民族的属性としての呪いと臆罪一一エジプト逃避とジプシーの起源一一野端聡美 1. 伝承として語られる聖家族との接触ヨーロッパ社会の少数派であるジプシー J 1 は文学作品中に表現されるにあたり多面的な民族的特徴を付与されてきた本稿で焦点を当てるのはドイツロマン主義の文学作品において頻繁に

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さやななつ
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1 Powered by TCPDF ( Title Sub Title Author Publisher 民族的属性としての呪いと贖罪 : エジプト逃避とジプシーの起源 Fluch und Buße als völkische Merkmale. "Die Flucht nach Ägypten" und die Herkunft der Zigeuner 野端, 聡美 (Nobata, Satomi) 慶應義塾大学藝文学会 Publication year 2009 Jtitle 藝文研究 (The geibun-kenkyu : journal of arts and letters). Vol.96, ( ),p.178(99)- 191(86) Abstract Notes Genre Journal Article URL

2 民族的属性としての呪いと臆罪一一エジプト逃避とジプシーの起源一一野端聡美 1. 伝承として語られる聖家族との接触ヨーロッパ社会の少数派であるジプシー J 1 は文学作品中に表現されるにあたり多面的な民族的特徴を付与されてきた本稿で焦点を当てるのはドイツロマン主義の文学作品において頻繁に言及されるジプシーの宗教的側面である現在までの民族学的語学的研究によればジプシーのルーツは西暦 1000 年頃にインド北西部パンジャブ地方を発ち各地に散った人々まで辿ることができるとされているドイツ ( 語圏 ) へのジプシーの到着に関する最も早い記述はリューベックやマグデブルクの年代記に見られる 1417 年のものであるその際現地住民から投げかけられた彼らの出自に関する問いに対しジプシーは故郷エジブトを出立し巡礼を続けていると主張しローマ法王から授かったという諸国の自由な通行を許可する書状を見せたという 02 ジプシーがエジプト出身の民族であるという説はヨーロッパ社会に深く浸透した日本語に定着したジプシーも英語の Egyptian から派生した呼称である並行してジプシーのエジプト起源説を根拠付ける伝承も広まっていった 1. H. ツェードラー (Zedler, ) の百科事典における記述によるとその伝承は以下のような内容である聖家族がエジプト逃避の際ジプシーの祖先に宿を求めたがジプシーは彼らの宿泊を拒みすげなく追い払ってしまったこの背信行為の

3 結果ジプシーは故郷を追われ巡礼の旅に出る罪が臆われない限り憩うことなくさすらい続けねばならない o3h.m.g. グレルマン (Grellmann, ) が語学的研究に基づいた論文ジプシー : ヨーロッパにおけるこの民族の生活様式組織慣習と運命を巡る歴史的試論並びに彼らの起源について (Zigeuner: Verfassung, Europa, Ursprunge, j においてジプシーの民族的発祥の地はインドであることを明らかにした後にもエジプト発祥の伝承は好んで受容された後期ロマン主義作家のクレメンスブレンターノ (Clemens Brentano, やアーヒムフォンアルニム (Achim Arnim, ) は作品に聖書的な伝承を取り入れることでジプシー像に特別な意義を与えている O Köhler-Zülch は自身の論文においてジプシーにまつわる聖書的伝承について論じ民族全体を宗教的罪悪と結びつける態度の背後には魔女裁判的な異端を社会から排除しようとする意図があると主張している 04 しかし聖書的な罪を背負った他者として描かれることが単に社会からの排除を意味すると結論付けられるだろうか? 漬神行為のみでなく蹟罪を目的とした巡礼までもが民族的属性として描かれている事に留意しジプシー像の形成はより慎重に論じられるべきである本稿ではブレンターノの叙事詩ロザリオのロマンツェ (Romanzen , 1852 年出版 H とアルニムの小説エジプトのイザベラ (Isabella 1812)j に織り込まれたジプシーの起源に関わる宗教的伝承を考証し多数派の幻想としてのジプシー像の生成の意図を探ることを目指す 2. 二作品における聖書的挿話ロザリオのロマンツェは一族に負わされた罪を購うために腐心する赤蓄被 (Ros 紅 'O sa) 金蓄薮 (Rosadore) 白蓄穣 (Rosablanka) の三姉妹の人生を描く未完の叙事詩であり序章としての詩と 20 の物語詩から成り立っている Rosenkranz とは文字通りに和訳すると蓄薮の冠の意で

