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習う ということで 教育を受ける側の 意味合いになると思います また 教育者とした場合 その構造は 義 ( 案 ) では この考え方に基づき 教える ことと学ぶことはダイナミックな相互作用 と捉えています 教育する 者 となると思います 看護学教育の定義を これに当てはめると 教授学習過程する者 と

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1-(2) 推薦入試 ⅠB( ) 募集人員 3 名 3 名 2 名 3 名 次の (1)~ (3) のすべてを満たす者で, 学業成績及び人物が優秀で, かつ健康状態が良好であり, 特に学校長が責任を持って推薦できるものとします ただし, 各学校長が推薦できる人数は 1 学科につき 2 名まで (4

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大学教育の充実に向けた今後の取組 の方向性を示す 2 つの中教審答申 我が国の高等教育の将来像 ( 平成 17 年 1 月 28 日 ) 新時代の大学院教育 - 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて - ( 平成 17 年 9 月 5 日 )

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東北大学 高等教育開発推進センター 紀 要 第 5 号 2010 C Center for the Advancement of Higher Education TOHOKU UNIVERSITY

高等教育開発推進センター紀要第 5 号の発行に寄せて 高等教育開発推進センターは, 研究中心大学として 指導的人材の養成 を教育理念に掲げる東北大学の学内共同教育研究施設として, 高等教育に関する研究開発, 企画及び支援を行い, 教育内容及び教育方法の高度化を推進することを目的に ( 東北大学高等教育開発推進センター規程第 2 条 ), 国立大学法人化が行われた平成 16 年の10 月 1 日設置されました. この目的に沿って我々は, 本学の学部 大学院学生を対象とした高等教育の在り方を研究開発し, よりよい入試システムを開発 改善し, 入学後には全学教育の教育内容及び方法の改善 高度化を行うとともに, 学生生活の個別的ニーズへのきめ細かな対応を目指す学生支援活動を有機的に連携させつつ実践することを使命としています. そのために本センターは高等教育開発部, 全学教育推進部, 学生生活支援部の3 部から構成され, 業務組織である入試センター, 保健管理センター, 学生相談所, キャリア支援センターを擁しています. さらに本年度は, 全学教育推進部にスポーツ科学教育室と人文社会科学教育室を新設するとともに, 年度末には文部科学省より教育関係共同利用拠点 国際連携を活用した大学教育力開発の支援拠点 として認定され, 新たに第 5 番目の業務組織である大学教育支援センターを設置しました. このような学生教育に関わるあらゆる分野を包含する大きな組織は, 東北大学の教育の大きな特徴ともなっています. それ故に本センターは, 事業内容が異なる各部, 各センターの相互理解と協働によって鳥瞰的学生教育システムを創り上げることができる組織となっています. 本紀要はそのための一つの重要な機能を果たしています. また, 本学の広範にわたる組織構成の連携による問題意識の共有は, 本学のみならず, 多くの大学における教育にも参考になるものと自負しております. 本号も, 現代の社会的背景を反映して, 今の大学教育に内在する諸課題を取り上げた研究論文や報告を掲載しております. 本紀要が本学の教育の推進にとどまらず, 日本, ひいては世界の教育の発展に寄与できることを期待している. 平成 22 年 3 月 高等教育開発推進センター センター長 木島明博

目 次 高等教育推進センター紀要第 5 号の発行に寄せて 論文 一定の学力水準 と 幅広い能力 を保証する大学院入試 - 中国の事例から- 石井光夫 1 看護系大学の量的拡大に伴う大学入試設計の問題 - 実情把握のための基礎分析 - 金澤悠介, 倉元直樹, 小山田信子, 吉沢豊予子 15 大学教員のキャリア ステージと能力開発の課題 - 広島大学教員調査と東北大学教員調査から- 石井美和 29 A New RDBMS and Flexible POS Tagging for EFL Learners and Researchers: Designing a Corpus Analysis System Based on the Three-tier Model 岡田毅, 坂本泰伸 43 Effects of Intercultural Communication-Focused English Language Education Laurel D. Kamada 53 Paths to Increased Motivation in the Japanese EFL Classroom Vincent Scura 65 中国人日本語学習者の断りのストラテジー - 中国国内学習者の場合 - 鈴木恵理子 73 台湾人日本語学習者の ている の習得に関する縦断研究 - 結果の状態 の用法を中心に- 簡卉雯, 中村渉 83 中国語母語話者による日本語名詞修飾節中のテンス アスペクト表現の習得研究 -ル形とタ形を中心に- 盛文淵, 吉本啓 93 報告科学史を題材にした基礎ゼミ授業実践 岩崎信, 今野文子 101 理科実験をとおした大学間連携をめざして 東北地区の大学の理科実験科目調査 関根勉, 縄田朋樹, 田嶋玄一, 山北佳宏, 小林弥生 111 学部横断少人数外国語クラスの利点 -10 月入学者向けスペイン語クラスの実践報告 - 小島裕子, 三宅禎子, 志柿光浩 123 Grammar Study in Foreign Language Teaching. The Place of Grammar in a Sequence of Spanish Classes Cecilia Silva 135 Literature as Resource in Foreign Language Teaching. Literature-based Activities in Spanish Classes Cecilia Silva 145

Report on Independent Learning: Self-Access Language Centers at Two Japanese Universities, Student Attitudes and Habits, and Lessons for Tohoku University Ben Shearon 153 EFL Motivation : Approaches and Problems Vincent Scura 165 依頼表現における日本語学習者の中間言語 - 中国語母語話者 韓国語母語話者の母語転移 - 和田由里恵, 堀江薫, 吉本啓 171 肥満学生におけるカルボニルストレスの意義と生活習慣生体情報マーカーの模索 川俣彰裕, 森建文, 米城淑美, 三井栄子, 長谷川洋子, 太田美智, 伊藤めぐみ, 佐藤洋美, 滝口純子, 伊藤貞嘉, 飛田渉 179 総説 Acquisition of Greetings, Requests, and Apologies by Japanese students in an ESL vs. an EFL environment Todd Enslen 187

論 文 一定の学力水準 と 幅広い能力 を保証する大学院入試 - 中国の事例から - 石井光夫 1 )* 1 ) 東北大学高等教育開発推進センター はじめに 1990 年代以降の我が国高等教育改革の中で大学院改革は重点項目の一つであった. 改革を通じて大学院の規模拡大とともに多様化, 弾力化が進められてきた. 大学院学生の数は2008 年度に26 万人を超え,1990 年度の 9 万人から 3 倍近く増加した. また, 専門職大学院や夜間 通信制大学院を始め新しい大学院組織が創設され, 加えて社会人や留学生の入学も増えるとともに, 学部 3 年次から飛び入学も可能となるなど大学院は多様で柔軟な教育研究組織として発展してきた (1). このような大学院の今後の方向について, 中央教育審議会は2005 年 新時代の大学院教育 - 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて- と題する答申を公表, これまでの改革を踏まえ, とくに 1 ) コースワークを重視した大学院教育の実質化, 2 ) 評価制度の確立や世界的研究拠点等による国際的な通用性 信頼性の向上によって教育研究機能を強化すべきことを提言した. 高等教育のグローバル化が進む中で, 世界規模での競争力の強化を図ること を目指した答申であった. しかしながら, このような大学院改革の中で入試についての議論はこれまでほとんどみられなかった. 学部入学者を選抜する大学入試が常に教育改革の重要課題とされ, 中央教育審議会や大学審議会の審議でしばしば取り上げられたことと対照的である. 上記 2005 年答申においても大学院入試に関しては 各大学院においては, その人材養成目的や特色に応じてアドミッション ポリシーを明確にし, それを適切に反映した 入学者の選考上の工夫を行うことが重要である と述べるにとどまり, 具体的な施策を示してはいない. 大学院が, 学部とは違い, 少数の入学者を細分化された研究科, 専攻ごとにそれぞれの学問特性に基づいて選抜するために, 入学試験は一般的な政策議論や検討の対象になじみにくいのかも知れない. また, 大学院入試が与える社会的教育的影響も大学入試よりはるかに小さいといえる. 大学院研究でも入試に関する研究は驚くほど少ない. たとえば大学院改革を多面的に論じた研究書 大学院の改革 ( 江原武一 馬越徹編, 2004 年 ) でも入試に一章を割くことはなかった. 一方で, 実態として大学院入試は, 社会人や留学生の増加, 飛び入学の導入などに伴ってこれら個別対象者の枠を設けた特別入試の設置や入試実施回数の複数化, 小論文や面接試験を取り入れた選抜方法の多様化などが進んでいる. しかし, 非常に多様な展開をみせているこのような大学院入試の現状は, 教職員の多大な負担を招いているだけではなく, その選抜方法や評価基準において, 大学や研究科間, あるいは同じ研究科 専攻においてもそれぞれの入試について 質 をめぐる問題を生じさせる恐れがないとはいえない. 各大学, 研究科あるいは専攻で, さらには各入試区分において, 独自の選抜方法や基準を用いた試験を行っているからである. 大学院教育においては, 近年, 科学技術の進展や社会の激しい変化に対応できる人材の養成が求められるようになっており, 大学院教育の実質化 を提言した上記答申でも専門性を高めるだけでなく, 幅広い * ) 連絡先 : 980-8576 宮城県仙台市青葉区川内 28 高等教育開発推進センター mitsuo-ishii@m.tains.tohoku.ac.jp 1

知識 や 幅広い視野 を身につける教育を要請している. しかし, このように求められる 幅広い知識 能力 の教育は, 大学院教育だけで行われるのではなく, 学部教育から行われるべきものであり, 学部で修得したそうした基礎があっていっそう大学院で強化することができる. そうした観点に立つならば, 大学院教育の質的向上を図るためには, 学部教育の成果を問い, 大学院教育を受ける資格を測る大学院入試の機能とその効果的な活用にも着目すべきと考える. 一定の学力水準とともに基礎的な幅広い能力を身につけた人材をどのように選抜して入学させるかは, その後の大学院教育の効果をも大きく左右する. この一定の学力水準と幅広い能力を保証する大学院入試をいかに実施するか. そのためには入試にどのような仕組みと方法が必要となるのか. これが筆者の関心であり, 本論ではこの関心から全国統一入試と大学の個別入試という 2 段階選抜を行っている中国の大学院入試を調査研究し, その制度的な特徴と効果, 問題点を分析した. 調査研究にあたっては, 政府文書や研究論文, 各種報道等による文献調査とともに, 政府機関や試験機関, 大学への訪問調査を行った. 1. 中国大学院制度の概要と規模中国の大学院入試をみる前に, 現行の大学院制度と規模を確認しておこう (2). (1) 学位制度中国には長らく学位制度がなかったが,1980 年に 学位条例 が制定され, 翌 81 年から正式に学位制度が発足した. 学位は, 学士 ( 原語同じ ), 修士 ( 原語 碩士 ), 博士 ( 原語同じ ) の 3 種類がある. 学士は 4 ~ 5 年の本科 ( 学部 ) を卒業し, 学業成績が一定の基準に達している者に, 修士は 2 ~ 3 年の修士課程を修了し, 論文審査に合格した者に, 博士は修士取得後 3 ~ 4 年の博士課程を修了したか, または学術的な実績があり, 論文審査に合格した者に, それぞれ授与される. 学位授与は, 国務院 ( 内閣 ) により授与権が与えられた大学または研究機関が行う. 中国科学院などの研 究機関も大学院課程を設置し, 学生の教育を行っている.2006 年現在, 修士授与権を持つ大学 研究機関は 777 ( 大学 461, 研究機関 316), 博士授与権をもつ大学 研究機関は343 ( 大学 238, 研究機関 105) となっている (3). 専門職学位 1990 年代, 高度な職業分野に対応する修士レベル ( 本科卒業後 2 ~ 3 年 ) の 専門職学位 ( 原語 専業学位 ) が創設され, 拡大している. 大学が授与する修士の専門分野は 学位条例 (1980 年制定 ) によって 哲学, 経済学, 法学, 教育学, 文学, 歴史学, 理学, 工学, 農学, 医学 の10 分野と定められている. 各種の専門職学位はこれらの分野には含まれない学位で, 試行という形で設置が認められてきたが, 複合型 応用型 人材として専門職学位に対する社会の需要は高く, 種類や規模が年々拡大されてきている. 専門職学位の創設に伴い, 従来の学位を 学術学位 と呼ぶようになった. 専門職学位のうち 工商管理修士 (MBA) 課程は, 最も早く1991 年に 9 大学で試行が開始され, その後年々拡大し,2007 年には96 大学に設置されている. 専門職学位には, このMBAのほか,2009 年まで建築学, 法律, 教育, エンジニア, 臨床医学, 農業普及, 獣医, 公共管理 ( 公共政策 MPA), 口腔医学, 公共衛生, 軍事, 会計, 体育, 芸術, 風景園芸, 中国語国際教育, 翻訳, 社会活動の18 種類が設けられている (4). (2) 大学院制度学位制度が整備されるまでの大学院教育は, 紆余曲折をたどって必ずしも制度として安定的なものではなかった (5).1976 年に文化大革命が終了し, 翌 77 年に中断していた大学院教育の再開が決定,78 年から学生募集が行われた. さらに,1980 年の 学位条例 制定による大学院教育の再編が開始された. 学位制度が発足した1981から修士課程が, 翌 82 年から博士課程がそれぞれ設置された. それまで大学院レベル課程は単一の課程として設置されていた. なお, 大学院レベル課程を全学的に管理する, 独立した機関としての大学院 ( 原語 研究生院 ) は1990 年 2

