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青年期の子どもを持つ夫婦による夫婦間葛藤に対する原因帰属と対処行動 資料 心理学研究年第巻第川島 伊号藤 菅 原 酒井 菅原 北村 : 夫婦間葛藤認知 365 川島亜紀子お茶の水女子大学伊藤教子明星大学菅原ますみお茶の水女子大学酒井厚山梨大学菅原健介聖心女子大学北村俊則熊本大学 ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) Key words: ( ) これまでの夫婦関係に関する心理学的研究により, 夫婦間葛藤が夫婦や家族の身体的 精神的健康や不適応行動との短期 長期的な関連が示唆されている ( ) 中でも, 夫婦間葛藤帰属は葛藤時の非効果的対処, 否定的感情, 否定的コミュニケーションと関連するとされ, 欧米の夫婦関係研究の中で重要視されている ( ) この測定には一般的に ( ) が作成した夫婦間での否定的出来事 ( ) 本研究は平成 年度お茶の水女子大学 世紀 ( 人間 発達 ) 公募研究助成, および平成 年度科学研究費補助金 ( 課 題番号 :, 基盤研究 ( ), 研究代表, 菅原ますみ ) によ って行われた なお, 本研究の一部は ( 人間発達 ) 公募研 究成果論文集にて公表された 長期にわたる縦断研究にご協力くださっている対象者のご家 族に心より感謝申し上げます に対する帰属を測定する尺度 ( 以下 とする ) が用いられている ( ) は夫婦間で起こり得る仮 想の葛藤状況に対し, その原因と責任について評定さ せる尺度で, 下位次元として二次元が想定されてい る 第一次元の原因の否定的評価 に は,( ) 原因の所在 ( 配偶者自身に原因がある ), ( ) 安定性 ( 理由は変化しそうにない ),( ) 全 体性 ( 理由は結婚生活のほかのことに影響を 与える ), 第二次元の相手の悪意 責任 には,( ) 意図性 ( 故意にした ),( ) 自己中心的動機 ( 自己中心的に考えてし た ),( ) 責任 ( 責められて当然だ ) が含まれ る わが国では川島 ( ) が, ( ) の開発した家族間問題構成尺度に基づく尺度を用い夫 婦間葛藤への否定的帰属と夫婦の愛情評価との関連を 見出しているが, この尺度は具体的な原因内容を評定

366 心理学研究年第巻第号 するものであるため ( 原因は, 相手の性格にある), のように原因次元について特定できず, 回答者と研究者とで原因次元の評価 ( 性格 は安定次元か ) が一致しない可能性が残る ( ) 原因次元を特定した欧米と比較可能な尺度であるを使用することにより, 日本の夫婦における葛藤帰属についてもこうした原因次元に沿ってその特徴をより詳細に把握できるものと考えられる 以上から, 本研究では日本語版を作成し, 信頼性と妥当性の検討を行うこととした ( ) は関係評価が原因の否定的認知, 相手の悪意 責任を媒介として相手に対する寛大さにつながるというモデルを提示し, 検証している 本研究では夫婦関係の中で重要な影響力をもつと考えられる愛情評価に焦点を当て, 葛藤帰属と葛藤への対処行動との関連を検討することとした 平山 柏木 ( ) は, わが国の中年期の夫婦で頻繁に見られる否定的コミュニケーションは無視 回避とした 葛藤回避行動は, その場では葛藤の規模を縮小したり感情的摩擦を避けたりすることが可能だが, 長期的には問題解決につながらず適応的とはいいがたい ( ) 以上から, 夫婦の愛情評価は原因の否定的な認知と相手の責任への帰属を媒介して葛藤回避行動に関連するという仮説モデルを検討することとした ( ) 対象者 方 本研究は, 子どもの発達と家族の精神保健に関する発達精神病理学的な縦断研究 ( 菅原, 八木下, 詫摩, 小泉, 瀬地山, 菅原, 北村, ) の追跡調査の一部である ( 詳しい対象者については, 菅原他 ( ) 