4 あるが数珠をたぐり祈ることで聖母に霊的な蓄破の冠を捧げる行為と祈轄の用具であるロザリオそのものを示すここから推測できるように作品中ジプシーは聖母崇拝と深く結びついて語られるブレンターノは後記 (Paralipomena) の中でロマンツェの前史に関する構想 (Entwürfe.] という題のもと蓄穣の名を冠した三姉妹の一族の由来と彼らに瞳罪が課された経緯を詳しく記述している以下にその概要を述べる : エジプト逃避の際聖家族はある盗賊一家のもとに身を寄せる両親が聖家族を殺害しようとしていることを知った息子と娘はマリアとヨセフに危険を知らせ聖家族を逃がそうとする幼子イエスは盗賊の息子の信心を賞賛し無垢な羊 (Agnuskastus) J という名を授け一族の罪が購われるまで成長できないことを告げる盗賊の娘リリスの婚約者はヘロデ王の命を受け聖家族を殺すために盗賊の家を訪れマリアの婚約指輪を盗み出すリリスは聖家族を逃す際聖母マリアに菅を持たぬ蓄識の枝を贈ろうとするマリアの聖なる力でそれまで花をつけなかった枝に赤金白の三輪の花が咲いたマリアは指輪が盗まれたことによって一族が呪われたこと呪いはやがて一族が生み出す三輪 ( 人 ) の蓄被によって膿われることをリリスに告げた聖家族が去った後リリスと婚約者は両親の家を出てピラミッドで暮らした彼らがジプシーの祖先となった 05 作品の本編である 20 の物語詩においてはリリスの子孫であるジプシーの一族はボローニャに住み罪の意識に苦しみながら蹟罪の方法を模索する未完に終ったため蹟罪が完遂した場面が描かれることはなかったが蓄薮三姉妹の胸に刻まれた蓄薮の聖痕リリスから受け継いだ一株の蓄被や聖母マリアの指輪白蓄被が見る神秘的な夢ボローニャの聖堂で営まれる赤蕃穣の葬儀などジプシー一族がキリスト教的属性を帯びていることが強調されている

5 Köhler-Zülch の研究によるとブレンターノにジプシーと聖母マリアの接触に関する着想を与えたのはアルニムがイタリア旅行中に聞き知った民謡 LaZingara である 06 ブレンターノはこの民謡をドイツ語に翻訳し隠者新聞 (Zeitung j にジプシー娘 (Die という題のもと発表しているジプシー娘奥様神のご加護がありますように / そして神の幸福があなたにもたらされますように!/ 年老いた御夫君ょうこそお越し下さいました!/ そしてあなたの美しい御子様も! 聖母我々が進む道において / お嬢さんあなたに神の恩寵がありますように / あなたの罪が赦されますように / 慈悲深き神は不滅なお方ですジプシー娘巡礼の御方さぞお疲れでしょう / あなたの御夫君も御子様も / 屋根を必要とされているでしょう / 親愛なる奥様もどうぞお泊りになって下さい聖母あなたはどなたですお嬢さん?/ あなたは並外れて礼儀正しく / まことに善意に満ちていらっしゃる / 私に救いの手を差し伸べて下さるなんてジプシー女良私はジプシーの女です / ならず者の一味ではありますが / どうぞ私の小屋にいらして下さい / どうか私の申し出を受け入れてください

