26 福島県農業総合センター研究報告第 7 号 1 緒言 モモは福島県を代表する品目であり 2011 年度農林水産統計における本県のモモ栽培面積は1,780ha 収穫量は29,000tと山梨県に次いで国内第 2 位に位置している 栽培面積からの品種構成比率は 中生種 あかつき が54.4% 晩生種

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果樹の生育概況

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モモ新品種 ‘つきあかり’

果樹の生育概況

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1 作物名     2 作付圃場 3 実施年度   4 担当

スライド 1

日本作物学会紀事 第77巻 第1号

1 著者が長い間研究してきた核果類(モモ スモモ オウトウ)のうち スモモとオウトウは結実が不安定で いかに安定して結実させるかが大きな課題になっている これに対し モモの結実確保は比較的容易だが 食味のばらつき を指摘されることが多い 品質の揃った果実を安定してとる モモではこれが課題であり 実現

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スプレーストック採花時期 採花物調査の結果を表 2 に示した スプレーストックは主軸だけでなく 主軸の下部から発生する側枝も採花できるため 主軸と側枝を分けて調査を行った 主軸と側枝では 側枝の方が先に採花が始まった 側枝について 1 区は春彼岸前に採花が終了した 3 区 4 区は春彼岸の期間中に採

茨城県農業総合センター園芸研究所研究報告第 13 号 半促成メロンの 4 月穫り栽培における品種選定および保温方法 金子賢一 小河原孝司 薄史暁 佐久間文雄 SelectionofUsefulCultivarsandaMethodofHeatInsulationinSe

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山形県におけるアカスモモ及び在来ナシの探索・収集

Weymouth,Bluetta,Earliblue,Duke,

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園芸豆図鑑「うめ」

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研究情報 渋ガキ 刀根早生 果実の海外輸出流通技術の開発 かき もも研究所主任研究員 岩橋信博 これまでかき もも研究所ではカキの海外輸出のため 改良ダンボールや 1 メチルシクロプロペン (1-MCP) を活かした出荷技術の確立に取り組んできました 改良ダンボールは水分ストレスを抑制し 1-MCP

本日のお話 つなぐことの意味 技術の効果 ( 第一期実用技術開発事業 ) 現地実証と産地への実用化 適用樹種拡大研究への発展 更なる共同研究 実用化に向けて

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( ) ( ) 87 ( ) 3 ( 150mg/l) cm cm 50cm a 2.0kg 2.0kg

Microsoft Word - 001_20【藤原孝】

あまおう の特長 あまおう は とよのか に比べて果実の着色が良好で厳寒期にも赤く色づき 果皮の張りが良く 光沢が優れます このため とよのか で必須であった 葉よけ や 玉出し という着色促進のための作業を軽減できます 果実の形は とよのか に比べて丸く 表面の溝が少なく 形が整っています 果汁の

Furukawa et al. (2004) fms13 Takagi et al. (2001) Tru ) PCR 8) 3 DNA HE 11) PIC 12) 13) ( ) 1 4 PIT 14) DNA mtdna msdna DN

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緒言 カンキツ類では着果過多を防ぎ, 適度な着果とするため摘果は必須の作業である. その目的は隔年結果の防止, 品質向上などさまざまであるが, 最も大きなねらいは目標とする大きさの果実を生産することにある. 目標とする果実の大きさはカンキツの種類によって異なっており, それは市場で

果樹の生育概況

2

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ばれいしょ「長系134号」

1

群馬県農業技術センター研究報告第 7 号 (2010) 群馬県農業技術センター研究報告第 7 号 (2010):1~7 検索語 : リンゴ 早生品種 育成品種 おぜの紅 リンゴ新品種 おぜの紅 の育成 堀込充 中條忠久 * 阿部和幸 *2 古籐田信博 *2 岩波宏 *2 森谷茂樹 *2 要 旨 19

Ⅱ りんご生産情報 1 果実肥大 作業の進み (1) 果実肥大 9 月 11 日現在の果実肥大は 概ね平年並みから平年を上回っている 果実肥大 (9 月 11 日現在 横径 :cm 平年比:%) 地 域 年 つがる ジョナゴールド ふ じ 本 年 黒 石 平 年 (

札幌市道路位置指定審査基準


5 事務局 審査会の事務局は 福島県農林水産部農業振興課におく 第 5 奨励品種決定調査の実施県は 奨励品種の決定に当たっては 奨励品種決定調査を行うものとする 1 奨励品種決定調査の種類 (1) 基本調査供試される品種について 県内での普及に適するか否かについて 栽培試験等によりその特性の概略を明

