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様式 C-19 科学研究費助成事業 ( 科学研究費補助金 ) 研究成果報告書 平成 25 年 6 月 3 日現在 機関番号 :12102 研究種目 : 基盤研究 (C) 研究期間 :2010~2012 課題番号 :22531070 研究課題名 ( 和文 ) 縞視標を用いた重度 重複障害児に対する教育的視力評価に関する研究 研究課題名 ( 英文 ) Educational Visual Acuity Assessment of Children with Profound and Multiple Disabilities 研究代表者小林秀之 (KOBAYASHI HIDEYUKI) 筑波大学 人間系 准教授研究者番号 :90294496 研究成果の概要 ( 和文 ): 重度 重複障害児の教育的視力評価に関して, 学校教育現場で入手しやすい Lea GRATINGS 視標の活用について検討した 具体的には視標の提示距離の検討, 他の視標との関連の検討, 重度 重複障害児への実際的な評価を行った その結果,Lea GRATINGS 視標で評価される教育的視力値はランドルト環によるものとの相関が高く, 幼児, 児童の姿勢にも柔軟に対応しやすく, 教育的視力評価に活用可能であることが示された 研究成果の概要 ( 英文 ):This study was considered using of Lea GRATINGS Acuity Test for the educational visual acuity assessment of the children with profound and multiple disabilities. Specifically, performed examination for the presentation distance of the chart, the related examination with other tests and the practical evaluation. As a result, Lea GRATINGS had a high correlation with the Landolt s rings from other tests, and could correspond flexibly to child's posture. Lea GRATINGS can be used for the educational visual acuity assessment. 交付決定額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 2010 年度 700,000 210,000 910,000 2011 年度 700,000 210,000 910,000 2012 年度 500,000 150,000 650,000 年度年度 総計 1,900,000 570,000 2,470,000 研究分野 : 社会科学科研費の分科 細目 : 教育学 特別支援教育キーワード : 教育的視力評価 縞視標 Lea GRATINGS 視標 重度 重複障害 1. 研究開始当初の背景特別支援教育は, 障害のある幼児 児童 生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち, 一人一人の教育的ニーズを把握し, その持てる力を高め, 生活や学習上の困難を改善又は克服するため, 適切な指導及び必要な支援を行うものである さらに,2005 年時点では, 盲 聾 養護学校 ( 小 中学部 ) においては, 約 43.3%( 肢 体不自由養護学校においては約 75.3%) の児童 生徒が重複障害学級に在籍している ( 中央教育審議会,2005) 一人一人の教育的ニーズを的確に把握する特別支援教育の理念を実践するにあたり, 障害が重度 重複化した児童 生徒の教育では重複する個々の障害の適切な実態把握と, それに基づく指導が最も大きな課題であると考える さらに, 特別支援学校学習指導要領開設自立活動編

( 文部科学省,2009) においても, 実態把握の具体的な内容として, 本研究で焦点をあてる 視機能 が明示されている 重度 重複障害児の視機能の状態について, 眼科医が調査した報告は少ないが, 例えば, 丸尾 (1982) は, 東京都内の肢体不自由児療育施設, 肢体不自由養護学校等の脳性まひの子どもを調査した結果,1,037 名中 319 名 (30.8%) に視覚障害があったことを報告している 同様に, 知的障害養護学校の調査から 340 名中 70 名 (20.6%), 重症心身障害療育施設の調査から 142 名中 80 名 (56.3%) の視覚障害数を報告している また, 石川 鳥山 (2002) は, 知的障害養護学校小学部 1 年生 ~3 年生では, 視力測定が困難な者が 50% 以上を占めていることを明らかにしている これらから, 重度 重複障害児には高い比率で視覚障害をあわせ有している可能性が高いにもかかわらず, 教育的な視力評価が行われていない実態を指摘できる このような状況において,Teller Acuity Card を用いた重度 重複障害児の視力評価の試みも行なわれるようになってきている ( 山下 阿部 佐島,2003: 堀川 佐島,2004: 白井 小林 衛藤,2007) ただし, まだ, 重度 重複障害児の教育的視力評価とその結果に基づく指導に関しては, 試行錯誤と模索を繰り返しながら取り組まれている ( 佐島 小林ら,2007) と考える さらに, 中澤 ( 2008) は,Teller Acuity Card は非常に高価であり, 同様の原理で開発された簡易型の Lea GRATINGS は,Teller Acuity Card と比してかなり安価であるため, いくつかの特別支援学校で利用されていることを報告している 今後は,Teller Acuity Card の活用の検討と並行して Lea GRATINGS の活用を検討していくことが重要であると考える 参考文献石川富美 鳥山由子 (2002) 知的障害養護学校小 中学部に在籍する児童 生徒の視機能評価の実態に関する研究. 心身障害学研究,26,231-240. 佐島毅 小林秀之 浅野理々 堀川順子 中川貴美子 中東朋子 (2007) 個のニーズへの対応から考える重度 重複障害児の視機能評価 - 重複する個々の障害の適切なアセスメントに基づく指導の方向性を考える -. 日本特殊教育学会第 45 回大会発表論文集,132. 白井百合子 小林秀之 衛藤裕司 (2007)TACII を使用した知的障害児の視力評価とその反応. 日本特殊教育学会第 45 回大会発表論文集,314. 中央教育審議会 (2005) 特別支援教育を推進するための制度の在り方について ( 答申 ). 中澤恵江 (2008) 視覚を通した環境の把握に 関するアセスメントの方向性について. 国立特別支援教育総合研究所, 平成 18 年度 ~19 年度課題別研究成果報告書 重複障害児のアセスメント研究,19-25. 堀川順子 佐島毅 (2004)Teller Acuity Card による重度 重複障害児の視機能評価の試み. 日本特殊教育学会第 42 回大会発表論文集,175. 丸尾敏夫 (1982) 他の心身障害にみられる視覚障害とそのリハビリテーション. 原田政美 ( 編 ), リハビリテーション医学全書 12 視覚障害. 医歯薬出版,235-280. 文部科学省 (2009) 特別支援学校学習指導要領解説自立活動編. 海文堂. 山下詠子 阿部恭子 佐島毅 (2003)Teller Acuity Card および OKN による重度重複障害児の視機能評価の試み. 日本特殊教育学会第 41 回大会発表論文集,585. 2. 研究の目的生活年齢あるいは発達年齢が低く, さらに特別な教育的支援が必要な幼児 児童に対する教育的視力評価において, ランドルト環を用いた一般的な手法では検査を実施することができず, 測定困難, 測定不能, 生活視力あり といった評価がなされていることが多い この点に注目し, 重度 重複障害幼児 児童に対する実態把握の一つとして, 適切な視力評価のあり方を検討することを目的としている 具体的には次に示す通りである (1)Lea GRATINGS 視標を教育的視力評価に用いる上での視標提示距離の検討 (2) 特別支援教育の場において活用されている各種視標を対照検査として Lea GRATINGS 視標を用いることの妥当性の検討 (3)Lea GRATINGS 視標を用いた教育的視力評価を実際的検証 3. 研究の方法 (1)Lea GRATINGS 視標 ( 図 1) は無地を含めた 7 種類のパドル ( グレーティング板 ) で構成されており, 一定の距離での評価できる教育的視力の幅は狭い そのため, 評価に用いる際の提示距離とパドルの組み合わせにより効率的に評価できる提示方法を算出する (2) 研究協力者を晴眼成人とし, 弱視シミュレーションレンズ ( 高田巳之助商店製 ) を用いた低視力状態により, ランドルト環, 絵視標, 森実式 Dot Cards,Teller Acuity Card および Lea GRATINGS 視標による視力評価を行い, 各視標値間の関係を検討する

(3)3 名の視覚障害を伴う重複障害児を対象に Lea GRATINGS 視標による教育的視力評価を行う 図 1 Lea GRATINGS 視標 4. 研究成果 (1)Lea GRATINGS 視標の基本的な視力測定距離は,29cm,57cm,86cm,114cm である また, 同様の縞視標である Teller Acuity Card で推奨される検査距離は, 新生児から 6 か月までの幼児が 38cm,7 か月から 3 歳までの乳幼児が 55cm であることを参考に本研究で対象とする幼児, 児童の発達年齢を考慮し, 視距離は最長で 57cm までとすることとした さらに,29cm と 57cm の視距離では評価できる視力値が荒くなるため,36cm,43cm の視距離も導入することとした 29cm の視距離で 1.0 パドルを用いることにより 0.015,36cm の視距離で 1.0 パドルを用い 0.02,43cm の視距離で 1.0 パドルを用い 0.025,29cm の視距離で 2.0 パドルを用い 0.03,36cm の視距離で 2.0 パドルを用い 0.04, 43cm の視距離で 2.0 パドルを用い 0.05,29cm の視距離で 4.0 パドルを用い 0.06,36cm の視距離で 4.0 