6 聖母常に感謝され褒めたたえられますように / 天にまします主よ / あなたの親切で優しいお言葉は / 苦難の中で私の心を慰めてくれましたジプシー娘どうぞお泊り下さい奥様!/ あなたは女神様のよう / 心休まらぬ私のような女の / 心は愛で包まれたように感じます! 聖母我々はナザレから来ました / どこにも宿が見つけられず / 道行きに疲れ知人もおらず / 見知らぬ土地におります 7 旅に疲れた聖家族に自ら進んで宿を提供したジプシー娘はこの後イエスの手相を読み彼の運命を予言するつまり救世主である息子は礁刑に処され復活するだろうと聖母マリアに告げるのであるもう一方の作品エジプトのイザベラ皇帝カール五世の初恋 (I sabella j の作者はブレンターノと文学活動においてのみならず私生活においても深い親交を持ったアーヒムフォンアルニムであるブレンターノのロザリオのロマンツェ成立のきっかけを与えた可能性が高いことも既に記した同作品とほぼ同時期に成立した小説エジプトのイザベラ J においても聖書時代に先祖が犯した漬神行為によって民族全体が罪を背負うという前史が物語世界の背景を構成している両作品を比較するとエジプトのイザベラにおいては後世の子孫が先祖の罪を憂いこれを購おうとする態度ははるかに重点的に描かれており巡礼途上の民族としての描写がより顕著である以下がその概要であるエジプトへ逃れて来て激しい雨の中宿を求めてきた聖家族をジプ

7 シーの先祖は冷淡に追い払ってしまう幼子イエスが手を挙げて輪を描くと雨はやみ空に虹がかかった神の御子を冒漬したことに気付いたジプシーの先祖達は巡礼の旅に出るためにエジプトを離れちりぢりに世界へ散ったイスラム勢力の隆盛により故郷への帰路を絶たれたジプシー達の聞に以下のような伝説が流布していた一族の王女であるイザベラが世界の指導者と結ばれ子を成すことにより念願の臆罪を完遂するというのである父王を不当な迫害で亡くし民族の指導者としての役割を担ったイザベラは予言通りハプスブルク家のカール大公 ( 後の皇帝カール五世 ) と愛し合い身ごもるある時イザベラが聖堂で聖母像を前に脆き祈っていると一族の罪は蹟われエジプトへの帰還を許されたという啓示を受ける一族の長としての使命を重んじたイザベラはカールの元を去り息子と共に一族をエジプトへ導き帰還を果たした後長い間エジプト女王として君臨したイザベラとカールはエジプトとスペインにおいて同じ日に没した 8 自らの民族的罪をジプシーがどのように捉えているかをアルニムは以下のように描写しているクリスト教徒たちが住んでいる地域の果てまで巡礼してみようと決めていたかれらの誓願はとうに果たされてはいたというのもすでにかれらは大洋を経てスペインから帰路についていたからであった ( 中略 ) そうこうしつつもかれらは心の奥底ではいよいよ罪を感じていたのでありこうしてエジプトめざして逃亡の旅をしながら幼な子イエスと老いたるヨセフをともなう聖母マリアのもとに戻っていくというのにじっさいはこのかた背いているのではないかという気持ちがつのるのであった ( 中略 ) こうして後にイエスがその死により救い主であったということを倍るとそれまでイエスを軽んじていたのであるが一族の半分はクリスト教徒が存在していそうな土地の隅々

8 にまで巡礼をつづけてそれまでの冷淡さを蹟おうとしたのである 09 一族の悲願であった罪からの解放はイザベラが受ける神秘的な天啓という形でもたらされるその花束はじつに快い芳香を彼女のほうに運んできたうえ聖母が上からじつにやさしい眼で見おろしていたので彼女は自分の同胞の犯した罪さえ赦されたような気持ちになるのであった聖母マリアさま j と吐息まじりに彼女は言った私どもの犯した過ちをお許しくださったのですかあなたをないがしろにしている私どもを受け容れてくださるのですか J - このとき聖母マリアの像が彼女にむかつて親しげに首をふって肯いたようにおもえ心が帰依の念にすっかり浸され自我亡失の状態となり 10 両作品に見られるジプシーの起源に関する伝承に一貫しているのは彼らは聖家族を冷遇した宗教的罪人として描かれているものの聖家族の予言や巡礼という行為によって敬慶なキリスト教徒としての地位を保持していることである彼らはいわばキリスト教徒の中の異教徒であり聖書時代の記憶を持たぬヨーロッパ人の生活圏に原初的な荒々しさを持って侵入するのである 3. 民族的属性としての罪前章において言及した二作品の背景となった伝承の他にも多くの変形が認められているいくつか例を挙げるとキリストを礁刑に処す際に使用された釘はジプシーの先祖が鋳造したものであるという説アダムの息子であり弟アベルを殺したカインこそがジプシーの祖先であるという説を百科事典に見つけることができる OIl 前者に関しては鋳物師がジプシーの代表的な職業であるというイメージが市民の聞に深く浸透していたこととの関連を容易に見出すことが可能である後者もまたジプシー