代半ばまで一部の大学で試行の形で設置されていたが,1995 年 大学院設置暫定規程 の制定により教育部 ( 制定当時は前身の国家教育委員会 ) の設置認可により正式の機関として設置されるようになった.2009 年現在 59 大学に独立した組織の大学院が設置されている. その他の大学 研究機関では, 学院 ( 学部 ) や系 ( 独立した学科 ) ごとに大学院レベル課程を設置し, 管理運営にあたっている. (3) 大学院の規模大学院教育の規模は,1980 年代以降, 学位制度の創設に伴う大学院制度の整備によって急速に拡大した. 在学者は1980 年の 2 万人から2008 年の130 万人へと30 年近くの間に60 倍に増加した. ただし, このような一見急速にみえる拡大も, もともと文化大革命時代 (1966 ~1976 年 ) に大学院教育そのものが停止されており, ほとんど一からの再建にならざるをえなかったという特殊事情があった. 短期大学レベルを含む高等教育への進学率は,2008 年, 推計で30% 近くになっている (6). 高等教育進学率は1990 年代まで拡大を政策的に抑えられていたため, 5 % 前後で推移してきたが,1999 年に政策転換が図られ, 人材養成の需要に応えるため急速な拡大に転じた. 学生募集数は1998 年の108 万人から2008 年の608 万人へと 6 倍に増えた. これに伴って, 大学院レベルに進学する学生数も急増した. しかし, 国際比較でみれば, 中国の大学院教育は大きな規模であるとはいえない. 表 2 に示すように, 人口千人当たりの大学院在学者数は0.84 人 (2006 年 ) と他の 6 か国いずれよりも少ない. 2. 大学院入試現行の大学院入試を概説する. 修士課程の入学者は, 一般に 1 次試験と 2 次試験の 2 段階の試験により, 募集機関である各大学 研究機関が選抜する. 2 次試験は募集機関が独自に実施するが,1 次試験段階では 1 ) 全国統一入試が主たる試験方式として長く実施されてきており, さらに近年このほかに, 2 ) 1 次試験が免除される当該年度学部新卒者の募集 選抜, また 3 ) 在職社会人対象の連合試験による 1 次試験選抜が行われている. 在職社会人は全国統一入試にも出願できるが, 3 ) は学位のみを取得し, 修士課程卒業の学歴が認められない中国独特のカテゴリーの学生のための入試で, 1 月の全国統一入試に先駆け,10 月末に実施する. 2 ) の推薦学生試験も推薦資格をもつ大学が限られてお 表 1 大学院課程を置く機関数および在学者数の変遷 年 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2008 機関数 586 740 738 766 796 在学者数 ( 人 ) 21,604 87,331 93,018 145,443 301,239 978,610 1,283,046 注 : 機関数は大学院課程を置く大学および研究機関数出典 : 国家教育委員会 中国教育成就 1980-1985, 中国教育統計年鑑 1990 年版,1995 年版,2000 年版,2005 年版, 中国統計年鑑 2009 年版 表 2 大学院在学者の人口千人当たり人数 ( 国際比較 ) 国日本アメリカイギリスフランスロシア韓国中国 年 2008 2005 2006 2006 2006 2007 2006 千人当たり人数 ( 人 ) 2.06 4.46 (8.56) 4.03 (9.36) 8.40 1.02 6.12 0.84 注 : アメリカおよびイギリスはフルタイム学生の数値で,( ) はパートタイム学生を含む. 出典 : 文部科学省 教育指標の国際比較 平成 21 年版 23 24 頁 3

り, 各入試区分ごとの統計は公表されていないが, 全体としてみれば, 全国統一入試による 1 次試験を受験する学生が最も多い. なお, この 統一入試 は 国 ( 教育部 ) が統一的に組織する試験 という意味で使用されており, 一部科目が共通試験でなく, 募集機関が独自に出題している. また特定対象者 ( 4 年以上在職の社会人 ) に教育部に承認された募集機関がすべて独自に出題する特別入試もこの統一入試の枠で行われている. したがって試験自体は厳密には統一入試といえないが, 中国の使用法に従って, ここでは教育部が統一的に毎年 1 月に組織する 1 次試験を統一入試と呼ぶことにする. (1) 全国統一入試 ( 1 次試験 ) による選抜 1 次試験としての全国統一入試は毎年 1 月中旬に実施され, 1 次試験合格者を対象にした各募集機関ごとに実施する 2 次試験をへて最終合格者が決定される (7). 1 全国統一入試受験資格については, 大学本科 ( 学部 ) 卒業, 年齢は40 歳までとされている. 学歴が専科 ( 短期課程 2 ~ 3 年 ) 卒業者も, 卒業後 2 年以上経過し, 本科卒業と同等の学力をもつと認められる者は, 受験が認められる. 統一入試の試験科目は, 学術学位課程については政治理論 (100 点 ), 外国語 ( 1 か国語 )(100 点 ) および基礎科目 (150 点 ), 専門基礎科目 (150 点 ) の 4 科目 (500 点満点 ) である. 専攻分野 ( 教育, 心理, 歴史等 ) によっては基礎科目と専門基礎科目を合わせた 1 科目 (300 点 ) になっている. 政治理論, 外国語と一部の専門関連科目 ( 基礎科目 ) を教育部または教育部が委託した機関が共通試験問題を出題する. 他の科目は募集機関が独自に出題する. なお, 在職 4 年以上の社会人に対して将来所属機関に戻ることを条件とする特別入試を北京大学を始め 160 大学で統一入試の一環として行っているが, この場合, 試験問題をすべて募集機関が独自に出題する. 試験科目は一般の 1 次試験と同じである. 募集人数は極めて少ない. 2 1 次試験合格者の決定 2 次試験に進む 1 次試験合格者は各募集機関が決定するが, その際, 合格基準の目安として教育部が, 年度募集学生数合計, 出願状況および 1 次試験成績によって 2 次試験受験者決定のための 1 次試験合格最低ラインを確定する. 最低ラインは各専攻分野ごとに総合点数および各試験科目について定めている. ただし, 教育部が承認した一部大学 ( 北京大学等 34 大学 ) は大学独自に最低ラインを定めることができる. 単独入試の受験者の 1 次試験合格最低ラインは各機関が定める. 1 次試験合格者は, 定員の120% を目安に決定する. 3 2 次試験および最終合格者決定 2 次試験は, 各募集機関が独自に実施する. 近年, 選抜過程での 2 次試験の比重が高まる傾向にある. 筆 大学院入試の流れ 4

記試験, 実践 ( 実験 ) 操作能力試験, 面接試験等が行われ, 専門的な素質 能力 ( 外国語ヒヤリング含む ), 総合的な資質 能力 ( 思想政治的態度, 専門外の学習成績, 協調性等の人間性, 人文素養等 ) を審査するとされている. 最終合格者は, 1 次試験および 2 次試験の総合成績によって決定される. 1 次試験成績と 2 次試験成績の比率は募集機関 学科専攻によって異なるが, 2 次試験成績を30~50% 配分するよう指示されている. また, 2 次試験でも合格最低ラインを設け, これを超えないと最終合格者に選抜しないようにしている (8). (2) 推薦学生の試験選抜優秀な学生を早期に確保するための方策として, 1980 年代半ばから推薦入学が実施されてきた. 選抜方式は途中幾度か変更されるが,1990 年代半ばから現行方式の 1 次試験免除, 一般学生に先駆けての 2 次試験による選抜という方式が実施されてきている. 学生を推薦できる大学は博士学位課程をもつなど一定の資格要件があり, 推薦できる学生の割合は大学により卒業生総数の15%~ 2 % 程度が定められている. 募集機関は書類審査で 2 次試験受験者を決定, 2 次試験によって合格者を選抜する.2009 年, 推薦権をもつ大学は209 校, 推薦による入学者は6.4 万人, 修士課程入学者総数の15.4% を占めている (9).35% 以上を他大学出身者が占めるようにされている (10). (3) 在職者対象の連合試験による選抜在職社会人の募集は, 通常, 学部新卒者と同様統一入試の枠内で行われてきたが,1990 年代以降, 専門職学位が導入され, その募集対象の多くが在職者とされたことにより, 新たな入試が開発されることになった. この入試は, 統一入試の枠内で実施する入試とは別に, 一般の修士学位課程の在職社会人募集と合わせ, 別の時期に 連合試験 という形態で実施されるようになった. この在職者対象の連合試験は, 教育部が組織実施する 1 月の統一入試におけるのと同じ全国共通試験であるが, 当初いくつかの募集機関が 連合 で試験を実施したため, この流れをくむ試験を引き続き 連合試 験 と呼んでいる. 連合試験は国務院学位委員会所管の全国学位 大学院教育発展センターに委託して実施している. この連合試験は 1 次試験であり, 毎年 10 月末に実施される. 通常 4 科目からなるが, 一部専攻分野では総合試験を実施し, 科目が少なくなっている. 1 次試験合格者が各募集機関が独自に行う 2 次試験を受験, 総合成績で最終的な合格者が決定される (11). なお, この10 月に連合試験で入学する在職学生は, 在職のままパートタイムで履修する形態が多い. その場合, 学位取得までの年限は通常のフルタイム 2 ~ 3 年よりも 1 ~ 2 年長くなっている. また, 学位取得は可能であるが, 学歴認定において統一入試により入学した学生と同等の 修士課程卒業 の認定は受けられないという区別がなされている (12). 3. 一定の学力水準と幅広い能力の保証以上が大学学部から大学院へと入学する修士課程の入試概要であるが, 本論の課題である入試における一定水準の学力および幅広い能力の確保といった観点から, 改めて中国の大学院入試における特徴をいくつか指摘したい. (1) 共通試験 ( 統一入試 連合試験 ) 大学院入試は, 推薦入学を除き, 基本的に 1 次試験と 2 次試験の 2 段階からなっている. 教育部はこの 2 段階選抜方式の意義について, 1 次試験は統一試験によって, 共通する基本的な資質, 一般的な能力を測定する 2 次試験は専門的な能力, 潜在能力, 創造性, また総合的な資質 ( 責任感, 積極性, 協調性など ) を測定すると語っている (13). 1 次試験は大学院教育を受けるための 基本的な資質 一般的な能力 を測定し, その資質能力の一定水準を確保するものであるとの位置づけである. また, 中国のいわゆる統一入試における共通試験問題を利用する試験科目も1980 年代以降の入試改革によって増えてきている. さらには, その共通試験において総合試験的な内容をもつ試験科目が出題されるよ 5

うになっている. 学術学位課程 1 次試験 1 次試験科目の変遷をみると,1980 年代後半までは 政治理論 外国語 基礎科目 専門基礎科目 専門科目 の 5 ないし 6 科目とされていたものが,1987 年入試から 5 科目となり, さらに2003 年に 専門科目 が 2 次試験で行うこととされ,4 科目に減らされた (14). このうち政治理論と外国語はすでに1980 年から共通試験が行われていたが,1987 年に工学系および経済学系の数学, 農学の基礎科目および専門基礎科目, 医学の基礎科目としての総合試験がそれぞれ全国共通試験となった (15). 数学はその後分野が拡大してすべての分野で共通試験となった. 1987 年の共通試験科目拡大には, 当時の 1 次試験に対する問題提起が背景にあったと思われる.1986 年 6 月に北京, 上海の20 数大学学長を含む大学院教育会議で, 大学院入試に対し, 1 ) 試験科目が限られ, 出題範囲が狭い, 2 ) 専門関連の大学独自出題科目には統一した基準がない, 3 ) 試験内容が知識偏向で, 実践経験をもつ社会人受験者に不利になっているなどの問題が指摘されたが, 共通試験の拡大はこの 1 ) と 2 ) の指摘に対応したものとみられる (16). 共通試験は, さらに2007 年教育学, 歴史学, 医学の分野で,2008 年には農学で,2009 年はコンピュータ科学でそれぞれ 専門基礎総合 が実施されるようになった. 教育学, 歴史学, 医学の専門基礎総合は従来の基礎科目と専門基礎科目を合わせた総合試験で, 配点が 300 点, 試験科目は政治理論と外国語との 3 科目となった. 農学, コンピュータ科学では専門基礎総合科目は 150 点で, さらに大学出題の専門基礎科目 150 点が課せられ, 4 科目は変わらない. なお, 総合試験 の考え方はすでに 1980 年代初めからあった.1983 年入試で一部専攻について 5 ~ 6 科目の試験に加え, 総合試験 が試行され, 翌年全面実施された. 総合試験は大学本科の基礎知識, 基礎理論および基礎技能, またそれらの知識を応用した問題の分析 解決能力, 思考能力を測定し, 知識能力の偏向を防止する目的をもつ試験とされた. しかし, 負担が大きく, 準備不足もあり,1985 年には総合試験は行われなかった (17). その経験を踏まえて再導入が試み られたのであった. 専門職学位課程 1 次試験専門職学位課程の 1 次試験でも, 共通試験および総合試験が実施, 拡大されてきている. 専門職学位で最も早く1991 年に導入された工商管理修士 (MBA) 課程は, 在職者を対象として学生募集が行われたが, 試験は 1 次試験 ( 5 科目 ) 2 次試験とも募集大学ごとに出題されていた. しかし,1997 年入試の 1 次試験はこの大学ごとの単独入試から当時 MBAを開設していた26 大学共通の連合試験となった. 連合試験の科目は外国語, 数学, 企業管理, 言語 論理の 4 科目で, 政治は大学ごとの出題となった. 連合試験の出題は全国工商管理修士教育指導委員会が担当した (18). 1996 年に導入された法律修士学位の入試でも, 1 次試験は当初募集大学ごとの出題であったが,2000 年入試から連合試験となった. 試験科目は政治, 外国語, 専門 3 科目 ( 刑法, 民法, 総合試験 ) とされ, 政治, 外国語が全国統一入試の試験問題を利用, 専門 3 科目が教育部の委託によって全国法律修士専門職学位教育指導委員会が担当することになった. 1 次試験の合格最低ラインは, 同じく, 教育部が確定した (19). その後, 工商管理修士, 法律修士の 1 次試験の連合試験科目は,2003 年学術学位課程の統一入試科目を 5 科目から 4 科目に削減した措置にならい, 同じく 5 科目から 4 科目に減らした (21). 工商管理修士の 1 次試験科目については, さらに 2005 年から 4 科目を 2 科目に変更した. 2 科目は英語 (100 点 ) と総合能力 (200 点 ) となった. これは受験者が様々な教育歴 専攻に広がっている状況に照らして, 1 ) 筆記試験の比重を軽くする, 2 ) 総合的な問題を出題することで, 1 次試験自体のハードルを低くし, 面接を含む 2 次試験でさらに総合的な能力と管理能力を試験するための措置と説明された (21).2010 年入試では公共管理 (MPA) と共通の 管理系総合試験 が新たに行われている. なお, その他の専門職学位課程についても, 統一試験の枠組みで入試の 1 次試験を行っているが, 連合入試は行っておらず, 統一入試の共通試験を利用するか, 大学独自の試験によって選抜を行ってきている. 6

