Microsoft Word - 北朝鮮の経済改革と貿易

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1 北 朝 鮮 の 経 済 改 革 と 貿 易 ~ 中 国 韓 国 との 関 係 を 中 心 に~ 香 川 正 俊 ( 商 学 部 ) 目 次 はじめに 第 1 章 経 済 政 策 の 失 敗 とその 歴 史 的 概 観 (1) 苦 難 の 行 軍 と 飢 餓 (2) 強 盛 大 国 の 建 設 と 経 済 の 脆 弱 性 第 2 章 金 正 日 体 制 下 の 経 済 改 革 (1) 北 朝 鮮 の 経 済 成 長 動 向 (2) 経 済 改 革 の 模 索 と 旧 守 派 改 革 派 の 論 争 (3) 強 勢 大 国 と 核 ミサイル 問 題 が 及 ぼす 経 済 的 利 益 第 3 章 金 正 恩 体 制 下 の 経 済 改 革 (1) 改 革 への 態 勢 強 化 (2) 北 朝 鮮 の 貿 易 状 況 と 主 要 産 業 第 4 章 北 朝 鮮 経 済 の 中 国 依 存 傾 向 の 深 化 (1) 中 朝 貿 易 の 強 化 (2) 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 (3) 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 と 共 同 開 発 に 係 わる 諸 課 題 第 5 章 中 国 による 経 済 支 援 の 意 味 と 南 北 間 経 済 交 流 (1) 経 済 支 援 の 意 味 (2) 開 城 工 業 団 地 と 南 北 関 係 (3) 韓 国 の 人 道 支 援 と 今 後 の 南 北 交 流 第 6 章 日 朝 貿 易 と 経 済 制 裁 (1) 日 朝 貿 易 の 概 要 と 中 断 過 程 (2) 経 済 制 裁 の 意 味 おわりに はじめに 北 朝 鮮 は 中 国 との 貿 易 や 韓 国 との 経 済 協 力 を 促 進 しており 一 時 的 途 絶 はあっても 大 局 的 には 一 層 の 貿 易 拡 大 と 南 北 経 済 交 流 の 進 展 を 望 んでいる そのため 経 済 制 裁 の 実 効 性 は 失 われつつある 貿 易 を 含 む 北 朝 鮮 の 経 済 改 革 は 金 正 日 総 書 記 時 代 から 旧 守 派 と 改 革 派 との 軋 轢 を 交 えて 行 われたが 金 正 恩 第 1 書 記 の 時 代 を 迎 え 一 層 重 視 された

2 本 稿 は 北 朝 鮮 の 経 済 改 革 の 推 移 と 貿 易 政 策 について 考 察 するものである まず 第 1 章 において 金 正 日 総 書 記 時 代 の 経 済 政 策 の 失 敗 と 経 済 の 脆 弱 性 を 検 討 する 第 2 章 では 同 総 書 記 時 代 の 経 済 動 向 や 旧 守 派 と 改 革 派 の 論 争 を 扱 う 金 正 恩 体 制 下 の 経 済 改 革 や 貿 易 状 況 は 第 3 章 で 考 究 し 第 4 章 において 中 朝 貿 易 の 強 化 と 経 済 協 力 を 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 並 びに 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 に 見 る 第 5 章 では 中 国 による 経 済 支 援 の 意 味 と 南 北 間 経 済 交 流 の 現 況 並 びに 今 後 の 課 題 を 検 討 する 最 後 に 日 朝 貿 易 の 終 焉 過 程 と 経 済 制 裁 の 有 効 性 について 第 6 章 で 考 えたい 第 1 章 経 済 政 策 の 失 敗 とその 歴 史 的 概 観 (1) 苦 難 の 行 軍 と 飢 餓 2012 年 の 朝 鮮 民 主 主 義 人 民 共 和 国 社 会 主 義 憲 法 (2012 年 4 月 の 最 高 人 民 会 議 で 改 正 以 下 ( ) 内 の 条 項 は 憲 法 の 条 項 である)は 北 朝 鮮 における 経 済 体 制 の 基 本 的 在 り 方 を 社 会 主 義 的 生 産 関 係 と 自 立 的 民 族 経 済 の 土 台 に 依 拠 する ( 第 19 条 )と 定 める 生 産 手 段 を 国 家 及 び 社 会 協 同 体 が 所 有 ( 第 20 条 )する 社 会 主 義 的 な 所 有 制 度 と 自 力 更 正 路 線 を 標 榜 する 中 央 集 権 的 な 計 画 経 済 ( 第 34 条 )を 基 本 とした 一 種 の 社 会 主 義 的 民 族 的 混 合 経 済 体 制 というべきもので 建 国 以 来 の 主 体 思 想 に 基 づく 北 朝 鮮 独 自 の 自 立 的 経 済 体 制 の 構 築 を 意 味 する 第 19 条 は 92 年 憲 法 から 明 記 されたが 他 国 との 貿 易 に 極 力 依 存 せず 自 己 完 結 型 の 国 内 経 済 の 発 展 と 成 長 を 重 視 する 旧 守 派 の 思 想 的 反 映 に 他 ならない 1) このような 経 済 体 制 を 基 本 とする 以 上 中 国 のような 社 会 主 義 市 場 経 済 の 導 入 は 危 機 的 経 済 状 態 の 改 善 を 図 る 応 急 対 策 と 見 なされ 旧 守 派 と 改 革 派 の 論 争 の 中 で 資 本 主 義 的 堕 落 をもたらす 可 能 性 を 排 除 するため 極 力 回 避 されてきた 北 朝 鮮 経 済 は 度 重 なる 経 済 政 策 の 失 敗 と 相 次 ぐ 災 害 で 悪 化 の 一 途 を 辿 った 特 に 1994 年 7 月 の 金 日 成 主 席 死 去 前 に 起 きた 91 年 12 月 のソ 連 邦 崩 壊 に 代 表 される 社 会 主 義 諸 国 の 崩 壊 は 経 済 政 策 の 失 敗 を 補 う 経 済 援 助 の 途 絶 に 繋 がり 未 曽 有 の 食 糧 危 機 とエネルギー 不 足 を 招 き 94 年 ~99 年 の 苦 難 の 行 軍 と 呼 ばれる 国 内 統 治 の 危 機 を 生 じさせたのである 苦 難 の 行 軍 とは 本 来 1930 年 代 の 抗 日 運 動 の 困 難 を 象 徴 する 言 葉 であるが 金 日 成 主 席 の 死 去 直 後 に 食 糧 難 で200 万 人 ~300 万 人 といわれる 人 々が 餓 死 する 等 体 制 の 危 機 に 発 展 する 可 能 性 があった 時 代 を 指 す 金 日 成 主 席 の 死 去 以 降 00 年 10 月 の 朝 鮮 労 働 党 創 建 55 周 年 を 意 識 した 社 会 主 義 強 行 軍 期 (1998 年 1 月 ~2000 年 10 月 )を 含 む 99 年 ま で 北 朝 鮮 公 民 の 生 活 は 重 大 な 危 機 に 瀕 した 気 候 条 件 が 厳 しく 相 次 ぐ 自 然 災 害 の 発 生 ( 災 害 防 止 に 係 る 諸 施 策 の 遅 滞 も 含 む)と 経 済 政 策 の 失 敗 が 主 な 要 因 である 95 年 夏 の 集 中 豪 雨 は 520 万 人 の 被 災 者 を 出 し 被 害 総 額 150 億 ドルの 損 失 を 与 えたが その 後 も 水 害 が 相 次 ぎ 食 糧 生 産 を 担 う 農 業 は 大 打 撃 を 被 った 深 刻 な 食 糧 危 機 は 旧 い 配 給 制 度 を 根 幹 から 揺 るがし 連 鎖 的 に 工 業 生 産 の 大 規 模 な 中 断 や 交 通 機 関 のマヒに 繋 がり 大 量 の 餓 死 者 を 出 したのである ところが 97 年 10 月 に 党 総 書 記 に 就 任 した 金 正 日 氏 は 体 制 維 持 と 自 らの

3 後 継 体 制 の 強 化 に 重 点 を 置 き 苦 難 の 行 軍 期 を 通 して 有 効 な 経 済 政 策 特 に 食 糧 生 産 の 増 強 策 を 打 ち 出 せなかった 金 正 日 総 書 記 が 本 格 的 な 農 業 改 革 に 取 り 組 んだのは 1998 年 ~99 年 頃 であり 経 済 成 長 を 引 き 上 げた 時 期 にあたる 金 己 男 党 書 記 は 99 年 2 月 19 日 開 催 の 主 体 思 想 化 綱 領 宣 布 25 周 年 中 央 報 告 会 において 農 業 政 策 の 失 敗 を 事 実 上 認 め 主 体 農 法 の 普 及 促 進 に 努 めている 主 体 農 法 とは 農 民 等 の 意 思 と 実 情 を 合 致 させるのが 本 質 2) とされ 最 終 的 に 全 農 地 を 国 有 化 または 社 会 協 同 体 化 し 都 市 と 農 村 の 格 差 工 業 と 農 業 の 格 差 を 解 消 すると 共 に 農 村 の 技 術 文 化 思 想 革 命 の 推 進 を 図 る 総 合 的 な 農 業 政 策 で 水 利 化 機 械 化 電 化 化 学 化 二 毛 作 化 といった 農 業 技 術 の 向 上 が 掲 げられた けれども 旧 態 依 然 と した 国 有 化 や 協 同 化 の 方 針 が 農 民 の 労 働 意 欲 を 低 下 させ 都 市 と 農 村 の 格 差 も 縮 小 せず 農 村 の 近 代 化 と 生 産 力 の 増 強 は 実 現 しなかった 農 地 拡 張 を 最 優 先 した 結 果 画 一 的 な 農 業 や 密 集 栽 培 等 が 生 産 性 を 阻 害 して 食 糧 問 題 は 一 層 深 刻 になり 加 えて 段 々 畑 の 開 発 で 山 々の 保 水 能 力 が 喪 失 し 植 林 を 伴 わない 樹 木 伐 採 が 大 洪 水 の 原 因 になるのである その ため 主 体 農 法 の 改 善 が 行 われ 二 毛 作 化 の 推 進 種 子 改 良 適 地 適 作 都 市 改 良 事 業 を 伴 う 農 業 経 営 の 機 械 化 家 畜 の 飼 育 や 養 魚 場 の 整 備 等 の 農 業 改 革 と 協 同 農 場 の 一 定 面 積 の 収 穫 を 自 己 処 分 できる 家 内 作 業 班 運 動 が 進 められた それでも 深 刻 な 食 糧 経 済 危 機 は 打 開 できていない 苦 難 の 行 軍 と 社 会 主 義 強 行 軍 は 国 内 総 生 産 (Gross Domestic Product:GDP 以 下 GDP とよぶ)が 6.2%に 伸 張 した 1999 年 の 翌 年 10 月 10 日 開 催 の 朝 鮮 労 働 党 創 建 55 周 年 の 際 終 了 が 宣 言 された また 北 朝 鮮 政 府 は 09 年 11 月 新 旧 通 貨 の 比 率 が 1:100 ( 新 1 ウォンが 旧 100 ウォンと 等 価 )となるデノミネーションを 実 施 している しかし 生 産 は 計 画 通 り 向 上 せず 物 資 不 足 と 超 インフレを 招 来 して 失 敗 に 終 わった 朝 鮮 日 報 は 北 朝 鮮 内 部 の 消 息 筋 の 情 報 として 経 済 混 乱 の 責 任 を 取 らされた 文 一 峰 元 財 政 相 が スパイ 3) 容 疑 をかけられた 金 容 三 前 鉄 道 相 と 共 に 10 年 6 月 に 処 刑 されたと 報 じた 4) 文 一 峰 元 財 政 相 はデノミに 関 する 実 務 を 直 接 担 当 していないが 住 民 感 情 の 悪 化 を 受 けて 処 分 とな り 朝 鮮 労 働 党 の 朴 南 基 元 財 政 担 当 部 長 もデノミ 政 策 に 関 連 して 10 年 2 月 に 失 脚 し 3 月 に 処 刑 されたといわれる こうした 一 連 の 経 済 政 策 の 失 敗 は 旧 守 派 の 勢 力 を 弱 め 2002 年 以 降 は 改 革 派 主 導 の 経 済 改 革 が 着 手 され 一 部 に 市 場 経 済 的 手 法 が 導 入 されるのである (2) 強 盛 大 国 の 建 設 と 経 済 の 脆 弱 性 中 国 は 鄧 小 平 時 代 (1978 年 ~1992 年 )から 北 朝 鮮 に 改 革 開 放 政 策 への 転 換 を 促 してい るが 金 日 成 元 主 席 と 金 正 日 総 書 記 の 両 政 権 に 拒 まれてきた しかし 北 朝 鮮 は 新 たな 組 織 的 経 済 事 業 を 行 うに 当 たり 経 済 管 理 体 系 の 改 善 を 進 めるには 実 利 が 不 可 欠 とし 2002 年 7 月 から 実 施 する 経 済 改 革 の 基 本 原 則 と 内 容 を 明 らかにした( 第 2 章 第 2 節 で 述 べる) 社 会 主 義 的 民 族 的 混 合 経 済 体 制 の 是 正 と 社 会 主 義 市 場 経 済 の 導 入 並 びに 中 国 を 中 心 とする 貿 易 促 進 を 重 視 する 改 革 志 向 の 反 映 である 労 働 新 聞 は 経 済 を 振 興 し 発 展 さ

