パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 栁瀬考由 澤間善成 門口泰也 佐治木弘尚 (57) AMPK を介した糖 脂質代謝調節に関する研究 横山雄一 井口和弘 臼井茂之 平野和行 (68) 研究論文 ( 平成 24 年 1 月より平成 24 年 12 月までに発表 ) (75) 岐薬紀

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1 ISSN CODEN: GYDKA9 岐阜薬科大学紀要 第 62 号 平成 25 年 6 月 30 日 THE ANNUAL PROCEEDINDS OF GIFU PHARMACEUTICAL UNIVERSITY No 目次総説糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した製剤設計及び処方検討に関する研究 内山博雅 竹内洋文 (1) 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 大八木篤 原英彰 (12) 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 宗宮仁美 福光秀文 古川昭栄 (22) 自然免疫受容体シグナルに対するローヤルゼリー由来脂肪酸の抑制作用 高橋圭太 杉山剛志 森裕志 (32) ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 中島健一 大山雅義 飯沼宗和 (38) 5-FU との併用療法を目指すヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 宮腰均 (48)

2 パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 栁瀬考由 澤間善成 門口泰也 佐治木弘尚 (57) AMPK を介した糖 脂質代謝調節に関する研究 横山雄一 井口和弘 臼井茂之 平野和行 (68) 研究論文 ( 平成 24 年 1 月より平成 24 年 12 月までに発表 ) (75) 岐薬紀要 岐阜薬科大学 Ann. Proc. 岐阜市大学西 1 丁目 25 番地 4 Gifu Pharm. Univ. Gifu Pharmaceutical University Daigaku-Nishi, Gifu あ

3 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 1-11 (2013) 1 総説 糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した 製剤設計及び処方検討に関する研究 内山博雅, 竹内洋文 * 要約 : 開発段階での医薬品候補化合物の水溶性が極端に低下する中 候補となる難水溶性薬物の溶解性の改善かつ吸収性の増大が 医薬品開発の継続や製品化において鍵となる しかし 既存の製剤技術や処方設計では十分な結果が得られない場合も多く 新たな製剤技術や処方設計による溶解性の改善が強く望まれている 我々は 近年の酵素合成技術の革新によって開発され 機能性食品添加剤として使用され始めた糖転移化合物に着目した 糖転移化合物は 既存の化合物に糖を転移することで 水溶性を増大させた化合物の総称であり 食品分野においては広く使用され 安全性が確保されている 本研究の目的は 糖転移化合物 α-glucosyl hesperidin (Hsp-G) 及び α-glucosyl Stevia (Stevia-G) を用いて 難水溶性化合物の溶解性及び吸収性改善効果を目指した新規の処方検討を行い 改善効果の評価 メカニズムの解明 新規処方設計の提案により 糖転移化合物の医薬品添加剤や機能性食品添加剤としての可能性を見出すことにある 索引用語 : 糖転移化合物 溶解性改善 吸収性改善 固体分散体 ミセル様構造 Research on the Dosage Form Design and a Formulation Study Aimed at Application to New Pharmaceutical Excipients of Transglycosylated Compounds Hiromasa UCHIYAMA, Hirofumi TAKEUCH * Abstract: While the water solubility of new drug candidates in the development phase is often extremely poor, the improvement of the dissolution and absorption of poorly water soluble drug candidates is a key factor in the continuation of drug development and making new drugs. Since the existing technology and formulation design cannot produce acceptable results for poorly water soluble drugs in many cases, improvement in dissolution with new techniques and formulation designs is essential. We focused on transglycosylated compounds which were recently developed by innovation of enzyme synthesis technology and have begun to be used as functional food additives. A transglycosylated compound is the general term for compounds which increase water solubility by the addition of sugar to an existing compound making it safe and widely used in the food industry. The purpose of this study was to evaluate the potential of Hsp-G and Stevia-G as pharmaceutical excipients and functional food additives to enhance the dissolution and absorption of poorly water soluble drugs using a new formulation, as well as an evaluation of the improvement and mechanism of dissolution enhancement effect. Key phrases: transglycosylated compound, improvement of dissolution, improvement of absorption, solid dispersion, micelle-like structure 1. 緒言近年有用な薬理効果を持った薬物候補化合物がコンビナトリアルケミストリー 1) やハイスループットスクリーニング 2) などの技術の進歩によって合成されている しかし 新薬合成の過程では 既存の化合物に疎水基などを導入するケースが多く そのため新薬の約 40 % が難水溶性薬物となる 経口投与は最も簡便な投与経路であり 患者のコンプライアンス向上などを考えるうえで最も望まれる投与方法であるが 投与された薬物が胃や腸で吸収されるた 岐阜薬科大学薬物送達学大講座製剤学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Pharmaceutical Engineering, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN)

4 2 内山博雅ら : 糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した製剤設計及び処方検討に関する研究 めには薬物は胃液や腸液の中で溶解しなければならない しかしながら難水溶性薬物は消化管での溶解性が低いため 十分な薬理効果を示す薬物量が体内に吸収されないことが問題となる 十分な薬理効果を得るため投与量を増大させた結果 副作用を認めるケースもある 従って難水溶性薬物の溶解性を改善することは 消化管での薬物の溶解を助け結果として薬物の吸収量を増大させると考えられるので 製剤設計において重要な手法となっている 難水溶性薬物の溶解性を改善する方法として 界面活性 剤による可溶化 3-4) 非晶質化 5) 薬物結晶の微粒子化 6) 固体分散体化 7-9) など多くの手法が用いられている 中でも固体分散体はポリマー中に薬物を非晶質あるいは分子分散した状態で粉末を得ることができる点で幅広く用いられている また吸収に関して 多くの難水溶性薬物が受動拡散により吸収される 受動拡散は薬物の濃度勾配により吸収が促進する機構である このことから薬物結晶の微細化や非晶質化により溶解性が向上すれば 結果として薬物のバイオアベイラビリティーが増大すると考えられる 固体分散体化による薬物の溶解性改善効果は 薬物結晶の粒子径の減少や非晶質化 基剤による薬物の可溶化 基剤と薬物との分子間相互作用などに起因すると考えられる 10-11) 一般的に固体分散体は 基剤に水溶性高分子を用い そのマトリックス構造中に薬物を分子状態で分散させる技術である しかしながら 既存の基剤では 新薬に対して十分に適応できていないというのが現状である よって新たな固体分散体の基剤が求められている 界面活性剤も難水溶性薬物の溶解性改善の手段として用いられてきた 3-4) 界面活性剤は臨界ミセル濃度 (CMC) 以上になるとミセルを形成しその構造中に薬物を可溶化することができる 12) 中でも胆汁酸ナトリウムやドデシル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤は 難水溶性薬物に対しての適応例が多く報告されている 13-14) ミセル中に可溶化された薬物は高い見かけの溶解度を保ったまま消化管に到達することができる 難水溶性薬物の多くは受動拡散によって吸収が起こるため ミセル中に可溶化することで吸収性の改善も可能となる しかしながらこれらの界面活性剤において十分な可溶化効果を得ようとする場合 ある一定量の界面活性剤の量が必要となる イオン性界面活性剤は細胞に対して障害性を示す そのため処方中への添加量が制限されるという問題点がある 界面活性剤を 2 種類以上混合した場合 それらの界面活性剤の間で混合ミセルを形成し 個々の界面活性剤が示す性質よりもいくつかの優れた性質を示す 15-17) 界面活性剤の混合は イオン性及び非イオン性界面活性剤が示す欠点を補うことができ 熱や塩の存在に対して安定なミセルの形成を可能にする また界面活性剤の混合によって 単一の界面活性剤が示す CMC の値より 混合システムが示す CMC の値が顕著に低くなる場合がある 混合システムが 示す CMC の低下は 結果として処方中の界面活性剤の量を減らすことが可能となり コストの面や人に対する毒性の面からも優位な点になると考えられる 我々は 近年の酵素合成技術の革新によって開発され 機能性食品添加剤として使用され始めた糖転移化合物に着目した 糖転移化合物は食品中の難水溶性成分を分散させたり可溶化したりするのに用いられている 糖転移化合物の中でも α-glucosyl hesperidin (Hsp-G) および α-glucosyl Stevia (Stevia-G) は安価であり安全性も高いという点から特に注目している Hsp-G はヘスペリジンに cyclomaltodextrin glucanotransferase による酵素処理によって糖を付加することで合成される 18-20) ヘスペリジン自体の抗炎症作用や血圧降下作用などは報告されているが その使用はヘスペリジン自体の溶解性の低さによって制限されている ヘスペリジンに酵素処理を施すことで合成される Hsp-G は ヘスペリジンに糖を 1 つ付加するだけでヘスペリジンの 300 倍以上もの溶解度を示す このような Hsp-G の示す高い溶解度は固体分散体の基剤として有利となる また我々の研究室では Hsp-G と健康食品成分として注目されているナリンゲニンとの固体分散体が ナリンゲニンの見かけの溶解度を 60 倍にまで増大することを報告している 21) しかしながら Hsp-G に関して 難水溶性医薬品に対して応用された例は今までに報告されていない ステビアは 種類の化合物を含むものの総称であり 血圧降下作用や血中グルコース濃度を下げる効果を示すことが報告されている 22) ステビアは 20 年以上も食品分野で広く使用されているが 重篤な副作用は一つも報告されていない このことから人への長期投与において安全性が高いと考えられる Stevia-G はステビアに酵素処理し糖を付加することで合成される化合物である Stevia-G はステビアと比べ甘みが非常に強く ステビアに認められる苦みをほとんど示さない このことから Stevia-G は苦味マスキング剤としての応用も期待される 加えて Stevia-G も Hsp-G と同様に水への高い溶解性を示す 安全であり高い水溶性を持つ Stevia-G は 固体分散体の基剤としての応用が十分に期待される しかしながら Hsp-G と同様に Stevia-G においても 難水溶性医薬品に関して応用された例はこれまでに報告されていない また糖転移化合物が示す 難水溶性食品成分に対しての分散及び可溶化効果のメカニズムも解明されていない 本研究の目的は 糖転移化合物 α-glucosyl hesperidin (Hsp-G) 及び α-glucosyl Stevia (Stevia-G) を用いて 難水溶性化合物の溶解性及び吸収性改善効果を目指した新規の処方検討を行い 改善効果の評価 メカニズムの解明 新規処方設計の提案により 糖転移化合物の医薬品添加剤や機能性食品添加剤としての可能性を見出すことにある Hsp-G 及び Stevia-G と難水溶性薬物とで固体分散体を形成することで 難水溶性医薬品の溶解性及び吸収性の改善が

5 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 1-11 (2013) 3 可能かどうか検討を行った また 糖転移化合物が示す高 い溶解性改善メカニズムは 界面張力の測定及び環境プロ ーブであるピレンを用いたスペクトル測定により検討し た さらに高い溶解性改善効果が得られる新規処方の確立 を目指して Stevia-G に界面活性剤を添加することで両者 の間でコンポジットの形成を試み 溶解性及び吸収性改善 効果に関して評価した 2. 糖転移化合物を用いた難水溶性薬物の固体分散体粒子の設計と評価 モデル薬物に Flurbiprofen (FP) 及び Probucol (PRO) を用 い 糖転移化合物及び hydroxypropyl methylcellulose (HPMC) と重量比で 1/10 となるように噴霧乾燥することで 固体分散体粒子の調製を行った 以後噴霧乾燥粒子を spray-dried particle (SPD) 物理混合物を physical mixture (PM) と表記する 噴霧乾燥により調製された粒子の X 線 回折測定の結果を Fig.1 に示す 物理混合物では回折ピー クを認めたのに対し 噴霧乾燥処理することで薬物結晶由 来の回折ピークの消失が認められた このことから 糖転 移化合物は薬物をその構造中に分散可能であり 薬物は糖 転移化合物あるいは HPMC 中で分子状態または非晶質の 状態で存在していると推察された PRO に関して結果は 示していないが FP と同様の結果が得られた Count (cps) q (degree) Fig. 1. Powder X-ray diffraction (PXRD) patterns of (a) FP crystal, (b) PM of FP/Hsp-G (1/10), (c) SDP of FP/Hsp-G (1/10), (d) SDP of FP/Stevia-G (1/10), (e) SDP of FP/HPMC (1/10), (f) Hsp-G powder. 次に調製した粒子の溶解性の評価を行った 結果は Fig. 2 に示す Fig. 2 (a) は蒸留水を溶出試験液に用いたときの 結果である FP の溶解度は一週間の振とう撹拌により約 35 μg/ml を示した FP 原末は水への溶解性が低く 180 分後において約 17 μg/ml の溶出しか認めなかった 糖転 移化合物との物理混合物においては FP 原末と比較して 初期の溶解速度に上昇は認められるものの 180 分後の溶 出量は約 20 μg/ml とほぼ FP 原末と同程度の溶出量しか示 さなかった また HPMC との固体分散体も 糖転移化合 物との物理混合物とほぼ同様の溶出プロファイルを示し た 一方 Hsp-G 及び Stevia-G との噴霧乾燥物では試験開 始直後に急速な溶出を認め 試験開始 5 分で仕込み量の全 量にあたる 55 μg/ml の溶出を示した Fig. 2 (b) には溶出 (a) (b) (c) (d) (e) (f) 試験第 1 液 (ph1.2) を溶出試験液に用いた際の結果を示す FP は pka 3.78 の酸性薬物であるため ph1.2 の溶出試験第 1 液中では Henderson-hasselbalch 式よりイオン型がほとんど存在しないため溶解度は極めて低くなることが予測される 実際に溶出試験の結果からも FP 原末からの溶出はほとんど認められていない これに対して Hsp-G 及び Stevia-G との噴霧乾燥物では試験開始直後より急速な溶出が認められ 5 分後には平衡に達し 約 50 μg/ml の溶出量を示した このことから Hsp-G 及び Stevia-G が示す溶解性改善効果は 溶解液に影響されないことが示唆された またデータには示していないが溶出試験第 2 液においても Hsp-G 及び Stevia-G との噴霧乾燥物は高い溶出を示した Fig. 3 には溶出試験液に蒸留水を用い 調製した固体分散体粒子からの PRO の溶出試験の結果を示す PRO は水への溶解度が 3-5 ng/ml と非常に疎水性が高い薬物であるため 蒸留水中で PRO 原末は溶出を認めなかった 23) また Hsp-G および Stevia-G との物理混合物も原末と同様に溶出を認めなかった 一方 Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した固体分散体から溶出した PRO の溶出量は 原末の 1000 倍以上もの値を示した このことから Hsp-G 及び Stevia-G との固体分散体粒子は 種々の薬物の溶解性を改善可能であると考えられた 薬物の溶解度は同一温度 同一 ph 下では一定の値を示す しかしながら Fig. 2 及び Fig. 3から Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した噴霧乾燥物は FP 及び PRO の両薬物において薬物の溶解度以上の溶出量を示した 薬物の溶解度以上の溶出量を示した要因として一般的に 2 つの要因が考えられる 1 つには基剤とともに噴霧乾燥を行ったことによる薬物結晶から非晶質への結晶状態の変化が 2 つ目には薬物が単分子分散した固体分散体を調製したことが考えられる 薬物が溶解するためには結晶格子を壊す必要がある 非晶質状態は結晶状態より低い結晶格子エネルギーを有し 結晶のように長距離秩序を有さないため結晶よりも高い溶解度を示すことがある 24-25) また薬物が PVP のような水溶性高分子との固体分散体から溶出される際 薬物が水中で形成されるポリマーマトリックス中に水素結合などの相互作用により分散することで 薬物の見かけの溶解度が増大することも報告されている 26) FP の結晶状態は HPMC との噴霧乾燥により非晶質となったが HPMC との噴霧乾燥物から溶出した FP の溶出量は Hsp-G 及び Stevia-G との噴霧乾燥物から溶出した FP の溶出量と比べ顕著に低かった この結果から FP において 結晶状態の変化や固体分散体化は溶出量の増大に影響しないと考えられた また低分子量の Hsp-G 及び Stevia-G では 水溶性高分子との固体分散体のようにそのマトリックス中に薬物を分散することはできない 従って見かけの溶解度改善効果は水溶性高分子とは異なる機構が考えられる

6 Concentration of FP dissolved (mg/ml) Concentration of FP dissolved (mg/ml) 4 内山博雅ら : 糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した製剤設計及び処方検討に関する研究 我々の研究室では Hsp-G に関して Hsp-G の濃度依存的に 健康食品成分であるナリンゲニンの溶出量を増大できる ことを報告している 21) 濃度依存的に薬物を可溶化する機 構としてミセルの形成やシクロデキストリンによる包摂 が考えられる しかしながら Hsp-G 及び Stevia-G が薬物 を包摂できる部位を持つことは Hsp-G 及び Stevia-G の構 造から考えにくい 以上のことから Hsp-G 及び Stevia-G が示す高い溶解性改善効果は Hsp-G 及び Stevia-G 分子が 水中でミセルのような薬物を可溶化し得る特異的な分子 集合体構造を形成し FP 及び PRO と相互作用することで 薬物の見かけの溶解度を向上していると推察された (a) (b) Time (min) Time (min) Fig. 2. Dissolution profiles of FP in (a) distilled water and (b) HCL solution (ph1.2) (, untreated FP;, PM of FP/Hsp-G (1/10);, PM of FP/Stevia-G (1/10);, SDP of FP/Hsp-G (1/10);, SDP of FP/Stevia-G (1/10);, SDP of FP/HPMC (1/10)). Each point represents the mean±s.d. (n=3). Fig. 3. Dissolution profiles of PRO in distilled water (, untreated PRO;, PM of PRO/Hsp-G (1/10);, PM of PRO/Stevia-G (1/10);, SDP of PRO/Hsp-G (1/10);, SDP of PRO/Stevia-G (1/10)). Each point represents the mean±s.d. (n=3). Fig. 4 には FP をラットに経口投与した際の血中薬物濃 度プロファイルを Table 1 には血中薬物濃度プロファイル から得られた maximum concentration (Cmax) 及び Area Under the Curve (AUC) の値を示した FP 原末をラットに経口投与したところ Cmax は約 3.7 μg/ml を示した また Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した物理混合物を経口投与したところ Cmax はそれぞれ約 4.8 μg/ml 及び 5.7 μg/ml を示した 一方 Hsp-G 及び Stevia-G を用いて噴霧乾燥した粒子を経口投与したところ Cmax はそれぞれ約 10.2 μg/ml 及び 8.3 μg/ml と FP 原末を経口投与した際の 2 倍以上の値を示した AUC に関しても Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した粒子は原末と比べそれぞれ 2.8 倍及び 2.6 倍の値を示した Fig. 5 には PRO をラットに経口投与した際の血中薬物濃度プロファイルを Table 2 には血中薬物濃度プロファイルから得られた Cmax 及び AUC の値を示した FP 原末を投与した場合と同様に Hsp-G 及び Stevia-G を用いて噴霧乾燥した粒子では 顕著な吸収量の改善が認められた PRO 原末と比べ Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した粒子を投与した際の AUC の値はそれぞれ 5.3 倍及び 9.8 倍の値を示した PRO 及び FP は Biopharmaceutics Classification System において Class II に分類される薬物である Class II に分類される薬物は高い膜透過性を有するが 溶解性が低い性質を有するため 消化管内での溶解が吸収律速となる薬物である つまり Class II 薬物において溶解性を改善することは 吸収性の改善へとつなげることができる FP は難水溶性の性質を持つ弱酸性薬物である そのため 経口投与後の消化管内での溶解速度は遅く吸収量も低くなる Mizoe ら 27) は 4 流体ノズルを用いて固体分散体粒子を調製することで FP の溶解性及び吸収性を顕著に向上することを報告している Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した固体分散体粒子は FP 原末と比較して FP の溶解性を顕著に改善した 高い溶解性改善効果が高い吸収性改善効果につながったと考えられた PRO は現在市販されている薬物の中でも最も疎水性の高い薬物の一つであり ラットへの経口投与後のバイオアベイラビリティーが 6 % 程度と非常に吸収性の低い薬物である 28) そのため吸収性を改善するためにいくつかの試みがなされている それらの例として PVP を用いた固体分散体の調製 PVP 及び SDS との共粉砕や自己乳化システムを用いたものが報告されている 29-30) これらの試みは PRO の溶解性を高めた結果 吸収性の改善にも成功している 我々の検討において Hsp-G 及び Stevia-G を用いて調製した粒子は PRO 原末と比較して顕著な溶解性の改善を示したことから 顕著な溶解性の改善が吸収性の改善へとつながったと考えられる また FP においては Hsp-G を PRO においては Stevia-G を用いた場合に より高い溶解性及び吸収性の改善が可能であった FP の場合では Hsp-G と PRO の場合には Stevia-G とより強く相互作用したことが 高い溶解性及び吸収性改善効果を示した要因になると推察される 以上のことから Hsp-G 及び Stevia-G を用いて固体分散体を調製することで

7 Surface tension (mn/m) Blood concentration of FP (mg/ml) 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 1-11 (2013) 5 種々の難水溶性薬物の溶解性だけでなく吸収性の改善も可能であり さらに適切な糖転移化合物を選択することでより高い吸収性改善効果が得られると考えられた 10 5 体の生体への安全性が挙げられる 本節ではヒト大腸上皮癌由来細胞である Caco-2 細胞を用いて 糖転移化合物の細胞毒性の有無について検討を行った 結果は Fig.6 に示す 代表的なイオン性界面活性剤である SDS では 0.1 % の濃度において高い細胞毒性を示した 一方 Hsp-G 及び Stevia-G は 10 % の濃度においても毒性を示さなかった このことから Hsp-G 及び Stevia-G は安全な基剤であると考えられた Time (hr) Fig. 4. Plasma concentration-time profiles of FP in rats after oral administration of untreated FP and SDP: (, untreated FP;, PM of FP/Hsp-G (1/10);, PM of FP/Stevia-G (1/10);, SDP of FP/Hsp-G (1/10);, SDP of FP/Stevia-G (1/10)). Each point represents the mean ± S.E. (n=6). Table 1. Pharmacokinetic parameters of FP after oral administration of SDPs of FP/Hsp-G or FP/Stevia-G in rats. (**p< 0.01, compared to untreated FP. ##p< 0.01, Compared to the corresponding PMs). untreated FP PM of FP/Hsp-G(1/10) PM of FP/Stevia-G(1/10) SDPs of FP/Hsp-G(1/10) SDPs of FP/Stevia-G(1/10) Fig. 5. Plasma concentration-time profiles of PRO in rats after oral administration of untreated PRO and SDP: (, untreated PRO;, SDP of PRO/Hsp-G (1/10);, SDP of PRO/Stevia-G (1/10)). Each point represents the mean ± S.E. (n=6). Table 2. Pharmacokinetic parameters of PRO after oral administration of SDP of PRO/Hsp-G or PRO/Stevia-G in rats. (**p< 0.01, compared to untreated PRO. ##p< 0.01, Compared to the SDP of PRO/Hsp-G). untreated PRO SDPs of PRO/Hsp-G(1/10) SDPs of PRO/Stevia-G(1/10) T max (h) C max (mg/ml) AUC 0-48 (mg h/ml) ± ± ± ± ± ± ± ± ± 2.82 ** ## ± 2.27 ** ## T max (h) C max (mg/ml) AUC 0-48 (mg h/ml) ± ± ± ± ± 4.52 ** ± 9.97 ** 固体分散体の基剤となりうる条件の 1 つとして 基剤自 Fig. 6. Cytotoxicity of Hsp-G and Stevia-G to Caco-2 cells (n=8) Control; Phosphate buffer solution (ph 7.4). 3. 糖転移化合物の薬物溶解性改善メカニズムの解明 難水溶性薬物と糖転移化合物との噴霧乾燥物から溶出 した薬物の溶出量は 薬物原末と比較して顕著に高い値を 示すことを報告した 見かけの溶解度の増大は 糖転移化 合物がミセル様の分子集合体を形成し薬物を可溶化した ことが要因であると推察された 一般に界面活性剤などの ミセルを形成するものは界面活性能を示し 疎水性界面へ 集積する性質を持つ そこで糖転移化合物による溶解性改 善メカニズムの解明の手段の一つとして 糖転移化合物を 水に添加した際の水の界面張力の測定を行うことで 糖転 移化合物の疎水性界面への集積のしやすさについて検討 を行った Fig. 7 には Hsp-G 及び Stevia-G を水中に添加し た際の水の界面張力の変化を示した Hsp-G 及び Stevia-G を添加することで水の界面張力にわずかであるが低下が 認められた また Hsp-G に比べ Stevia-G はより強い界面 活性作用を示した このことから Hsp-G 及び Stevia-G は 界面に集積する性質を有することが示された Concentration of Hsp-G and Stevia-G (mg/ml) Fig. 7. Surface tension according to concentration of Hsp-G and Stevia-G: (, Hsp-G;, Stevia-G).

8 6 内山博雅ら : 糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した製剤設計及び処方検討に関する研究 一般的に界面活性剤と呼ばれる物質は 界面活性作用を示し水中でミセルを形成する ピレンは環境プローブとして幅広く使われている試薬であり ピレン I 1 /I 3 比の測定は界面活性剤の CMC 算出などにも幅広く使われている そこで Stevia-G 分子がある濃度以上でミセル様の分子集合体構造を形成するのかどうか ピレンを用いて検討した Hsp-G の濃度によらず Hsp-G 溶液中ではピレンの消光が観察されたため Hsp-G に関してはピレンの蛍光スペクトル測定を行うことができなかった そのため Stevia-G の結 程度であった (data not shown) 以上のことから Stevia-G は一般的な界面活性剤が形成するミセルと比べ 構造が密でない緩やかな分子集合体構造を形成すると考えられた 界面活性剤を難溶性薬物の溶解性及び吸収性改善として使用した場合 生体への毒性も問題となるが 低い CMC の値によりミセル構造が安定となり 消化管内で薬物が放出されないことがしばしば問題となる Stevia-G 分子が形成する緩やかな分子集合体構造は 難水溶性薬物の吸収性を高めるうえでも有利な点になると考えられる 果のみ示す Fig. 8 には Stevia-G の濃度に対するピレン I 1 /I 3 比の変化を示す Stevia-G の濃度の増大に伴いピレン I 1 /I 3 比の値に低下が認められた ピレンは環境プローブであり ピレンが存在する周りの環境に応じて I 1 /I 3 比の値も変化する ピレンが親水的な環境に存在するときピレン I 1 /I 3 比の値は大きく 疎水的な環境に存在するとピレン I 1 /I 3 比の値は小さくなる つまりピレンがミセルなどの構造中に取り込まれるとピレン I 1 /I 3 比の値は小さくなる Fig. 8 において Stevia-G の濃度の増大に伴いピレン I 1 /I 3 比の値に低下が認められた 以上のことから Stevia-G は濃度依存的に分子集合体を形成していると考えられた ピレン I 1 /I 3 比のプロットから Stevia-G の CMC を算出したところ 16.5 mg/ml であった Stevia-G が形成する構造の凝集数は Turro and Yekta 31) らによって確立された方法である static quenching method を用いて算出した Fig. 8 から算出される Stevia-G の凝集数は約 であった Stevia-G が示すピレン I 1 /I 3 比のプロットは頻用される界面活性剤に類似したプロットを示した このことから Stevia-G は水中でミセル様の分子集合体構造を形成し その構造中に難水溶性薬物を封入することで薬物の見かけの溶解度を向上していると考えられた しかしながら ピレン I 1 /I 3 比の示すシグモイド曲線は他の界面活性剤と比べ緩やかであり また界面張力の値の変化も他の界面化製剤と比較すると小さかった 一般的に使用される界面活性剤は 親水基に対して長い疎水基を有する そのため 界面活性剤分子を水中に溶解させた際 水中で安定化するために まず水 - 空気界面へ界面活性剤分子は配向する 界面での界面活性剤分子の配向が飽和になると 次に水中に存在する界面活性剤を安定化するためミセルを形成する 一方で Stevia-G は 構造中に疎水基を有するが 一般的な界面活性剤と比較して疎水基に対して大きな親水基を有する つまり Stevia-G 分子は 界面に配向するとともに水中にも溶解できると考えられる このことから Stevia-G は一般的な界面活性剤と比較して高い CMC 及び弱い界面活性作用を示すと考えられた また Stevia-G が形成する分子凝集体の凝集数は 一般的に使用される SDS や Tween 80 などの界面活性剤と比べると小さな値を示した 32) しかしながら 動的光散乱法で測定される SDS 及び Stevia-G の粒子径はともに 2 nm Fig. 8. Plot of pyrene I 1 /I 3 ratios versus Stevia-G concentration. 一方 Hsp-G に関しては Zhang ら 33) によって NMR 測 定により水中で分子集合体を形成することが報告された Hsp-G の示す界面活性能は非常に低いものであったが 水 中で Hsp-G の持つフラボン骨格が 糖によって取り囲ま れた core-shell 構造を Hsp-G が形成することを報告してい る またその構造体が示す CMC の値は 5.0 mg/ml であり Hsp-G が示す凝集数は 4-5 分子程度 Hsp-G が形成する分 子集合体の粒子径は約 2 nm 程度であることを報告してい る 一方で Hsp-G が示す core-shell 構造内において 糖は 比較的自由度が高くそのためフラボン骨格は糖によって あまり強く抑えられないことも報告している このことか ら難水溶性薬物は疎水性相互作用を通して 比較的簡単に Hsp-G が形成する構造中に封入されそして放出される Stevia-G の場合と同様に Hsp-G が形成する緩やかな分子 集合体構造は 難水溶性薬物の吸収性を高めるうえで有利 になると考えられる 4. Stevia-G と界面活性剤との間でのナノコンポジット形成と製剤設計 Stevia-G が水中でミセル様の構造を形成し 難水溶性薬 物の溶解性及び吸収性を改善することを示した しかしな がら 高い溶解性改善効果を得るには 薬物に対して十分 量の Stevia-G が必要となる そのため経口投与製剤を設計 するうえで投与量の増大によるコンプライアンスの低下 や コストの増大などが問題となってくる よって処方中 の Stevia-G の添加量を減らす工夫が必要となる そこで糖 転移化合物に界面活性剤を CMC 以下の量を少量添加する ことで Stevia-G と種々の界面活性剤との間での相互作用 形成を目指し 高い溶解性改善効果を得ること及び