在職者対象連合試験在職者対象の連合試験は2001 年から10 月末の 2 日間に行われるようになった. 統一入試の 1 月より 3 か月早い実施である.2001 年は工商管理修士 (MBA) はじめ 7 つの専門職学位と一部学術学位課程の募集, 入試が行われた (22). 以後毎年実施され,2009 年の連合試験では17 課程の入試が行われた. 連合試験の試験科目は学位課程によって異なるが, エンジニア修士はじめ 8 学位課程では修士課程入学資格試験 (GCT=Graduate Candidate Test) を課している.GCTは, 言語表現能力, 数学基礎能力, 論理推理能力, 英語運用能力の 4 部分からなる客観テストであり, 各分野 100 点の400 点満点となっている. 8 課程のうち, 6 課程はGCTのみで, 2 課程が大学が出題する専門基礎科目を加えている. その他の課程は外国語を含む 2 ~ 4 科目である. 教育修士など一部の学位課程では大学が独自に出題する課程もある (23). このように, 共通試験の科目数を増やしている背景について, 公平公正 のため( 教育部入試センター ) という説明もあるが, また大学による個別の出題から共通試験に変更することで, 1 ) 試験問題の質の維持向上を図り, 2 ) 漏洩などの事故を防ぐ安全管理を徹底する ( 教育部 ) という狙いもある (24). 1 ) は一定の学力水準を確保するという意味にとってよいであろう. また, その中で総合問題を取り入れていることについては, 共通の幅広い学力基礎を求めていると理解できよう. (2) 1 次試験合格最低ラインの設定 1 次試験である統一入試から 2 次試験に進む受験者を決定する際, 国 ( 教育部 ) が合格最低ラインを確定し, このライン以上の成績の受験者から 1 次試験合格者を決定している. これも一定の学力水準を確保するための方策である. 1 次試験合格者決定の際の基準設定については, 長らく募集機関に委ねられていたが,1998 年入試から教育部が 1 次試験成績について合格最低ラインを決めるようになった. 最低ラインは, 地域ごとの格差を考慮し, 募集機関の所在地によって 3 地域に分け, 分野ご とに総合成績と 1 科目当たりの成績について定めることになった. また,2003 年からは北京大学や清華大学など威信の高い大学 34 校については, こうしたグループ分によらず, 独自に最低ラインを決定することが認められるようになった (25). (3) 2 次試験における専門能力 総合能力の判定 1 次試験で共通する基礎的な学力, 一般的な能力を測定し, そこで絞られた受験者を対象にさらに専門的な能力や総合的な資質を測定するという現行 2 段階選抜方式が最初から採用されていたわけではない. 2 次試験の実施について,1981 年および1982 年の入試では募集機関が決定する事柄とされていた. 2 次試験が義務づけられるようになったのは1983 年入試からであった (26). 2 次試験に進む 1 次試験合格者の決定については, 1 ) その人数をどの程度に設定するか, 2 ) どのような基準を設定するか, という問題があった. 1 ) の人数設定については,1983 年入試の際, 教育部から 募集人数の1.5 倍程度を目安 にし, 2 次試験を 1 次試験の補助試験 としてはならないとされた. 2 次試験に実際の選抜機能を維持すべきことが説かれたのであった. しかし, その後の実際の 2 次試験においては多くの大学で定員とほぼ同数の 1 次試験合格者を対象に実施するようになり ( 等額復試 ), 実質的な選抜がなくなる結果となった. こうした状況に対し, 教育部は改めて 2 次試験に選抜機能をもたせ, その比重を高めるため,2003 年から 1 次試験合格者を募集人数を20% 程度上回るよう募集機関に求めるようになったのである (27). また,2 ) の 1 次試験合格者決定の基準については, 上記のように教育部が1998 年から合格最低ラインを設定するようになった. こうして 2 次試験の比重を高める方向のもとで, 教育部が2006 年 2 次試験の実施方法 内容についてガイドライン ( 関於加強碩士研究生招生復試工作的指導意見 ) を出し, 次のように指導した. 7

主たる方法 :1 筆記試験 ( 専門科目 ) 2 実践 ( 実験 ) 能力審査 3 面接試験 ( 5 人以上の面接官, 1 人 20 分以上 ) 主たる内容 :1 専門能力の測定 ( 学部成績, 専門理論知識, 問題の発見 分析 解決能力, 外国語ヒヤリング能力, 創造性等 ) 2 総合的資質能力 ( 思想 政治的態度, 専門以外の学習 研究 社会活動, 起業精神 責任感 規律 協調性, 人文的素養, 礼儀等 ) 3 健康診断判定 :1 2 次試験不合格者は最終合格者としない 2 最終合格者は 1 次試験と 2 次試験の総合成績で判定. 2 次試験の比率は一般に30-50% とするなお, 外国語ヒヤリングについては,2002 年から 1 次試験の統一入試に初めて導入され, 翌 2003 年から 20% をヒヤリング点として算入することになった. しかし, 専門分野ごとに外国語の要求水準が異なることから,2005 年から 1 次試験から外し, 各募集機関ごとの 2 次試験でヒヤリング試験を実施することになったものであり, 必須試験項目である (28). 北京師範大学の例このようなガイドラインのもとで個別大学は学部や学科専攻ごとに独自の 2 次試験を実施している. 北京師範大学の2009 年入試における 2 次試験とその総合点における配分をいくつかの学院 ( 学部 ) 系 ( 独立学科 ) についてみると, 次のようになっている (29). 1 ) 教育学院 ( 2 次試験 400 点 )(240 点未満不合格 ) 1 筆記試験 ( 各専攻の総合基礎 )150 点 (90 点未満不合格 ) 2 面接試験 ( 外国語口述試験 50 点含む )250 点 (150 点未満不合格 ) ( 1 次試験を含む総合点数に占める割合 44%) 2 ) 心理学院 (500 点 )(300 点未満不合格 ) 1 筆記試験 ( 4 科目 )300 点 2 面接試験 ( 専門口述試験英語口述試験 ) 200 点 ( 総合点数に占める割合 50%) 3 ) 歴史学院 (240 点 )(144 点未満不合格 ) 1 筆記試験 ( 専攻ごと 1 科目 )100 点 2 面接試験 ( 総合面接 120 点英語口述 20 点 ) 140 点 ( 総合点数に占める割合 32%) 4 ) 物理学系 (220 点 )(132 点未満不合格 ) 1 筆記試験 ( 各専攻ごとに 1 科目 )100 点 (60 点未満不合格 ) 2 面接試験 ( 総合面接 100 点英語口述 10 点英語ヒヤリング10 点 )120 点 (60 点未満不合格 ) ( 総合点数に占める割合 31%) 5 ) 化学学院 (300 点 )(180 点未満不合格 ) 1 筆記試験 ( 化学実験基本原理 基礎知識 ) 100 点 2 面接試験 ( 専門分野面接 180 点, 外国語口述 20 点 )200 点 ( 総合点数に占める割合 38%) 6 ) 生命科学学院 (200 点 )(120 点未満不合格 ) 1 筆記試験 ( 生物学および英語翻訳 )50 点 2 面接試験 ( 専門知識 応用, 外国語口述, 総合資質 )150 点 ( 総合点数に占める割合 29%) いずれの学院でも筆記試験と面接試験を行い, また 2 次試験の合格ラインを定め, これを超えなければ最終合格者になれないことも教育部ガイドラインのとおりである. 一部学院で 2 次試験の点数配分がガイドラインの30% を下回ったが, 教育部のガイドラインは目安であってとくに問題はないとの大学の説明であった (30). (4) 推薦学生の試験選抜優秀な学部卒業者を大学に推薦させ, 一部の選抜過程を免除して入学させる推薦入学が1980 年代前半から実施されてきた. 教育部によれば, その目的は 1 ) 学生に対する勉学の刺激, 2 ) 資質の優れた学生の確保と外国への流出 (31) 防止とされ, これも一定の学力水準を保証する措置の一つとみることができるであろう. 推薦入学が初めて実施されたのは1984 年入試であっ 8

た. このとき推薦を受けた学部新卒の学生は 1 次試験を受験し,2 次試験を免除されるというものであった. 翌 1985 年は国が重点的に支援する大学として指定した 100 校程度の 全国重点大学 の学部新卒者に限られ, 推薦された学生は 1 次 2 次試験とも免除され, 出身大学以外の募集機関に出願することもできた. このときの推薦学生の割合は, 推薦する当該大学においては新卒者総数の 5 % 以内とされ, 募集機関においては募集人数の30% 以内とされた. この年 169 大学で3,300 人余りの推薦学生が入学した (32). その後, 在職社会人の募集を大学院入試の主たる対象とする政策への転換によって, 新卒者の募集が縮小され, このため1990 年入試では学部新卒者の出願者はすべて推薦学生に限定し, 統一入試 ( 1 次試験 ) を受験せず, 募集機関の試験または審査を受けて選抜されることになった (33). しかし, こうした措置は在職学生の別枠募集選考など新たな政策とともに見直され,1996 年に制定された大学院修士課程の募集管理規程 ( 国家教育委員会 招收攻読碩士学位研究生管理規定 ) では, 現行方式につながる新たな推薦入学の実施方法が示された. 同規程では, 推薦入学は教育部 ( 当時は国家教育委員会 ) が承認した大学が優秀な学生を推薦し, 出願を受けた募集機関は 1 次試験を免除し, 募集機関がそれぞれ独自の 2 次試験を行って合格者を選抜する方法で行われることになった (34). 現在の推薦入学の実施方法は, 教育部が2006 年について定めた規程に基づいている. それによれば, 1 ) 学生を推薦できる大学は博士学位課程をもつなど一定の資格要件をもつ 2 ) 推薦できる学生の割合は独立した大学院組織をもつ大学 (59 校 ) では卒業生総数の15% 程度, 研究予算重点配分プログラムである 211 工程 に指定されている大学 (100 校あまり ) では 5 % 程度, その他の大学は 2 % を原則とする 3 ) 募集機関は書類審査で 2 次試験受験者を決定, 2 次試験によって合格者を選抜するという内容である. 実施大学, 学生ともにきわめて限定的である点も, 一定の学力水準を確保する措置として機能しているこ とを示すものである. 推薦権をもつ大学は209 校で 1000 校以上ある 4 年制大学の 5 分の 1 程度であり, 推薦による入学者は6.4 万人, 修士課程入学者総数の 15.4% を占めているにすぎない (35). また, 各募集機関による 2 次試験は, 統一入試 ( 1 次試験 ) に合格した一般受験者の 2 次試験より早く, 通常前年 10 月に行われるが, 内容および難度は統一入試合格者対象の 2 次試験と同等のものとして実施される. 受け入れる学生の35% 以上を他大学出身者が占めるようにされている点は, 門戸開放の公平性と情実入学防止を考慮したと考えられる. さらに, 推薦入学に関連して, 卒業学年に進級する年の夏休みに推薦資格をとれる見込みの学生を サマーキャンプ ( 夏令営 ) と称するセミナーに集め, 大学院の紹介とともに講義や面接を通じて選抜を行う試みも一部大学で近年実施され始めた. 復旦大学の例 2009 年度入試における推薦学生の試験選抜は, 次のような要領で行われた (36). 対象: 本学および全国重点大学 (100 校程度を国が指定 ) 当該年度本科卒業者. 出願: 志願票, 推薦状, 成績証明書, 英語水準証明書等の出願書類を 9 月 26 日まで大学院学生募集事務室まで送付. 選考: 各学院 系等で出願書類を審査, 2 次試験受験者を選抜. 2 次試験を10 月中旬までに実施. 復旦大学出身者の推薦は教務処が学業成績をもとに希望者の中から決定, 推薦学生は大学院学生募集事務室に出願した. 2 次試験は他大学出身者と一緒に実施. 全国統一試験を受ける一般学生と同じ内容 水準で実施された. 募集総定員 2,800 人のうち推薦学生は800 人 ( 約 3 割 ) であった. 推薦学生定員 800 人に対し, 約 1,000 人を 2 次試験で試験した. 他大学出身者からは700~800 人が出願してきた. 推薦学生は入学後の成績がよく, 能力が高いので, 積極的に受け入れる方針を採っているという. <サマーキャンプ> 復旦大学では, 優秀な学生を採用するのに効果的な方法として2008 年に管理学院で開始.2009 年には 7 つ 9

