2013 年シアトル小児病院研修報告 兵庫県立こども病院産科病棟杉友ユリ はじめに兵庫県とワシントン州の国際交流の一環として シアトル小児病院派遣研修は毎年実施されています 行ってみたいなあと漠然と考えたことはありますが 助産師として勤務し 直接小児看護に携わる事から離れて久しい私がこの研修に参加する機会があるとは考えていませんでした しかし シアトル小児病院と関連病院の産科施設でも研修することができると聞き 派遣研修に応募しました そして幸いなことに 2013 年 3 月 3 名の医師と共にこの研修に参加する機会を頂きましたので 1 ヶ月間の経験を報告します 研修目標 1. シアトル小児病院での家族支援の実際を知る 2. シアトル小児病院とワシントン州立大学メディカルセンターとの連携について知る 3. ワシントン州立大学メディカルセンター産科部門での看護師 助産師の役割を学ぶ 4. その他 : 乳房ケアの見学退院指導の見学産前教室への参加出生前診断時の看護について知る シアトル小児病院で患者様 家族を支える施設 Ronald McDonald House 入院中の患者様 ご家族が宿泊できる施設で 23 年前から始まり 2003 年に改築された現在の建物は 48 室あるとのことでした 宿泊が優先されるのは1 長期宿泊の必要なご家族 2 経済的理由で宿泊先が無いご家族で 施設内には 宿泊部屋 ( シャワー トイレ ) キッチン 運動部屋 映画館 ランドリー パントリー 12~21 歳のこどものみが入れる部屋など 快適に過ごすためのあらゆる設備が併設されていました また 臓器移植を受けたこどもとご家族専用のアパートもあり 移植後 3~4 週間は宿泊できる ( 外界から隔離できる ) とのことでした Family Resource Center 院内にあるセンターで 兄弟と一緒に宿泊できる施設 図書室 マッサージ フリードリンクなどの設備があり 他院で出生した直後に児が搬送された場合には 産直後の母親が宿泊できる部屋も用意されていました 説明をしてくれた職員の方が 私達はご家族をあらゆるストレスから解放します と言っておられたのが非常に印象的でした Guest Services シアトル在住ではないご家族を対象としており 自宅との移動手段と宿泊施設の確保を主に担当されていました また 必要時はソーシャルワーカーを紹介して経済的問題への介入や精神的支援を行っている施設を紹介することもあるとのことでした
増築後のシアトル小児病院 Ronald McDonald House ベッドサイドでの看護 NICU 病棟と Medical Unit で実際の看護を見学させていただきました 保清 授乳 呼吸管理 輸液管理など 大きくは当院の看護と同内容でしたが 児に合わせて呼吸器条件を変更したり 術後鎮痛の麻酔管理 PI 確保等当院では医師が担当している業務内容も看護師が行っていました また ご家族が 24 時間ベッドサイドで過ごすことができるような設備が整っており いつでも育児参加や搾乳が出来 児の生活に合わせた退院指導が実施されていました ベッドサイドの清掃 リネン補充 物品管理などは業者委託されており 看護師が携わる必要がありません また 一人ひとりの児に必要な薬剤は薬剤部門で調剤された状態で配送され ミルクも児に合わせて調乳された物が配送されるなど 機能的な分業がなされていました NICU の病室 個人用に調剤された薬剤
出生前診断における支援当院産科病棟でも出生前診断で児に何らかの異常があり紹介されてくる妊婦さんが多数おられます シアトル小児病院でワシントン州立大学のメディカルセンターと連携して 産前から妊婦さんとご家族を支援している Prenatal Diagnosis&Treatment Program という施設を見学させていただきました ここでは 胎児エコ 専門の技師 循環器科医師 産科医師 カウンセラー 看護師が毎回の診察時に全員で妊婦さんと話し合いをされていました 妊娠 37 週以降になると 分娩方法の決定 ( 経腟分娩が可能か 計画的に帝王切開分娩とし 出生直後からシアトル小児病院で治療開始をするか ) 出生後の児の治療方針に関しての話し合いが持たれ 1 回の受診で 2~3 時間かかることもあると言われていました 見学させて頂いた中には 出生後 心マッサージをするか 蘇生はどこまでするか 何の薬剤を使用するか ECMO を装着するかなど 深刻な治療方針を決める段階に入っているご家族がおられ この段階に至るまでの精神的支援の深さを感じました 関連病院産科施設での見学 シアトル小児病院関連病院として UW Medical Center Northwest Hospital & Medical Center Midwives Clinic Bell town Clinic を見学させて頂ました 分娩場所の選択としては 日本同様に大学病院 大規模の総合病院 中規模の総合病院個人病院 クリニック バースセンター 自宅分娩などがあります ワシントン州立大学メディカルセンターでは年間 1800 件の分娩があり 正常 異常を問わず受け入れているとのことでした ハイリスク妊娠の対象疾患は 切迫早産 PIH GDM 胎児奇形 羊水過多 過少など対象患者はこども病院とほぼ同じで 治療内容もほぼ変わり無い様でした 見学当時は助産師 (Certificated Nurse-Midwife と言い 日本の助産師とは資格 業務内容が異なります ) は勤務しておらず 産科看護師が患者観察 分娩進行の判断 IV 管理 手術直接介助 間接介助などを行っておられました