9 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 1-11 (2013) 7 Stevia-G の処方中の添加量を減らせるか検討した Fig. 9 には Stevia-G に 陰イオン性界面活性剤である SDS を CMC 以下の量を添加した際の FP の溶出プロフ ァイルを示す bicomponent of FP/SDS (1/1 w/w) からの FP の溶出量は FP の溶解度である 35 μg/ml とほぼ同程度の値 を示した このことから SDS のみの添加は FP の溶出量を 増大しないことが明らかとなった また bicomponent of FP/Stevia-G (1/10 w/w) からの FP の溶出量は原末の約 2 倍 の値であった これは Stevia-G が形成する分子集合体構造 中に FP が可溶化されたことが要因であると考えられた 一方 Stevia-G に SDS を添加した 3 成分系では 2 成分系と 比較して顕著な溶解性改善効果が認められ 特に FP/Stevia-G/SDS (1/10/1 w/w/w) の場合において FP の溶解 度の約 7 倍もの溶出量を示した データには示していない が Stevia-G に陽イオン性界面活性剤である dodecyl trimethyl ammonium bromide (DTAB) を添加し場合において も SDS と同様に 3 成分系からの溶出は 2 成分系と比べ顕 著に高かった 以上のことから Stevia-G とイオン性界面活 性剤との組み合わせは FP の溶出量を大幅に増大可能であ ることが示された Fig. 9. Dissolution profiles of FP from Stevia-G/SDS systems in distilled water.: (, Untreated FP, ; bicomponent of FP/SDS (1/1 w/w);, bicomponent of FP/Stevia-G (1/10 w/w);, tricomponent of FP/Stevia-G/SDS (1/10/0.2 w/w/w);, tricomponent of FP/Stevia-G/SDS (1/10/0.5 w/w/w);, tricomponent of FP/Stevia-G/SDS (1/10/1 w/w/w). Each point represents the mean±s.d. (n=3). Fig. 10 には Stevia-G に非イオン性界面活性剤である n-octyl-β-d-maltopyranoside (OMP) を CMC 以下の量を添 加した際の FP の溶出プロファイルを示す bicomponent of FP/OMP (1/4 w/w) からの FP の溶出量は FP 原末と同程度 であった 一方で tricomponent of FP/Stevia-G/OMP のから の FP の溶出量は bicomponent of FP/Stevia-G (1/10 w/w) と 比較して 顕著な違いは認められなかった またデータに は示していないが 非イオン性界面活性剤である Tween 80 を用いた場合にも FP/Stevia-G/Tween80 の 3 成分系からの 溶出は bicomponent of FP/Stevia-G (1/10 w/w) とほぼ同程度 であった 以上の結果から Stevia-G と非イオン性界面活 性剤の間の相互作用は イオン性界面活性剤の場合と比較 して弱く そのため新たな分子集合体構造が形成されない ため FP の溶出量に顕著な増大が認められなかったと推 察された Fig. 10. Dissolution profiles of FP from Stevia-G/OMP systems in distilled water.: (, Untreated FP, ; bicomponent of FP/OMP (1/4 w/w);, bicomponent of FP/Stevia-G (1/10 w/w);, tricomponent of FP/Stevia-G/OMP (1/10/2 w/w/w);, tricomponent of FP/Stevia-G/OMP (1/10/4 w/w/w). Each point represents the mean±s.d. (n=3). 界面活性剤の 2 種類以上の混合により 相乗的な効果が 得られることが報告されている 相乗的な効果として 単 一の界面活性剤が示す CMC より低い濃度で混合ミセルを 形成することが挙げられ 薬物の溶出量を大幅に改善する ことが期待できる FP の溶出量が大幅に増大した理由と して Stevia-G とイオン性界面活性剤との間で形成される 相互作用が大きく起因していると推察した そこで FP/Stevia-G/ イオン性界面活性剤の 3 成分が示す顕著な溶 解性改善効果の解明手段の 1 つとして 界面張力の測定を 行った Fig. 11 には Stevia-G 溶液中に SDS を CMC 以 下の量を添加した際の水の界面張力の変化を示した SDS の添加量の増大によって界面張力の値に大きな低下は認 められなかったものの 界面張力の値がプラトーに達する Stevia-G の濃度は低濃度側にシフトした 同様の現象は陽 イオン性界面活性剤である DTAB を添加した場合におい ても観察されたが 非イオン性界面活性剤の添加では観察 されなかった 以上のことから Stevia-G にイオン性界面 活性剤を添加することにより より低い Stevia-G 濃度で水 - 空気界面への配向が終わり その後 Stevia-G とイオン性 界面活性剤の間で新たな構造を形成していることが示唆 された Fig. 11. Changes in surface tension as a function of Stevia-G concentration in distilled water (, Stevia-G solution;, SDS

10 8 内山博雅ら : 糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した製剤設計及び処方検討に関する研究 solution;, Stevia-G solution with 0.2 mg/ml SDS;, Stevia-G solution with 0.5 mg/ml SDS;, Stevia-G solution with 1 mg/ml SDS. Stevia-G 及びイオン性界面活性剤との間の相互作用を より詳細に解明するために 環境プローブであるピレンを 用いてさらなる検討を行った Fig. 12 には Stevia-G 溶液中 に SDS を CMC 以下の量を添加した際の PyreneI 1 /I 3 比の プロットを示した SDS の添加量の増大に伴い Pyrene I 1 /I 3 比のプロットがプラトーを示す Stevia-G 濃度が より低濃 度側へとシフトした Pyrene I 1 /I 3 比のプロットから算出さ れる CMC は Stevia-G 溶液において 16 mg/ml SDS 溶液 において 2.5 mg/ml 1 mg/ml の SDS を含む Stevia-G 溶液 において 0.8 mg/ml であった 界面活性剤の混合によって相乗効果が得られる場合が ある 相乗効果の一つとして 混合成分から推定される CMC の値よりも低い濃度で混合ミセルを形成することが 挙げられる Stevia-G と陰イオン性界面活性剤との混合溶 液は Stevia-G または界面活性剤の単一成分が示す Pyrene I 1 /I 3 比のプロットより低い Stevia-G 濃度でプラトーに達し た ピレンは環境プローブでありピレンが存在する外部の 環境によりピレン I 1 /I 3 比は変化する ピレン I 1 /I 3 比の低下 はピレンがミセルなどの構造中に可溶化されたことを示 すことから Stevia-G とイオン性界面活性剤の間で相互作 用が形成され 新たな分子集合体の形成つまりコンポジッ トを形成していると推察された より低い濃度でのコンポ ジット形成は 薬物を可溶化するうえで有利となる 3 成分系で認められた難水溶性薬物の溶出量の増大メカ ニズムは 2 つの界面活性剤の間での相互作用が起因する 非イオン性界面活性剤のイオン性界面活性剤に対する相 互作用は 2 つのことが考えられる 34) 1 つにはイオン性界 面活性剤が持つ電荷の反発を非イオン性界面活性剤が間 に入ることで遮蔽し静電的な安定性を高めること もう 1 つは イオン性界面活性剤が持つ電荷と非イオン性界面活 性剤の間で形成されるイオン - 双極子相互作用である イ オン - 双極子相互作用によって混合ミセル系の熱力学的な 安定性は高められる 混合ミセル系の安定性を高めること はミセル相への薬物の可溶化を促進し 薬物に対して高い 溶解性改善効果を示すことを可能にすると考えられる Fig. 13 には Stevia-G と陰イオン性界面活性剤で形成さ れる構造の推定図を示した 溶出試験 界面張力の測定及 び PyreneI 1 /I 3 比の測定結果から Stevia-G はイオン性界面活 性剤と相互作用し イオン性界面活性剤が Stevia-G の形成 する構造中にインターカレートしたようなナノコンポジ ット構造になると推察された 一方でデータには示してい ないが 非イオン性界面活性剤である OMP の場合におい ては Stevia-G と混合した場合に ほとんど溶解性改善効 果を示さず また PyreneI 1 /I 3 比のプロットも Stevia-G 溶液 とほぼ同様のプロットであったことから図に示すような 構造を形成できなかったと推察された (a) Pyrene I 1 /I Concemtration of SDS (mg/ml) Fig. 12. Plot of Pyrene I 1 /I 3 ratios versus (a) SDS and (b) Stevia-G concentration (, Stevia-G solution;, SDS solution;, Stevia-G solution with 0.2 mg/ml SDS;, Stevia-G solution with 0.5 mg/ml SDS;, Stevia-G solution with 1 mg/ml SDS). Nanostructurte formed by Stevia-G aggregation Fig. 13. Schematic representation of nanocomposite formation among SDS and Stevia-G-aggregated nanostructures. イオン性界面活性剤は非イオン性界面活性剤に比べ 細 胞毒性が高くなる イオン性界面活性剤が示す細胞毒性は フリーなイオン性界面活性剤分子に起因するものである そこで Stevia-G とイオン性界面活性剤との間でコンポジ ットを形成させることによりフリーなイオン性界面活性 剤分子を減らすことで イオン性界面活性剤の示す Csco-2 細胞に対する障害性を軽減できるか検討を行った Fig. 14 には Stevia-G とイオン性界面活性剤である SDS との混合 溶液の Caco-2 細胞に対する細胞毒性を示した 0.1 % の SDS 溶液では Caco-2 細胞に対して強い細胞毒性を示した のに対して Stevia-G との混液はほとんど毒性を示さなか った これは Stevia-G とイオン性界面活性剤が相互作用し コンポジットを形成することで フリーなイオン性界面活 性剤分子が減ったことに起因すると考えられた Stevia-G とイオン性界面活性剤を混液にすることで毒性を低減で きることは経口製剤化において有利になると考えられた (b) SDS molecule Concemtration of stevia-g (mg/ml) Nanocomposite formation between Stevia-G and SDS

11 Viability (% of control) 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 1-11 (2013) Control 1%Stevia-G 1%Stevia-G +0.1% SDS 0.1 % SDS Fig. 14. Cytotoxicity of Stevia-G, SDS and binary mixture of SDS/Stevia-G system to Caco-2 cells (n=8); Control; Phosphate buffer solution (ph 7.4). Stevia-G/ イオン性界面活性剤の間でコンポジットを形 成し 難水溶性薬物である FP の溶解性を顕著に向上させ ることを示した そこで Stevia-G/ イオン性界面活性剤で形 成されるコンポジットが 他の難水溶性薬物の溶解性改善 も可能か検討した Fig. 15 には 難水溶性モデル薬物に pranlukast hemihydrate (PLH) を用いた際の溶出プロファ イルを示した PLH を用いた場合にも FP の場合と同様に 混合システムを用いることで高い溶解性改善効果が得ら れた また処方中の Stevia-G 量を減らした場合にも高い溶 解性改善効果が確認された bicomponent of PLH/Stevia-G (1/10 w/w) が示す溶解性改善効果と tricomponent of PLH/Stevia-G/SDS (1/2/1 w/w/w) が示す溶解性改善効果は 同程度であった 以上のことから Stevia-G とイオン性界面 活性剤が形成する構造は 種々の難水溶性薬物の溶解性を 改善し さらには処方中の Stevia-G の添加量を減らした場 合にも高い溶解性改善効果が得られることが示された た (Table 3) PLH の吸収部位は胃腸管の上部であることが報告されており それゆえに胃や小腸上部での初期の溶出量を増大させることは重要である ゼラチンと PLH を共粉砕すること及び 薬物ナノ粒子をマンニトール中に分散させることで PLH の吸収性改善に成功している報告がある 35-36) 2 成分系において SDS 及び Stevia-G の濃度は可溶化構造を形成できる濃度には達していなかった それゆえに PLH の吸収量の増大は Stevia-G 及び SDS が示す界面活性作用に起因すると考えられた 難水溶性薬物は疎水性が高く そのため胃液や腸液に対して濡れにくい 薬物が溶解するためには溶解液に対して初めに濡れる必要がある 界面活性剤は難水溶性薬物と消化管液との間に配向し 界面張力を低下させた結果として濡れ性を改善し吸収量が増大したと考えられた 一方で PLH/Stevia-G/SDS の 3 成分系から吸収された PLH の量は 原末及び 2 成分系と比較して顕著に高かった 高い吸収性改善効果を 3 成分系が示した要因として 3 成分系にすることで Stevia-G と SDS との間で形成されるコンポジットコンポジット中に PLH が可溶化されることで ラット体内で高い見かけの溶解度を得られたことが要因であると考えられた Fig. 16. Blood concentration profile of PLH in rats after oral administration of Stevia-G/SDS system: ( ; Untreated PLH, ; bicomponent of PLH/SDS (1/1 w/w), ; bicomponent of PLH/Stevia-G (1/2 w/w), ; tricomponent of PLH/Stevia-G/SDS (1/2/1 w/w/w)). Each point represents the mean±s.e. (n=6). Fig. 15. Dissolution profiles of PLH from Stevia-G/SDS system in distilled water.: ( ; Untreated PLH, ; bicomponent of PLH/SDS (1/1 w/w), ; bicomponent of PLH/Stevia-G (1/10 w/w), ; tricomponent of PLH/Stevia-G/SDS (1/2/1 w/w/w), ; tricomponent of PLH/Stevia-G/SDS (1/5/1 w/w/w), ; tricomponent of PLH/Stevia-G/SDS (1/10/1 w/w/w).each point represents the mean±s.d. (n=3). 次に Stevia-G と SDS との間で形成されるコンポジット が 吸収性改善を可能にするか検討した Fig.16 には PLH/Stevia-G/SDS の 3 成分をラットに経口投与した際の ラットの血中薬物濃度プロファイルを示した 原末及び 2 成分系を投与した場合と比較して 3 成分系を投与した場 合に顕著に高い血中薬物濃度を示した 特に AUC は原末 と比較して 三成分系の場合において約 3.2 倍の値を示し Table 3. AUC values of untreated PLH and Tricomponent system during 8 hours after oral administration. (**p< 0.01, compared to the untreated PLH, Bicomponent of PLH/SDS (1/1 w/w) and Bicomponent of PLH/ Stevia-G (1/1 w/w)). Untreated PLH Bicomponent of PLH/SDS (1/1 w/w) Bicomponent of PLH/Stevia-G (1/2 w/w) Tricomponent of PLH/SDS/Stevia-G (1/1/2 w/w/w) 5. 結論 AUC 0-48h (mg h/ml) ± ± ± ± ** FP 及び PRO と糖転移化合物を噴霧乾燥法により固体分 散体を調製したところ 溶出試験液の ph に依存せず 噴 霧乾燥物は原末と比べ顕著に高い溶解性改善効果を示し

12 10 内山博雅ら : 糖転移化合物の新規医薬品添加剤への応用を目指した製剤設計及び処方検討に関する研究 た また溶解性改善のメカニズムは 糖転移化合物が水中 で形成するミセル様の分子集合体構造が寄与しているこ とを見出した 調製した粒子をラットに経口投与したとこ ろ いずれの粒子も原末と比べ顕著に高い吸収量を示した Stevia-G とイオン性界面活性剤の混合は 難水溶性薬物の 溶解性を顕著に向上した Stevia-G とイオン性界面活性剤 の混合が示す高い溶解性改善効果の解明を行ったところ Stevia-G とイオン性界面活性剤の混液は Stevia-G が単独 で形成する分子集合体構造より 低い Stevia-G 濃度で分子 集合体を形成していることが明らかとなった このことか ら Stevia-G とイオン性界面活性剤の間で相互作用が生じ コンポジットが形成されていると考えられた難水溶性薬 物及び Stevia-G とイオン性界面活性剤の三成分を物理混 合した後ラットに経口投与したところ 薬物原末と比べ顕 著に高い薬物吸収量を示した Stevia-G とイオン性界面活 性剤で形成されるコンポジットは 噴霧乾燥などの特別な 処理を必要とすることなく難水溶性薬物の溶解性及び吸 収性を改善することから 新規処方としての応用が期待さ れる 以上 糖転移化合物が示す高い溶解性改善メカニズ ムを解明することができ 糖転移化合物の新規医薬品添加 剤としての有用性を示すことに成功した また Stevia-G とイオン性界面活性剤が形成するコンポジットの新規処 方としての有用性を示すことにも成功した 糖転移化合物 が今後医薬品添加剤として応用を目指す上で重要な知見 を示すことに成功した 本研究は新規添加剤として Hsp-G 及び Stevia-G の応用を目指したものであり Hsp-G 及び Stevia-G に関して 医薬品への応用やその可溶化メカニズ ムの解明などを報告した初めての報告となる 6. 謝辞 本研究に関して貴重な御助言を賜りました大阪薬科大 学製剤設計学研究室戸塚裕一教授 岐阜薬科大学 薬物送達学大講座製剤学研究室 田原耕平助教に深甚 なる謝意を表します 本研究全般にわたり御協力頂きま した岐阜薬科大学製剤学研究室各位に感謝致します 7. 引用文献 1) S. Brenner, R.A. Lerner, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 89, (1992). 2) A. Persidis, Nature biotechnology 16 (1998) ) J.J. Sheng, N.A. Kasim, R. Chandrasekharan, G.L. Amidon, Eur. J. Pharm. Sci. 29, (2006). 4) G.E. Granero, C. Ramachandran, G.L. Amidon, Drug Dev. Ind. Pharm. 31, (2005). 5) G.Z. Papageorgiou, D. Bikiaris, E. Karavas, S. Politis, A. Docoslis, Y. Park, A. Stergiou, E. Georgarakis, AAPS J. 8, (2006). 6) Y. Tanaka, M. Inkyo, R. Yumoto, J. Nagai, M. Takano, S. Nagata, Chem. Pharm. Bull. 57, (2009). 7) S. Sinha, M. Ali, S. Baboota, A. Ahuja, A. Kumar, J. Ali, AAPS PharmSciTech. 11, (2010). 8) F. Qian, J. Huang, M.A. Hussain, J. Pharm. Sci. 99, (2010). 9) M.K. Gupta, R.H. Bogner, D. Goldman, Y.C. Tseng, Pharm. Dev. Technol. 7, (2002). 10) R.H. Potluri, S. Bandari, R. Jukanti, P.R. Veerareddy, Arch. Pharm. Res. 34, (2011) 11) R. Pignatello, M. Ferro, G. Puglisi, AAPS PharmSciTech. 3, (2002). 12) J. Shokri, A. Nokhodchi, A. Dashbolaghi,, T. Ghafourian, M. Barzegar, Int. J. Pharm. 228, (2001). 13) S.H.Park, M.K. Choi, Int. J. Pharm. 321, (2006). 14) J.H. Smidt, J.C. Offringa, D.J. Crommelin, J. Pharm. Sci. 80, (1991). 15) S.K. Mehta, S. Chaudhary, R. Kumar, K.K. Bhasin, J. Phys. Chem. B. 113, (2009). 16) Y. Yan, J. Huang, J. colloid Int. Sci. 337, 1-10 (2009). 17) W. Zhang, Y. Shi, Y. Chen, S. Yu, J. Hao, X. Sha, X. Fang, Eur. J. Pharm. Biopharm. 75, (2010). 18) T. Kometani, T. Nishimura, T. Nakae, H. Takii, S. Okada, Biosci. Biotech. Biochem. 60, (1996). 19) T. Kometani, T. Nishimura, T. Nakae, H. Takii, S. Okada, Food Sci. Technol. Res. 5, (1999). 20) T. Kometani, T. Fukuda, T, Kakuma, K. Kawaguchi, W. Tamura, Y. Kumazawa, K. Nagata, Immunopharmacol. Immunotoxicol. 30, (2008). 21) Y. Tozuka, J. Kishi, H. Takeuchi, Adv. Powder Tech. 21, (2010). 22) P. Chan, D.Y. Xu, J.C. Liu, Life Sci. 63, (1998). 23) N. Yagi, Y. Terashima, H. Kenmotsu, H. Sekikawa, M. Takada, Chem. Pharm. Bull. 44, (1996). 24) J.S. Kim, M.S. Kim, H.J. Park, S.J. Jin, S. Lee, S.J. Hwang, Int. J. Pharm. 359, (2008). 25) B.C. Hancock, M. Parks, Pharm. Res. 17, (2000). 26) H.A. Garekani, F. Sadeghi, A. Ghazi, Drug Dev. Ind. Pharm. 29, (2003). 27) T. Mizoe, S. Beppu, T. Ozeki, H. Okada, J. Control Release. 120, (2007). 28) S. Flemming Nielsen, E. Gibault, H. Ljusber-Wahren, L. Arleth, J. Pharm. Sci. 96, (2007). 29) Y. Kubo, Y. Terashima, N. Yagi, H. Nochi, K. Tamoto, H. Sekikawa, Biol. Pharm. Bull. 32, (2009). 30) J. Shudo, A. Pongpeerapat, C. Wanawongthai, K. Moribe,to, Biol. Pharm. Bull. 26, (2007). 31) N.J. Turro, J. Am. Chem. Soc. 100, (1978). 32)M.E. Haque, A.R. Das, S.P. Moulik, J. Colloid Interface Sci. 217, 1-7 (1999). 33) Zhang J, Tozuka Y, Uchiyama H, Higashi K, Moribe K, Takeuchi H, Yamamoto K. J. Pharm. Sci. 100, (2011). 34) J.M. Hierrezuelo, J. Aguiar, C. Ruiz, J. colloid Int. Sci. 294,

13 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 1-11 (2013) (2005). 35) S. Chono, E. Takeda, T. Seki, K. Morimoto, Int. J. Pharm. 347, (2008). 36) T. Mizoe, T. Ozeki, H. Okada, J. Control Release, 122, (2007). 8. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 135 号 ) の内容を 中心にまとめたものである

14 12 大八木篤ら : 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 総説 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 * 大八木篤, 原英彰 要約 : ヘパリン結合性上皮成長因子 (heparin-binding epidermal growth factor-like growth factor: HB-EGF) は EGF ファミリーの主要な増殖因子の一つである これまでの研究で HB-EGF は生体内で細胞の癌化 正常な心臓機能の発現 表皮の創傷治癒 目蓋の形成などに関与していることが報告されている 一方 HB-EGF は海馬や大脳皮質 小脳など中枢神経系で高い発現を示すことから 神経細胞のネットワーク回路の構築や高次脳機能への関与が示唆される そこで 前脳選択的に HB-EGF 欠損させたマウスを作製し 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割について検討した 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスは自発運動量の増加や社会性行動の低下 プレパルスインヒビションの低下 記憶の低下などの諸種の行動変化を示した また HB-EGF KO マウスではドパミンやセロトニンなどの脳内モノアミン含量の変化や 大脳皮質第三層のスパイン密度の低下 海馬における長期増強 (LTP) の低下などの機能的 器質的変化を示した 以上より HB-EGF は 精神行動や記憶などの中枢神経系の高次脳機能の調節に重要な役割を果たしていることが示唆された さらに HB-EGF シグナルの制御が複雑な神経疾患の病態機序解明 新規治療法並びに治療薬の開発の糸口になることが期待できる 索引用語 : 高次脳機能 長期増強 ヘパリン結合性上皮成長因子 KO マウス Roles of Heparin-binding EGF-like Growth Factor (HB-EGF) in the Higher Brain Functions: Analysis of Ventral Forebrain Specific HB-EGF KO Mice Atsushi OYAGI, Hideaki HARA * Abstract: Heparin-binding epidermal growth factor-like growth factor (HB-EGF) is a member of the EGF family of growth factors. Previously, HB-EGF has been reported to be involved in diverse biological processes, including tumor formation, heart function, wound healing, and eyelid formation. On the other hand, HB-EGF is widely expressed in the central nervous system, including the hippocampus, cerebral cortex and cerebellum, and is considered to play pivotal roles in the development of the adult nervous system and higher brain function. We generated mice in which HB-EGF activity is disrupted specifically in the ventral forebrain and investigated the roles of HB-EGF in higher brain function. These knockout mice showed behavioral abnormalities such as an increase in locomotor activity, decreased social interaction, a deficit of prepulse inhibition, and memory impairment. HB-EGF KO mice also showed altered monoamine factors such as dopamine and serotonin, decreased spine density in neurons of the prefrontal cortex, and impaired long-term potentiation (LTP) in the hippocampus. These results suggest that HB-EGF exerts significant influence in higher brain functions, such as psychomotor behavior and memory formation and careful regulation of its activity will be an important goal for treating a number of neurological diseases of the central nervous system. Key phrases: HB-EGF, higher brain function, KO mice, LTP 1. 緒言ヘパリン結合性上皮成長因子 (heparin-binding epidermal growth factor-like growth factor: HB-EGF) は EGF 岐阜薬科大学生体機能解析学大講座薬効解析学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Molecular Pharmacology, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN)

15 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 13 ファミリーの主要な増殖因子であり 構造内に EGF ドメインに加えヘパリン結合ドメインを有する HB-EGF は前駆体の膜貫通型タンパク質 (pro-hb-egf) として細胞膜表面に発現し a disintegrin and metalloprotease (ADAM) の作用により分泌型タンパク質 (HB-EGF) と膜結合型タンパク質に分かれる 分泌型タンパク質 (HB-EGF-N) は EGF 受容体および ErbB4 受容体に結合し mitogen activated protein kinase (MAPK) 経路などを介して さらに膜結合型 (HB-EGF-C) は核内に移行しシグナルの脱抑制により 共に細胞の分化増殖を促進する 1) これまでの研究で HB-EGF は生体内で細胞の癌化 2) 正常な心臓機能の発現 3) 表皮の創傷治癒 4) 目蓋の形成 5) などに関与していることが報告されている 一方中枢神経系において HB-EGF は神経細胞やグリア細胞に高発現している とくに海馬や大脳皮質 小脳などで高い発現を示すことから 神経細胞のネットワーク回路の構築や高次脳機能への関与が示唆される 6) これまで HB-EGF はドパミン作動性神 経に対する保護作用 7) や神経新生促進作用 8) が報告さ れているが 情動 記憶および感覚機能などの高次脳機能に関しての報告は見当たらない 一方 HB-EGF 遺伝子を全身で欠損 (KO) させたマウスは心肥大を引き起こし その多くが胎児期に死亡する 3) このことから 筆者らは Cre-LoxP 法を用いて 前脳選択 的に HB-EGF を欠損させたマウスを作製し 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の機能の解明を目的として研究を行った 9) (Fig. 1) 2. 前脳選択的 HB-EGF KO マウスの包括的な行動解析 2-1. 自発運動試験 (Locomotor activity test) を用いた活動量の検討自発運動量は赤外ビーム式センサー (NS-AS01; Neuroscience, Tokyo, Japan) を飼育ケージに装着し データ収録解析システム (NS-DAS-32; Neuroscience) を用いて測定した HB-EGF KO マウスは野生型マウスと比べて 24 時間における自発運動量の著しい増加が認められた また HB-EGF KO マウスの自発運動量の増加は日中 ( 午前 8:00 ~ 午後 8:00) および夜間 ( 午後 8:00~ 午前 8:00) において共に認められた (Fig. 2a, b) さらに定型抗精神病薬の haloperidol (0.1 mg/kg, i.p.) の 9 日間投与により HB-EGF KO マウスの自発運動量は野生型マウスと同程度まで有意に低下した (Fig. 2a, b) 一方 非定型抗精神病薬の clozapine (1 mg/kg, i.p.) の 9 日間投与により HB-EGF KO マウスの日中の自発運動量のみ低下したが 24 時間全体の自発運動量に影響を及ぼさなかった 9) (Fig. 2a) a b LacZ staining in situ hybridization Immunohistochemical staining Cresyl violet staining WT KO c d LacZ staining e CA1 CA1 WT Immunohistochemical staining DG CA1 CA3 CA3 DG CA3 DG KO Fig. 1. Histological evaluation in HB-EGF KO and WT mice. (a) Coronal section through the cortex region; square indicates area shown in the photomicrographs. (b) Histological analysis of cortex from WT (upper) and HB-EGF KO (lower) adult mice. LacZ staining, scale bar=50 µm. In situ hybridization using an Hb-egf probe, scale bar=100 µm. Immunohistochemical staining with anti-hb-egf antibody, scale bar=20 µm. Cresyl violet staining, scale bar=500 µm. (c) Coronal section through the hippocampus; square indicates area shown in the photomicrographs (CA1, CA3, and DG). (d) LacZ staining of whole and individual hippocampal region in HB-EGF KO mice, scale bar=500 µm. (e) Immunohistochemical analysis of individual hippocampal region from WT (upper) and HB-EGF KO (lower) adult mice, scale bar=20 µm. The results were cited from ref 9.

