IFRS基礎講座 IFRS第1号 初度適用

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2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

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1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

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参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 ( 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に

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085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

2018 年 8 月 10 日 各 位 上場会社名 エムスリー株式会社 ( コード番号 :2413 東証第一部 ) ( ) 本社所在地 東京都港区赤坂一丁目 11 番 44 号 赤坂インターシティ 代表者 代表取締役 谷村格 問合せ先 取締役 辻高宏

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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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平成31年3月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

平成30年公認会計士試験

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(2) サマリー情報 1 ページ 1. 平成 29 年 3 月期の連結業績 ( 平成 28 年 4 月 1 日 ~ 平成 29 年 3 月 31 日 ) (2) 連結財政状態 訂正前 総資産 純資産 自己資本比率 1 株当たり純資産 百万円 百万円 % 円銭 29 年 3 月期 2,699 1,23

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平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

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具体的な組替調整額の内容は以下のとおりです その他の包括利益その他有価証券評価差額金繰延ヘッジ損益為替換算調整勘定 組替調整額 その他有価証券の売却及び減損に伴って当期に計上された売却損益及び評価損等 当期純利益に含められた金額 ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金

監査手続の実施状況に関する表示この決算短信は 金融商品取引法に基づく監査手続きの対象外ですが この決算短信の開示時点において 金融商品取引法に基づく連結財務諸表の監査手続きは終了しております 業績予想の適切な利用に関する説明 その他特記事項 ( 国際会計基準 (IFRS) の適用 ) 当社は 平成

2019 年 3 月期第 2 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2018 年 10 月 31 日 上場会社名 アイシン精機株式会社 上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先

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3. その他 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) 無 (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 無 2 1 以外の会計方針の変更 無 3 会計上の見積りの変更 無 4 修正再表示 無 (3)

年 9 月期の連結業績予想 (2018 年 10 月 1 日 ~2019 年 9 月 30 日 ) 売上収益営業利益税引前利益当期利益 (% 表示は 通期は対前期増減率 ) 親会社の所有者に帰属する当期利益 基本的 1 株当たり当期利益 百万円 % 百万円 % 百万円 % 百万円 %

連結の補足 連結の 3 年目のタイムテーブル B/S 項目 5つ 68,000 20%=13,600 のれん 8,960 土地 10,000 繰延税金負債( 固定 ) 0 利益剰余金期首残高 1+2, ,120 P/L 項目 3 つ 少数株主損益 4 1,000 のれん償却額 5 1,1

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新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)


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1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

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2019 年 3 月期第 3 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2019 年 2 月 1 日 上場会社名アイシン精機株式会社上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先責任者

10年分の主要財務データ

令和元年 6 月 14 日 各位 会社名日本空港ビルデング株式会社代表者名代表取締役社長執行役員兼 COO 横田信秋 ( コード番号 9706 東証第 1 部 ) 問合せ先常務取締役執行役員企画管理本部長田中一仁 (TEL ) ( 訂正 数値データ訂正 )

国家公務員共済組合連合会 民間企業仮定貸借対照表 旧令長期経理 平成 26 年 3 月 31 日現在 ( 単位 : 円 ) 科目 金額 ( 資産の部 ) Ⅰ 流動資産 現金 預金 311,585,825 未収金 8,790,209 貸倒引当金 7,091,757 1,698,452 流動資産合計 3

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

Ⅱ. 資金の範囲 (1) 内訳 Ⅰ. 総論の表のとおりです 資 金 現 金 現金同等物 手許現金 要求払預金 しかし これはあくまで会計基準 財務諸表規則等に記載されているものであるため 問題文で別途指示があった場合はそれに従ってください 何も書かれていなければ この表に従って範囲を分けてください

西川計測 (7500) 2019 年 6 月期第 2 四半期決算短信 ( 非連 添付資料の目次 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 経営成績に関する説明 2 (2) 財政状態に関する説明 2 (3) 業績予想などの将来予測情報に関する説明 2 2. 四半期財務諸表及び主な注記 3 (1

