なるほどそうだったのか! シリーズ vol.1 なるほどそうだったのかシリーズの第 1 回目は です 我々看護師は 診断するわけではないので不整脈の 診断名 をつける必要は全くないと思います ただし 見逃すことで患者さんの生命が脅かされる は少なからず存在します よって それらを理解し 発見し 医師に報告できれば心電図判読に必要な最低限の仕事はしたことになります もちろん これがすべてではありません 将来的には循環動態を理解し 不整脈の名前も付けられるくらいのスキルが求められるわけですが まずは の理解は全科の看護師に求められますのできっちり押さえましょう はじめに 心電図波形の基礎知識をおさらいしておきましょう 心臓は 収縮して血液を全身に送っているわけですが その収縮を支えているのが 刺激伝導系 です 刺激伝導系は 洞結節 房室結節 ヒス束 右脚 / 左脚 プルキンエ線維 という名称がついており 電気刺激が流れることで PQRST とアルファベットのついた波形が心電図上に出現します P 波は心房の興奮を表しており QRS 群は 心室の興奮 T 波は心室の興奮が覚める過程を表しています つまり P 波が出現すれば心房が興奮したということになりますし QRS 群に異常があれば心室に異常があると考えることができますね そして もう一つ重要なことは 心電図は 電気の力と時間のグラフ ということです 一番小さなマスが 0.04 秒 そのマスが 5 個集まって 0.2 秒 この 0.04 と 0.2 という数字も覚えておきましょう
1 正常洞調律 ;NSR(Normal Sinus Rhythm) 最初は正常洞調律です P 波があり R-R 間隔が正常で心拍数は 60~100 回 / 分 モニター心電図ではわかりにくいのですが P-Q 時間は 0.2 秒以内 QRS 群は 0.1 秒以内 ST 部分は基線に戻っています 2 ST 異常 ST 部分は 必ず基線 ( 黄色い点線 ) に戻りますが基線に戻らず上昇したまま もしくは下降したままであれば ST 異常と考えることができます ST 上昇は一般的に心筋梗塞を疑い ST 下降は狭心症を疑いますが 必ずしもそうではありません しかし 何らかの理由があり虚血になっていると考えられます 症状の確認が必要です 3 洞不全症候群 ;SSS(Sick Sinus Syndrome) 洞結節に何らかの異常があり 心拍数が極端に落ちてしまうものに洞性徐脈や洞房ブロック 洞停止などがありますが その総称を洞不全症候群と呼んでいます 意識消失発作を起こすので要注意です
4 心房細動 ;af(atrial Fibrillation) 基線に細かな揺れ ( 細動波 f 波 ) が出現し P 波が見えなくなります そして 最大の特徴は R-R 間隔がバラバラ つまり脈拍のリズムがバラバラになります 心拍出量は 20% 程度減少し頻拍になるとさらに減少するため 発作性の心房細動は循環動態に悪影響があります また 心房の細動 ( ふるえるような動き ) により 血栓を作ることがあり 脳梗塞など血栓による全身の塞栓症に注意する必要があります 5 心房粗動 ;AF(Artial Flutter) リエントリーと言って 心房内を電気刺激がぐるぐる回り続けるためキザキザした粗動波 ( 鋸歯状波 F 波 ) が出現します 心房と心室の伝導比率が高まると頻拍となり循環動態が悪化します 頻拍の場合は注意が必要です R-R 間隔は伝導比率が同じであれば等間隔ですが必ずしも等間隔とは限りません 6 発作性上室性頻拍 ;PSVT(Paroxysmal Supraventricular Tachycardia) 幅の狭い QRS 群が連続して出現するため頻拍となり循環動態に悪影響が及びます 電気刺激が上室の伝導路をぐるぐる回っており はっきりとした P 波が見えないことが多いです 発見したら訪室し症状を確認しましょう
