ヨーロッパの木質バイオマス熱政策と日本の課題 NPO 法人バイオマス産業社会ネットワークシンポジウム 今 木質バイオマスのエネルギー利用促進に必要な方策とは 2017 年 5 月 12 日 バイオマスアグリゲーション久木裕
2 講演の流れ 木質バイオマスのメインは 熱利用 欧州の木質バイオマス熱政策の実態 日本の木質バイオマス熱電併給 熱利用の課題
3 木質バイオマスのメインは 熱利用 国内では FIT 施行以降 木質バイオマス発電が急速に普及 しかしながらエネルギー効率 資源の有効活用 気候変動対策 エネルギーコストの面からも木質バイオマスは電気よりも熱利用を優先して考えていくべき 発電の場合 木質バイオマスの持つエネルギーの 2 3 割しか利用できないが 熱利用の場合は 9 割のエネルギーが利用可能 限られた資源をエネルギーとして有効に活用するには熱の方が有利 エネルギー効率が高い分 CO2 排出削減効果も高い 石油由来の熱利用の代替の場合はその効果はさらに大きい 発電の場合は化石燃料 他の再生可能エネルギーと比較したコスト優位性が得られにくいが 熱利用の場合はコスト優位性が高い
4 EU における最終エネルギー消費 (2015 年 ) 出典 : 欧州委員会 Renewable Energy Progress Report
EU における再エネ種別熱 電力消費 (2015 年 ) ( 再エネ熱利用 ) ( 再エネ電力利用 ) 出典 : 欧州委員会 Renewable Energy Progress Report 5
6 低コスト化が進む世界の再生可能エネルギー電力価格 出典 : 自然エネルギー財団 国際シンポジウム Revision 2017 ドイツ アゴラエナギーヴェンデ Pescia 氏講演資料
木質バイオマス発電の買取価格 ドイツでは FIT により技術も発展し 一定の普及の成果もあり FIT の買取価格は当初よりも下がってきたが 太陽光 風力と比較するとコスト的には割高 日本ではまだまだ手厚い支援がないとコスト的に厳しい 出典 : FIT による木質バイオマス発電 ~ 見えてきた課題 ~ 筑波大学名誉教授熊崎実氏資料 出典 : 第 28 回調達価格等算定委員会資料 7
バイオマス熱利用はコスト的にも有利 FIT 程の手厚い支援がない中でもバイオマスボイラは世界で普及 設備費の割高な日本国内でも バイオマスボイラの導入によりエネルギーコスト低減などコストメリットを得られている事例は多々ある イギリスの RHI 等をみても バイオマス熱に対する支援額は他の再エネ熱よりも安い ( それでも十分普及してきた ) 8
欧州諸国の木質バイオマス熱エネルギー政策 イギリス ドイツ 欧州で初めて電力の自由化を実現し ROCs(Renewable Obligation Certificates) を利用し 大型の石炭火力発電所での木質バイオマスの混焼が盛んに行われる ( 燃料は多くが輸入ペレット ) 一方で 2011 年より RHI (Renewable Heat Incentive) を導入し 再生可能エネルギー熱利用に対する支援を行い 家庭 非家庭における木質バイオマスボイラの普及が急速に進んだ 2009 年施行された EEwärmeG( 再生可能エネルギー熱法 ) により 一定規模以上の新築の建物への再生可能エネルギーの利用を義務化し バイオマスボイラ 及び地域熱供給を通じたバイオマス熱利用の普及を後押し 2000 年より EEG( 再生可能エネルギー法 ) に基づく FIT による木質バイオマス電力の買取がスタート 制度設計を見直していく中で 熱電併給に対する支援を拡充し 中小規模の熱電併給施設の普及に成功 KWKG(CHP 法 ) においても木質バイオマスの熱電併給を支援し 売電だけでなく自家発の取組に対しても支援を行い 普及を後押し 9
イギリスの再エネ熱政策 (RHI) イギリスは再生可能エネルギー熱利用を促進するため RHI(Renewable Heat Incentive) を導入 バイオマス バイオガス 太陽熱 地熱 ヒートポンプを対象に再エネ熱利用事業者に熱利用量 ( 供給量 ) に応じた補助を支払う制度 固形バイオマスは家庭用 非家庭用で規模別に支払額が決められており 支援期間はそれぞれ 7 年間 20 年間とされている 補助額は四半期ごとに見直しされる 表 RHI による産業用のバイオマス熱エネルギーの補助額 (2017 年 4 月 1 日 ~) 出典 : イギリス政府 Ofgem HP 10