2. 摘花の実施早期の摘花 摘果は 良好な果実肥大や翌年の花芽確保のために また 適正樹勢の維持のために重要な作業となる 仕上げ摘果を満開 30 日後までに終了することを目標に作業計画を立てる そのために摘花を積極的に行い 落花後の摘果作業の時間短縮を図る 腋芽花の他 生育不良の花そう 枝の直上直下

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地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS) 研究課題別中間評価報告書 1. 研究課題名 テーラーメード育種と栽培技術開発のための稲作研究プロジェクト (2013 年 5 月 ~ 2018 年 5 月 ) 2. 研究代表者 2.1. 日本側研究代表者 : 山内章 ( 名古屋大学大学

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DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

Microsoft Word - 【セット版】別添資料2)環境省レッドリストカテゴリー(2012)

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1 試験分類  効率的農業生産技術確立対策試験

吹田市告示第  号

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Ⅰ 収穫量及び作柄概況 - 7 -

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豚における簡便法を用いた産子数の遺伝的改良量予測 ( 独 ) 農業 食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所 石井和雄 豚の改良には ある形質に対し 優れた個体を選抜してその個体を交配に用 いることで より優れた個体を生産することが必要である 年あたりの遺伝的改良量は以下に示す式で表すことができる 年

Sport and the Media: The Close Relationship between Sport and Broadcasting SUDO, Haruo1) Abstract This report tries to demonstrate the relationship be

隔年結果


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18 福島県農業総合センター研究報告第 5 号 1 緒言 表 1 試験区の構成 福島県会津地域の観光ブルーベリー園では 北部ハイブッシュ系品種が多く導入されており 6 月下旬から 8 月上旬頃までが主な収穫期となっている 一方 観光ブルーベリー園における来園者の需要は 5 月下旬頃から 9 月中旬頃

ここでは 宮内イヨカン成木園で 果樹の剪定枝のチップマルチが 樹体成長 樹体栄養 果実品質 土壌成分 雑草の発生に及ぼす影響について調査を行った 材料および方法試験は本農場の宮内イヨカン成木園 (1981 年 3 月に苗を栽植 ) で行った マルチ区としてモモ カキ カンキツのチップを敷き詰めた区と

01-加藤 実-5.02

5

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ビワ新品種 麗月 種育成を目標に交雑を行った結果, 麗月 を育成したので, その育成経過および特性の概要を報告する 育成経過 1976 年, 茂木 の枝変わりで早生品種の 森尾早生 に, 中国導入品種で良食味品種の 広東 の花粉を交配した ( 第 1 図 ) 翌年, 獲得した交雑種子を播種し, ガラ

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11 福島農総セ研報 7 : 11 18(2015) りんかリンドウ新品種 ふくしま凜夏 の育成 1 福田秀之 野田正浩 大河内栄 Development of a New Gentian Cultivar Fukushimarinka Hideyuki FUKUDA,Masahiro NODA a

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メラレウカ苗生産技術の検討 供試品種は レッドジェム, レボリューションゴールド を用い, 挿し木を行う前日に枝を採取し, 直ちに水につけ持ち帰り, 挿し穂の基部径を 0.8~1.2mm,1.8~2.2mm,2.8~3.3mm で切り分けた後, 長さ約 8cm, 基部から 3cm の葉を除いた状態に

トマト 等級階級箱詰定数 1 個重量パック詰め 3L g 以上 ( 定数基準 ) 2L g~250g 2 個 L g~200g 3 個 C M g~160g 4 個 S g~130g 56 個 1 パックは 400g 500g を標

22.Q06.Q

(1) 購入苗 品種 サイズ 苗数 購入日 ( 植付日 ) くろがね 大玉 2 本 4 月 24 日 マイボーイ 中玉 3 本 4 月 24 日 愛娘 小玉 3 本 5 月 2 日 黒姫 小玉 3 本 5 月 2 日 縞王 大玉 1 本 5 月 16 日 合計 11 本 平成 26 年スイカ作り 2

