地盤工学会北海道支部技術報告集第 5 5 号平成 27 年 1 月於室蘭市 玉石混じり砂礫における鋼矢板仮締切の計画と施工 株式会社大林組正会員 溝口晃一 同上 大里秀俊 同上 伊波宏樹 同上 山下和則 1. はじめに空知川頭首工は 石狩川水系である空知川の上流部に位置する基幹水利施設であり 富良野市 上富良野町および中富良野町に拓けた 4,530ha に用水を供給している しかし 昭和 32 年建設時の設計洪水量を超える洪水が近年発生しており 頭首工の倒壊による農業用水の供給停止および堤防決壊に伴う溢水による広域災害が懸念された このため 国営総合農地防災事業空知川地区にて 現頭首工の上流部に全可動堰の頭首工の建設が実施されている 本報文は 上流河川内にコンクリート構造物を構築するための 鋼矢板による仮締切の計画と施工に関して記述するものである 2. 工事概要 空知川頭首工新設工事における施工済みの土木工事の概要を表 -1 に示す 表 -1 工事全体の概要 工事名称 空知川農地防災事業空知川頭首工第一期 第二期建設工事 発注者 北海道開発局旭川開発建設部 施工者 第一期 : 株式会社大林組第二期 : 大林 宮坂特定建設工事共同企業体 施工場所 北海道富良野市字山部 工期 第一期 : 平成 21 年 12 月 25 日 ~ 平成 23 年 3 月 25 日第二期 : 平成 23 年 12 月 20 日 ~ 平成 26 年 5 月 30 日 工事内容 可動堰 3 径間 (1 径間 29m ゲート除く ) 導水路 300m 上下流護岸 護床 管理橋 写真 -1 工事全景 Design and construction of the cofferdam using steel sheet piles in the gravel ground Koichi MIZOGUCHI (Obayashi Corporation), Hidetoshi OZATO (Obayashi Corporation), Hiroki INAMI (Obayashi Corporation), Kazunori YAMASHITA (Obayashi Corporation) 45
3. 本工事の特徴と技術的課題本工事は 河口より約 200km に位置した上流河川内に コンクリート構造物を構築する工事である 最も深い構造物は河川水位より 7m 低い位置にあるため 河川からの水の流入を防ぎ 底面からの浸透水をポンプで常時排水しながら掘削し 施工範囲をドライに保ちながら躯体工を進めていく 仮締切は 水の流入を防ぎ 浸透水を遮水してポンプ排水を現実的なものとするために 掘削や躯体構築を行うために必要不可欠である また 仮締切の遮水性能に不足があれば施工範囲に水を抱えることにつながるため 掘削や躯体構築の品質を左右するとともに 安全管理上においても仮締切は 河川内工事において最も重要な工種である 着工当初に現地調査を行った結果 現地地盤で 30cm 超の玉石を多数確認し 粗粒主体の礫質土であることから 鋼矢板による仮締切の施工性と遮水性の検討を行った (1) 打設工法当初設計の鋼矢板打設工法であるウォータージェット併用バイブロハンマ工法 ( 写真 -2) は 鋼矢板先端部にウォータージェットカッターを取付け バイブロハンマで鋼矢板を打設する工法である 原理は 先端から噴出する高圧水により地盤中の間隙水圧を高め 土粒子を移動し易くすることで貫入抵抗力を低減し バイブロハンマで鋼矢板を打ち込んでいくものである 砂礫土への適用も可能とされているが 高圧水で排除不可能な大きさの玉石や転石がある場合には施工が困難となる 現場試掘結果から 30cm 超の玉石が確認されており ( 写真 -3) ウォータージェット併用バイブロハンマ工法では施工が困難と考えられた ウォータージェット 30cm 超玉石 写真 -2 ウォータージェット併用バイブロハンマ工法 写真 -3 30cm 超玉石確認状況 (2) 遮水性能鋼矢板の根入れ長は 当初 自立式鋼矢板 (FSPⅢ 型 ) として 河川水位および土のバランスにより設計されており 図 -1 に当初設計における仮締切構造の断面図を示す 現地地盤の粗粒主体の礫質土では 鋼矢板下部からの浸透水の影響が大きく 施工範囲となる仮締切内をドライに保つことはできず 構築する構造物の品質確保 増水時の安全確保が難しいと考えられた 図 -1 仮締切構造当初設計断面図 46