11 RHI の買取価格と導入数推移 ( 家庭用 ) バイオマスボイラ ストーブ 出典 : イギリス政府 Ofgem HP
12 RHI の買取価格と導入数推移 ( 非家庭用 ) p/kwh 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 導入件数 ( 累計 ) 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 100 p/kwh 小型商業用バイオマス 200kWth 未満 Tier1 中規模商業用バイオマス 200kW 以上 1MWth 未満 Tier1 大規模商業用バイオマス 1MWth 以上 小型商業用バイオマス 大規模商業用バイオマス 小型商業用バイオマス 200kWth 未満 Tier2 中規模商業用バイオマス 200kWth 以上 1MWth 未満 Tier2 固体バイオマス CHP システム 中規模商業用バイオマス 固体バイオマス CHP システム 全容量 資料 : イギリス政府 Ofgem 資料を基にバイオマスアグリゲーション作成
13 RHI におけるきめ細かな政策誘導 RHI が設備導入のインセンティブとして機能して バイオマス熱利用の普及を後押し 4 半期ごとに見直し あらかじめ定められた支出しきい額を超えた場合には その区分の補助単価を下げることとしている それによって各エネルギー種の適切な普及をコントロール 買取価格の利幅が大きかったことや 元々他の方式と比べて設備導入がしやすいことが原因で 固形バイオマス由来の熱エネルギーの導入が急速に進み 固形バイオマスの買取価格を抑える方向で調整することとなった
14 ドイツの再生可能エネルギー熱利用量推移 ドイツでは 2000 年以前より補助制度が機能し バイオマス熱エネルギーの利用が進んでいる 2009 年から固形バイオマスの量がさらに増加し バイオマスによる地域熱供給も増加傾向にある (ktoe/year) 出典 : ドイツ連邦政府資料より
ドイツの EEwärmeG による熱利用の推進 ドイツでは 1999 年から建物に設置する再生可能熱エネルギー設備に対する導入補助制度や長期低利融資制度があり バイオマスボイラの普及を促進 2009 年施行された EEwärmeG( 再生可能エネルギー熱法 ) では 一定規模以上の新築の建物への再生可能エネルギーの利用を義務化 出典 : コジェネ財団 HP より 15
16 ドイツの EEG による熱電併給の推進 ドイツでは EEG 法 ( 再生可能エネルギー法 ) による中小規模熱電併給に対する政策的後押しもあり ORC システム ガス化発電システムが普及した 2004 年の EEG 法の改正により 小規模 熱電併給へのボーナスが拡大し 技術によるボーナスも追加された 蒸気タービン ORC ガス化 表ドイツ EEG 法におけるバイオマス発電の買取条件 ( ユーロセント /kwh) 出典 : 筑波大学名誉教授熊崎実氏講演資料 図ドイツのバイオマス発電の技術別導入数出典 :DBFZ 資料
KWKG(CHP 法 ) による熱電併給の支援 ドイツでは 2002 年に制定された KWKG(CHP 法 ) によるコジェネ事業の支援があり 天然ガスコジェネなどと合わせてバイオマスもその対象として支援されている ネットワーク事業者に対して 高効率 CHP からの電力に対する割増料金付与を義務づけ 買取対象の年間の上限時間が設定されている 系統での売電と自家消費でそれぞれ異なる単価が設定されている KWK (CHP) supplement(2016.1.1 改定 ) Electrical power Cent/kWh (Feed in) Cent/kWh (Onsite consumtion) Duration Up to 50 kw 8.0 4.0 60,000 Vbh 50 kw 100 kw 6.0 3.0 30,000 Vbh 100 kw 250 kw 5.0-30,000 Vbh 250 kw 2 MW 4.4-30,000 Vbh Higher than 2 MW 3.1-30,000 Vbh 出典 :C.A.R.M.E.N. 資料 17