7 心室性期外収縮 ;VPC(PVC)(Ventricular Premature Contraction) P 波がなく 早期収縮で幅の広い波形が出てきたら心室性期外収縮です 刺激の発生源により波形の形が変わります 上の図では 3 回出現していますね 数が多い場合や種類が多い場合は致死性不整脈に移行する恐れがあるため 症状やバイタルサイン 電解質などにも注意が必要です 8 R on T 型心室性期外収縮 T 波のタイミングで心室性期外収縮が出現すると致死性不整脈に移行する恐れがあります 上の図は 致死性不整脈には移行しておりませんが 移行する恐れがあるためこの時点で医師へ報告が必要です 心室性期外収縮を見つけた場合 多くは何の処置も必要とはしませんが 数が多い場合 種類が多い場合 そして T 波の上に心室性期外収縮が乗っている場合は要注意です 数 形 場所 に注意しましょう 9 ショートラン型心室性期外収縮 心室性期外収縮が連続して出現しますが 文字通りちょっと走ってすぐ止まります ただし 非常に不安定な状態でそのまま致死性不整脈に移行することも少なくなく 医師へ報告が必要です
10 Ⅱ 度房室ブロック ( モビッツ Ⅱ 型 );Ⅱ AVB(MobitzⅡ) 洞結節で発生した電気が房室結節で突然ブロックされ 心室へ伝達されません よって心房収縮 (P 波 ) は見られるものの QRS 群が出現しないため 心室から全身への血液の拍出が無くなります 刺激伝導が完全に伝わらないのではなく 突然ブロックされるのが特徴で意識消失発作や致死性不整脈に移行する危険性が高いです 11 Ⅲ 度房室ブロック ;Ⅲ AVB(Atrio Ventricular Block) 心房から発生した刺激が房室結節でブロックされ 心室に全くつながらなくなります 波形上 P 波は等間隔で出現しますが P 波に続く QRS 群がありません 一方 心室は心室調律で刺激が発生しますが P 波との関連性はなく R-R 間隔は等間隔です P 波に比べ QRS 群のほうが数が少ないため 脳や全身に十分に血液を送れないために意識消失発作を起こしやすく また致死性不整脈に移行する危険性も高めですので要注意です 12 心室頻拍 ;VT(Ventricular Tachycardia) 心室のみが高頻度で収縮しており 幅の広い QRS 群が連続して出現します 循環動態が極端に悪く多くは意識を失って倒れます 脈の触れない場合は胸骨圧迫式心臓マッサージ並びに除細動が必要となります ただし 脈拍の触れる VT( 脈あり VT) の場合もありますので必ず脈拍をチェックしましょう
13 心室細動 ;VF(Ventricular Fibrillation) 心室が細かく震えている状態で血液の拍出はなく循環停止状態です 発見と同時に胸骨圧迫式心臓マッサージ並びに除細動が必要です 発見が早く処置が適切であれば回復する可能性は十分にありますが 前駆症状として 心電図異常や電解質異常 心筋梗塞などがありますので心室細動にならないようにすることが最も重要です 14 心停止 (Asystole) ご覧のとおり 電気刺激が一切出ていません また 血液循環も完全に停止していますので発見と同時に胸骨圧迫式心臓マッサージが必要です ただし 除細動は無効です 心臓マッサージが奏功すると心室細動に移行します 心停止の状態で除細動は行ってはいけません 15 無脈性電気活動 ;PEA(Pulseless Electrical Activity) PEA を心電図のみで判断することはできません 正常のこともあるし 異常のこともあります 出血や心タンポナーデなど何らかの理由があり 刺激伝導系は正常であるにもかかわらず 心臓から血液を拍出することのできない状態 です よって 脈拍 が触知できるかどうかがポイントになります 心電図のみでの判断は不可能ですので あやしい と思ったら パルスオキシメーターを装着し 心電図とともに脈拍の状態も同時にモニタリングするといいでしょう おわりに 心電図をすべて理解するのは難解ですが 危険なものだけに割り切るとずいぶん楽になります 実際には 教科書で勉強しただけでは心電図は読めるようにはなりません 基本的な知識を得たうえで 先輩や医師に確認しながら理解を深めていかれることをお勧めいたします 著者プロフィール 看護師 / 呼吸療法認定士青柳智和株式会社ひとりガウン代表幅広い分野に興味があり薄く広く勉強しております 今まで勉強してきたことをちょっとでもおすそ分けできればと思っております 執筆 2012 年 5 月 < 参考文献 > 心電図と不整脈の手びき南山堂 ( 著 ) 村松準 ナースのための NEW 心電図の教室学習研究社 ( 著 ) 柳沢厚生