9 の典型的行動様式とされてきた放浪を説明するために考案されたと考えられる人類初の殺人者であるカインは神罰として放浪を課されそれを妨げられないために額に熔印を受けたカインを殺した者はその七倍の不幸を被るとされ人々はその熔印を見ると恐れて彼に触れようとしなかったそれまで農業を生業としていたカインは農作物が育たないという罰を受け鋳物や楽器演奏によって生計を立てた 12 以上のような副次的な物語がジプシー像の背景的説明として機能したのである聖家族を冷遇したことへの報いとして一族全体が罰を課せられるというトポスが民族の存在規定に用いられたのはジプシーのみではない社会の周辺部に位置するか社会の下層を構成するに過ぎなかったジプシーとは対照的にヨーロッパ社会の文化経済政治的側面において自らの存在価値を肯定させるに至ったユダヤ人もまたこのトポスを通じて少数派として位置づけられたユダヤ人の宗教的位置づけをここで詳述することは避けるがキリストを楳刑に処した民族というレッテルは文化的文学的側面で頻繁に取り上げられるジプシーとユダヤ人は共に社会のマイノリティーとしての認識を得ており定住しない Ji 民族由来の土地を失っているという属性を民族の定義の核としている点が共通しているこうした特性は例えば永遠のユダヤ人というモティーフに象徴的に結晶している永遠のユダヤ人という主題の原型となったのはアハスフェール (Ahasver) という男に関しての以下のような伝説である. 様刑の判決を受けたイエスが十字架を背負い刑場であるゴルゴタの丘へ向かっていたイエスはアハスフェールという名の靴屋の家の前で休息させてくれるよう頼んだがアハスフェールは自分の家の軒を貸し与えることを拒み戸口の前からイエスを追い払ってしまったその時イエスは彼に私が戻ってくるまでお前は待ち続けなければならぬと告げそこを立ち去ったアハスフェールは歳を取らず最後の審判の日まで世界各地を放浪するよう運命づけられた 13

10 ドイツにおいてはJ. W. ゲーテ (Goethe, ) がこの伝説を基にした詩を書いたほか C. F. D. シューバルト (Schubart, ) も親しい人々に先立たれるアハスフェールの不死ゆえの孤独と苦悩を主題に永遠のユダヤ人一一行情的狂詩 (Der 1783H を書いている新約聖書にアハスフェールの名が登場することは無く文献学的研究によれば 1602 年に刊行された小冊子アハスエールスという名前のユダヤ人の小物語 j Ahsuerus) 考えられている 14 がきっかけとなり世間に広まったとユダヤ人のアイデンテイティー形成に神罰としての放浪 J が実際的な迫真性を持っていたと見なすのは現実的ではない前述したように社会の上層にも帰属意識を持ちえたユダヤ人は現実に既に定住者であったユダヤ人を巡る放浪のトポスは専ら観念的なものであるジプシーの生活態度もまた一つの型に括ることは不可能である昨今は彼らが住む国の政策や EU 統合をはじめとする新たな政治的気流の中で生活様式はますます多様化しており定住者も増えているユダヤ人と比較すると放浪型生活様式は未だに少なからぬジプシーグループのもとで顕在的ではあるが文学上の表象は実際の生活態度に忠実なのではなく観念的な創作によるものと考えるのが妥当であるアハスフェールの伝説とジプシーの聖書的伝承は多くの共通項を持つどちらもイエスや聖家族の安息を妨げるという罪を犯し永遠にさまよい続ける J という罰をイエスから直接言い渡されている本稿のはじめで問題提起したように Köhler-Zülch が主張したような魔女裁判的異端排除的な意図はこうした少数派の描写のー側面でしかない社会に存在する少数派と聖書時代の関連を創り出すこともしくは強調することは確かに標準的なキリスト教徒から彼らを区別することにはなるが結果的に彼らを完全に排除することにはならないなぜなら文学的表象においてジプシーやユダヤ人が背負っている罪とはイエス本人や聖母が直接彼らに課したものでありそれゆえ熔印であると同時に聖痕のような機能も果