4 せるためには 大 胆 に 工 業 を 最 新 の 設 備 と 技 術 で 装 備 しなければならない 過 去 の 古 いやり 方 を 踏 襲 してはならない 5) との 金 正 日 総 書 記 の 語 録 を 掲 載 した 洪 成 南 首 相 は 01 年 4 月 5 日 開 催 の 最 高 人 民 会 議 第 10 期 第 4 次 会 議 において 働 きに 応 じた 報 酬 が 得 られる よう 社 会 主 義 分 配 原 則 を 正 確 に 実 施 し 実 利 のない 遅 れた 生 産 工 程 の 除 去 現 代 的 機 械 設 備 の 導 入 外 国 との 科 学 技 術 交 流 推 進 科 学 技 術 情 報 事 業 の 強 化 及 び 対 外 貿 易 の 発 展 を 掲 げ 中 国 の 改 革 開 放 政 策 を 高 く 評 価 すると 共 に 強 盛 大 国 建 設 のキャンペーンを 展 開 している 強 盛 大 国 とは 金 日 成 生 誕 100 年 に 当 たる 2012 年 までに 思 想 大 国 政 治 強 国 軍 事 強 国 及 び 経 済 強 国 を 建 設 するというスローガンであり 98 年 8 月 22 日 付 けの 労 働 党 機 関 紙 労 働 新 聞 の 正 論 において 初 めて 登 場 した 北 朝 鮮 のウェブサイト 我 が 民 族 同 士 によれば 思 想 大 国 は 全 社 会 が 一 つの 思 想 首 領 の 思 想 で 統 一 さ れ 思 想 の 威 力 で 存 在 し 発 展 する 国 偉 大 な 指 導 思 想 で 時 代 の 発 展 を 率 先 して 導 いて 進 む 国 である 同 サイトは 主 体 思 想 先 軍 思 想 を 指 導 的 指 針 として 先 軍 思 想 の 威 力 で 民 族 の 尊 厳 と 自 主 権 を 守 護 している とし 今 日 の 主 体 思 想 先 軍 思 想 は 世 界 の 数 多 く の 国 々が 研 究 して 従 い 学 ぶ 偉 大 な 思 想 となっており 我 が 国 は 思 想 強 国 として 世 界 中 に 光 り 輝 いている と 自 賛 する 政 治 強 国 は 領 導 者 の 周 囲 に 全 体 人 民 が 一 心 団 結 した 頑 丈 な 政 治 的 力 量 に 基 づく 徹 底 的 な 自 主 政 治 を 実 施 する 国 であると 説 明 される 同 サイトは 私 たちは 核 兵 器 より もっと 強 い 一 心 団 結 の 力 で どのような 強 大 国 の 干 渉 と 圧 力 にも 屈 しない 自 主 的 な 政 治 を 行 い 世 間 の 人 たちを 驚 歎 させている と 自 己 評 価 した 上 で 指 導 者 は 人 民 を 信 じ 人 民 は 指 導 者 を 絶 対 的 に 信 頼 する 一 心 団 結 があったからこそ 朝 鮮 は 歴 史 上 に 例 のない 政 治 強 国 として 立 ち 上 がった と 述 べている 軍 事 強 国 は どのような 帝 国 主 義 者 たちの 武 力 侵 攻 も 一 撃 の 内 に 打 ち 負 かし 国 家 の 自 主 権 と 尊 厳 を 守 れる 強 大 な 軍 事 力 を 持 つ 無 敵 必 勝 の 国 を 指 し 今 日 我 々 人 民 軍 は 首 領 決 死 擁 護 の 精 神 と 決 死 貫 徹 の 精 神 英 雄 的 犠 牲 精 神 で 武 装 した 世 界 最 強 の 軍 隊 として 成 長 した と 強 調 する 経 済 強 国 は 自 立 的 民 族 経 済 の 頑 丈 な 土 台 の 上 で 絶 えず 発 展 する 国 であり 人 民 大 衆 の 自 主 的 で 創 造 的 な 物 質 生 活 を 円 満 に 保 障 して 世 界 的 に 最 も 発 展 した 国 々とも 堂 々と 競 争 することができる 経 済 力 を 持 つ 国 とされ 遠 からず 世 界 が 羨 む 経 済 強 国 にな るはずだとの 確 信 を 抱 かせてくれる とする その 上 で 強 盛 大 国 の 全 体 的 な 意 味 を 国 力 が 強 くて 全 てのものが 栄 えて 人 民 が 世 の 中 で 安 楽 に 暮 らして 行 けること と 定 義 し 金 日 成 生 誕 100 年 に 当 たる 2012 年 は 我 が 民 族 にとって 全 世 界 人 類 にとって 新 しい 強 盛 大 国 を 宣 布 する 歴 史 的 な 年 になるだろう と 結 んでいる ところが 経 済 強 国 の 象 徴 と 位 置 づけられた 住 宅 ホテル 建 設 は 思 うに 任 せない 状 況 にあった 金 正 日 総 書 記 は 2012 年 4 月 の 春 芸 術 祝 典 と 金 日 成 元 首 席 の 誕 生 日 を 祝 う 同 月 15 日 の 太 陽 節 までに 万 寿 台 議 事 堂 金 日 成 銅 像 万 寿 台 芸 術 劇 場 等 のある 平 壌 中 区 を 中 心 とする 10 万 戸 の 住 宅 建 設 と 普 通 江 地 区 に 位 置 する 柳 京 ホテルを 完 成 させるための

5 特 別 指 示 を 出 した 金 日 成 生 誕 100 周 年 記 念 と 体 制 宣 伝 並 びに 経 済 強 国 を 目 指 す 金 正 日 総 書 記 の 決 意 を 示 すと 共 に 後 継 者 金 正 恩 氏 の 業 績 づくりを 図 る 極 めて 重 要 な 事 業 である 10 万 戸 の 住 宅 建 設 事 業 は 2011 年 10 月 時 点 で 3 万 世 帯 分 の 骨 格 工 事 がほぼ 完 了 したとさ れるが 韓 国 の 情 報 機 関 国 家 情 報 院 の 元 世 勲 院 長 は 11 年 6 月 22 日 韓 国 国 会 で 金 正 恩 氏 が 10 万 戸 の 住 宅 建 設 を 主 導 したが 完 成 したのは 500 戸 に 過 ぎない 6) と 報 告 した 報 道 は 消 息 筋 の 話 として 北 朝 鮮 当 局 は 党 創 建 記 念 日 ( 筆 者 注 :2011 年 10 月 10 日 )ま でに 完 工 するよう 指 示 を 下 した 7) と 伝 えている 10 万 戸 の 住 宅 建 設 達 成 は 経 済 的 に 相 当 厳 しく 12 年 12 月 時 点 でも 完 了 したか 不 明 である 柳 京 ホテルの 工 事 も 遅 滞 している 同 ホテルはかつての 平 壌 の 呼 称 である 柳 京 から 名 付 けられた 北 朝 鮮 の 威 信 をかけた 建 築 物 として 有 名 である 地 上 330 メートルの 105 階 建 て 約 3,000 の 部 屋 数 を 誇 る 超 豪 華 なホテルで 完 成 すれば 世 界 第 4 位 の 超 高 層 ホテル となる 1987 年 に 起 工 されたものの 資 金 不 足 と 電 力 不 足 及 び 飢 餓 の 蔓 延 で 窓 も 外 装 もな いまま 92 年 に 中 断 し 08 年 に 建 設 が 再 開 されるまで 15 年 間 中 断 状 態 が 続 いた 11 年 によ うやく 外 装 工 事 がほぼ 終 了 内 装 工 事 は 12 年 4 月 15 日 の 金 日 成 生 誕 100 周 年 までの 完 成 を 目 指 したが 12 年 末 に 延 期 された 但 し 工 事 関 係 者 は 12 年 9 月 23 日 中 国 の 旅 行 会 社 に 対 し 完 工 まであと 2~3 年 を 要 する と 示 唆 している 北 朝 鮮 の 経 済 は 公 民 に 経 済 強 国 の 建 設 を 強 く 印 象 付 ける 事 業 さえ 順 調 に 進 捗 しない 程 脆 弱 である 第 2 章 金 正 日 体 制 下 の 経 済 改 革 (1) 北 朝 鮮 の 経 済 成 長 動 向 北 朝 鮮 経 済 は 金 日 成 主 席 時 代 の 後 期 前 半 までは 社 会 主 義 諸 国 の 援 助 や 日 本 が 残 した 社 会 資 本 を 利 用 して 伸 張 軍 事 独 裁 政 権 下 の 韓 国 経 済 より 発 展 しており 多 くの 公 民 は 比 較 的 豊 かな 生 活 を 享 受 していた 金 日 成 主 席 は 当 初 から 税 金 の 軽 減 に 努 めると 共 に 公 民 の 物 質 的 文 化 生 活 の 向 上 を 重 視 している 8) 1972 年 12 月 27 日 の 最 高 人 民 会 議 第 5 期 第 1 次 会 議 で 採 択 された 72 年 憲 法 には 税 金 がなくなったわが 国 において 常 に 増 加 する 社 会 の 物 質 的 富 は 全 的 に 勤 労 者 の 福 祉 増 進 に 充 てられ 国 家 はすべての 勤 労 者 に 食 べて 着 て 住 んで 生 活 出 来 るすべての 条 件 を 整 え 提 供 する ( 第 25 条 )との 条 文 が 追 加 され 託 児 所 幼 稚 園 医 療 の 無 料 化 ( 第 49 条 第 56 条 ) 及 び 環 境 保 全 と 労 働 条 件 の 改 善 ( 第 56 条 )が 進 められた ところが 経 済 成 長 が 次 第 に 鈍 化 し 70 年 代 後 半 に 韓 国 と 逆 転 90 年 代 に 入 る と 悪 化 の 一 途 を 辿 り 93 年 12 月 開 催 の 朝 鮮 労 働 党 中 央 委 員 会 第 6 期 第 21 次 総 会 は 第 3 次 7 カ 年 計 画 (1987 年 ~1993 年 )の 失 敗 を 認 め 計 画 終 了 年 度 を 実 質 的 に 96 年 まで 延 期 している 1992 年 憲 法 から 国 家 は 古 い 社 会 の 遺 物 である 税 金 制 度 を 完 全 になくす とした 72 年 憲 法 の 第 33 条 が 削 除 された 近 年 における 北 朝 鮮 と 韓 国 の GDP 成 長 率 の 変 遷 は 図 1 の 通 り であるが 北 朝 鮮 は 90 年 のマイナス 3.7%から 97 年 のマイナス 6.3%までマイナス 成 長 が

6 (%) 図 ー1 北 朝 鮮 経 済 成 長 の 推 移 ( 韓 国 銀 行 ) 出 典 : IMF - World Economic Outlook Databases(2012 年 10 月 版 ) 及 び 韓 国 銀 行 北 朝 鮮 経 済 成 長 率 の 推 定 結 果 各 年 より 作 成 韓 国 北 朝 鮮 続 いて おり プラス 成 長 に 転 じた のは 99 年 になっ てから である その 後 も 成 長 率 は 乱 高 下 を 繰 り 返 し 双 方 の 経 済 格 差 は 一 層 拡 大 した 韓 国 統 計 庁 によれば 95 年 の 名 目 国 民 総 所 得 (Nominal gross national income :GNI 以 下 GNI とよぶ)は 北 朝 鮮 が 223 億 ドル 韓 国 は 24 倍 の 5,352 億 ドル 09 年 は 224 億 ドル 対 8,372 億 ドルと 37 倍 以 上 の 差 がある 09 年 における 別 の 経 済 指 標 を 見 ても 北 朝 鮮 の 予 算 規 模 は 約 37 億 ドルで 韓 国 の 約 2.3% 発 電 量 は 235 億 キロワットで 約 5.4% 9) に 過 ぎない 北 朝 鮮 の GDP は 2009 年 がマイナス 0.9% 10 年 もマイナス 0.5%と 2 年 連 続 マイナスと なり 11 年 には 農 林 漁 業 と 建 設 業 の 成 長 でプラス 成 長 に 転 じ 10) 0.8%に 伸 びた 建 設 業 の 成 長 とは 恐 らく 12 年 の 金 日 成 生 誕 100 周 年 と 強 盛 国 家 の 大 門 を 開 ける 年 に 備 え た 平 壌 でのホテル 住 宅 建 設 を 指 すと 思 われる 北 朝 鮮 の 10 年 の GNI は 韓 国 の1 兆 146 億 ドル( 約 78 兆 円 )に 対 し 260 億 ドル 1 人 当 たり GNI は 1,074 ドルで 韓 国 は 19.3 倍 の 20,759 ドルである 発 電 量 は 各 々237 億 キロワットと 4,739 億 キロワットで 20 倍 の 差 が ある 11 年 の 北 朝 鮮 の GNI も 32 兆 4,000 億 ウォンに 過 ぎず 韓 国 の 1,240 兆 5,000 億 ウォン 11) と 比 べ 約 38 分 の1の 規 模 となる 韓 国 と 北 朝 鮮 との 経 済 格 差 は 約 15:1 と 換 算 されており GDP 世 界 第 86 位 の 北 朝 鮮 と 第 15 位 の 韓 国 とは 経 済 力 に 大 きな 差 がある 2012 年 の 金 日 成 生 誕 100 周 年 を 迎 え 北 朝 鮮 政 府 は 公 民 の 生 活 向 上 を 繰 り 返 し 強 調 した 強 盛 国 家 の 建 設 を 標 榜 する 朝 鮮 労 働 党 も 経 済 の 立 て 直 しに 全 力 を 挙 げたと 思 われる けれども 国 力 を 見 れば 経 済 情 勢 が 依 然 と して 厳 しいことが 理 解 できる (2) 経 済 改 革 の 模 索 と 旧 守 派 改 革 派 の 論 争 留 意 すべき 点 は 経 済 政 策 の 主 導 権 が 旧 守 派 と 改 革 派 との 間 で 短 期 間 に 入 れ 替 わ り 混 沌 とした 経 済 を 一 層 混 乱 させることである 実 体 経 済 を 軽 視 して 旧 式 な 社 会 主 義 計 画 経 済 に 固 執 する 旧 守 派 と 社 会 主 義 市 場 経 済 の 導 入 を 図 る 改 革 派 の 論 争 は 熾 烈

7 な 権 力 闘 争 を 繰 り 返 す 原 因 となるが 両 者 の 妥 協 的 経 済 改 革 が 経 済 を 一 層 悪 化 させる 要 因 ともなりえる 改 革 派 中 心 の 経 済 政 策 が 積 極 的 に 導 入 される 場 合 も 頻 繁 である 改 革 派 の 台 頭 は 強 盛 大 国 の 建 設 という 金 正 日 総 書 記 にとって 非 常 に 重 要 な 体 制 維 持 のスローガンにも 影 響 を 与 えた 北 朝 鮮 国 営 中 央 通 信 は 2011 年 1 月 15 日 の 国 家 経 済 開 発 10 カ 年 計 画 樹 立 に 関 する 報 道 の 中 で 同 計 画 により 2012 年 に 強 盛 大 国 の 大 門 に 立 つ 基 盤 が 整 えられ 20 年 には 先 に 進 む 国 々の 水 準 に 堂 々と 達 することができる 確 保 たる 展 望 が 拡 大 した 12) と 伝 えた 深 刻 な 経 済 状 況 と 公 民 の 過 酷 な 生 活 状 態 を 認 識 する 為 政 者 が 事 実 上 2012 年 までに 強 盛 大 国 を 建 設 する 目 標 を 先 送 りしたのである 北 朝 鮮 政 府 は 最 低 でも 衣 食 住 供 給 態 勢 の 回 復 に 全 力 を 傾 注 し それが 達 成 された 時 点 ではじめて 強 盛 大 国 建 設 の 開 始 を 宣 布 する 可 能 性 が 高 い 北 朝 鮮 政 府 は 2002 年 7 月 1 日 から 実 利 的 な 社 会 主 義 分 配 制 度 の 実 施 無 償 制 度 の 整 理 配 給 制 度 の 将 来 的 な 廃 止 を 踏 まえた 市 場 経 済 の 導 入 権 限 の 地 方 委 譲 企 業 形 態 改 革 科 学 技 術 の 重 視 並 びに 農 村 改 革 といった 中 国 の 社 会 主 義 市 場 経 済 的 手 法 を 模 した 経 済 管 理 改 善 措 置 ( 七 一 経 済 改 革 )を 実 施 した 賃 金 に 対 する 成 果 主 義 の 導 入 危 険 重 労 働 に 従 事 する 労 働 者 や 軍 人 の 賃 金 水 準 切 り 上 げ 闇 価 格 を 考 慮 した 公 定 価 格 の 引 き 上 げ 外 貨 兌 換 券 の 廃 止 とウォン 切 り 下 げ 公 共 料 金 及 び 食 糧 価 格 の 引 き 上 げ 生 産 活 動 における 利 潤 の 追 求 是 認 インセンティブの 付 与 及 び 企 業 の 自 主 権 拡 大 と 独 立 採 算 制 の 強 化 等 いず れも 実 体 経 済 を 重 視 する 経 済 政 策 の 大 転 換 である 公 民 の 生 活 を 支 える 農 民 市 場 の 公 認 と 公 設 市 場 に 似 た 性 格 を 有 する 総 合 市 場 を 設 置 して 配 給 制 を 改 めた 初 歩 的 ではあるが 社 会 主 義 的 市 場 経 済 の 導 入 に 他 ならず 国 の 統 制 を 弱 め 競 争 原 理 に 基 づく 経 済 の 活 性 化 に 目 標 をおいた 経 済 改 革 といえる 改 革 で 個 人 と 企 業 による 農 産 品 や 消 費 財 の 販 売 が 可 能 に なったが 03 年 9 月 には 朴 泰 珠 化 学 工 業 相 を 首 相 に 起 用 して 内 閣 の 権 限 を 強 化 し 経 済 改 革 を 一 層 推 し 進 める 態 勢 を 採 っている 2004 年 からは 企 業 生 産 額 の 一 部 を 経 営 拡 大 のための 資 金 に 充 てることを 認 め 企 業 の 裁 量 権 を 一 層 拡 大 する 新 経 済 管 理 体 系 が 実 施 された また 中 朝 国 境 付 近 に 新 義 州 特 別 行 政 区 ( 経 済 特 区 )の 建 設 を 計 画 し 中 国 資 本 の 積 極 的 な 受 け 入 れと 市 場 開 放 外 貨 獲 得 及 び 工 業 化 の 促 進 を 図 っている 新 義 州 特 別 行 政 区 は 02 年 4 月 に 新 義 州 市 と 周 辺 の 町 の 一 部 を 範 囲 として 本 格 的 な 市 場 経 済 を 試 験 導 入 すべく 設 定 された 同 行 政 区 の 初 代 行 政 長 官 には 中 国 系 オランダ 人 実 業 家 の 楊 斌 が 就 任 したが 新 義 州 特 別 行 政 区 は 楊 斌 が 脱 税 等 の 容 疑 で 中 国 政 府 に 身 柄 を 拘 束 された 事 件 を 契 機 に 事 実 上 凍 結 状 態 にある 一 連 の 経 済 改 革 は 北 朝 鮮 公 民 に 多 大 な 影 響 を 与 え 特 に 全 国 に 拡 大 した 市 場 は 公 民 の 生 活 に 必 要 不 可 欠 な 存 在 になった けれども 需 要 の 増 大 に 対 する 慢 性 的 な 供 給 不 足 が 追 いつ かず 中 国 製 品 が 市 場 に 出 回 ってインフレや 貧 富 の 差 が 拡 大 し 党 幹 部 を 含 む 深 刻 な 腐 敗 が 常 態 化 する 一 方 で 貧 困 層 に 顕 著 な 食 糧 危 機 を 打 破 することはできなかった 北 朝 鮮 政 府 は 1996 年 春 頃 から 中 国 の 個 別 生 産 請 負 制 を 参 考 に 十 数 世 帯 で 構 成 する 分 組 を 対 象 とし 農 産 物 収 穫 量 の 一 定 部 分 を 国 家 に 納 めれば 残 りを 農 民 の 自 由 な 売 買 に 委 ねる

