1 機能性糖鎖の簡便な調製技術 : 医薬品 検査薬 機能性化粧品基剤 などへの展開 産業技術総合研究所北海道センター生物プロセス研究部門主任研究員清水弘樹
研究背景 近年 糖鎖 は核酸やタンパク質に続く第三の生命情報分子として注目されている またウイルスや細菌の感染及び細菌毒素の体内への侵入の多くは 宿主細胞が持つ糖鎖への接着によって開始されることが知られており 感染症研究 予防治療対策に病原体と糖鎖間の相互作用解析が重要と考えられている しかし その相互作用研究は十分には進んでいない その主な理由として ウイルスや病原菌と糖鎖の認識選択性は高いと言われているが 一般に結合活性は非常に弱いこと また 糖鎖の構造多様性から 解析すべき糖鎖が多種にわたり 糖鎖を調製するだけで膨大な時間 費用がかかることがある 糖鎖の認識選択性は高い X 技術 コスト面で合成 生産が容易ではない X 結合活性が弱い 2
3 代表的な糖鎖合成法 : 研究背景 有機合成 細胞法 酵素法 利点大量合成可能非天然型類縁体合成可能水系 ( 環境 安全面 ) 多種合成可能水系 ( 環境 安全面 ) 単一化合物合成高選択性短工程数 簡便な操作 欠点テクニカル面で熟練が必要工程数が多い (Stepwise) 有機溶剤を使用分離精製が困難基質により細胞毒性誘発一般に天然型糖鎖のみ合成可能糖転移酵素 糖供与体が高価尐量合成向き基質 生成物が限定一般に天然型糖鎖を合成
研究背景 糖転移酵素 糖供与体が高価 酵素の固定化によるリユース系確立 尐量合成向き シクロデキストリン添加反応系を開発し 基質濃度を~10mMまで向上させ スケールアップをはかった 酵素では生成物が限定され天然型のみ合成可 今回の研究開発成果 4
5 新技術の基となる研究成果 技術 従来の糖鎖酵素合成の欠点であった非天然型糖鎖の合成に成功した グロボ系では Gb4のガラクトサミン部位をグルコサミンに置き換えた誘導体を酵素により簡便に合成した 特願 2009-179705 ネオラクト系では 機能性単糖であるシアル酸を複数導入した非天然型糖鎖合成に成功した 特願 2009-238144 W/2011/046057
新技術の基となる研究成果 技術 天然型グロボ系糖鎖 (SSEA 抗原 ) H H H H H H H H Gb 5 H H Gb 3 H H H MP H H H H H H H H H H MP H H H H HC H H H H H H H H H H Sia-Gb 5 (Siaa2-3Gb 5 ) H H H H H H H H H H H Gb 4 H H H H H H H MP MP 6
特願 2009-179705 新技術の基となる研究成果 技術 酵素による非天然型糖鎖合成 (Gb3 を原料として ) H H 天然型糖鎖 H H Gb 4 H H H H H H H H Gb 3 H UDP-GlcNAc, β1,3-gnt* 2d, 60% 6d, 88% Neisseria meningitidis MC58: lgta gene H H H H H H H H MP MP H H H UDP-Gal, β1,4-galt (TYB:human) GlcNAcb1-3Gb 3 H H H H H H H H H H H H H 3h, 98% 4h, quant. H H MP LacNAcb1-3Gb 3 7
特願 2009-179705 新技術の基となる研究成果 技術 酵素による非天然型糖鎖合成 (Gb3 を原料として ) H H H H H H H H H H H LacNAcb1-3Gb 3 H H H H H H H MP CMP-NANA, α2,3(n)-siat (CalBioChem;Rat) 3h, quant. HC H H H H H H H Siaa2-3LacNAcb1-3Gb 3 H H H H H H CMP-NANA, α2,6-siat (TYB:human) H H HC H H H H H H H MP H H 3h, 42% 26h, quant H H H H H H H H H MP Siaa2-6LacNAcb1-3Gb 3 8
特願 2009-238144 W/2011/046057 新技術の基となる研究成果 技術 酵素による非天然型糖鎖合成 ( ネオラクト系 ) H Siaa2-3LacNAc 4h, quant. H H H HC Siaa2-3LeX H H 3 C Siaa2-6LacNAc 3d, 19% 10d, 32% GDP-Fucose, a1,3-fuct* H H H H H H H GDP-Fuc a1,3-fuct H (CH 2 ) 12 N 3 H H H CH H H 3 C H H H H H H H H H HC H H H (CH 2 ) 12 N 3 H H 3d, 25% 10d, 40% Siaa2-6LeX 4h, 82% CMP-NANA 23h, 96% a2,6-siat(jt:photobacterium) CH H H H H H H H HC H Siaa2-3(Siaa2-6)LacNAc H H (CH 2 ) 12 N 3 H GDP-Fuc(2.5eq.), a1,3-fuct* CH H H 3 C H H H H (CH 2 ) 12 N 3 H Siaa2-3(Siaa2-6)LeX 9