ご説明用資料 2018 年度決算概要 2019 年度業績予想 2019 年 5 月 15 日 Copyright (C) 2019 Toyo Business Engineering Corporation. All rights Reserved. 事業セグメント ソリューション事業 SAPを始め

第 16 回ビジネス会計検定試験より抜粋 ( 平成 27 年 3 月 8 日施行 ) 次の< 資料 1>から< 資料 5>により 問 1 から 問 11 の設問に答えなさい 分析にあたって 連結貸借対照表数値 従業員数 発行済株式数および株価は期末の数値を用いることとし 純資産を自己資本とみなす は

2020 年 3 月期第 1 四半期決算短信 日本基準 ( 非連結 ) 2019 年 7 月 31 日上場会社名株式会社スターフライヤー上場取引所東コード番号 9206 URL 代表者 ( 役職名 ) 代表取締役社長執行役員 ( 氏名 ) 松石禎己問


(訂正・数値データ修正)「平成29年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

「中小企業の会計に関する指針《新旧対照表

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第 21 期貸借対照表 平成 29 年 6 月 15 日 東京都千代田区一番町 29 番地 2 さわかみ投信株式会社 代表取締役社長澤上龍 流動資産 現金及び預金 直販顧客分別金信託 未収委託者報酬 前払費用 繰延税金資産 その他 固定資産 ( 有形固定資産 ) 建物 器具備品 リース資産 ( 無形

計算書類等



第4期電子公告(東京)

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前連結会計年度 ( 平成 29 年 12 月 31 日 ) 当第 2 四半期連結会計期間 ( 平成 30 年 6 月 30 日 ) 負債の部流動負債支払手形及び買掛金 8,279 8,716 電子記録債務 9,221 8,128 短期借入金 未払金 24,446 19,443 リース

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収益認識に関する会計基準

NO 連結精算表科目 & 連結開示 前連結会計 当連結会計 増減差額 科目 借 年度 年度 借方 方 連結借対照表 千円 千円 千円 千円 開 38 社債 20,000,000 5,000,000 開 39 長期借入金 16,500,000 16,071,500 開 40 リース債務 632,000

平成 29 年 11 月期第 3 四半期決算短信 日本基準 ( 非連結 ) 平成 29 年 10 月 11 日 上場会社名 株式会社アメイズ 上場取引所 福 コード番号 6076 URLhttp:// 代表者 ( 役職名 ) 代表取締役社長 ( 氏名 ) 穴見

旭情報サービス (9799) 平成 28 年 3 月期第 1 四半期決算短信 ( 非連結 ) 添付資料の目次 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 経営成績に関する説明 2 (2) 財政状態に関する説明 2 (3) 業績予想などの将来予測情報に関する説明 2 2. サマリー情報 ( 注記

Microsoft PowerPoint - IFRS財務インパクト分析配布資料

2019年3月期 中間期決算短信〔日本基準〕(連結):東京スター銀行


説明会資料 IFRSの導入について

2019 年 3 月期 第 2 四半期決算短信 日本基準 ( 連結 ) 2018 年 10 月 30 日 上場会社名 日本冶金工業株式会社 上場取引所 東 コード番号 5480 URL 代 表 者 ( 役職名 ) 代表取締役社長 ( 氏名 ) 木村 始 問合


科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

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2019 年 3 月期第 1 四半期決算短信 日本基準 ( 非連結 ) 2018 年 7 月 31 日上場会社名株式会社スターフライヤー上場取引所東コード番号 9206 URL 代表者 ( 役職名 ) 代表取締役社長執行役員 ( 氏名 ) 松石禎己問


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サマリー

日本基準基礎講座 退職給付

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

営 業 報 告 書

(3) 連結キャッシュ フローの状況 営業活動によるキャッシュ フロー 投資活動によるキャッシュ フロー 財務活動によるキャッシュ フロー 現金及び現金同等物期末残高 百万円 百万円 百万円 百万円 27 年 3 月期 495 2,552 5,252 5, 年 3 月期 2,529 71