8 分 組 管 理 制 を 導 入 して 生 産 性 向 上 を 図 り 02 年 には 協 同 農 場 における 個 別 営 農 を 是 認 している ところが 肥 料 や 農 業 資 材 不 足 のため 頓 挫 して 旧 制 度 に 戻 してしまった 豊 富 な 中 国 商 品 を 扱 う 総 合 市 場 に 対 しても 05 年 10 月 に 食 糧 専 売 制 を 導 入 食 糧 販 売 を 国 家 が 指 定 する 商 店 や 配 給 所 に 限 定 して 実 質 的 な 配 給 制 を 復 活 させ 市 場 での 主 要 食 糧 売 買 を 抑 制 した 市 場 の 統 制 は 07 年 に 全 国 で 約 300 に 上 る 市 場 の 機 能 を 止 め 一 連 の 経 13) 済 改 革 を 押 し 止 める 要 因 となった 経 済 改 革 の 失 敗 は 経 済 の 市 場 化 が 計 画 経 済 の 基 本 的 枠 組 みを 破 壊 し 貧 富 の 差 を 拡 大 して 体 制 維 持 に 悪 影 響 を 及 ぼすと 主 張 する 政 府 内 旧 守 派 の 発 言 力 強 化 に 繋 がり 統 制 経 済 への 復 帰 を 強 めたのである ただ 改 革 が 関 係 諸 国 の 経 済 制 裁 実 施 と 相 まって 中 国 との 経 済 的 関 係 を 一 層 深 化 させたことは 重 要 である (3) 強 勢 大 国 と 核 ミサイル 問 題 が 及 ぼす 経 済 的 利 益 北 朝 鮮 政 府 の 最 大 課 題 は 衣 食 住 の 確 保 である 衣 は 生 産 性 向 上 に 関 わる 問 題 であり 食 は 社 会 主 義 的 配 給 制 の 回 復 住 は 住 宅 問 題 の 改 善 を 意 味 し これ 等 の 保 障 が 体 制 維 持 に 直 結 する 資 金 資 材 とも 不 足 する 中 で 前 述 の 2011 年 を 目 標 とする 10 万 世 帯 分 の 住 宅 建 設 が 着 工 されたが 北 朝 鮮 当 局 は 住 宅 着 工 だけで 住 宅 問 題 が 解 決 したと 発 表 した 11 年 からは 携 帯 電 話 の 普 及 や 娯 楽 番 組 専 門 の 有 線 テレビ 放 送 も 始 まった けれども 公 民 の 生 活 は 一 向 に 改 善 していない 旧 守 派 にとって 社 会 主 義 統 制 経 済 と 配 給 制 の 完 全 復 活 は 最 も 緊 急 な 事 柄 である しかし 必 要 に 見 合 う 生 産 量 が 絶 対 的 に 不 足 する ため 食 糧 は 取 り 締 まり 強 化 にかかわらず 国 家 公 認 の 流 通 網 ではなく 事 実 上 市 場 取 引 に 委 ねられた 市 場 は 公 民 の 生 活 に 必 要 な 全 必 需 品 を 賄 っており 閉 鎖 が 不 可 能 な 状 況 にある 北 朝 鮮 は 2012 年 に 強 盛 大 国 の 大 門 に 立 つ に 後 退 した 目 標 達 成 さえ 望 めず 公 民 の 生 活 に 必 須 な 物 資 を 確 保 するため 2011 年 当 初 アメリカや EU に 食 糧 支 援 を 求 めたが 厳 しい 食 糧 事 情 に 改 善 の 兆 候 はなかった 配 給 用 の 食 糧 備 蓄 がほぼ 枯 渇 する 中 で 11 年 5 月 金 正 日 総 書 記 は 1 年 余 の 間 に 3 度 目 の 訪 中 を 行 っている 目 的 は 経 済 援 助 と 対 中 国 貿 易 の 拡 大 要 請 にあり 公 民 の 生 活 を 安 定 させ 金 正 恩 氏 への 後 継 体 制 構 築 を 図 ることにあった 経 済 強 国 建 設 にとって 核 ミサイルの 保 有 がどの 程 度 外 交 上 の 威 力 を 発 揮 する かの 判 断 は 金 正 恩 氏 の 後 継 問 題 と 絡 み 指 導 者 層 の 権 力 闘 争 に 大 きな 影 響 を 及 ぼすと 考 え られた アメリカをはじめ 敵 国 との 不 可 侵 条 約 締 結 を 展 望 する 核 ミサイル 問 題 での 譲 歩 が 各 国 の 制 裁 解 除 と 経 済 的 援 助 に 繋 がるとする 改 革 派 と 金 正 恩 氏 への 円 滑 な 後 継 や 安 全 保 障 のため 譲 歩 に 絶 対 反 対 の 旧 守 派 との 対 立 は 六 者 会 合 の 開 催 をめぐる 紆 余 曲 折 を 見 ても 容 易 に 伺 える 強 盛 大 国 という 用 語 が 使 われ 北 朝 鮮 が 軍 事 強 国 を 達 成 したと 発 表 した 1998 年 当 時 は 8 月 のテポドン 1 号 の 発 射 は 別 として 使 用 可 能 な 核 は 存 在 しなかったと 思 われ 北 朝 鮮 が 核 実 験 を 放 棄 しても 強 勢 大 国 を 宣 布 す る 上 で 大 きな 支 障 はなかった しかし 巨 額 の 財 政 支 出 を 伴 う 核 開 発 を 進 めミサイルを 保 有 し 続 ける 限 り 公 民 から 経 済 強 国 を 実 感 できる 経 済 発 展 を 遂 げるのは 不 可 能 である 2006 年 頃 北 朝 鮮 最 大 の 関 心 事 項 は 円 滑 な 政 権 委 譲 に 置 かれていた 核 ミサイル 問 題 で 譲 歩 しなければ 後 継 政 権 が 経 済 改 革 に 失 敗 する 確 率 が 高 くなり 北 朝 鮮 公 民 の 支 持

9 を 得 るのが 難 しくなる 従 って 経 済 的 安 定 は 旧 守 派 と 改 革 派 の 調 整 に 左 右 さ れる ただ 核 ミサイルを 交 渉 の 切 り 札 にすることは 旧 守 派 改 革 派 共 に 異 論 はなかったと 考 えられる 06 年 10 月 初 めて 核 実 験 を 実 施 したとき 国 連 安 全 保 障 理 事 会 は 経 済 制 裁 決 議 案 (1718)を 採 択 した 友 好 国 の 中 国 も 厳 しい 態 度 を 示 すが むしろ 07 年 以 降 両 国 の 貿 易 額 は 拡 大 している 09 年 5 月 の 第 2 回 核 実 験 に 対 して 国 連 は 06 年 に 続 き 船 舶 の 貨 物 検 査 や 金 融 資 産 の 凍 結 を 含 む 制 裁 決 議 案 (1874)の 採 択 を 行 った その 際 中 国 は 対 北 朝 鮮 政 策 に 関 する 重 大 な 決 断 を 余 儀 なくされた 2 度 の 核 実 験 に 厳 しく 対 応 するか 経 済 改 革 に 積 極 的 に 関 与 することで 変 化 を 促 すか 中 国 の 指 導 部 内 で 激 しい 議 論 が 行 われ たといわれる 議 論 の 結 果 後 者 の 関 与 策 が 採 用 されて 温 家 宝 首 相 が 09 年 10 月 に 訪 朝 し 中 朝 関 係 のより 一 層 の 緊 密 化 が 進 んでいる 南 北 関 係 も 同 様 で 2010 年 3 月 の 韓 国 哨 戒 艦 沈 没 事 件 を 受 け 発 動 された 対 北 朝 鮮 経 済 制 裁 (5.24 措 置 )に 伴 う 南 北 交 流 の 禁 止 は 北 朝 鮮 に 一 定 の 打 撃 を 与 えたが 開 城 工 業 団 地 での 交 易 が 拡 大 する 等 核 ミサイルの 切 り 札 の 効 力 は 実 績 を 見 れば 理 解 できる 現 在 北 朝 鮮 が 核 兵 器 を 保 有 しているかについては 不 明 ながら 強 勢 大 国 ( 軍 事 強 国 ) を 具 現 化 する 核 ミサイルの 保 有 は 北 朝 鮮 の 安 全 保 障 だけでなく 経 済 支 援 や 貿 易 を 中 心 とする 外 交 上 の 威 力 を 最 も 効 率 的 に 発 揮 するのである 12 年 4 月 13 日 のロケット 若 し くは 弾 道 ミサイル 打 ち 上 げは 失 敗 した けれども 韓 国 の 新 大 統 領 に 対 する 牽 制 や 旧 守 派 と 強 硬 派 への 配 慮 及 び 面 子 の 回 復 といった 軍 事 外 交 上 の 理 由 だけでなく 経 済 上 の 理 由 を 加 えた 発 射 実 験 が 再 び 行 われる 可 能 性 は 非 常 に 高 い 第 3 章 金 正 恩 体 制 下 の 経 済 改 革 (1) 改 革 への 態 勢 強 化 朝 鮮 労 働 党 は 2012 年 7 月 15 日 中 央 委 員 会 政 治 局 会 議 を 開 き 病 気 を 理 由 に 金 正 恩 第 1 書 記 の 最 側 近 の 1 人 である 旧 守 派 の 李 英 浩 朝 鮮 人 民 軍 総 参 謀 長 を 党 政 治 局 常 務 委 員 政 治 局 員 党 中 央 軍 事 委 員 会 副 委 員 長 等 の 全 役 職 から 解 任 した 14) 同 年 4 月 11 日 の 朝 鮮 労 働 党 第 4 回 代 表 者 会 議 において 軍 人 出 身 者 が 歴 任 してきた 朝 鮮 人 民 軍 総 政 治 局 長 に 改 革 派 の 党 官 僚 崔 竜 海 氏 が 就 任 したことに 反 発 する 発 言 をし 金 正 恩 第 1 書 記 の 民 政 重 視 方 針 に 距 離 を 置 いたこと 等 が 問 題 視 されたようである 生 粋 の 軍 人 で 朝 鮮 人 民 軍 の 権 益 を 代 表 する 李 英 浩 氏 の 排 除 は 党 の 軍 に 対 する 統 制 強 化 を 印 象 付 けるが 最 も 重 要 な 事 柄 は 思 い 切 った 経 済 改 革 を 主 張 する 改 革 派 の 台 頭 である 李 英 浩 氏 は 解 任 前 の 2012 年 7 月 11 日 未 明 軍 保 衛 司 令 部 に 拘 束 されている 同 氏 拘 束 の 方 針 は 7 月 8 日 に 決 定 され 改 革 派 の 崔 竜 海 氏 の 指 示 で 行 われた 金 正 日 総 書 記 時 代 から 進 められた 先 軍 政 治 により 政 治 的 影 響 を 強 める 朝 鮮 人 民 軍 と 旧 守 派 の 不 満 が 鬱 積 する 可 能 性 はあるが 旧 守 派 の 代 表 格 であり 序 列 5 位 の 李 英 浩 氏 を 解 任 した 意 味 は 大 きい 李 英 浩 氏 は 09 年 2 月 軍 の 作 戦 実 施 責 任 者 としての 総 参 謀 長 に 就 任 し 10 年 9 月 の 党 代 表 者 会 議 で 他 の 実 力 者 を 追 い 抜 く 形 で 党 最 高 指 導 部 である 政 治 局 常 務 委 員 となり