⑴ ⑵ ⑶ ⑵

リンゴ黒星病、うどんこ病防除にサルバトーレME、フルーツセイバーが有効である

晩生種として優れていることが判明し 村名に因んで 河内晩柑 と新 たに品種名が付けられ奨励された 昭和 45 年 熊本県果実連は ジュ ーシーオレンジ と商標名を付けて本格的な販売を開始した 平成 15 年の栽培面積は 381.1ha で その内 熊本県が 201.5ha で 53% を占め 次が愛

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25 福島農総セ研報 7 : 25 30(2015) モモ新品種 ふくあかり の育成 赤井広子 佐藤守 岡田初彦 小野勇治 大橋義孝 1 木幡栄子 山口奈々子 2 斎藤祐一 Development of a New Peach Cultivar Fukuakari Hiroko AKAI, Mamoru SATO, Hatsuhiko OKADA, Yuji ONO, Yoshitaka OHASHI 1, Eiko KOHATA, Nanako YAMAGUCHI 2 and Yuichi SAITO Abstract Fukuakari is a new peach cultivar, which was resulted from a cross between Kawanakajima hakuto and Momo Fukushima No.8 in Fukushima Fruit Tree Experiment Station(the present Fruit Tree Research Centre of Fukushima Agricutural Technology Centre) in 1999. It blossoms at the same time with Akatsuki and it has abundant pollens with high fertility, bringing stable fruitsetting. Fukuakari matures from the beginning to late of July. Skin color is red with some stripe. Fruit weight is approximately 293g in a seedling tree and 287g in the tree on Tsukuba No.9 rootstock. Since soluble solids concentrations (Brix) ranges 12 to 14, with 4.4 to 4.8 in ph of fruit juice, fruit taste is sweet. Fruit weight of Fukuakari is heavy as early varieties, and coloring in fruit shin is easy in spite of delaying the start of coloring. Fukuakari can be expected as an alternative cultivar to Gyousei, because of higher advantage of productive property on the orchard management in comparison with Gyousei. Key words : peach, new cultivar, Fukuakari, early variety, crossbreeding, species characteristics キーワード : モモ 新品種 ふくあかり 早生種 交雑育種 品種特性 受理日平成 26 年 10 月 17 日 1 現県北農林事務所安達農業普及所 2 現会津農林事務所喜多方農業普及所