特願 2009-238144 W/2011/046057 新技術の基となる研究成果 技術 合成した非天然型糖鎖の活性例 グルコサミン部に導入した a1,3- フコースが ガラクトース部に結合している a2,6- シアル酸結合を安定化した H H H H H HC H H H H CH H H 3 C H H H H H H H (CH 2 ) 12 N 3 H H CH H H 3 C H H H H (CH 2 ) 12 N 3 H Siaa2-6LeX Siaa2-3(Siaa2-6)LeX 10
特願 2009-238144 W/2011/046057 新技術の基となる研究成果 技術 合成した非天然型糖鎖の活性例 これらの化合物には インフルエンザウイルス増殖阻害活性があることを見出した H H H H H HC H H H H CH H H 3 C H H H H H H H (CH 2 ) 12 N 3 H H CH H H 3 C H H H H (CH 2 ) 12 N 3 H Siaa2-6LeX Siaa2-3(Siaa2-6)LeX 11
12 従来技術とその問題点 糖鎖合成では 有機合成法では時間とコストがかかる 酵素法では天然型しか合成できない等により 広く利用されるまでには至っていない 標的化合物に応じた合成法で生産する ( マイクロ波を利用した化学合成法など ) また 酵素合成でg~の多種生産も夢ではない
13 従来技術とその問題点 また 糖鎖のウイルス 細菌などへの相互作用解析は感染症予防研究などで重要と認識されつつも 活性が弱く 利用研究が進んでいない クラスター効果による活性向上我々の有するマイクロ波利用金属ナノ粒子作製技術を応用し 半径と固定化量をコントロールした 定量性を有する 高性能ナノ糖鎖 を調製する
14 従来技術とその問題点 クラスター効果 + 単分子認識系では Ka は小さい + ウイルスオリゴ糖 糖鎖糖がウイルスを捕捉 平面クラスター 縦のクラスター + ナノ粒子 リンカー クラスター化すると Ka が大きくなる ナノ粒子 +
15 新技術の特徴 従来技術との比較 従来の糖鎖酵素合成の欠点であった非天然型糖鎖の合成に成功した 特に 機能性糖であるシアル酸を多価含む糖鎖には様々な機能が期待できる 従来は生産量の点でアカデミックの使用に限られていたが 高活性型酵素を利用することで生産性が向上できたため 産業利用への展開を望むことが可能となった
16 想定される用途 本技術の特徴を生かすため 高性能ナノ粒子化することで 活性及び化合物の安定性が高まり ウイルス 毒素などを検出にメリットが得られる そして 診断薬開発 ( 高感度 定量簡易診断 ) に適用できる 診断薬以外に 創薬への展開も期待される また 化合物の物性に着目すると 化粧品基材に展開することも可能と思われる
17 想定される業界 利用者 対象 診断薬製造メーカー化粧品開発ウイルス 毒素等の研究所等 対象市場規模 生産がmgスケールのアカデミック市場から gスケールの診断薬 治療薬 kgスケールのコスメ部門など 可能性は大きい
実用化に向けた課題 現在 一部の新規糖鎖については インフルエンザウイルスの増殖阻害活性を持つことを確認済みである 今後 他のウイルス 毒素との結合活性や 化粧品としてのポテンシャルについて実験データを取得し 診断薬 治療薬 化粧品基材に適用していく条件設定を行う 実用化に向けて 安定して利用できるよう 技 術を確立する必要あり ( 高性能ナノ糖鎖 ) 18
企業への期待 未解決の 糖鎖の活性の弱さ については マイクロ波利用ナノ粒子技術との組み合わせにより克服できると考えている 診断薬メーカー 創薬 化粧品メーカー等との共同研究を希望 また 機能性化粧品基材を開発中の企業 新マテリアル開発分野への展開を考えている企業には 本技術の導入が一助となるのではないか 19
20 本技術に関する知的財産権 発明の名称 : SSEA 系新規糖鎖化合物 出願番号 : 特願 2009-179705 出願人 : 産業技術総合研究所 発明者 : 清水弘樹 西村紳一郎 発明の名称 出願番号 出願人 発明者 : シアリルラクトサミン系 シアリルルイスX 系のシアル酸とフコース含有新規糖鎖化合物 : 特願 2009-238144 W/2011/046057 : 産業技術総合研究所 : 清水弘樹 西村紳一郎
21 産学連携の経歴 本件 新規機能性糖鎖合成に関わり 2010 年ー日本たばこ産業株式会社とMTA 締結 2011 年 JST A-STEP FSステージ探索タイプに採択 2011 年ー片山化学工業株式会社と共同研究開始 マイクロ波利用合成装置開発 2008 年ー東京理化器械株式会社と共同研究 2009 年 ( 株 ) サイダと中小企業等製品性能評価事業 ( 折り紙付き )
22 お問い合わせ先 独立行政法人産業技術総合研究所 イノベーションコーディネーター 小高正人 TEL 029-861-6683 FAX 029-862-6048 e-mail m.kodaka@aist.go.jp