参照 ) 本研究ではこの年目の追跡調査に応じた名 ( 夫名, 妻名 ) のうち夫婦愛情評価 (, 菅原 詫摩 ( ): 以下とする ), 夫婦間葛藤帰属, および葛藤対処に回 法 答のある名 ( 夫名, 妻名 ) をの基礎統計 ( 分析 ) で使用し, ペアデータがそろった組をペアデータ分析 ( 分析 ) で使用した 調査手続きと内容 対象者には質問紙に個別に回答し, 記入が終わるま でお互い相談しないよう依頼した 全ての対象者は本 研究プロジェクトの目的を理解した上で同意書に署名 した 夫婦間葛藤帰属 ( ) を第一著者が邦訳, バイリンガルの翻訳者によって再 翻訳が行われたものを原著者 ( ) の許可を 得た上で実施した はパートナーによる関係性 に否定的影響を及ぼす行動に対する帰属の自己評定尺 度である 八つの夫婦間で生じる仮想の否定的イベン トを想像し, 原因の否定的認知と相手の悪意 責任に 対するそれぞれ 下位尺度を 全くあてはまらない から 非常にあてはまるの 件法で評定する 項 目の尺度である 得点が高いほど相手の行為を否定的 に捉え, 相手に責任を帰属することを示し, 取り得る 得点の範囲は 点である を日本のサンプルに実施するのは今回が初め てであるため, 本研究の対象者においても で用 いられた刺激イベントが一般的に生起するか検討する ため, これらの項目の頻度に関していつも ( )か ら 全くない ( )の 件法の評定を付加した ( ) 夫婦の愛情評価 の短縮 ( 項目 ) 版 ( 菅原 他, ) を夫婦の愛情関係を測定するものとして使 用した 評定は 全くあてはまらない ( )から 非 常にあてはまる ( )の 件法である 菅原 詫摩 ( ) は本尺度の並存妥当性について確認しており, 本研究のサンプル ( 分析 ) においても十分な内的一 貫性が示されたため ( 夫 a=, 妻 a= ), 項 目の単純加算した得点を 得点とした 夫婦関係満足度 主に欧米の夫婦関係研究で伝統的 に用いられる (, 回避行動に関する改良モデル 注 ) 上段夫, 下段 ( 斜体 ) 妻 = 愛情評価 原因の否定的評価, 相手の悪意 責任はの下位因子 夫の 相手の悪意 責任 回避行動 パス ( < ) 以外 < * <, ** < はパス係数の有意差 c ( )= =, =, =, =

川島 伊藤 菅原 酒井 菅原 北村 : 夫婦間葛藤認知 367 Table 1 RAM1 1 2.59.69 2.49.70 2 2.08.83 2.03.82 3 2.23.87 2.23.77 4 1.68.71 1.64.76 5 1.54.74 2.271.00 6 1.59.74 1.79.85 7 1.97.69 2.27.90 8 2.02.76 1.98.82 SD14 ) の総合評価項目 ( 夫婦関係に対する全 体的満足度, 件法 ) を用いた 本調査対象者の平均 値は夫 ( = ), 妻 ( = ) であっ た 夫婦間葛藤に対する対処行動 夫婦間葛藤への対処 行動として, 回避行動を測定すると考えられる項目を 対人ストレスコーピング尺度 ( 加藤, ) を参考に 項目用意した 夫婦間でうまくいかない, 折り合い がつかないとき, どの程度回避行動を選択している か, 全くしない ( )からいつもする( )の 件 法で評定させた 分析 サンプルにおける 項目の信 頼性係数は夫 a=, 妻 a= であった 回避行動 を潜在変数とする夫, 妻の多母集団因子分析を等値制 約を課して実施した結果, 十分な適合度が示された (c ( )= =, =, =, = ) それぞれの項目に対する標準化係数 ( 夫 / 妻 ) は, 時の過ぎるのに任せる ( ), 自 分の気持ちを伝える ( ), 気のすむまで 話す ( ), その場を立ち去る ( ), 相手の言うことを聞き流す ( ), あきらめる ( ) であった 単純加算したものを回避行動得 点として算出し, 夫婦の差を検討したが, 