16 Second/counts Exploration time (s) Exploration time (s) Total arm entries (counts) Alteration (% of control) Counts Counts Prepulse inhibition (%) 14 大八木篤ら : 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 2-2. プレパルスインヒビション (PPI) 試験による知覚フィルター機能の評価試験は小動物用驚愕反応測定装置 (SR-LAB; San Diego Instruments, CA, USA) を用いて行った HB-EGF KO マウスは野生型マウスと比べて 73 db および 76 db の prepulse に対して PPI の著しい障害が認められた (Fig. 2c) さらに 測定 30 分前に非定型抗精神病薬の clozapine (1 mg/kg, i.p.) および risperidone (0.1 mg/kg, i.p.) を投与することにより HB-EGF KO マウスに認められた PPI 障害は有意に改善された (Fig. 2c) 一方 定型抗精神病薬の haloperidol (0.1 mg/kg, i.p.) の投与によって KO マウスにおける PPI 障害に変化は認められなかった (Fig. 2c) また 120 db に対する驚愕反応の大きさを示す startle amplitude は KO マウスと野生型マウスおよび薬物投与群で明らかな変化は認められなかった 9) [ 野生型マウス-vehicle 投与 ; ± (mean ± S.E.M, n=25), KO マウス-vehicle 投与 ; ± (n=24), KO マウス-haloperidol 投与 ; ± 60.6 (n=15), KO マウス-risperidone 投与 ; ± (n=14), and KO マウス-clozapine 投与 ; ± (n=12)] 2-3. 社会性行動 (Social interaction) の評価別ケージで飼育されたマウス 2 匹を新規プラスチックケージ ( mm) 内で遭遇させ マウスの 10 分間における社会性行動を測定した 単位回数あたりの接触時間 ( 時間 / 回 ) は HB-EGF KO マウスでは野生型マウスと比べて有意に低下していた (Fig. 2 d) さらに非定型抗精神病薬の clozapine (1 mg/kg, i.p.) の 7 日間投与によって HB-EGF KO マウスの社会性行動の低下が野生型と同程度まで改善された (Fig. 2d) 一方 定型抗精神病薬 a d WT * Vehicle Haloperidol Clozapine KO # e 5 0 WT KO (Vehicle) KO (Haloperidol) KO (Clozapine) left right WT left right KO b f * # * # # Total Daytime left right WT * left right KO WT KO (Vehicle) KO (Haloperidol) KO (Clozapine) * # Night g WT c KO * WT KO (Vehicle) KO (Haloperidol) KO (Risperidone) KO (Clozapine) # # * # # 73dB 76dB 82dB h WT * KO ## Fig. 2. Behavioral analysis of HB-EGF KO mice and WT mice. Mice were placed into individual cages, and their locomotion was assessed every hour for 1 day. WT (n=8), KO mice with treatment of vehicle (n=7), haloperidol (n=8), and clozapine (n=8). (a) Locomotor activity throughout the 24-hr period, and (b) locomotor activity analyzed separately during day and night periods. (c) PPI of the acoustic startle response in WT (n=24), KO mice with treatment of vehicle (n=24), haloperidol (n=15), risperidone (n=14), and clozapine (n=12) (d) Social interaction test in a novel environment in WT (n=8) and KO mice with treatment of vehicle (n=7), haloperidol (n=9), and clozapine (n=9). Two genetically identical mice that had been housed separately were placed in the same cage. Their social interaction was then monitored for 10 min. Values are means ± SEM. (e and f) Novel-object recognition task. (e) In the training trial (5 min), two circles were placed in symmetrical left and right positions. (f) In the test trial 1 hr later (5 min), one circle (left) and one triangle (right) were placed in the same positions. The amount of time the WT (n=6) and KO (n=6) mice spent exploring each object during training trial and test trial was recorded. * p < 0.05 vs. left object. (g and h) Y-maze task. Each mouse was placed at the end of one fixed arm of the maze and allowed to move freely through the maze for 8 min. The sequence of arm entries was recorded manually. (g) Total number of arms entered during the session. (h) % of alternation was calculated as (actual alternations/maximum alternations) 100. WT (n=6), KO (n=6). Values are means ± SEM. * p <0.05 vs. WT mice. # p <0.05, ## p <0.01 vs. vehicle-treated HB-EGF KO mice. The results were cited from ref 9.

17 Spine length (µm) Cumulative % of spines % of control % of control % of control % of control Number of branch points Number of spines/10 µm 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 15 haloperidol (0.1 mg/kg, i.p.) の投与では HB-EGF KO マウスの社会性行動に変化は認められなかった 9) (Fig. 2d) 2-4. 新奇物質探索試験を用いた物体認知記憶の検討試験はオープンフィールドを用いて行った 初回の獲得試行 (acquisition trial) ではオープンフィールドの中央に二つの同じ物体 ( 球状物質 : 半径 3 cm) を設置し マウスを 5 分間自由に探索行動させた 1 時間後の保持試行 (retention trial) では片方の物体を別の新奇の物体 ( 三角柱 : cm) に交換し 同様に 5 分間マウスを自由に探索させた 初回に行った獲得試行においては野生型マウスおよび HB-EGF KO マウス共に左右の物体に対して同程度の探索時間を費やした (Fig. 2e) 一方 獲得試行の 1 時間後に行った保持試行において 野生型マウスは新奇物質 ( 右 ) に対する探索時間が増加したが KO マウスでは新奇物質に対する探索時間の増加は認められず 左右の物質に対し同程度の探索時間を示した 9) (Fig. 2f) 2-5. Y 字型迷路試験を用いた短期記憶の検討試験はプラスチック製の 3 つのアームを持つ Y 字型迷路 ( cm) を用いて行った 測定はあらかじめ決めた1 本のアームにマウスを置き 8 分間自由に探索させた 通常 マウスを Y 字型の迷路の一端に置くとマウスは元来たアームに戻ることなく 3 つのアームを順番に探索行動していく習性がある しかし 短期記憶の障害を示すマウスは 直前にいたアームにもう一度戻る行動 ( 短期記憶の障害 ) を多く示す 8 分間の探索行動の測定において HB-EGF KO マウスは正常なアームの選択率を示す alteration rate が野生型マウスと比べ有意に低下していた (Fig. 2h) 一方 8 分間の試験におけるアームの選択数は野生型マウスと KO マウス間に明らかな変化は認められなかった 9) (Fig. 2g) a WT KO c WT KO e f *** b WT KO d NR1 PSD95 -tubulin i 0 0 WT KO WT KO 120 NR1 120 PSD ** j ** g WT KO h WT KO Spine Length (µm) WT KO k WT KO NR2A WT KO 0 WT KO l 120 NR2B WT KO Fig. 3. Morphological changes in the prefrontal cortex. (a) Representative photomicrographs showing morphology of pyramidal neurons in cortical layer III of the prefrontal cortex from WT (left) and KO (right) mice. Scale bar=20 µm. (b) Representative photomicrographs of apical dendritic segments from WT (left) and KO (right) mice. Scale bar=8 µm. (c) High-magnification images of apical dendritic segments from adult WT (left) and KO (right) mice. Scale bar=2 µm. (d) Representative images of immunoblots showing NR1 and PSD-95 protein levels. (e) Quantification of the number of basal dendritic branch-points. (f) Spine density on primary apical dendrites of layer III pyramidal neurons of the prefrontal cortex from WT (white bar) and KO (black bar) mice. (g) Quantification of spine length. WT (n=700 spines) and KO (n=592 spines) mice (n=4 mice, 25 neurons each). (h) Cumulative distribution of spine length. WT (white circle) and KO (black circle) mice (n=4 mice, 25 neurons each). (i, j, k, and l) Quantitative analysis of NR1, PSD-95, NR2A, and NR2B by densitometric scanning of immunoreactive bands. The results were cited from ref 9.

18 Duration in each quadrant (%) Latency to platform (sec) 16 大八木篤ら : 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 3. 大脳皮質第 3 層の神経細胞の形態評価つぎに HB-EGF KO マウスの精神行動異常のメカニズムを検討するために 前頭前野皮質第 3 層の錐体細胞の形態を評価した 評価は Lucifer Yellow 標識法を用いて大脳皮質第 3 層の神経細胞を染色した Fig. 3a-c は LY 染色による野生型および HB-EGF KO マウスの神経細胞の染色像を示している 基底樹状突起の分岐点の数に野生型と HB-EGF KO マウス間に変化は認められなかった (Fig. 3a, e) 先端樹状突起のスパイン密度は HB-EGF KO マウスでは野生型マウスに比べて有意に低下していた (Fig. 3b, c, f) 一方 スパインの長さや樹状突起におけるスパインの分布は 野生型マウスおよび HB-EGF KO マウスで変化は認められなかった (Fig. 3g, h) さらに前頭前野皮質のスパイン関連タンパク質をウェスタンブロッティングによって評価した Fig. 3d は N-methyl-D-aspartate (NMDA) 受容体サブユニットの NR1 および post synaptic density protein 95 (PSD-95) タンパク質のバンドを示している NR1 および PSD-95 は 野生型マウスと比べて HB-EGF KO マウスの前頭前野皮質において有意に低下していた (Fig. 3i, j) 一方 NR2A および NR2B タンパク質の発現は 野生型マウスおよび HB-EGF KO マウスで明らかな変化は認められなかった 9) (Fig. 3k, l) 4. 海馬依存的な記憶形成における HB-EGF の関与 4-1. モリス水迷路試験を用いた空間認知記憶の検討海馬依存的な空間認知記憶に及ぼす HB-EGF の関与を検討するために モリス水迷路試験を行った 装置は円形のプール ( 直径 120 高さ 45 cm) に水深が 31 cm になるように水 (22 ± 1 C) を入れた 試験は 5 日間の訓練試行およびその 3 日後のプローブ試行に分けて行った 5 日間の訓練試行では HB-EGF KO マウスは野生型マウスと比べてプラットホームへの到達時間に減尐傾向が認められたが 有意な変化は認められなかった (Fig. 4b) この結果は 記憶の形成速度は両群間では変化がないことを示唆している さらに訓練試行から 3 日後に行ったプローブ試験は 野生型マウスはプラットホームが存在していた target 領域での滞在時間が有意に増加していた (Fig. 4a, c) 一方 HB-EGF KO マウスはそのような増加は認められず さらに target 領域での滞在時間は野生型マウスと比べて有意に低下していた (Fig. 4a, c) 一方 水泳能力を反映する水泳速度は 野生型マウスおよび HB-EGF KO マウスの何れにおいても変化は認められなかった 10) [ 野生型マウス ; 18.4 ± 0.82 cm/sec (n=13) HB-EGF KO マウス ; 17.6 ± 1.47 cm/sec (n=8)] a Platform Target c Left 受動回避試験を用いた HB-EGF KO マウスの恐 怖記憶の検討 Right Opposite # b ** day1 day2 day3 day4 day5 WT KO Target Right Left Opposite WT KO Fig. 4. Morris water maze test for HB-EGF KO mice. (a) Diagrammatic illustration shows the positions of the platform and each quadrant. (b) Latency to escape to the hidden platform in WT (n=13) and HB-EGF KO (n=8) mice in the training test. (c) Duration in each quadrant of HB-EGF WT (n=13) and KO (n=8) mice in the probe test. Values are means ± SEM. ** p < 0.01 vs. target quadrant. # p < 0.05 vs. WT in target quadrant. The results were cited from ref 10. 受動回避試験は 動物が暗い所を好む習性を利用し 動物が経験した電気的嫌悪刺激に対する回避行動を記憶 の指標としている 実験装置は白色光で照明した明室 ( cm) と床にグリッドを取り付けた暗室 ( cm) からなり 2 室の間はプラスチック製 のドアで仕切られている 訓練試行において 野生型マウ スと HB-EGF KO マウスでは暗室への進入時間に変化は 認められなかった (Fig. 5a) 電気刺激を与えてから 24 時 間後に行った保持試行において HB-EGF KO マウスは野 生型マウスと比べて暗室への侵入時間が有意に低下して いた (Fig. 5a) 一方 ADAMs による HB-EGF のシェディ ングは HB-EGF がその生理作用を発揮するために必要不 可欠である このことから次に ADAMs 阻害薬である KB-R7785 のマウスの記憶形成に対する作用を受動回避 試験で検討した 訓練試行において 溶媒投与群と KB-R7785 投与群は 暗室への進入時間に変化は認められ なかった (Fig. 5b) しかし 電気刺激を与えてから 24 時 間後に行った保持試行において KB-R7785 (100 mg/kg, s.c.) 投与群は溶媒投与群と比べて 暗室への進入時間が有 意に低下した (Fig. 5b) 同様に陽性対照薬として用いた抗 コリン作用を有するスコポラミン (3.0 mg/kg, i.p.) 投与群 は 溶媒投与群と比べて暗室への進入潜時が有意に低下し ** **

19 Latency to enter (sec) Latency to enter (sec) 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 17 a a b ** # スナプス応答刺激電極 CA1 Schaffer 側枝 スナプス応答記録電極 c 海馬スライス d 50 b WT KO WT KO Training Test * Training Test た 10) (Fig. 5b) 4-3. 海馬 CA1 野の神経細胞における長期増強 (LTP) の測定 Vehicle mg/kg Vehicle Scopolamine KB-R7785 Fig. 5. Passive avoidance test. (a) Passive avoidance test results for HB-EGF KO mice. Latency to enter dark compartment was recorded in HB-EGF WT (n=14) and KO (n=12) mice at training and test sessions. Values are means ± SEM. ** p < 0.01 vs. WT in training session. # p < 0.05 vs. WT in test session. (b) Effect of an ADAMs inhibitor on behavior in a passive avoidance test. KB-R7785 (30 and 100 mg/kg) and vehicle (0.5% CMC) were subcutaneously administrated to mice once a day for 4 days. The passive avoidance test was conducted on the third to fourth days, 30 min after vehicle, KB-R7785, or scopolamine administration. Latency to enter a dark compartment was recorded in KB-R7785 and vehicle-treated mice during training and test sessions. Values are means ± SEM. * p < 0.05, ## p < 0.01, vs. vehicle (test trial). Vehicle (n=16 or 8), KB-R mg/kg (n=10), 100 mg/kg (n=16), and scopolamine (n=6). The results were cited from ref 10. 記憶能力の低下により HB-EGF KO マウスでは海馬に おけるシナプス可塑性が変化していることが示唆された ため つぎに高頻度刺激 (HFS) によって誘発される海馬 CA1 野の神経細胞の長期増強 (LTP) を測定した 測定に使 用した海馬のスライスは過去の報告に従って作製した 11) 野生型マウスの脳スライスは Schaffer 側枝領域への HFS (100 Hz) の負荷によって 海馬 CA1 野に LTP が誘発 され それは 60 分間以上持続した (Fig. 6a, b, c, d) 一方 HB-EGF KO マウスは 著しい LTP の低下が HFS 負荷後 1 分と 60 分で認められた (Fig. 6b, c, d) これらの結果は HB-EGF が海馬の CA1 野における LTP の形成に重要な役 割を果たしていることを示唆している 10) 4-4. 海馬における諸種リン酸化酵素タンパク質の発現 ## Fig. 6. Long-term potentiation (LTP) in HB-EGF KO mice. (a) Illustration showing LTP measurement. (b) Representative field excitatory postsynaptic potentials (fepsps) recorded from the CA1 region. (c) Changes in slopes of fepsps following high frequency stimulation (HFS) in the CA1 region from WT (n=5) and HB-EGF KO (n=5) mice. (d) Level of LTP potentiation at 1 and 60 min after HFS in the CA1 region from WT and HB-EGF KO mice. Values are means ± SEM. * p < 0.05, ** p < 0.01 vs. WT. The results were cited from ref 10. 変動の検討 高頻度刺激 (HFS) によって誘発される諸種リン酸化酵 素の活性化は海馬 LTP 誘導に必要不可欠である 12), 13) そ こでまず HFS 負荷前後で海馬 CA1 野における CaMKIIα のリン酸化を検討した結果 HB-EGF KO マウスにおいて 基底状態での CaMKIIα のリン酸化レベルが野生型マウス と比べて有意に低下していた (Fig. 7a, c) 一方 HFS によ って CaMKIIα のリン酸化レベルが野生型マウスおよび HB-EGF KO マウス共に有意に増加していた (Fig. 7a, c) HB-EGF KO マウスは 野生型マウスと比べて CaMKIIα のリン酸化レベルは減尐傾向が見られたが 両群間に有意 な差は認められなかった 同様に α-amino-3-hydroxy-5- methylisoxazole-4-propionicacid hydro bromide (AMPA) タイ プグルタミン酸受容体サブユニット 1 (GluR1) のリン酸 化 (Ser-831) は HB-EGF KO マウスでは野生型マウスと比 べて有意に低下していた (Fig. 7b, d) さらに HFS によ って GluR1 および synapsin I のリン酸化レベルは 野生 型マウスおよび HB-EGF KO マウスで共に有意に増加し ていたが 両群間に差は認められなかった (Fig. 7b, d) ま た PKCα および ERK1/2 のリン酸化は 野生型マウスと HB-EGF KO マウス間で明らかな変化は認められなかった 10) (Fig. 7a, c) 5. 脳内モノアミン測 測定は HPLC-ECD システム (Eicom, Kyoto, Japan) を用 いて行った 前頭前野皮質における脳内モノアミンの測定

20 Contents (µg /g wet weight) Contents (µg /g wet weight) Contents (µg /g wet weight) Contents (µg /g wet weight) 18 大八木篤ら : 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 a c b d の結果 HB-EGF KO マウスは野生型マウスと比べドパミン (DA) セロトニン (5-HT) および 5-HT 代謝物の 5-HIAA 含量が有意に低下した (Fig. 8a) また 視床において 5-HT 含量の有意な低下が認められた (Fig. 8b) さらに 小脳では DA 含量の有意な低下が認められた (Fig. 8c) 一方 線条体においてはノルエピネフリン (NE) とその代謝物である MHPG および 5-HT の含量が HB-EGF KO マウスでは野生型マウスと比べ有意に増加していた 9) (Fig. 8d) 6. 考察 Fig. 7. Phosphorylation of various protein kinases in the hippocampus of HB-EGF KO mice. (a) Representative images of immunoblots using antibodies against autophosphorylated CaMKII (pcamkii), CaMKII, phosphorylated PKCα (Ser675) (ppkcα), PKCα, phosphorylated ERK (perk), ERK, and β-tubulin. (b) Representative images of immunoblots using antibodies against phosphorylated synapsin (psyn 1), synapsin 1 (Syn 1), phosphorylated GluR1 (Ser831) (pglur1), and GluR1. (c) Quantitative analyses of pcamkiiα, CaMKIIα, ppkcα, PKCα, perk, ERK, and β-tubulin. (d) Quantitative analyses of psyn 1, Syn 1, pglur1 (Ser831), and GluR1. Values are means ± SEM., WT (n=4 or 5), KO (n=5). * p < 0.05, ** p < 0.01 vs. WT (Control), ## p < 0.01 vs. HB-EGF KO (Control). The results were cited from ref a c Prefrontal cortex * Cerebellum ** ** WT KO ** Fig. 8. Monoamine contents in HB-EGF KO and WT mice. Monoamine contents in (A) prefrontal cortex, (B) striatum, (C) thalamus, and (D) Cerebellum. Each column and bar represent mean ± S.E.M. (n =10 or 11), *; p < 0.05, **; p<0.01 vs. WT.NE: norepinephrine, MHPG: 3-methoxy 4-hydroxy phenethyleneglycol, DA: dopamine, DOPAC: 3, 4-dihydroxyphenilacetic acid, 3-MT: 3-methoxytyramine, HVA: homovanilic acid, 5-HT: serotonin, 5-HIAA: 5-hydroxyindol acetic acid. The results were cited from ref 9. b d ** ** Thalamus Striatum * ** HB-EGF の精神行動に及ぼす影響を検討するために 本総説では前脳選択的 HB-EGF KO マウスの包括的な行動薬理学的解析の結果をまとめた HB-EGF KO マウスは 24 時間における自発運動量が増加していた Phencyclidine (PCP) を含めた中枢刺激薬の投与によって誘発される自発運動量の増加は 統合失調症における幻覚 妄想などの陽性症状様の症状と類似していることが報告されている 14) また HB-EGF KO マウスに認められた自発運動の増加は haloperidol の投与によって改善 また clozapine の投与によって一部改善した こうした動物実験における結果は 臨床において定型および非定型抗精神病薬が陽性症状に対してともに有効であることと一致している さらに HB-EGF KO マウスに認められた prepulse inhibition (PPI) の障害は 統合失調症患者において特異的に見られる現象である 15) PPI の障害は情報処理能力 伝達能力の障害に起因すると言われており 統合失調症の認知障害様の症状を示している また PPI の障害は DA 作動薬や NMDA 受容体遮断薬 (PCP ketamine および dizocilpine) 両側側坐核破壊 隔離飼育および出生後の両側海馬破壊などにより認められ それらは PPI の障害を指標にした統合失調症の病態モデルの研究並びに薬物の評価系に汎用されている 16), 17), 18) 本研究においても HB-EGF KO マウスの PPI 障害が非定型抗精神病薬の clozapine および risperidone を投与することにより改善した この結果は 統合失調症患者の知覚フィルター異常に対して非定型抗精神病薬が改善作用を示すという臨床的知見と一致した さらに HB-EGF KO マウスでは社会性行動の低下も認められた げっ歯類の社会性行動試験は抗精神病薬の効果と臨床における効果が類似していることから 意欲の低下 感情の平板化および引きこもりなどに代表される統合失調症の陰性症状の指標として Sams-Dodd らによって提唱された 19) HB-EGF KO マウスの社会性行動の障害に対しては 定型抗精神病薬 haloperidol は改善効果を示さず 非定型向精神病薬の clozapine が改善作用を示した これらの知見から HB-EGF KO マウスに認められた社会性行動の低下は 統

21 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 19 合失調症の陰性症状様の症状と類似することが示唆された さらに注目すべきは HB-EGF KO マウスでは前頭皮質第 3 層のスパイン密度が野生型マウスと比べて約 40% 程度低下していたことである 樹状突起スパインは中枢神経系における興奮性神経伝達の中心的な役割を担う部位であり スパインの大きさや密度は神経機能回路の調節に影響を及ぼす アルツハイマー病などの変性疾患や脆弱性 X 症候群 ダウン症候群 その他認知障害を示すような精神神経疾患の多くは スパインの形態異常を伴うことが報告されており 20) 樹状突起スパインの形態はこれらの神経疾患の病態と密接に関連していると考えられる 実際 統合失調症患者では 46 野 3 層の錐体細胞における基底樹状突起の総距離および基底樹状突起上におけるスパイン密度が減尐していることが報告されている 21) また HB-EGF KO マウスは スパインの維持形成に必要なポストシナプスの足場タンパク質である PSD-95 および NMDA 受容体サブユニットの NR1 タンパク質の発現低下 さらには神経細胞におけるタンパク質機能を調節し シナプス伝達の可塑性 学習 記憶をはじめとする高次脳機能に重要な役割を果たす CaMKII やその下流シグナルの PAK のリン酸化レベルが有意に低下していた 9) これらの結果は HB-EGF KO マウスは スパインの低下によるシナプスの神経ネットワークの形態変化とその内部のシグナルタンパク質の機能低下が認められることが示唆された 一方 新奇物質探索試験および Y 字型迷路の結果から HB-EGF KO マウスでは記憶力の低下が認められた 両試験は他の多くの学習記憶試験と異なり 人為的な強化因子を用いないことを特徴としており 動物のより潜在的な学習 記憶能力を測定することが可能である 22) 23) 24) さらに HB-EGF KO マウスは モリス水迷路試験による空間認知記憶の低下と受動回避試験による恐怖記憶の低下が認められた モリス水迷路試験は 海馬依存的な学習能力 すなわち空間認知および長期記憶の獲得を評価する上で用いられる試験である 25), 26) 今回の検討では HB-EGF KO マウスは保持試行において空間認知記憶の低下が認められた 一方 訓練試行において HB-EGF KO マウスは 野生型マウスと比べて 3 日目から 5 日目にかけてプラットホームへの到達時間が増加傾向を示したが 有意な差は認められなかった これらの結果は HB-EGF の欠損が記憶の獲得能力より記憶の保持に深く関与していることを示唆している 同様に 受動回避試験において HB-EGF KO マウスは獲得試行の 24 時間後に行った保持試行において恐怖記憶の保持が低下していた 学習 記憶の素過程はシナプスの伝達効率の変化 ( シナプス可塑性 ) にあると考えられている 海馬 CA1 野神経細胞シナプスの長期増強 (LTP) は記憶学習の細胞モデル として確立されており LTP の誘導には NMDA 受容体を介した Ca 2+ の流入が必要不可欠である 27) さらにその後のグルタミン酸の AMPA 受容体の発現変化やスパインの形態変化が LTP の発現に重要であると考えられている 28), 29), 30) HB-EGF KO マウスでは 海馬 CA1 野における高頻度刺激 (HFS) 誘発の LTP が野生型マウスと比べて有意に低下していた さらに HB-EGF KO マウスの海馬において基底状態の CaMKIIα と GluR1 のリン酸化が野生型マウスと比べて低下していた CaMKII の活性化は LTP やシナプスの可塑性に重要な役割を果たしている 31) HFS により 後シナプス上の NMDA 受容体からの大量の Ca 2+ が流入すると CaMKIIα が活性化する 32) このキナーゼは AMPA 受容体サブユニットの GluR1 の 831 番目のセリン残基をリン酸化し ポストシナプスへの受容体の挿入を引き起こす 33) HFS 後の CaMKIIα と GluR1 のリン酸化レベルに変化は認められなかったが 基底状態での CaMKIIα と GluR1 のリン酸化レベルの低下していたことから HB-EGF KO マウスにおけるシナプス可塑性の低下や認知機能の低下に 後シナプスにおける興奮性のシグナル伝達の変化が関与していることが示唆される さらに HB-EGF KO マウスの精神行動や認知機能の変化は神経回路の微細な形成変化に基づくことが考えられる 実際 神経の機能変化を示唆する脳内モノアミン含量の検討においても著しい変化が認められた つまり前頭前野皮質において DA 5-HT および 5-HIAA の減尐が 線条体においては NE MHPG および 5-HT の増加が認められた さらに視床においては 5-HT 小脳においては DA の低下が認められた HB-EGF は DA 作動性神経に対して保護的に働くことが報告されており 7) 前頭前野での DA 含量の低下は前脳選択的に HB-EGF を欠損させたことによる DA 作動性神経の機能低下によって誘発された可能性が考えられる この様な脳内の DA および 5-HT の変化が HB-EGF KO マウスにおける一連の精神行動および記憶障害様の症状を引き起こした一因と考えられる 7. 結論これらの結果より HB-EGF KO マウスで認められた一連の精神行動異常や抗精神病薬の効果 前頭前野の DA レベルの低下などの症状が 統合失調症患者の臨床症状と類似していたことから HB-EGF シグナルの変化が統合失調症の病態に関与する可能性が考えられる また HB-EGF KO マウスの精神行動異常の基盤には脳内モノアミン含量の変化や大脳皮質におけるスパイン密度の低下が関与していることが示唆された さらに 海馬における LTP および CaMKIIα などのリン酸化酵素の活性化の低下が認められたことから HB-EGF がシナプスにおける神経回路

22 20 大八木篤ら : 前脳選択的 HB-EGF 欠損マウスを用いた 中枢神経系の高次脳機能における HB-EGF の役割 の形成および神経情報の伝達と処理に関与していること が考えられる 以上 HB-EGF シグナルは 中枢神経系の 高次脳機能の調節に重要な役割を果たしていることが示 唆された さらに HB-EGF シグナルの制御が複雑な神経 疾患の病態機序解明 新規治療法並びに治療薬の開発の糸 口になることが期待できる 8. 謝辞 本稿を終えるにあたり 本研究に際し 終始御指導と御 鞭撻を賜りました岐阜薬科大学生体機能解析学大講座薬 効解析学研究室准教授嶋澤雅光先生並びに同助教鶴間 一寛先生に深謝致します また 諸種の御協力を頂きまし た薬効解析学研究室の諸氏に感謝いたします 本研究の遂行にあたり 御指導ならびに御支援を賜りま した愛媛大学大学院医学系研究科生化学遺伝子分野教授 東山繁樹博士および難波大輔博士 東北大学大学院薬学研 究科薬理学教室教授福永浩司博士 講師森口茂樹博士 および助教塩田倫史博士 岐阜大学医学部附属病院薬剤 部副薬剤部長北市清幸博士 富山大学医学薬学研究部薬 物治療学研究室教授新田淳美博士 テキサス大学生化学 分子生物分野准教授古田泰秀博士 日本バイオリサーチ センター故山口和政博士に心からの感謝の意を表します 9. 参考文献 1) Nanba D., Mammot A., Hashimoto K., Higashiyama S., J Cell Biol, 163, (2003) 2) Miyamoto S., Yagi H., Yotsumoto F., Kawarabayashi T., Mekada E., Cancer Sci, 97, (2006). 3) Iwamoto R., Yamazaki S., Asakura M., Takashima S., Hasuwa H., Miyado K., Adachi S., Kitakaze M., Hashimoto K., Raab G., Nanba D., Higashiyama S., Hori M., Klagsbrun M., Mekada E., Proc Natl Acad Sci U S A, 100, (2003). 4) Tokumaru S., Higashiyama S., Endo T., Nakagawa T., Miyagawa J.I., Yamamori K., Hanakawa Y., Ohmoto H., Yoshino K., Shirakata Y., Matsuzawa Y., Hashimoto K., Taniguchi N., J Cell Biol, 151, (2000). 5) Mine N., Iwamoto R., Mekada E., Development, 132, (2005). 6) Mishima K., Higashiyama S., Nagashima Y., Miyagi Y., Tamura A., Kawahara N., Taniguchi N., Asai A., Kuchino Y., Kirino T., Neurosci Lett, 213, (1996). 7) Farkas L.M., Krieglstein K., J Neural Transm, 109, (2002). 8) Jin K., Sun Y., Xie L., Batteur S., Mao X.O., Smelick C., Logvinova A., Greenberg D.A., Aging Cell, 2, (2003). 9) Oyagi A., Oida Y., Kakefuda K., Shimazawa M., Shioda N., Moriguchi S., Kitaichi K., Nanba D., Yamaguchi K., Furuta Y., Fukunag K., Higashiyama S., Hara H., PLoS One, 4, e7461 (2009). 10) Oyagi A., Moriguchi S., Nitta A., Murata K., Oida Y., Tsuruma K., Shimazawa M., Fukunaga K., Hara H., Brain Res, 1419, (2011). 11) Moriguchi S., Shioda N., Han F., Narahashi T., Fukunaga K., J Neurochem, 106, (2008). 12) Silva A.J., Paylor R., Wehner J.M., Tonegawa S., Science, 257, (1992). 13) Fukunaga K., Stoppini L., Miyamoto E., Muller D., J Biol Chem, 268, (1993). 14) Noda Y., Nabeshima T., Mouri A., Nihon Yakurigaku Zasshi, 130, (2007). 15) Braff D., Stone C., Callaway E., Geyer M., Glick I., Bali L., Psychophysiology, 15, (1978). 16) Yamada S., Nihon Shinkei Seishin Yakurigaku Zasshi, 20, (2000). 17) Andersen M.P., Pouzet B., Psychopharmacology (Berl), 156, (2001). 18) Linn G.S., Negi S.S., Gerum S.V., Javitt D.C., Psychopharmacology (Berl), 169, (2003). 19) Sams-Dodd F., J Neurosci Methods, 59, (1995). 20) Fiala J.C., Spacek J., Harris K.M., Brain Res Brain Res Rev, 39, (2002). 21) Glantz L.A., Lewis D.A., Arch Gen Psychiatry, 57, (2000). 22) Sarter M., Bodewitz G., Stephens D.N., Psychopharmacology (Berl), 94, (1988). 23) Parada-Turska J., Turski W.A., Neuropharmacology, 29, (1990). 24) Dodart J.C., Mathis C., Ungerer A., Neuroreport, 8, (1997). 25) Peters M., Mizuno K., Ris L., Angelo M., Godaux E., Giese K.P., J Neurosci, 23, (2003). 26) Denayer E., Ahmed T., Brems H., Van Woerden G., Borgesius N.Z., Callaerts-Vegh Z., Yoshimura A., Hartmann D., Elgersma Y., D'Hooge R., Legius E., Balschun D., J Neurosci, 28, (2008). 27) Bliss T.V., Collingridge G.L., Nature, 361, (1993). 28) Shi S.H., Hayashi Y., Petralia R.S., Zaman S.H., Wenthold R.J., Svoboda K., Malinow R., Science, 284, (1999). 29) Matsuzaki M., Honkura N., Ellis-Davies G.C., Kasai H., Nature, 429, (2004). 30) Derkach V.A., Oh M.C., Guire E.S., Soderling T.R., Nat Rev Neurosci, 8, (2007). 31) Lisman J., Schulman H., Cline H., Nat Rev Neurosci, 3, (2002). 32) Lisman J., Trends Neurosci, 17, (1994).