10 張 成 沢 国 防 副 委 員 長 等 と 共 に 金 正 恩 第 1 書 記 の 後 見 役 を 担 ってきた けれども 崔 竜 海 氏 が 軍 総 政 治 局 長 に 就 任 して 以 来 影 響 力 が 低 下 している 李 英 浩 氏 は 朝 鮮 人 民 軍 総 参 謀 長 も 解 任 された 朝 鮮 人 民 軍 の 中 枢 は 総 参 謀 長 総 政 治 局 長 及 び 人 民 武 力 部 長 である 朝 鮮 中 央 通 信 は 朝 鮮 人 民 軍 大 將 の 玄 永 哲 氏 に 次 帥 の 称 号 を 与 えるとの 朝 鮮 労 働 党 中 央 軍 事 委 員 会 と 国 防 委 員 会 の 決 定 を 報 じた 15) 12 年 8 月 18 日 李 英 浩 の 後 任 として 玄 永 哲 氏 が 軍 総 参 謀 長 に 就 任 8 月 26 日 に 同 氏 の 党 中 央 軍 事 委 員 会 副 委 員 長 への 就 任 が 確 認 された 金 正 恩 第 1 書 記 が 改 革 を 進 める 上 で 最 大 の 難 敵 は 旧 守 派 の 多 い 朝 鮮 人 民 軍 であり 軍 の 対 外 強 硬 派 の 代 表 と 見 られる 李 英 浩 氏 であった 朝 鮮 人 民 軍 に 対 する 権 力 抑 制 策 は 金 正 日 総 書 記 存 命 時 にも 行 われている 朝 鮮 労 働 党 は 2010 年 9 月 28 日 党 の 指 導 原 理 と 原 則 及 び 組 織 等 を 規 定 する 基 本 綱 領 であり 他 の 憲 法 機 関 との 関 係 を 規 定 する 朝 鮮 労 働 党 規 約 を 改 正 した 規 約 は 事 実 上 憲 法 より 優 先 され るもので 金 正 日 国 防 委 員 長 の 後 継 者 金 正 恩 氏 への 軍 部 の 反 発 防 止 を 目 的 とし 党 の 統 制 を 強 化 する 方 向 での 改 正 である 具 体 的 には 朝 鮮 人 民 軍 はすべての 政 治 活 動 を 党 の 指 導 の 下 で 進 める 第 46 条 と 各 部 隊 に 派 遣 された 政 治 委 員 は 党 の 代 表 として 部 隊 の 全 般 事 業 の 責 任 を 負 い 掌 握 指 導 する 第 50 条 が 追 加 された また 第 22 条 で 朝 鮮 労 働 党 総 秘 書 ( 筆 者 注 : 総 書 記 )は 党 中 央 軍 事 委 員 長 となる と 規 定 ( 現 行 規 約 も 第 1 書 記 でなく 総 秘 書 のままである)し 金 正 日 総 書 記 が 自 動 的 に 兼 任 する 仕 組 みに 改 めている 第 27 条 では 金 正 恩 氏 が 副 委 員 長 を 務 める 中 央 軍 事 委 員 会 の 権 限 を 大 幅 に 強 化 し それまでの 武 力 統 率 から 国 防 事 業 全 般 を 党 的 に 指 導 するに 修 正 総 書 記 の 承 継 のみで 党 と 軍 の 全 権 掌 握 が 可 能 となった 16 ) のである 朝 鮮 労 働 党 の 規 約 改 正 は 金 正 恩 氏 への 世 襲 批 判 を 抑 えるだけでなく 党 による 軍 への 統 制 強 化 を 進 め 旧 守 派 と 強 硬 派 の 発 言 力 を 抑 え 経 済 改 革 に 繋 げる 目 論 見 があったと 考 えられる 李 英 浩 氏 の 解 任 と 玄 永 哲 氏 の 昇 進 という 人 事 について 朝 鮮 日 報 は 金 正 恩 第 1 書 記 が 後 継 者 として 正 式 に 指 名 された 時 と 権 力 を 掌 握 した 時 点 で 秘 密 警 察 である 国 家 安 全 保 衛 部 の 副 部 長 と 第 1 副 部 長 及 び 人 民 保 安 部 長 が 相 次 いで 粛 清 された 事 例 を 挙 げ 説 明 する 国 家 安 全 保 衛 部 と 人 民 保 安 部 は 人 民 武 力 部 と 共 に 金 正 恩 第 1 書 記 が 最 高 位 にある 最 高 権 力 機 関 国 防 委 員 会 の 傘 下 にあり 金 正 恩 第 1 書 記 の 権 力 の 核 心 的 機 構 といえる その 最 高 幹 部 を 金 正 恩 第 1 書 記 は 自 身 の 体 制 への 移 行 に 合 わせるように 粛 清 した 朝 鮮 日 報 は 朝 鮮 人 民 軍 に 大 きな 影 響 力 を 持 っていた 李 英 浩 氏 の 解 任 も 金 正 恩 体 制 構 築 の 延 長 線 上 にある 17) とする 同 紙 は 金 正 恩 氏 が 党 第 1 書 記 と 国 防 委 員 会 第 1 委 員 長 に 就 任 し 党 と 軍 の 両 方 を 掌 握 したかのように 見 えたが 権 力 が 依 然 として 安 定 していないか 権 力 の 均 衡 が 現 在 も 流 動 的 であると 分 析 している 金 正 恩 氏 が 人 民 軍 大 将 から2 年 足 らずの 2012 年 7 月 17 日 に2 階 級 特 進 し 共 和 国 元 帥 に 昇 格 したことと 併 せ 金 正 恩 氏 の 権 威 を 高 めて 軍 をより 安 定 的 に 掌 握 するための 措 置 との 見 方 を 示 した 朝 鮮 人 民 軍 の 掌 握 は 不 可 欠 であり 同 紙 の 指 摘 の 通 り 体 制 構 築 の 延 長 かも 知 れない ただ 同 時 に 李 英 浩 氏 の 解 任 と 玄 永

11 哲 氏 の 昇 進 を 通 して 旧 守 派 と 強 硬 派 の 多 い 朝 鮮 人 民 軍 の 抵 抗 を 抑 え 新 たな 経 済 改 革 を 進 める 態 勢 作 りもあったはずである 朝 鮮 日 報 の 主 張 に 対 し 中 国 やアメリカは 対 外 開 放 等 路 線 変 更 の 兆 しと 受 け 止 めてい る 朝 鮮 人 民 軍 の 人 事 再 編 や 金 正 恩 第 1 書 記 の 元 帥 昇 格 を 人 民 日 報 系 の 国 際 情 報 紙 環 球 時 報 は 国 内 の 専 門 家 の 談 話 を 引 用 する 形 で 軍 事 対 抗 から 経 済 改 革 と 対 外 開 放 に 向 けた 変 化 18) と 評 価 している ワシントン ポストは 金 正 恩 第 1 書 記 が 全 権 を 固 めると 同 時 に 疑 問 を 示 しかねない 年 長 のエリート 層 に 警 告 を 与 える 意 図 と 軍 偏 重 の 先 軍 政 治 から 経 済 重 視 に 転 換 する 布 石 と 捉 え 強 硬 派 を 排 除 し 労 働 党 の 官 僚 を 登 用 している 19) と 伝 え 路 線 転 換 の 兆 候 になり 得 ることを 示 唆 した 核 ミサイル 開 発 を 軸 とする 強 硬 路 線 は 金 正 恩 第 1 書 記 も 引 き 継 ぎ 2012 年 4 月 15 日 の 最 高 人 民 会 議 で 憲 法 に 北 朝 鮮 が 核 保 有 国 ( 序 文 )であると 明 記 された しかし 今 後 は 北 朝 鮮 外 交 にも 変 化 が 生 じる 可 能 性 があり 民 政 重 視 の 新 たな 経 済 改 革 が 徐 々に 進 められ ると 思 われる まだ 質 的 な 変 化 をもたらす 段 階 ではなく 改 革 が 本 格 化 するか 慎 重 に 見 極 めねばならないが 先 軍 政 治 からの 変 化 の 兆 候 は 伺 える 北 朝 鮮 南 部 の 黄 海 南 道 で 2012 年 1 月 ~2 月 に 大 量 の 餓 死 者 が 発 生 し 朝 鮮 労 働 党 指 導 部 が 軍 への 過 剰 な 食 糧 供 出 が 原 因 として 事 実 上 の 人 災 と 認 める 内 部 文 書 を3 月 中 旬 に 作 20) 成 していたと 報 道 された 北 朝 鮮 政 府 は 金 正 恩 第 1 書 記 の 問 題 を 直 視 する 姿 勢 を 国 民 向 けに 宣 伝 しておりその 表 れと 見 られる 報 道 によると 黄 海 南 道 の 延 安 白 川 青 丹 の 3 郡 のほか 黄 海 北 道 の 開 城 市 の 一 部 で 12 年 初 めに 集 団 農 場 の 労 働 者 や 家 族 が 多 数 餓 死 し た 朝 鮮 労 働 党 が 作 成 した 文 書 は 黄 海 南 道 が 水 害 で 困 難 に 陥 った 特 に 農 場 員 たち の 中 に 食 糧 不 足 に 苦 しむ 世 帯 が 増 えた 等 の 表 現 で 食 糧 難 に 言 及 し 農 場 世 帯 は 軍 への 軍 糧 米 を 保 障 するために 苦 しんでいる と 指 摘 食 糧 難 は 不 作 だけでなく 行 き 過 ぎた 軍 へ の 供 出 によるもの と 認 めているという 先 軍 政 治 を 基 本 方 針 とする 北 朝 鮮 が 軍 へ の 食 糧 供 出 の 優 先 が 問 題 を 生 じさせたとする 内 部 文 書 を 記 載 するのは 異 例 である 黄 海 南 道 は 穀 倉 地 帯 にもかかわらず 11 年 7 月 の 水 害 で 収 穫 量 が 例 年 より 減 少 している 収 穫 の 大 半 を 国 家 に 供 出 させられた 農 場 労 働 者 は2か 月 ~3か 月 分 の 食 糧 しか 分 配 されず 餓 死 者 が 続 出 したのである 北 朝 鮮 では 直 ちに 急 激 な 変 化 は 望 めないが 金 正 恩 第 1 書 記 が 民 政 重 視 の 方 針 転 換 を 望 む 限 り 変 化 は 避 けられない 特 に 大 きな 権 益 を 持 つ 朝 鮮 人 民 軍 の 改 革 は 不 可 欠 で 人 民 保 安 部 は 2012 年 6 月 中 旬 外 貨 獲 得 の 最 有 力 手 段 である 地 下 資 源 を 無 許 可 で 開 発 輸 出 した 者 に 死 刑 を 含 む 厳 罰 を 科 す 方 針 を 決 定 し 国 内 向 けに 布 告 文 を 記 載 した 通 知 を 発 した 朝 鮮 人 民 軍 を 背 景 とする 企 業 や 機 関 による 資 源 開 発 利 権 の 独 占 状 態 を 是 正 し 貧 富 の 格 差 拡 大 を 止 める 措 置 であり 金 正 恩 第 1 書 記 による 経 済 改 革 の 態 勢 作 りの 一 環 と 思 われる (2) 北 朝 鮮 の 貿 易 状 況 と 主 要 産 業 1980 年 代 までの 北 朝 鮮 貿 易 はソ 連 邦 が 約 50% 中 国 が 20%~30% 日 本 が 10%~20% 程 度 の 割 合 であったが ソ 連 邦 崩 壊 で 貿 易 が 激 減 した 後 は 中 国 が 貿 易 相 手 国 第 1 位 となっ

12 た 90 年 代 に 北 朝 鮮 経 済 が 相 次 ぐ 経 済 政 策 の 失 敗 で 苦 境 に 陥 ると 中 国 から 北 朝 鮮 向 けの 輸 出 と 経 済 援 助 物 資 が 拡 大 00 年 代 は 中 国 が 北 朝 鮮 産 鉱 産 物 の 開 発 輸 入 に 参 入 し 北 朝 鮮 の 中 国 向 け 輸 出 が 増 大 する また 00 年 6 月 初 の 南 北 首 脳 会 談 が 行 われ 南 北 間 の 取 引 も 増 21) 大 している 国 際 通 貨 基 金 (International Monetary Fund:IMF)の 貿 易 統 計 から 10 年 の 対 北 朝 鮮 貿 易 相 手 国 上 位 10 カ 国 ( 韓 国 を 除 く)を 挙 げれば 輸 出 入 額 合 計 6,521.9 百 万 ドルの 内 訳 は 中 国 が 3,585.5 百 万 ドル( 全 体 の 55.0%) インド 百 万 ドル( 同 9.3%) ブラジル 百 万 ドル( 同 2.2%) 南 アフリカ 百 万 ドル( 同 2.1%) ミャンマー122.7 百 万 ドル( 同 1.9%) オランダ 90.1 百 万 ドル( 同 1.4%) ロシア 65.4 百 万 ドル( 同 1.0%) シンガポール 58.2 百 万 ドル( 同 0.9%) タイ 52.2 百 万 ドル( 同 0.8%) ドイツ 48.7 百 万 ドル( 同 0.7%)の 順 である 日 本 は 北 朝 鮮 に 対 する 経 済 制 裁 措 置 として 2006 年 10 月 に 北 朝 鮮 からの 輸 入 を 禁 止 し 09 年 6 月 に 北 朝 鮮 向 け 輸 出 を 全 面 禁 止 した 中 国 に 次 ぐ 貿 易 相 手 国 の 韓 国 と 日 本 との 貿 易 については 別 に 検 討 する 北 朝 鮮 の 輸 出 は 石 炭 や 鉄 銅 等 の 鉱 物 資 源 が 品 目 の 上 位 を 占 めるが 地 下 資 源 の 開 発 輸 出 は 朝 鮮 人 民 軍 や 国 防 委 員 会 傘 下 の 機 関 や 企 業 が 深 く 関 与 し 独 占 状 態 を 維 持 してきた 主 要 な 輸 出 品 は 石 炭 鉄 鉱 石 繊 維 製 品 電 子 製 品 等 であり 輸 入 品 は 鉱 物 性 燃 料 機 械 電 子 製 品 穀 物 肉 類 肥 料 等 となる 北 朝 鮮 の 主 要 産 業 は 電 力 石 炭 金 属 鉄 道 運 輸 の 4 大 工 業 部 門 で 他 に 軽 工 業 農 業 鉱 業 等 がある 北 朝 鮮 地 域 は 豊 富 な 地 下 資 源 と 水 力 発 電 に 適 する 山 岳 地 帯 が 多 く 鉱 物 資 源 に 恵 まれ 日 本 統 治 時 代 から 重 化 学 工 業 が 発 展 比 較 的 平 野 が 多 い 韓 国 地 域 では 農 業 や 軽 工 業 が 発 展 した 朝 鮮 半 島 の 重 化 学 工 業 の 80% 以 上 が 北 朝 鮮 地 域 農 業 生 産 や 軽 工 業 の 約 60%~70%が 韓 国 地 域 で 生 産 されている こうした 朝 鮮 半 島 の 地 域 性 が 産 業 の 発 達 を 複 雑 化 し 15 年 戦 争 後 分 断 された 南 北 双 方 の 経 済 発 展 とりわけ 北 朝 鮮 の 食 糧 生 産 を 含 む 経 済 に 悪 影 響 を 与 えるのである ともあれ 慢 性 的 な 肥 料 不 足 に 加 え 相 次 ぐ 天 候 不 順 の ため 12 年 の 食 糧 事 情 も 相 当 厳 しい 強 盛 国 家 の 建 設 を 目 指 す 北 朝 鮮 は 経 済 の 立 て 直 し を 課 題 とするが 現 状 打 開 に 最 も 有 効 な 手 段 は 貿 易 の 拡 大 であり 特 に 中 朝 貿 易 と 経 済 特 別 区 への 投 資 の 誘 致 である 北 朝 鮮 は 2010 年 1 月 第 三 国 からの 投 資 呼 び 込 み 等 を 目 的 とした 国 家 開 発 銀 行 を 設 立 し 窓 口 となる 大 豊 国 際 投 資 グループ の 活 動 を 強 化 すると 発 表 した さらに 7 月 に は 政 府 の 合 営 投 資 指 導 局 を 合 営 投 資 委 員 会 に 改 編 する 等 投 資 誘 致 の 強 化 を 図 っ た また 金 正 日 総 書 記 が 10 年 5 月 と 8 月 に 訪 中 11 年 8 月 にロシアを 訪 問 する 等 中 露 と の 経 済 協 力 強 化 を 模 索 している 一 方 中 朝 国 境 の 北 朝 鮮 地 域 を 経 済 特 区 に 指 定 し 中 朝 で 共 同 開 発 を 行 うことになった 中 国 は 同 国 の 東 北 地 域 開 発 と 連 携 し 物 流 を 中 心 に 北 朝 鮮 の 関 連 インフラ 整 備 を 推 進 し ている その 代 表 例 が 中 朝 間 の 一 区 両 島 共 同 開 発 計 画 である 一 区 とは 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 を 指 し 両 島 とは 鴨 緑 江 河 口 ( 新 義 州 )の 二 つの 中 洲 ( 威 化

