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5 学位論文等の審査及び最終試験 学力の結果確認報告書 D-13 審査委員主査 : 宇田川宣人 ( 九州産業大学芸術学部美術学科教授 指導教授 ) 副査 : 松永洋子 ( 九州産業大学芸術学部美術学科教授 ) 渡邊雄二 ( 九州産業大学芸術学部美術学科教授 ) 樋口とも子 ( 大阪市立東洋陶磁美術館学芸員 ) 氏名 : 梁鎬年 ( ヤンホヨン ) 学位論文 作品題目 : 論文題目 : 韓国絵画の近代化と女性の表現作品題目 :1. かたまりⅠ 2. 自己同一性 自己同一性 自己同一性 かたまりⅡ 6. 自己同一性 7. 傷跡 8. moment 学位論文等の審査結果の要旨 : 梁氏の論文は韓国の古代から近代における絵画の女性表現に焦点をあて 女性表現の変遷を美術史的視点と論者の画家としての美術 造形的観点にたって考察した論考である 第 1 章の 韓国の伝統的絵画と女性の表現 では 第 1 節において朝鮮時代前期以前と 4 世紀後半から 15 世紀までと 第 2 節朝鮮時代後期以降 16 世紀から 19 世紀末までの 2 期に分けて 4 世紀頃から 19 世紀末までの絵画における女性の表現について論述した 第 1 節では 韓国最初の女性の表現とされている 4 世紀中期の高句麗における墓主夫人像などの朝鮮時代前期以前の女性の表現は公的な肖像画の一部として扱かわれていること また 儒教的挿絵のなかで教育 訓戒の目的のための人物として表わされていることを述べた 第 2 節の 朝鮮時代後期以降 では文人画家尹斗緒 ( ユン ドゥソ ) とその一族と趙榮祏 ( チョ ヨンソク ) また 画員画家である金弘道( キム ホンド ) と申潤福 ( シン ユンボク ) の作品を取り上げて考察し この時代の女性表現は庶民の生活や労働の姿の表現を目的とした作品の中に女性が表わされているだけで 近代以降の自立した人格を持つ人間としての女性の表現と異なる表現であることを論述した 特に女性を主体的に表現した美人画においても近代の女性の表現と異なり 妓生と言う風俗職業としての働く女性の姿の表現の範疇にあると論者の見解を述べている 第 2 章 朝鮮時代における西洋画風 では 17 世紀に中国から流入され 一部上流階級に普及した西洋風絵画を考察した結果 数点の美人画についてチマのひだの陰影による表現に西洋画風的表現方法を垣間見えることなどを述べ それ以外の美人画については陰影

6 法 遠近法 立体表現などの西洋風絵画的表現が確認されなかったことが述べた さらに この章では女性の表現と異なる 西洋画風絵画についても歴史的 造形的な考察をおこなった 第 3 章の 外国人による韓国女性の絵画表現 (19 世紀末ー 20 世紀初期 ) においては朝鮮を訪問し 当時の韓国の女性を表現した外国人とその作品について考察した ペドゥウェルなど外国人画家は自国における韓国風俗紹介の著書出版を目的として 女性をスケッチし 表現したことを述べた これに対し 日本人画家は 1894 年に日清戦争の光景を描き始めたのを皮切りに 藤島武二はじめ多くの画家が植民地朝鮮を訪問したり 移住して 当時の植民地朝鮮の美術教育にもたずさわるようになり 多くの人物画 民俗画が制作され 油絵技法や日本を通した西洋近代思想を反映した女性の表現が植民地朝鮮にもたらされたことを論述している 第 4 章の 韓国の画家による女性の絵画表現 ( ) では 1910 年代から 1950 年代までの直接 または主に間接的に日本を通した西洋近代思想の流入期と儒教や道徳的観念などの韓国の民族的伝統思想の葛藤期における女性の表現と韓国人画家の活動について考察した 特にこの時期の女性の表現に裸体画が現れ それらの画家と作品 また それらを受け入れる芸術界や社会の葛藤と対応などを丁寧に調査し 植民地の社会背景とともに変化する母子表現や少女などの表現の変遷について考察した また 西洋画の価値観の流入とともに変化していく読書する女性像や 妓生 裸体の表現の関係性についても整理し 絵画の近代性を問い直す新たな論考となった 論者は論文執筆にあたり 古代から近代に至るまで 幅広い時代の朝鮮 韓国の女性を対象とした絵画表現について 画集 美術展覧会 文献などを丹念に調査し また 現存する研究対象作品については目視で観察し 時代や社会の様相の変遷に伴う様々な表現方法や表現様式を時代列に丁寧に示しながら実証的に論述している その研究成果として 朝鮮の近代化以前には 儒教などの伝統的思想の反映が強く 近代的 人格をもった人間としての女性を主題とした作品は殆ど表現されなかったことを確認し 女性を主題とした女性表現作品は韓国の近代化の象徴であると結論づけている このように単なる日本や西洋からの影響関係に依らずに絵画の近代化を問い直す新たな考察は韓国近代絵画研究においても重要な成果と考えられ 高く評価する また 現在 韓国の近代美術の起点については 開港以前説と開港説 また 1945 年 8 月 15 日以降説の 3 説に大きく分かれているが 論者は近代女性の表現の始りの時期を韓国美術の近代化の起点の一つとして加えることを提案している これは説得力のある新鮮な提義として 今後議論の対象となると考える 更に 現在の日本において参考文献や資料が少ない近代韓国の美術史研究が含んでおり 多くの美術研究者に資する論文になると考え