23 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 21 33) Hayashi Y., Shi S.H., Esteban J.A., Piccini A., Poncer, J.C., Malinow R., Science, 287, (2000). 10. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 129 号 ) の 内容を中心にまとめたものである

24 22 宗宮仁美ら : 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 総説 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 宗宮仁美, 福光秀文, 古川昭栄 * 要約 : 自閉症を含む発達障害や統合失調症は様々な臨床症状を呈するが 認知機能障害を病態の中核症状としている 患者の剖検大脳皮質において微細構造の異常が報告されており 認知を含む高次脳機能障害の一因であると考えられている また これらの精神疾患患者の脳内では免疫系サイトカインの発現プロファイルが変化しており 病態脳形成に免疫系異常が関与する可能性が示唆されている そこで本研究では 免疫系に関わる分子が大脳皮質構築過程に及ぼす影響を明らかにし 病態脳形成への関与を検討した 本研究結果から免疫系にかかわる環境因子が胎仔の大脳皮質神経細胞層の構築過程をわずかに修飾することによって 大脳皮質の機能失調にかかわる初期病変を作ることを明らかにした 索引用語 : 発達障害 統合失調症 大脳皮質 神経発生 サイトカイン Immune-related Factors Influenced the Development of the Mouse Cerebral Cortex Hitomi SOUMIYA, Hidefumi FUKUMITSU, Shoei FURUKAWA * Abstract: Clinical symptoms are variable in subjects where cognitive impairments are a major feature with psychiatric, and neurodevelopmental disorders, including schizophrenia and autism. The cerebral cortex plays important roles in cognitive function. Abnormal neuronal morphology and cytoarchitecture of the cerebral cortex are found in postmortem brains from human subjects with severe psychiatric disorders such as schizophrenia and autism. These impairments are thought to be responsible for the abnormal cognitive functions and behavior of such patients. As immunological dysfunctions have also been reported in schizophrenic or autism patients, it may underlie the development of the psychiatric brain. In this study, we examined how immune-related factors affect the development of the cerebral cortex. The results obtained in this study suggest that subtle alterations in the genesis and development of the cerebral cortex induced by immune-related factors might cause functional disorders of the cerebral cortex. Key phrases: neurodevelopmental disorder, schizophrenia, cerebral cortex, neurogenesis, cytokine 1. 緒言発達障害とは 子どもの成長過程において何らかの理由により社会適応上の不調が起きる病態をいう 発達障害の権威の1 人である杉山登志郎博士は その著書の中で発達障害を 4 つのグループに大別している 第一のグループは 認知機能の全般的遅れを示す精神遅滞と境界知能 第二のグループは 社会性の障害である広汎性発達障害 ( 自閉症スペクトラム ) 第三のグループは注意欠陥性多動性障害 (ADHD) や学習障害 発達性協調運動障害などの脳のある領域の働きと他の働きの連動に際して障害が生じるタイプで軽度発達障害 第四のグループは虐待に基づく発達 障害である 1) これまでの研究により 第一群の精神遅滞を生じるグループでは 滑脳症の原因遺伝子 lissencephaly1 (Lis1) と二重皮質の原因遺伝子 doublecortin という2つの原因遺伝子が同定されている 遺伝子改変動物を用いた研究から これらの遺伝子の異常は大脳皮質構築過程における神経細胞の移動障害を引き起こすことが報告されている また 第二群および第三群の発達障害については ゲノム解析の結果から その変異の存在により 1% 未満の発症率を ~ 数 % までに引き上げる遺伝子 ( 発症リスク遺伝子 ) は数十種類報告されているが 原因遺伝子は見つかっていない たとえば 自閉症の場合 遺伝的背景がほぼ同一である一卵性双生児では 一方が自閉症と診断された場 岐阜薬科大学生体機能解析学大講座分子生物学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Molecular Biology, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN)

25 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 23 合 もう一方が自閉症と診断される確率はおよそ 90% であり 二卵性の場合は約 30% と低下する 2) ため 遺伝的な要因が背景にあることは明らかであるが 遺伝以外の要因の存在も否定できない 遺伝以外の環境要因としては 妊娠期のメチル水銀などの重金属摂取 3) サリドマイド 4) 感 5, 染症の罹患 6) により 自閉症の発症率が高まるという疫学調査の結果が報告されている したがって 第二 三群の発達障害の発症には 複数の遺伝子の発現や機能低下に基づく発症脆弱性に対して 感染症などの環境的要因が複雑に絡み合って 脳にわずかな器質的変化を誘導することが病態脳の形成の引き金を引くと考えられている また 発達障害には分類されていないが 人口の約 1% が罹患している統合失調症も これまでの様々な研究から脳の発達過程の異常に基づく病理所見が認められること 自閉症と統合失調症の発症リスク因子 ( 遺伝的要因と環境要因の双方 ) が一部重なっていること から 発達障害と統合失調症の病態形成メカニズムには何らかの類似性 相関性があると考えられている 自閉症や統合失調症は様々な症状を呈するが 幻覚 記憶障害や注意障害など認知機能の障害は病態の中核症状であり 患者をもっとも翻弄し消耗させる症状である これらの疾患患者の剖検脳の解析から 認知機能等の高次脳機能を司る大脳皮質での解剖学的 機能的異常が繰り返し報告されており これらの異常が認知機能障害や異常行動に関与していると考えられている 7, 8) しかし 大脳皮質を機能失調に陥れる生化学的な変化は特定されておらず 病態大脳皮質の形成機序についても不明である Fig. 1. Cytoarchitecture of the cerebral cortex. 大脳皮質の神経細胞は 7~8 割を占める興奮性で投射型の神経細胞と 抑制性で介在型の神経細胞から構成されている 細胞形態および軸索投射といった性質の類似する錐体細胞が集合して層状に配置することにより 6 層構造を形成する 9, 10) (Fig. 1) また 特定機能に関わる神経細胞が大脳皮質の層間を円柱状に分布し 機能単位 ( カラム ) を形成している このカラムの中では各層を構成する神経細胞間で局所回路が形成され 情報処理が行われている さらに 各層の神経細胞が異なる脳部位に投射して神経間連絡することにより 無数のカラム同士を結び付けて 複 雑かつ膨大な情報処理を可能としている 大脳皮質の構築過程は 1 脳室周囲 ( 脳室帯 :ventricular zone; VZ) に存在し 脳構成細胞に共通の幹細胞である大脳皮質前駆細胞の増殖と そこからの多様な神経細胞の生成 2 誕生した神経細胞の移動と最終定着位置への配置 3 自らの標的へと軸索を伸長しシナプスを形成する神経連絡網形成 という 大きく 3 つの過程に分けられる 1 2のプロセスで異常が生じると 脳回欠損 異所性細胞塊の形成が 3のプロセスの障害では 脳梁低形成 神経連絡の不全が起こりうる 11) また 後者のプロセスは前者のそれに大なり小なりの影響を受ける したがって これらの構築過程の異常に基づく神経細胞の解剖学的又は機能的変化によって神経回路に歪みが生じると 脳の情報処理機能が障害されて破綻し さまざまな精神 神経疾患の原因になると考えられている 大脳皮質神経細胞構築過程において 多種多様な神経細胞が生成される際 転写因子や細胞周期関連の調節因子などの細胞内因子が重要な役割を果たすことが明らかにされつつあるが これらの細胞内因子の働きを制御し 大脳皮質前駆細胞の増殖 神経細胞の発生 分化のタイミングを調節し 生成される神経細胞の種類と数を決定しているのは大脳皮質から供給される細胞外因子である 筆者の所属する研究室では 大脳皮質構築過程において脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor; BDNF) ニューロトロフィン-3 (neurotrophin-3 ; NT-3) 下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドなどの神経栄養因子の作用により 誕生する神経細胞の性質や数が変動することをすでに報告している 12, 13, 14) 一方 疫学調査により 妊娠期に母体がインフルエンザ等の感染症に罹患すると 子が自閉症などの精神疾患を発症するリスクが高くなることが明らかにされている 5, 6) この疫学調査に基づいて作製された動物モデルの解析により 母体 胎仔の免疫系が賦活化されると 成熟した仔に行動異常が誘発されることが明らかにされている また 近年 自閉症や統合失調症患者において脳脊髄液中のサイトカイン量の増加や免疫関連分子の発現プロファイルに変化がおきていること 15, 16) が報告されており 免疫系に関与する分子が精神疾患の病態脳形成に関与する可能性が示唆されている 実際に大脳皮質構築過程において 炎症性サイトカインであるインターロイキン (interleukin; IL) -6 は 神経幹細胞に作用し JAK/STAT 経路を活性化することによりグリア細胞の発生を促進し 17) ケモカインである stromal cell-derived factor1 (SDF1) は 抑制性神経細胞の移動に影響することが知られている 18) しかし 免疫系の賦活化が大脳皮質構築過程において どのような初期病変を作るのか その初期病変は大脳皮質の機能的神経ネットワークを形成する過程でどのような影響を及ぼすのかなどの病態脳形成メカニズムは不明である

26 24 宗宮仁美ら : 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 そこで 本研究では マウス胎仔脳室内に直接造血系サイトカインである幹細胞因子を注入し 大脳皮質構築過程に及ぼす影響を検討した 次に妊娠期免疫賦活化による精神疾患モデル動物の大脳皮質構築過程 神経ネットワーク構築などの発達プロセスにおける変化を検討した 2. マウス大脳皮質構築過程に及ぼす幹細胞因子の役割 大脳皮質を構成する様々な神経細胞は 胎生期に脳室と接する前駆細胞の増殖領域 ( 脳室帯 : ventricular zone, VZ) から次々に誕生し 将来の灰白質 ( 皮質板 : cortical plate: CP) に向かって移動し 定着する 19) (Fig. 2) このとき Fig. 2. Laminar formation during development of the cerebral cortex. 新しく誕生した神経細胞はそのつど 髄膜付近まで移動して定着するため 早生まれの細胞ほど深層に 遅く生まれた細胞ほど上層に配置される この移動と定着の過程に障害が起こると 正常とは異なる場所に神経細胞が集積するようになる 重度の細胞移動障害 ( 滑脳症 二重皮質 ) では MRI 画像でも異所性細胞塊が確認され 患者の多くは難治性てんかん 発達障害を伴う 細胞塊を構成する神経細胞の神経活動が正常な大脳皮質神経ネットワークの活動に影響を及ぼし 病態発症に関与すると考えられている 20, 21) このような大脳皮質内に異所性細胞塊がみられる患者を対象として遺伝子解析が実施された結果 細胞骨格タンパク質あるいはその関連タンパク質をコードするいくつかの遺伝子に変異が見出され その後の研究からこれらのタンパク質が神経細胞の移動や定着に関わることが報告されている しかし これらの原因遺伝子の変異をもつのは患者のごく一部に限られており 22) 大脳皮質における 異所性細胞塊の形成には複数の要因が関与していると予想されている したがって 病態をさらに理解するためには 複数の要因に基づく異所性細胞塊の形成機序を明らかにし その中から共通する機構を抽出することが重要である 細胞移動や定着ばかりでなく 細胞増殖や細胞死のプログラミングの制御不全も細胞の異所性集積の原因となりうる 近年の研究から 転写因子や細胞周期および細胞骨格の制御因子が大脳皮質前駆細胞の増殖や細胞生存 細胞移動に関与することが明らかにされつつある これらの細胞内因子の機能を制御して 誕生する神経細胞の数及び発生 移動開始と定着のタイミングを決定しているのは大脳皮質内で環境因子として供給される成長因子やサイトカインである 23) それゆえ 成長因子やサイトカインの発現 機能制御の不全が異所性細胞塊の原因になる可能性がある 幹細胞因子 (stem cell factor; SCF) は 血小板由来成長因子受容体やコロニー刺激因子 1 受容体や fms 様チロシンキナーゼリガンド 3 受容体と同じファミリーに属する III 型チロシンキナーゼ受容体 c-kit のリガンドである 24) これまでに 1)SCF と c-kit は 移動中の神経前駆細胞や皮質板内の神経細胞を含む発達過程の大脳皮質の細胞に発現している 25, 26) こと 2) 様々な幹細胞や前駆細胞の増殖 分化 移動を調節することにより SCF/c-kit シグナル 27, が造血や胎児個体の発生 28) 癌細胞の増殖や浸潤 29) に 関わっていること 3) 外因性の SCF が培養下の大脳皮質前駆細胞の生存や移動を促進する 30) こと が分かっている したがって SCF は大脳皮質神経細胞の発生や生存 性質を調節する環境因子の有力候補と考えられる しかし 発達過程の大脳皮質における SCF の具体的な役割については不明である そこで 本章ではタンパク質微量注入法を用いて胎仔の脳室内へ SCF を注入し 大脳皮質前駆細胞に及ぼす影響を調べた 2-1. 発達中の大脳皮質における SCF とその受容体 c-kit の発現各発達段階 (E13.5 E14.5 E15.5) の大脳皮質における SCF と受容体 c-kit の mrna 発現を RT-PCR 法により検討したところ すべてのステージで発現していた 次に 胎生期の大脳皮質に発現している c-kit について SCF シグナルの伝達能を検討した E13.5 の胚から切出した大脳皮質を SCF を含む培地 ( 最終濃度 100 ng/ml) で 30 分から 6 時間培養し SCF/c-kit のシグナルを細胞内に伝達する分子の一つである Akt のリン酸化を調べた Akt のリン酸化の上昇は SCF 添加 30 分 1 時間後に観察されたが 2 時間後には添加前のレベルまで低下した これらの結果より 機能的な c-kit が E13.5 の大脳皮質に発現しており Akt のリン酸化を介して SCF のシグナルを伝達することが明

27 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 25 らかとなった 2-2. SCF による大脳皮質異所性細胞塊の形成大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす SCF の影響を調べた SCF(10 ng/ 胚 ) を E13.5 のマウス胎仔の側脳室に注入し 神経細胞の移動と定着がほぼ完了する生後 6 日齢 (P6) まで通常飼育した 次いで脳を摘出し 組織化学的解析を行った SCF 投与群の大脳皮質では 解析を行った 15 匹のうち 12 匹に脳室周囲灰白質 6 匹に辺縁帯 4 匹に側脳室などの様々な部位に異所性に細胞の集積が観察された これら異所性細胞塊の出現は大脳皮質体性感覚野に集中して認められた より高用量の SCF(20 ng) を投与した場合は より顕著な変化が認められた すなわち 誕生時に 直径 2 mm にも及ぶ異所性細胞塊が頭蓋骨を貫通して形成された このような巨大細胞塊が形成されると腹部は大きく膨れ上がり 生後 2 日以上生存することができなかった 次に 10 ng の SCF を投与したとき大脳皮質の脳室周囲灰白質と辺縁帯に形成された異所性細胞塊を構成する細胞種を免疫染色法により検討した 細胞塊が形成される場所に関係なく 細胞塊の中心部には神経細胞が多く その周囲をアストロサイトが覆う様に分布していることが明らかとなった 次に 細胞塊を構成する神経細胞のサブタイプを調べるため 辺縁帯に細胞塊が存在する大脳皮質について抗 orthologue of the Drosophila cut gene (Cux1; 第 II-IV 層神経細胞のマーカー ) 抗体 抗 chicken ovalbumin upstream promoter transcription factor (COUP-TF)-interacting protein 2(CTIP2; 第 V 層神経細胞のマーカー ) 抗体を用いて免疫染色を行った その結果 コントロールマウス (SCF 無投与群 ) の大脳皮質では Cux1 陽性細胞の多くは第 II 層から IV 層に分布し 辺縁帯および深層ではほとんど観察されなかったが CTIP2 陽性細胞の多くは第 V 層と第 VI 層に分布し 特に第 V 層では大型の 第 VI 層では小型の陽性細胞が認められた 一方 SCF が辺縁帯内に誘導した異所性細胞塊には 非常に多くの Cux1 陽性細胞と多くの CTIP2 陽性細胞が混在していた これらの結果から SCF により誘導される異所性細胞塊は 形成場所によらず 多くの神経細胞からなり 上層と深層の神経細胞を含むことが明らかとなった 2-3. 神経幹細胞 / 神経前駆細胞の発達と移動に及ぼす SCF の影響 SCF による細胞塊形成のメカニズムを明らかにするため まず大脳皮質前駆細胞の発達に及ぼす SCF 投与の影響を調べた 胎生 11 から 17 日のマウスの大脳皮質脳室帯では 神経幹細胞から中間神経前駆細胞を経て神経細胞が生成される 中間神経前駆細胞は 分裂能が 1-3 回と限られており 娘細胞として神経細胞のみを生成する これらの 3 タイプの細胞 すなわち神経幹細胞 中間神経前駆細胞 神経細胞は SRY-box containing gene 2 (Sox2) T-brain gene 2 (Tbr2) βiii-tubulin(tuj1) をそれぞれ特異的に発現することが知られている そこで E13.5 の大脳皮質で観察すると Sox2 陽性細胞は脳室帯 (VZ) に Tbr2 陽性細胞は傍脳室帯 (subventricular zone, SVZ) に存在していた 神経発生が終わりに近づくにつれて 神経幹細胞 神経前駆細胞の数は減少する たとえば E17.5 の大脳皮質では Sox2 陽性細胞は中間層 (intermedeiate zone, IZ) に散在するのみで VZ にはほとんど分布していなかった また E13.5 のステージと比べると SVZ に局在する Fig. 3. SCF induced ectopic accumulation of cortical cells. The arrowheads indicate the edge of each area of heterotopia.

28 26 宗宮仁美ら : 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 Tbr2 陽性細胞が減少していた SCF を投与すると大脳皮質では VZ に局在する Sox2 陽性神経幹細胞が増加したが Tbr2 陽性細胞の数や分布には影響は認められなかった SCF は造血幹細胞の増殖や自己複製を促進することが知られており 31) 今回の結果と併せて考えると SCF は大脳皮質前駆細胞に対しても増殖 自己複製を促進し 生成する神経細胞の数を増加させる可能性がある (Fig.3) SCF は 培養大脳皮質神経細胞 30) や造血幹細胞 27) に対 して誘因因子 ( ケモアトラクタント ) としても働くことが知られている したがって SCF の増殖促進作用によって増加した Sox2 陽性細胞が SCF の誘因作用によって局所に集積した結果である可能性がある そこで確認のため 高用量の SCF (20 ng) を胎仔脳室内に注入し 1 日後の変化を調べたところ 多くの Sox2 陽性細胞及び Tbr2 陽性細胞ガ SCF の注入部位に近い前頭部の大脳皮質に偏って存在し 後頭部にはほとんど分布しないことが明らかとなった すなわち 大脳皮質前駆細胞の集積が SCF によって誘導されていることが示唆された 投与量を 10 ng に減らした場合は Sox2 陽性細胞の分布の偏りは認められなかったが 程度の軽い細胞分布の偏りが注入部位付近で認められた これらの結果から SCF は大脳皮質前駆細胞の増殖を促進するばかりでなくケモアトラクタント効果として作用し 結果として異所性細胞塊の形成を引き起こすと考えられた 以上 SCF の投与により大脳皮質の様々な部位で異所性の神経系細胞の集積が起こることを明らかにした (Fig.3) 大脳皮質前駆細胞の増殖を促進し 細胞挙動を変化させることで 異所性細胞塊の形成に関与する可能性を見出した SCF による細胞塊形成機序の解明には更なる研究が必要であるが 本 SCF 誘導性マウスモデルは 難治性てんかん患者の大脳皮質細胞塊形成機序を理解する上で 有用なツールになると考えられる 3. 妊娠期の免疫賦活化が仔の大脳皮質神経細胞の特性に及ぼす影響統合失調症や自閉症では 多数の遺伝的要因と何らかの環境因子が複雑に絡み合って 病態形成に結びつくと考えられている 感染は環境要因のひとつであり 妊娠期に感染症に罹った母体から誕生した子は精神疾患のリスクが高くなることが疫学調査から明らかにされている 5) また ウイルスに類似する構造を持つ化合物や lipopolysaccharide(lps) などの炎症反応を引き起こす免疫賦活剤を妊娠動物に投与すると 出生した仔が精神疾患で見られる異常行動に類似の行動を示すことが複数のグループから報告された 一連のモデル動物を用いたこれらの研究成果から 感染症によって母体 胎児の免疫系が賦活化されると 胎児脳の発達に影響を及ぼし 子の精神活 動に長期的な異常を引き起こすという仮説が提唱されている 32) しかし 異常行動の基盤となる病態脳の形成機序についてはほとんど明らかにされていない 特に 統合失調症や自閉症患者では 大脳皮質における解剖学的 機能的異常が見出されており 認知機能障害や異常行動との相関性について繰り返し議論されている 7) が 胎生期免疫賦活モデル動物の大脳皮質について発達過程を直接調べた報告はない 哺乳類の大脳皮質は 6 層構造からなり それぞれの層には遺伝子発現 形態 軸索投射パターンの類似した神経細胞が整然と配置されている 9, 10) これらの層に固有の特徴を持つ神経細胞は 背側終脳の脳室帯に存在する共通の前駆細胞 ( 大脳皮質前駆細胞 ) から生成され そのつど 髄膜直下まで移動して皮質板内に定着するため 早生まれの細胞ほど深層に 遅生まれの細胞ほど上層に配置される 19, 33) 神経細胞の定着位置や遺伝子発現プロファイルに基づき 生後の大脳皮質の発達過程で機能的な神経回路が形成される 34, 35, 36, 37) したがって 大脳皮質神経細胞層の構築のわずかな乱れが大脳皮質の機能的失調に結びつくことが予想される 合成二本鎖 RNA である polyriboinosinic-polyribocytidylic acid (Poly I:C) は 妊娠マウスに投与すると ウイルス感染後の急性期の免疫賦活化に類似した状況を作り出し 38, 39) 仔の成熟後に精神疾患を髣髴とさせる異常行動を引き起こすことが多数報告されている 40, 41, 42) そこで 胎生期に Poly I:C を暴露されたマウスの大脳皮質を神経科学的に解析した 3-1. 母体への Poly I:C 投与により誘導される仔の行動異常 C57BL6 41) あるいは BALB/c 40) などの近交系マウスについては 胎生期に Poly I: C を暴露されると 成熟後に行動異常を生じることが多数報告されているが 交雑系マウスを用いた研究はない そこで 動物の遺伝的背景の違いが異常行動の発現に及ぼす影響を確かめるため 交雑系の ddy マウスを用いて同様の実験を行った 妊娠 9.5 日目のマウスに Poly I:C あるいは対照として vehicle を単回投与し 誕生した仔が成熟した後 いくつかの行動実験を行った これ以後 胎生 9.5 日齢において Poly I:C を暴露されたマウスを Poly I:C-E9.5 マウス ( 群 ) と表記する 行動実験の結果から 近交系のマウスを用いたこれまでの研究と一致して 成体の Poly I:C-E9.5 マウスは 統合失調症や自閉症の指標となる不安行動の増大や社会性の低下を示した 3-2. 胎生期 Poly I:C 暴露が大脳皮質上層神経細胞の遺伝子発現に及ぼす影響妊娠期における免疫賦活化が大脳皮質の神経細胞層構

29 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 27 築に及ぼす影響を明らかにするために P10 の Poly I:C-E9.5 群の大脳皮質各層に特異的な遺伝子の発現を免疫組織化学的に解析した それらの発現分布から判断すると 大脳皮質神経細胞層の構造には Poly I:C-E9.5 群と対照群との間に大きな差は認められなかった また P10 と P8W の大脳皮質をニッスル染色により解析したところ 全層の神経細胞数 各層を構成する神経細胞の割合 大脳皮質全体の厚さには Poly I:C 暴露の影響は認められなかった しかし Poly I:C-E9.5 群の第 Ⅰ-Ⅳ 層において Cux1 陽性細胞 (Cux1 + ) brain-specific homeobox/pou domain protein (Brn)1 陽性細胞 (Brn1 + ) および Cux1 + かつ Brn1 + の細胞 (Cux1 + /Brn1 + 細胞 ) は それぞれ約 % 減少していた 詳細な検討の結果 これらの陽性細胞数の減少は 第 Ⅱ/Ⅲ 層における Cux1 + /Brn1 + 細胞の選択的減少に起因すると考えられた 一方 大脳皮質深層における Tbr1 Ctip2 Forkhead box p2(foxp2) 陽性細胞の割合は対照群と Poly I:C-E9.5 群の間でほぼ同等であった したがって Poly I:C-E9.5 群の大脳皮質では 神経細胞の割合や密度には異常がないが 上層神経細胞としての遺伝子発現プロファイルの獲得が不完全である可能性が示唆された 3-3.Poly I:C 投与によるシナプス発達の変化胎生期 Poly I:C 暴露マウスの病態を裏付ける神経科学的な変化を捉えるため 8 週齢の Poly I:C-E9.5 マウス大脳皮質の神経シナプスを免疫組織化学的に解析した まず プレシナプス 抑制性シナプスにそれぞれ特異的に分布するシナプトフィジン glutamic acid decarboxylase-67 (GAD67; GABA 合成酵素 ) を特異的に認識する抗体を用いて免疫染色を行い 大脳皮質第 II/III 層の陽性小斑数を計測した その結果 単位面積当たりのシナプトフィジン陽性小斑数 GAD67 陽性小斑数には差がなかったが 神経細胞体を取り囲むように存在するシナプス小斑の数は対照群と比較して Poly I:C-E9.5 群ではシナプトフィジン陽性小斑がおよそ 30% GAD67 陽性小斑がおよそ 40 % 減少していた 次に Golgi 染色を用いて 大脳皮質体性感覚野の第 III 層錐体細胞の樹状突起スパインの密度を調べた Poly I:C-E9.5 群の第 III 層神経細胞のスパイン密度は対照群に比較しておよそ 20% 増加していた これらの結果から Poly I:C E9.5 では 興奮性シナプスと抑制性シナプスのバランスが変化することが 病態脳形成に関与している可能性が示唆された 以上 妊娠期の免疫賦活化が仔の大脳皮質上層神経細胞の遺伝子発現やシナプス形成に影響を与えることを明らかにした このような神経細胞の生物学的変化は 大脳皮質神経回路の発達と成熟に影響を及ぼし 異常行動や精神疾患の基盤となる病態脳の形成に関与すると考えられる 4. 妊娠期の免疫賦活化が仔の大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 次に 胎生期免疫賦活化モデルの大脳皮質神経細胞の生成メカニズムを詳細に検討した 4-1. 胎生期 Poly I:C 暴露が大脳皮質の神経細胞の配置に及ぼす影響 マウスの大脳皮質では 生後 1 週間までに殆どの神経細胞が移動を終え 神経細胞層の組織構築が完了する 43), 44) 妊娠期の母体免疫賦活化が仔の大脳皮質形成に及ぼす影響を解析するため Poly I:C-E9.5 群あるいは対処群の E13.75 E14.75 E15.75 E16.75 に誕生する神経細胞を知チミジンアナログである 5-bromo-2 -deoxyuridine (BrdU) の単回投与で標識し P10 大脳皮質における BrdU 陽性細胞の分布を調べた 対照群の大脳皮質では 以前の報告 43) と一致して 誕生日齢が早い細胞ほど深層に 遅いものほど上層にそれぞれ分布していた E13.75 に誕生した BrdU 標識細胞の分布は 対照群と Poly I:C-E9.5 群の間で違いはなかった また E14.75 から E16.75 までの期間に誕生した BrdU 陽性細胞は 両群ともに inside-out の法則に従って分布していたが Poly I:C-E9.5 群では同じ誕生日齢で発生した BrdU 標識細胞が対照群よりも若干深層に多く定着していた 一方 E14.75 で誕生した BrdU 標識細胞の内 上層に定着した細胞は対照群と比較してわずかではあるが Poly I:C 群で有意に減少していた さらに E13.75 から E15.75 までの各胎生日齢で誕生した BrdU 標識細胞の数は 2 群間でほぼ同等であったが E16.75 に発生した BrdU 標識細胞は 対照群と比べ Poly I:C-E9.5 群で 24.1% 増加しており ( 対照群 : 45.5±3.3 cells, Poly I:C-E9.5 群 : 56.7±2.8 cells; p<0.05) これらのほとんどは第 Ⅱ/Ⅲ 層に位置していた 以上のことを考え合わせると Poly I:C-E9.5 群では上層神経細胞層の形成がわずかに遅れるため それを補うように神経発生の終盤では多くの神経細胞を生成するような機構が発動している可能性が示唆された 次に 胎生期の Poly I:C 暴露によって神経細胞のサブタイプへの分化がどのような影響を受けるかを調べるために 特定の胎生日齢 (E13.75 E15.75 E16.75) に BrdU 標識した細胞について それらの遺伝子発現を P10 の大脳皮質で調べた (Fig. 4) E13.75 生まれの BrdU 標識細胞では Cux1 または transducin-like enhancer of split 4(Tle4) を発現している細胞がそれぞれ全体の 20% 存在したが 2 群間での差は認められなかった E15.75 あるいは E16.75 に生まれた BrdU 標識細胞の多くは Brn1 Brn2 もしくは Cux1 のいずれかを発現していた E15.75 に比べて E16.75 生まれの BrdU 標識細胞では Brn1 Brn2 を発現する細胞の比率は増加したが Cux1 陽性細胞の比率は逆に減少した