2020 年 3 月期第 1 四半期決算短信 IFRS ( 連結 ) 2019 年 7 月 31 日 上場会社名 アイシン精機株式会社 上場取引所東名 コード番号 7259 URL 代表者 ( 役職名 ) 取締役社長 ( 氏名 ) 伊勢清貴 問合せ先


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Transcription:

IFRS 基礎講座 IFRS 第 1 号 初度適用 のモジュールを始めます

パート 1 では 初度適用の概要について解説します パート 2 では 初度適用における遡及適用の原則と例外を中心に解説します

パート 3 では 初度適用における表示および開示について解説します

初度適用とは IFRS で作成された財務諸表を初めて表示することをいいます 企業が最初の IFRS 財務諸表を表示する場合 その企業を 初度適用企業 とよびます

IFRS 財務諸表では 当期と前期の少なくとも 2 期分の財務情報を開示しなければなりません 例えば 当期が IFRS の適用初年度 である場合 当期末を 最初の報告日 といいます また 当期より前の期間を 比較年度 といい 最も古い比較年度の期首を IFRS 移行日 といいます

初度適用企業は IFRS 移行日 比較年度末 最初の報告日の 3 期分の財政状態計算書を作成します このうち IFRS 移行日における 最初の財政状態計算書を開始財政状態計算書といいます また 比較年度および IFRS 適用初年度の包括利益計算書 持分変動計算書 キャッシュ フロー計算書をそれぞれ作成します また これらに関する注記も作成します これらを最初の IFRS 財務諸表といいます

最初の IFRS 財務諸表は 最初の報告日において有効な IFRS の規定を 原則として過去の期間に遡及適用して作成します IFRS 移行日における 従前の会計基準に基づく資産および負債と IFRS を遡及適用した場合の資産および負債の差額は IFRS 開始財政状態計算書の利益剰余金に反映します

初度適用企業は 原則として IFRS の規定を過去の期間に遡及適用することが求められます しかし IFRS の遡及適用が適切でないと考えられる領域については 例外的に 遡及適用が禁止されており 遡及適用の禁止規定が強制適用されます また すべての IFRS について遡及適用することには 実務上の困難が伴うため 遡及適用のためのコストが 遡及適用による財務諸表利用者の便益を上回ると考えられる領域については 例外的に 遡及適用に関する免除規定が設けられています 企業は遡及適用の免除規定を任意で選択することが可能です それでは 遡及適用の禁止規定と免除規定について 詳しく見ていきましょう

遡及適用が禁止されている主な項目は次の通りです まず 新たな事象の発生により 過去に行った見積りを修正することが禁止されています また 金融商品の認識の中止に関する規定は IFRS 移行日より前に発生した取引に遡及適用することが禁止されています 例えば 資産を流動化したことにより 従前の会計基準に基づき 資産の認識を中止していたとします たとえ IFRS を適用していたら認識を中止していなかった取引だったとしても 遡及して資産を再認識することは禁止されています また ヘッジ会計についても 遡及適用が禁止されています IFRS 移行日よりも前の取引について 遡及してヘッジ指定を行うことはできません これらのうち 見積りの修正の禁止について 詳しく見ていきましょう

過去において行われた見積りは IFRS の適用に際し最新の情報に基づいて修正することができません 従前の会計基準において見積りを行った時点の情報に基づく必要があります 訴訟損失引当金を例に見てみましょう 例えば 過去において 係争中の訴訟について 和解する見込みであるとの仮定に基づき 和解金 10 を訴訟損失引当金として計上していたとします その後 IFRS の最初の報告日における最新の情報によると 敗訴である可能性が高まり 損害賠償請求が 300 発生する見込みであることがわかりました この場合でも 最新の情報に基づき 過去において計上した訴訟損失引当金を 300 に修正することはできません 過去において行われた見積りと同じ仮定に基づき 見積りを行う必要があります