の学院 ( 学部 ) 系( 学科 ) が実施した. サマーキャンプ ( 優秀大学生夏令営活動 ) は, 夏休みに学部 3 年生を対象に数日間実施, 学院 系の紹介や学術講演, 見学, 学生との交流などを行う. 最終日に面接を実施, 推薦入学の合格者を決定する. このため, 参加者には推薦学生の基準を満たしていることが求められる. 合格者は, 通常の推薦学生のための選考および統一入学試験手続きを経ずに入学が決定する. 経済学院の例では,2009 年 80 数名の参加者のうち20 名を合格とし, 入学を決定した. 参加学院 系は拡大の方向にある. 他大学 ( 北京大学 清華大学等 ) も実施している. 教育部の承認は不要とされる. 4. 考察一定の学力水準と幅広い能力の確保という観点から, 中国大学院入試の特徴的な実施方法をみてきた. こうした大学院入試の効果や問題点について, 改めて我が国や韓国の例とも比較しながら, いくつか検討してみたい. (1) 時間と労力を掛けた 2 段階選抜中国の大学院入試は, 1 ) 統一入試を中心とする 1 次試験と 2 ) 募集機関である各大学や研究機関が独自に実施する 2 次試験の 2 段階になっている. 1 次試験では基礎学力や一般的な能力を判定し, これをクリアした 2 次試験で専門能力や人物を含む総合能力を判定するという仕組みである. このような 2 段階の選抜によって大学が求める優秀な学生が獲得できていると, 本研究調査のため筆者が訪問した北京大学や復旦大学などの関係者は, 口を揃えて評価していた. この 2 段階選抜は, 例年 10 月の出願, 書類審査に始まり,1 月の 1 次試験統一入試,3 ~ 4 月の 2 次試験, 合格決定と時間を掛けて行われる. そうした入試業務は, 全学的な大学院入試委員会とその事務局としての大学院入試課 ( または入試事務室 ), および各学部学科の大学院入試委員会や教務担当部署が担当しており, これは学部入試とは別の組織系統として整備されている. 別の時期に実施される推薦入学や在職社会人特別入試も若干の違いはあれ, 基本的には 2 段階選抜 方式と変わらない. このように時間と労力を掛け, 全学組織的に大学院入試を行っているという点では, 我が国や韓国にはみられない中国の大学院入試への強い意気込みがうかがえる. 学部入試においては, 我が国や韓国でも大学入試センター試験や大学修学能力試験 ( 韓国 ) といった共通試験と個別大学の試験との 2 段階の試験選抜方式が採られて久しいが, 大学院入試については大学および研究科 専攻の個別試験による選抜となっている. 社会人や留学生を対象とする特別入試や複数の受験機会提供などによって, 入試業務自体はけってして軽くはないが, それが全学さらには大学を超えた全国や一定大学間の組織的な実施とはなっていない. 全国統一入試や連合試験といった個別大学を超えた入試方式導入の背景には, 入試に公平公正を強く求める社会や学生側の意識, また公平公正を求めざるをえない情実入学を生みやすい風潮など, 社会事情のちがいもあろう. 韓国では学部入試で公平性を非常に強く求める受験競争の激しさがある一方, 過剰に拡大した大学院では学力を審査する厳格な入試は受験者離れを起こす懸念があるといって, 大学院入試に厳格さを求め得ない事情もある (37). さきにみた大学院の規模のちがいも当然背景としてはあるであろう. しかし, 大きな大学院規模をもつアメリカの大学も, 民間 ( 教育テスト事業団 ETS) のテストではあるが, 大学院入学資格テストGRE を選抜に利用している例もある (38). また, 中国の 2 段階選抜方式には, 長い選抜過程と試験準備のために, 不合格になって就職への進路変更を行った場合に, 就職活動に後れを取る懸念も学生側にある. 社会や大学の入試への負担と合わせ, 検討すべき課題であると思われる. (2) 質と幅を確保するための共通試験 1 次試験として行われる統一入試では, 3 科目ないし 4 科目の試験が課される. 政治理論, 外国語および基礎科目または専門基礎科目である. このうち政治理論と外国語は早くに共通試験となっていたが, 基礎科目および専門基礎科目でも共通試験を行う専攻分野が増えている. 共通試験は, 公平公正という側面もある 10

が, 試験問題の一定水準を確保するものであり, それによって受験生の学力水準を正当に評価できるようになる. また, 幅広い知識能力を保証する試験としても機能している. 政治理論はマルクス主義や毛沢東思想, 政治経済の理論や動向など 社会主義中国 の高度な専門人材として身につけておくべき知識を試験するものであるが, 理系の人間にとっても哲学や政治経済などが必須となっている. 外国語も専門に関わらない一般的な力を求めている. 基礎科目というのは, 法律や経済, 教育, 文学, 理学, 工学, 農学といった大分類の分野ごとに共通の基礎科目として修得しておくべき知識を試験する試験科目である. 専門基礎科目というのは, この大分類から細分した中分類の分野の基礎として設けられた試験である. ちなみにさらに細分した専攻分野の試験が 専門科目 として2002 年まで統一入試 ( 各大学出題 ) に入っていたが,2003 年から 2 次試験で実施されるようになった. この基礎科目にも1980 年代後半一部専攻分野で共通試験が実施されるようになり,1990 年代には専門職学位課程の設置増加に伴って工商管理や法律修士課程などで連合試験と称して共通試験が実施され, さらに 2007 年以降学術学位課程でも歴史や教育, 心理, 医学, 農学, コンピュータ科学などの分野で共通試験が導入, 拡大してきている. 教育, 心理, 医学などでは専門基礎科目を合わせた 専門基礎総合 という総合試験科目になっている. この総合試験という試験科目の実施も, 幅広い基礎知識や能力を求めるものである. ただ, 共通試験の問題点として, 学部段階から大学院を目指す学生が受験対策に走り, 求められる 幅広い 知識を詰め込む学習に明け暮れて, 専攻分野の専門能力を身につけるのが後回しになるという指摘もある (39). 暗記型 受験学習の弊害が大学院教育までも続いているという. より狭い範囲の専門科目試験を 1 次試験から 2 次試験へ回し (2003 年 ), 専門能力を測る 2 次試験の比重を高める最近の傾向は, こうした問題への対応にもなっていると考えられる. しかし, 1 次試験合格者の目安が募集定員の 2 割増 し程度であり, かなりの受験生が振るい落とされる現状からは, やはり 1 次試験の共通試験対策がなお大きな意味を持っている. 1 次試験対策が優先される状況は容易には変わらないであろう. (3) 国の関与と強い指導 2 段階方式の選抜と 1 次試験における共通試験といった中国の大学院入試を特徴づける制度設計は, 各大学の総意としてもたらされたものではない. そこには中国政府の国家としての強い政策志向があった. 毎年, 中央政府の教育部が各大学の募集定員を最終的に定め, 試験選抜の実施要項 ( 受験資格, 出願, 試験, 選抜等を規定 ) を作成発表し, これに基づいて試験選抜が行われている. また, 各大学に任されている 2 次試験についても教育部がガイドラインを出している. 推薦入学も推薦資格をもつ大学の指定や推薦学生の割合, 選抜手続きを教育部が定めている. 合格者の決定権は大学や研究機関の各募集機関に委ねられているとはいえ, このように国は入試の具体的で詳細な事項まで定め, 指導している. 我が国では学部入試では同様に 入学者選抜実施要項 を文部科学省が公表し, これに沿った入試の実施を求めている. これは大学入試がもつ社会的教育的影響の大きさによるものと思われるが, 大学院入試についてはこのような要項はなく, 国の関与はきわめて小さい. この違いは, 試験選抜そのものに対する社会や学校 大学における意識の相違もあろうし, 大学入試が高校から大学へと異なる種類 段階への移行であるのに対し, 大学院入試は同じ大学という学校種または同一の学校内での移行という点で社会的教育的影響がより少ないという事情もあると思われる. しかし, 中国について言えば, このような国の強い関与, 行政指導がなければ, 現行の大学院入試制度はありえなかったであろう. 我が国の大学院入試制度の改革を今後真剣に考えるならば, この問題を政策次元へと押し上げる力が必要になってくるであろう. そうした力が生まれるには, 大学自身の大学院教育への点検が不可欠の要件であり, その点検に基づいた大学院教育の水準維持, 高度な専門人材養成のための入試の 11

在り方が広く議論されなければならない. 注 引用文献 (1) 文部科学省 平成 15 年度文部科学白書 14~17 頁. 同 文部科学統計要覧 平成 21 年度版,86 頁 (2) 概要は主として文部科学省 諸外国の高等教育 2004 年 中国 によった. (3) 中国高等教育学会編 改革開放 30 年中国高等教育発展経験専題研究 1978~2008 475 頁 (4) 前掲資料および 中国教育報 2009 年 3 月 3 日 (5) 中国教育年鑑 編集部 中国教育年鑑 1949~1981 中国百科全書出版社,1984 年,628~629 頁,686 頁. 同年鑑によれば, その変遷は, 中華人民共和国成立以降, 学位制度整備まで次のような 4 段階に分かれる. 第 1 段階 1949~1961 年 ( 学生募集の対象 修業年限が一定せず, 試行錯誤の時期 ) 第 2 段階 1962~1965 年 ( 3 年制大学院教育が定着 ) 第 3 段階 1966~1977 年 9 月 ( 文化大革命による学生募集, 大学院教育の停止 ) 第 4 段階 1997 年 10 月 ~( 学生募集の再開決定, 1978 年に募集.80 年に 学位条例 の制定. 以後学位制度のもとでの大学教育が整備 拡大 ) (6) 国家統計局編 中国統計年鑑 2009 中国統計出版社, 2009 年,94 頁,795 頁. 進学率の推計にあたっては, 15-19 歳人口 92,767 人 (0.886 抽出調査結果 ) をもとに 1 歳当たり人口 2092 万人を割り出し, これを分母として進学率を計算,29% という結果を得た. (7) 教育部 2009 年全国招収攻読碩士学位研究生簡章 2010 年全国招収攻読碩士学位研究生簡章 ( 中国研究生信息網 http://yz.chsi.com.cn/) (8) 教育部 関於加強碩士研究生招生復試工作的指導意見 ( 教育部ホームページ http://www.moe.edu.cn) (9) 教育部 全国普通高等学校推薦優秀応屆本科畢業生免試攻読碩士学位研究生管理弁法 ( 試行 ), 教育部高校学生司編 十五 期間研究生招生政策与実践 北京師範大学出版社,2006 年, 所収,67~75 頁 (10) 教育部高校学生司研究生招生処長インタビュー (2009 年 9 月 15 日 ) (11) 教育部 関於 2009 年招收在職人員攻読碩士学位工作的 通知 ( 教育部ホームページ http://www.moe.edu.cn) (12) 中国教育報 2005 年 9 月 7 日 (13)(10) に同じ. (14) 中国教育報 2002 年 6 月 15 日 (15) 劉英傑編 中国教育大事典 浙江教育出版社,1993 年, 研究生招生 1985~1986 頁. 中国教育報 1986 年 11 月 1 日 (16) 中国教育報 1986 年 6 月 24 日 (17) 中国教育年鑑 編集部編 中国教育年鑑 1982-1984 湖南教育出版社,1986 年,286~287 頁. 人民日報 1983 年 9 月 29 日. 陳睿 対我国研究生考試制度的歴史回顧, 中国考試 2006 年第 4 期所収 (18) 光明日報 1967 年 7 月 9 日 (19) 中国教育報 1999 年 10 月 28 日 (20) 人民日報 2002 年 8 月 9 日 (21) 中国教育報 2004 年 8 月 20 日, 8 月 28 日 (22) 中国教育報 2001 年 10 月 15 日, 中国教育年鑑編集部 編 中国教育年鑑 2002 人民教育出版社,2002 年, 205 頁 (23) 教育部学位与研究生教育発展中心 関於作好 2009 年 在職人員攻読碩士学位全国聯考報名工作的通知 ( 教育部学位与研究生発展中心ホームページhttp://www. cdgdc.edu.cn) (24) 教育部考試中心命題一処インタビュー (2009 年 12 月 11 日 ) および (10) (25) この 3 地域に分けるのは地域によって募集機関の教 育研究レベルおよび受験者の学力レベルが異なるためであり, 地域の分け方は何度か調整されたが, 2008 年からは次の省 自治区 直轄市のグループ分けになっている. 1 区 : 北京, 天津, 上海, 江蘇, 福建, 山東, 河南, 湖北, 湖南, 広東 (11) 2 区 : 河北, 山西, 遼寧, 吉林, 黒竜江, 安徽, 江西, 重慶, 四川, 陝西 (10) 3 区 : 内蒙古, 広西, 海南, 貴州, 雲南, チベット, 甘粛, 青海, 寧夏, 新疆 (10) 中国教育報 1997 年 10 月 24 日,2003 年 4 月 1 日, 2008 年 4 月 1 日 (26) 光明日報 1981 年 6 月 16 日,1982 年 1 月 10 日,11 月 1 日 12

(27) 中国教育年鑑 編集部編 中国教育年鑑 1982-1984 湖南教育出版社,1986 年,286~287 頁. 復試実行差額制考研杜絶 暗箱操作 sina.com. 2003. 3. 21. 中国教育報 2002 年 11 月 18 日 (28) 光明日報 2001 年 7 月 13 日, 中国教育報 2004 年 8 月 20 日 (29) 北京師範大学各学院 2009 年碩士研究生復試安排 ( 北京師範大学研究生院ホームページ http://graduate. bnu.edu.cn). 北京師範大学は, 上海市の華東師範大学と並んで全国で最も権威ある師範系の総合大学である. (30) 北京師範大学研究生院インタビュー (2009 年 12 月 14 日 ) (31)(10) に同じ. (32) 人民日報 1983 年 9 月 29 日, 中国教育報 1984 年 10 月 23 日,1985 年 9 月 24 日 (33) 中国教育報 1989 年 11 月 4 日 (34) 教育部研究室編 中華人民共和国現行高等教育法規彙編 人民教育出版社,1999 年, 上巻所収,662~ 666 頁 (35) 教育部高校学生司研究生招生処 碩士生招生状況簡介 2009 年 3 月 25 日, 中国教育報 2009 年 7 月 18 日 (36) 復旦大学 2009 年接収外校推薦免試碩士生弁法 優秀大学生夏令営活動実施方法 ( 復旦大学大学ホームページhttp://www.gsao.fudan.edu.cn) および復旦大学研究生院招生弁公室インタビュー (2009 年 9 月 17 日 ). 復旦大学は北京大学や上海交通大学と並ぶ中国で最も権威のある大学のひとつで, 上海市にある. (37) 韓国の大学院入試についての論文や情報は我が国でほとんど見あたらず, 筆者は2009 年 9 月韓国に教育技術部, 高麗大学, 韓国教育開発院, 全北大学などを訪問, 実態や政策を調査した. 本論での指摘はこのときのインタビューおよび収集資料に基づく. 教育技術部によれば, トップの大学以外, 多くの大学で大学院定員を満たしていない. 修士課程は2004 年統計では, 充足率が100% を大きく割る分野が出てきている. とくに低いのは, 人文 (56%), 工学 (63%), 理学 (69%) である. (38) 文部科学省 諸外国の高等教育 2004 年,33 頁 (39) 北京師範大学国際与比較教育研究院次長インタビュー (2009 年 12 月 14 日 ) 13