26 福島県農業総合センター研究報告第 7 号 1 緒言 モモは福島県を代表する品目であり 2011 年度農林水産統計における本県のモモ栽培面積は1,780ha 収穫量は29,000tと山梨県に次いで国内第 2 位に位置している 栽培面積からの品種構成比率は 中生種 あかつき が54.4% 晩生種 川中島白桃 が14.1% と中晩生種が高く 収穫労働力の確保や共同選果場の効率的な運営等の観点から大きな問題となっている 7 月に収穫される早生種は 日川白鳳 や 暁星 が中心に栽培され 栽培面積の11.5% に留まっている 日川白鳳 は肉質が硬く 梅雨期に適した早生種として定着しているが 年により結実不良が見られ 生産が不安定である また 暁星 は糖度が高く 品質が安定しているものの 小玉のため生産性が低いなど栽培上の課題がある このようなことから 果実品質及び栽培特性に優れ 市場競争力の高い本県独自のモモ早生種の育成が望まれてきた 福島県農業総合センター果樹研究所では この度 着色が良く 甘味が強いなど果実品質に優れ 結実が安定した大玉で生産性の高い早生種 ふくあかり を育成したので その育成経過と品種特性について報告する 2 育成経過 ⑴ 育種目標福島県のモモは7 月から9 月まで収穫されているが 品種構成は あかつき を中心とした中生種が 57% を占め 早生種は収穫期が梅雨期に重なり品質が不安定なことや有望な品種が少ないことから 植栽は 12% と少ない傾向にある そのため 暁星 を対照として 品質が良好で栽培しやすい早生種の育成を目指した ⑵ 育成経過本県のモモの交雑育種は1984 年から開始し あかつき に集中した品種構成を改善するために あかつき の前後に収穫される早生種及び中生種の育成を目標に取り組んできた そのなかで 1999 年 4 月に種子親を 川中島白桃 花粉親を モモ福島 8 号 ( ゆうぞら ちよひめ ) として交配を行った 2000 年 2 月に播種し 交雑実生 39 個体を得て 5 月に個体番号 78-7 を付して選抜ほ場に定植した 2003 年に初結実し 一次選抜において 暁星 の収穫時期で品質の優れる系統を選抜し 2005 年に注目系統とした 2006 年に モモ福島 11 号 の番号を付与し 二次選抜試験を行うと同時に福島市 伊達市 桑折町 国見町 で現地試作試験を開始した 2007 2008 2009 2011 年に 試作した生産者 関係機関 団体担当者等による検討を行った結果 その優秀さが認められ 2013 年 12 月に ふくあかり として品種登録の出願を行った 3 試験方法 原木 (2000 年定植 ) 及び筑波 9 号実生台 (2005 年 1 年生芽接ぎ苗定植 ) を供試した 調査は発育経過 果実肥大 果実形質 品質 官能検査による品質評価 樹体生育 遺伝子型について行った 果実肥大経過は15 果にラベルして満開後 35 日前後から7 日間隔で果径 ( 縦径 横径 側径 ) を測定し 果実を球体と見なし体積指数 ( 縦径 横径 側径 π 6000) により果実肥大の推移を解析した 果実形質は農林水産省品種登録の審査基準 特性表 ( もも種 ネクタリン変種 ) により あかつき を基準品種として測定または達観により調査した 果実品質は収穫ごとに10 果を抽出し 果重 硬度 糖度 ph 等を調査した 硬度はユニバーサル型硬度計で 円錐型頭針を使用し 果実の縫合線より90 度ずれた赤道部 2か所を有皮のまま測定した 糖度は縫合線より 90 度ずらした2か所から 果皮側約 2cmの幅で核に至るまでくさび型に果肉を採取し 果肉 20 片を有皮のまま搾汁して屈折糖度計で測定した phは糖度で採取した果汁をphメーターで測定した 官能検査による品質評価は2007 2008 2009 2011 年に 試作した生産者 県行政 研究 普及及びJA 担当者等をパネリストとし 暁星 を基準品種として外観 食味 普及性等の17 項目について -3( とても劣る ) -2( かなり劣る ) -1( すこし劣る ) 0( 基準と同等 ) +1( すこし優る ) +2( かなり優る ) +3( とても優る ) の7 段階にスコア化して行った 樹体生育は農林水産省品種登録の審査基準 特性表 ( もも種 ネクタリン変種 ) により新梢の発生密度 樹姿 樹勢等について あかつき を基準品種として測定または達観により調査した 遺伝子型は幼葉約 0.1gからDNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN 社 ) を用いてゲノムDNAを抽出し 分析に 10) 12) 用いた SSR 分析は 農研機構果樹研究所及び欧米 1) 5)8)9) で開発されたSSRマーカーを判別に供試し 各 SSRマーカーはforward 側のプライマーの5' 末端をFam Tet Vic Nedのいずれかでラベルして PCRを行った 得られた増幅産物は変性アクリルアミドゲルまたは高分子ポリマーで分画した 解析は 変性アクリルアミドゲルを用いた時はDNAシーケンサー (Prism 377, PE-ABI) を使用し 内部標準の蛍

