2013.4 CareNet Continuing Medical Education Copyright 2013CareNet,Inc. All rights reserved. こんなに変わった! 関節リウマチ診療 Rheumatoid arthritis 2 監修慶應義塾大学医学部リウマチ内科教授竹内勤先生
目次 1. 診療のパラダイムシフト 2. 診断と活動性評価 3. 治療の実際 4. 非専門医の役割とは? 本コンテンツは 関節リウマチ診療に非専門の先生方を対象に編集しております 1
関節リウマチの診断方法の変遷 従来 診断に使われてきた米国リウマチ学会分類基準 (1987 年 ) は 早期診断には不向きなため 米国リウマチ学会 / 欧州リウマチ学会が合同で新分類基準を発表 (2010 年 ) 2
従来使用されてきた ACR 分類基準 (1987 年 ) この基準では早期診断が難しい 1. 少なくとも 1 時間以上続く朝のこわばり ACR: 米国リウマチ学会 2. 同時に 14 の関節領域 ( 左右の PIP 関節 MCP 関節 手関節 肘関節 膝関節 足関節 MTP 関節 ) のうち少なくとも 3 ヵ所以上の領域で軟部組織の腫脹または関節液貯留 3. 手関節 MCP 関節 PIP 関節のうち少なくとも 1 ヵ所以上の腫脹 4. 同時に 2 で示した関節の対称性関節腫脹 (PIP 関節 MCP 関節 MTP 関節は完全な対称性でなくてもよい ) 5. 手と手関節の前後撮影による X 線写真で罹患関節の骨びらん またはその近傍での明瞭な骨萎縮像を含めた関節リウマチに典型的な所見 6. 骨突出部 伸筋表面 関節周辺の皮下結節 ( リウマトイド結節 ) 7. 血清リウマトイド因子陽性 ( 正常対照での陽性率が 5% 未満である検査方法による ) 判定 7 項目中 4 項目以上を満たすものを関節リウマチとする (1~4 は 6 週間以上持続していること ) PIP; 近位指節間 MCP; 中手指節 MTP; 中足趾節 松本和子ほか. 日本臨床. 2010; 68: 218-224 より改変. 3
2010 年に発表された ACR/EULAR 新分類基準 専門医を対象とした基準で 鑑別や腫脹関節の正確な判断が必要 ACR: 米国リウマチ学会 EULAR: 欧州リウマチ学会 対象患者 1) 少なくとも 1 関節に臨床的滑膜炎 ( 関節腫脹 ) を認める 2) 滑膜炎を他疾患では十分説明ができない 合計スコア 6/10の際に関節リウマチと分類される A. 罹患関節 1 大関節 0 2~10 大関節 1 1~3 小関節 2 4~10 小関節 3 >10 関節 少なくとも1 小関節を含む 5 B. 血清学的因子 リウマトイド因子 抗 CCP 抗体ともに陰性 0 少なくとも一方が低力価陽性 2 少なくとも一方が高力価陽性 3 C. 急性相反応物質 CRP ESRともに正常 0 少なくとも一方が異常 1 D. 滑膜炎期間 <6 週 0 6 週 1 Aletaha D, et al. Arthritis Rheum. 2010; 62: 2569-2581. 4
鑑別すべき疾患は多く 鑑別が難しい疾患も多い関節リウマチ鑑別疾患難易度別リスト ( 日本リウマチ学会 ) 鑑別難易度 高 中 低 1. ウイルス感染に伴う関節炎 ( パルボウイルス 風疹ウイルスなど ) 2. 全身性結合組織病 ( シェーグレン症候群 全身性エリテマトーデス 混合性結合組 織病 皮膚筋炎 多発性筋炎 強皮症 ) 3. リウマチ性多発筋痛症 4. 乾癬性関節炎 1. 変形性関節症 2. 関節周囲の疾患 ( 腱鞘炎 腱付着部炎 肩関節周囲炎 滑液包炎など ) 3. 結晶誘発性関節炎 ( 痛風 偽痛風など ) 4. 血清反応陰性脊椎関節炎 ( 反応性関節炎 掌蹠膿疱症性骨関節炎 強直性脊椎炎 炎症性腸疾患関連関節炎 ) 5. 全身性結合組織病 ( ベーチェット病 血管炎症候群 成人スチル病 結節性紅斑 ) 6. その他のリウマチ性疾患 ( 回帰リウマチ サルコイドーシス RS3PEなど ) 7. その他の疾患 ( 更年期障害 線維筋痛症 ) 1. 感染に伴う関節炎 ( 細菌性関節炎 結核性関節炎など ) 2. 全身性結合組織病 ( リウマチ熱 再発性多発軟骨炎など ) 3. 悪性腫瘍 ( 腫瘍随伴症候群 ) 4. その他の疾患 ( アミロイドーシス 感染性心内膜炎 複合性局所疼痛症候群など ) 日本リウマチ学会ホームページ. http://www.ryumachi-jp.com/info/120115_table1.pdf 5
早期診断における血清検査 2010 年に発表された ACR/EULAR 新分類基準では血清学的因子として リウマトイド因子(RF) 抗 CCP 抗体を評価する 6