次に遡及適用の免除について 解説します 遡及適用の免除のパターンは大きく分けて 3 つあります 1 つ目は 従前の会計基準による処理を修正しないことを認めるものです 例えば 過去に行われた企業結合取引において IFRS を遡及適用せず 従前の会計基準による処理を引き継ぐことができます 2 つ目は 本来 当初認識時に行う判断および特殊な指定を IFRS 移行日時点で行うことを認めるものです 例えば 契約にリースが含まれているか否かの判断について IFRS 移行日時点の事実と状況に基づいて判断することができます 3 つ目は 本来 IFRS では認められないような簡便的な測定を代替的に認めるものです 例えば 在外子会社の為替差額累計額について 移行日時点の残高をゼロとみなしてスタートすることができます このうち 企業結合に関する免除規定について 具体的に見ていきましょう

IFRS 移行日よりも前に生じた企業結合について 原則的には 最初の報告日における有効な IFRS の規定を 過去の期間に遡及適用する必要があることから IFRS 第 3 号 企業結合 を遡及適用する必要があります これにより 従前の会計基準に基づいて実施した取得原価の配分等の会計処理を IFRS に基づいてやり直す等の実務上の負担が生じます

一方 遡及適用の免除規定を企業が任意に選択した場合には 企業が任意に設定した基準日よりも前の企業結合については 一律 IFRS 第 3 号 企業結合 を遡及適用しないことが認められます つまり 過去の企業結合について 従前の会計基準に基づく会計処理を修正せずに 引き継ぐことが認められます なお 関連会社に対する持分法の適用においても 同様の免除が認められています

IFRS 初度適用企業は IFRS 移行日における IFRS 開始財政状態計算書を表示する必要があります 開始財政状態計算書の作成は 従前の会計基準の貸借対照表を基礎にして 移行日における IFRS 会計方針に従い 次の手続きにより作成します

まず IFRSで認識が求められているすべての資産及び負債を認識します 次に IFRSが資産又は負債として認識することを認めていない項目の認識を中止します そして 必要に応じてIFRSに従い 資産 負債又は資本項目の分類を変更します 最後に 認識したすべての資産及び負債の測定にIFRSを適用します このようにして作成した財政状態計算書を 開始財政状態計算書として表示します

IFRS 初度適用企業に求められる主な開示について解説します まず 遡及適用の免除規定を適用した場合には 免除規定の適用による影響の開示が必要となる場合があります また 従前の会計基準から IFRS に移行したことによる キャッシュ フロー計算書に与える影響について 説明する必要があります また IFRS 移行日において 企業が初めて減損損失の認識 または 戻入れを行った場合には 当該内容について 開示する必要があります 資本および包括利益について 従前の会計基準から IFRS への移行に伴う影響を調整表等を用いて説明する必要があります 具体的には IFRS 移行日における 従前の会計基準に基づく資本から IFRS に基づく資本への調整表 直近の年次財務諸表の報告期間末日における 従前の会計基準に基づく資本から IFRS に基づく資本への調整表 直近年次財務諸表の報告期間における 従前の会計基準に基づく包括利益から IFRS に基づく包括利益への調整表を開示します

資本の調整表は 一般的に 財政状態計算書の形式で 日本基準における金額 IFRS への移行の調整額 IFRS における金額を横並びで開示します IFRS への移行の調整額は 表示の組替 認識および測定の差異などに細分化して開示されるケースもあります 調整項目のうち 重要なものについては 文書形式で補足説明を行います

包括利益の調整表は 一般的に 包括利益計算書の形式で 日本基準における金額 IFRS への移行の調整額 IFRS における金額を横並びで開示します IFRS への移行の調整額は 表示の組替 認識および測定の差異などに細分化して開示されるケースもあります 調整項目のうち 重要なものについては 文書形式で補足説明を行います

これまで 年度末から IFRS の適用を開始する場合の開示について見てきました ここでは 第 1 四半期から IFRS の適用を開始する場合の開示について 解説します 資本の調整表については 比較年度の期首および期末に加えて 前年同期である第 1 四半期末日における調整表を開示する必要があります また 包括利益の調整表については 比較年度における調整表に加え 前年同期である第 1 四半期会計期間における 調整表を開示する必要があります これで IFRS 基礎講座 IFRS 第 1 号 初度適用 のモジュールの解説を終わります