モモ新品種 ふくあかり の育成 27 光ラベルDNAマーカー (GS350TAMRA) を指標に GENESCAN 解析ソフト (PE-ABI) で行った 高分子ポリマーを用いた時はDNAシーケンサー (ABI, 3100 Genetic Analyzer) を使用し 内部標準の蛍光ラベル DNAマーカー (400HD-ROX) を指標にGENESCAN 解析ソフトで増幅産物の断片長を解析し 各品種の遺伝子型を決定した 4 試験結果 ⑴ 発育経過開花期は盛期が原木で4 月 21 日 (2006~2012 年平均 ) 筑波 9 号実生台で4 月 22 日 (2009~2012 年平均 ) であり あかつき 暁星 と同時期である ( 表 1 表 2) 花は花粉を有し 開花盛期から収穫盛期までの成熟日数は99 日で 暁星 より3 日程度長く あかつき より5 日程度短い 育成地 ( 福島市飯坂町 ) における 収穫期は7 月下旬から8 月上旬である ( 表 2) ⑵ 果実肥大経過原木の果重は5 年生 ( 結実 4 年目 ) から早生種の育種目標である250gを超え 筑波 9 号実生台では6 年生から290g 以上となっている ( 表 1 表 2) 果実肥大は体積指数の推移でみると硬核期が終了する満開後 70 日頃から旺盛となった ( 図 1) 2011 年の全収穫果における果重の分布は 250g 以上が原木 11 年生で70.0% 筑波 9 号実生台 7 年生で72.7% と ともに7 割を超え 原木が250g 以上 280g 未満 筑波 9 号実生台が250g 以上 310g 未満の果実が多かった ( 図 2) ⑶ 果実形質 品質果形は扁円形であり 果重は原木で果実肥大が安定した2006~2012 年の7か年平均が293.2g 筑波 9 号実 表 1 ふくあかり 原木の収穫期及び果実品質等 300 調査年樹齢 開花収穫期果重糖度盛 (g) ( Brix) ph 硬度始盛終 (kg) 2004 4-7/16 7/20 7/26 210.5 12.5 4.8-2005 5-7/28 8/4 8/4 256.5 13.7 4.7 2.0 2006 6 4/29 7/31 8/3 8/3 264.7 12.2 4.7 1.7 2007 7 4/16 7/26 7/29 8/1 269.1 12.0 4.6 2.2 2008 8 4/17 7/24 7/27 7/30 341.7 14.3 4.7 2.3 2009 9 4/14 7/21 7/26 7/30 297.8 12.8 4.6 2.4 2010 10 4/24 7/26 7/29 8/2 291.6 14.4 4.7 2.4 2011 11 4/26 7/30 8/2 8/4 291.2 13.0 4.6 2.2 2012 12 4/27 7/23 7/30 8/2 296.6 13.2 4.6 2.3 平均 * 4/21 7/25 7/29 8/1 293.2 13.1 4.6 2.2 注 )* 果実肥大が安定した2006~2012 年の7か年の平均値 体積指数 250 200 150 100 50 2010 年 2011 年 2012 年 0 30 40 50 60 70 80 90 100 満開後日数 ( 日 ) 図 1 ふくあかり ( 筑波 9 号実生台 ) 体積指数の推移 満開日 :2010 年 4 月 24 日 2011 年 4 月 26 日 2012 年 4 月 27 日 表 2 ふくあかり 暁星 及び あかつき の発育経過 果実品質等 発育経過 果実品質 品種名調査年樹齢開花期収穫期成熟果重糖度日数 (g) ( Brix) ph 硬度始盛終始盛終 (kg) ふくあかり 2009 5 4/8 4/12 4/22 7/21 7/30 7/30 109 245.7 11.8 4.4 2.4 2010 6 4/19 4/24 4/29 7/26 7/29 8/2 96 292.2 14.3 4.8 2.4 2011 7 4/18 4/26 5/1 7/30 8/2 8/5 98 318.5 13.4 4.6 2.3 2012 8 4/24 4/27 5/2 7/23 7/30 8/2 94 293.0 12.5 4.6 2.4 平均 4/17 4/22 4/28 7/25 7/30 8/2 99 287.4 13.0 4.6 2.4 暁星 2009 4 4/9 4/14 4/22 7/17 7/21 7/24 98 242.4 14.0 4.4 2.3 2010 5 4/18 4/25 5/2 7/26 7/29 8/2 95 225.7 13.1 4.6 1.9 2011 6 4/18 4/27 5/1 7/29 8/4 8/8 99 246.3 11.6 4.5 1.8 2012 7 4/24 4/29 5/2 7/26 7/30 8/3 92 240.0 13.3 4.6 1.9 平均 4/17 4/23 4/29 7/24 7/28 8/1 96 238.6 13.0 4.5 2.0 あかつき 2009 10 4/9 4/15 4/22 7/28 7/31 8/6 107 318.8 11.7 4.4 2.3 2010 11 4/18 4/25 5/3 8/3 8/6 8/12 103 278.7 13.9 4.5 2.1 2011 12 4/18 4/27 5/2 8/5 8/10 8/16 105 277.6 12.0 4.6 1.9 2012 13 4/24 4/29 5/2 8/7 8/10 8/13 103 262.5 13.4 4.6 2.0 平均 4/17 4/24 4/29 8/3 8/6 8/11 104 284.4 12.8 4.5 2.1 注 1) 台木はすべて筑波 9 号実生 注 2) 成熟日数は開花盛期 ~ 収穫盛期の日数