有意差はな かった ( 夫 ( = ), 妻 ( = )) ) 結 果 の基礎的分析および個人内モデルの検討 ( 分析 刺激イベントの妥当性の刺激イベントが, わが国においても実際に生起しているかどうかを検討した ( ) (, ) は刺激イベントの選定にあたり体験頻度について調査し, 対象者の % 以上がこれらを体験し, その頻度は 時々 から しばしば の間であったと報告している 本分析対象では, 平均約 % の人々がこれらを体験していた ( 夫 %, 妻 %) しかし 家事の分担をちゃんとしない( %), 夫婦二人ともに影響を与えるような重要なことをあ なたの意見を聞かずに決める( %) の夫による 体験は半数以下であった 全ての刺激イベントは, 平 均すると 時々 生起する ( 夫 = =, 妻 = = ) と評価されていた 対象者による 刺激イベント体験頻度は ( ) より低かったが, こうし た否定的出来事がわが国の夫婦においても平均 割程 度に生起しており, また日本人サンプルで を用 いる初の試みであることから, 以降についても全尺度 項目を用いた分析を行うこととした 信頼性 下位尺度次元 ( 原因の所在, 安定性, 全 体性, 意図性, 自己中心的動機, 責任 ) それぞれの信 頼性係数 a を算出した ( ) いずれの下位尺度 も信頼性の基準値を上回っていたため, これらの下位 尺度得点の合計得点を算出した ( ) 同様, 高得点ほど相手の否定的行動を強調す るような原因および責任の認知をしていることを示す ようにした 算出した合計得点 ( ) の分布は いずれも低得点への偏りが見られたので, 対数変換し た値を用意した の平均値については短縮版のみが公表されて おり, これらと比較するため本研究サンプルにおいて も短縮版の平均値 ( ) を算出した その結果, 夫 原因の否定的認知, 相手の悪意 責任 順に ( ), ( ), 妻 ( ), ( ) であった (, ) のイ タリア人サンプルでは順に夫 ( ), ( ), 妻 ( ), ( ), (, ) のオランダ人サン プルでは順に夫 ( ), ( ), 妻 ( ), ( ) であった 本研究サンプルの 得点は上記研究の中間の値であった ( ) では得点が高くなるほど責めないような認知を表していたため逆転するよう計算した

368 心理学研究年第巻第号 Table 2 RAM1 a a N = 182 N = 242.93.92.89.95.43.47 18.477.71 20.968.93.93.94.87.92.32.44 17.917.93 20.169.46.95.94.70.77.31.36 18.138.05 18.307.70.96.93.89.92.40.41 16.508.16 17.227.98.97.95.94.98.47.43 19.109.67 16.668.95.96.94.92.91.43.29 16.308.12 18.979.12 RAM p <.01.92.89c 2 14= 14.86p =.39GFI =.99AGFI =.97RMSEA =.01 a 848 Table 3 1 1 2 3 4 1 MLS.40.43.43 2 a.54.85.23 3 a.52.88.29 4.43.41.34 MLS = = =p <.01 a 因子的妥当性および並存妥当性 ( ) 同様, が二次元構造 ( ) であるかどうかを検討するため, ( ) を用いた確証型因子分析により一次元構造と二次元構造の適合度比較を行った 夫婦同時分析を行ったところ, 一次元構造よりも二次元構造の方がとの値からより適合度が高いと考えられため ( 一次元構造 c ( )= =, =, =, =, =, 二次元構造 c ( )= =, =, =, =, = ), 多母集団分析についても二次元構造を検討することとした 夫, 妻それぞれのデータを用いて分析を行ったところ, それぞれ十分な適合度が示された ( 夫 c ( )= =, =, =, =, 妻 c ( )= =, =, =, = ) そこで多母集団因子分析を行ったところ, パス係数に等値制約をおかないモデル (c ( )= =, =, =, =, = ) より, 全てのパス係数を等値とした制約モデル (c ( )= =, =, =, =, = ) の方が, とに照らしてあてはまりが良かった 以上から, 夫婦の因子構造は同一であると確認された 並存妥当性を検討するため, 夫婦関係満足度との相 関係数を算出した結果 ( ) や 先行研究同様 ( ), 夫婦間葛藤の帰 属と全般的な夫婦関係満足度との関連が確認された ( ) 個人内モデルの検討 仮説モデル ( ) を検 証するため, ( ) を用いた共分散構造分析を実施する前に, モデルに含 める変数間の相関分析を行った ( ) その結果 全ての変数間に有意な相関が見られたため, 仮説モデ ルに従い分析を行った 分析に際しては単純加算した 得点を観測変数, と葛藤の回避行動を潜在 変数として扱った まず夫婦合わせたデータで 得点から 原因の 否定的認知, および 相手の悪意 責任 を媒介し, 回避行動 につながる直線的なモデルを検討したと ころ, ほぼ満足のいく適合度が示された (c ( )= <, =, =, =, = ) さらにモデルを改善するために 得点と回避行動の関連性について直接のパスを引いた ところ, 改善が見られた (c ( )= =, =, =, =, = ) 以上から, 帰属を媒介するパスと, 帰属を経由せず愛 情評価が直接葛藤対処に関連するパスが同時に存在す る改良モデルが支持された ( ) 次に上記改良モデルに夫婦差があるかどうか検討す るため, 多母集団同時解析を行った 夫, 妻それぞれ で改良モデルの適合度を検討したところ, 夫婦とも良 好な適合度を示した ( 夫 c ( )= =, =, =, =, 妻 c ( )= =, =, =, = ) そこで多母集団同時解析を行い ( ) 潜在変数の構造以 外のパスは異なるとするモデル,( ) 潜在変数の構造, および 検定 ( % 水準 ) によって有意差がなかった 原因の否定的評価, 回避行動 の

川島 伊藤 菅原 酒井 菅原 北村 : 夫婦間葛藤認知 369 Table 4 2 1 2 3 4 1MLS.43.34.32.25 2 a.27.23.23.12 3 a.22.22.22.07 4.18.21.16.12 MLS = = = p <.01, p <.05 a パスを夫婦で等価とするモデル,( ) 全てのパスが夫 婦で等価であるモデル, の モデルの比較を行った その結果, 適合度指標は ( )c ( )= =, =, =, =, =, ( )c ( )= =, =, =, =, =,( ) c ( )= =, =, =, =, = となった いずれも問題のない適合度を示した が, の最も低いモデル ( ) を採用した ( ) 夫と妻とでは原因の否定的評価から相手の悪意 責 任につながるパス, および相手の悪意 責任から回避 行動へつながるパスに統計的に有意な差があった 夫 の方が原因の否定的評価から相手を責めるような認知 の仕方につながりやすく, 妻の方が相手を責めるよう な認知の仕方から回避行動につながりやすかった ペアデータを用いた分析 夫婦ペアのモデルを検討するため, 方法に示した分析データ ( 夫婦組 ) を用いて分析の結果 ( ) を基にモデルの作成および統計的検討を行った ペアデータを用いた相関分析を行ったところ ( ), 夫婦の愛情評価は相手の全ての変数と有意な相関を示した で測定される否定的認知も相互に関連していたが, 回避行動は夫婦間に有意な相関が見られず, 夫の回避行動は妻の否定的認知と有意な関連が見られたが, 妻のそれは夫の否定的認知と関連がなかった 以上から, 個人間モデル作成が妥当だと判断し, ( ) 夫婦の各変数 (, 相手の悪意 