30 28 宗宮仁美ら : 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 (Table 1) 大脳皮質では通常第 Ⅳ 層神経細胞に続いて第 Ⅱ/Ⅲ 層神経細胞が生成されるので 誕生した日齢に依存して決定される遺伝子発現プロファイルは Poly I:C-E9.5 群では対照群よりも若干遅れて進行していることが示唆された (Table 1) ないと考えられるため Poly I:C-E9.5 マウス大脳皮質において上層神経細胞層の形成が遅れる理由は別にあるのではないかと考えられた たとえば VZ での大脳皮質前駆細胞の細胞周期の所要時間は 誕生する神経細胞の数と分布とに密接に関連することが明らかにされており 45, 46) 大脳皮質前駆細胞の増殖の動態が Poly I:C-E9.5 群で変化している可能性がある そこで BrdU 蓄積ラベル法 47) を用いて E13.75 と E15.75 に誕生した大脳皮質前駆細胞の細胞周期の長さと VZ における増殖細胞比率すなわち GF を算出した (Fig.5) Fig. 4. Layer-specific neuronal phenotypes are sequentially generated from cortical progenitors. Table 1. Gene expression profile of the cells with same birthday in the cerebral cortex of the P10 control and Poly I:C-E9.5 Fig. 5. Schematic illustration of the analysis of the cell-cycle parameters of VZ progenitors in the control and the Poly I:C-E9.5 animals by cumulative BrdU labeling, starting at 8:00 P.M. on E13 or E15. ND: not determined, : no change, : increase, : decrease 4-2. 大脳皮質前駆細胞の細胞周期パラメータに及ぼす Poly I:C 暴露の影響神経細胞の移動に対する妊娠期 Poly I:C 暴露の影響を検討するため E13.75 あるいは E15.75 の妊娠マウス腹腔内に BrdU を単回投与し E13.75 ではその 24 時間後から 48 時間まで E15.75 ではその 24 時間後から 96 時間の間の BrdU 標識細胞の分布の変化を検討した Poly I:C-E9.5 群の大脳皮質では E15.75 に BrdU 標識された細胞の VZ から CP への 48 時間後の移動が対照群のそれと比較してわずかに遅れていた しかし BrdU 投与 60 時間後と 96 時間後の間では 2 群間の差が認められなかった したがって 妊娠期 Poly I:C 暴露による VZ から CP へと向かう神経細胞の移動は 中期過程における数時間程度の遅れであり しかも効果は一過性であることが示唆された また E13.75 に BrdU 標識された細胞の挙動には 2 群間で差がなかった このように妊娠期 Poly I:C 暴露による神経細胞移動の遅延は一過性であり 影響はそれほど大きく VZ 内の総細胞数は発達とともに減少したが 測定期間内すなわち BrdU 投与後 2.5 時間から 26.5 時間における VZ 内の平均総細胞数は 発生ステージや Poly I:C 暴露の有無にかかわらず一定であった E13.75 では 検討したすべての細胞周期パラメータについて 対照群と Poly I:C-E9.5 群との間で違いがなかった 一方 E15.75 では Poly I:C-E9.5 群において細胞周期全体の所要時間である Tc が 2 時間短縮し GF が 14 % 減少していた さらに BrdU を投与してから 30 分後に脳を摘出し VZ 内の細胞の BrdU 取り込み能 ( 単位体積当たりの BrdU 陽性細胞数 ) を計数したところ E15.5 では両群で差がないのに対し E16.75 では Poly I:C-E9.5 群の BrdU 取り込み能は対照群の 77.3% に減少していた (E16.75: 対照群 48.3±2.7 Poly I:C-E ±3.5 p<0.05;e15.75: 対照群 59.1±2.3 Poly I:C-E ±3.7 p=0.21 Student s t-test n=4) これらの結果から Poly I:C-E9.5 群の大脳皮質では 大脳皮質形成後期に徐々に増殖細胞の比率が減少していることが明らかとなった

31 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 大脳皮質神経細胞の生成プロセスに及ぼす Poly I:C の影響本研究では 大脳皮質の神経幹細胞や中間神経前駆細胞を含めて VZ/SVZ に存在する細胞を大脳皮質前駆細胞と定義している 大脳皮質形成過程において神経細胞が新生される際には 大脳皮質の神経幹細胞は非対称性分裂をし VZ で2つの異なる娘細胞を生み出す 1つは 神経幹細胞であり神経系を構成するすべての細胞 ( 神経細胞 アストロサイト オリゴデンドロサイト ) を生成する能力を持つ もう1つは中間神経前駆細胞あるいは神経細胞である 正常の大脳皮質形成過程において それぞれの娘細胞の生成比率 タイミング 場所は厳密に制御されている 中間神経前駆細胞は 脳室表面から離れ SVZ から IZ を通って皮質板へと移動するが SVZ から IZ で 1~3 回細胞分裂して神経細胞のみを生成する 48, 49) これらの 3 種すなわち神経幹細胞 中間神経前的に発現している そこで 胎生期 Poly I:C 暴露が大脳皮質前駆細胞に及ぼす影響を解析するため E13.75 または E15.75 に BrdU を投与後 いくつかの時間点で胎仔脳を摘出し 免疫染色法により paired box gene 6 (Pax6) Tbr2 Tuj1 の発現を調べることにより BrdU 標識細胞の発達を経時的に解析した E13.75 における BrdU 標識細胞の発達依存的な遺伝子発現変化は Poly I:C-E9.5 群と対照群で同等であった 一方 E15.75 における BrdU 標識細胞のその後の発達に伴う遺伝子発現変化については Poly I:C-E9.5 群の Pax6 発現の低下が対照群のそれよりも早く進行した すなわち Pax6 陽性 BrdU 標識細胞の割合は 対照群と比較して BrdU 投与 24 時間後では 12% 36 時間後では 4.3% 少なかった 一方 BrdU 投与 48 時間後における Pax6 発現 BrdU 陽性細胞の割合は 対照群と同等であり 2 群間の差はなかった Pax6 の発達に伴う発現低下は早期に進行していたが BrdU 投与後の Tbr2 あるいは Tuj1 の発現変化には 2 群間の差がみられなかった すなわち BrdU 投与 24 時間後から 48 時間後の間に Tbr2 陽性 BrdU 標識細胞の割合はおよそ 65% 減少し Tuj1 陽性 BrdU 標識細胞は 70% 増加しており これらの変化は両群間で差がなかった したがって Pax6 遺伝子の初期の発現低下は 神経細胞の生成比率やタイミングの変化とは結びついていない可能性が示唆された この仮説を検証するため E15.75 で BrdU を投与し 24 時間後 48 時間後に BrdU 標識細胞のうち Ki67 を発現していない細胞の比率を調べた Ki67 は 細胞周期の G1 後期 S M 又は G2 期を経過中の増殖細胞の核内に特異的に発現するタンパク質である 50) したがって Ki67 を発現していない細胞の比率は 細胞周期を離脱した細胞の比率 [quitting (Q) fraction] ということになる Q fraction は 対照群と Poly I:C-E9.5 群のいずれも BrdU 投与後 24 時間から 48 時間までの間におよそ 30% 増加し 増加率は違いが なかった (Fig. 6) 以上の結果から Poly I:C-E9.5 群の大脳皮質においては E15.75 の神経幹細胞から誕生する神経細胞の数とそのタイミングは 対照群と違いがないと考えられた 一方 PolyI:C-E9.5 群の VZ における増殖細胞の BrdU 取り込み能は E15.75 から E16.75 にかけて減少するが E16.75 で BrdU を取り込んだ細胞から生成する神経細胞が増加していることを考え併せると E15.75 生の大脳皮質前駆細胞における Pax6 遺伝子の早期発現低下が 娘前駆細胞 (E16.75 生 ) の性質に影響し 次の神経細胞の生成プロセスを修飾していると考えられる Fig. 6. Effects of the Poly I:C-injection on the cell cycle kinetics of cortical progenitors. A, Tissue sections were double immunostained with anti-brdu antibody (red) and the antibodies against Ki67 (green). Scale bar, 100μm. B, At 24 or 48 h after the BrdU injection on E15.75, sections were double immunostained with antibodies against Ki67 and BrdU. Note that the fraction of cells positive for BrdU only (BrdU + /Ki67 - ; no longer dividing; Q fraction) was essentially the same in both control and Poly I:C-E9.5 cortices at 24 and 48 h after the BrdU incorporation (n=3-5 embryos from 2 litters at each time point). n.s; no significance. これらのことから 上層神経細胞の生成や機能的成熟過程における僅かな異常が 統合失調症や自閉症といった複雑な精神疾患の発症の要因になり得ることが示唆される 5. 総括 精神疾患を含むどのような疾患の発症原因も突き詰め

32 30 宗宮仁美ら : 免疫系に関わる因子が大脳皮質神経細胞層の構築に及ぼす影響 て考えれば 遺伝的要因と環境的要因の 2 つに大別することができる すなわち 多くの疾患では 遺伝的素因に基づく脆弱性を環境因子が打ち崩して発症に至る 当然ながら疾患によって2つの要因の寄与は異なるが 環境因子により誘導され 発症に結びつく変化を抑制できれば 予防あるいは治療につながるだろう したがって 環境的な要因の寄与を解明することは治療への糸口をつかむことになる 本研究では 免疫系にかかわる環境因子が胎仔の大脳皮質神経細胞層の構築過程をわずかに修飾することによって 大脳皮質の機能失調にかかわる初期病変を作ることを明らかにした このような神経発生時における小さな変化が蓄積すること あるいは遺伝的な素因と相互作用することによって変化がさらに増幅されて 病態脳の形成にかかわるのではないかと考えられる 本研究で得られた結果は 近年患者数が増加傾向にある自閉症などの発達障害や統合失調症の治療戦略を考える上で非常に重要な知見となると考えられる 6. 謝辞 本研究の遂行に対し種々のご協力を賜りました分子生物学研究室諸氏に深甚なる謝意を表します 7. 引用文献 1) 杉山登志郎 (2007) 発達障害の子どもたち 講談社現代新書 2) Rosenberg R.E., Law J.K., Yenokyan G., McGready J., Kaufmann W.E., Law P.A., Arch Pediatr Adolesc Med. 163, (2009) 3) Geier D.A., Kern D.A., Geier M.R., Acta Neurobiol Exp 70, (2009) 4) Williams G., King J., Cunningham M., Stephan M., Kerr B., Hersh J.H., Dev Med Child Neurol. 43, (2001) 5) Brown A.S., Schizophr. Bull. 32, (2006) 6) Ellman L.M., and Susser E.S., Neuron 64, (2009) 7) Amaral D.G., Schuman C.M., Nordahl C.W., Trends Neurosci 31, (2008) 8) Freitag C.M., Luders E., Hulst H.E., Narr K.L., Thompson P.M., Toga A.W., Krick C., Konrad C., Biol Psychiatry 66, (2009) 9) Gilbert C.D., Kelly J.P., J Comp Neurol 163, (1975) 10) Gilbert C.D., Wiesel T.N., Vision Res 25, (1985) 11) Guerrini R., Dobyns W.B., Barkovich A.J. Trends Neurosci 31, (2008) 12) Fukumitsu H., Ohtsuka M., Murai R., Nakamura H., Itoh K., Furukawa S. J Neurosci 26, (2006) 13) Ohtsuka M., Fukumitsu H., Furukawa S. Biochem Biophys Res Commun 369, (2008) 14) Ohtsuka M., Fukumitsu H., Furukawa S. J Neurosci Res 87, (2009) 15) Pardo C.A., Vargas D.L., Zimmerman A.W. Int. Rev. Psychiatry 17, (2005) 16) Patterson P.H. Behav Brain Res. 204, (2009) 17) Taga T., Fukuda S. Clin Rev Allergy Immunol. 28, (2005) 18) Lopez-Bendito G., Cautinat A., Sanchez J.A., Bielle F., Flames N., Garratt A.N., Talmage D.A., Role L.W., Charnay P., Marin O., Garel S. Cell 125, (2006) 19) Angevine J.B. Jr., Sidman R.L. Nature 192, (1961) 20) Clark G.D. Brain Dev 26, (2004) 21) Guerrini R Epilepsia 46, (2005) 22) Browne T.R., Holmes G.L. N Engl J Med 344, (2001) 23) Miller F.D., Gauthier A.S. Neuron 54, (2007) 24) Ashman L.K. Int J Biochem Cell Biol 31, (1999). 25) Keshet E., Lyman S.D., Williams D.E., Anderson D.M., Jenkins N.A., Copeland N.G., Parada L.F. EMBO J 10, (1991) 26) Motro B., van der Kooy D., Rossant J., Reith A,. Bernstein A. 113, (1991) 27) Ueda S., Mizuki M., Ikeda H., Tsujimura T., Matsumura I., Nakano K., Daino H., Honda Zi. Z., Sonoyama J., Shibayama H., Sugahara H., Machii T., Kanakura Y. Blood 99, (2002) 28) Witte O.N. Cell 63, 5-6 (1990) 29) Krause D.S., Van Etten R.A. N Engl J Med 353, (2005) 30) Erlandsson A., Larsson J., Forsberg-Nilsson K. Exp Cell Res 301, (2004) 31) Ogawa M., Matsuzaki Y., Nishikawa S., Hayashi S., Kunisada T., Sudo T., Kina T., Nakauchi H., Nishikawa S.. J Exp Med 174, (1991) 32) Meyer U., Feldon J., Fatemi S.H. Neurosci Biobehav Rev 33, (2009) 33) Rakic P. Science 183, (1974) 34) Molyneaux B.J., Arlotta P., Hirata T., Hibi M., Macklis J.D. Neuron 47, (2005) 35) Alcamo E.A., Chirivella L., Dautzenberg M., Dobreva G., Farinas I., Grosschedl R., McConnell S.K. Neuron 57, (2008) 36) Britanova O., de Juan Romero C., Cheung A., Kwan K.Y., Schwark M., Gyorgy A., Vogel T., Akopov S., Mitkovski M., Agoston D., Sestan N., Molnar Z., Tarabykin V. Neuron 57, (2008) 37) Cubelos B., Sebastian-Serrano A., Beccari L., Calcagnotto M.E., Cisneros E., Kim S., Dopazo A., Alvarez-Dolado M., Redondo J.M., Bovolenta P., Walsh C.A., Nieto M. Neuron 66, (2010) 38) Fortier M.E., Kent S., Ashdown H., Poole S., Boksa P., Luheshi G.N. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 287, (2004) 39) Meyer U., Nyffeler M., Engler A., Urwyler A., Schedlowski M., Knuesel I., Yee B.K., Feldon J. J Neurosci 26, (2006)

33 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 31 40) Shi L., Fatemi S.H., Sidwell R.W., Patterson P.H. J Neurosci. 23, (2003) 41) Smith S.E., Li J., Garbett K., Mirnics K., Patterson P.H. J Neurosci 27, (2007) 42) Zuckerman L., Rehavi M., Nachman R., Weiner Neuropsychopharmacology 28, (2003) 43) Caviness V.S. Jr. Brain Res 256, (1982) 44) Hevner R.F., Daza R.A., Englund C., Kohtz J., Fink A. Neuroscience 124, (2004) 45) Caviness V.S. Jr., Takahashi T., Nowakowski R.S. Trends Neurosci 18, (1995) 46) Tarui T., Takahashi T., Nowakowski R.S., Hayes N.L., Bhide P.G., Caviness V.S. Cereb Cortex 15, (2005) 47) Takahashi T., Nowakowski R.S., Caviness V.S., Jr. J Neurosci. 15, (1995) 48) Englund C., Fink A., Lau C., Pham D., Daza R.A., Bulfone A., Kowalczyk T., Hevner R..F. J Neurosci 25, (2005) 49) Pontious A., Kowalczyk T., Englund C., Hevner R.F. Dev Neurosci 30, (2008) 50) Gerdes J., Schwab U., Lemke H., Stein H. Int J Cancer 31,13-20 (1983) 8. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 127 号 ) の内容を中心にまとめたものである

34 32 高橋圭太ら : 自然免疫受容体シグナルに対するローヤルゼリー由来脂肪酸の抑制作用 総説 自然免疫受容体シグナルに対するローヤルゼリー由来脂肪酸の抑制作用 高橋圭太 *, 杉山剛志, 森裕志 要約 : 蜂産品の一つであるローヤルゼリーは ミツバチの働き蜂の分泌物である 女王蜂となる幼虫はローヤルゼリーのみを食べて成長する ローヤルゼリーの脂質成分の大半を占める 10-Hydroxy-trans-2-decenoic acid(10h2da) は他の食品には含まれないローヤルゼリーに特有の脂肪酸である 10-Hydroxydecanoic acid(10hda) は 10H2DA に次いでローヤルゼリー中の含有量が高い脂肪酸である これらの脂肪酸は様々な生理活性 ( 抗腫瘍作用 エストロゲン様作用等 ) を示すことが報告されている 最近 我々は 10H2DA および 10HDA が自然免疫受容体のシグナル伝達を抑制することを見出した 本総説では 10H2DA および 10HDA の生理活性のうち 我々の研究で明らかになった免疫調節作用とその作用機序について記述する 加えて これらの活性が免疫系の疾患に対する治療薬開発につながる可能性についても論じる 索引用語 : 自然免疫 ローヤルゼリー toll-like receptor lipopolysaccharide IFN 脂肪酸 Inhibitory Effects of Royal Jelly-derived Fatty Acids on Cellular Signal Transduction in Innate Immune Responses Keita TAKAHASHI *, Tsuyoshi SUGIYAMA, Hiroshi MORI Abstract: Royal jelly is one of many bee products and a secretion of worker honeybees. Worker honeybees feed the queen honeybee for her life with only royal jelly. 10-Hydroxy-trans-2-decenoic acid (10H2DA) is the principal lipid component in royal jelly. 10-Hydroxydecanoic acid (10HDA) is also contained in royal jelly. These fatty acids have been reported to show several biological activities, such as anti-tumor and estrogenic activity. Recently, we revealed the inhibitory effect of these fatty acids on innate immune receptor signals. In this review, we focus on the biological activities of 10H2DA and 10HDA (especially immunomodulatory activities). We also discuss the mechanisms underlying these biological activities and the possibilities for using these fatty acids as lead compounds in new therapeutic drugs for immune disorders. Key phrases: innate immunity, royal jelly, toll-like receptor, lipopolysaccharide, IFN, fatty acids 1. 緒言ハチミツ ローヤルゼリーおよびプロポリスは代表的な蜂産品である これらの蜂産品は健康食品や化粧品として使用されている 1, 2) ハチミツおよびプロポリスは働き蜂が植物から集めてきた植物由来の物質である そのため これらの成分は巣のまわりの環境に依存しており 産地によって様々である 一方 ローヤルゼリーは働き蜂の大顎腺と大腮腺からの分泌物であるため 産地間での成分の差はない 3) ミツバチの幼虫は孵化後最初の三日間はローヤルゼ リーを与えられる 4) その後 ハチミツ等を与えられた幼虫は働き蜂になり ローヤルゼリーを与え続けられた幼虫は女王蜂になる 遺伝的に同一である幼虫がローヤルゼリーを与えられると女王蜂に分化することから ローヤルゼリーには女王蜂への分化に必須の成分が含まれると考えられてきた 最近 ローヤルゼリー中のタンパク質である major royal jelly protein(mrjp)-1 が女王蜂への分化に重要な役割を果たすことが報告された 5) ローヤルゼリーには 糖質 タンパク質 脂質 ビタミンおよびミネラルが豊富に含まれる ( 図 1) 3, 6, 7) ローヤルゼリー中の主なタンパク質は MRJP と呼ばれ 5 種類の 岐阜薬科大学生命薬学大講座微生物学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Microbiology, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN)

35 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 33 図 1. ローヤルゼリーの構成成分ローヤルゼリーの主な構成成分は水 タンパク質 糖質および脂質であり それぞれの構成比は 60-70% 9-18% 7-18% および 3-8% である その他の成分として遊離アミノ酸やビタミン等が含まれている 6, 7, 11). 脂質成分の 90-95% は遊離脂肪酸で 特に 10-hydroxy-trans-2-decenoic acid (10H2DA) および 10-hydroxydecanoic acid(10hda) の含有量が多い 10) MRJP(MRJP1 5) が全タンパク質成分の約 90% を占める 8, 9) ローヤルゼリー中の脂質成分は 乾燥重量の約 10% を占める 10-Hydroxy-trans-2-decenoic acid(10h2da) は 最も含有量の多い脂質成分で 全脂質の約 50% を占める ( 図 1 2) また 10H2DA はローヤルゼリーに特有の 成分であり他の食品には含まれないため その含有率は ローヤルゼリーの品質を検定する際に用いられる 10-13) 10-Hydroxydecanoic acid(10hda) は炭素鎖が 10 の飽和脂 肪酸で ローヤルゼリー中の含有量が 10H2DA に次いで 多い ( 図 1 2) 10) ローヤルゼリーは 抗腫瘍作用 抗炎症作用 抗菌作用 等 様々な生理活性を示すことが報告されている 14-16) ローヤルゼリーの脂質成分の大半を占める 10H2DA およ び 10HDA についても抗腫瘍作用 免疫調節作用 抗菌作 用 エストロゲン様作用等 多彩な作用が報告されている 17-21) 本総説では 我々の研究で明らかになった 10H2DA および 10HDA の免疫調節作用について記述する 最後に これらの脂肪酸が示す免疫調節作用の機序について そし て免疫系の疾患に対する治療薬開発につながる可能性に ついても論じる 2. ローヤルゼリーおよびローヤルゼリー由来脂肪酸 の免疫調節作用 ローヤルゼリーが自然免疫系および獲得免疫系に及ぼ す影響については既にいくつかの報告がある 22) また ローヤルゼリーがある種の自己免疫疾患や炎症性疾患に 有効である可能性も報告されている 23-25) 10H2DA につい ては 我々が報告した lipopolysaccharide(lps) や interferon (IFN)-γ 刺激によるマクロファージの活性化を抑制する 18-20) 作用に加えて T 細胞の増殖抑制作用 マチ作用が報告されている 28, 29) 26, 27) 抗リウ Toll-like receptor(tlr) は自然免疫系における微生物の 図 2.10-hydroxy-trans-2-decenoic acid(10h2da) および 10-hydroxydecanoic acid(10hda) の化学構造 認識を担う受容体である ヒトでは 10 種類 (TLR1 10) の TLR の存在が明らかになっており それぞれの TLR を 活性化する TLR リガンドが同定されている 代表的な TLR リガンドとして グラム陰性菌の外膜構成成分である LPS グラム陽性菌の細胞膜にみられるリポペプチド 細菌の細 胞壁であるペプチドグリカン 細菌の鞭毛を構成するタン パク質である Flagellin 細菌 ウイルス由来の非メチル化 CpG DNA や ssrna dsrna 等が知られている 30) TLR を介したシグナル伝達経路は 炎症に関わる遺伝子の発現 誘導や免疫応答を活性化し 微生物感染から生体を防御す るために機能するが 一方で様々な炎症性疾患の原因にな りうることも知られている そのため TLR を介したシグ ナル伝達を制御することにより感染症 腫瘍 種々の炎症 性疾患の治療を目指す研究が行われている 2.1.IL-6 産生に対する 10H2DA の抑制作用 マクロファージの活性化は 感染初期における主要な自 然免疫反応のひとつである Kohno らはローヤルゼリーが マクロファージの活性化を抑制することを報告している 15) 彼らは LPS と IFN-γ の共刺激によるマクロファージ の炎症性サイトカイン (TNF-α および IL-6) 産生をローヤ ルゼリーが抑制すること また分子量が 5 kda 未満の低分 子が抑制に関わることを報告している 我々は LPS 刺激によるマクロファージの IL-6 産生を 10H2DA が抑制することを報告した 18) 10H2DA は NF-κB ( 様々な炎症性サイトカインの産生を促進する転写因子 ) の活性化を抑制したが TNF-α 等 NF-κB 依存的に発現が 調節されるいくつかの遺伝子の発現は抑制されなかった 10H2DA が発現を抑制した遺伝子には IL-6 の他に IκB-δ Lipocalin 2 および granulocyte-colony stimulating factor (G-CSF) があった IκB-δ は LPS 刺激による IL-6 Lipocalin 2 および G-CSF の発現に必須の転写因子であることから 31, 32) 10H2DA によって IκB-δ の発現が抑制されたことで IL-6 等の発現が抑制されたと考えられる また IκB-δ の 発現は NF-κB 依存的であることから 10H2DA は NF-κB

36 34 高橋圭太ら : 自然免疫受容体シグナルに対するローヤルゼリー由来脂肪酸の抑制作用 の活性化を抑制することで IκB-δ の発現を抑制したと考えられる ( 図 3) 2.2.NO 産生に対する 10H2DA の抑制作用一酸化窒素 (NO) は マクロファージが貪食した細菌などを殺すために産生する重要なエフェクター分子である マウスのマクロファージを LPS で刺激すると IFN-β 産生が誘導される 産生された IFN-β のオートクライン刺激によって誘導型 NO 合成酵素 (inos) の産生が促進される inos はマクロファージが大量の NO を合成するために必須の酵素である 10H2DA は LPS 刺激による inos の発現および NO 産生を抑制した 20) 10H2DA は IFN-β 産生には影響しなかったが IFN-β 刺激による NO 産生を抑制した IFN-β シグナルのうち STAT の活性化には 10H2DA の影響がみられなかったことから 10H2DA は JAK-STAT 経路とは異なる経路を抑制し NO 産生を抑制すると考えられた IFN-β 刺激では PI3K-Akt 経路を介して NF-κB の活性化が誘導されるが 33) 10H2DA はこの NF-κB の活性化を抑制した また PI3K-Akt 経路の阻害剤は NO 産生を抑制すると報告されている 34) これらのことから 10H2DA は IFN-β 刺激による NF-κB の活性化を抑制し inos の発現を抑制することによって NO 産生を抑制したと考えられる ( 図 3) さらに 10H2DA は IFN-γ 刺激による NO 産生も抑制した 19) IFN-γ によるマクロファージの NO 産生には JAK-STAT 経路を介して STAT1 が活性化されることに加えて TNF-α のオートクライン刺激によって NF-κB が活性化されることが重要である 35) TNF-α 産生は 転写因子 IRF-1 および IRF-8 によって促進される 36) IFN-γ 刺激によって IRF-1 および IRF-8 の発現が誘導されるが 10H2DA は IRF-1 の発現には影響せず IRF-8 の発現を抑制した また 10H2DA によって TNF-α 産生は減尐し NF-κB の活性も低下した これらの結果から 10H2DA は IFN-γ 刺激による IRF-8 の発現を抑制することにより IRF-8 TNF-α NF-κB inos の経路を抑制し NO 産生を抑制したと考えられる ( 図 4) 2.3.NO 産生に対する 10HDA の抑制作用 10HDA と 10H2DA は炭素鎖長 官能基の位置が同一であり エストロゲン様作用 in vitro での抗腫瘍作用 コラーゲン産生促進作用 TRPA1 活性化作用について同じ作用を示すことが報告されている 17, 37-39) 前述の通り 10H2DA がマクロファージの活性化に対していくつかの特徴的な抑制作用を示したことから 10HDA が同様の作用を示す可能性が考えられた 図 3.LPS シグナル伝達に及ぼす 10H2DA の影響 LPS が TLR4 を刺激すると細胞内シグナル伝達が開始される その細胞内シグナル伝達経路は大きく二つの経路に分けられる 一方の経路では NF-κB の活性化を介して TNF-α や IL-6 等の炎症性サイトカイン産生が誘導される もう一方では IRF-3 の活性化を介して IFN-β の産生が誘導される 産生された IFN-β のオートクライン刺激は STAT の活性化および NF-κB の活性化を引き起こし inos 産生を誘導する 10H2DA は LPS および IFN-β 刺激による NF-κB の活性化を抑制し IL-6 や inos の発現を抑制する 図 4.IFN-γ シグナル伝達に及ぼす 10H2DA の影響 IFN-γ 刺激による inos 発現は次のような経路で誘導される IFN-γ が受容体に結合すると STAT1 の活性化が起こる 活性化された STAT1 は IRF-1 および IRF-8 の発現を誘導する IRF-1 および IRF-8 は TNF-α 産生を誘導する 産生された TNF-α のオートクライン刺激は NF-κB の活性化を引き起こし inos の発現が起こる 10H2DA は IRF-8 の発現を抑制することによって TNF-α の産生を抑制する その結果 NF-κB の活性化が抑制され inos の発現も抑制される