28 福島県農業総合センター研究報告第 7 号 品種 果形 果頂部の形 生台で2009~2012 年の4か年平均が287.4gと 早生種としては大果である ( 表 1 表 2 表 3) 果頂部は広浅凹形であり 縫合線の深さは0.5mmと あかつき 並みに浅い 着色は はじめ斑状に赤色が入り 暁星 と比較して着色進度が遅い傾向にあるものの 収穫期には全面に着色する ( 表 3 図 3) 果肉は溶質であり 果汁は多い 果肉の粗密は中程度であるが 繊維が少し感じられる 糖度は原木が7か年平均で13.1 Brix 筑波 9 号実生台が4か年平均で13.0 Brix と 暁星 並みに甘味が多く phは原木 筑波 9 号実生台ともに4.6 程度と 暁星 よりやや高く 酸味が少ない 収穫期を判断する基準となる硬度は 原木で2.2kg 筑波 9 号 表 3 ふくあかり の果実形質 縫合線の深さ (mm) 果実の着色型 果肉の溶解性 果汁の多少 果肉の粗密 果肉の繊維 ふくあかり 扁円形 広浅凹 0.5 斑状 溶質 多 中 少 中 あかつき 扁円形 広浅凹 0.4 条状 溶質 多 密 少 中 注 ) ふくあかり品種登録出願の特性表より抜粋 表 4 官能検査による品質評価 調査年 2007 2008 2009 2011 平均 項目 調査日 7/26 7/25 7/21 8/2 参加人数 15 22 20 18 外観 -0.33 0.64 0.05 0.00 0.09 外観の好み -0.47 0.41-0.25-0.11-0.10 果形 0.07 0.64 0.25 0.72 0.42 着色 -0.07-0.50 0.10 0.39-0.02 着色の好み -0.40-0.55-0.65-0.33-0.48 食べた時の香り 0.07 0.05 0.25-0.06 0.08 香りの好み 0.00 0.18 0.20 0.28 0.16 肉質 -0.20-0.55-0.20-0.11-0.27 肉質の好み 0.20-0.05 0.00 0.17 0.08 果汁 -0.13 0.23 0.10 0.39 0.15 甘味 0.60 1.00 0.15 0.56 0.58 酸味 0.13-0.10 0.00 0.17 0.05 甘酸バランス 0.20 0.19 0.05 0.28 0.18 食味 0.60 0.45-0.10 0.61 0.39 総合的な好み 0.00 0.50 0.05 0.33 0.22 商品性 0.07 0.74 0.30 0.50 0.40 普及性 -0.07 0.74 0.15 0.50 0.33 香気 実生台で2.4kg 程度であり 適熟である 果肉色は乳白色で 紅色素が果肉内に見られるが 核周囲には見られない 渋み及び苦味はなく あかつき と同等にモモ特有の香りを有する 蜜入りはほとんど見られない 核割れは収穫初期に発生が見られることがあるものの 早生種としては少なく 玉揃いは良い 収穫前の生理落果の発生は少ない 2012 年には粟粒からの果皮裂果が見られたが 発生量は少なかった ⑷ 官能検査による品質評価 2007 2008 2009 2011 年の4か年における官能検査では 基準品種の 暁星 に対して 外観の好み 着色の好み 肉質は劣り 果形 甘味 甘酸バランス 食味は優る評価であった また 総合的な好み 商品性及び普及性についても 暁星 と同等またはやや優るとの評価が得られた ( 表 4) ⑸ 樹体生育樹姿は斜上の あかつき より開張し 樹勢は あかつき 並みの中位であるが 樹の大きさは あかつき よりやや小さく中程度である 新梢の発生密度は あかつき と同じ密である 節間長は2.5cmで あかつき と同じ中程度であり 葉身の長さは16.9cmで あかつき よりやや短い また 花芽の着き方は あかつき と同じ複で 花芽密度は65.0% で あかつき と同じくかなり密である 花弁の大きさは3.2cm 2 であり あかつき よりやや小さい ( 表 5) 120 果数 ( 個 ) 100 80 60 40 筑波 9 号実生台 原木 20 0 <180 180~ 200~ 230~ 250~ 280~ 310~ 350~ 果重 (g) 図 2 果重の分布 (2011 年 ) 図 3 ふくあかり の果実外観

