特産種苗 第16号 ߆ࠄ ߒߚᣂߒ 図-4 ストロンを抑制しない場合の株の様子 図-3のカンゾウはモンゴル由来の種子から育苗 した苗を移植し 露地圃場で6ヶ月栽培した株で あり 収穫時 根の生重量は490g であった ストロンを抑制しない場合の生育の例を図-4に 図-2 筒側面に沿って生長したストロ

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特産種苗 第16号 特集 地域における特徴的な取り組み 地方自治体と連携した甘草栽培プロジェクト 株式会社新日本医薬 岩国本郷研究所 新日本製薬株式会社 1 はじめに 開発事業室 吉岡 長根 達文 寿陽 全国の自治体と連携し カンゾウ実用栽培試験を 重要生薬甘草の基原植物であるウラルカンゾウ 開始した Fisher 及びスペインカン ゾウ Linne はマメ科の薬用植物であ 2 ストロン抑制短筒栽培法 り 根及びストロン 走出枝 が生薬として利用 マメ科の多年草であるウラルカンゾウは 中央 され その主活性成分はトリテルペン配糖体のグ アジアから中国西北部 モンゴル 中国東北部の リチルリチン酸である ウラルカンゾウは主に漢方 乾燥地帯に分布する 一方 スペインカンゾウは 薬向けに使用され 漢方処方の約70% に配合され ヨーロッパからトルコ ロシア 中央アジア 中 ており 日本薬局方ではグリチルリチン酸を2.5% 国西北部の乾燥地帯に分布する これらの地上部 以上含む事が規定されている また スペインカン は50cm 2 m 程度に生育し 根は1 m 2 m ゾウは 医薬品 肝臓疾患改善薬 化粧品 甘味 時には水を求めて10m 程度まで伸張する 又 根 料 矯味料として甘草抽出物が利用されている 頭部から水平方向にストロンが生育し 株の周辺 日本ではこれらのほぼ全量を輸入に頼っており そ に新しい株を形成する 通常の生育ではこのスト の主な供給元は中国である 近年 甘草資源の枯 ロンの生長が優先され 周辺にカンゾウの株が増 渇や品質の低下などが危惧される状況の中 甘草 殖するが 利用可能な大きさに根が肥大するには の安定供給に向けた対策が必要であると考えられ 5年以上の期間が必要だと言われている 岩国本 るようになった 特に 2000年6月に 中国政府か 郷研究所ではこのストロンの生長を抑制すること ら草原資源の生態環境の保護と砂漠化防止のた により 根の生長が優先され 根が2年間の栽培 め 野生カンゾウの乱採取や自由な販売を禁止す で利用可能な大きさに生育する方法を開発した る通知が出され 国内での栽培が急務であると考 その模式図を図-1に示す えられるようになった 新日本製薬グループ 新 日本医薬岩国本郷研究所では2007年から長い筒を 利用した筒栽培と呼ばれる栽培法を用いて カン ゾウの栽培研究を行ってきた この栽培方法によ り カンゾウの根が2年間の栽培期間で十分な大 きさに生長し グリチルリチン酸含量も日本薬局方 の基準に適合する事を確認する事ができたが こ の方法はコスト高の方法であり よりコストダウン した栽培方法の必要性から ストロン抑制短筒栽 培法を開発し 2011年2月にカンゾウ属植物の栽 培方法として2件の特許出願を行なった 特開2012-170343 特開2012-170344 この新規な栽培方法を用いて 2011年3月より 117 図-1 ストロン抑制栽培法模式図

特産種苗 第16号 ߆ࠄ ߒߚᣂߒ 図-4 ストロンを抑制しない場合の株の様子 図-3のカンゾウはモンゴル由来の種子から育苗 した苗を移植し 露地圃場で6ヶ月栽培した株で あり 収穫時 根の生重量は490g であった ストロンを抑制しない場合の生育の例を図-4に 図-2 筒側面に沿って生長したストロン 示す 3 各自治体での試験栽培状況 2011年春より 青森県新郷村 宮城県岩沼市 新 潟県胎内市 島根県奥出雲町 熊本県湯前町 熊 本県合志市 熊本県人吉市でストロン抑制短筒栽 培法を用いて栽培試験を開始した 宮城県岩沼市 での栽培は NPO 法人 薬用植物普及協会みやぎ が中心となり 震災における津波被災地での栽培に 取り組んでいる 各栽培地へは2011年春 セルトレ イ苗を送り 現地で短筒代用品として12cm ポリポッ トへ移植を行なった その後1ヶ月程度水遣り管理 をしながら育苗し 畝立てマルチ張りした露地圃場 へ ポットのまま定植を実施した 試験圃場は多く の地区で耕作放棄地の対策を考慮し 荒廃した農 図-3 地を草刈り 耕起し復元した後 より野生に近い栽 栽培期間6ヶ月のカンゾウ根 培条件を考慮し 無施肥にて試験を開始した 熊 カンゾウ苗を 培土を充填した底面に数個の孔 本県湯前町の例を図-5に示す 写真手前側の復元 がある短い筒状の容器に移植し 露地の畝立てし した農地でカンゾウを栽培している 写真奥側の農 た圃場に 筒のまま定植する ストロンは水平方 地は草が繁茂し荒廃したままである 向に生育する為 短筒の側面に沿って生育し 筒 提供したスペインカンゾウ苗 ウラルカンゾウ苗 外に伸長する事が出来ない為生育を抑制され そ は 種子由来 ストロン由来 培養苗などであるが の結果根の生育が優先されるようになる ストロ 全地区において 同一品種のクローン苗の栽培も ンの生育の様子を図-2に示す 試みた 北から南の気候や土壌条件の異なる圃場 根は垂直方向に生育する為 筒底の孔から筒外 において 同一品種を栽培し 岩国栽培品との比 へ伸張し肥大する これにより 通常の栽培では 較を行うとともに栽培の可能性を検証した この 5年以上の期間が必要であったカンゾウの栽培期 結果 各地で生育状況等の差異が生じたが 全国 間を2年に短縮する事が可能となった この栽培 の栽培で明らかになった問題点を改善する事によ 方法により生育したカンゾウ根を図-3に示す り ほぼ全国で実用栽培が可能であるとの確信を 118