37 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 35 実際に LPS 刺激による NO 産生に及ぼす影響を検討した ところ 10HDA は 10H2DA と同程度の抑制作用を示した ( 未発表データ ) しかし 10H2DA の場合とは異なり 10HDA は IL-6 を含む炎症性サイトカインの産生には影 響せず NF-κB の活性化にも影響しなかった これらの結 果から二つの脂肪酸の作用機序が異なることが示唆され た LPS 刺激による inos の誘導には inos 遺伝子のプロ モーター領域に存在する三つのシスエレメント NF-κB 結 合配列 IFN-stimulated response element(isre) および IFN-γ-activated sequence(gas) の活性化が重要である 40-42) 10HDA は NF-κB や GAS の活性化には影響せず ISRE の活性化を抑制した ISRE は IFN-β のオートクライン刺 激によって活性化される STAT1 STAT2 を含む転写因子複 合体や 新たに発現が誘導される IRF-1 によって活性化さ れる 10HDA は IFN-β の発現および STAT1 STAT2 の活 性化には影響がしなかったが IRF-1 の発現を抑制した その抑制メカニズムについて検討したところ IRF-1 の発 現に対する抑制は 遺伝子転写の抑制ではなく 翻訳の抑 制である可能性が示唆された ( 図 5) 図 5.LPS シグナル伝達に及ぼす 10H2DA の影響 LPS シグナルは大きく NF-κB の活性化を誘導する経路 IFN-β の発現を誘導する経路に分けられるが 10HDA はこれらのどちらにも影響しない 10HDA は IFN-β のオートクライン刺激で誘導される IRF-1 の発現を翻訳レベルで抑制し IRF-1 による ISRE の活性化を抑制する 3.10H2DA および 10HDA の LPS シグナルに対 する抑制作用機構 前述のように 10H2DA と 10HDA はいくつかの共通な 生理活性を示すことが報告されているが 18, 37-39) LPS 刺激 によるマクロファージの活性化に及ぼす 10H2DA と 10HDA の作用は明らかに異なっていた すなわち 10H2DA は NF-κB の活性化を抑制することにより IκB-δ 依存的遺伝子群の発現を抑制し 一方 10HDA は IRF-1 の翻訳を抑制することにより ISRE 依存的な遺伝子の発現を抑制した NF-κBは 5 種類のサブユニットのいずれかがホモ又はヘテロ 2 量体を形成することにより転写因子として機能する 異なる 2 量体は異なる遺伝子群の発現を調節していると考えられており またそれぞれのサブユニットが複数の部位でリン酸化等の翻訳後修飾を受けることでも 対応する遺伝子群の発現が調節されている 43-46) 10H2DA は このような NF-κB サブユニットの活性化やその活性化にかかわるシグナル分子との相互作用によって その働きを阻害した可能性が考えられるが 現在までに自然免疫系のシグナル分子と 10H2DA が結合するという報告はない 10H2DA は NF-κB の活性化を抑制したが TNF-α 等 一部の NF-κB 依存的遺伝子発現には影響しなかった 19) 10H2DA が NF-κB の活性化に関与するシグナル分子と結合し 阻害剤として作用すると仮定すれば そのシグナル分子は基本的な NF-κB の活性化経路に関わるものではなく 翻訳後修飾などに影響して NF-κB の遺伝子配向性を調節するような働きをもったシグナル分子であると考えられ そのような阻害の結果 10H2DA は NF-κB の IκB-δ の発現に関わる NF-κB サブユニットの活性化を特異的に抑制したと考えられる エストロゲン受容体の ERβ は 10H2DA および 10HDA が結合することが報告されている唯一の受容体である 37) 10H2DA および 10HDA は共に ERβ に対してアゴニストとして作用し また その活性も同程度であることから 10H2DA および 10HDA の LPS シグナル抑制作用の違いをエストロゲン受容体で説明することは難しい エストロゲン受容体は核内受容体の一種であり リガンドが結合すると遺伝子の発現を調節する転写因子として機能する しかし 最近では この核内受容体が細胞膜に移行し 膜受容体として機能すること明らかとなっており 47) 10H2DA および 10HDA の細胞内への移行性や局在性の違いから 同じ受容体を介して異なる作用を示す可能性については検討の余地がある また GPR30 という GPCR がエストロゲン受容体として機能することが知られているが 48) Moutsatsou らは 10H2DA も GPR30 に結合する可能性を報告している 49) その他にもいくつかの GPCR が遊離脂肪酸の受容体として機能することが知られている GPR120 および GPR40 は中鎖および長鎖脂肪酸によって活性化され 50, 51) GPR119 は長鎖脂肪酸によって活性化される 52) また GPR84 は中鎖脂肪酸によって 53) GPR41 および GPR43 は短鎖脂肪酸によって活性化される 54) これらのうち GPR84 はデカン酸を含む炭素鎖が 9-14 の遊離脂肪酸で活性化されるが この受容体からのシグナルは

38 36 高橋圭太ら : 自然免疫受容体シグナルに対するローヤルゼリー由来脂肪酸の抑制作用 LPS 刺激によるマクロファージの活性化を増強すると報 告されており 53) 10H2DA や 10HDA の抑制作用と相反す る また GPR120 は ω-3 系の遊離脂肪酸と結合し LPS シグナルを強力に抑制するが GPR120 シグナルは TNF-α 産生を抑制する点で 10H2DA や 10HDA の抑制作用とは 異なる 55) これらの GPCR 以外にも 未知の細胞膜エス トロゲン受容体やその他多くの orphan GPCR の存在が知 られており 10H2DA や 10HDA の抑制作用を媒介する受 容体である可能性が考えられる 4. 総括 10H2DA はローヤルゼリー以外の食品には含まれない 特徴的な脂肪酸であり 様々な生理活性を示す ローヤル ゼリーの成分分析の結果 通常 ローヤルゼリーには 100 mm 以上の 10H2DA が含有されている 10) 10H2DA が作用 を示すのは数 mm と一般的な医薬品と比較するとかなり 高い濃度であるが 健康食品として摂取したり 化粧品と して皮膚に塗布したりする場合 消化管や皮膚の局所では 数 mm 程度の濃度に達することが予想される また 10H2DA をリード化合物としてさらに強力な作用を示す 化合物を合成できる可能性がある 自然免疫シグナルは多くの自己免疫疾患や炎症性疾患 の発症や増悪に関与することが明らかになっている しか し このシグナルは微生物感染に対する免疫応答にも必須 のものである したがって 自然免疫シグナル経路の一部 のみを高い特異性で抑制できる化合物は 自然免疫シグナ ルの関与する疾患に対する治療薬として 感染抵抗性の減 尐などの副作用を最小限に留めるという点で有用である と考えられる 10H2DA や 10HDA はそのような治療薬開 発につながるリード化合物となる可能性を秘めている 5. 謝辞 本研究に関して種々の貴重な御助言を賜りました岐阜 薬科大学生命薬学大講座微生物学研究室 所俊志助教並 びにネリパオラ研究員に深甚なる謝意を表します また 本研究全般にわたり御協力頂きました岐阜薬科大学微生 物学研究室各位に感謝致します 6. 引用文献 1) Cherniack E. P., Altern. Med. Rev., 15, (2010). 2) Miyata T., J. Pharmacol. Sci., 103, , (2007). 3) Rembold H., Vitam. Horm., 23, (1965). 4) Weaver N., Science, 121, (1955). 5) Kamakura M., Nature, 473, (2011). 6) Sabatini A. G., Marcazzan G. L., Caboni M. F., Bogdanov S., Almeida-Muradian L. B. d., J. ApiProd. ApiMed. Sci., 1, (2009). 7) Melampy R. M., Jones D. B., Proc. Soc. Exp. Biol. Med. Soc., 41, (1939). 8) Schmitzova J., Klaudiny J., Albert S., Schroder W., Schreckengost W., Hanes J., Judova J., Simuth J., Cell. Mol. Life Sci., 54, (2005). 9) Drapeau M. D., Albert S., Kucharski R., Prusko C., Maleszka R., Genome Res, 16, (2006). 10) Lercker G., Capella P., Conte L. S., Ruini F., Giordani G., J. Apic. Res., 21, (1982). 11) Howe S. R., Dimick P. S., Benton A. W., J. Apic. Res., 24, (1985). 12) Antinelli J. -F., Zeggane S., Davico R., Rognone C., Faucon J. P., Lizzani L., Food Chem., 80, (2003). 13) Weaver N., Law J. H., Nature, 188, (1960). 14) Tamura T., Fujii A., Kuboyama N., Folia Pharmacol. Japon., 89, (1987). 15) Kohno K., Okamoto I., Sano O., Arai N., Iwaki K., Ikeda M., Kurimoto M., Biosci. Biotechnol. Biochem., 68, (2004). 16) Helleu C., Ann. Inst. Pasteur (Paris), 91, (1956). 17) Townsend G. F., Morgan J. F., Tolnai S., Hazlett B., Morton H. J., Shuel R. W., Cancer Res., 20, (1960). 18) Sugiyama T., Takahashi K., Tokoro S., Gotou T., Neri P., Mori H., Innate Immun., 18, (2011). 19) Takahashi K., Sugiyama T., Tokoro S., Neri P., Mori H., Cell. Immunol., 273, (2012). 20) Sugiyama T., Takahashi K., Kuzumaki A., Tokoro S., Neri P., Mori H., Inflammation, 36, (2013). 21) Blum M. S., Novak A. F., Taber S., Science, 130, (1959). 22) Pavel C. I., Mărghitaş L. A., Bobiş O., Dezmirean D. S., Şapcaliu A., Radoi I. Mădaş M. N., Scientifical Papers, Anim. Sci. Biotechnol., 44, (2011). 23) Erem C., Deger O., Ovali E., Barlak Y., Endocrine, 30, (2006). 24) Mannoor M. K., Shimabukuro I., Tsukamoto M., Watanabe H., Yamaguchi K., Sato Y., Lupus, 18, (2009). 25) Karaca T., Bayiroglu F., Yoruk M., Kaya M. S., Uslu S., Comba B., Mis L., Eur. J. Histochem., 54, e35 (2010). 26) Gasic S., Vucevic D., Vasilijic S., Antunobic M., Chinou I., Colic M., Immunopharmacol. Immunotoxicol., 29, (2007). 27) Vucevic D., Mellious E., Vasilijic S., Gasic S., Ivanovski P., Chinou I., Colic M., Int. Immunopharmacol., 7, (2007). 28) Yang X. Y., Yang D. S., Wei Z., Wang J. M., Li C. Y., Hui Y., Lei K. F., Chen X. F., Shen N. H., Jin L. Q., Wang J. G., J. Ethnopharmacol., 128, (2010). 29) Wang J. G., Ruan J., Li C. Y., Wang J. M., Li Y., Zhai W. T., Zhang W., Ye H., Shen N. H., Lei K. F., Chen X. F., Yang X.

39 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 37 Y., Rheumatol. Int., 32, (2012). 30) Kimura H. J., Suzuki K., Landek-Salgado M. A., Caturegli P., Jounai N., Kobiyama K., Takeshita F., Endocr. Metab. Immune Disord. Drug Targets, 11, (2009). 31) Yamamoto M., Yamazaki S., Uematsu S., Sato S., Hemmi H., Hoshino K., Kaisho T., Kuwata H., Takeuchi O., Takeshige K., Saitoh T., Yamaoka S., Yamamoto N., Yamamoto S., Muta T., Takeda K., Akira S., Nature, 430, (2004). 32) Yamazaki S., Matsuo S., Muta T., Yamamoto M., Akira S., Takeshige K., J. Biol. Chem., 283, (2008). 33) Yang C. H., Murti A., Pfeffer S. R., Kim J. G., Donner D. B., Pfeffer L. M., J. Biol. Chem., 276, (2001). 34) Weinstein S. L., Finn A. J., Dave S. H., Meng F., Lowell C. A., Sanghera J. S., Defranco A. L., J. Leukoc. Biol., 67, (2000). 35) Vila-del Sol V., Diaz-Munoz M. D., Fresno M., J. Leukoc. Biol., 81, (2007). 36) Vila-del Sol V., Punzon C., Fresno M., J. Immunol., 181, (2008). 37) Suzuki K. M., Isohama Y., Maruyama H., Yamada Y., Narita Y., Ohta S., Araki Y., Miyata T., Mishima S., Evid. Based Complement. Alternat. Med., 5, (2008). 38) Koya-Miyata S., Okamoto I., Ushio S., Iwaki K., Ikeda M., Kurimoto M., Biosci. Biotechnol. Biochem., 68, (2004). 39) Terada Y., Narukawa M., Watanabe T., J. Agric. Food Chem. 59, (2011). 40) Kim Y. M., Lee B. S., Yi K. Y. and Paik S. G., Biochem. Biophys. Res. Commun., 236, (1997). 41) Kamijo R., Harada H., Matsuyama T., Bosland M., Gerecitano J., Shapiro D., Le J., Koh S. I., Kimura T., Green S. J., et al., Science, 263, (1994). 42) Gao J., Morrison D. C., Parmely T. J., Russell S. W., Murphy W. J., J. Biol. Chem., 272, (1997). 43) Leung T. H., Hoffmann A., Baltimore D., Cell, 118, (2004). 44) Hoffmann A., Leung T. H., Baltimore D., EMBO J., 22, (2003). 45) Anrather J., Racchumi G., Iadecola C., J. Biol. Chem., 280, (2005). 46) Cui R., Tieu B., Recinos A., Tilton R. G., Brasier A. R., Circ. Res., 99, (2006). 47) Pedram A. Razandi M. Levin E. R. Mol. Endocrinol., 20, (2006). 48) Mizukami Y., Endocr. J., 57, (2010). 49) Moutsatsou P., Papoutsi Z., Kassi E., Heldring N., Zhao C., tsiapara A., Melliou E., Chrousos G. P., Chinou I., Karshikoff A., Nilsson L., Dahlman-Wright K., PLoS ONE, 5, e15594 (2010). 50) Briscoe C. P., Tadayyon M., Andrews J. L., Benson W. G., Chambers J. K., Eilert M. M., Ellis C., Elshourbagy N. A., Goetz A. S., Minnick D. T., Murdock P. R., Sauls H. R. Jr., Shabon U., Spinage L. D., Strum J. C., Szekeres P. G., Tan K. B., Way J. M., Ignar D. M., Wilson S., Muir A. I., J. Biol. Chem., 278, (2003). 51) Hirasawa A., Tsumaya K., Awaji t., Katsuma S., Adachi T., Yamada M., Sugimoto Y., Miyazaki S., Tsujimoto G., Nat. Med., 11, (2005). 52) Chu Z. L., Carroll C., Chen R., Alfonso J., Gutierrez B., He H., Lucman A., Xing C., Sebring K., Zhou J., Wagner B., Unett D., Jones R. M., Behan D. P., Leonard J., Mol. Endocrinol.,24, (2010). 53) Wang J., Wu X., Simonavicius N., Tian H., Ling L., J. Biol. Chem., 281, (2006). 54) Brown A. J., Goldsworthy S. M., Barnes A. A., Eilert M. M., Tcheang L., Daniels D., Muir A. I., Wigglesworth M. J., Kinghorn I., Fraser N. J., Pike N. B., Strum J. C., Steplewski K. M., Murdock P. R., Holder J. C., Marshall F. H., Szekeres P. G., Wilson S., Ignar D. M., Foord S. M., Wise A., Dowell S. J., J. Biol. Chem., 278, (2003). 55) Oh D. Y., Talukdar S., Bae EJ., Imamura T., Morinaga H., Fan W., Li P., Lu W. J., Watkins S. M., Olefsky J. M., Cell, 142, (2010). 7. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 132 号 ) の内容を 中心にまとめたものである

40 38 中島健一ら : ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 総説 ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 中島健一 a) b), 大山雅義 *, 飯沼宗和 b) 要約 : アワダン属 (Melicope) 植物は 東南アジア オセアニア等に約 230 種が分布しているミカン科植物 (Rutaceae) である 本属植物の一部は皮膚疾患や創傷の治療などの目的で伝承薬として用いられており 過去の研究において 多様で特異的な二次代謝産物が多数報告されている点から成分研究の対象として着目した そこで我々は 国内外の 2 種のアワダン属植物について成分精査を行った その結果 沖縄県に生育するアワダン (M. triphylla) の果実から 8-geranyloxy- 5-methoxypsoralen の酸化代謝産物であり 水酸基あるいはヒドロペルオキシ基を有する 4 種の新規フラノクマリン誘導体 melicotriphyllin A D を単離した また インドネシア等に生育する M. denhamii の葉部からは 新規化合物として 8 種のキノリノンアルカロイド melicodenine A H 2 種のフェニルプロパノイド melicodin A および B クマリノリグノイド melicodin C を 地下部からは 5 種のグアイアン型あるいはジエラン型の骨格を有するセスキテルペノイド melicodenone A E を単離した Melicodenine A H および melicodin C は Diels Alder 環化付加反応または [2 + 2] 環化付加反応により 2 分子が重合した過去に報告例のない骨格を有していた さらに その構成単位となる分子として キノリノンアルカロイドである N-methylflindersine を中心に アセトフェノン フェニルプロパノイド フラノクマリンのように多岐に及ぶ成分が重合に関与しており 非常に稀有な成分であるといえる また melicodenone A および B は 天然から2 例目および3 例目となるジエラン型セスキテルペノイドであった 索引用語 :Melicope triphylla Melicope denhamii フラノクマリン ビスキノリノンアルカロイド セスキテルペン Chemical Constituents of Melicope Species (Rutaceae) Ken-ichi NAKASHIMA a), Masayoshi OYAMA b) *, Munekazu IINUMA b) Abstract: Melicope (Rutaceae) consists of approximately 230 species and ranges from the Malagacy region east to the Pacific basin and south to New Zealand. A huge variety of secondary metabolites were isolated from the plants of Melicope genus, acetophenones, quinolinone- and furoquinoline-alkaloids, coumarins, and polymethoxyflavonoids. In the current study, two species of M. triphylla (LAM.) MERR. and M. denhamii (SEEM.) T. G. HARTLEY were investigated to obtain four new furanocoumarins melicotriphyllins A D, eight novel alkaloids melicodenines A H, three new phenylpropanoids melicodins A C, and five new sesquiterpenes melicodenones A E. These structures were established by spectroscopic analyses, including extensive 1D and 2D NMR experiments. Melicotriphyllins A D were linear-types of furanocoumarins bearing a hydroxyl or a hydroperoxy group on the geranyloxy side chain. Melicodenine A was a bisquinolinone alkaloid comprised of two N-methylflindersine, while melicodenines B H were composed of single molecular N-methylflindersine with acetophenones or furanocoumarin or phenylpropanoids. These novel quinolinone alkaloids were presumed to form through the Diels-Alder or [2+2] cycloaddition. Furthermore, melicodenones A and B were the first bicyclic zierane-type sesquiterpenes obtained from plant resources by the isolation of zierane. Key phrases: Melicope triphylla, Melicope denhamii, furanocoumarin, bisquinolinone alkaloid, sesquiterpene a) 愛知学院大学薬学部薬用資源学講座 ( 名古屋市千種区楠元町 1-100) Laboratory of Medicinal Resources, School of Pharmacy, Aichi Gakuin University (1-100 Kusumoto-cho, Chikusa-ku, Nagoya , JAPAN) b) 岐阜薬科大学機能分子学大講座生薬学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Pharmacognosy, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN)

41 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 38-47(2013) 緒言ミカン科植物 (Rutaceae) は 熱帯から温帯にかけて 155 属 1600 余種が分布しており 1) 果実が食用となるミカン属 (Citrus) カラタチ属 (Poncirus) 等の柑橘類や 香辛料として使用されるサンショウ属 (Zanthoxylum) などが一般に知られている さらに 薬用としても古来より重用されており キハダ (Phellodendron amurense) ヘンルーダ (Ruta graveolens) など数多くの薬用植物が本科に属している ミカン科植物の二次代謝産物については多くの研究が行われており アルカロイド フラボノイド クマリン等様々な成分が知られている 2) また アルカロイドに関しては アクリドンアルカロイド カルバゾールアルカロイド キノリンアルカロイドなど様々な骨格を有する化合物が報告されている 当研究室ではこれまでに メキシコ原産のミカン科植物ホップノキ (Ptelea trifoliata) から HIF-1 転写阻害活性を有するキノリノンアルカロイドを単離し報告している 3) また アクリドンアルカロイドには幅広い抗がん活性スペクトルが報告されており 創薬に向けての研究が盛んに行われている 4) 古川らは いずれもミカ ン科であるミカン属およびハナシンボウギ属 (Glycosmis) の植物からアクリドンアルカロイド二量体およびアクリドン クマリン二量体を 5-7) ゲッキツ属(Murraya) およびワンピ属 (Clausena) からカルバゾールアルカロイド二量体を多数単離し 8), 9) ヒト前骨髄性白血病由来細胞株 HL-60 に対するアポトーシス誘導活性を見出している 10-12) さらに大山らはオオバゲッケイ属(Acronychia) よりアセトフェノン二量体を単離し その抗がん活性を明らかとしている 13) 以上のようにミカン科植物には アルカロイドを中心とした多様な二量体化合物に抗がん活性物質の報告例が多数ある このような背景から DNA 塩基配列情報に基づいた分子系統学的分類によって オオバゲッケイ属と近縁に分類されているアワダン (Melicope) 属に着目し研究を行った 14) 本属植物は マダガスカル インド ヒマラヤ太平洋地域 オセアニア ハワイ諸島などに約 230 種が分布している 15) これまでに報告されている本属植物の主な単離成分について Chart 1 にまとめた 本属植物の主要成分の1 つであるアルカロイドは他のミカン科植物でも多く報告されているキノリン系アルカロイドが中心であるが M. pteleifolia からは 3 種の二量体が報告されている 16) また Chart 1. An epitome of the constituents isolated from Melicope species

42 40 中島健一ら : ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 Chart 2. Structures of the compounds isolated from the fruits of Melicope triphylla 本属植物に特徴付けられる成分として ポリメトキシフラ ボノイドおよびプレニルアセトフェノンが挙げられる ポ リメトキシフラボノイドはミカン科植物から多く単離報 告があるが 本属から単離されているメチレンジオキシ基 およびプレニルオキシ基等を有する化合物は 他のミカン 科植物では報告例が尐ない また プレニルアセトフェノ 13), 31), ンはオオバゲッケイ属 32) 33), Acradenia 属 34) Boronia 属など 35), 36) 一部のミカン科植物のみに限局している化 合物群であり植物化学分類学の観点においても注目され ている さらに フラノクマリン テルペノイド等の単離 報告もあり 本属植物に含有される化合物の骨格は非常に 多岐に及ぶ このようにアワダン属植物の多様かつ特徴的 な二次代謝産物は 成分研究の対象として非常に興味深い そこで本研究では 国内で入手可能なアワダン ( M. triphylla) の果実と地下部および成分未詳であるインドネ シア産 M. denhamii の葉部と地下部について成分精査を行 い 単離成分の構造について考察を行った 2. アワダン (M. triphylla) 果実および地下部の研究 アワダン (M. triphylla) は 国内に自生する数尐ない本 属植物の 1 種であり 琉球諸島 台湾 東南アジアに分布 している 比嘉らはアワダンの葉部から多数のフラボノイ ドを単離し その魚毒活性を明らかとしている 37-39) また 葉部のほか樹皮および地下部から単離した数種のフラボ ノイドに関して抗血小板凝集作用 血管拡張作用 細胞毒 性などが検討されている 40-42) これらフラボノイドは 高 度に酸化され A 環あるいは B 環にメチレンジオキシ基が 置換した構造を有している点が他属植物から単離されているポリメトキシフラボノイドと大きく異なっている 本研究では 果実および地下部の成分に関して研究を行った 本植物果実の成分研究は本研究が初例である エキスは 乾燥試料をクロロホルム メタノール (1 : 1) 混合溶媒により抽出後 減圧下濃縮することで調製した 得られたエキスは シリカゲルカラムクロマトグラフィーやゲルろ過カラムクロマトグラフィー 分取 HPLC などを駆使することで分離精製を行った その結果 果実から計 18 種 (Chart 2) 地下部から計 6 種 (Chart 3) の化合物を単離した 2-1. アワダンの果実より単離した新規ゲラニルオキシ化フラノクマリンの構造ゲラニルオキシ化フラノクマリン melicotriphyllin A D は いずれも新規化合物であり 1 H-および 13 C-NMR スペクトルに併せて heteronuclear multiple bond connectivity spectroscopy (HMBC) double quantum filtered correlation spectroscopy ( DQF-COSY ) および nuclear Overhauser enhancement and exchange spectroscopy(noesy) スペクトル等の 2D-NMR スペクトルを解析した結果 (Fig. 1) 5 位にメトキシ基 8 位にゲラニルオキシ側鎖を有するリニア型フラノクマリン誘導体であることが判明した さらに melicotriphyllin A および B はいずれもゲラニルオキシ側鎖の 8 位 (8 位 ) に酸素官能基を有しており 両化合物の構造は非常によく似ていることが示唆された しかし 13 C-NMR における 8 位の炭素原子のケミカルシフト値が melicotriphyllin A においては 70.4 ppm であるのに対し

43 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 38-47(2013) 41 Fig. 1. Selected 2D NMR correlations observed in melicotriphyllins A D melicotriphyllin B では 82.0 ppm と明らかな差異が認められた さらに HR-ESIMS の結果 melicotriphyllin A に比較し B は 酸素原子が1 原子多い分子式を有することが判明した 従って melicotriphyllin A の 8 位には水酸基 melicotriphyllin B においてはヒドロペルオキシ基が置換した構造であると決定した また melicotriphyllin C および D は それぞれ melicotriphyllin A および B の構造異性体であり いずれもゲラニルオキシ側鎖 7 位 (7 位 ) に酸素官能基を有していた また 7 位は melicotriphyllin A および B と同様に 水酸基あるいはヒドロペルオキシ基がそれぞれ置換していると決定した Melicotriphyllin B および D について トリフェニルホスフィンによりヒドロペルオキシ基の水酸基への還元反応を行った その結果 それぞれ melicotriphyllin A および C へと構造が変換されたため ヒドロペルオキシの存在が確認され 決定した構造の妥当性が証明できた また これら 4 種のフラノクマリンは すべて光学不活性であるため いずれもラセミ体であることが示唆された これら新規フ ラノクマリンは 既知化合物である 8-geranyloxy-5- methoxy-psoralen の酸化代謝産物であった Phellopterin (8-prenyloxy- 5-methoxypsoralen) はセリ科やミカン科植物で多見される成分であるが 8-geranyloxy-5-methoxypsoralen の天然における報告は比較的尐ない また melicotriphyllin B や D のようにヒドロペルオキシ基を有するゲラニルオキシ化クマリンの存在は Phebalium 属やワンピ属など数種のミカン科植物に限られる 43), 44) 2-2. アワダンにおける部位間の成分差異本研究では 従来 葉部から報告されている多種のポリメトキシフラボノイドが果実にも含有されていることを明らかとした 当該成分は 地下部にも同様に含まれており アワダンの各部位に普遍的に含まれる成分であると推察される 翻って 地下部に特徴的な成分として セスキテルペンラクトン melicophyllone B を単離した セスキテルペンラクトンは 地下部以外からは報告されておらず 部位特異性があると考えられる また 葉部と果実の成分について TLC による比較を行ったところ methyl p- geranyloxy-trans-cinnamate の含有率は葉部に比べ果実の方が明らかに高いことが判明した 3.M. denhamii 葉部および地下部の研究 3 1.M. denhamii 葉部の成分 M. denhamii は ボルネオ島からソロモン諸島にかけて分布しており その葉部は現地で皮膚疾患の治療に用いられる これまでに 本植物の成分に関する研究例はなく その成分は未詳である 我々は インドネシアボゴール植物園にて採集した本植物の葉部 (490 g) についてクロロホルム メタノール (1: 1) 混合溶媒により抽出後 減圧下濃縮することで 各部位のエキス (78.3 g) を調製した 得られたエキスに関し シリカゲルカラムクロマトグラフィーやゲルろ過カラムクロマトグラフィー 分取 HPLC など各種分離操作を行った結果 8 種の新規キノリノンアルカロイド melicodenine A H 2 種の新規フェニルプロパノイド melicodin Aおよび B 新規クマリノリグノイド melicodin C を含む計 17 種の化合物を単離した 本研究で 新たに単離したキノリノンアルカロイドは 全て N-methylflindersine を構成単位としており 環化付加反応型の重合様式を有していた 以下 M. denhamii の葉部より単離した新規化合物の構造および予想生合成経路について詳述する Chart 3. Structures of the compounds isolated from the roots of Melicope triphylla

44 42 中島健一ら : ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 Chart 4. Structures of the compounds isolated from the leaves of Melicope denhamii Diels Alder 型の重合様式を有する新規キノリノンアルカロイド melicodenine A および B Melicodenine A は光学不活性な黄色不定形固体として得られ HR-ESIMS より その分子式を C 30 H 30 N 2 O 4 であると推察した 1 H-NMR スペクトルの結果 4 つのメチル基および 2 つの N-メチル基に帰属されるシグナルが全てシングレットとして観察された さらに DQF-COSY を併せて解析した結果 2 組のオルト置換型ベンゼンおよび順に結合した 4 つのメチン基の存在が示唆された また 13 C- NMR は 2 個のカルボニル基由来のシグナルを与えた HMBC スペクトルにおいて 2 つの N-メチル基は それぞれ異なるカルボニル炭素および 4 級炭素と相関を示したことから 本化合物は 2 組の 1-methylquinolin-2-one 骨格を有すると考えられた また Me 2-2(2 )/C-3(3 ) H-3(3')/C-4a(4 a) H-4(4 )/C-2(2 ) に観察された HMBC 相関より 置換基としてイソプレン単位が示唆され さらに H-4(4 )/C-5(5 ) およ Fig. 2. Selected 2D NMR correlations of melicodenine A び H-4(4 )/C-10b(10 b) の相関より その置換位置は 4a(4 a) 位であると判明した 推定分子式から算出される不飽和度を考慮した結果 イソプレン単位はいずれも 2,2-dimethylpyran 環を形成していると考えられ 2 分子の N-methylflindersine 由来の骨格を推測した さらに DQF-COSY スペクトルにより判明した 3 位および 3' 位間の結合に加え H-4 /C-4a および H-4 /C-10a の HMBC 相関により 10b 位と 4' 位との結合が明らかとなった 従って melicodenine A の平面構造を Fig. 2 のように決定した この構造は ESIMS スペクトルにおいて retro Diels-Alder 反応に起因するフラグメントイオンピークが N-methylflindersine の [M+H] + に相当する m/z 242 に観測されたことからも支持された また NOESY スペクトルの結果 H-10/H-4 H-4 /Me-2 2 ) および H-4 /Me-2 2 ) に相関が観測されたことから melicodenine A の相対立体配置を Fig. 2 のように決定した なお CD スペクトルにおいてコットン効果が観測されず 非旋光性の化合物であった点からラセミ体であると推察した 以上のように melicodenine A はビスキノリノンアルカロイドであり 2 分子の N-methylflindersine が重合した構造を有していた ビスキノリノンアルカロイドの報告は 一部のミカン科植物に限局しており アワダン属植物においては 台湾などに生育する M. pteleifolia から単離されている melicobisquinolinone A および B が これまでの唯一の報告例であり 16) melicodenine A が 3 例目となる Chart 5 に示 すように ビスキノリノンアルカロイドの重合様式として

45 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 38-47(2013) 43 Chart 5. Types of dimerization in the molecules of dimeric quinolinone alkaloids (Bessonova らの一部改変 51) ) は 5 種の類型が見出されている しかし melicodenine A の構造は いずれにも属さず 新規な重合様式によるものであった また その生合成経路として Diels-Alder 環化付加重合によるものが推察された (Fig. 3) また 各種スペクトルデータ解析の結果 melicodenine B も同様の Diels-Alder 環化付加型の重合様式を有する化合物であると決定した 本化合物は N-methylflindersine とアセトフェノン誘導体 evodionol methyl ether のヘテロ二量体で あり N-methylflindersine がジエン evodionol methyl ether がジエノファィルとして構成単位となった構造を有していた ミカン科植物において アセトフェノン誘導体は アワダン属のほか オオバゲッケイ属 アクラデニア属 ボロニア属など 尐数のグループで存在しているが melicodenine B のようにキノリノンアルカロイドと二量化した例は本例が初めてである [2 + 2] 環化付加型の重合様式を有する新規キノリノンアルカロイド melicodenine C G の構造 Melicodenine C は光学不活性な黄色不定形固体として得 Fig. 3. Plausible biosyntheses of melicodenines A and B られた HR-ESIMS スペクトルの結果 分子式を C 26 H 27 NO 5 と予想した 本化合物の 1 H-NMR スペクトルにおいて 1 組のオルト置換型ベンゼン環 N-メチル基 2 個のメチル基 4 個のメチン基 および 1 個のオキシメチレン基に由来するシグナルが観測された さらに DQF-COSY スペクトルの解析を行った結果 オキシメチレン基は 4 つのメチン基で構成されるシクロブタン環に置換していることが明らかになった また HMBC スペクトルにおける