モモ新品種 ふくあかり の育成 29 ⑹ SSRマーカーによる親子判別と収穫時期 果実形質の遺伝子型 ふくあかり の遺伝子マーカー M4cの遺伝子型は 74/88であり 川中島白桃 から74 モモ福島 8 号 から88が遺伝していた 同様に他の遺伝子マーカーにおいても両品種から一つずつ遺伝していたため ふくあかり の交配親は 川中島白桃 と モモ福島 8 号 であることが確認できた ( 表 6) また 収穫期に関連する遺伝子マーカー M12aが ちよひめ と同じ177/177で早生 酸味に関連する遺伝子マーカー MA026aが ちよひめ と同じ195/195を示して甘味 果肉色に関連する遺伝子マーカー UDP96005が 151/171で白肉と判定され 表現形質と同じであり 遺伝的にも確認された ( 表 7) 5 考察 ふくあかり は4か年の官能検査において 斑状に着色する特性があるため 果実全面にむらなく着色 する 暁星 より着色の好みが劣る評価となった また 肉質もやや繊維が感じられるため ち密な 暁星 より劣る評価を受けた しかし 果形や甘味 食味 総合的な好みが 暁星 より優る評価を受け 暁星 より大玉で生産性が高いことから 早生の主力品種に替わる新たな品種として期待され 商品性や普及性が高く 農家経営上有望な早生品種であると判断された 栽培上の留意事項として 以下の点が挙げられる 反射シートの設置期間が長いと着色が暗赤色となることがあるため 敷設時期に注意する また 結果年数が長くなると側枝が下垂する傾向があるため 適宜側枝を切りつめて樹勢の維持に努める 併せて 他の品種と同様に 樹冠形成期の主枝延長枝は下垂させないように適宜切り返しを行い養成する ふくあかり は晩生種である 川中島白桃 と モモ福島 8 号 の交配から選抜された早生種であるが 収穫期に関連する遺伝子マーカー M12aを調べたところ 早生の遺伝子型を有することが確認され また 酸味に関連する遺伝子マーカー MA026aにより甘味 表 5 ふくあかり の樹体生育 品種樹姿樹勢 樹の大きさ 新梢の発生密度 節間長 (cm) 葉身の長さ (cm) 花芽の着き方 花芽密度 (%) 花弁の大きさ (cm 2 ) ふくあかり開張中中密 2.5 16.9 複 65.0 3.2 あかつき斜上中大密 2.6 19.7 複 64.3 3.7 注 ) ふくあかり品種登録出願の特性表より抜粋 表 6 SSR マーカーによる ふくあかり の親子判別 (2006 年 ) 品種 SSR マーカー M1a M4c M6a M12a M15a MA006b MA007a MA017a MA035a ふくあかり 80/80 74/88 193/201 177/177 136/136 295/295 121/133 165/177 167/167 川中島白桃 80/80 74/94 197/201 177/195 136/147 295/295 121/133 165/177 167/179 モモ福島 8 号 80/80 88/94 193/201 177/195 136/136 295/295 111/133 165/177 167/179 品種 SSR マーカー MA066a BPPCT007 BPPCT017 BPPCT025 CPPCT026 UDP96005 MA026a BPPCT042 ふくあかり 144/152 125/147 158/158 194/194 171/182 151/171 195/195 246/246 川中島白桃 144/144 147/147 158/160 186/194 171/171 151/157 195/197 246/246 モモ福島 8 号 148/152 125/143 158/160 194/194 163/182 157/171 191/195 246/248 表 7 品種特性に関連した SSR マーカーによる遺伝子型の推定 (2009 年 ) SSR マーカーふくあかり川中島白桃モモ福島 8 号ちよひめ遺伝子型の示す形質 M12a 177/177 177/195 177/195 177/177 177(177ホモ型で早生 ) 収穫期 早生 中生 中生 早生 195(195ホモ型で晩生 ) MA026a 195/195 195/197 191/195 195/195 D( 甘味 )=195 酸味 甘味 / 甘味 甘味 / 酸味 酸味 / 甘味 甘味 / 甘味 d( 酸味 )=191,197 UDP96005 151/171 151/157 157/171 157/171 Y( 白 )=151,159,171,173 果肉色 白 / 白 白 / 黄 黄 / 白 黄 / 白 y( 黄 )=157 注 ) 収穫期は あかつき の収穫期を基準に早生 中生 晩生で区分し 品種構成における区分とは異なる

