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2010 年 6 月 17 日 6. 夫婦同居に関する審判の合憲性 ( 最高裁昭和 40 年 6 月 30 日日大法廷決定判時 413 号 3 頁 ) Ⅰ. 判例 1. 事実の概要 B 女は A 男と挙式 同棲 しばらくして婚姻届をした はじめのうちは夫婦関係は円満であったが 性格の相違から 両者は次第に意思の疎通を欠くようになり ついに B は実家に帰った その後 B は自分の性格を反省して復帰を望んだが A は離婚を主張してこれに応じないので 同居の調停を申し立てた 調停は不調 事件は審判に移行し A 宅での同居を命ずる審判が行われたが A はこれを不満として 即時抗告 抗告が棄却されたので 原審は対審公開の原則に反する憲法違反の裁判だとして特別抗告をした 2. 争点 訴訟性が高い乙類事件を非訴手続で扱うことは合憲か? 3. 判旨抗告棄却同居義務の存否自体は訴訟で争えるから 同居義務の存在を前提として その時期 場所 様態等について具体的内容を審判で定めても違憲ではないとした Ⅱ. 今回の判例に関係する条文 1. 民法 752( 同居 協力 扶助の義務 ) 夫婦は同居し 互いに協力し扶助しなければならない 夫婦の同居 扶助 協力について規定した条文であり 夫婦は同じ場所に住み ベッドとテーブルを共にするというように 生活を共にしなければならない 同居義務といってもただ単に同居すればよいというわけではなく 実質的な夫婦生活をしなければならない また 互いに貞操を守る義務も同居義務に含まれる 協力 扶助義務は配偶者に自分と同等の生活をさせなければならないという義務であり 自分の生活水準を落としてでも 相手を助けなければならない 同居義務は その性質上 直接強制も間接強制も許されない 判例は 妻の同居義務について間接強制することは妻の人格尊重の理念に反するので 間接強制が認められない - 1 -

2. 家事審判法 9 条 1 項乙類 1 号 ( 家事審判の分類 ) 1 項 家庭裁判所は 次に掲げる事項について審判を行う 乙類 1 号 民法 752 条の規定による夫婦の同居その他の夫婦間の協力扶助に関する処分 (1) 家事審判の流れ配偶者に同居を求める請求については 家事審判法によって家庭裁判所が専属的に審判手続きで扱うようになっている 配偶者に同居を求めたい者は 家庭裁判所に調停や審判を申し立てる事ができる 調停を申し立てた場合も 合意が成立しないと審判に移行する 審判手続きで家庭裁判所は 夫婦及び子供の共同生活に関する一切の事情を調査して 同居すべき場所 時期 様態等について具体的内容を定める審判を行う 場合によっては 一時的に別居が望ましいとの審判がなされることもある (2) 家事事件の処理手続き 1. 意義家事事件とは 夫婦 親子 兄弟といった血縁や愛情を基礎とし 現実的な生活を共同にし 又は共同にしていた者同士の紛争をいう 家事事件は 合理的 数量的に単純に割り切ることのできない感情や人間性が強いので 一時的に民事事件の処理とは異なった処理手続きが設けられている 2. 家庭裁判所による解決 (1) 家事調停家事調停とは 家庭裁判所が関与して当事者の互譲による合意の形成を斡旋し 調停事項をめぐる紛争を自主的に解決する手続きをいう ( 家審 17 条 ) (2) 家事審判家事審判とは 家庭裁判所が通常の訴訟手続きによらず 合目的的な裁量に基づき事件の個性に即した具体的に妥当な結果をもたらすことを意図した非訴訟手続きによる裁判をいう ( 家審 9 条 1 項 ) 家事審判法は甲類と乙類から構成され 今回の判例に当てはまる乙類は 1 夫婦同居その他夫婦間の協力扶助に関する処分 - 2 -