責任, 回避行動 ) から, 同時に相手の変数 ( 二因子, 回避行動 ) にパスを引き, 有意なパスを選別, ( ) 選別されたパスを用いたモデル検討, の段階を経て行った 妻からのパスを検討したところ, 夫へ ( ) および ( ) は, 原因の否定的認知が相手の悪意 責任に影響を及ぼすという捉え方をしているため, 本研究でもこれに従った のみが有意であった 夫 からは, 妻 へ有 意な, 原因の否定的認知へ有意傾向のパスが認められ た 妻の相手の悪意 責任からのパスを検討したとこ ろ, 夫 へ有意なパスが認められたが, 夫からは 有意なパスは認められなかった 回避行動からのパス を検討したところ, 妻からは有意なパスは認められな かったが, 夫から妻の原因の否定的認知へ有意なパス が認められた 以上から, 分析 で確認した個人内モデルに上記有 意もしくは有意傾向のパスを加えたモデルを作成し た その結果, 適合度指標は c ( )= =, =, =, =, = となり, 夫婦間では, 夫 から妻, 妻 の相手の悪意 責任から夫 のみが有意となり, 個人内では夫の相手の悪意 責任から回避行動が有意 でなかった 個人間 個人内ともに有意なパスのみを用いたモデ ルを最終的に作成した結果 (c ( )= =, =, =, =, = ), 検討された中で最良モデルであった 夫 ( 妻 ) の標準化係数は, から原因の否定的認知が ( ), 原因の否定的認知から相手の悪意 責 任が ( ), 相手の悪意 責任から回避行動は妻の み ( ), から回避行動は ( ), 夫婦 間では夫 から妻 へは, 妻の相手の悪 意 責任から夫 へは となった 以上から, 妻の愛情は夫の愛情によって直接影響を 受け, 夫の愛情は妻の夫を責めるような認知の仕方に よって影響を受けるというモデルが支持された さら に, 夫の否定的認知から回避行動には直接のパスが引 かれず, 愛情の低さから回避行動へのパスのみが有意 となった 妻から夫へは否定的認知が媒介変数として の役割を果たしていたが, 夫から妻に関してはこのよ うな媒介モデルは支持されなかった 日本語版 考 察 の信頼性および妥当性 本研究の目的は夫婦間葛藤に対する帰属を測定する日本語版の検討であり, 信頼性に関しては十分な内的一貫性を確認することができた 妥当性についても, ( ) の結果と同様, 否定的帰属と夫婦関係満足度の低さとの相関関係が認められた 本研究サンプルの得点は, 低得点に分布の偏りがみられたものの, 平均値としては欧米の研究結果と大きな違いは見られなかった 低得点への分布の偏 得点に関して同値モデルの可能性が残るため, 妻から夫へのパスを用いたモデルの検討を行ったがの値がこれを上回ったため, 本モデルが最良と判断した

370 心理学研究年第巻第号 りはわが国の夫婦の大多数にあてはまる尺度ではないことを示しているのかもしれないが, 一方で夫婦関係に問題を抱える人々は欧米と同様にパートナーを責めるような認知をしている可能性も示唆される またの刺激イベントの体験頻度は欧米の先行研究で示されたものよりもやや低率ではあったが, 実際にわが国の夫婦でも体験されていることが明らかになった 刺激イベントに対する帰属と実際の生活場面で生起した葛藤についての帰属は, 相関はあるものの同一のものではないことが ( ) によって示唆されていることから, 本研究では欧米で用いられている尺度を使用し検討を行った 今後 日本版 を洗練化していくためには面接や観察などの実生活に密着した手法を用いた研究が必要であり, その上で夫婦間葛藤に関する文化差を検討していくことも重要であると考えられる の構造に関しては, ( ) の二因子を本研究でも抽出することができた の構造は夫婦間で差がなく, 配偶者に対する否定的帰属は夫婦で同じように測定可能であると考えられる 仮説モデルに基づく妥当性の検証 仮説モデル ( ) にしたがって共分散構造分析を実施したところ, 