30 福島県農業総合センター研究報告第 7 号 果肉色に関連する遺伝子マーカー UDP96005により白肉の遺伝子型を有するため 食味良好な早生の白肉モモの母本として利用できると考えられる 6 摘要 ⑴ ふくあかり は 川中島白桃 と モモ福島 8 号 ( ゆうぞら ちよひめ ) の交雑実生から選抜した福島県オリジナル品種である 2013 年 12 月に ふくあかり として品種登録を出願した ⑵ 育成地 ( 福島市飯坂町 ) における収穫期は7 月下旬 ~8 月上旬である 着色は良好で 果実重は原木 筑波 9 号実生台ともに290g 前後であり 暁星 より大果である 糖度は原木が13.1 Brix 筑波 9 号実生台が13.0 Brix であり 暁星 と同等で甘味が強い phは原木 筑波 9 号実生台ともに4.6 程度と 暁星 よりやや高く 酸味は少ない ⑶ 生産者 県行政 研究 普及及びJA 担当者等をパネリストとした官能検査では 暁星 を基準として果形 甘味 甘酸バランス 食味が優る評価が得られた ⑷ 花粉があり結実が良いため 摘蕾作業は あかつき と同程度に実施し 初期生育を確保する 反射シートの設置期間が長いと着色が暗赤色に仕上がることがあるため 敷設時期に注意する また 他の品種と同様に 樹冠形成期の主枝延長枝は下垂させないように適宜切り返しを行い 養成する 謝辞 本品種の育成にあたり 現地試作試験に御協力いただいた生産者の方々 ほ場管理及び果実調査等を実施された歴代研究員の方々 官能検査試験に御協力いただいた関係者の方々に感謝します 引用文献 1 Aranzana, M. J., J. Garcia-Mas, J. Carbo and P. Arus. 2002. Development and variability analysis of microsatellite markers in peach. Plant Breed. 121:87-92. 2 Cipriani, G., G. Lot, W. G. Huang, M. T. Marrazzo, E. Peterlunger and R. Testolin. 1999. AC/GT and AG/CT microsatellite repeats in peach (Prunus persica (L.) Batsch): Isolation, characterization and cross-species amplification in Prunus. Theor. Appl. Gnent. 108:765-773. 3 Dirlewanger, E., P. Cosson, M. Tavaud, M. J. Aranzana, C. Poizat, A. Zanetto, P. Arus and F. Laigret. 2002. Development of microsatellite markers in peach (Prunus persica (L.) Batsch) and their use in genetic diversity analysis in peach and sweet cherry (Prunus avium L.). Theor. Appl. Genet. 105: 127-138. 4 Lopes, M. S., K. M. Sefc, M. Laimer and A. Da Camara Machado. 2002. Identification of microsatellite loci in apricot. Mol. Ecol. Notes 2:24-26. 5 Mnejja, M., J.Garcia-Mas, W. Howad, M. L. Badenes and P. Arús. 2004. Simple sequence repeat (SSR) markers of Japanese plum (Prunus salicina Lindl.) are highly polymorphic and transferable to peach and almond. Mol Ecol Notes 4:163-166. 6 大橋義孝 小野勇治 木幡栄子 岡田初彦 佐藤守 木村鉄也 西谷千佳子 山本俊哉.2012. モモの品種判別技術の開発. 福島農総セ研報 4:29-38. 7 大橋義孝 小野勇治 木幡栄子 岡田初彦 佐藤守 山口正巳 西谷千佳子 山本俊哉.2012. モモの形質に関連したSSRマーカーの取得. 福島農総セ研報 4:39-52. 8 Sosinski, B., M. Gannavarapu, L. D. Hager, L. E. Beck, G. J. King, C. D. Ryder, S. Rajapakse, W. V. Baird, R. E. Ballard and A. G. Abbott. 2000. Characterization of microsatellite markers in peach (Prunus persica (L.) Batsch). Theor. Appl. Genet. 101:421-428. 9 Testolin, R., T. Marrazzo, G. Cipriani, R. Quarta, I. Verde, M. T. Dettori, M. Pancaldi and S. Sansavini. 2000. Microsatellite DNA in peach (Prunus persica (L.) Batsch) and its use in fingerprinting and testing the genomic origin of culitvers. Genome 43:512-520. 10)Yamamoto, T., K. Mochida and T. Hayashi. 2003. Shanhai Suimitsuto, one of the origins of Japanese peach cultivars. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 72:116-121. 11)Yamamoto, T., K. Mochida, T. Imai, Y. Z. Shi, I. Ogiwara and T. Hayashi. 2002. Microsatellite markers in peach (Prunus persica (L.) Batsch) derived from an enriched genomic and cdna libraries. Mol. Ecol. Notes 2:298-301. 12)Yamamoto, T., M. Yamaguchi and T. Hayashi. 2005. An integrated genetic linkage map of peach by SSR, STS, AFLP and RAPD. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 74:204-213.