Revenue (ct/kwh) EEG と KWKG 経済メリット比較 バイオマス熱電併給事業の場合 EEG と KWKG のいずれかの活用が選択可能 2016 年の条件下では 自家消費率が 30% を超えると EEG よりも KWKG を利用する方がメリットがある Expected useful life: 10 years Full load hours: 6000 h/ year Own consumption rate (%) 出典 :C.A.R.M.E.N. 資料 18
KWKG の制度設計の変遷 2002 年に制定されたKWKGは2009 年に2MW 以上の設備 また自家発も対象にするなど 適用範囲が拡大された 2016 年の改定で 系統への売電を1~2.6セント /kwh 割増しし 自家消費が 100kW 以上は対象外となり それ以下も1~1.4セント /kwh 引き下げられている 買取条件が大幅に引き下げられたEEGの逃げ道となる側面も 2017 年からは出力 1MW~50MWの売電事業は入札への参加が義務付けられている 自営線による売電事業者も参加が義務付けられる可能性がある (cent/kwh) 系統電量に売電 自営線供給での売電 EEG の 100% 補助需給 自家消費 ( 新設 更新 ) 入札に参加 入札に参加の可能性あり ( 改良 ) 出典 :Deutsche Industrie- und Handelskammertag 資料を基に作成 19
熱需要をベースに考えた事業構築 日本の FIT 発電事業は系統連系 用水 燃料調達 周辺環境の条件で用地選定から入る 欧州の熱電併給は施設の計画段階から熱利用を中心に事業構築 ペレット工場 図 ORC(Turboden 社製 ) 導入施設の熱利用先の内訳出典 : 日刊工業新聞社 熱電併給システムではじめる木質バイオマスエネルギー発電 木材乾燥 地域熱供給 20
熱を中心としたオペレーション FIT 売電は通常 24 時間フル出力運転だが 熱電併給の場合は熱負荷に応じて出力調整することで限りある資源の有効活用 エネルギー効率の向上 条件によっては収益性の向上が期待できる 欧州の蒸気タービンや ORC による熱供給プラントでは 熱負荷に応じて出力調整されている例が多い ( 夏季は完全停止し 年間 6,000h 稼働の例も ) ( 万円 / 年 ) 40,000 37,346 万円 / 年 ORC 発電 (985kW) 収支構造比較 35,000 33,465 万円 / 年 30,000 25,000 11,930 万円 / 年 25,416 万円 / 年 12,368 万円 / 年 20,000 15,000 10,000 21,097 万円 / 年 ( 燃料消費量 ) フル出力 :20,000t/ 年出力調整 :15,000t/ 年 5,000 0 収入支出収入支出 ドイツ ( フル出力 ) ドイツ ( 出力制御 ) 売電売上売熱売上資本費燃料費人件費メンテナンス費電力代 データ : バイオマスアグリゲーション作成 ( 事業者ヒアリング情報を基に作成 ) 21
わが国の木質バイオマス用途別利用量 燃料消費量ベースであるが 欧州と比較すると熱中心となっていない日本の木質バイオマス利用 ( エネルギー量で発電のみ 熱利用のみが同量程度 ) FIT 以前の RPS 時代の熱電併給施設は比較的熱を重視した設計となっている 資料 : 林野庁 平成 27 年度木質バイオマス利用動向調査 を基に日本木質バイオマスエネルギー協会作成 22
FIT により木質バイオマスは発電ブーム 23
24 FIT 事業における熱電併給の実態 5MW 級から 110MW の大規模発電 新設の石炭火力発電所での混焼 PKS 輸入ペレット ( 大規模発電の熱利用の実態 ) 発電のみの事業がほとんど 熱を使うにも規模が大きすぎて それだけの熱利用集積のあるサイトへの発電所の設置も困難 実質的に量的に十分な熱利用は望めない 2MW 未満の小規模発電 小規模枠 40 円 /kwh の活用 ORC システム ガス化発電 ( 小規模発電の熱利用の実態 ) ガス化発電や ORC 等海外で熱電併給の実績ある技術を活用した計画が増えているが熱電併給の優良事例はほとんど見られない 蒸気利用中心のわが国で 80 ~ 90 の排熱利用の確保が困難 小規模事業では熱供給のインフラコストが事業費を圧迫 現状 FIT は木質バイオマス熱電併給の普及には結びついていない