46 44 中島健一ら : ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 H-4/C-5 H-4/C-10b Me-6/C-5 Me-6/C-6a H-10/C-10b の相関から 1-methylquinolin-2-one 骨格の存在が示唆され さらに H-4/C-2 Me 2-2/C-3 の相関が観察されたことから本化合物も N-methylflindersine 由来の部分構造を有すると考えた 残るプロトンシグナルは, カテコール型の酸化様式を有するベンゼン環 メチレンジオキシ基 およびメトキシ基に帰属された メチレンジオキシ基のプロトンシグナルは C-4 および C-3 の 4 級炭素と相関を示したため 3,4-methylenedioxyphenyl 基の存在が示唆された さらに H-2 /C-7, H-6 C-7 および MeO-9 /C-9 に観測された HMBC 相関より 3,4-methylenedioxyphenyl 基は 7 位に メトキシ基は 9 位に それぞれ置換していると判明した 以上より melicodenine C の平面構造を Fig. 4 のように決定した また 差 NOE スペクトルにおける H-3/H-4 H-3/H 2-9 H-4/H-7 H-8 /H-2 H-8 /H-6 に観測された NOE より 本化合物は Fig. 4 に示す相対立体配置を有することが明らかとなった 本化合物は N-methylflindersine と 3,4-methylenedioxycinnamyl alcohol methyl ether を構成単位とし [2+2] 環化付加型に重合した構造を有しており その生合成は Fig. 5 に示す経路によるものと推察された さらに melicodenine D および E の各種スペクトルデータを解析した結果 いずれも melicodenine C の類縁体であると判明した それぞれ 構成単位となるフェニルプロパノイドが異なり melicodenine D と E は それぞれ 3,4-dimethoxycinnamyl alcohol methyl ether および melicodin A から成る化合物であった なお melicodin A は 我々の研究により本植物から単離した新規化合物である Melicodenine C E は キノリノンアルカロイドとフェニルプロパノイドが二量化した初めての例である また melicodenine F および G に関しても 同様に [2+2] 環化付加型に二量化した化合物であり いずれも N-methylflindersine とフラノクマリン bergapten を構成単位としていた しかし Fig. 6 に示すように 両ユニット間の結合の形成位置が異なっており melicodenine F は N-methylflindersine の C(3)=C(4) により二量化する経路が予想されるのに対し melicodenine G では C(4a)=C(10b) の 結合により二量化していた キノリノンアルカロイドとク マリンの重合体はサルカケミカン (Toddalia asiatica) から 報告されている toddacoumalone のみであり 52) 本例のよう な [2+2] 環化付加体は初めてである Fig. 4. Fig. 5. Selected 2D NMR correlations of melicodenine C. Plausible biosyntheses of melicodenines C E 新規キノリノンアルカロイド melicodenine H の 構造とその生合成経路の考察 Melicodenine H は 高分解能 ESIMS スペクトルにより分 子式を C 24 H 23 NO 5 と推測した 各種 1D- および 2D-NMR ス ペクトルの結果 本化合物も 1-methylquinolin-2-one 骨格を 有すると考えられた 残るプロトンシグナルはいずれもシ ングレットとして観測された 2 個の芳香族メチン基 1 個 のメチレンジオキシ基 2 個のメトキシ基に帰属されるシ グナルを与えた これらプロトンシグナルは HMBC スペク トルにおいて H-6 /C-2 H-6 /C-4 H-6 /C-7 H-3 /C-5 H-7 /C-2 H-7 /C-6 H-8 /C-1 MeO-2 /C-2 OCH 2 O/C-4 Fig. 6. Plausible biosyntheses of melicodenines F and G

47 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 38-47(2013) 45 melicodenine H に関しても N-methyl- flindersine と melicodin A を構成単位とした 同様の経路が予測可能である (Fig. 8) 3-2.M. denhamii 地下部の成分 Fig. 7. Selected 2D NMR correlations of melicodenine H OCH 2 O/C-5 の相関を示したため C-7 の置換基として 2-methoxy-4,5-methylenedioxyphenyl 基が考えられた さらに H-7/C-2 H-7/C-2b H-8/C-2a に観察された相関により C-2a と C-7 の結合が H-7 /C-2a および H-8 /C-2b の相関により C-7 と C-2b の結合がそれぞれ説明された さらに NOESY スペクトルにおいて H-7 /H-10 および H-7 /H 2-9 に観測された NOE により 本化合物の構造を Fig. 7 のように決定した Melicodenine H は キノリノンアルカロイドと melicodin A の二量体であると考えられたが 本研究において単離した他の二量体とは異なる結合様式を有していた その生合成経路を予測するにあたり 本植物から単離したビスキノリノンアルカロイド melicobisquinolinone B が melicodenine H のキノリノンユニットと同様の骨格を有している点に着目した Melicobisquinolinone B は M. pteleifolia からの単離報告がある既知化合物であるが 過去の研究では生合成経路について言及されていなかった しかし 我々が単離した Diels-Alder 型のビスキノリノンアルカロイドである melicodenine A の構造を考慮すると melicodenine A の retro Diels Alder 反応による脱アセトン化により melicobisquinolinone B が生合成される経路が予測された (Fig. 8) この経路は melicodenine A の ESIMS スペクトルにおいて m/z 425 に観測された [M+H + Me 2 CO] に相当するフラグメントイオンピークが観測されたことからも支持された 従って セスキテルペノイドは 植物成分として広く分布する 2 次代謝産物であるが ミカン科植物から単離された例は極めて尐ない アワダン属植物においても 前述のアワダンの地下部から単離されたセスキテルペンラクトン melicophyllone A C および M. elleryana から単離された zierone の 4 種のみが過去に報告されているのみであったが 17), 24), 53) 我々は M. denhamii の地下部から 5 種の新規セスキテルペノイド melicodenone A E を単離し 構造を決定した (Chart 6) 新規ジエラン (zierane) 型セスキテルペノイド melicodenone A および B Melicodenone A および B は いずれもジエラン型セスキテルペノイド zierone の類縁化合物であり zierone の 3 位が酸化された構造を有していた Zierone は ミカン科植物 Zieria macrophylla の精油成分から単離された成分であり 54) 前記のように M. elleryana からの単離報告があるが 天然では稀有な成分である これまで zierone に関して種々の化学的な誘導体化が行われているが 55) 天然物としてジエラン骨格を有する化合物はアワダンと 2 種のコケ植物 (Chandonanthus hirtellus 56) Saccogyna viticulosa 57) ) のみでしか見出されていない さらに この 3 種から単離されている化合物は全て 3 環性のセスキテルペンラクトンであり 我々の知る限りでは melicodenone A および B は zierone の単離から約半世紀ぶりに見出された高等植物から 2 例目および 3 例目の二環性ジエラン型セスキテルペンであった Fig. 8. Plausible biosyntheses of melicodenine H and melicobisquinolinone B

48 46 中島健一ら : ミカン科アワダン属植物の成分に関する研究 我々の報告した二量体型キノリノンアルカロイドの全合成を目指した研究が 立て続けに行われている 59), 60) 今後 これらの化合物が医療や健康増進など何らかの形で有効に利用されることを期待する 5. 謝辞 Chart 6. Structures of the compounds isolated from the roots of Melicope denhamii 新規グアイアン (guaiane) 型セスキテルペノイ ド melicodenone C E Melicodenone C E は いずれもグアイアン型セスキテ ルペノイドであった 従来 グアイアン型セスキテルペノ イドは キク科やショウガ科の植物を中心に非常に多様性 に富んだ化合物が単離されている しかし melicodenone C E は 過去に報告されているものと異なり いずれも 6 位がカルボニル基である点が特徴的であった Barton および Gupta は 不規則型セスキテルペンである ジエラン骨格の生合成経路を グアイアン骨格の 1, 2- 転移 あるいはアロマデンドラン骨格のジメチルシクロプロパ ン環の開裂のいずれかの経路によるものと予測している 58) 我々の研究結果から ジエラン型とグアイアン型のセ スキテルペノイドが共存していることが判明したことか ら 前者の 1, 2- 転移による生合成経路が有力であると推察 した 4. 結論 我々の研究の結果 アワダン属植物から新たに 20 種の 新規化合物を単離し その構造を明らかとした Melicodenine A H のように 環化付加重合により二量化 した化合物は 天然において非常に珍しい アワダン属植 物に含有される成分の多様性を考慮すると 二量体の構成 単位となりうる化合物は非常に多く 今後も さらに多様 かつ新規性の高い成分の単離が望める 過去に例のない新規構造あるいは新規骨格を有する化 合物は 研究素材の資源としての価値を高めるのみでなく 生物活性試験に供給することで 有望なリード化合物と成 る可能性が期待される 昨年来 複数のグループにより 本研究の実施にあたり 種々の貴重な御助言を賜りま した岐阜薬科大学専門教育大講座薬用資源学研究室田中 稔幸教授に厚くお礼申し上げます また 植物資源を採 集 鑑定 供給頂いた東京大学大学院理学系研究科附属 植物園邑田仁教授 摂南大学薬学部生薬学研究室邑田裕 子先生 インドネシア科学院 Dedy Darnaedi 博士 並びに インドネシアボゴール植物園 Joko Ridho Witono 博士に深 甚なる謝意を表します 最後に実験遂行にあたり ご指 導を賜りました岐阜薬科大学機能分子学大講座生薬学研 究室伊藤哲朗助教に感謝致します 6. 引用文献 1) Chase M. W., Morton C. M., Kallunki J. A., Am. J. Bot., 86, (1999). 2) Watermann P. G., Grundon M. F., Chemistry and chemical taxonomy of the Rutales, Academic Press: London, ) Takechi K., Abe N., Nakashima K., Ito T., Oyama M., Iinuma M., Nagasawa H., Okubo S., Yamaura T., In the Abstract papers for the 57th Annual Meeting of the Japanese Society of Pharmacognosy, Tokushima, September 2010, p ) Svoboda G. H., Lloydia, 29, (1966). 5) Negi N., Jinguji Y., Ushijima K., Ikeda S., Takemura Y., Ju-ichi M., Wu T.-S., Ito C., Furukawa H., Chem. Pharm. Bull., 52, (2004). 6) Takemura Y., Ju-ichi M., Hashimoto T., Kan Y., Takaoka S., Asakawa Y., Omura M., Ito C., Furukawa H., Chem. Pharm. Bull., 42, (1994). 7) Takemura Y., Kuwahara J., Ju-ichi M, Omura M., Ito C., Furukawa H., Heterocycles, 45, (1997). 8) McPhail A. T., Wu T.-S., Ohta T., Furukawa H., Tetrahedron Lett., 24, (1983). 9) Ito C., Thoyama M., Kajiura I., Furukawa H., Chem. Pharm. Bull., 41, (1993). 10) Kawaii S., Tomono Y., Katase E., Ogawa K., Yano M., Takemura Y., Ju-ichi M., Ito C., Furukawa H., Leukemia Research, 23, (1999). 11) Kawaii S., Tomono Y., Katase E., Ogawa K., Yano M., Takemura Y., Ju-ichi M., Ito C., Furukawa H., J. Nat. Prod., 62, (1999). 12) Ito C., Itoigawa M., Nakao K., Murata T., Tsuboi M., Kaneda N., Furukawa H., Phytomedicine, 13, (2006). 13) Oyama M., Bastow K. F., Tachibana Y., Shirataki Y.,

49 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, 38-47(2013) 47 Yamaguchi S., Cragg G. M., Wu T.-S., Lee K.-H., Chin. Pharm. J., 55, (2003). 14) Groppo M., Pirani J. R., Sarantino M. L. F., Blanco S. R., Kallunki J. A., Am. J. Bot., 95, (2008). 15) Hartley T. G., Allertonia, 8, (2001). 16) Kamperdick C., Van N. H., Sung T. V., Adam G., Phytochemistry, 50, (1999). 17) Jong T.-T., Wu T.-S., J. Chem. Res., Synop., 237 (1989). 18) Muyard F., Bissoue A. N., Bevalot F., Tillequin F., Cabalion P., Vaquette J., Phytochemistry, 42, (1996). 19) Chen J.-J., Chang Y.-L., Teng C.-C., Chen I.-S., Planta. Med., 68, (2002). 20) Fauvel M. T., Gleye J., Moulis C., Blasco F., Stanislas E., Phytochemistry, 20, (1981). 21) Chung L. Y., Yap K. F., Goh S. H., Mustafa M. R., Imiyabir Z., Phytochemistry, 69, (2008). 22) Latip J., Hartley T. G., Waterman P. G. Phytochemistry, 51, (1999). 23) Wang E., Bartley J. P., Smith G., Bott R. C., Aust. J. Chem., 54, (2001). 24) Wu T.-S., Jong T.-T., Ju W.-M., McPhail A. T., McPhail D. R., Lee K.-H., J. Chem. Soc., Chem. Commun., (1988). 25) Kumar V., Karunaratne V., Sanath M. R., Meegalle K., Macleod J. K., Phytochemistry, 29, (1990). 26) Chou C.-J., Lin L.-C., Chen K.-T., Chen C.-F. J. Nat. Prod., 55, (1992). 27) Briggs L. H., Locker R. H., J. Chem. Soc., (1950). 28) Kirby K. D., Sutherland M. D., Aust. J. Chem., 9, (1956). 29) Goh S. H., Chung V. C., Sha C. K., Mak T. C. W. Phytochemistry, 29, (1990). 30) Li G. L., Zeng J. F., Zhu D. Y., Acta Pharm. Sin., 32, (1997). 31) Wu T.-S., Wang M.-L., Jong T.-T., Lee K.-H., J. Nat. Prod., 52, (1989). 32) Su C.-R., Kuo P.-C., Wang M.-L., Liou M.-J., Damu A. G., Wu T.-S., J. Nat. Prod., 66, (2003). 33) Baldwin M. E., Bick R. C., Komzak A. A., Price J. R., Tetrahedron, 16, (1961). 34) Quader A., Armstrong J. A., Gray A. I., Hartley T. G., Waterman P. G., Biochem. Syst. Ecol., 19, (1991). 35) Ahsan M., Armstrong J. A., Gibbons S., Gray A. I., Waterman P. G., Phytochemistry, 37, (1994). 36) Ahsan M., Gray A. I., Waterman P. G., J. Nat. Prod., 57, (1994). 37) Higa M., Miyagi Y., Yogi S., Hokama K., Yakugaku Zasshi, 107, (1987). 38) Higa M., Ohshiro T., Ogihara K., Yogi S., Yakugaku Zasshi, 110, (1990). 39) Higa M., Imamura M., Shimoji K., Ogihara K., Suzuka T., Chem. Pharm. Bull.,60, (2012). 40) Jong T.-T., Wu T.-S., Phytochemistry, 28, (1989). 41) Su T.-L., Lin F.-W., Teng C.-M., Chen K.-T., Wu T.-S., Phytother. Res., 12, S74 S76 (1998). 42) Hou R.-S., Duh C.-Y., Wang S.-K., Chang T.-T., Phytochemistry, 35, (1994). 43) Rashid M. A., Gray A. I., and Watermann P. G., J. Nat. Prod., 55, (1992). 44) Ito C., Katsuno S., and Furukawa H., Chem. Pharm. Bull., 46, (1998). 45) Reisch J., Mester I., Körösi J., Szendrei K., Tetrahedron Lett., 39, (1978). 46) Mester I., Reish J., Szendrei K., Körösi J., Liebigs Ann. Chem., 11, (1979). 47) Jurd L., Wong R. Y., Benson M., Aust. J. Chem., 35, (1982). 48) Ngadjui T. B., Ayafor J. F., Sondengam B. L., Connolly J. D., Rycroft D. S., Khalid S. A., Waterman P. G., Brown N. M. D., Grundon M. F., Ramachandran V. N., Tetrahedron Lett., 23, (1982). 49) Jurd L., Benson M., Wong R. Y., Aust. J. Chem., 36, (1983). 50) Tashkhodzhaev B., Lindeman S. V., Bessonova I. A., Razakova D. M., Tsapkina E. N., Struchkov Y. T., Chem. Nat. Comp., 24, (1988). 51) Bessonova I. A., Yunusov S. Y., Chem. Nat. Comp., 25, 1 13 (1989). 52) Ishii H., Kobayashi J., Ishikawa T., Tetrahedron Lett., 32, (1991). 53) Sutherland M. D., Aust. J. Chem., 12, (1959). 54) Penfold A. R., J. Proc. Roy. soc. N. S. Wales, 60, 104 (1926) 55) Takeshita H., Hirama M., Ito S., Tetrahedron Lett., 13, (1972). 56) Komala I., Ito T., Nagashima F., Yagi Y., Kawahara M., Yamaguchi K., Asakawa Y., Phytochemistry, 71, (2010). 57) Connolly J. D., Harrison L. J., Rycroft D. S., J. Chem. Res. Synop., (1994). 58) Barton D. H. R., Gupta G. S., J. Chem. Soc., (1962). 59) Holla H., Jenkins I. D., Neve J. E., Pouwer R. H., Simon M. P., Teague S. J., Quinn R. J., Tetrahedron Lett., 53, (2012). 60) Li H., Tang Y., Hsung R. P., Tetrahedron Lett., 53, (2012). 7. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 130 号 ) の内容を 中心にまとめたものである

50 48 宮腰均 :5-FU との併用療法を目指すヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 総説 5-FU との併用療法を目指す ヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 宮腰均 a), b) 要約 : ヒトデオキシウリジントリホスファターゼ (dutpase) 阻害剤は 5-フルオロウラシルをベースとした化学療法との併用剤として現在の化学療法の治療効果を改善できる可能性がある 著者は dutpase 阻害剤の開発を目的にウラシル誘導体の SAR 研究を行った dutpase を強く阻害できる骨格として N-カルボニルピロリジンまたは N-スルホニルピロリジン構造を有するウラシル誘導体及び 1,2,3-トリアゾール構造を有するウラシル誘導体を見出した その中で 化合物 14c は非常に強いヒト dutpase 阻害活性 (IC 50 = M) 且つ良好な薬物動態プロファイルを有しており in vitro においては HeLa S3 細胞に対し 5-フルオロ-2 -デオキシウリジンの細胞増殖抑制効果 (EC 50 = 0.07 M) を また in vivo においては MX-1 細胞に対し 5-フルオロウラシルの抗腫瘍効果を劇的に増強した また著者は化合物 8a とヒト dutpase との共結晶構造解析を行い 新規 dutpase 阻害剤のウラシル環と末端ベンゼンがそれぞれウラシルポケットと疎水性ポケットと相互作用し 且つスタッキングし安定化することで dutpase を阻害していることを明らかにした これらのデータから 見出した化合物 14c は臨床においても 5-フルオロウラシルのようなチミジレートシンターゼ阻害剤の治療効果を劇的に改善することが期待される 索引用語 : デオキシウリジントリホスファターゼ 5- フルオロウラシル チミジレートシンターゼ阻害剤 Development of Human Deoxyuridine Triphosphatase Inhibitors for Combination Cancer Therapies with 5-FU Hitoshi MIYAKOSHIa), b) Abstract: Deoxyuridine triphosphatase (dutpase) has emerged as a potential target for drug development as part of a new strategy of 5-fluorouracil-based combination chemotherapy. We have initiated a project to develop potent drug-like dutpase inhibitors based on structure-activity relationship (SAR) studies of uracil derivatives. N-carbonylpyrrolidine- or N-sulfonylpyrrolidine-containing uracils and 1,2,3-triazole-containing uracils were found to be promising scaffolds that led us to human dutpase inhibitors (14c) having excellent potencies (IC 50 = M) and an improved pharmacokinetic profile. The X-ray structure of a complex of 8a and human dutpase revealed a unique binding mode wherein its uracil ring and phenyl ring occupy a uracil recognition region and a hydrophobic region, respectively, and are stacked on each other. Compound 14c dramatically enhanced the growth inhibition activity of 5-fluoro-2 -deoxyuridine against HeLa S3 cells in vitro (EC 50 = 0.07 M) and the antitumor activity of 5-fluorouracil against human breast cancer MX-1 xenograft model in mice significantly. These data indicate that 14c is a promising candidate for combination cancer chemotherapies with TS inhibitors. Key phrases: dutpase, 5-fluorouracil, TS inhibitor a) 岐阜薬科大学薬化学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Medicinal & Pharmaceutical Chemistry, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN) b) 現所属 : 大鵬薬品工業株式会社つくば研究センター化学研究所創薬化学研究室 ( 茨城県つくば市大久保 3 番地 ) Medicinal Chemistry, Chemistry Research Laboratory, Tsukuba Research Center, Taiho Pharmaceutical Co., Ltd. (3 Okubo, Tsukuba, Ibaraki , JAPAN)

51 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 緒言 Thymidylate synthase(ts) 阻害剤である 5-fluorouracil (5-FU) やその誘導体は現在もなお がん治療の一翼を担う化学療法の大きな柱の一つとして 消化器癌や乳癌を中心に広く使用されている しかしながら TS 阻害剤は臨床において抗腫瘍効果を発揮する一方で それに対する耐性を獲得する癌細胞が出現するためその有用性が限定的な場合がある この問題に対し TS 阻害剤の治療効果を最大化するために 耐性化メカニズムの研究が数多く行われている この一連の研究の中で Ladner らは TS 阻害剤の重要な効果規定因子として deoxyuridine triphosphatase (dutpase) を見出した 1) TS 阻害剤は癌細胞に取り込まれ 標的酵素を阻害することで細胞内の thymidine triphosphate(dttp) プールを減少させると同時に細胞内の deoxyuridine monophosphate (dump) プールを上昇させる その結果 細胞内では dump が更にリン酸化された deoxyuridine triphosphate (dutp) プールの上昇が起こる DNA を合成する DNA ポリメラーゼは本来の基質である dttp と dutp を区別できないため 2) dutp プールの上昇は必然的に dutp の DNA への取り込みを促し その結果強い DNA ダメージを引き起こす (Fig. 1) このメカニズムは TS 阻害剤が癌細胞を増殖抑制及び細胞死へ誘導するために重要である 3)-5) dutpase は特異的に dutp や 5-FU を TS 阻害剤として用いた場合に生じる 5-fluoro-2 -deoxyuridine triphosphate (FdUTP) のみを認識し加水分解することで (F)dUMP へ変換する酵素であり 6)-7) 癌細胞においてこの酵素の発現が高まれば 5-FU に対して耐性を示すようになる 8)-10) このことを裏付ける報告がいくつか存在し 1), 11)-13) dutpase をターゲットとした薬剤によって TS 阻害剤を用いた化学療法の効果を劇的に改善できる可能性があると考えられる 本総説では著者が行ったヒト dutpase 阻害剤の開発研究について詳述する なお本総説に記載され ている化合物の合成法に関しては引用文献して頂きたい Fig FU の癌細胞に対する作用と dutpase. 14)-15) を参考に 2. ヒト dutpase 阻害活性を有する N-カルボニルピロリジンまたは N-スルホニルピロリジン骨格を持つウラシル化合物の開発 dutpase 阻害剤探索の研究は幾つかのグループから報告されている (Fig. 2) 16)-25) しかし強い酵素阻害活性と同時に 臨床応用に耐えうる細胞膜透過性や生体における代謝安定性を併せ持つ阻害剤は存在しない Fig. 2. Structural formula of dutpase inhibitors. 著者は dutpase 阻害剤を創製するにあたり dutpase のウラシル環構造に対する高い基質特異性に注目した そこでウラシル環を有する誘導体ライブラリーを用意し そのヒト dutpase 阻害活性を測定した その結果 阻害活性は弱いものの hit 化合物として化合物 5 を見出した (Table 3) 化合物 5(IC 50 = 97 M) のアミン部位とウラシル環からアミド基までのリンカー部位の更なる structure-activity relationship(sar) 研究を行うべく 6a-w を合成し そのヒト dutpase 阻害活性を評価した (Table 3) Table 1 に示すアミド基を有するウラシル化合物の SAR 研究の結果 (1) ウラシル環からアミド基へのリンカーはトリメチレンリンカーが最適であること (2) アミン部位に関しては N-2,2-ジフェニルエチル基と 3 級アミド基を併せ持つことが強い阻害活性に必要であることが明らかになった この 2 点の性質を併せ持つ 6s(IC 50 = 1.3 M) や 6w (IC 50 = 1.1 M) はヒト dutpase に対して既知阻害剤よりも明らかに強い阻害活性を示し且つ lipophilicity (clogp: ) も良好であった 次に著者は 6s が有する嵩高いアルキルアミノ側鎖において dutpase の活性部位と相互作用する際のエントロピーロスを低減することができれば更なる阻害活性の向上が期待できると考え N-カルボニルピロリジン骨格を有するウラシル化合物を設計 合成し そのヒト dutpase 阻害活性を評価した (Table 2) 予想通りピロリジン環の導入によって 分子の rigidity が高められた N-カルボニルピロリジン骨格を有するウラシル化合物のヒト dutpase 阻害活性は更に増強された

52 50 宮腰均 :5-FU との併用療法を目指すヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 Table 1. Human dutpase inhibitory activity of amide-containing uracil derivative 5, 6a-w and reference compounds 1-4. Table 2. Human dutpase inhibitory activity of N-carbonylpyrrolidine-containing uracil derivatives 7a-l and 6s a Calculated by ACD/LogP algorithm. b IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3) c Except 7b, enzyme inhibition assay are tested at 1.0 M or below. Table 3. Human dutpase inhibitory activity of N-sulfonylpyrrolidine-containing uracil derivatives 8a-f and 6s a Calculated by ACD/LogP algorithm. b Except compounds 1a-b, 2-3 and 5, enzyme inhibition assay are tested at 30 M or below. IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3). c Reference data. N.T. = not tested また これらの誘導体は良好な lipophilicity を有していた (Table 2) Table 2 に示す SAR 研究では 7a(IC 50 = 0.29 M) に代表される S 体が eutomer(eudismic ratio = 34) であり 非常に強い阻害活性を有していること Thienyl 基を有する化合物 7j(IC 50 = 0.23 M) においても非常に強い阻害活性を有することが明らかになった 次に N-カルボニルピロリジン骨格の bioisostere である N-スルホニルピロリジン骨格についても検討した (Table 3) 興味深いことに N-カルボニルピロリジン誘導体とは異なり 8a(IC 50 = 0.32 M) に代表される R 体が eutomer であり N-カルボニルピロリジン骨格を持つ化合物同様に非常に強いヒト dutpase 阻害活性を有していることが明らかになった a Calculated by ACD/LogP algorithm. b IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3) c Except 8b, enzyme inhibition assay are tested at 1.0 M or below. 3. ヒト dutpase 阻害剤とヒト dutpase の共結晶 の X 線構造解析と考察 著者が見出した新規阻害剤はウラシル環を有している ものの キラルなジフェニルメチルピロリジルアミドまた はスルホニルアミド構造を有している点で天然基質であ

53 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 51 る dutp とは全く異なる構造を有している しかしながらこれらの化合物は非常に強いヒト dutpase 阻害活性を有し その IC 50 値から考察すると dutpase によって天然基質 dutp とほぼ同等に認識されると考えられる ( 酵素阻害アッセイにおいて dutp の濃度は 0.1 M) よって新規阻害剤の dutpase に対する作用メカニズムは非常に興味深い 著者は阻害作用メカニズムを明らかにするため 新規阻害剤とヒト dutpase との共結晶の X 線構造解析を試みた 幾つかの化合物について検討した結果 著者は強い阻害活性を有する 8a とヒト dutpase の共結晶取得とその X 線構造解析に成功し 高分解能 (1.7A ) の共結晶構造を得ることができた (Fig. 3) アミド基を有するウラシル化合物の SAR 研究において 3 級アミド基を持つ 6s(IC 50 = 1.3 M) が 2 級アミド基を持つ 6q(IC 50 = 16 M) に比べ約 12 倍もの強いヒト dutpase 阻害活性を持つことが明らかになった (Table 1) また 6s の NMR 実験から d 6 -DMSO 中 25 C においては二つの異性体の混合物であることが判明し ( Fig. 4, cis :trans = 2:3) 80 C においては平衡状態に達し 一つのピークに収束した Fig. 4. Conformational preference of amide compounds 6q (trans) and 6s (trans and cis) Fig. 3. Binding of 8a (blue stick) in the catalytic site of human dutpase. (A) Polar interactions. Distances [Å] are indicated. Waters are shown as small spheres. Red line depicted, -imino dutp 1b in the human dutpase:, -imino dutp 1b structure (PDB code: 2HQU) superimposed on the 8a: human dutpase (PDB code: 3ARA). (B) Comparison of 8a (blue stick) with, -imino dutp 1b (red stick) Fig. 3(A) にヒト dutpase と 8a の共結晶構造を示す また Fig. 3(B) にはヒト dutpase と, -imino dutp(1b) の共結晶構造 (PDB code: 2HQU) 26) 中の, -imino dutp (1b) の構造を重ね合わせ 比較した 興味深いことに基 質である dutp を模倣した dutp mimic 1b と 8a はそれぞ れのウラシル環が dutpase の同じウラシルポケットに認 識されるのみで 両化合物の dutpase 活性部位内での側 鎖の結合位置は大きく異なっていた つまり 8a のスル ホンアミド部位やジフェニルメタノール部位は dutpase のトリリン酸または糖部認識部位に位置しておらず 8a の末端フェニル基の一つが Val65 Ala90 Ala98 及び Val112 が形成する疎水ポケットに位置し 且つ自身のウラシル環 とスタッキングすることで安定化し dutpase を阻害して いることが明らかになった Val65 Ala90 Ala98 及び Val112 が形成する疎水ポケットは dutpase が酵素機能を 発揮する際に C 末端ループに存在する Phe158 のフェニル 基が相互作用する空間であり 8a はこの空間とうまく相 互作用することで強い阻害能を発揮していると言える 4. ヒト dutpase 阻害活性を有する 1,2,3- トリアゾー ル骨格を持つウラシル化合物の開発 著者は 6s の強いヒト dutpase 阻害活性はその cis 異性 体の寄与に起因していると予測し 6s のアミド基を cis 配 座に固定することで更なるヒト dutpase 阻害活性が見込 める可能性があると考えた そこでエチニル基を有する中 間体とアジド基を有する中間体から容易に合成できる 1,2,3- トリアゾール誘導体を設計した (Fig. 5) Fig. 5. Triazole-replacement strategy of compound 6s and molecular modification for the SAR study まず著者はアミド化合物である化合物 6s の 3 級アミド 基を 1,2,3- トリアゾール基へ変換し cis 配座に固定した化 合物 9a 及びその誘導体を合成し その dutpase 阻害活性 を評価した (Fig. 5 Table 4) 予測通り 1,2,3- トリアゾール誘導体である化合物 9a (IC 50 = 1.3 M) は 3 級アミド化合物である 6s(IC 50 = 1.3 M) と同等の強いヒト dutpase 阻害活性を有していた またテトラメチレンリンカーを有する 9b(IC 50 = 0.74 M) も強い酵素阻害活性を有していることが明らかになった 見出した 1,2,3- トリアゾール基を有する 9a-b は (1) 比 較的分子量が大きいことと (2) 効率良い誘導体合成が困 難であることからリード化合物としてはあまりふさわし くない 更に 前述の 8a と dutpase の共結晶構造から考 察するとジフェニル骨格が必ずしも阻害活性に必須では ないと考えられた 筆者は 9a-b の構造を基に その末端 ベンゼン環の一つを除いたモノフェニルエチル基を有す る誘導体を設計し そのヒト dutpase 阻害活性を評価し た (Table 5) 化合物 9a の末端ベンゼン環の一つを除いた