設備としては全ての部屋が LDR で 病棟内に手術室が配置されているため緊急対応に即時対応できるようになっていました 見学時に当院での 超緊急帝王切開 に相当する状況がありましたが あっという間に産科医師 麻酔科医師 小児科医師が大勢駆け付け 帝王切開が開始されました ( このような状況でも もちろん主の立会いはできます ) 移動距離が短いという意外にも 産婦の約 90% が硬膜外麻酔を希望されるため 既に血管確保 バルンカテーテル挿入 母体監視装置が装着されているといった点で時間短縮が出来るという違いがありました LDR の病室 LDR の病室 ノースウェストホスピタルでは 医師が行う産科外来と助産師外来を見学させて頂きました どちらの外来でも胎児心拍の確認と妊婦さんの心身の状況を聞き 心配事や相談を中心に実施されていました 分娩の際は ノースウェストホスピタルに入院され 担当医や担当助産師が分娩介助に当たるとのことで 妊娠 ~ 出産を通して同じ医師 助産師に担当してもらえるというのは妊婦さんにとって非常に安心できるシステムだと感じました ベルタウンクリニックでは様々な出産 育児教室が行われており 出産前の両親学級を見学させて頂きました 毎週土曜日の午前 3 時間 4 週シリーズで日常生活の過ごし方から分娩教育 エクササイズと様々な内容で展開されていました 妊婦さんは全員ご主人と一緒に参加され パートナーを褒め合う時間 では 見学している私としては国民性の違いを感じる場面でした 日本の産科とは異なる点まず妊婦さんの体格が違い GDM の割合は 20 人に 1 人ということでした また 喫煙率と飲酒率が高いこと 問診票に薬物使用歴 精神疾患の既往歴 DV 被害歴に関する記入欄があることに驚きました また 出産時の硬膜外麻酔は 80~90% という高い割合で実施されるということでした
入院 出産費用が高額で在院日数が短いということは有名ですが 平均的に経膣分娩では翌日退院 帝王切開分娩では 3 日目退院 バースセンターでは産後 2 時間で帰宅することもあるとのことでした 退院後は主の育児参加が当たり前で 産後 3 週間の休暇を取ることも珍しくはないそうです アメリカでの体重増加の目安 平均的な料金 助産師 (CNM:Certificated Nurse-Midwife) の資格取得と業務内容は州によって違い はあるものの 1 看護師の免許を取得後 大学院で 2 年間の助産師プログラムのコースを 受ける ないしは 1 年間の認定校のコースを受けたのち取得する 2 大学院で 3 年間の助 産師プログラムのコースを受け アメリカ助産師協会の助産師資格試験に合格して取得す るという方法があるようです 業務の対象となるのは正常妊産褥婦だけでなく あらゆる 年代の女性で CNM として自立した業務をされていました また Doula の存在により妊産褥婦さんが多くの支援を得ておられました Doula とは ギリシャ語で お産をする人の母親のように世話をする人 という意味で 通常 2~7 日 間くらい講習を受け ( 解剖生理 分娩経過 妊婦の心理 コミュニケーション技術 産痛 緩和法 分娩進行のための体位や運動 産後の世話 ) その後 実習を受けて資格を取り 産婦や医療機関の推薦状を得る必要があるとのことです 業務は産前 産後の支援から出 産時のサポートなど様々です 1 健康な妊産婦を対象 : 妊婦検診 分娩介助 外陰部の局所麻酔 会陰切開 縫合 2 産婦人科検診 : 子宮癌検診 乳癌検診 性病 膣炎等の婦人科疾患の治療薬の処方 経口避妊薬の処方 IUD( 子宮内避妊リング ) の挿入 更年期ホルモン療法 産科外来内診 診察室 CNM が行う業務の一部
バースセンターの分娩室 バースセンターの分娩室 おわりに今回の研修を通して 7 施設の 14 部門の見学と家庭訪問 研修会への参加もさせて頂きました 滞在が短く感じられる程多くの経験をさせて頂き 出合った方々に温かくご指導して頂いたことは 人生における貴重な経験となりました 資金面 設備面での豊かさや充実した人員はうらやましい限りですが 合理的な機能 無駄を排斥する と言う姿勢は新病院に向けて参考となる点がありました また きちんと討論する場が設けられており 討論の回数が多いこと 参加者は納得がいくまで自分の意見交換を行い 納得したらその方針に沿って改善策を考えて実行するなどは 今後取り入れていきたいと思いました シアトル小児病院とワシントン州立大学メディカルセンターで接したスタッフの方々 シアトル小児病院副医院長 Melzer 先生 国際交流担当の Julieさん ノースウェストホスピタルの産科医 Dr.Kurachi CNM 押尾祥子先生 皆様に大変お世話になり この場を借りて深謝いたします また こども病院で応援して下さった前丸尾院長 前成田看護部長 看護部長室の皆様 国際交流委員会の西島先生 副委員長の田中亮二朗先生 井口さん このような機会をありがとうございました そして 3 月という忙しい時期に送り出してくれた産科病棟のスタッフの皆様に感謝いたします
REACH Conference で熱心に学ぶ様子 お世話になりました!