論 文 看護系大学の量的拡大に伴う大学入試設計の問題 - 実情把握のための基礎分析 - 金澤悠介 1)*, 倉元直樹 2), 小山田信子 3), 吉沢豊予子 3) 1 ) 立教大学社会情報教育研究センター, 2 ) 東北大学高等教育開発推進センター, 3 ) 東北大学大学院医学系研究科 1 問題と目的 1. 1 看護師養成状況の変化と大学入試設計問題我が国における医療関係専門職の養成システムは, 資格の種類によって考え方が異なっており, 全体としてみるとやや複雑な様相を呈している. 医師や歯科医師は大学における六年制課程で養成されてきた. 薬剤師免許の国家試験受験のための基礎資格の取得は平成 18(2006) 年度学部入学者より, 四年制課程から六年制課程へと引き上げられた. これらの専門職が単線的な教育制度によって養成されてきたのとは対照的に, 看護師等の看護専門職業人の養成ルートは複線的である. 従来は, 専門学校 短大が看護専門職業人養成の中心を担ってきた. ところが, 近年, 看護系教育機関に占める四年制大学 ( 以後, 必要に応じて 四大 と記す ) のウェイトが急速に大きくなりつつある. 短期間の間に, 近い将来, 看護師の学歴は四大卒が標準となる可能性もあるのではないかと思わせるほど, 急激に拡大しているのだ. これは看護専門職業人の養成にとって, 急激, かつ, 大きな変化と言える. このような変化により, 従来, 専門学校や短大が担ってきた看護師養成の役割を四大が担う必要がでてきた. ここで重要になるのが高等学校における教育と看護専門教育をいかにスムーズに接続するのか, という高大接続の問題である. そして, この問題が顕著な形で現れるのが大学入試場面である. 看護系大学の量的拡大に伴うかたちで生じてくる高大接続の問題に適切 に対応できるような, 大学入試の在り方を探るのが本研究の大きな探求課題である. ただし, 本稿ではこの課題を遂行する端緒として, 看護系大学の入試の実態を明らかにすることを目的とする. 以上で述べた本稿の課題を遂行するために, ここでは, まず, 看護師養成制度における大学の位置づけを確認する. さらに, 看護教育の四大化を推し進めた 看護師等の人材確保の促進に関する法律 ( 以下, 人材確保法 と略記 ) 1) の趣旨とその影響について確認する. その後, 大学入試設計の観点から見た看護師養成の問題を議論する. 1. 2 看護師養成制度における四年制大学の位置づけ看護養成制度において大学が担うべき役割を知るには, 看護師養成制度の概略を理解する必要がある. この制度の大きな特徴は以下の 2 点である. 第一に, 看護職の資格には ( 正 ) 看護師と准看護師の 2 種類が存在することが挙げられる. 保健師助産師 1) 看護師法によれば, 看護師とは 厚生労働大臣の免許を受けて, 傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者 ( 第 5 条 ) であり, 准看護師とは 都道府県知事の免許を受けて, 医師, 歯科医師又は看護師の指示を受けて, 前条に規定することを行う業とする者 ( 第 6 条 ) である. つまり, 看護師と准看護師の違いは,(1) 国家免許か知事免許か,(2) 職務を自律的に行うか, 医師や看護師の指導のもとで行うのか,(3) 養成機関への * ) 連絡先 : 171-8501 東京都豊島区西池袋 3-34-1 立教大学社会情報教育研究センター kanazawa@rikkyo.ac.jp 15

入学要件が高校卒業か中学卒業か, という形に要約できる. 本研究が検討の対象とする看護系大学とは, 四年制大学の教育プログラムによって看護系専門職を養成する課程である. 看護系だけの単科大学, 総合大学の中に看護系学部, 学科, 専攻等の養成プログラムを持つケースの双方を含む. 准看護師, 看護師という区分で言えば, 看護系大学は看護師を養成する教育機関ということになる. なお, 看護師を基礎資格とする看護専門職資格として, 保健師と助産師がある. 第二に, 看護師となるための養成ルートには, 図 1 のように多様なものが混在していることが挙げられる. 主たる看護師養成ルートは,(a) 看護師養成所 ( 専門学校 ) の三年制課程を卒業する,(b) 短期大学の三年制課程を卒業する,(c) 四年制大学を卒業する, というものである. この三つのいずれかのルートによって, 看護師国家試験の受験資格が与えられる. なお, 平成 21(2009) 年 7 月 9 日に保健師助産師看護師法の一部が改正された際, 大学による看護師養成が各種養成機関の筆頭に位置付けられた. 上記の養成ルート以外にも,(d) 准看護師の資格を得た上で准看護師資格を入学要件として看護師国家試験の受験資格を付与する養成所 ( 二年制課程 ) を卒業するルートや (e) 中学卒業後に五年一貫教育の高等高校を卒業し, 准看護師資格を取得せずに国家試験を受験するルートなども存在する. 以上のように, 看護師資格の取得には看護師養成を目的としたプログラムを持つ学校教育を受けて卒業資格を得ることが国家資格受験の条件となることが共通である. その一方で, 同じ看護師資格を持つ看護職従事者の中に, 最終学歴の水準から見ても, そこに到達するルートにおいても, 異質な経験を経てきた者が混在するシステムとなっている. 本研究が検討の対象とする看護系大学は, いったん高校に入学し, 卒業後に進路選択肢として看護職を考えた場合のルートの一つである. 看護専門職業人につながる養成機関としては, 専門学校や短大と競合する位置づけにあると考えられる. 本研究の対象 出典 : 日本看護協会ホームページ (http://www.nurse.or.jp/home/kisokyouiku/) 図 1. 看護師養成制度の概要 16

600 500 400 300 200 100 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 大学短大 (3 年課程 ) 学校養成所 (3 年課程 ) 5 年一貫制 短大 (2 年課程 ) 学校養成所 (2 年課程 ) 高校専攻科 図 2. 看護師養成機関数の経年的推移 注 : 白抜きのマーカーは准看護師免許の取得を基礎資格とする課程 1. 3 看護師等の人材確保の促進に関する法律 とその影響平成 4 (1992) 年に人材確保法が制定された. この法律は, 急速な高齢化の進展や医療環境の変化に対応するために, 国や地方自治体といった行政や個々の病院に, 看護師の養成及び確保を促進するための措置を講ずることを求めるものである. 看護専門職養成機関の四大化は, 人材確保法が契機になっているとみてよいだろう. 時期的に見ても, 看護系大学はこの人材確保法の制定直後から急増している. すなわち, 人材確保法が掲げる高度な専門知識と技能を有する看護専門職業人を養成して医療現場に供給するために, 養成機関の教育水準の向上が必要と考えられ, そのために看護系大学の学校数が急速に増加したと理解することができるだろう. 図 2 は人材確保法以後の看護師養成機関数の経年的推移を表している. 大学数に関して言えば, 平成 4 (1992) 年には, 看護系大学はわずか14 校しか存在していなかった. ところが, 平成 20(2008) 年には168 校になり, その数は急激に増加している. その一方で, 二年制課程の学校養成所 ( 専門学校 ) や短期大学の数は減少の一途をたどっていることが分かる. 看護系大学の増加に伴い, 当然のことながら入学者 数も急増している. 平成 4 (1992) 年の段階では1,000 人にも満たなかった看護系大学への入学者は, 平成 20 (2008) 年には約 15,000 人を数えるまでに至った. 平成 19(2007) 年以降は大学入学者数が准看護師免許取得者を対象とする二年制課程の看護師養成所への入学者数を上回り, 三年制課程の看護師養成所に次いで 2 番目に多いルートとなっている ( 図 3 ). 結果的に, 現在では, 入学者ベースで算出した場合には大学で養成される看護師が全体の 2 割以上を占める状況に至っている. 1. 4 大学入試設計から見た看護師養成の問題看護師養成制度における四年制大学の役割が年々拡大していくことは, 高等教育機関の側から見ると, かつては四年制大学の教育の外に位置づけられていた看護師養成教育機関としての役割を, 新たに四年制大学が担っていく必要性が新たに生じたことを意味している. ここに, 従前の制度的な枠組で十分には対応できない, 想定外の問題が発生する余地が生まれたと考えることができよう. それは, 一言で言えば, 看護学教育における高校教育と大学教育との接続問題である. そして, その問題が目に見える形で現れたのが大学入試の場面ということになる. 17

30,000 学 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 大学短大 (3 年課程 ) 学校養成所 (3 年課程 ) 5 年一貫制 短大 (2 年課程 ) 学校養成所 (2 年課程 ) 高校専攻科 図 3. 看護師養成機関入学者数の経年的推移 注 : 白抜きのマーカーは准看護師免許の取得を基礎資格とする課程 体育や芸術などの一部の分野や, ことさらに学際を意識した領域を除き, わが国のほとんどの学士課程教育プログラムでは, 専門教育の内容が文系, または, 理系に色分けされているのが通常の姿である. 大学入試も文理の区分に対応した設計となっているのが基本なので, 必然的に大学進学を目指す高校教育の側もそれに対応した体制を組むことになる. ところが, 大学における専門領域としての看護学は, 文系と理系の双方の基礎知識が必要な分野である. 制度的に文理のいずれかの分野の中に明白に位置付けるのは難しい領域と言える. 例えば, 他の諸専攻との比較の中で, 看護系大学において高校時代に習得が必要とされる教科科目等を調査した柳井 石井 (2007) 2) によれば, 看護学系統において高等学校で学んでおく必要度が高い教科科目として, 生物, 外国語, 国語 といった形で, 文系, 理系双方の科目が混在して挙げられている. その一方で, 高等学校の普通教育においては, 昭和 45(1970) 年度告示, 昭和 48(1973) 年度施行の学習指導要領以来, 共通に課される必修科目が少なくなり, 選択科目が大幅に増やされるカリキュラム改革が進められてきた. 特に, 平成元 (1989) 年度告示, 平成 6 (1994) 年度施行の学習指導要領からは, いわゆる主 要教科の選択性が一層高度に進み, 現在, 普通高校の生徒が共通に学ぶ科目はなくなっている. それと軌を一にして, 義務教育段階では, いわゆる ゆとり教育 と呼ばれる学習内容の削減政策が進んでいった. その結果, 今日, 多くの高校生は高校入学直後という極めて早い段階で, 自らの進路を文系, 理系のいずれのトラックに定めるのか, その選択に迫られる状況となっている. また, 実質的に文系と理系では履修内容が著しく乖離したものとなっているため, 文系に進んだ場合, 事実上, 理系分野への進路選択の道は閉ざされてしまうだろう. 理系から文系への進路転換は, おそらく不可能とは言えないまでも, 高校で学ぶ正規のカリキュラムに加えて個人的にかなりの付加的な努力が求められる制度となっている. 新たに大学教育の枠組に加わった看護学系統の専門領域にとっては, 文系, 理系のいずれにスタンスを取るかが大きな課題と言える. すなわち, 文系の学問として位置づけられるか理系の学問として位置づけられるかということによって, 入学してくる学生のそれまでの学習履歴が全く異なってくる可能性が高いのである. そこで, 本研究では, このような看護専門教育の四大化によって新たに生じた高大接続の問題に着手する端緒として, 看護系大学で実際にどのような入試科目 18

が課されているのか, その実態を解明することを試みることとした. 2 方法 2. 1 看護系大学の定義看護系大学の入試の実態を調べるため, 以下の要領で分析用のデータを作成した. 最初に, 本研究で分析の対象とする 看護系大学 を 日本看護系大学協議会の会員校 と定義することとした. 本研究では, そのうち平成 20(2008) 年までに看護系学部 / 学科を設立した168 校を分析の対象とする. ただし, 看護学科への進学の仕方が他の大学と著しく異なっているという理由で, 東京大学は分析から除外することとした. 東京大学では, 大学 2 年の段階で, 志望する学部 学科に進学することになっており, 大学入学時点で看護学部 / 学科に所属することになっている他の大学とは大きく異なるからである. ある. それは, 各大学が課す代表的な入試科目の情報を入手するためである. 最も募集人員の多い入試を判定する手続きは以下のとおりである.(1) 一般入試, 推薦入試,AO 入試のうち, 最も募集人員が多いものを見つける 3).(2) この 3 つのうち最も募集人員が多い入試が複数の日程に分かれている場合, 複数の日程の中で一番募集人員が多いもので課されている入試科目を, その大学の代表的な入試科目として判定の対象とする. たとえば, 国公立 A 大学の看護学部は一般入試の募集人員が最も多く, 一般入試の中では前期日程入試の募集人員が最も多いとする. この場合, 前期日程で課している入試科目をこの大学の入試科目を代表するものと判定した. また, 私立 B 大学は一般入試の募集人員が最も多く, 一般入試の中ではA 日程入試の募集人員が最も多いとする. そのような場合,A 日程で課している入試科目をこの大学の入試科目を代表するものと判定した. 2. 2 分析対象変数次に, 各大学のホームページに記載されている情報に基づき, 以下の情報を収集した. (A) 大学の基本的な特徴に関わるもの大学の基本的な属性をあらわすものとして, 設置者, 所在地, 大学の学生数, 助産師養成プログラム ( 以後, 助産 ないしは 助産プログラム と表現する) の有無の情報, を収集した. 助産師資格の取得は, 大学卒業後に助産師として働く可能性を示すものであり, 受験時に受験者が明確に理解できる卒後キャリアの簡易指標とみなすことができる. (B) 募集人員に関わるもの各大学の一般入試, 推薦入試などの募集人員に関する情報を収集した. 具体的には, 入学定員, 一般入試の募集人員, 推薦入試の募集人員,AO 入試の募集人員, の情報を収集した. (C) 入試科目各大学が課す入試科目の情報を収集した. ただし, 現在, 学部入試は各大学の独自性が強く, 結果的に極めて複雑になっており, 全体像をコンパクトに表すのは非常に難しい. したがって, 本研究が収集した入試科目は, その大学で最も募集人員の多い入試のもので 2. 3 分析の手順本節では, 前節で説明したデータセットを分析することを通じて, 看護系大学の入試の実態について明らかにする. 看護系大学の入試の実態を確認する前に, 看護系大学の基本的な特徴をまず確認する. 次に, 看護系大学の入試の実態を明らかにする. ここでは,(ⅰ) 各入試区分の募集人員の実態,(ⅱ) 入試科目の実態, (ⅲ) 入試科目と関連する特性を明らかにする. 3 結果 3. 1 看護系大学の基本的属性看護系大学の基本的属性を確認するために, 設置者の特徴から見ていくこととする. 平成 20(2008) 年までに設立された看護系大学の約半数が私立大学で占められている一方, 国立大学と公立大学は, それぞれ約四分の一ずつのシェアを占めている. 看護系の専攻を含む大学全体に所属する学生数 ( 1 年から 4 年までの学生数の合計 ) を見てみると, 看護系大学の約 3 分の 2 が総学生数 4,000 名以下であり, 比較的規模が小さい大学が多い. 看護系大学の所在地を見ると ( 図 4 ), 全体の約 25% が関東地方にあるものの, それ以外の地域にもまんべんなく看護系大学が 19