パドルを用い 0.08,43cm の視距離で 4.0 パドルを用い 0.1,36cm の視距離で 8.0 パドルを用い 0.15,43cm の視距離で 8.0 パドルを用い 0.2,57cm の視距離で 8.0 パドルを用い 0.25 の視力値が測定できることが示された さらに対象とする子どもの集中力や慣れが生じないように短時間で検査を終了させるためには, 通常の視力検査のように低い視力値から順次行うこととはあまり効率的ではないと判断し,29cm の視距離による検査でスクリーニングし, その後に検査距離を変えて保有している視力値を測定することが望ましいと考えた その手順を図 2 に示した 以上から,0.07 の視力値は評価できないものの Lea GRATINGS 視標を用いた教育的視力評価方法を整理することができた (2) 研究協力者は 54 名である Lea GRATINGS 視標の閾値視角の平均 ( 標準偏差 ) 図 2 Lea GRATINGS 視標を用いる際の効率的な視標提示の方法 は 5.1 分 (2.75) であり, ランドルト環を用いた閾値視角の平均 ( 標準偏差 ) は 8.5 分 (8.66), 森実式 Dot Cards の閾値視角の平均 ( 標準偏差 ) は 9.0 分 ( 7.38),Teller Acuity Card の閾値視角の平均 ( 標準偏差 ) は 7.8 分 (9.34) であった 平均閾値視角から視力値に換算すると,Lea GRATINGS 視標 0.2, ランドルト環による近距離視力 0.1, 森実式 Dot Cards0.1,Teller Acuity Card0.1 となり, Lea GRATINGS 視標は 2 段階高めの視力値が評価されている 一方で標準偏差は各視標の中で一番小さく, 安定的に評価される可能性が示唆された 各視標値間の相関係数を表 1 に示した 表 1 各視標値間の相関係数 Lea GRATINGS 視標と近距離視力の相関係数は 0.69(F(1,52)=47.3,p<.01),Lea GRATINGS 視標と森実式 Dot Cards の相関係数は 0.29(F(1,52)=4.63,p<.0.5),Lea GRATINGS 視標と Teller Acuity Card との相関係数は 0.40(F(1,52)=10.12,p<.01) であり, ランドルト環による近距離視力との相関が高く出ている また, ランドルト環による近距離

視力と Teller Acuity Card の相関は 0.53(F(1, 52)=20.3,p<.01) であった Lea GRATINGS 視標の方が Teller Acuity Card よりも近距離視力との相関が若干高いことが示された これらのことから,Lea GRATINGS 視標による教育的視力検査においては, これまで教育現場で活用されている各視標と同様に導入することは可能であるが, 若干高めの値が評価されることを念頭に実施することが重要であることが示された (3) 実際的な検証については 3 名の重複障害児を対象とした なお, 視標の提示方法は図 2 に示した 29cm の視距離によるスクリーニングによる効率的な方法を用い, スムーズに評価できることが確認できた 実際には 3 名中の 2 名の教育的視力評価が可能であった 評価することのできなかった 1 名は,Teller Acuity Card にも反応を示すことはなかった なお, 日常生活の中で時々モノをじっと見ていると解釈されているが, ペンライトに対しての明確な注視や追視は観察することもできなかった 評価することのできた 2 名は Teller Acuity Card による視力評価とほぼ同等の評価が得られた 1 名は視標の提示距離が長くなると集中が難しい傾向が示された このことから, 障害をあわせ有し発達レベルの低い対象を想定して検査距離を 57cm 以下とした意図が有効であることが確認できたと考える もう 1 名は Lea GRATINGS 視標を上下あるいは左右方向に移動する際に追視する様子が見られ Teller Acuity Card よりも反応が取りやすいことが確認できた さらに, 車いすに腰掛けていたりソファーに横たわった状態でも Lea GRATINGS 視標は提示がしやすいことも確認できた 以上から, 図 2 に示した視標提示方法が有効であること, 小数事例ではあるが, 反応に留意しつつ用いることで Teller Acuity Card と同等の教育的視力評価が可能であること, 視標の構造上, 追視による反応をとることも可能であること, 対象の幼児, 児童の様々なポジショニングにも対応しやすいことが示された Teller Acuity Card は特別支援教育においても活用されているが, 購入に際しての困難があるのも事実である そのような中で,Lea GRATINGS 視標を教育的視力評価に活用可能であることが示された 今後, 教育現場での活用事例を集積していくことが重要であると考える 6. 研究組織 (1) 研究代表者小林秀之 (KOBAYASHI HIDEYUKI) 筑波大学 人間系 准教授研究者番号 :90294496 (2) 研究分担者なし (3) 連携研究者なし 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) なし