木質バイオマス熱電併給 熱利用の課題 政策 政策ビジョン 政策誘導の欠如 RHI や義務化といった再エネ熱利用を強力に推す施策が未整備 FIT が熱電併給を推進する制度設計となっていない 公共事業としての熱導管の整備の必要性 市場 投資案件としての発電ブーム ( 事業者 燃料サプライヤーともに熱利用に目が向かない ) 補助金依存の市場が形成されてきた 導入コストが割高 ( 設備費 工事費 ) 経験が浅く スキルも低く 本来の性能を発揮できなかった ( 事業者 メーカー ) 低温熱利用のまとまった需要の確保が困難 情報 政策判断のための統計情報 技術情報 コストデータ等の科学的データの整備が不十分 事業者にとっての情報 ノウハウ スキルの獲得の場が不十分 25
政策ビジョンが重要 エネルギー 環境 経済 地域振興など多様な効果を創発するバイオマスだが 期待する効果を確実に発現させていくためには 将来に向けたビジョンを描くことが重要 そのうえで 実現に向けた政策シナリオ 制度設計を行い 実行段階では市場動向をみながら政策誘導 コントロールしていくことが重要 ( 何を達成するためにどういった燃料 規模 スタイルの事業をどのくらいどのように伸ばしていくのか ) ( ドイツの FIT は小規模の熱電併給を手厚く支援して 小規模の事業者の市場参入のチャンスを与え 分散型エネルギーの普及に成功 ) 26
Amount 普及の進む欧州でもその意義を見つめなおすタイミング ドイツでは EEG の 2014 年の法改正以降 FIT による優遇を抑制の方向に大きくシフト 2017 年からは完全な入札制度となり バイオマス業界にとっては非常に厳しい状況 2014 年以降は ORC は増えておらず ガス化の増加も数件程度 other Gas engine ORC turbine Steam turbine 出典 : DBFZ, Stromerzeugung aus Biomasse (Vorhaben IIa Biomasse) 03MAP250, Zwischenbericht Mai 2015 27
普及の進む欧州でもその意義を見つめなおすタイミング 業界としては環境 地域経済への効果に鑑み ロビー活動を展開 また木質バイオマスの特異性を生かした技術開発も進められている 写真 : トレファクションペレットによるマイクロガス化発電設備 (500W) 図バイオマス発電の設備容量の将来予測 出典 :DBFZ 資料 自家発電源用を想定 5 秒間の間に 20~100% の出力調整可 2025 年 ~30 年の実用化を目指し DBFZ が研究開発を進めている バイオマスエネルギーの特性や本質的な意義を踏まえて いかなる普及策を投じていくかは世界の共通課題 28
29 ビジョンを実現するために ビジョンの構築 共有 実現 地域のプレーヤーが活躍し メリットを得られるか 地域の資源が有効かつ持続可能な形で活用されるか エネルギー利用サイドで地域産業にメリットが生まれるか 周辺産業や地域環境に波及効果 好循環が生まれるか 地域の将来を見据えたビジョンであるか 関係者が共通認識をもつことができているか 実現のためのアクションプランを描き 実行できるか 実行 ファシリテート プロデューサー コーディネーターの存在 合意形成ツール 情報 データ整備 ビジョン策定の検討材料
データ整備拡充と公開 発信 欧州では 公的機関や専門機関 団体が多くの統計情報 データを整備し 広く公開している ( 事業者向け 政策立案時のバックデータなど ) 国内では統計データの整備も不十分 またデータの一元管理も求められる 技術 機器情報 導入ガイドブック 発電所の導入事例情報 発電所の稼働実績 コスト情報 燃料価格等の統計情報など オーストリアバイオマス協会ハンドブック 出典 :DBFZ レポート 30
31 専門機関によるサポート コーディネート 欧州では様々な組織 団体が事業者のサポートや地域のコーディネートを実施 ( 国の研究機関 州政府の研究機関 バイオマス協会 農業会議所 ) またそうした専門機関が事業者 地域をサポートする際のプログラムも多数存在し 活用されている エネルギー自治のサポートプログラムの例 : 欧州 e5 programme プログラムを活用し 国や州の専門機関等がコーディネーターを派遣し 地域のエネルギー政策の策定から実行までのマネジメント支援と実行チェックを行う 出典 :Salzburg Institute for regional planning and housing 資料より作成