配置されていることがわかる. なお, 大学の所在地の各カテゴリーは看護系大学協議会の地域ブロックを基にしている. 看護系大学では看護師の資格を取得できることは言うまでもないが, 保健師や助産師の資格も取得できる場合がある. 平成 20(2008) 年時点の状況では, 図 1 の注釈 (* 1 ) にあるように, 看護師の資格を取得できる大学では保健師の資格も同時に取得できる. 一方, 助産師はそのためのプログラムを設けなければ, その資格を取得できない制度となっている. 本研究の対象となる平成 20(2008) 年までに設立された看護系大学を見てみると, そのような助産プログラムを有している大学は約 55% である. 最後に, 大学の基本属性間の関係をいくつか確認しておく. 大学の設置者と所在地の関係を見ると, 関東及び関西 近畿地方が他の地域に比べ, 私立大学の割合が高い ( 図 5 ). 一方, 北海道 東北, 中部, 中国 四国地方は, 国公立大学が占める割合が高い. さらに, 設置者と助産プログラムの有無の関係を見ると, 国立大学の 8 割近くが, そして公立大学の 7 割近くが助産プログラムを有しているのに対し, 私立大学では助産プログラムを有している大学は全体の 4 割にも満たない. 大学の所在地と助産プログラムの有無の関係を見ると, 中部, 関西 近畿及び九州地方が他の地域に比べ, 助産プログラムを有する大学の割合がやや高いものの, 大学所在地による助産プログラムの有無の違いは, 設置者による違いほど大きくはない ( 図 6 ). (%) 30 25 25 20 17 17 15 13 14 14 10 5 0 (N = 167) 図 4. 所在地別看護系大学数割合 (%) 3. 2 各入試区分の募集人員最初に看護学系全体の入学定員を見てみると, 看護系大学の入学定員の平均値は78.95 名であり, 大部分の大学の入学定員は50 名から100 名の範囲の中にあることがわかる ( 図 7 ). 次に, 入学定員に占める一般入試の募集人員の割合を見てみると, 看護系大学では, 入学定員のうち平均して63% が一般入試で占められている ( 図 8 ). さらに, 入学定員の50% 以上を一般入試が占めている大学は全体の 7 割を占める半面, 入学定員の25% 以下しか一般入試が占めていない大学は全体の 1 % しかなく, 非常に例外的な存在であることがわかる. 入学定員に占める推薦入試の募集人員の割合を見ると, 入学定員のうち平均して30% 程度を推薦入試の募集人員が占めている ( 図 9 ). また,AO 入試を見てみると, 約 7 割近くの大学がAO 入試を課しておらず, 3 割程度の大学 (N=22) 27 36 36 関 (N=41) 12 15 73 (N=28) 32 32 36 関 (N=29) 17 31 52 国 国 (N=23) 39 26 35 (N=24) 33 21 46 0% 20% 40% 60% 80% 100% 国立公立私立 図 5. 看護系大学の所在地と設置者の関係 20

70 64 60 62 60 58 50 50 49 50 48 40 40 29 % 30 平均値 0.63 標準偏差 0.18 48 30 22 20 20 10 10 1 0 0-0.25 0 北海道 東北 関東 関西 近畿 中部 中国 四国 0.25-0.5 0.5-0.75 0.75-1.0 九州 沖縄 N = 162 N = 167 図 6 所在地別の助産プログラムを持つ看護系大学の比率 % 図 8. 看護系大学の入学定員に占める一般入試の募集定員の割合の分布 図 8. 看護系大学の入学定員に占める一般入試の募集定員の割合の分布 50 40 40 30 32 30 25 ( 28 23 % 20 ) % 平均値 0.30 標準偏差 0.14 平均値 78.95 標準偏差 21.62 18 20 10 10 18 10 10 6 11 13 6 0 0-50 51-60 61-70 71-80 81-90 0-0.1 91-100 101-200 N = 167 0.1-0.2 0.2-0.3 0.3-0.4 0.4-0.5 N=158 図 7 看護系大学の入学定員数の分布 図 9 看護系大学の入学定員に占める推薦入試合格者の割合の分布 図 9. 看護系大学の入学定員に占める推薦入試合格者の割合の分布 3. 3 入試科目 しか AO 入試を課していないことがわかる なお 平成20 2008 年度入試において 国立大学 看護系大学の主要な入試区分が一般入試であること では84.4 公立大学では75.6 私立大学では48.6 を前提としたとき 次に問題となるのは一般入試でど の学生が一般入試を経由して大学に入学している4 のような入試科目を課しているかということである 看護系大学の設置者別割合を重みとして加重平均を算 一般入試科目の様相を分析することで高校との接続に 出すると一般入試入学者の期待比率は約64.6 となる 関する実態がある程度把握できるであろう ので 定員ベースで見た場合にはほぼそれに匹敵する 本研究では 看護系大学の入試科目の概要を把握す 数値となっている 同様の方法で算出すると推薦入学 るため 以下で述べるような基準をもとに 各大学の 者の期待比率は31.5 となるので それも標準的であ 入試科目を分類した る 一方 AO 入試実施学部数の期待比率は46.2 で 1 理系型 あるので AO 入試に対してはあまり積極的ではない と言えそうである 高等学校在学時に標準的な理系コースを履修してい なければ 原則として 解答できない入試科目を課す 以上の結果から 看護系大学では学生を選抜する手 ものを 理系型 入試科目として分類した 具体的に 段として 他の学部や専攻と同様に 主に一般入試を は 一般入試の入試科目として 物理Ⅱ 生物Ⅱ 化 用いていることが分かる そして 一般入試を補足す 学Ⅱもしくは数Ⅲ C を課すものを 理系型 入試科目 る形で推薦入試や AO 入試といった選抜手段を用いて に分類した いるが 他の学部や専攻と比較すると全体として AO 2 文系型 入試に対してはあまり熱心ではない 高等学校在学時に標準的な文系コースを履修してい れば 原則として 解答できる入試科目を課すものを 21

文系型 入試科目として分類した. 英語や国語を入試科目として課すものの理科や数学は課さないものや, 理科や数学も入試科目として課すものの物理 Ⅰ 生物 Ⅰ 化学 Ⅰもしくは数 ⅠA ⅡBの範囲に収まるような場合に, 文系型 入試科目として分類した. (3) 理系 + 文系型一般入試の学科科目が 理系型 とも 文系型 とも選択できるものは 理系 + 文系型 入試科目として分類した. 具体的には, 次の三つの場合を 理系 + 文系型 入試科目として分類した. 一つ目は受験科目の選択により文系でも理系でも受験可能になるものである. これは私立大学の一般入試に何例か見られるものである. たとえば, 一般入試の科目として, 国語, 英語, 生物 Ⅱ 化学 Ⅱ, 数学 ⅡBのうち 2 教科を選択する場合である. 二つ目はセンター試験で理科を 2 科目課し, 二次試験で 文系型 入試科目を課すものである. これは国公立大学でよくみられるものである. たとえば, センター試験で理科を 2 科目課し, 二次試験で英語を課すものは 理系 + 文系型 入試科目として分類した. 三つ目は文系と理系の双方の知識を必要とするような問題を課すものである. これは入試科目として総合問題を課す大学にみられるものである. (4) 個別学科なし型個別試験では面接や小論文といった方法で学生を選抜するが, 加えてセンター試験での学科試験の成績を加味するものを 個別学科なし に分類した. つまり, センター試験では学科を課すが, 個別試験では学科試験を課さないものを 個別学科なし に分類したとい うことである. センター試験で課す学科科目に応じ 個別学科なし, に二つの下位分類を設けた. 一つ目は 理系型 であり, これはセンター試験で理科 2 科目を課すものである. 現在, 高校の文系コースでは, 通常, 理科 2 科目の受験に対応したカリキュラムは組まれていない. したがって, 文系では対応できない入試科目構成である. 二つ目は 文系型 であり, これはセンター試験で理科 1 科目を課すものである. 文系コースからも進学が可能である. (5) 面接 小論文のみ型国語や理科などの学科科目を課すことなく, 面接や小論文といった方法で学生を選抜するものを面接 小論文のみ に分類した. つまり, センター試験などで学科科目を課すことなく, 個別試験においても面接もしくは小論文のみで合否が決定されてしまうようなものを 面接 小論文のみ と分類した. 以上の基準で各大学の入試科目を分類したところ, 結果として163 校が分類可能となった 5) ( 図 10). 看護系大学の45% が 文系型 入試科目を課している一方, それ以外の入試形態もまんべんなく存在していた. また, 面接 小論文のみ型 に該当する大学が 1 校もなかったことも特筆すべきことである. 入試科目という観点から見れば, 看護系大学は理系にも文系にも開かれた, 非常に多様な入試形態を有していることがわかる. 入試科目の多様性にかかわらず, 看護系大学の入試では何らかの形で学科科目が課されるという共通 50 45 40 30 20 10 12 12 12 20 0 別 科 ( ) 別 科 ( ) の (% )(N=163) 0 図 10. 最大の入試区分における入試科目のタイプ別割合 (%) 22

性もある. 3. 4 入試科目と関連する特性の探索的分析先の結果から, 看護系大学は非常に多様な入試形態を有していることが判明した. では, 各大学が課す入試科目の構成はどのような要因と関連しているのであろうか. ここでは, 大学の基本的な特徴や募集人員の特徴との関連を探索的に探っていく. まず, 看護系大学の設置者と入試科目の関係を確認する ( 図 11). 国立の看護系大学では, 文系型 入試科目を課す大学が全体の 2 % と少ないものの, それ以外の入試科目のタイプはまんべんなく存在している. 公立大学の看護系大学では, その大部分が 個別学科なし型 の入試科目を課していた. 公立大学の約 60% が 個別学科なし文系型 入試科目を課しており, 25% が 個別学科なし理系型 入試科目を課している. 私立大学の看護系大学では, 全体の 9 割近くの大学が 文系型 の入試科目を課している. このように, 設置者によりその大学が課す入試科目は大きく異なっている. 大学の学生数と入試科目の関係を確認する ( 図 12). 学生数が4,000 名に満たない比較的小規模な大学では, 約 6 割が 文系型 の入試科目を課している. また 2 割強の大学で 個別学科なし文系型 の入試科目を課している. 一方, 学生数が4,000 名以上の比較的な大規模な大学を見てみると, 非常に多様な入試科目を課していることがわかる. 特に, 2 割強の大学が 理系型 の入試科目を課している点や, 約 3 割の大学が 理系 + 文系型 の入試科目を課している点は非常に特徴的である. 助産プログラムの有無と入試科目の関連を確認する ( 図 13). 助産プログラムのない大学では, 6 割強の大学で 文系型 の入試科目を課している. また, 2 割弱の大学で 個別学科なし文系型 の入試科目を課している. 一方, 助産プログラムのある大学では, 文系型 と 個別学科なし文系型 の割合がやや多いものの, 様々なタイプの入試科目がまんべんなく存在している. 大学の所在地と入試科目の関連を確認する ( 図 14). 北海道 東北地方では,4 割近い大学が 文系型 (N=42) (N=40) (N=81) 5 9 8 29 25 2 31 図 11. 設置者と入試科目の関係 図 12. 看護系大学の規模と入試科目の関係 図 13. 助産プログラムの有無と入試科目の関係 の入試科目を課し, 約 3 割の大学が 個別学科なし理系型 の入試科目を課している. 関東地方では, 約 6 割の大学が 文系型 の入試科目を課している. 中部地方では, 約 4 割の大学が 文系型 の入試を課し, 2 割強の大学が 個別学科なし文系型 の入試科目を課している. 関西 近畿地方では, 約 5 割の大学が 文系型 の, 2 割強の大学が 個別学科なし文系型 の入試科目を課している. 中国 四国地方では, 約 3 割の大学が 文系型 の, 4 割強の大学が 個別学科なし文系型 の入試科目を課している. また, 中国 四国地方では, 理系型 の入試科目を課している大学はなかった. 九州地方では,3 割強の大学が 理系型 の入試科目を課している. 加えて,2 割強の大学が 文系型 の, 約 2 割の大学が 個別学科なし文系型 の 86 63 21 17 4 1 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 4000 (N=108) 4000 (N=55) 5 25 57 20 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 助産 (N=74) 助産 (N=89) 5 17 28 65 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 18 31 2 11 15 4 8 13 25 23 18 11 23