11 たすからである実際ロザリオのロマンツェの蓄核三姉妹は胸に蕃被の聖痕を持っていた罪が蹟われることを民族の悲願とし永遠の巡礼を続けるジプシーやユダヤ人の意識は常に聖書時代の記憶に呪縛されている O 聖書時代の倫理基準や宗教観を保持したまま後世に存在していることはロマン主義的なジプシー表象で特に強調されている実際アルニムやブレンターノによる描写からは宗教的罪人としてジプシーを牌脱する態度ではなくむしろそうした存在に畏怖の念を抱く心性が読み取れる次章では異質な存在の肯定的受容はどのような論理で説明可能であるか検討することを目指す 4. ヨーロッパ側からの積極的ジフシー像受容社会によって異質 J であると熔印を押されたにも関わらず肯定的に受け入れられるとはどういう事だろうか? ジプシーはヨーロッパ社会に同化不可能な民族として描かれている一方でその由来は聖家族に関わる挿話に依って説明され定住しない生活態度は腫罪のための巡礼として根拠付けられるジプシーを巡って見られるようなヨーロッパ側からの異質的存在へのアプローチを分析するには E. W. サイード (Said, ) のオリエンタリズム (Orientalism 1978).] や G. ジンメル (Simmel, ) の社会学 (Soziologie における記述を検討するのが有効であるサイードはオリエンタリズムを東洋をあるがまま表象することをそもそもの目的としてはおらず西洋が受容できる対象に書き換えることであったと主張しているオリエンタリズムにおいて西洋側のエジプト受容に関して多くの紙面が費やされていることを鑑みるとエジプトを出身地として特定されたジプシーに対するヨーロッパ人の態度にも類似する視点を見出せるはずであるこの教育的プロセス全体は別に理解しにくいものでも説明しにくいものでもない文化はすべて生のままの現実に矯正を加えこれを捉え

12 どころのない対象から一定の知識へと変化させるものである 15 これまで扱ったことのない未知の物体の攻撃を受けたとき人間精神がそれに抵抗するのは至極当然のことであるだからそこ文化はつねに異文化に対して完全な変形を加えそれをあるがままの姿としてではなく受け手にとってあるべき姿に変えてから受けとろうとしてきたのであるしかしながら西洋人にとってオリエント的事物はつねに西洋の何らかの側面と似たものであった 16 つまり異質なものを受容するには理解可能な文脈のうちに書き換える必要があるというのであるジンメルも社会学の中でイ也者についての付論 (Exkurs j において次のように主張している生まれっきあるグループの独特な要素一面的な傾向に固定されてはいないため他者はこれら全てにある種の客観的 J な態度で向き合っているその客観性は単なる隔たりや無関心を意味するのではなく疎遠性と親密性冷淡さと積極性からなる形成物である ( 中略 ) 客観性は決して非参加を意味するのではなく ( なぜなら非参加は主観的もしくは客観的態度とは完全に無関係な次元にあるからである ) むしろある種の積極的な参加である ( 中略 ) 客観性を自由と呼ぶこともできる客観的な人間は所与の物事に対する彼の受容理解検討を先決してしまうようなどの固定性にも縛られていなしミからである 17 異質な存在であるためにはまず疎遠性と共に親密性も兼ね備えているつまり同じ歴史的ラインに立ち同じ世界観を有していることが前提であるその上で固定化した制度や人間関係からある程度切り離された故に獲得した解放性客観性を保持した状態で社会に積極的に関わることこそ他者として在ることである