13 島 黄 金 坪 )の 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 を 指 す 現 在 新 鴨 緑 江 大 橋 建 設 高 速 道 路 建 設 鉄 道 整 備 元 汀 税 関 ~ 羅 津 港 道 路 整 備 羅 津 港 埠 頭 整 備 新 設 清 津 港 整 備 等 が 進 行 中 22) である 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 の 中 朝 初 のプロジェクトである 元 汀 ~ 羅 津 2 級 道 路 補 修 改 造 工 事 ( 延 長 50.3 キロメートル)は 2012 年 10 月 26 日 1 年 余 りの 工 期 23) で 完 工 し 琿 春 ~ 羅 先 の 車 両 運 行 時 間 を 大 きく 短 縮 させ 両 国 の 交 通 環 境 を 大 きく 改 善 さ せた 但 し 共 同 開 発 の 進 捗 度 は 遅 い 黄 金 坪 は 泥 砂 が 堆 積 した 川 中 島 で インフラ 整 備 に 大 量 の 資 金 を 要 するだけでなく 国 境 に 位 置 するため 安 全 保 障 上 の 問 題 もあり 中 朝 間 の 利 害 関 係 と 相 まって 開 発 に 時 間 を 要 する 隣 接 する 中 国 遼 寧 省 丹 東 市 政 府 関 係 者 によれば 黄 金 坪 威 化 島 経 済 区 では 開 発 に 向 けての 目 立 った 動 きはない 経 済 区 で 中 朝 いずれの 政 策 や 法 律 を 適 用 するか 利 益 の 配 分 軍 隊 派 遣 問 題 などを 詰 めている 状 況 24 ) である 羅 先 経 済 貿 易 区 に 関 しても 中 国 吉 林 省 延 辺 朝 鮮 族 自 治 州 琿 春 市 の 政 府 関 係 者 は 羅 先 経 済 貿 易 区 では 既 存 の 事 業 が 継 続 されている 以 外 新 規 企 業 進 出 で 目 立 った 動 きはない 北 朝 鮮 の 政 治 の 不 安 定 さや 法 律 の 不 備 など 投 資 環 境 の 不 安 定 さが 投 資 を 考 える 企 業 の 決 断 を 遅 らせている 25 ) としている 第 4 章 北 朝 鮮 経 済 の 中 国 依 存 傾 向 の 深 化 (1) 中 朝 貿 易 の 強 化 中 国 は 朝 鮮 半 島 における 平 和 的 統 一 を 期 待 しても 南 北 の 緊 張 激 化 や 北 朝 鮮 の 体 制 崩 壊 を 望 んでおらず 北 朝 鮮 指 導 者 による 経 済 政 策 の 失 敗 や 関 係 諸 国 の 経 済 制 裁 が 原 因 となっ て 食 糧 危 機 を 誘 発 し 公 民 の 暴 動 内 乱 に 繋 がり 膨 大 な 難 民 が 中 国 に 押 し 寄 せる 可 能 性 を 排 除 したいと 考 えている 中 国 は 同 時 に 東 北 3 省 を 中 心 とする 開 発 圏 内 に 北 朝 鮮 を 包 含 する 戦 略 を 採 った 一 方 国 内 経 済 の 困 窮 のため 金 正 日 総 書 記 と 指 導 部 は 中 国 との 経 済 的 連 携 を 重 視 せざるを 得 ない 状 況 に 置 かれていた 金 大 中 政 権 と 盧 武 鉉 政 権 が 進 めた 北 朝 鮮 図 ー % 80.0% 60.0% 40.0% 20.0% 0.0% 27.2% 28.5% 27.5% 20.6% 22.6% 17.2% 北 朝 鮮 の 貿 易 額 6, , , , ( 百 万 ドル) 33.7% 20.2% 42.5% 22.7% 世 界 合 計 (2) ( 注 ) 世 界 合 計 は2011Yearbook,Direction of Trade Statistics,IMFのデータに 韓 国 統 一 部 発 表 の 南 北 交 易 動 向 より 韓 国 の 北 朝 鮮 からの 搬 入 額 を 北 朝 鮮 の 韓 国 向 け 輸 出 額 同 じく 北 朝 鮮 への 搬 入 額 を 北 朝 鮮 の 輸 入 額 として 加 えた もの 中 国 韓 国 出 所 : 日 本 貿 易 振 興 機 構 北 朝 鮮 の 貿 易 動 向 と 中 国 ロシア 等 との 経 済 関 係 に 関 する 調 査 2012 年 2 月 94 頁 への 融 和 的 な 太 陽 政 策 が 行 き 詰 まり 強 硬 路 線 を 標 榜 する 李 明 博 政 権 発 足 後 南 北 間 経 済 協 力 が 一 挙 に 冷 え 込 んだことも 北 朝 鮮 の 中 国 依 存 度 を 一 層 強 めた 大 きな 要 因 である 韓 国 の 三 星 研 究 所 と 対 外 経 済 政 策

14 研 究 所 によれば 南 北 間 経 済 協 力 を 含 む 北 朝 鮮 の2009 年 対 外 貿 易 の 中 で 中 国 が 占 める 割 合 は52.6%( 調 査 方 法 の 違 いにより 図 -2 とは 異 なる)に 達 する 特 定 の 国 家 に50% 以 上 依 存 した 事 例 は90 年 の 旧 ソ 連 邦 以 降 初 めてである 対 北 朝 鮮 無 償 援 助 額 も02 年 の1,597 万 ドルから06 年 の3,736 万 ドル 日 本 等 が 経 済 制 裁 を 開 始 した07 年 ~10 年 に 至 る4 年 間 平 均 は4,200 万 ドル 26 ) と 拡 大 の 一 途 にある 国 際 通 貨 基 金 の 貿 易 統 計 27) は 韓 国 と 北 朝 鮮 の 取 引 額 を 包 含 していない DOTS のデ ータに 南 北 間 取 引 額 ( 交 易 額 )を 加 えた 北 朝 鮮 の 貿 易 総 額 は 図 -2 の 通 りである 2008 年 の 輸 出 総 額 は29.77 億 ドル 輸 入 総 額 は76.35 億 ドルで 計 億 ドルであった 10 年 の 貿 易 総 額 は84.34 億 ドルに 低 下 したものの 図 -3 に 示 す 通 り 中 朝 貿 易 輸 出 額 は 輸 入 額 が112% 増 の22.78 億 万 ドル 輸 出 額 が156.2% 増 の11.88 億 ドルで 中 朝 貿 易 総 額 は 前 年 比 130% 増 の34.71 億 ドルと 初 めて30 億 ドルを 突 破 28) 史 上 最 大 の08 年 貿 易 総 額 を 超 え 過 去 最 高 となり 全 貿 易 総 額 の42.5%に 達 する 11 年 における 中 国 の 対 北 朝 鮮 貿 易 は 原 油 やトラッ クが 中 心 の 輸 出 が10 年 比 38.9% 増 の31.65 億 ドル 石 炭 や 鉄 鉱 石 亜 鉛 等 をはじめとする 図 -3 主 要 国 の 対 北 朝 鮮 貿 易 (2006~2010 年 ) 4,000,000 ( 単 位 :1000ト ル) 3,471,683 3,500,000 3,000,000 2,792,245 2,680,767 2,500,000 1,975,918 2,000,000 1,700,087 1,912,249 1,797,897 1,820,367 1,500,000 1,788,758 1,000,000 1,349,740 中 国 韓 国 500, ,519 ロシア 159, ,786 49,369 98, 出 所 : 中 国 海 関 統 計 韓 国 統 一 部 ロシア 連 邦 外 国 貿 易 通 関 統 計 より 輸 入 は107.4% 増 の 億 万 ドル( 北 朝 鮮 の 貿 易 赤 字 は10 年 の 億 ドルから7 億 ド ルに 減 少 )に 上 昇 輸 出 入 総 額 で10 年 比 62.4% 増 の 約 億 ドルに 至 り 過 去 最 高 を 記 録 した 北 朝 鮮 は 核 実 験 や 10 年 3 月 の 韓 国 哨 戒 艦 沈 没 事 件 に 対 する 経 済 制 裁 等 で 国 際 環 境 が 悪 化 する 中 貿 易 面 で 中 国 への 依 存 を 一 層 強 化 するのである ま た 北 朝 鮮 に 投 資 される 海 外 資 本 の 90% 以 上 は 中 国 が 占 めている 経 済 制 裁 を 続 ける 限 り 北 朝 鮮 の 中 国 依 存 がますます 拡 大 するとの 観 測 は 韓 国 の 大 韓 (29) 貿 易 投 資 振 興 公 社 (KOTRA)の 報 告 書 でも 明 らかである 2010 年 における 北 朝 鮮 の 輸 出 品 目 第 1 位 を 占 める 石 炭 輸 出 額 は 前 年 比 50% 増 鉄 鋼 は 59% 増 その 他 の 鉱 物 資 源 は 80% 増 加 輸 入 品 目 第 1 位 の 原 油 等 燃 料 は 52% 増 機 械 が 38% 増 電 気 製 品 は 43% 増 加 した 30) KOTRA は それ 等 の 貿 易 相 手 国 は 中 国 が 圧 倒 的 であるとの 分 析 結 果 を 発 表 している 北 朝 鮮 の 対 中 輸 入 品 目 は 工 業 生 産 品 目 が 最 も 多 く 輸 出 は 産 出 量 が 豊 富 な 石 炭 鉄 鉱 石 等 の 鉱 物 資 源 で 占 められる さらに 中 国 の 対 北 朝 鮮 直 接 投 資 は 鉱 物 資 源 とインフラ 部 門 に 集 中 する 2011 年 における 北 朝 鮮 の 貿 易 総 額 約 85 億 ドルに 占 める 対 中 貿 易 の 割 合 は 06 年

15 の 30%から 約 66%にまで 上 昇 した 12 年 1 月 ~7 月 の 対 中 貿 易 も 前 年 同 期 比 14.7% 増 と 堅 調 である 両 国 は 北 朝 鮮 の 経 済 再 生 に 向 け 借 款 供 与 や 経 済 特 区 の 開 発 でも 一 致 したと される なお 韓 国 も 実 質 的 に 北 朝 鮮 貿 易 を 増 やしている 北 朝 鮮 に 対 し 欧 州 諸 国 はアパレルの 委 託 生 産 を 増 やしており アジア 経 済 研 究 所 の 中 川 雅 彦 研 究 グループ 長 は 日 本 の 貿 易 落 ち 込 み 分 は 中 国 などにほぼ 補 完 された 格 好 だ と 分 析 する 経 済 制 裁 は 中 朝 貿 易 の 拡 大 等 でほとんど 実 効 性 を 喪 失 したのである 2012 年 10 月 13 日 ~16 日 北 朝 鮮 へ 各 国 の 資 金 を 投 入 させるため 過 去 最 大 規 模 の 第 1 回 中 朝 経 済 貿 易 博 覧 会 が 中 国 丹 東 で 開 催 された 中 国 と 北 朝 鮮 を 含 む 20 か 国 から 約 6, 000 人 の 内 外 商 工 人 が 出 席 して 200 件 余 りのプロジェクトに 関 する 商 談 が 進 められ 投 資 と 31) 貿 易 関 連 の 協 定 締 結 に 至 ったプロジェクトが 72 件 協 議 契 約 金 は 12.6 億 元 に 達 した 博 覧 会 には 金 正 恩 第 1 書 記 が 進 めた 工 具 の 移 動 量 や 移 動 速 度 等 をコンピューターの 数 値 で 制 御 する コンピューター 数 値 制 御 (Computer(ized) Numerical(ly) Control(led):CNC) の 工 作 機 械 等 北 朝 鮮 の 最 先 端 企 業 も 初 めて 出 品 し 注 目 されている 中 国 側 は 船 舶 エンジ ンや 精 密 機 械 等 も 出 品 した 北 朝 鮮 国 際 経 済 技 術 交 流 推 進 会 副 会 長 の 申 奎 森 氏 は 北 朝 鮮 は 平 等 互 恵 の 原 則 下 に 各 国 の 商 工 人 が 北 朝 鮮 に 来 て 投 資 することを 歓 迎 し 法 的 に 外 国 投 資 人 の 合 法 的 権 益 と 利 益 を 保 護 する とし 外 国 投 資 家 投 資 企 業 に 対 して 所 得 税 減 免 等 の 優 遇 政 策 も 実 施 する 32) と 語 った 北 朝 鮮 側 から 貿 易 省 外 務 省 文 化 省 国 家 観 光 本 局 国 際 展 覧 社 万 寿 台 創 造 社 等 の 中 央 機 関 が 出 席 しており 金 正 恩 第 1 書 記 の 中 国 を 中 心 とする 市 場 経 済 重 視 の 姿 勢 を 感 じさせる これ 等 の 事 柄 は 北 朝 鮮 経 済 の 中 国 隷 属 化 に 繋 がる 可 能 性 を 有 する 中 国 は 2005 年 頃 から 北 朝 鮮 国 内 20 箇 所 余 で 金 銀 銅 亜 鉛 鉄 無 煙 炭 等 の 鉱 山 開 発 運 営 権 及 び 採 掘 権 に 関 する 契 約 を 締 結 一 方 で 中 国 製 品 の 税 減 免 措 置 を 取 り 付 けた さらに 中 国 は 東 北 3 省 の 開 発 振 興 と 併 せ 北 朝 鮮 を 自 国 の 経 済 圏 に 編 入 する 計 画 を 本 格 化 し 中 朝 国 境 地 域 に 経 済 協 力 拠 点 を 展 開 して 平 壌 や 清 津 南 浦 等 産 業 都 市 への 企 業 進 出 を 奨 励 している その 代 表 的 事 例 が 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 と 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 の 建 設 である 但 し 北 朝 鮮 側 が 市 場 経 済 に 不 慣 れな 上 に 旧 守 派 の 反 発 が 加 わって 開 発 が 長 期 的 に 遅 滞 しており 先 行 き 不 透 明 な 部 分 もある (2) 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 北 朝 鮮 は1991 年 12 月 28 日 中 国 の 経 済 特 区 をモデルに 中 国 と 国 境 を 接 する 北 朝 鮮 北 東 部 の 咸 境 北 道 の 羅 津 と 先 鋒 33) を 合 わせた 北 朝 鮮 初 の 経 済 特 区 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 ( 以 下 羅 先 経 済 特 区 とよぶ)を 指 定 すると 共 に10 年 1 月 羅 先 市 を 特 別 市 に 昇 格 さ せ 国 外 からの 投 資 が 円 滑 に 進 むよう 羅 先 特 区 法 を 改 正 した 羅 先 経 済 特 区 は 日 本 海 に 面 する746 平 方 キロメートルの 地 域 で12 年 2 月 中 朝 両 国 が 総 面 積 470 平 方 キロ メートルの 中 朝 経 済 協 力 特 区 建 設 案 に 最 終 合 意 し 中 国 が 羅 先 港 4 号 ~6 号 埠 頭 の 開 発 権 と50 年 間 の 使 用 権 を 取 得 している