2 婚姻費用の分担に関する処分 3 子の監護者の指定その他子の監護に関する処分 4 離婚財産分与 5 子の親権者の指定又は変更 6 遺産分割に関する処分などがあげられる (3) 人事訴訟 人事訴訟とは 社会生活における身分秩序の基礎をなす基本的身分関係の形成 存否をめ ぐる紛争を処理するための特別な民事訴訟手続きをいう ( 人訴 2 条 ) 3. 憲法 82 条 1 項 ( 裁判の公開 ) 裁判の対審及び判決は 公開の法廷でこれを行う 4. 憲法 32 条 ( 裁判を受ける権利 ) 何人も 裁判所において裁判を受ける権利を奪われない Ⅲ. 家事審判での同居義務に関する審判の合憲性同居の請求は家庭裁判所の家事審判で扱われるが 非公開で行われ職権主義が採用されている 通常の訴訟のような公開の法廷での公開弁論による対審構造の裁判手続とは異なる このような裁判手続しか受けられないとすると 裁判を受ける権利を定めた憲法 32 条や裁判の公開を定めた憲法 82 条に反するのではないか という疑問が生ずる これについて今回の判例が合憲との判断を示した 理由としては 同居に関する裁判には 同居義務自体を終局的に確定するものと 同居義務がある事を前提として 同居の時期 場所 様態などについて具体的内容を定める処分とがあるが 前者は訴訟事項であるのに対し 後者は本質的な非訴事件である このような事件は 家庭裁判所が 後見的な立場から 合目的的な見地に立って 裁量権を行使して権利関係を形成すれば足り 公開 対審の手続による必要はないとした Ⅳ. 学説の批判 前述したような多数意見は学者に評判が悪い なぜなら 具体的な様態から切り離され - 3 -

た 同居義務 など観念できないように思われるからである たとえば 冷却期間を置くためにいま暫くは別居していてよい という判断がなされる場合 それは同居義務はないと判断しているのではなく 同居義務の具体的様態を定めていると見るべきである そうだとすると 具体的様態と切り離して 同居義務そのものがないと判断されるのは 夫婦でない場合しかない 要するに 夫婦について 具体的様態と離れて同居義務自体の存否を論ずることには意味がないとしている Ⅴ. 公開の原則以上より 夫婦の同居義務に関する争いは公開の法廷で争うことができなくなる しかし そもそも家族間の紛争は 性質上 対審構造の判決手続きや公開の原則になじまず これらの原則を貫くことはかえって家庭裁判所の機能を阻害するというべきである この主張は 憲法の定める対審や公開の原則が絶対的ではないという考え方に基づく Ⅵ. 同居審判の強制同居を命ずる審判が出された場合 同居義務は強制を求める事ができるだろうか? 強制の方法は間接強制しか考えられないが 大決昭和 5 年 9 月 30 日 ( 民集 9-926) の判例は 夫から妻に対して同居を求め もし 15 日以内に帰ってこないなら 1 日 5 円払え と請求したのを認めなかった つまり 同居義務は法的義務といっても 裁判に訴えることはできるが強制履行を求められない義務だということになる また 裁判に訴えることができるから いわゆる自然債務とは違う 同居義務は 婚姻の成立によって生ずる法的効果のうち 財産に関しない数少ない効果のひとつであるが 極めて無力である ただし 同居を命ずる審判に違反して別居を続ければ 悪意の遺棄として離婚原因となる Ⅶ. 結論さまざまな夫婦関係が存在する中で今回の判例ような夫婦同居に関しての争いの裁判が発生することはいたしかたないが 人事訴訟によって無理やり決めるのではなく お互いに妥当とされる結果を求めて行われる家事審判やお互いの歩み寄りによって合意による解決をめざす家事調停による方が望ましい また 今回の裁判を受ける権利を定めた憲法 32 条や裁判の公開を定めた憲法 82 条に関して合憲という判断に関しては合憲の結論は全員一致だったが 理由付けに関しては 8 対 7 という僅差だったことから 裁判所も理由づけに関しては判断のところでは微妙なところだったことがうかがえた Ⅷ. 参考文献家族法判例百選 [ 第 7 版 ] 水野紀子 大村敦志 窪田充見編 - 4 -

民法 Ⅳ( 親族 相続 ) 内田貴著東京大学出版会判例ハンドブック ( 親族 相続 ) 第 2 判島津一郎編日本評論社裁判所 (COURTS IN JAPAN)http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_02.html 親族法 相続法新現代社会と法シリーズⅤ 編著者緒方直人等著者宗村和広等嵯峨野書院民法尾崎哲夫自由国民社 - 5 -