入試を課している. 以上の結果は, 大学の所在地と入試科目が強く関連しているかのように見える. しかし, 設置者, 助産プログラムの有無, 入学定員に占める一般入試の募集人員の割合などの変数との関連を同時に考慮した場合, 大学所在地と入試科目の関連はあまり強いものではなくなる 6). 大学の所在地と入試科目の関連は, 設置者, 助産プログラムの有無, 入学定員に占める一般入試の募集人員の割合などの変数によって生み出された擬似的なものと考えてよさそうである. ここまでは大学の基本的な特徴と入試科目の関連を見てきたが, 次は一般入試や推薦入試の募集人員の特徴と入試科目の関係を探っていく. まず, 入学定員に占める一般入試の募集人員の割合と入試科目の関係を確認する ( 図 15). 一般入試の募集人員の割合が 0 % から50% までの大学では, 約 8 割の大学が 文系型 の入試科目を課している. 一般入試の募集人員の割合が50% から75% までの大学では, 3 割強の大学が 文系型 の入試科目を課し, 約 3 割 が 個別学科なし文系型 の入試科目を課している. 一方, 一般入試の募集人員の割合が75% から100% までの大学では, 文系型 の入試科目を課している大学の割合はやや小さいものの, 多様な入試科目を課していることがわかる. 特に, 約 3 割の大学が 理系型 の入試科目を課している点や, 約 2 割の大学が 文系 + 理系型 の入試科目を課しているのは注目に値する. 以上の結果から, 入学定員に占める一般入試の募集人員の割合が大きくなるにつれて, 文系型 の入試科目を課す大学の割合が減少し, 理系型 や 文系 + 理系型 の入試科目を課す大学の割合が増えることがわかる. 入学定員に占める推薦入試の割合と入試科目の関係を確認する ( 図 16). 推薦入試の割合が 0 % から10% までの大学では, 多様な入試科目を課している. 特に, 約 4 割の大学が 理系型 の入試科目を課しているのは特筆に値する. 推薦入試の割合が10% から20% までの大学では,0 % から10% までの大学に比べ, 理系型 (N=21) 14 38 10 33 5 関 (N=40) 8 63 13 10 8 (N=28) 7 43 14 11 25 関 (N=29) 10 52 10 3 24 (N=22) 32 18 5 45 (N=23) 35 26 4 13 22 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 図 14. 大学の所在地と入試科目の関係 0.75~1.0(N=35) 31 6 23 14 26 0.5~0.75(N=76) 7 36 11 18 29 0~0.5(N=48) 6 83 6 4 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 図 15. 入学定員に占める一般入試の募集人員の割合と入試科目の関係 24

0.4~0.5(N=35) 9 69 3 3 17 0.3~0.4(N=43) 2 49 5 16 28 0.2~0.3(N=39) 5 44 15 15 21 0.1~0.2(N=21) 29 10 29 10 24 0~0.1(N=17) 41 24 18 12 6 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 図 16. 入学定員に占める推薦入試の募集人員の割合と入試科目の関係 AO 入試 (N=113) 13 33 12 15 27 AO 入試 (N=50) 8 72 10 4 6 0% 20% 40% 60% 80% 100% 理系文系文系 + 理系個別学科無 ( 理系 ) 個別学科無 ( 文系 ) 図 17.AO 入試の有無と入試科目の関係 入試を課す大学の割合が少なくなっているものの, ここでも多様な入試科目を課している. 一方, 推薦入試の割合が20% から30% までの大学や,30% から40% までの大学では, 理系型 の入試科目を課す大学の割合は急激に減少し, 5 割に近い大学で 文系型 の入試科目を課すようになっている. そして, 推薦入試の割合が40% から50% までの大学では, 7 割近い大学で 文系型 の入試科目を課すようになる. 以上の結果から, 入学定員に占める推薦入試の募集人員の割合が大きくなるにつれて, 理系型 の入試科目を課す大学の割合が減少し, 文系型 の入試科目を課す大学の割合が増えることがわかる. これは入学定員に占める一般入試の募集人員の割合の場合とは逆の傾向である. AO 入試の有無と入試科目の関連を確認する ( 図 17).AO 入試を課していない大学では, 多様な入試科目を課している. 一方,AO 入試を課している大学 では, 約 7 割の大学で 文系型 入試を課している. 以上の結果をまとめると, 大学の基本的な特徴や募集人員の特徴とその大学が課す入試科目は深く関連している. 大学の基本的な特徴でいえば, 大学の設置者, 学生数や助産プログラムの有無によって, その大学が課す入試科目が変化することが判明した. 私立で, 学生数が少なく, 助産プログラムのない大学では, 文系型 の入試科目が課されやすい傾向がある. 一方, 国公立大学であったり, 学生数が多い, 助産プログラムを有しているという特徴を持った大学では, 多様な入試科目を課している. ただし, 大学の所在地と入試科目の関連について言えば, 他の変数との関連によって引き起こされた擬似的な関連である可能性が否めない. また募集人員の特徴に関して言えば, 入学定員に占める一般入試や推薦入試の募集人員の割合,AO 入試の有無なども入試科目と強く関連していた. 入学定員に占める一般入試の割合が低い半面, 推薦入試の割 25

合が高い大学や,AO 入試を課している大学では 文系型 の入試科目を課す傾向がある. 一方, 入学定員に占める一般入試の割合が高く, 推薦入試の割合が低い大学では 理系型 の入試を課す傾向がある. 4 考察まず, 現状の看護系大学の主要な入試区分では, 学力を一切問わない 面接 小論文のみ といった様態は見られないようである. 国家試験のある専門職の養成を目途としているため, 入学後の教育の基礎には高校までの学習内容が不可欠との認識がコンセンサスなのであろう. しかしながら, 同時に入試の実態は極めて多様である. 全体としては文系で対応可能な内容が中心であるものの, 文系型の入試形態と理系型の入試形態が混在している. 考え方によっては進学のチャンネルが文理双方に開かれていると見ることもできるかもしれないが, 看護職を目指す高校生の進路選択には非常に悩ましい状況であると考えられる. すなわち, 大学を経ての看護専門職へのキャリアを思い描いた場合には, 文系 理系の進路選択の場面で明確な指針が得られないことを意味するからである. 入試科目と関連する要因の分析から, 入試科目のタイプによって大学にある種の色分けがあることが認められた. したがって, 大学のステータスや求められる学力水準, 将来, 志望が変化した場合に可能な選択肢など, 極めて多様な要素を絡めた総合的な判断が, コース選択の時点で最初から要求されてしまうことになる. また, 大学側にとっても, 入学までの前提として高校教育に求めるべき内容と大学のカリキュラムの中で養成するべき教育内容の仕分けが難しい. 現在の高校教育の実像を把握した上で, 高校時代に何を習得してくることを求め, 大学入学後にはどのような内容を課して行くのか, 入試科目の構成を含むアドミッション ポリシーと入学後のカリキュラム ポリシーの整合性を取っていく必要があるだろう. 個々の大学にとって想定される学生像とカリキュラムのミスマッチを最小限に抑えるためには, 看護教育の分野における入試設計のコンセプトが極めて重要となってくることが予想される. 注 1 ) 門脇豊子 清水嘉与子 森山弘子 (2009). 看護法令要覧 ( 平成 21 年度版 ), 日本看護協会出版会. 2 ) 柳井晴夫 石井秀宗 (2007). 看護系大学において必要とされる教科科目 資質能力 スキルに関する調査研究,11, 聖路加看護学会誌,1-9. 3 ) 本研究で対象とするデータは平成 20(2008) 時点のものであり, 入試科目に関する分析は平成 21(2009) 年度入試時点における制度を前提としている. 実態として, 平成 21(2009) 年度大学入試は大きく分けて, 一般入試, 推薦入試, AO 入試 の 3 種類とその他の例外的な入試に大別して考えるとよい. 一般入試は 調査書の内容, 学力検査, 小論文 面接その他の能力 適性等に関する検査の成績, その他大学が適当と認める資料により, 入学志願者の能力 適性等を合理的に総合して判定する入試方法, 推薦入試は 出身高等学校長の推薦に基づき, 原則として学力検査を免除し, 調査書を主な資料として判定する入試方法 とされている. また,AO 入試は 詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって, 入学志願者の能力 適性や学習に対する意欲, 目的意識等を総合的に判定する入試方法 とされている. 募集人員に関しては, 短期大学を除き, 推薦入試の募集人員は, 附属高等学校長からの推薦に係るものも含め, 学部等募集単位ごとの入学定員の 5 割を超えない範囲 と定められているが, 一般入試,AO 入試に関する規定はない ( 以上, 文部科学省, 平成 22 年度大学入学者選抜実施要項, 21 文科高第 6143 号 ). したがって, 入学定員の配分の仕方によっては, いずれの入試区分も最大の募集人員を持つ可能性がある. 4 ) 文部科学省 (2009). 平成 20 年度国公私立大学入学者選抜実施状況の概要, 平成 20(2008) 年 9 月 26 日文部科学省報道発表資料. 5 ) ここで分類できなかった大学は, ホームページに入試科目の情報が記載されていない, もしくは一般入試や推薦入試の募集人員の情報が記載されていないものであった. 6 ) 椎名久美子 當山明華 デメジャン アドレット 木村拓也 吉村宰 倉元直樹 金澤悠介 (2010). 個 26

別大学のアドミッションセンターで入試研究を行う上での問題点の認識及び解決策の共有化について (2) - 平成 20~21 年度 個別大学アドミッションセンター教員を中心とする大学入試研究会 発表要旨集, 39, 大学入試センター研究紀要, 印刷中. 付記本研究は, 東北大学高等教育開発推進センター長裁量経費 平成 21 年度高等教育の開発推進に関する調査 研究経費 の助成を受けた 看護専門職業人養成のための入試設計の研究 ( 研究代表者倉元直樹 ) に基づく研究成果である. 27

論 文 大学教員のキャリア ステージと能力開発の課題 広島大学教員調査と東北大学教員調査から 石井美和 1 )* 1 ) 東北大学大学院教育学研究科博士課程後期 1. 問題の所在と本稿の課題 (1)FD をめぐる状況と研究動向大学教員の養成は主に大学院博士課程で行われ, 学位はその資格証明とも言われる. しかし, 学位は研究能力を証明するものであり, 大学院博士課程で行われるのは主に研究能力に関する教育 訓練である. さらに現在では, 大学院修了後すぐに大学教員として入職する者は少数に留まっている. 平成 19 年度学校教員統計調査によると, 大学院修了直後に大学教員となる者は全体の10% に過ぎず, 民間企業 官庁 研究所などを経て, 教育経験を持たずに大学教員となる者は40% を越える. この数字が示すように, 大学教員は多様なキャリアを持つ人材によって構成されているだけでなく, 教育に関わるトレーニングを受ける機会は制度的に保障されていない状況であり, 入職してからの現職教育であるFDが重視されているのである. そのため, 日本のFDは教育に限定した能力 資質の向上として受け止められがちである. 大学教員の教育能力改善に特化してFDをとらえる傾向は, 大学審答申などの政策文書に見られるFDの定義にも顕著に現れている. 大学設置基準でのFDの努力義務化をもたらした1998 年の大学審答申 21 世紀の大学像と今後の改革方針について では 個々の教員の教育内容 方法の改善のため, 全学的にあるいは学部 学科全体で, それぞれの大学等の理念 目標や教育内容 方法についての組織的な研究 研修 としてFDの実施を推奨し,2008 年に改正された大学設置基準では 当該大学の授業の内容及び方法の改善を図 るための組織的な研修及び研究 としてFDを定義しており,FDを教育活動, 特に授業内容や方法についての研究や研修として捉えていることがわかる. 授業改善に特化したFDの政策上の定義は, 大学におけるFDの実践や研究に少なからず影響を与えていると考えられるが, 近年の高等教育研究ではこのように教育活動に限定したFDの定義は狭義の定義の仕方であり, 日本独自のFD 認識として批判的に捉える動きがみられる. 東北大学高等教育開発推進センター編 (2007) は,FDはその字義からすれば 教授集団の資質開発 として捉えるべき概念であり, 欧米では多様な活動を指して用いられているのに対して, 日本においてはファカルティの語に引きずられて教育活動に限定して用いられていることを指摘している. 周知のように, 大学教員の役割は教育のみに集約される訳ではなく, 一般的に, 教育 研究 管理運営 社会サービスの 4 つの側面を持つと言われているが, その内実が十分解明されたとは言えず, 大学教員の役割論は流動的な状態である. このような状態においては,FD の実践や開発を進めると同時に,FD 活動が目指すべき大学教員の資質とはどのようなものであるのか, 大学教員の能力や役割の構造を把握する研究が不可欠であると考えられる. 例えば, 大学教員の役割である教育 研究 管理運営 社会サービスの 4 つの側面に対して, 全ての教員が同じバランスで労力を振り分けているとは考えにくく, 他の役割との関係においても教育役割の位置づけや内容も異なってくるはずである. *) 連絡先 : 980-8576 宮城県仙台市青葉区川内 27-1 東北大学教育学研究科 a6pd1201@mail.tains.tohoku.ac.jp 29