16 2011 年 1 月 10 日 中 国 吉 林 省 琿 春 市 は 羅 先 経 済 特 区 にある 羅 津 港 の1 号 埠 頭 を 利 用 して 琿 春 市 で 産 出 される 石 炭 約 2 万 トンを 上 海 に 海 上 輸 送 するとの 発 表 34) を 行 った 海 に 面 せず 港 湾 のない 吉 林 省 は 食 料 等 の 積 出 しに 遠 距 離 の 遼 寧 省 大 連 港 を 利 用 せざるを 得 なかったが 琿 春 市 から 約 50 キロ 程 度 の 羅 津 港 まで 新 たな 輸 送 路 が 確 保 できれば 輸 送 コ ストを 軽 減 できる( 図 -4 を 参 照 のこと) 10 年 11 月 の 延 坪 島 砲 撃 事 件 等 京 畿 湾 付 近 の 北 西 部 海 域 ( 北 方 限 界 線 )における 南 北 緊 張 を 考 慮 すれば 当 面 は 北 東 部 海 域 の 航 路 か 陸 上 輸 送 が 中 心 になると 思 われる 琿 春 市 が10 年 間 の 使 用 権 を 持 つ 同 埠 頭 の 本 格 的 な 運 用 開 図 -4 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 羅 津 先 鋒 自 由 経 済 貿 易 地 帯 始 は 北 朝 鮮 にも 港 湾 使 用 料 や 荷 役 料 収 入 をもたらす 等 双 方 に 恩 恵 を 与 えるものであり 中 朝 間 地 域 経 済 協 力 の 始 動 を 意 味 する 2011 年 5 月 日 本 で 開 催 された 日 中 韓 首 脳 会 談 の 際 李 明 博 大 統 領 と 会 談 した 温 家 宝 首 相 は 中 国 の 発 展 状 況 を 理 解 して 自 分 たちの 発 展 に 活 用 してもらうために 金 ( 筆 者 注 : 正 日 ) 総 書 記 の 訪 中 を 招 請 した 35 ) との 異 例 の 記 者 発 表 を 行 った 5 月 20 日 から 中 国 を 訪 問 した 金 正 日 総 書 記 は 吉 林 省 長 春 市 にある 自 動 車 大 手 第 一 汽 車 の 工 場 を 視 察 している 同 総 書 記 は10 年 8 月 の 中 国 訪 問 でも 長 春 市 を 訪 れ 胡 錦 涛 国 家 主 席 との 会 談 を 行 った 中 国 側 には 北 朝 鮮 に 経 済 改 革 を 促 すと 共 に 北 朝 鮮 との 連 携 計 画 が 進 む 吉 林 省 の 有 力 中 国 企 業 を 主 力 とする 羅 先 経 済 特 区 の 開 発 等 中 国 東 北 3 省 の 開 発 振 興 策 と 連 動 した 経 済 協 力 を 進 め 中 国 企 業 の 投 資 を 促 進 する 意 図 があったと 見 られる 北 京 の 国 有 企 業 商 地 冠 群 投 資 有 限 公 司 は2010 年 12 月 20 日 羅 先 経 済 特 区 におい て2 年 ~3 年 間 で 必 要 なインフラを 建 設 し 5 年 ~10 年 をかけて 北 東 アジア 最 大 級 の 工 業 特 区 を 建 設 する 意 向 を 示 し 朝 鮮 投 資 開 発 連 合 体 と10 項 目 の 投 資 意 向 書 を 締 結 した 36 )

17 同 公 司 は 石 油 加 工 貿 易 鉱 物 資 源 投 資 国 際 金 融 サービスを 主 要 業 務 とする95 年 設 立 の 国 有 貿 易 会 社 である 商 地 冠 群 投 資 有 限 公 司 は 中 国 の 対 北 朝 鮮 投 資 のうち 最 大 規 模 となる20 億 ドルを 投 資 し 火 力 発 電 所 道 路 タンカー 専 用 埠 頭 石 油 精 製 工 場 製 鉄 所 を 建 設 す る また 咸 境 北 道 茂 山 磁 鉄 鉱 山 等 北 朝 鮮 の 地 下 鉱 物 資 源 の 開 発 と 国 際 金 融 銀 行 の 設 立 で 北 朝 鮮 と 合 意 に 至 り 鉱 物 採 掘 開 発 権 を 譲 渡 された 商 地 冠 群 投 資 有 限 公 司 は2010 年 12 月 末 平 壌 に 朝 鮮 常 務 処 を 設 立 視 察 団 を 構 成 して 羅 先 経 済 特 区 を 訪 問 している 中 国 の 第 12 次 5カ 年 (2011 年 ~2015 年 ) 計 画 に 合 わせて 石 油 ガス 田 開 発 石 油 精 製 石 油 化 学 鉱 物 資 源 投 資 の 開 発 に 取 り 組 んでおり 北 朝 鮮 経 済 を 中 国 特 に 東 北 3 省 の 経 済 圏 に 組 み 入 れる 有 力 な 企 業 である 一 方 朝 鮮 投 資 開 発 連 合 体 は 10 年 7 月 に 設 立 された 朝 鮮 合 弁 投 資 委 員 会 の 傘 下 機 関 で 4 大 経 済 特 区 ( 新 義 州 羅 先 金 剛 山 開 城 )を 総 括 する 商 地 冠 群 投 資 有 限 公 司 は 北 朝 鮮 投 資 事 業 を 円 滑 に 進 行 するため 中 国 及 び 香 港 の 複 数 の 会 社 の 参 加 を 予 定 発 電 所 設 備 会 社 鉱 山 物 加 工 専 門 会 社 原 油 会 社 等 と 設 備 供 給 意 向 書 を 締 結 した 同 特 区 における 一 連 の 動 向 は 社 会 主 義 市 場 経 済 を 導 入 して 経 済 改 革 を 進 めたい 北 朝 鮮 指 導 部 の 意 向 を 伺 わせる 2011 年 6 月 9 日 中 国 から 北 朝 鮮 への 観 光 旅 行 促 進 イベントと 中 国 が 参 加 する 吉 林 省 琿 春 市 間 を 結 ぶ 約 50 キロの 道 路 補 修 工 事 等 の 着 工 式 が 催 された 37) 朝 鮮 中 央 通 信 は 12 年 8 月 28 日 羅 先 経 済 特 区 に 商 業 施 設 やホテル 等 16 棟 からなる 大 型 国 際 貿 易 センターが 建 設 されると 報 じた 商 品 売 買 のほか 貿 易 の 契 約 やコンサルティング 業 務 等 のサービス も 行 われる 同 センターの 敷 地 面 積 は 約 4 万 平 方 メートル 延 べ 床 面 積 は 8 万 8,000 平 方 メートルで 北 朝 鮮 の 羅 先 白 虎 貿 易 会 社 と 中 国 の 不 動 産 開 発 会 社 が 共 同 出 資 して 12 年 10 月 中 旬 までに 倉 庫 や 商 業 卸 売 り 施 設 等 7 棟 を 建 設 した 後 13 年 10 月 には 商 店 やホテル レ 38) ストラン 等 残 り9 棟 を 完 成 させる 予 定 である なお 北 朝 鮮 はロシアとの 経 済 協 力 にも 積 極 的 で 両 国 政 府 の 間 では 天 然 ガスパイプラインの 敷 設 が 構 想 されており シベリア 鉄 道 と 朝 鮮 半 島 横 断 鉄 道 の 連 結 が 進 められている (3) 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 と 共 同 開 発 に 係 わる 諸 課 題 北 朝 鮮 は 2010 年 10 月 中 朝 国 境 の 鴨 緑 江 の 北 朝 鮮 領 中 洲 の 黄 金 坪 島 に 対 する 100 年 間 の 賃 貸 開 発 を 中 国 に 委 託 11 年 6 月 8 日 経 済 特 区 として 共 同 開 発 を 進 める 基 本 的 合 意 を 発 表 し 着 工 式 を 行 った 北 朝 鮮 は 6 月 6 日 黄 金 坪 島 に 威 化 島 を 加 えた 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 を 設 置 すると 公 表 しており 中 朝 間 経 済 協 力 の 深 化 が 予 想 された 黄 金 坪 島 は 面 積 約 11 平 方 キロの 穀 倉 地 帯 で 中 国 丹 東 市 とほぼ 陸 続 きであるが 中 国 側 が 数 億 ドルを 拠 出 して 当 面 50 年 間 の 開 発 権 を 獲 得 北 朝 鮮 の 安 価 な 労 働 力 を 活 用 した IT 関 連 企 業 や 食 品 服 飾 等 の 加 工 工 場 を 集 積 する 工 業 団 地 と 通 関 手 続 き 及 び 無 関 税 の 保 税 区 を 設 置 し 中 39) 国 人 のビザを 免 除 する 自 由 貿 易 区 に 近 い 形 態 を 取 り 入 れる 計 画 である けれども それ 以 降 は 目 立 った 進 展 が 見 られない 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 の 開 発 は 南 北 経 済 協 力 の 象 徴 である 開 城 工 業 地 区 40) における 韓 国 との 共 同 事 業 に 類 似 した 計 画 であり 特 に 黄 金 坪 島 を 中 国 企 業 向 けの 工 業 団

18 地 に 特 化 して 開 発 する 可 能 性 が 高 い 中 国 側 は 同 国 企 業 を 中 心 に 約 300 社 を 目 標 に 誘 致 す るとされ 北 朝 鮮 の 民 俗 風 習 を 意 識 した 観 光 施 設 も 含 まれる また 鴨 緑 江 対 岸 の 丹 東 市 と 北 朝 鮮 新 義 州 市 を 連 絡 する 新 たな 国 境 橋 梁 ( 新 鴨 緑 江 大 橋 )の 建 設 が 2011 年 から 始 ま っており 14 年 に 完 成 予 定 である ところが 羅 先 経 済 特 区 の 共 同 開 発 は 羅 津 港 と 中 国 吉 林 省 を 結 ぶ 道 路 の 補 修 事 業 等 が 行 われたものの 中 国 企 業 が 予 想 された 程 進 出 せず 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 も 着 工 式 以 降 開 発 が 進 まない 状 態 にある 主 導 権 をめぐる 思 惑 の 相 違 や 市 場 原 理 に 疎 い 北 朝 鮮 側 の 姿 勢 が 主 な 理 由 と 思 われる 共 同 開 発 を 進 めるため 北 朝 鮮 の 張 成 沢 国 防 委 員 会 副 委 員 長 は 2012 年 8 月 13 日 から 中 国 を 訪 問 し 両 地 区 に 隣 接 する 吉 林 遼 寧 両 省 を 訪 問 した 後 14 日 に 羅 先 経 済 特 区 と 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 の 中 朝 共 同 開 発 に 関 する 中 41) 朝 共 同 指 導 委 員 会 第 3 回 会 議 に 出 席 した 金 正 恩 第 1 書 記 体 制 後 初 の 中 朝 経 済 協 力 に 関 する 本 格 的 な 協 議 である 張 成 沢 氏 は 胡 錦 濤 国 家 主 席 や 温 家 宝 首 相 と 会 談 胡 錦 濤 主 席 は 積 極 的 に 新 たな 協 力 方 式 を 検 討 したい と 述 べ 経 済 協 力 の 強 化 と 共 に 共 同 開 発 に 関 する 諸 問 題 の 存 在 を 示 した 温 家 宝 首 相 は 両 国 政 府 の 指 導 と 計 画 を 強 化 し 企 業 が 抱 える 具 体 的 な 問 題 を 解 決 して 投 資 を 奨 励 する 等 の 提 案 に 加 え 改 めて 市 場 原 理 の 導 入 を 求 めている 中 国 側 は 張 成 沢 氏 を 釣 魚 台 国 賓 館 に 宿 泊 させる 等 国 賓 並 みに 扱 っており 中 朝 両 国 の 積 極 的 な 意 気 込 みが 伺 える 張 成 沢 氏 と 陳 徳 銘 商 務 相 が 協 議 した 中 朝 共 同 指 導 委 員 会 第 3 回 会 議 の 内 容 は 中 朝 間 の 技 術 協 力 や 羅 先 経 済 特 区 への 中 国 からの 電 力 輸 出 産 業 団 地 建 設 等 の 課 題 であり 韓 国 政 府 の 主 導 で 開 発 された 開 城 工 業 団 地 をモデルに 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 と 羅 先 経 済 特 区 に 各 々 管 理 委 員 会 を 置 き 世 界 各 国 企 業 の 進 出 を 促 すこと 等 で 合 意 して いる また 政 府 主 導 企 業 主 体 市 場 原 理 に 基 づく 運 用 相 互 利 益 を 経 済 協 力 の 基 本 原 則 とする 姿 勢 を 改 めて 確 認 した しかし 北 朝 鮮 側 が 中 国 企 業 の 進 出 を 促 進 させる 政 治 的 法 的 環 境 を 整 備 しない 限 り 両 地 域 の 開 発 とりわけ 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 の 開 発 は 進 まない 可 能 性 が 高 い 2 年 間 両 地 域 の 開 発 を 中 国 企 業 に 任 せたものの 何 の 成 果 もないため 企 業 主 体 ではなく 開 城 工 業 団 地 のような 政 府 主 体 の 開 発 を 要 請 する 張 成 沢 氏 に 対 し 中 国 側 は 企 業 主 体 の 市 場 原 理 に 基 づく 運 用 という 原 則 を 合 意 文 書 に 盛 り 込 み 無 条 件 では 支 援 しない 姿 勢 を 明 確 にしたのである 背 景 には 中 国 500 の 大 企 業 の 1 つであるマグネサイト 加 工 企 業 西 洋 集 団 が 2006 年 北 朝 鮮 の 甕 津 鉱 山 に 2 億 4000 万 元 ( 約 30 億 円 ) 程 度 を 投 資 したが 全 く 回 収 できないま ま 現 地 を 追 放 された 事 件 等 様 々な 不 利 益 を 被 る 中 国 企 業 の 急 増 という 経 緯 がある 北 朝 鮮 は 羅 先 経 済 特 区 に 関 する 法 律 を 修 正 し 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 に 関 する 法 律 を 新 たに 制 定 する 等 法 制 度 の 整 備 に 努 めている けれども 中 国 側 は 北 朝 鮮 のやり 方 は すぐに 変 わらない の 見 方 が 強 く 羅 津 港 の 利 用 を 進 めたい 反 面 北 朝 鮮 の 信 頼 性 を 考 慮 すれば 無 条 件 で 投 資 するとは 考 えられない 金 正 恩 第 1 書 記 が 経 済 改 革 の 動 きを 見 せる 中 羅 先 経 済 特 区 への 投 資 を 表 明 して 北 朝 鮮 と 了 解 覚 書 (Memorandum of