4. 解決策とその技術的根拠 (1) 打設工法変更のための工法比較や試験施工現地地盤における打設工法の問題点について 打設可能な工法への検討を行った 工法変更のために まず 表 -2 に示すように当初設計を含めた4 種類の工法について 比較検討を行った 現地地盤への適用性 経済性 工期に重点を置いて比較検討した結果 代替案 1の二軸同軸式アースオーガ先行削孔 +バイブロハンマ工法 ( 写真 -4,5) を採用候補とした さらに現地にて当初設計と代替案 1の工法で鋼矢板 (FSPⅢ 型 L=7.0m) を打設する試験施工を行った 当初設計工法では GL-1.5m で玉石と接触し 10 分間バイブロ運転しても貫入傾向が見られなかったため 打設不能と判断した この時の鋼矢板は 先端が裂け 折れ曲がっていた それに対して 代替案 1では先行削孔により 30cm 超の玉石を除去する状況が確認でき 鋼矢板もスムーズに打設できた 現地地盤への適用性が確認できたため 代替案 1の二軸同軸式アースオーガ先行削孔 +バイブロハンマ工法を採用することとなった なお 他の工法としてアースオーガ併用圧入工法や岩盤対応型圧入工法も考えられるが 当工事の工程上 複数台必要であり 筆者が過去に同種事例で鋼矢板の閉合不良を経験しているため 対象外とした 表 -2 鋼矢板打設工法の比較検討結果 当初設計代替案 1 代替案 2 代替案 3 ウォータージェット 二軸同軸式アースオーガ パーカッション掘削 アースオーガ先行削孔 比較項目 併用 先行削孔 による先行削孔 + バイブロハンマ工法 バイブロハンマ工法 + バイブロハンマ工法 + バイブロハンマ工法 特徴 ウォータージェットを取り付けた鋼矢板を バイブロハンマで打設する 互いに逆回転する外側のケーシングと内側のオーガスクリューで先行削孔するため 玉石の除去効果が高い 削孔速度が比較的早く 砂置換するので鋼矢板の打設精度が高い 掘削ずりの排出と 砂置換により工費は高い 玉石等がなければ岩盤にも適用できる 玉石に当たると オーガがずれてしまうため 玉石除去効果が低い 削孔仕様 現地地盤適用性施工速度 ( 岩塊 玉石 ) 施工不可 玉石の除去効果大 玉石除去効果小 施工不可 工事費 総合評価 削孔機 ケーシング 日本車輛 DH658 オーガスクリュー 写真 -4 二軸同軸式アースオーガ先行削孔 写真 -5 オーガスクリューとケーシング 47
(2) 遮水性能向上のための根入れ長検討や浸透流解析および試験施工 1 土質条件の見直しと鋼矢板根入れ長の検討当初設計鋼矢板における遮水性能の問題点について 解決のために変更提案を行うこととした 今回の検討のため 追加したボーリング調査と現場透水試験より 図 -2 に示すように 上部 ( 深度 14m まで ) には Dg1 層が分布しており 下部 ( 深度 14m 以降 ) には上部の Dg1 層に比べやや透水性が低いシルト質の砂が主体である Dg2 層が分布していることがわかった そこで Dg1 層に比べ遮水効果が見込める Dg2 層まで根入れ長を延長することを提案した 根入れ長の延長のほかに 上流側では地山部からの浸透流量の低減のために鋼矢板の追加を提案した 鋼矢板打設断面 図 -2 ボーリング調査による推定土層分布 2 浸透流解析の実施と現場試験施工による効果の確認変更提案の効果確認のため FEM による浸透流解析を実施した 浸透流解析においては 仮締切内外の地盤高さや盛土の有無により仮締切範囲を 7 タイプの断面モデルに分け 各断面について浸透流量を算出し それらを合算したものを締切内の浸透流量とした また 鋼矢板継手からの漏水量についても同様に各断面について計算した 解析の結果 全体の浸透流量は 914m3/hr( 浸透流量 700+ 継手漏水 214=914) となり 沈砂池放流能力 1,150m3/hr を満足するため この変更提案には効果があると判断し 発注者と変更協議を進めた また 現地において根入れ長延長による浸透流量の低減効果の確認を目的として試験施工を行った 試験施工では 当初設計および変更提案による根入れ長の鋼矢板を打設して試験ピット ( 写真 -6) をつくり 中を掘削して浸透流量のモニタリング ( 写真 -7) を実施した 試験施工によるモニタリング結果について表 -3 に示す 試験施工の結果より 変更案での根入れ長の増加に伴い浸透流量が半分程度に低減できることが確認できたことから 設計変更を認められた 変更内容について表 -4, 図 -3, 図 -4 に示す 表 -3 浸透流量確認のための試験施工と結果 比較項目 当初設計 変更案 鋼矢板仕様 FSPⅢ 型, 矢板長 7.0m, 根入れ長 0m FSPⅢ 型, 矢板長 14.5m, 根入れ長 7.5m 24 時間における水位上昇 3.00m 1.65m 24 時間での浸透流量 23.0m3 12.7m3 48