13 第 2 章でブレンターノとアルニムの作品においてジプシーは巡礼途上にある民族として描かれている事は既に述べた v. ターナー (Tumer, ) の主張を鑑みるとジプシー像と結び付けられた巡礼行為は非常に示唆的であるターナーは人間社会を分化差別化された諸地位の体系であるストラクチャー (structure) と既存の制度から脱却し人間としての具体性全体性を取り戻そうとするコムニタス (communitas) の二つの存在様式の相克によって成り立つと主張しており 18 さらにキリスト教文化におけるイメージと巡礼 (Image 1978H において巡礼をコムニタスの側面を持つ行為であると論じている 19 巡礼は宗教行為の範障にある故に社会構造上の区分を完全に消し去るものではないが人を聖地への途上という非日常に置くことで日常生活の地位や役割や世俗的な時聞から切り離し人間としての全体性を取り戻させまた永遠的な時間へと避遁させるものである以上の考察を総括する文学作品上のジプシー像が聖書的出自に関する挿話と結び付けられて表現される背景的意図は排除を目的とする宗教裁判的な断罪のみに帰することはできないむしろ多数派が生きている社会ではもはや実効性が無い価値基準を未だに保ち続けている彼らの存在は俗世の時間地位制度に束縛された多数派にとっての鏡像として機能する民族の罪を購おうとする菩被の三姉妹やイザベラに課せられた非現世的な使命は市民社会の男性を魅了する一方彼らを動揺させ自己の多数派としての存在を内省するよう働きかけるさらに彼らの行動様式を巡礼に結び付けて解釈することによって一般的規範からの離脱性はさらに強調されるつまり定住できないことはジプシーの苦悩として描かれるが社会に同化できぬ故に民族の神聖性は保たれている本稿で取りあげたロザリオのロマンツェエジフトのイザベラ j の二作品においても聖母マリアやイエスから言い渡された漬神の罪は呪いであると同時に選民の証である罪の意識を持つ故に蓄穣三姉妹やイザベラは信心深く神秘的な夢を見題罪の完遂を告げる聖母の声を聞く能力を持つので

14 ある宗教的罪人としての位置づけは異質な行動規範を持つジプシーの存在を多数派に理解可能なコードに書き換える作業であるすなわち彼らをキリスト教的世界観に取り込みつつ多数派が暮らす共同体では保持不可能な客観性並びに主体性を帯びている存在と規定することで憧僚の対象として自己反省の契機として意味付ける過程である自主 1971 年世界ロマ会議において gypsy Zigeuner などの伝統的な呼称を蔑称として回避しロマを公式呼称と規定したが本稿において扱うのは多数派であるヨーロッパ人に rzigeuned と呼ばれ表現されてきたイメージであるため日本語でこの語意に最も近いと思われるジプシーを敢えて使う Gilsenbach, Reimar: 時台 ltchronik Frankfurt 担 nm 泊 n, 1997, Zedler, Graz, , K, 凸 hler-zülch, A 幻 Ipten, S 仕 auss. Heidelberg, Brentano, In: 阪 rke 1, K 凸 hler-zülch, Brentano, 1, München, , ( 野端訳す ) アヒムフォンアルニムエジプトのイザベラ深田甫訳 1975 年図書刊行会. を参照向上 S 向上 S.216 ー 217. Zedler, r 聖書新共同訳 1998 年日本聖書協会 ( 旧 ) 5-6. を参照高橋規矩シエリーさまよえるユダヤ人一翻訳と研究 -j 1991 年渓水社 S.137. を参照向上 S.I44. を参照エドワード 'W サイードオリエンタリズム j 今沢紀子訳 1986

15 年平凡社上巻 S.157. 同上 S Simmel, 持 rgesellschaftung. Berlin, 1968, ( 野端訳す ) V. ターナー儀礼の過程冨倉光雄 - 訳 1976 年思索社 S を参照 Turner, York, 1978,

彙報 A B

彙報 A B Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) Title 彙報 ; 編集後記 Author Publisher 慶應義塾大学日本語日本文化教育センター Jtitle 日本語と日本語教育 No.43 (2015. 3),p.85-98 Abstract Genre Article URL http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=an00189695-20150300