19 Understanding :MOU)を 締 結 する 中 国 企 業 は 少 しずつ 増 加 している 但 し 相 当 のリスク を 伴 う 巨 額 の 投 資 は 躊 躇 せざるを 得 ないと 判 断 市 場 原 理 を 重 視 する 中 国 政 府 も 同 調 した と 思 われる 北 朝 鮮 人 労 働 者 の 管 理 をめぐる 意 見 の 相 違 もある 北 朝 鮮 側 は 開 城 工 業 団 地 と 同 じく 両 地 域 で 働 く 労 働 者 を 当 局 の 管 理 者 に 委 ねたいと 考 え 中 国 側 は 国 際 基 準 に 合 わせ 企 業 が 管 理 する 方 針 を 示 しているようである 42 ) 温 家 宝 首 相 は2012 年 8 月 17 日 の 張 成 沢 氏 との 会 見 で2 項 目 の 改 善 を 強 く 求 めた 43 ) 第 1 は 法 的 環 境 の 改 善 である 中 国 企 業 は 北 朝 鮮 との 間 で 商 業 上 の 紛 争 が 起 きた 際 それ を 解 決 する 法 律 が 北 朝 鮮 には 存 在 しない 点 を 指 摘 してきた 温 家 宝 首 相 の 要 求 は 企 業 側 の 要 請 でもある 第 2 の 要 求 事 項 は 関 連 地 域 間 の 連 携 と 協 力 強 化 であった 関 連 地 域 とは 中 朝 両 国 の 地 方 政 府 をいう 北 朝 鮮 の 地 方 政 府 の 官 僚 から 手 続 き 上 の 名 目 で 賄 賂 を 要 求 される 中 国 企 業 が 多 く 地 方 政 府 間 で 合 意 した 事 項 の 遵 守 を 求 めるものである 筆 者 が12 年 9 月 に 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 を 訪 れた 時 同 地 域 は 野 草 が 生 えているだけ で 目 新 しいものは 何 もなかった 恐 らく 羅 先 経 済 特 区 も 開 発 が 遅 れていると 推 測 され る ただ 80 年 代 の 中 国 も 現 在 の 北 朝 鮮 と 同 じく 投 資 環 境 が 整 備 されておらず 外 資 の 進 出 にはリスクがあった 北 朝 鮮 の 環 境 整 備 は 中 国 よりさらに 時 間 がかかると 思 われるが 中 朝 両 国 の 利 害 は 一 致 しており 近 いうちに 両 地 域 の 開 発 は 軌 道 に 乗 るであろう これ 等 の 中 朝 経 済 協 力 が 直 ちに 北 朝 鮮 経 済 の 中 国 隷 属 化 を 意 味 するかは 議 論 の 余 地 がある 北 朝 鮮 は 自 主 自 立 の 主 体 思 想 を 基 本 理 念 としており 旧 主 派 による 反 発 と 妨 害 が 予 想 されるからである けれども 中 朝 経 済 協 力 の 背 景 には 厳 しい 経 済 環 境 に 置 かれた 北 朝 鮮 が 公 民 の 生 活 安 定 のため 中 国 への 経 済 的 依 存 度 を 高 めざるを 得 ず 中 国 資 本 を 導 入 して 経 済 再 建 を 図 りたいとの 改 革 派 の 思 惑 が 存 在 している 第 5 章 中 国 による 経 済 支 援 の 意 味 と 南 北 間 経 済 交 流 (1) 経 済 支 援 の 意 味 李 明 博 政 権 の 成 立 以 降 南 北 関 係 は 硬 直 化 したが 2010 年 には 韓 国 の 哨 戒 艦 沈 没 事 件 と 延 坪 島 砲 撃 事 件 の 発 生 を 受 けてアメリカや 韓 国 日 本 等 の 国 際 社 会 による 北 朝 鮮 への 締 め 付 けが 一 段 と 強 まった こうした 外 交 関 係 の 行 き 詰 まりが 北 朝 鮮 の 中 国 依 存 を 一 層 強 めたのであって 各 国 との 貿 易 拡 大 に 鑑 みても 北 朝 鮮 は 決 して 孤 立 していない 経 済 交 流 と 軍 事 的 政 治 的 色 彩 の 強 い 外 交 との 間 には 明 確 な 区 別 が 不 可 欠 である 上 述 した 中 朝 経 済 協 力 は 両 国 が 共 に 利 益 が 得 られるプロジェクトであるが 北 朝 鮮 は 革 命 以 来 常 に 中 国 経 済 に 取 り 込 まれる 警 戒 感 を 緩 めなかった 長 年 にわたり 中 朝 国 境 の 鴨 緑 江 に 新 規 架 橋 を 許 可 せず 羅 先 経 済 特 区 の 港 湾 施 設 を 中 国 企 業 が 使 用 することに 長 期 間 応 じなかった 事 由 である けれども2 年 間 にわたる 交 渉 特 に11 年 5 月 の 金 正 日 総 書 記 の 中 国 訪 問 を 契 機 に 北 朝 鮮 側 が 譲 歩 したため 交 渉 は 一 定 程 度 まで 進 展 したのである 2010 年 8 月 に 吉 林 省 長 春 市 で 行 われた 胡 錦 濤 国 家 主 席 と 金 正 日 前 総 書 記 の 首 脳 会 談 では 北 朝 鮮 指 導 部 内 の 旧 主 派 と 改 革 派 が 妥 協 し 両 国 の 経 済 協 力 は 政 府 が 主 導 する

20 が 経 済 協 力 の 中 核 は 企 業 とする 方 向 性 を 定 め 中 国 政 府 の 援 助 とは 別 に 市 場 原 理 に 基 づく 相 互 利 益 を 優 先 する 政 策 的 合 意 が 行 われた 応 急 的 対 応 ではあっても 市 場 原 理 の 導 入 を 認 めたのは 北 朝 鮮 側 の 経 済 改 革 が 急 速 に 進 行 した 証 左 である 中 国 にとって 経 済 協 力 は 単 に 利 益 の 追 求 だけでなく アメリカの 軍 事 行 動 に 対 する 抑 止 行 為 ともいえる アメリカ と 韓 国 は10 年 11 月 の 延 坪 島 砲 撃 等 に 対 抗 するため 中 国 の 反 対 を 押 して 同 国 周 辺 の 海 域 で 軍 事 演 習 を 行 ったが 中 朝 経 済 協 力 の 積 極 的 な 進 展 は 中 国 の 安 全 保 障 と 直 結 する 事 柄 で もあった 経 済 協 力 と 軍 事 的 安 全 保 障 を 絡 めた 日 本 国 とアメリカ 合 衆 国 との 間 の 相 互 協 力 及 び 安 全 保 障 条 約 ( 昭 和 35 年 6 月 23 日 条 約 第 6 号 )はその 典 型 的 事 例 である 中 国 と 北 朝 鮮 の 微 妙 な 関 係 について 中 国 の 延 辺 大 学 人 文 社 会 科 学 院 姜 龍 範 院 長 は 朝 鮮 半 島 情 勢 をめぐる 中 国 とアメリカの 利 益 は 対 立 しておらず 朝 鮮 半 島 の 非 核 化 と 安 定 は 両 国 共 通 の 利 益 でもある 北 朝 鮮 による 新 たな 核 実 験 等 の 挑 発 行 為 に 対 して 中 国 は 常 に 反 対 の 立 場 を 貫 いている 北 朝 鮮 も 中 国 の 面 目 をある 程 度 は 重 んじるだろう しかし 中 国 は 北 朝 鮮 を 統 制 できるとは 限 らず 北 朝 鮮 は 国 益 や 国 内 政 治 の 状 況 次 第 で 判 断 し 行 動 する 44 ) と 述 べている 北 朝 鮮 は 中 国 の 重 要 な 軍 事 的 外 交 的 切 り 札 に 他 ならず 六 者 会 合 を はじめ 北 朝 鮮 の 反 発 や 突 発 的 な 行 動 を 抑 えられない 状 況 が 続 くものの 経 済 協 力 を 進 展 さ せる 中 で 徐 々に 本 来 の 影 響 力 を 回 復 させる 可 能 性 はある (2) 開 城 工 業 団 地 と 南 北 関 係 北 朝 鮮 経 済 の 中 国 依 存 の 深 化 が 韓 国 主 導 の 南 北 統 一 を 困 難 にするとの 指 摘 45) がある し かし 北 朝 鮮 政 府 は 自 主 自 立 路 線 に 対 する 危 険 性 を 充 分 認 識 した 上 で 困 難 な 状 況 に 置 かれた 経 済 を 安 定 化 させるため 中 国 依 存 を 強 化 したと 考 えるのが 妥 当 であり 韓 国 政 府 が 対 北 朝 鮮 との 経 済 協 力 を 進 めれば 事 態 はある 程 度 流 動 化 すると 思 われる 三 星 研 究 所 は 中 朝 の 経 済 的 蜜 月 関 係 に 関 し ( 中 略 ) 北 韓 は 韓 国 と 中 国 の 間 で 経 済 的 な 距 離 を 置 いているだけであり 韓 国 を 排 除 するものではない と 分 析 南 北 経 済 協 力 を 発 展 させ 北 韓 中 経 済 協 力 が 北 韓 の 変 化 と 韓 半 島 統 一 に 寄 与 できるよう 韓 中 関 係 を 緊 密 にすること が 重 要 とする 報 告 書 46) を 纏 めた 中 国 と 北 朝 鮮 の 経 済 連 携 が 進 むほど 中 国 を 除 く 六 者 会 合 当 事 国 の 対 北 朝 鮮 経 済 制 裁 は 実 効 力 を 削 がれ 北 朝 鮮 の 挑 発 行 為 を 強 めることになる 制 裁 実 施 諸 国 とりわけ 韓 国 政 府 は 諸 般 の 外 交 問 題 を 解 決 に 向 けて 進 展 させるためにも 北 朝 鮮 に 対 する 強 硬 路 線 を 転 換 し 経 済 協 力 を 改 善 する 必 要 がある 南 北 交 易 は 韓 国 海 軍 哨 戒 艦 天 安 沈 没 事 件 発 生 の 2010 年 3 月 まで 好 不 調 はあっても 全 体 的 には 中 朝 貿 易 に 次 ぐ 割 合 を 占 め 比 較 的 好 調 で あった 韓 国 政 府 の 強 硬 路 線 に 伴 い 同 年 4 月 以 降 中 朝 貿 易 が 前 月 比 で 増 加 した 一 方 で 南 北 交 易 は 減 少 10 年 の 交 易 額 は 億 ドルと 北 朝 鮮 貿 易 総 額 に 占 める 10 年 の 中 朝 貿 易 比 率 42.5%(2009 年 は 33.7%)と 比 べ 22.7%( 同 20.2%)へ 相 対 的 に 低 下 した 韓 国 から の 北 朝 鮮 輸 入 額 も 8.68 億 ドル 韓 国 への 輸 出 額 は 億 ドル 47) に 止 まっている その 結 果 北 朝 鮮 に 対 する 韓 国 の 影 響 力 が 減 退 ( 図 -2 図 -3 を 参 照 のこと)したのである

21 北 朝 鮮 は 2000 年 以 降 の 10 年 間 で 韓 国 に 対 する 経 済 的 依 存 を 強 め 韓 国 との 交 易 を 途 絶 48) できない 状 況 に 至 った 北 朝 鮮 は 韓 国 哨 戒 艦 沈 没 事 件 に 関 与 した 可 能 性 もあるが 全 面 戦 争 に 突 入 する 外 向 的 力 量 や 軍 事 力 は 持 っておらず 経 済 的 にも 中 国 と 共 に 韓 国 へ 依 存 せ ざるを 得 ない 00 年 8 月 北 朝 鮮 と 韓 国 現 代 グループは 開 城 工 業 団 地 の 建 設 で 合 意 に 至 り 03 年 6 月 から 団 地 の 建 設 に 着 工 04 年 末 に 生 産 を 開 始 した 11 年 12 月 末 現 在 北 朝 鮮 側 の 労 働 者 は 約 5 万 人 で 123 社 の 韓 国 企 業 が 操 業 しており 生 産 開 始 以 降 の 累 計 生 産 額 は 15 億 649 万 ドル うち 韓 国 から 諸 外 国 向 け 輸 出 額 は 1 億 9,835 万 ドルに 上 る 韓 国 とシンガポール 欧 州 自 由 貿 易 連 合 (European Free Trade Association:EFTA) 東 南 アジ ア 諸 国 連 合 (Association of South East Asian Nations:ASEAN) インド 及 びペルーとの 自 由 貿 易 協 定 ( Free Trade Agreement:FTA)は 開 城 工 業 団 地 の 製 品 を 韓 国 産 と 認 定 ( 対 象 品 目 を 別 途 規 定 ) 韓 国 と 欧 州 連 合 (European Union:EU) 米 韓 FTA では 協 定 発 効 後 1 年 後 に 朝 鮮 半 島 域 外 加 工 地 域 委 員 会 を 構 成 するとある 開 城 工 業 団 地 は 1987 年 12 月 の 盧 泰 愚 政 権 誕 生 以 来 互 いの 存 在 を 認 める 北 朝 鮮 融 和 政 策 の 成 果 である 00 年 6 月 金 大 中 氏 が 韓 国 大 統 領 として 初 めて 平 壌 を 訪 問 し 金 正 日 総 書 記 との 首 脳 会 談 を 行 った 際 双 方 の 段 階 的 統 一 案 に 共 通 性 があることを 認 め 南 北 交 流 協 力 の 活 性 化 等 を 包 含 する 南 北 共 同 宣 言 に 署 名 した その 後 双 方 は 閣 僚 級 会 談 や 国 防 相 会 談 等 の 南 北 対 話 を 積 極 的 に 進 め 人 的 交 流 や 韓 国 からの 支 援 及 び 交 易 等 の 経 済 交 流 を 強 力 に 推 し 進 めている 02 年 12 月 金 大 中 政 権 を 受 け 継 いだ 盧 武 鉉 大 統 領 は 太 陽 政 策 を 一 層 強 化 し 北 朝 鮮 との 交 易 を 奨 励 して 北 朝 鮮 の 暴 走 を 抑 制 してきた 北 朝 鮮 融 和 政 策 の 実 行 過 程 において 1991 年 12 月 南 北 非 核 化 共 同 宣 言 と 共 に 南 北 基 本 合 意 書 (1992 年 2 月 19 日 発 効 )が 締 結 された 同 合 意 書 には 双 方 の 関 係 は 国 と 国 との 関 係 ではなく 統 一 を 目 指 す 過 程 で 暫 定 的 に 形 成 された 特 殊 な 関 係 ( 前 文 )とあり 05 年 に 韓 国 が 制 定 した 南 北 関 係 発 展 法 にも 南 北 の 関 係 は 国 家 間 の 関 係 ではなく 統 一 を 目 指 す 過 程 で 暫 定 的 に 形 成 された 特 殊 な 関 係 ( 第 3 条 第 1 項 )と 記 されている 李 明 博 政 権 の 強 硬 政 策 は 北 朝 鮮 の 中 国 依 存 を 深 め 韓 国 の 影 響 力 を 縮 小 させただけである (3) 韓 国 の 人 道 支 援 と 今 後 の 南 北 交 流 李 明 博 政 権 の 強 硬 政 策 はその 後 軟 化 の 兆 候 を 見 せた 2011 年 7 月 末 ~8 月 初 旬 北 朝 鮮 を 襲 った 集 中 豪 雨 と 洪 水 は 数 百 人 の 死 者 行 方 不 明 者 と 数 万 の 倒 壊 家 屋 を 出 し 西 岸 の 穀 物 生 産 地 を 直 撃 した 韓 国 の 人 権 団 体 は 緊 急 支 援 を 呼 びかける 声 明 を 発 表 185 カ 国 の 赤 十 字 社 等 で 構 成 する 国 際 赤 十 字 赤 新 月 社 連 盟 (The International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies:IFRC)と 共 に 洪 水 の 被 害 状 況 を24 時 間 体 制 で 監 視 したが 韓 国 国 際 赤 十 字 社 は8 月 3 日 北 朝 鮮 政 府 に 対 し 集 中 豪 雨 によって 被 害 を 受 けた 公 民 救 済 のため50 億 ウォン( 約 3 億 6,000 万 円 ) 相 当 の 生 活 必 需 品 や 医 薬 品 を 送 ると 通 知 してい る 韓 国 側 が 水 害 支 援 を 行 うのは1 年 ぶりのことである 韓 国 政 府 は 北 朝 鮮 政 府 からの 要 請 がないにもかかわらず2011 年 8 月 14 日 緊 急 支 援 の 用 意 があると 発 表 した 六 者 会 合 再 開 に 向 けた 対 話 環 境 の 醸 成 も 進 めており 与 党 ハンナ