葛藤の認知が媒介変数としての役割を果たすことも確認されたが, 夫婦の愛情評価から葛藤回避行動への直接の影響も確認された 回避行動の選択には, 葛藤の否定的帰属を媒介する場合と愛情評価から直接影響を受ける場合とが同時に存在するといえるだろう 愛情評価が直接回避行動に関係していたことは, 夫婦関係に不満の高い人は, 葛藤場面で非効果的に対処するパターンが見られるということと関連しているのかもしれない ( ) 多母集団同時解析によって, 夫は妻より原因と責任の帰属の関連が強く, 夫婦間葛藤認知と回避行動との関連が弱いことが示された ( ) したがって, 夫よりも妻のほうが相手のせいだと認知してしまうと, 葛藤時に相手の話を聞き流したり, あきらめたりして回避的に行動するようになる傾向が示されたといえるだろう 東海林 ( ) は妻の譲歩的対処には情緒調整の意味合いがあることを指摘しているが, 本研究サンプルにおいても, 妻は否定的認知によって生じる否定的感情に対して回避行動を用いて調整している可能性があると考えられる あるいは柏木 ( ) が指摘しているように, 妻は従うものという夫婦に関する社会的枠組みから, 妻はあきらめるという対処法を頻繁に使用せざるをえない状態を示しているのかもしれない こうした回避行動の機能や意味合いについて検討していくことも重要である 夫婦間での検討 夫婦の愛情評価と葛藤帰属および回避行動の夫婦ペアでの分析を行った結果, 妻の愛情評価は夫を責めるような認知を媒介して夫の愛情評価に否定的な影響を及ぼすが, 夫の愛情評価は妻の愛情評価に直接影響を及ぼすという非対称な結果が得られた これを解釈すると妻の愛情は夫の愛情によって支えられるが, 夫の愛情は妻の否定的見方 ( 非難 ) によって低下すると考えられる このことから, 夫婦の愛情関係という肯定的側面のみでなく, 夫婦間葛藤認知という否定的側面も個人内のみならずパートナーにも影響を及ぼす可能性が示唆される したがって夫婦の否定的側面を測定する尺度の一つとしてが有用である可能性が示されたといえるだろう 回避行動と相手の愛情評価とは有意な負の相関を示していたが今回のモデルにおいては有意なパスは見られず, 夫のと回避行動との有意なパスは確認されなかった このことは, 回避行動が一概に否定的なものではなくその場では葛藤を回避できるという適応的な側面を含んでいることを示しているのかもしれず ( 東海林, ), 回避以外の葛藤対処についても調べることが重要であると考えられる 今回は認知的な帰属のみを対象とし, 実際の言動を対象としなかったが, 妻の否定的帰属が夫の妻に対する愛情評価に直接影響を及ぼしていたことから, 妻が実際に否定的な帰属内容について言語化している可能性が示唆される 今後, 日本の夫婦の面接をするなどの方法を用い, 日本の夫婦に合う洗練された尺度構成が必要であると考える 引用文献

川島 伊藤 菅原 酒井 菅原 北村 : 夫婦間葛藤認知 371 東海林麗香. 夫婦間葛藤への対処における譲 歩の機能 新婚女性によって語られた意味づけ 過程に焦点を当てて 発達心理学研究 平山順子 柏木惠子. 中年期夫婦のコミュニケーション態度夫と妻は異なるのか発達心理学研究,,. 柏木惠子. 家族心理学 社会変動 発達 ジェンダーの視点 東京大学出版会 加藤 司. 大学生用対人ストレスコーピング 尺度の作成 教育心理学研究,,. 菅原ますみ 詫摩紀子. 夫婦間の親密性の評価自記入式夫婦関係尺度について精神科診断学. 菅原ますみ 八木下暁子 詫摩紀子 小泉智恵 瀬地 山葉矢 菅原健介 北村俊則. 夫婦関係 と児童期の子どもの抑うつ傾向との関連 家族 機能および両親の養育態度を媒介として 教 育心理学研究,,. 川島亜紀子. 家庭内問題に対する原因帰属 夫婦の愛情関係からの検討 人間文化論 叢 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科 受稿, 受理