3.2m 2.4m 写真 -6 試験ピット全景 写真 -7 浸透流量確認状況 図 -3 鋼矢板変更比較平面図 鋼矢板全長 ( 当初 変更後 ) TYPE-1 TYPE-2 TYPE-3 TYPE-4 TYPE-5 TYPE-6 TYPE-7 7.0m 5.5m 5.5m 12.5m 5.5m 14.5m 設計無し 13.5m 設計無し 設計無し 根入れ長増加 0m 5.5m -1.5m 5.5m -1.5m 5.5m 5.5m 5.5m -1.5m 7.5m 無し 13.5m 変更なし 単位距離当たり浸透流量 0.73 0.73 2.57 2.68 2.48 2.09 7.74 (m3/hr/m) 打設延長 (m) 30.0m 56.4m 28.4m 46.2m 59.6m 65.2m 47.8m 浸透流量 (m3/hr) 全浸透流量 表 -4 鋼矢板の変更内容と浸透流量 22 41 73 124 148 136 370 2,500m 3 /hr 914 m 3 /hr 図 -4 変更比較断面図 (TYPE-5 断面 ) 49
5. 成果と変更提案による技術的総合評価鋼矢板打設工法の変更により 30cm 超の玉石を含む現地地盤において 打設不能には至らず 実施施工に支障をきたす問題は発生しなかった また 鋼矢板根入れ長の延長により 仮締切内の浸透流量は 事前解析と同程度の約 900m3/hr となり 仮締切内をドライな状態に保つことができ 躯体構築の品質向上に貢献した また ポンプの故障等で一時的に排水が止まった時の水位の上昇速度が抑えられ 施工時の安全も確保された 打設工法の変更 仮締切矢板長の変更による作業日数の比較を表 -5 に示す 実施作業においては 工程上のクリティカルパスとなる先行削孔作業を短縮するため 2 軸同軸式アースオーガを 3 台稼働させ また 作業時間を延長することにより当初の計画工期に対して短縮することができ 躯体工に必要な工期を確保することができた 表 -5 当初設計と変更後の作業日数 使用機材 比較項目当初設計変更後 作業日数 81 日 33 日 使用機材 ウォータージェット併用バイブロハンマ 1 台稼働 二軸同軸式アースオーガ 3 台稼働バイブロハンマ 1 台稼働 6. まとめ現在 標準積算基準において鋼矢板打設に関しては バイブロハンマ工とアースオーガ併用圧入工が標準工法として記載されており 機種判定は 最大 N 値により区分されている 当工事の当初設計もこの基準にもとづき行われており 基本設計としては 通常の手順で行われている しかし 当工事のようにボーリング調査では 判別不能な玉石等の障害物が存在するところでは 現場の位置や地形に応じて試掘等の詳細調査も非常に重要と考える 当工事では 試験施工を伴った工法検討および追加調査ボーリングによる地層判定にもとづく鋼矢板長さ決定と現場透水試験をもとにした 浸透流解析の流量予想が実際のポンプ排水量と同程度であったことも詳細検討自体の妥当性が評価されるものだと考える 今回の鋼矢板打設においては 玉石径および鋼矢板長さより先行削孔径がφ600 以上必要であったため ( 社 ) 日本建設機械施工協会発行の 大口径岩盤削孔工法の積算 をもとに工法比較選定を行い 二軸同軸式アースオーガによる先行削孔を採用した 当工事では 削孔後に砂置換することになっているが 試験施工の実績をもとに砂置換を行わず 原地盤をルーズにするための削孔のみ行い その後にバイブロハンマで鋼矢板を打設することに成功した ただし 砂置換を行わなかったことで バイブロ打設が困難なところを再度 先行削孔が必要となったことが 数か所あり 引き抜き後の鋼矢板の 5% 程度の先端が曲がり等の損傷を受けていた 当工事では 打設工法検討において 30cm 超の玉石混じり砂礫により当初設計のウォータージェット併用バイブロ工法の採用を見送ったが 同工法は 大量の汚濁水が発生するため 河川内工事においては その濁水対策を含めた検討も必要と思われる 一般的にコンクリート構造物を河川内で仮締切を行う時 構造物付近は 二重締切形式であるが 今回は 構造物と鋼矢板の接合部および構築側に大型土のうを配置すること等の多数の構造的および施工方法の工夫と河川水位や鋼矢板変位観測を常時行い 無事に工事完了した このことも含めて 本報告が 土木工事において本体構造物とともに仮設工事の重要性の喚起と同種工事の参考になれば幸いである 50