22 ラ 党 ( 現 在 のセヌリ 党 ) 代 表 の 要 請 に 応 じ10 月 11 日 韓 国 統 一 部 は 哨 戒 艦 沈 没 事 件 の 制 裁 措 置 として 中 断 した 開 城 工 業 団 地 内 にある 韓 国 企 業 の 工 場 建 設 再 開 許 可 と 北 朝 鮮 側 との 協 議 を 通 した 開 城 工 業 団 地 と 開 城 市 内 を 連 絡 する 通 勤 道 路 の 補 修 及 び 通 勤 バス の 運 行 範 囲 の 拡 大 計 画 を 公 表 49) している また11 年 11 月 8 日 09 年 に 世 界 保 健 機 構 (World Health Organization:WHO)に 支 出 した 北 朝 鮮 向 け1,312 万 ドル( 約 10 億 2,400 万 円 ) のうち 凍 結 中 の694 万 ドルの 執 行 を 承 認 すると 共 に WHO への 追 加 支 援 や 国 連 児 童 基 金 (United Nations Children's Fund:UNICEF)と 国 際 ワクチン 研 究 所 (.International Vaccine Institute:IVI)を 通 じた 人 道 支 援 を 再 開 50) するに 至 る これ 等 一 連 の 措 置 は 哨 戒 艦 沈 没 事 件 後 民 間 団 体 が 主 導 した 支 援 に 政 府 が 加 わる 形 での 人 道 支 援 であるが 本 質 的 には 南 北 関 係 の 改 善 を 図 る 韓 国 政 府 の 政 策 修 正 を 意 味 する 李 明 博 政 権 は 統 一 部 長 官 に 柔 軟 な 政 策 を 求 める 柳 佑 益 氏 を 起 用 同 氏 は2011 年 11 月 5 日 の 訪 米 時 に 国 連 の 潘 基 文 事 務 総 長 と 会 談 し 国 連 を 通 じた 対 北 朝 鮮 人 道 支 援 を 積 極 的 に 検 討 すると 約 束 した 支 援 食 糧 の 透 明 性 を 監 視 する 目 的 で11 月 25 日 ~29 日 まで 韓 国 統 一 部 の 人 道 支 援 課 長 が 訪 朝 するが 李 明 博 政 権 下 では 初 めてのことであった 南 北 交 流 の 正 常 化 にはこうした 地 道 な 努 力 が 求 められる 金 正 日 総 書 記 死 去 に 当 たり 韓 国 政 府 関 係 者 は 弔 問 に 出 席 しなかったが 故 金 大 中 元 大 統 領 の 李 姫 鎬 夫 人 等 の 民 間 弔 問 団 に 対 し 北 朝 鮮 の 金 永 南 最 高 人 民 会 議 常 任 委 員 長 は2000 年 の 第 1 回 南 北 首 脳 会 談 と07 年 の 第 2 回 南 北 首 脳 会 談 に 盛 り 込 まれた 経 済 協 力 事 項 の 履 行 を 求 め 弔 問 団 の 帰 国 後 韓 国 の 柳 佑 益 統 一 相 は 弔 問 が 南 北 関 係 の 助 けになってほしい と 述 べた 形 式 的 な 側 面 もあろうが 李 明 博 政 権 下 で 約 4 年 間 の 空 白 が 生 じた 南 北 関 係 を 改 善 したいとの 北 朝 鮮 側 の 意 図 は 感 じられる 12 年 に 入 り 北 朝 鮮 は 李 明 博 大 統 領 に 対 する 非 難 を 強 め 韓 国 と 対 決 するかのような 発 言 を 繰 り 返 している 金 正 恩 体 制 の 引 き 締 めと 次 期 韓 国 大 統 領 に 対 する 牽 制 が 目 的 と 思 われ 過 剰 に 反 応 する 必 要 はないが 12 年 4 月 13 日 のミサイル 発 射 と 4 月 11 日 に 行 われた 韓 国 総 選 挙 以 降 の 李 明 博 政 権 の 死 に 体 状 況 を 考 えれば 南 北 会 談 や 関 係 改 善 は 簡 単 に 実 現 しそうにない しかし 北 朝 鮮 が09 年 11 月 に 実 施 したデノミの 後 遺 症 と12 年 の 相 当 な 食 糧 難 の 中 新 大 統 領 の 姿 勢 如 何 では 北 朝 鮮 指 導 部 が 南 北 関 係 改 善 を 真 剣 に 考 える 可 能 性 が 高 い 但 し 北 朝 鮮 指 導 部 内 の 旧 守 派 と 改 革 派 の 確 執 が 問 題 となる 2012 年 5 月 4 日 韓 国 輸 出 入 銀 行 は 韓 国 政 府 が00 年 ~07 年 に 行 った 北 朝 鮮 に 対 する 食 糧 支 援 目 的 の 借 款 が6 月 7 日 に 返 済 期 限 を 迎 えるため 借 款 の 初 回 返 済 分 の 元 利 金 580 万 ドルについて 北 朝 鮮 の 朝 鮮 貿 易 銀 行 に 告 知 した 借 款 は 金 大 中 蘆 武 鉉 両 政 権 時 代 の 太 陽 政 策 の 一 環 として 行 われ 6 回 にわたり 計 約 7 億 2,000 万 ドル( 約 570 億 円 ) 相 当 の 米 やトウモロコシを 借 款 方 式 で 提 供 したものである 契 約 では 告 知 から15 日 以 内 の 返 答 を 義 務 付 けているが 北 朝 鮮 は 期 限 の7 日 になっても 返 答 しなかった 韓 国 側 は 返 済 や 繰 り 延 べ 等 の 協 議 を 通 して 南 北 対 話 を 模 索 できるとの 期 待 を 持 ったようである ところが 北 朝 鮮 はミサイル 若 しくは 衛 星 打 ち 上 げ 問 題 に 関 する 非 難 を 続 けており 当 面 は 協 議 に 応 じる

23 可 能 性 は 低 い 北 朝 鮮 が 意 思 表 示 せず6か 月 以 上 返 済 が 遅 滞 すれば 債 務 不 履 行 とみなされ 開 城 工 業 団 地 のみならず 羅 先 経 済 特 区 と 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 で 外 資 誘 致 を 進 める 経 済 改 革 に 悪 影 響 を 及 ぼしかねない 北 朝 鮮 は 2012 年 8 月 開 城 工 業 団 地 入 居 企 業 に 適 用 する 税 金 規 定 施 行 細 則 を 一 方 的 に 変 更 した 改 正 細 則 には 申 告 漏 れ 額 の 200 倍 の 罰 金 遡 及 課 税 禁 止 の 廃 止 と 最 高 8 年 の 遡 及 課 税 資 材 購 入 証 明 書 類 や 原 価 分 析 資 料 の 提 出 等 が 含 まれている 同 規 則 を 根 拠 に 北 朝 鮮 は 入 居 企 業 123 社 の 16%に 該 当 する 19 社 に 最 高 10 万 ドルの 税 金 を 遡 及 課 税 し 不 履 行 時 は 物 品 搬 出 搬 入 や 工 業 団 地 の 出 入 りを 制 限 すると 通 告 した 5 年 間 の 免 税 及 び 3 年 間 の 減 税 優 遇 措 置 が 終 了 する 入 居 企 業 の 一 部 が 会 計 帳 簿 を 操 作 して 脱 税 したとの 嫌 疑 が あり 同 措 置 を 取 ったと 見 られる 施 行 細 則 の 改 正 は 北 朝 鮮 の 固 有 権 限 ではあるが 改 正 は 南 北 間 の 協 議 を 必 要 とする 02 年 11 月 制 定 の 開 城 工 業 地 区 法 第 9 条 に 対 する 明 白 な 違 反 行 為 である 南 北 間 の 投 資 保 障 合 意 書 の 基 本 精 神 はもちろん 国 際 法 的 な 常 識 にも 外 れる 韓 国 側 の 開 城 工 業 団 地 管 理 委 員 会 は 北 朝 鮮 側 の 開 城 工 業 団 地 管 理 総 局 に 協 議 を 要 請 したものの 課 税 は 主 権 国 の 固 有 権 限 だとして 協 議 自 体 を 拒 否 している こうした 行 為 は 入 居 企 業 の 開 城 工 業 団 地 からの 追 放 と 変 わらず 不 安 定 な 環 境 で 企 業 が 投 資 を 続 け るのは 困 難 である 2012 年 10 月 現 在 開 城 工 業 団 地 では 5 万 2,880 人 の 北 朝 鮮 労 働 者 (2005 年 末 6,013 人 と8 倍 以 上 に 増 加 )が 働 き 賃 金 だけで 2 億 4,500 万 ドルに 上 る 11 年 の 生 産 額 は4 億 ドルを 超 過 し07 年 の2 倍 以 上 に 拡 大 12 年 3 月 末 現 在 累 計 では16 億 4,485 万 ドルに 達 する 韓 国 の 政 権 交 代 期 を 利 用 した 揺 さぶり とすれば 韓 国 国 民 の 反 感 を 強 めることに なり 逆 効 果 である 韓 国 のマスコミは 政 府 は 可 能 なあらゆる 方 法 を 動 員 して 不 当 な 措 置 の 撤 回 を 北 側 に 強 く 要 求 しなければならない 最 悪 の 場 合 は 撤 収 も 辞 さないという 覚 悟 で 該 当 企 業 も 共 同 で 対 応 することを 望 む 51) と 書 いた 北 朝 鮮 は 12 年 9 月 ~10 月 にかけて 中 国 で 羅 先 経 済 特 区 と 黄 金 坪 威 化 島 経 済 地 帯 を 中 心 とする 外 国 企 業 投 資 説 明 会 を 4 回 開 催 している 外 国 企 業 の 投 資 を 促 進 するのであれば 開 城 工 業 団 地 入 居 企 業 に 対 する 措 置 を 早 急 に 撤 回 しなければならない 第 6 章 日 朝 貿 易 と 経 済 制 裁 (1) 日 朝 貿 易 の 概 要 と 中 断 過 程 日 本 と 北 朝 鮮 の 貿 易 は 北 朝 鮮 による 拉 致 や 核 ミサイル 問 題 等 の 解 決 手 段 として 国 際 社 会 及 び 日 本 政 府 がとった 制 裁 措 置 に 伴 い 激 減 していった 制 裁 実 施 の 根 拠 法 は2004 年 北 朝 鮮 への 送 金 禁 止 や 資 産 凍 結 並 びに 輸 出 入 規 制 を 可 能 とする 日 本 単 独 の 外 国 為 替 及 び 外 国 貿 易 法 の 改 正 ( 平 成 16 年 2 月 16 日 法 律 第 1 号 )と 北 朝 鮮 船 舶 を 想 定 した 特 定 船 舶 入 港 禁 止 特 別 措 置 法 ( 平 成 16 年 6 月 18 日 法 律 第 125 号 )の 施 行 及 び 北 朝 鮮 当 局 による 人 権 侵 害 問 題 の 実 態 解 明 と 抑 止 を 図 る 拉 致 問 題 その 他 北 朝 鮮 当 局 による 人 権 侵 害 問 題 への 対 処 に 関 する 法 律 ( 平 成 18 年 6 月 23 日 法 律 第 96 号 )である これ 等 の 法 律

24 は 海 上 航 行 に 関 する 国 際 法 に 抵 触 する 恐 れがあり 内 政 干 渉 の 疑 いが 強 い ただ 表 1に 示 表 -1 日 本 による 北 朝 鮮 への 制 裁 措 置 (2006 年 ~2012 年 ) 時 期 制 裁 概 要 2006 年 7 月 弾 道 ミサイル 発 射 関 連 万 景 峰 号 の 入 港 禁 止 北 朝 鮮 のミサイル 又 は 大 量 破 壊 兵 器 計 画 に 関 連 する15 団 体 1 個 人 の 資 金 移 転 を 防 止 2006 年 10 月 核 実 験 関 連 北 朝 鮮 船 籍 の 入 港 禁 止 北 朝 鮮 からの 輸 入 禁 止 2009 年 4 月 弾 道 ミサイル 発 射 関 連 北 朝 鮮 への 送 金 の 報 告 基 準 額 を3,000 万 円 超 から1,000 万 円 超 に 制 裁 期 間 を6か 月 から1 年 以 上 に(2010 年 4 月 から1 年 延 長 ) 2009 年 5 月 韓 国 が 哨 戒 艦 沈 没 事 件 調 査 結 果 を 発 表 北 朝 鮮 への 輸 出 全 面 禁 止 北 朝 鮮 への 送 金 の 報 告 基 準 額 を1,000 万 円 超 から300 万 円 超 に 引 き 下 げ 2011 年 11 月 韓 国 延 坪 島 砲 撃 朝 鮮 学 校 無 償 化 の 手 続 きを 停 止 (その 後 再 開 ) 2012 年 4 月 弾 道 ミサイル 発 射 関 連 3 団 体 に 資 産 凍 結 等 の 措 置 出 所 : 筆 者 作 成 すような 制 裁 措 置 が 日 朝 貿 易 と 日 朝 関 係 に 大 きな 影 響 を 与 えたことは 否 定 できない 財 務 省 関 税 局 によれば 2001 年 における 北 朝 鮮 との 貿 易 額 と 北 朝 鮮 船 舶 の 入 港 回 数 は 前 年 比 30% 程 度 も 減 少 している 輸 入 品 目 別 では 委 託 加 工 を 中 心 とするスーツ 等 の 男 子 用 衣 類 が42% 減 ズワイガニやアサリをはじめ 魚 介 類 の36% 減 が 顕 著 である このように 日 朝 貿 易 は 拉 致 問 題 で 日 朝 関 係 が 険 悪 になった 頃 から 激 減 していたが 改 正 外 国 為 替 及 び 外 国 貿 易 法 施 行 後 の 経 済 制 裁 は 一 層 両 国 の 貿 易 を 阻 害 した 貿 易 統 計 を 見 ると 表 -2 の 通 り2003 年 の 日 本 からの 輸 出 は106 億 円 輸 入 表 -2 日 朝 間 の 貿 易 額 ( 億 円 )と 北 朝 鮮 籍 船 舶 の 入 港 実 績 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 日 本 の 輸 出 日 本 の 輸 入 船 舶 数 992 1, 出 所 : 財 務 省 通 関 統 計 及 び 国 土 交 通 省 資 料 より 作 成 億 円 で 対 前 年 比 各 々 36% 32% 減 少 し 貿 易 額 は 最 盛 期 に 当 たる80 年 (1,259 億 円 )の4 分 の1に 過 ぎない 輸 出 ではスー ツの 生 地 等 の 繊 維 製 品 や 電 気 機 器 乗 用 車 等 が 大 幅 に 減 少 52) した 船 舶 の 入 港 数 も02 年 の1,415 隻 から03 年 には992 隻 に 縮 減 している 鳥 取 県 の 境 港 が332 隻 から409 隻 へ 増 加 したものの 京 都 府 舞 鶴 北 海 道 小 樽 等 の 港 湾 で 激 減 した 結 果 である 北 朝 鮮 の 貨 客 船 万 景 峰 号 に 対 する 疑 念 を 契 機 に 国 土 交 通 省 による 船 舶 検 査 の 運 用 が 厳 格 化 されたことも 一 因 と 考 えられる その 後 の 主 な 制 裁 措 置 は 2006 年 7 月 5 日 の 弾 道 ミサイル 発 射 に 対 する7 月 15 日 の 国 際 連 合 安 全 保 障 理 事 会 決 議 ( 第 1695 号 )を 受 けて 行 われた 同 決 議 に 基 づく 北 朝 鮮 のミ サイル 又 は 大 量 破 壊 兵 器 計 画 に 関 連 する 資 金 の 移 転 を 防 止 する 等 の 措 置 について ( 平 成 18 年 9 月 19 日 閣 議 了 解 )と 外 国 為 替 及 び 外 国 貿 易 法 に 基 づく 北 朝 鮮 のミサイル 又 は 大 量 破 壊 兵 器 計 画 に 関 連 する 資 金 の 移 転 を 防 止 する 措 置 について ( 平 成 18 年 9 月 19 日 外 務 省 財 務 省 経 済 産 業 省 警 察 庁 金 融 庁 告 示 )がそれであり 資 金 移 転 防 止 措 置 の 対 象 者 に 指 定 された 北 朝 鮮 のミサイル 又 は 大 量 破 壊 兵 器 計 画 に 関 連 する 者 (15 団 体 1 個 人 )に 対 する 資 金 移 転 の 防 止 措 置 を 目 的 としている