7 る 梁氏の作品は 傷跡 moment 自己同一性 自己同一性 02 自己同一性 03 自己同一性 04 かたまりⅠ かたまりⅡ の 8 点の女性性を主題とした絵画作品である 論者は今日の社会に生きる韓国人女性として そのアイデンティティを探るために韓国の女性の表現を研究し 論者の論文で研究対象とした時代の後につながる今日の表現として自己体験を通した女性の心のいたみや 悲しみ またトラウマなどの現代的表現に挑戦した このような女性性表現と女性主義表現は 1970 年代に工業化社会から情報化社会への転換期にグローバル社会に移行する過程で 多くの女性により 女性の意識や生理が主張され作品化されるなかで 一般にも認知されるようになった 論者の作品もそれらの範疇に属すると考えられるが 論者のアイデンティティが独特の感性を生みだしていて その表現は他に類を見ない 独特な悲しさ 美しさをかもし出している また 論者は女性の身体をトルソー的に扱い 頭や 足 手先を画面の外にはずし 主に胴体だけを横たわらせ うごめかせる画面構成をとっているため 人間の孤独や疎外感 心の傷 欲望などが体部に溜り 凝縮し 強調された表現となっている 論者は西洋近現代絵画で多用されているコラージュやアンサンブコラージュの技法を用い 西洋紙ではなく やわらかい肌ざわりを感じさせる韓国紙や和紙を手でちぎって無作為にキャンバスにおおつていく その素材と表現方法により他にみられない東洋的な現代美として高く評価できる やわらかく吸収性の感触の紙の上に薄くといた日本画の顔料や 水彩 アクリル絵の具を何度もしみ込ませ 淡い ほのかな触感的空間を釀成し 完成に至る 特に 傷跡 においては深い傷を抱えながら きぜんとして生きる女性を示唆した表現が悲しく美しい また 自己同一性 においては世代を越えて受けつがれる苦悩や憂愁などが体の傷としてうずき浮かび上り うごめかせて アイデンティティそのものが露呈されたような悲しさで見る人に迫ってくる また かたまり のシリーズでは現代社会のひずみやゆがんだ欲望の表現に挑み 現代社会の真の様相をとらえようとしている これらの表現は正に論者の韓国人としての 恨 ( ハン ) の表現であると考えられるが 現代に生きる女性の心の叫びとしても受けとれるインパクトの強い表現である 青木繁記念大賞 西日本美術展 上野の森美術館大賞展 国展など入選 入賞も多数で 作品の社会的評価も高い 美術性 造形性が豊かで 論文と関連する博士の作品として相当とする 以上のことから博士学位論文に値する

8 最終試験 学力の確認の結果報告 : 最終試験である公聴会において梁氏は 論文の要旨と研究の特徴について適切に述べた 特に西洋画風の導入期について植民地期を中心に近代化の影響とともに変化していく女性表現の変換を明らかにし 女性を主題として女性表現の作品は韓国の近代化の象徴であると言う梁氏の主張が十分理解することができる発表であった その会においての論文発表や展示された作品に対して活発な質疑応答がされた そのなかで日本統治下の時代について多く資料 文献を調査し 客観的に論述して韓国近代美術史の欠落した部分を補完したことに対して高い評価を得ることができた また 展示作品についても 女性の叫び の表現に共感を得ることができた 審査員や出席者の質問に対して詳細 明確に回答がなされ 博士としての学識の十分な蓄積が確認された 以上のことから博士論文等を本学の博士 ( 芸術 ) の学位授与に相当するものとして 最終試験合格とする

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