諸外国においては, 少なからぬ大学教員の役割や能力の構造に関する研究がある. とりわけ重要なのは, キャリア ステージの視点である.Fulton & Trow (1974) は, 全国規模の調査から年齢 職階が変化することにより大学教員の役割認識や価値観, 関心の所在が変化することを明らかにし, 年齢の増加に従い研究から教育へと関心が移っていくことを指摘した. より具体的な指標としては, 教員の時間配分や研究業績 (Pelz & Andrews 1976, Blackburn, Behmer & Hall 1978, Bayer & Dutton 1977, Blackburn & Havighurst 1979) が採用され, 年齢や職階によって研究 教育や管理運営, 社会サービスのバランスは異なり, 大学教員のライフコースはいくつかのキャリア ステージを形成していると考えられている (Baldwin & Blackburn 1981). これらの研究の蓄積により, アメリカの大学教員のキャリア研究では, キャリア ステージは新任 初期キャリア教員 (Early-career), 中堅教員 (Mid career), 上級教員 (Late-career) の 3 段階に分けて捉えられるのが一般的になっている. 近年では, 大学教員の役割変化という現象面だけでなく, 個人の生涯発達モデル, 社会化モデルを援用したライフコースの視点 (Lawrence & Blackburn 1988) や個人的なライフイベントや環境要因など, 多様な要因の影響 (Hagedone 2000) が強調され, これらが総合的に関連しあって個々の大学教員のキャリアが形成 発達していくと考えられており, そのプロセスやステージのあり方は複雑なものとして捉えられている. そこでむしろ重要視されているのは, 個々の大学教員によって多様で複雑なものと考えられるキャリア発達の過程を詳細に記述することに留まるのではなく, それぞれのキャリア ステージに特有の課題を明らかにし, 組織的なFD 活動へとつなげていくという, キャリア ステージの必要性に応じた専門性成長の視点である (Gappa, Austin & Trice 2007). このような視点に基づき, テニュア取得までの初期キャリア (Adoms & Rytmester 2001), テニュア取得後退職までの中期キャリアを対象にした研究が行われており (Baldwin, DeZure, Ally & Moreto 2008), 大学のプログラムも新任 初期キャリア教員 (Early-career), 中堅教員 (Mid career), 上級教員 (Late-career), 女性教員など多様な背景とキャリアを持つ教員ごとの課題に対応した内容になっている. たとえば, ミネソタ大学の公衆衛生大学院のFD 計画は, 教員を講師から名誉教授まで 5 段階に区分し, それぞれの段階の目標を設定してフォーラムやメンタリング, ワークショップを開催している (Garrard 2006). このように, 大学教員の役割や能力の構造に関する研究においては, 年齢やキャリア ステージの違いによる変化が重要視され, さらに各大学の組織目標や理念と結びつけたキャリア開発が課題とされている. しかし, 欧米特にアメリカの大学教員の初期キャリアは, テニュア獲得までの時期が想定され, そのための支援策が中心であり, 中堅教員に対しては, テニュア取得後のモチベーション維持や新たな目標設定が FDの目標になるなど, キャリア発達は職階 昇進体系によって作られる面があり, 日本の大学教員にそのまま適用できない. そこで日本の現状を振り返ると, 現在の大学教員論はキャリア ステージの視点が欠落するか, 甚だしく弱いのが現状である. 研究者に関しては, 大学院や流動研究員制度などのポスドク制度の有効性を検討するライフサイクル研究が行われており, 未来工学研究所 (1998) や, 科学技術政策研究所 (2000) が, 大規模な調査に基づく研究を行っている. また, 特に理系研究者において少数派の立場に置かれてきた女性研究者を対象とした研究として, 坂東 (1981), 塩田 猿橋 (1984), 原 (1999) があり, 大学教員に特化したライフサイクルについては,IDE 東北支部 (2007) などの先駆的な取り組みが見られるものの, 実証的な調査研究はほとんど見られない. (2) 本稿の課題大学教員の能力開発を大学教育の改善へとつなげていくためには, 教員の意識改革や実践経験に基づく交流にとどまらず, 大学教員の役割や能力の構造とその形成過程を含む多様なレベルの研究が必要であり, それらの研究成果と大学の組織的 人事的戦略とを結びつけていくことが重要であるが, 日本においてはこのような観点からのFD 研究はほとんど行われていない 30

のが現状である. すなわち, 有効なFD 活動を進めるためには,1 教員の教育能力の構造,2 教育能力の発達プロセスとキャリア ステージの解明,3キャリア ステージに対応したFD 政策 プログラムの開発 実施とそれぞれの有効性の検証,4 組織目標とキャリア ステージに調和する人事政策の検討が求められる. 本報告では, これらの点について, 過去に行われた大規模研究大学の教員調査の二次分析と, 研究大学の教員調査をもとに, これらの課題を掘り下げ, 仮説的にキャリア ステージ論と人事政策の在り方,FDプログラムの在り方を論じることを目的とする 1. (3) 使用するデータ大学教員のキャリア ステージのあり方と能力開発の課題, この 2 つの課題に対応した調査は, これまで行われていない. そこで本論文では, これらの課題を考察するために主に 2 種類のデータを利用する. まず,1 教員の能力構造を明らかにし,2 キャリア ステージを解明するために,1999 年 10 月に広島大学教員調査 ( 教員組織及び教育研究の活性化に関する教員調査, 調査対象 ; 全教員及び教務員 1,781 人, 回収率 ; 69.5%,1999 年 10 月実施 ) を利用する 2. この調査では, 大学教員の教育能力の要素を尋ねる調査項目と, 教育能力の獲得時期を問う項目が設定されており, 教員の考える教育能力の構造化が可能であると考えられる. この調査をもとに, 大学教員の能力構造の変化に基づくキャリア ステージの枠組みを設定する. 次に,3 各ステージに応じたFD 開発の課題や人事政策のあり方を考察するために, 東北大学教員の能力開発支援ニーズに関する調査 ( 調査対象 ; 全教員 ; 回収数 868 人, 回収率 32.8%,2008 年 1 月実施 ) を利用する. また, 東北大学教員のFDに関する意識調査 ( 調査対象 ; 講師以上の全教員 ; 回収数 833 人, 回収率 ; 51.5%,2007 年 1 月実施 ) も一部利用する. なお, 広島大学の教員調査は, 実施から10 年あまりが経過しており, 大学を取り巻く社会環境の変化から現在の大学教員の意識に変化が生じている可能性は否定できない. また, この調査の分析結果を東北大学の教員調査に適応する際には, 機関ごとの特質を考慮する必要があるが, 研究大学を対象としているという共通性もあ り, 研究能力を含めた大学教員の教育能力の構造を質問項目に含む数少ない調査であることから利用することとした. 2. 広島大学調査に基づくキャリア ステージの分析 (1) 大学教員の能力の構造大学教員は自らに必要とされる教育能力をどのようにとらえているのだろうか. 大学教員の教育能力の向上を図るためには, どのような能力が必要とされているのか, またその能力がどのように形成されるのかを明らかにする必要がある. そこでまず, 広島大学調査に基づき, 大学教員の教育能力の構造を考察する. 大学教育の目標は各教育段階によって異なる. また, 教員の考える教育能力は教員の年代や職階によって異なると同時に教員のキャリアによっても規定されていると予測される. そこで, 教養的教育 専門的教育 大学院教育 の各段階について, 重要だと考える教育能力を職階別にプロットしたのが以下の図である. 図 1 ~ 3 が示すように, 教員の考える教育能力は教育段階ごとに大きく異なる構造を示している. 図 1 の教養的教育では, 分かりやすい授業を行う能力を中心として幅広い教養的知識と学生の意欲を引き出す指導力が重視されているが, 図 2 専門的教育では, 第一に専門分野の幅広い知識が必要とされ, さらに学生の意欲を引き出すことにより, 専門的知識を学生に分かりやすく伝えることが専門的教育の能力として認識されているようである. 図 3 大学院教育になると, 最先端の研究能力と専門分野の幅広い知識が高く評価され, 教養や分かりやすい授業は重視されない傾向にあり, 教育段階によって重視される能力の構造は大きく異なっていることがわかる. 一方, 職階別に見ると各段階ともに同様の構造を示しており, 教員の考える教育能力に職階による差はほとんど見られない. 大学教員が想定する教育能力の構造は, 教育段階によって強く規定されている反面, 職階による役割意識は薄く, 共通したものとしてとらえられているようである. 大学教員が想定する教育能力のイメージは職階などの属性を超え, 大学教員全体に共有される規範的なものとして確立していると考えられる 3. 31

外国語の能力 情報機器を扱う能力 学生の意欲を引き出す指導力 図 1 外国語の能力 情報機器を扱う能力 学生の意欲を引き出す指導力 情報機器を扱う能力 教授助教授講師助手 図 2 最先端の研究能力 80.0% 60.0% 40.0% 20.0% 0.0% 学生を集団として指導する能力 教養教育の能力 最先端の研究能 力 100.0% 80.0% 60.0% 40.0% 20.0% 0.0% 学生を集団として指導する能力 専門教育の能力 専門分野の幅広い知識 幅広い教養 分かりやすい講義 教授助教授講師助手 図 3 最先端の研究能力 100.0% 80.0% 60.0% 40.0% 20.0% 0.0% 大学院教育の能力 専門分野の幅広い知識 幅広い教養 分かりやすい講義 教授助教授講師助手 外国語の能力 学生の意欲を引き出す指導力 学生を集団として指導する能力 専門分野の幅広い知識 幅広い教養 分かりやすい講義 (2) 教育能力を獲得する時期教育能力の構造を属性別に分析した結果, 教育能力は属性に関わらず, 大学教員全体に共通するものとしてイメージされていることが明らかになった. では, 個々の大学教員は教育能力をいつ, どのような要因によって身につけ, 一人前 の教育能力を獲得したと感じるようになるのだろうか. また, この教育能力獲得のプロセスには, 属性やキャリアの違いによる影響はないのだろうか. 広島大学教員調査では, 教授の66%, 助教授の 48%, 講師の41% が教育能力を 十分備えている か 大体備えている と回答し, 獲得時期は平均して 37.3 歳, 教員経験 8 年目の時期である. また, 教員経験 11 年,40 歳までに80% の教員が教育能力を獲得したと回答している. 教員に必要とされる教育能力は教員全体に共通して確立しているが, その教育能力を獲得するまでには,10 年程度の時間が必要とされているようである. しかし, この数字はあくまで平均であり, 教育能力の獲得に至るプロセスや要因は教員の属性やキャリアなど様々な要素の影響を受けると考えられる. そこで, 教育能力の獲得時期が属性によってどのように異なるのか, その差異を検討した.1 性差,2 職階,3 高等教育機関以外のキャリアの有無 ( 高等教育機関のキャリアのみの場合を 内部キャリア, 高等教育機関以外のキャリアを持つ場合を 外部キャリア とした ),4 キャリアの種類,5 専門領域,5 文系 理系の 5 つの属性別に, 教育能力を獲得した年齢 経験年数の平均値を比較した結果が表 1 である. 属性ごとに一元配置分散分析により平均値の比較を行った結果, 年齢, 教員経験年数ともに有意差が認められたのは, 有意確率 1 % 以下で職階, 有意確率 10% 以下で高等教育機関以外のキャリアの有無の 2 項目であった. 年齢のみで有意差が見られたのは, 専門分野であり, 有意確率 5 % であった. 教員経験年数のみで有意差が見られたのは, 高等教育機関以外でのキャリアの種類であり, 有意確率は 5 % であった. また, 性別では年齢, 教員経験年数ともに有意差が見られなかった. 高等教育機関以外のキャリアの有無に関しては, 外部キャリアと内部キャリアを比較すると, 外部キャリアはやや年齢が高いが教員経験年数は短く, 一方, 内 32

性別職階専門分野キャリアの種類男教助講助文理キャリ外キャリ内研究機民間学校病女教授授師手系系部部性別職階専門分野キャリアの種類男教助講助文理キャリ外キャリ内研究機民間学校病女教授授師手系系部部表 1 教育能力を獲得した年齢 教員経験年数の平均値 ( 広島大学調査 ) アア関企業教員院年齢 ( 平均値 ) 37.2 38.8 39.6 35.5 34.8 32.5 38.2 36.8 38.4 36.6 38.6 39.9 37.5 36.3 F 値 =2.128 p=n. s. F 値 =39.002,p<0.001 F 値 =3.641 p<0.05 F 値 =9.914 p<0.01 F 値 =2.107, p=n. s. アア関企業教員院教員経験年数 ( 平均値 ) 7.9 7.4 10.2 6.0 5.2 3.7 8.1 7.6 6.5 8.5 5.6 7.3 8.8 5.1 F 値 =0.285 p=n. s. p: 有意確率 n.s: 有意差なし F 値 =43.105, p<0.001 F 値 =0.502 P=n. s. F 値 =12.877 p<0.01 F 値 =1.216, p<0.05 部キャリアは, 年齢は低いが教員経験年数は短い時間でアイデンティティを達成している. このことは, 教育能力を構成する要素が入職以前の職場において発達し, 教育能力に転移しているか, もしくは30 代後半という生活年齢がアイデンティティの達成に寄与していると推測される. (3) 教育能力の獲得要因それでは, 教育能力の獲得の要因となっているのはどのような経験なのだろうか. また, 教育能力を獲得する時期によってその要因はどのように異なるのだろうか. 表 2 は, 教育能力を獲得した年齢を35 歳以下, 36~45 歳,46 歳以上の 3 つに分け, 教育能力の獲得にどのような経験が寄与したと考えているかを比較したものである. 表 3 が示すように, 教育能力の獲得要因として, 日常的な講義の積み重ね, 研究の積み重ね, 実験 論文指導などの日常的な教育研究活動が高く評価されている. その一方で,FD 活動に対する評価は低い割合にとどまっているが,1991 年という調査の実施時期を考えると,FD 活動が十分に浸透していなかった可能性が高く,FD 活動の認知や経験が少ないことが背景にあると考えられる. 教育能力を獲得した年齢別の特徴を見ると,46 歳以 上で獲得した教員は, 最も高い割合を示しているのが, 研究の積み重ねの項目 (62.5%) であり, 他の年齢区分に比べても高い割合となっている. 続いて講義の積み重ね, 実験 論文指導, 内地 外地留学, 外部の研究会 学会が43.8% と同じ割合となっており, 内地 外地留学, 外部の研究会 学会は, 他の年齢区分と比較して10% 程度高い割合となっている.35 歳以下で教育能力を獲得した教員は,36 歳以上で獲得した教員に比べ, 学部 大学院教育の評価する割合が高いのが特徴である. 以上から描かれる大学教員のキャリア ステージの特徴として, 以下の点があげられる. 大学教員は, 教育経験と生活年齢の上昇に伴って漸進的に教育能力を形成していると考えられ,40 歳前後で教育能力を獲得したという認識に至る. また, そこで想定される教育能力は職階, 年齢を超えて一定の構造を示しており, 規範的に確立した大学教員像へ近づいていく直線的なプロセスとして捉えられる. すなわち, キャリア ステージは存在しているものの, ステージ移行の節目が不明確であり, いわば 通過儀礼 が存在しない連続的なプロセスとなっていると言うことができよう. アメリカの大学教員のキャリア ステージ研究では, テニュア獲得が大きな節目と 33