RF 抗 CCP 抗体における感度と特異度有用だが 陰性となる場合があることに注意 早期関節リウマチ (RA) と非 RA 疾患に対する感度と特異度 感度 特異度 リウマトイド因子 (RF) 59% 77% 抗 CCP 抗体 62% 92% 大村浩一郎. Medical Practice. 2010; 27: 2025-2028 より引用 抗 CCP 抗体 RF に比べ より早期に より特異的に検出できる 値が非常に高い例では 関節破壊が急速で高度になる傾向がある 2007 年に保険適応 7
抗 CCP 抗体の関節リウマチ以外の疾患での陽性率他疾患でも陽性になるので注意 とくに結核で多い 患者数抗 CCP 抗体 (%) 乾癬性関節炎 1,343 8.6 SLE 1,078 8.4 シェーグレン症候群 609 5.7 脊椎炎 431 2.3 強皮症 / クレスト症候群 380 6.8 C 型肝炎 285 3.5 変形性関節症 182 2.2 B 型肝炎 176 0.6 若年性特発性関節炎 169 7.7 リウマチ性多発筋痛症 146 0 血管炎 107 4.7 結核 96 34.3 筋炎 75 0 線維筋痛症 74 2.7 痛風 偽痛風 58 0 Aggarwal R, et al. Arthritis Rheum. 2009; 61: 1472-1483. 8
早期診断 疾患活動性評価における画像検査 X 線画像の読影スキルが必要 X 線画像では 滑膜病変を評価できないため MRI 超音波検査が有用である 9
各画像検査の特徴 X 線検査関節周囲の骨粗鬆 関節の隙間の狭小化 骨びらん 強直などが見られる 欠点 : 滑膜炎が評価できない 骨が明らかに破壊されたり骨びらんを発症しないと発見できない MRI 滑膜炎 骨びらん 骨髄浮腫を評価できる 欠点 : 高価 機器が大きい 時間がかかる 高い読影技術が必要 超音波検査滑液 滑膜肥厚 骨びらんを評価できる 欠点 : 検者によるばらつき 時間がかかる 骨髄浮腫が評価できない 10
発症初期の画像所見の例早期診断には MRI 超音波検査が有用 MRI X 線写真 超音波検査 X 線写真は初期には変化がほとんど認められないが 超音波では活動性滑膜炎 MRI では滑膜炎のほか骨炎も認められる 11
疾患活動性評価における指標 骨関節破壊と相関する DAS SDAI CDAI などを指標とするのが一般的になっている 12
各指標の要素 DAS(Disease Activity Score) 欧州リウマチ学会が提唱する疾患活動性評価基準評価する関節を 44 のうち 28 に簡略化した DAS28 が用いられることが多い腫脹関節数 圧痛関節数 患者全般評価 ESR または CRP の 4 要素から複雑な計算式で算出 SDAI(Simplified Disease Activity Index) 計算が足し算のみで日常臨床評価で簡便で利用しやすい腫脹関節数 + 圧痛関節数 + 患者全般評価 + 医師全般評価 +CRP CDAI(Clinical Disease Activity Index) SDAI をさらに簡略化したもの (CRP が含まれない ) 腫脹関節数 + 圧痛関節数 + 患者全般評価 + 医師全般評価 13
疾患活動性評価法 評価法 寛解 低疾患活動性 中等度疾患活動性 高疾患活動性 DAS28 <2.6 3.2 5.1 >5.1 SDAI 3.3 11 26 >26 評価 28 関節 CDAI 2.8 10 22 >22 上記のように DAS28<2.6が寛解と定義されていたが 腫脹関節が相当数存在しても該当する場合があり 関節破壊が抑制できないことが報告された 2011 年にACR/EULARが共同で新しい寛解基準 ( 次頁 ) を発表 金子祐子, 竹内勤. Mebio. 2013. 30; 45-53. 14
ACR/EULAR 新寛解基準 (2011 年 ) SDAI CDAI が主体となっている Boolean 基準 臨床試験における寛解以下がすべて1 以下 腫脹関節数(28 関節中 ) 圧痛関節数(28 関節中 ) 患者全般評価 CRP(mg/dL) 日常診療における寛解以下がすべて1 以下 腫脹関節数(28 関節中 ) 圧痛関節数(28 関節中 ) 患者全般評価 疾患活動性指標 SDAI 3.3 CDAI 2.8 Felson DT, et al. Arthritis Rheum. 2011. 63; 573-586. より作成 15
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