギリシャ宛金融支援 11 月アイルランド宛金融支援 04 月ポルトガル宛金融支援 10 月 EU 首脳会議が金融機関への中核自己資本 9% 以上とする資本増強を義務付け 12 月欧州中銀による市場への資金供給 ( 第一回 ) 01 月 1 ユーロが 10 円を割れる (12 年振り ) 02 月ギリシャ国債 (10 年 ) の利回が 29.2% まで上昇 02 月欧州中銀による市場への資金供給 ( 第二回 ) 06 月 EU 首脳会議が金融機関への公的資金注入等を決定 06 月スペイン宛金融支援 04 月キプロス宛金融支援 10 月ギリシャ国債 (10 年 ) の利回が 10% 以下に低下 2014 年 06 月欧州中銀 預入金利を 0 からマイナス 0.1% に引き下げ 11
3. EU からみる欧州統合 = 経済圏の更なる統合 EU の課題 : 単一市場化による過大な信用享受 EU 加盟国内は経済的に強い国と弱い国での格差が存在 本来の信用度との乖離 経済的に弱い国が過度の信用享受により身の丈以上の投資や債務を抱えた結果 欧州経済危機へ EU における貿易金融の役割 中世から現代までの貿易発展に見られるように 貿易金融は経済圏拡大の手段 現代においても EU の多国籍金融機関は所在国による輸出入への貿易ファイナンスを通じ EU の経済圏拡大に貢献 最後のフロンティアと呼ばれるアフリカやアジア等の新興国におけるビジネス拡大 欧州諸国の貿易金融の歴史は長く 欧州は現在においても貿易金融の中心地 当行トレードファイナンス営業部はロンドンにグローバル本部を置き 29 ヵ所に及ぶ拠点網を活用し 多様化した貿易ファイナンスニーズに対応 12
三井住友銀行グローバルネットワーク Global Trade Finance Department SMBC Tokyo New York Singapore Dubai Hong Kong Seoul Bangkok Taipei Hanoi Sydney New Delhi Los Angels Istanbul Johannesburg San Francisco Los Angeles Americas Düsseldorf Prague Ulaanbaatar Lima Houston Mexico City SMBCE London Paris Milan SMBCCN Shanghai Beijing Canada United States New York Branch Los Angeles Branch San Francisco Branch Houston Rep Office Manufacturers Bank Cayman Branch Mexico Mexico City Rep Office Colombia Bogota Rep Office Canada Sumitomo Mitsui Banking Corporation of Canada Brasil Banco Sumitomo Mitsui Brasileiro S.A.<SMBCB> Peru Lima Rep Office Chile Santiago Rep Office United States Manufacturers Bank Houston Mexico City SMBCB Sao Paulo SMBCI Jakarta SMBCMY Kuala Lumpur SMBCR Moscow SMBC Canada Lima Santiago New York Cayman Bogota South America Europe / Middle East / Africa Europe Sumitomo Mitsui Banking Corporation Europe Limited<SMBCE> Head Office(London) Paris Branch Milan Branch Amsterdam Branch Dublin Branch Prague Branch Madrid Branch Sumitomo Mitsui Finance Dublin Ltd. Düsseldorf Branch Brussels Branch Brussels Dublin Amsterdam Düsseldorf SMBC Europe Ltd Prague Paris Europe Milan Madrid Istanbul Banco Sumitomo Mitsui Brasileiro Africa Cairo Moscow Bahrain Abu Dhabi Doha Dubai Johannesburg Middle East Dubai Branch Abu Dhabi Rep Office Bahrain Rep Office Teheran Rep Office Doha QFC Office Istanbul Rep Office Africa Cairo Rep Office Johannesburg Rep Office Russia SMBCE, Moscow Rep Office JSC Sumitomo Mitsui Rus Bank Teheran New Delhi Russia Beijing Shenyang Dalian China Tianjin Seoul Binhai Suzhou Changshu Shanghai Chongqing Hangzhou Guangzhou Taipei Hanoi Shenzhen Hong Kong Yangon Bangkok Manila Phnom Penh Kuala Lumpur Singapore Ulaanbaatar PT Bank Sumitomo Mitsui Indonesia Perth Oceania Ho Chi Minh Labuan Australia Sumitomo Mitsui Finance Australia Ltd. Sydney Branch Perth Branch Australia Sydney East Asia (excluding Japan) China Sumitomo Mitsui Banking Corporation(China)Ltd.<SMBCCN> Head Office(Shanghai) Tianjin Branch Tianjin Binhai Sub-Branch Guangzhou Branch Suzhou Branch Suzhou Industrial Park Sub-Branch Changshu Sub-Branch Hangzhou Branch Beijing Branch Shenyang Branch Shanghai Puxi Sub-Branch Shenzhen Branch Chongqing Branch Shanghai Pilot Free Trade Zone Sub- Branch Kunshan Sub-branch Shanghai Branch Dalian Rep Office Taiwan Hong Kong Taipei Branch Hong Kong Branch Korea India Seoul Branch New Delhi Branch Mongolia Ulaanbaatar Rep Office South & South East Asia Singapore Singapore Branch Malaysia Sumitomo Mitsui Banking Corporation Malaysia Berhad Labuan Branch Labuan Branch Kuala Lumpur Office Indonesia PT Bank Sumitomo Mitsui Indonesia <SMBCI> Vietnam Ho Chi Minh City Branch Hanoi Branch Vietnam Export Import Commercial Joint Stock Bank Myanmar Yangon Branch Thailand Bangkok Branch Chonburi Exchange Office Cambodia Phnom Penh Rep Office Philippines Manila Rep Office 13
トレードファイナンス事例 1 案件概要 アンゴラ国営石油企業宛 輸出前貸ローンを複数の金融機関とのシンジケーションにて実施 輸出される原油掘削の為の必要資金を 将来の輸出代金を担保に融資 輸出者原油生産会社 ( アンゴラ企業 ) 輸入者 借入人 貿易商品 石油トレーディング / 精製会社 輸出企業の特別目的会社 (SPC)(= 輸出者アンゴラ企業 ) 原油 提供サービス 金額 期間 輸出前貸 1,50 百万米ドル 7 年 14
トレードファイナンス事例 2 案件概要 ロシア所在の衛星 通信運営会社向けにフランス ECA を活用し輸入代金を融資 ( 輸入者取引銀行と融資契約を締結し 間接的に輸入者宛に輸入資金を融資 ) 輸出者 輸入者 通信機材製造会社 ( フランス企業 ) 衛星 通信運営会社 ( ロシア企業 ) 借入人 G 銀行 ( 輸入者取引銀行 ) 1 ECA (Export Credit Agency = 貿易保険 ) 自国の輸出及び対外投資促進の為に各国輸出信用機関が提供する制度金融 貿易商品提供サービス保証金額期間 衛星通信設備 ECA 付輸出金融 156 百万ユーロ 8 年 15
16