54 52 宮腰均 :5-FU との併用療法を目指すヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 化合物 11a のヒト dutpase 阻害活性は大きく減弱した (IC 50 = >10 M) しかしながらウラシル環とトリアゾー ル基をテトラメチレンリンカーで連結した化合物である 11b は 活性は減弱したもののその阻害活性はある程度維 持された (IC 50 = 3.5 M) 更に 11b の末端ベンゼン環で の置換基効果を探るべく 11c-g を合成 評価したところ 嵩高いシクロプロピルメトキシ基を末端ベンゼン環の 2 位及び 3 位に導入した誘導体 (11f-g) は強いヒト dutpase 阻害活性を有することが明らかになった (11f : IC 50 = 0.39 M, 11g : IC 50 = 0.21 M) Table 4. Human dutpase inhibitory activity of triazole-containing uracil derivative 9a-b, 10a-b and tert-amide containing uracil compound 6s. 次に著者は化合物 11g のヒト dutpase に対する阻害活性 を更に増強するため 11g のベンジル位にアルキル基を導 入した際の置換基効果について検討した (Table 6) 具体 的には 11g のベンジル位にメチル基またはエチル基を導 入したキラル化合物 (12a-d) を合成し その評価を行っ た その結果 R 体である 12a(IC 50 = M) 及び 12c (IC 50 = M) は非常に強いヒト dutpase 阻害活性を 示した 一方 S 体である 12b(IC 50 = 0.87 M) 及び 12d(IC 50 = 0.72 M) は 11g に比べその阻害活性は減弱した (eudismic ratio = 15 ~ 25) R 体が eutomer である理由は明らかではな いが S 体と比較して dutpase と効率的な疎水性相互作用 をすることができるためと考えられる Table 6. Human dutpase inhibitory activity of triazole-containing uracil derivatives 12a-d and 11g. a IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3) a Enzyme inhibition assay are tested at 10 M or below. IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3) Table 5. Human dutpase inhibitory activity of triazole-containing uracil derivatives 11a-g and 9a-b. 医薬品創製の過程では 標的に対する効果の増強のみが重要ではなく 薬物動態プロファイルの最適化も重要なステップの一つである 非常に強いヒト dutpase 阻害活性を有することが明らかになった 12c(IC 50 = M) について マウスでの薬物動態試験を行った (Fig.6) その結果化合物 12c の血中への吸収は良好であったものの 著しく代謝されていることが明らかになった a Enzyme inhibition assay are tested at 10 M or below. IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3) Fig. 6. The pharmacokinetic profile of 12c after oral administration dose at 50 mg/kg in Balb/cA mice (n=2, ). Compound 12c was administered as a solution (2.5% DMA, 2.5% Tween80, 10% Cremophor EL). Pharmacokinetic parameters of 12c are shown in Table 5. M-1~4 represent metabolites of 12c.

55 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 53 12c の代謝物の同定には至らなかったが 著者は 12c の 代謝不安定性はそのベンジル位の代謝に起因していると 推測した そこで 12c のベンジル位に立体選択的に水酸基 を導入した誘導体 13a(Table 7) を合成した 化合物 12c 同様 化合物 13a についてもマウスでの薬物動態試験を行 ったところ 著しく吸収性及び代謝安定性が向上している ことが判明し その AUC は化合物 12c の AUC に比べ 15 倍程度向上することが明らかになった (Fig. 7, Table 8) また 幸いにも化合物 13a のヒト dutpase に対する強い 阻害活性は維持された (IC 50 = 0.15 M Table 8) Table 7. Human dutpase inhibitory activity of triazole-containing uracil derivatives 13a-h. a Enzyme inhibition assay are tested at 1.0 M or below. IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3). Table 8. Pharmacokinetics parameters of 12c and 13a after oral administration dose at 50mg/kg in Balb/cA mice (n=2, ). Each compounds was administered as a solution (2.5% DMA, 2.5% Tween80, 10% Cremophor EL). 更に著者は化合物 13a の末端ベンゼン環 3 位のアルコキ シ基を最適化する目的で 化合物 13b-h を設計及び合成し そのヒト dutpase 阻害活性を評価した (Table 7) 評価し た化合物の内 シクロペンチロキシ基を有する 13b(IC 50 = 0.21 M) 及びシクロブチルメトキシ基を有する 13h(IC 50 = 0.15 M) は強い阻害活性を維持していたが 化合物 13a より明らかに良好な化合物は見出されなかった 次に著者は化合物 13a のヒト dutpase 阻害活性と薬物 動態プロファイルを最適化するために そのリンカー部位 ベンジル位の立体化学及び末端ベンゼン環の置換基を変 換した誘導体 (14a-d) を設計 合成し その阻害活性を 評価した (Table 9) この中で末端ベンゼン環 4 位にフッ 素原子を導入した化合物 14c(IC 50 = M) は非常に 強いヒト dutpase 阻害活性を示した また 14c は 13a 同 様マウスにおいて良好な薬物動態プロファイルを示した (Table 10) 一方 化合物 14c(eutomer) のエナンチオマ ーである 14d(distomer) は化合物 14c よりも阻害活性が 減弱した (IC 50 = 0.35 M eudismic ratio = 5.2) Table 9. Human dutpase inhibition activity of triazole-containing uracil derivatives 14a-d and 13a. Fig. 7. The pharmacokinetic profile of 13a after oral administration dose at 50mg/kg in Balb/cA mice (n=2, ). 13a was administered as a solution (2.5% DMA, 2.5% Tween80, 10% Cremophor EL). Pharmacokinetic parameters of 13a are shown in Table 5. M-1~3 represent metabolites of 13a. a Enzyme inhibition assay are tested at 1.0 M or below. IC 50 values are shown as the mean SE (n = 3). Table 10. Pharmacokinetics parameters of 14c after oral administration dose at 50mg/kg in Balb/cA mice (n=2, ). 14c was administered as a solution (2.5% DMA, 2.5% Tween80, 10% Cremophor EL).

56 54 宮腰均 :5-FU との併用療法を目指すヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 5. 新規 dutpase 阻害剤による FdUrd の in vitro 細胞増殖抑制効果の増強作用 (A) 著者はヒト子宮癌細胞 HeLa S3 を用い 見出した新規ヒト dutpase 阻害剤を 5-fluoro-2 -deoxyuridine(fdurd) と併用させることでその細胞増殖抑制増強効果の評価を検討した HeLa S3(24 hr) に対する 1 M FdUrd の細胞増殖抑制効果を 2 倍にするのに必要な新規 dutpase 阻害剤の濃度を EC 50 として表し 細胞増殖抑制増強作用の指標として用いた (Table 11) 抽出した 8 つの化合物の内いくつかは HeLa S3 に対して単独では弱い細胞増殖抑制効果を示した (EC 50 = >22 M) しかしながら 8 化合物はそれよりも極めて低濃度域で HeLa S3 に対する FdUrd の細胞増殖抑制効果を劇的に増強した (EC 50 = M) また この増強効果は化合物のヒト dutpase 阻害活性と非常に良く相関した このことから 8 化合物はそれぞれ HeLa S3 内の dutpase を阻害することで FdUrd の細胞増殖抑制効果を増強していることが強く示唆される (B) Table 11. The enhancing effect of dutpase inhibitors for growth inhibition activity of FdUrd against HeLa S3 cells in vitro. Fig. 8. (A) Efficacy of 14c for antitumor activity of 5-FU against breast cancer xenograft MX-1 in mice. Relative tumor volume (RTV) is expressed as mean SD of at least three independent experiments. (B) Body weight change (%) is expressed as mean SD. in vivo において化合物 14c は体重減少の上乗せなしに 5-FU の抗腫瘍効果を劇的に増強することが明らかになった 一方 in vitro において化合物 14c は弱いながらも細胞増殖抑制効果を示したが (Table 11, EC 50 = 22 M) この in vivo 試験においては単独で抗腫瘍効果を示さなかった a Cytotoxity of dutpase inhibitors against HeLa S3 cells (72 hr) b EC 50 value shows the concentration of each dutpase inhibitor that is essential to reduce T/C% (70-80%) value of FdUrd (1 M) against HeLa S3 cells (24 hr) to the half in vitro. EC 50 values are shown as the mean SE (n = 3). c IC 50 value shows dutpase inhibitory activity as the mean SE (n = 3). 6. 新規ヒト dutpase 阻害剤である化合物 14c に よる 5-FU の in vivo 抗腫瘍効果の増強作用 著者は非常に強いヒト dutpase 阻害活性と良好な薬物 動態プロファイルを有する化合物 14c について in vivo に おける乳癌細胞株 MX-1 xenograft マウス皮下移植モデル での 5-FU の抗腫瘍効果増強作用を検討した その結果 を Fig. 8 及び Table 12 に示す Table 12. in vivo enhancing efficacy of 14c for antitumor activity of 5-FU against breast cancer xenograft MX-1 in mice. a Tumor volume (TV) on Day 15 was calculated according to the following formula: TV (mm3) = (width) 2 (length)/2 b Relative tumor volume (RTV) on Day 15 was calculated as the ratio of TV on Day 15 to that on Day 0 according to the following formula: RTV = (TV on Day 15)/(TV on Day 0) c Inhibition rate (IR) of tumor growth on Day 15 on the basis of RTV was calculated according to the following formula: IR (%) = [1-(mean RTV of the treated group)/(mean RTV of the control group)] 100 **: p < 0.01 Dunnet test as compared with the control group. ##: p < 0.01 Student s t-test as compared with the 5-FU group.

57 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 結論 TS 阻害剤である 5-FU やその誘導体は がん治療の一翼 を担う化学療法の大きな柱の一つとして 消化器癌や乳癌 を中心に現在もなお広く使用されている ヒト dutpase 阻害剤は臨床における TS 阻害剤の効力を劇的に改善でき る可能性があるため 著者はその開発研究を行った ヒット化合物であるウラシル化合物誘導体 5(IC 50 = 97 M) をきっかけに 本研究ではアミド構造または 1,2,3- トリアゾール構造を有するウラシル化合物の SAR 研究に より ヒト dutpase 阻害活性が約 1500 倍増強され且つマ ウスにおける薬物動態プロファイルが良好な化合物 14c を見出すことに成功した 見出された新規ヒト dutpase 阻害剤は in vitro において TS 阻害剤である FdUrd の細胞 増殖抑制効果を また in vivo において 5-FU の抗腫瘍効果 を劇的に増強することが明らかになった 更に著者は化合物 8a とヒト dutpase との共結晶の獲得 とその解析に成功し ヒト dutpase の阻害様式を明らか にした 本研究で見出した化合物 14c は臨床においても TS 阻害 剤の効果を劇的に改善するポテンシャルを十分に有して いると考えられ 本剤と TS 阻害剤との併用により新たな 化学療法の治療体系を構築できる可能性があると信じて いる 11. 謝辞 本研究に関して種々の貴重な御助言を賜りました 岐阜薬科大学創薬化学大講座薬化学研究室 永澤秀 子教授並びに大鵬薬品工業株式会社 福岡正哲博士 に深甚なる謝意を表します また 本研究全般にわ たり多大なる御協力頂きました大鵬薬品工業株式会 社つくば研究センター各位に厚く御礼申し上げま す 12. 引用文献 1) Ladner R. D., Lynch F. J., Groshen S., Xiong Y. P., Sherrod A., Caradonna S. J., Stoehlmacher J., Lenz H. J., Cancer Res., 60, (2000). 2) Richardson C. C., Schildkraut C. L., Kornberg A., Cold Harbor Symp. Quant. Biol., 28, 9-19, (1963). 3) Longley D. B., Harkin D. P., Johnston P. G., Nat. Rev. Cancer, 3, (2003). 4) Curtin N. J., Harris A. L., Aherne G. W., Cancer Res., 51, (1991). 5) Webley S. D., Hardcastle A., Ladner R. D., Jackman, A. L., Aherne G. W., Br. J. Cancer, 83, (2000). 6) Mol C. D., Harris J. M., McIntosh E. M., Tainer J. A., Structure, 4, (1996). 7) Caradonna S. J., Cheng Y. C., Mol. Pharmacol., 18, (1980). 8) An Q., Robins P., Lindahl T., Barnes D. E., Cancer Res., 67, (2007). 9) Wilson P. M., Fazzone W., LaBonte M. J., Deng J., Neamati N., Ladner R. D., Mol. Cancer Ther., 7, (2008). 10) Ingraham H. A., Tseng B. Y., Goulian M., Mol. Pharmacol., 21, (1982). 11) Koehler S. E., Ladner R. D., Mol. Pharmacol., 66, (2004). 12) Takatori H., Yamashita T., Honda M., Nishino R., Arai K., Takamura H., Ohta T., Zen Y., Kaneko S., Liver Int., 30, (2009). 13) Kawahara A., Akagi Y., Hattori S., Mizobe T., Shirouzu K., Ono M., Yanagawa T., Kuwano M., Kage M., J. Clin. Pathol., 62, (2009). 14) Miyakoshi H., Miyahara S., Yokogawa T., Chong K. T., Taguchi J., Endoh K., Yano W., Wakasa T., Ueno H., Takao Y., Nomura M., Shuto S., Nagasawa H., Fukuoka M., J. Med. Chem., 55, (2012). 15) Miyakoshi H., Miyahara S., Yokogawa T., Endoh K., Muto T., Yano W., Wakasa T., Ueno H., Chong K. T., Taguchi J., Nomura M., Takao Y., Fujioka A., Hashimoto A., Itou K., Yamamura K., Shuto S., Nagasawa H., Fukuoka M., J. Med. Chem., 55, (2012). 16) Zalud P., Wachs W. O., Nyman P. O., Zeppezauer M. M., Adv. Exp. Med. Biol., 370, (1994). 17) Persson T., Larsson G., Nyman P. O., Bioorg. Med. Chem., 4, (1996). 18) Nguyen C., Kasinathan G., Leal-Cortijo I., Musso-Buendia A., Kaiser M., Brun R., Ruiz-Perez L. M., Johansson N. G., Gonzalez-Pacanowska D., Gilbert I. H., J. Med. Chem., 48, (2005). 19) Whittingham J. L., Leal I., Nguyen C., Kasinathan G., Bell E., Jones A. F., Berry C., Benito A., Turkenburg J. P., Dodson E. J., Ruiz Perez L. M., Wilkinson A. J., Johansson N. G., Brun R., Gilbert I. H., Gonzalez Pacanowska D., Wilson K. S., Structure, 13, (2005). 20) Nguyen C., Ruda G. F., Schipani A., Kasinathan G., Leal I., Musso-Buendia A., Kaiser M., Brun R., Ruiz-Perez L. M., Sahlberg B. L., Johansson N. G., Gonzalez-Pacanowska D., Gilbert I. H., J. Med. Chem., 49, (2006). 21) Jiang Y. L., Chung S., Krosky D. J., Stivers J. T., Bioorg. Med. Chem., 14, (2006). 22) McCarthy O. K., Schipani A., Buendia A. M., Ruiz-Perez L. M., Kaiser M., Brun R., Pacanowska D. G., Gilbert I. H., Bioorg. Med. Chem. Lett., 16, (2006). 23) Beck W. R., Wright G. E., Nusbaum N. J., Chang J. D., Isselbacher E. M., Adv. Exp. Med. Biol., 195 Pt B, (1986).

58 56 宮腰均 :5-FU との併用療法を目指すヒトデオキシウリジントリホスファターゼ阻害剤の開発 24) Marriott J. H., Aherne G. W., Hardcastle A., Jarman M., Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 20, (2001). 25) Hampton S. E., Baragana B., Schipani A., Bosch-Navarrete C., Musso-Buendia J. A., Recio E., Kaiser M., Whittingham J. L., Roberts S. M., Shevtsov M., Brannigan J. A., Kahnberg P., Brun R., Wilson K. S., Gonzalez-Pacanowska D., Johansson N. G., Gilbert, I. H., ChemMedChem, 6, (2011). 26) Varga B., Barabas O., Kovari J., Toth J., Hunyadi-Gulyas E., Klement E., Medzihradszky K. F., Tolgyesi F., Fidy J., Vertessy B. G., FEBS Lett., 581, (2007). 13. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 138 号 ) の内容を 中心にまとめたものである

59 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 57 総説 パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 栁瀬考由, 澤間善成, 門口泰也, 佐治木弘尚 * 要約 : 檜山クロスカップリング反応は フッ化物塩や塩基により活性化された有機ケイ素化合物と有機ハライド あるいは有機ハライド等価体とのパラジウム (Pd) を触媒とした交差縮合反応である 本反応の基質である有機ケイ素化合物は毒性が低く またグリニャール試薬などの求核剤と異なり空気中安定で取り扱いやすい また 反応後に副生するケイ素化合物は 燃焼により無害な二酸化ケイ素に変換 処理されるため 檜山カップリングは医薬品を始めとした機能性物質の量産化反応に適している 従来法では均一系 Pd 触媒を使用し ゼロ価 Pd の安定 活性化のためにリガンドが添加されるが 生成物中への残存や混入は避けることができず除去工程が別途必要となる 一方 不均一系 Pd 触媒は Pd が担体に保持されており化学的に安定であることから 均一系 Pd 触媒を使用した際に生じる処理工程の回避が期待される 我々は接触水素化反応における汎用不均一系触媒であるパラジウム炭素 (Pd/C) に着目し Pd/C による檜山クロスカップリング反応 の開発並びに Pd/C を触媒とした リガンドを全く使用しない檜山クロスカップリング反応 の開発に成功した 特に後者はリガンドの添加を全く必要とせず 汎用されている Pd/C を極微量使用するだけで効率良く進行する点で 操作性とコストに優れておりプロセス化学的適用が期待される 索引用語 : パラジウム (Pd) 炭素 炭素結合 有機ケイ素化合物 有機ハロゲン化物 Pd/C-catalyzed Hiyama Cross-coupling Reaction Takayoshi YANASE, Yoshinari SAWAMA, Yasunari MONGUCHI, Hironao SAJIKI * Abstract: The Hiyama cross-coupling reaction, a palladium-catalyzed carbon carbon bond formation between organosilanes and organohalides or their equivalents, has been popularized as a useful synthetic method to construct unsymmetrical biphenyls as structural components of various functional materials. The use of organosilanes as organometallic compounds, which was initially explored by Hiyama, is one of the most attractive approaches, since organosilanes are easy to handle and environmentally friendly due to their air-stability and low toxicity. Hiyama coupling has generally been achieved by the combined use of a homogeneous palladium catalyst and a phosphine ligand. Recently, the development of heterogeneously palladium-catalyzed cross-coupling reactions has attracted significant attention from both environmental and economical points of view, since the catalysts can be readily recovered from the reaction mixture. Efficient methods are demonstrated for the palladium on carbon (Pd/C)-catalyzed Hiyama cross-coupling reactions and the first ligand-free Pd/C-catalyzed Hiyama cross-coupling reaction between a variety of aryl halides and aryltriethoxysilanes. Key phrases: palladium (Pd), C-C bond formation, organosilane, organohalide 1. 緒言 人類は疾病を克服するために数多くの効果的な医薬品 を開発してきた 新規医薬品の創製や先発薬の改良など現 在でも重要な研究課題である 医薬品の創製には 有機合成化学 生化学 薬理学 製剤学など様々な分野の英知の結集が不可欠である 1) その中で有機合成化学は 医薬品の探索過程に始まり原末ならびに医薬品の製造など 開発 岐阜薬科大学創薬化学大講座薬品化学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Organic Chemistry, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN)

60 58 栁瀬考由ら : パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 初期から発売後まで ほとんど全ての過程で重要な役割を 担っている 特に医薬品原末の製造においては 大量スケ ールの合成が必須であり コストや環境に配慮した効率的 で安全な合成プロセスの開発が望まれている 2)-5) 触媒は反応を効率良く円滑に進行させるための添加剤 であり 環境負荷を考慮したクリーンな大量合成を可能に する 6) 特に遷移金属触媒は多様な反応に利用されており 新しい触媒の開発ならびに適用性の開拓が活発に進めら れている 7) パラジウム (Pd) は 接触水素化やアルコー ルの酸化反応に加え 炭素 炭素結合形成反応など広く利 用されている 8)-11) 炭素 炭素結合形成反応の一種である Pd を触媒とするクロスカップリングは 有機ハライドあ るいはハライド等価体と Pd との酸化的付加を経由して触 媒サイクルに取り込まれ 有機金属試薬などの官能基導入 剤と交差縮合する反応である 官能基導入剤として有機亜 鉛化合物を使用する根岸カップリング 有機ホウ素化合物 を使用する鈴木 宮浦カップリング及びオレフィンを使 用する溝呂木 Heck 反応では 先駆的で多くの成果が蓄 積されており 2010 年度のノーベル賞受賞対象反応とし て有名である 12) 檜山クロスカップリング反応 ( 檜山カップリング ) は Pd を触媒とする有機ケイ素化合物と有機ハライドあるい は有機ハライド等価体との交差縮合反応である 13)-15) 有 機ケイ素化合物は空気中安定で取り扱い易く 燃焼すると 無害な二酸化ケイ素に変換できる 16),17) という利点を有し ていることから 工業的にも適している 一方で 安定で あるがために 系中で有機ケイ素化合物を活性化し クロ スカップリングをさせたいケイ素原子上の置換基の求核 性を上げる必要がある それ故 容易に活性化できる ま た収率の向上及び基質適用性の拡大を目的として 有機ケ イ素化合物の創成を目指した研究が現在も継続されてい る これまでに様々なタイプの有機ケイ素化合物が開発 検討されており 大きく以下の 5 つに分類される 1) 檜山らが初期段階で開発したフッ素原子置換型有 18) 機ケイ素化合物 2) 水酸基を置換して持つ有機ケイ素化合物 ( 重合す るなど不安定ではあるが反応性が高い ) 19)-21) 3)Denmark らにより開発されたシラシクロブタン型 22) 有機ケイ素化合物 4)DeShong らが報告した安定 安価なアルコキシ置 23) 換型有機ケイ素化合物 5) 最近檜山らが開発した回収 再利用が可能な有機 24) ケイ素化合物 これらの内 アルコキシ置換型有機ケイ素試薬以外は入 手困難であり 比較的高価な原料から数段階を経て合成す る必要があるなど問題が残る 一方 ケイ素原子上にアル コキシ基が置換した有機ケイ素化合物は 安価で入手容易 であるだけでなく加水分解や重合を受けにくく安定であ る さらに フッ素置換型や水酸基がケイ素原子上に置換した有機ケイ素化合物と同程度の反応性を有していることからカップリング試薬として優れている ところで 従来の檜山カップリング反応は高価で毒性の高いホスフィンリガンドとともに均一系 Pd 触媒を使用しており 生成物中への Pd 金属の残留などに問題が残る 不均一系触媒は 反応混合物からの分離 回収とともに再利用が容易であるため 均一系触媒の問題点を回避できる可能性がある パラジウム炭素 (Pd/C) は接触水素化反応の触媒として良く知られているが 最近では炭素 炭素結合形成反応 炭素 窒素結合形成反応および炭素 酸素結合形成反応などにも応用されている 25)-38) Pd/C を檜山クロスカップリング反応に適用した反応例が最近報告されたが 製造元依存的な触媒活性の違いの調査に重点が置かれており 反応条件並びに基質適用範囲が十分に検討されていない 39) このような背景から 本研究では Pd/C を触媒とした檜山クロスカップリング反応の開発を目指して詳細に検討した その結果 適量の水が反応を加速するトリス (4- フルオロフェニル ) ホスフィンをリガンドとした不均一系檜山クロスカップリング反応の開発 40), 41) と 弱酸性条件下でのリガンドフリー檜山クロスカップリング反応の開発 42) に成功し それぞれ一般性を確立した 本稿ではこれらの Pd/C を触媒とした檜山カップリングについて詳述する 2. 適量の水が反応を加速するトリス (4-フルオロフェニル) ホスフィンをリガンドとした不均一系檜山クロスカップリング反応反応開発を始めるにあたり 様々な反応条件を探索した その結果 4-ヨードニトロベンゼン (1) とフェニルトリエトキシシラン (2, 1.5 当量 ) をフッ化テトラブチルアンモニウム 三水和物 (TBAF 3H 2 O, 2 当量 ) と 1,1 -ビス ( ジフェニルホスフィノ ) フェロセン (DPPF, 1 に対して 10 mol%) 存在下 10% Pd/C(1 に対して 5 mol%) を触媒として THF 中で加熱還流すると反応がわずかに進行することを見出した (Table 1, Entry 1) この反応条件を基本として 4 ニトロビフェニル (3) の収率向上を目的として反応条件を最適化した 2 1. 反応条件の最適化はじめに溶媒効果を検討した (Table 1) 反応は TLC で追跡し 1 の消失を終点と判断した また 24 時間撹拌しても 1 が消失しない場合は 24 時間で処理した その結果 THF 1, 4 ジオキサン DMF DMA NMP DMSO あるいは DMPU 中では 1 のホモカップリングが優先し

61 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 59 目的とする 3 はほとんど得られなかった (Entries 1 7) 43) アセトニトリルを溶媒としたところ 脱水溶媒中では反応はほとんど進行しなかったが (Entry 8) HPLC グレードのアセトニトリルを脱水処理せずに使用したところ 52% の収率で 3 が得られた (Entry 9) また H 2 O あるいは t-buoh を溶媒とした場合には 反応が複雑に進行したが (Entries 10 and 11) メタノールあるいは o-キシレン中では反応は全く進行しなかった (Entries 12 and 13) 一方 o-キシレンと同じ非極性溶媒であるトルエンの場合には反応効率が向上し 特に無水トルエン中では 3 が 64% の収率で得られた (Entries 14 and 15) したがって 脱水処理していないアセトニトリルと無水トルエンを溶媒としてさらに詳細な検討を加えた これらの結果はフッ化物塩の溶解性に基づくものと考えている 次に 有機溶媒に対する溶解性が高い TBAF を使用した TBAF 三水和物 (TBAF 3H 2 O) と TBAF の 1M THF 溶液が市販されており それぞれトルエン及びアセトニトリル中での反応を検討したところ TBAF 3H 2 O を使用した場合に反応がより効率的に進行した (Entries 5 vs. 6, 11 vs. 12) 特に トルエン中 TBAF 3H 2 O を使用した場合に最も良好な収率 (64%) で 3 が得られたため (Entries 5 vs. 11) TBAF 3H 2 O と無水トルエンの組み合わせを選択した Table 2. Effect of F Sources Table 1. Effect of Solvent Entry Solvent Time (h) Yield (%) a 1 THF (anhydrous) ,4-Dioxane (anhydrous) DMF (anhydrous) DMA (anhydrous) 3 17 b 5 NMP (anhydrous) 3 8 b 6 DMSO (anhydrous) 3 24 b 7 DMPU (anhydrous) MeCN (anhydrous) 1 trace 9 MeCN 5 52 b 10 H 2 O 24 complex mixture 11 t-buoh 18 complex mixture 12 MeOH (anhydrous) o-xylene Toluene (anhydrous) Toluene 3 33 a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. b Isolated yield. 檜山カップリングを効率的に進行させるためには フッ 化物塩等の添加により有機ケイ素試薬を活性化する必要 がある そこで 脱水処理をしていないアセトニトリル及 び無水トルエン中 様々なフッ化物塩の添加による反応の 加速効果を検討した (Table 2) NaF KF あるいは CuF 2 を添加したところ反応は進行しなかった (Entries 1, 2, 3, 7, 8, and 9) さらに CsF を添加してもトルエン中では反応 は全く進行しなかったが アセトニトリル中では収率 44% で 4- ニトロビフェニル (3) が得られた (Entries 4 and 10) Entry Solvent F source 1 Time (h) NaF KF Toluene CuF (anhydrous) CsF TBAF 3H 2 O TBAF in THF NaF KF 2 0 Yield (%) a 9 CuF MeCN 10 CsF TBAF 3H 2 O 5 52 b 12 TBAF in THF 5 33 b a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. b Isolated yield. 次に 4- ヨードニトロベンゼン (1) とフェニルトリエ トキシシラン (2) のクロスカップリングにおけるホスフ ィンリガンドの添加効果を検討した (Table 3) リガンド を添加しなくとも目的とする 4- ニトロビフェニル (3) は 52% の収率で得ることができたが 反応は 24 時間でも完 結せず原料 1 が残存した (Entry 1) 一方 DPPF を添加す ると 3 の収率は向上したが (Entry 2) 同じ二座配位子で ある 1,2- ビス ( ジフェニルホスフィノ ) エタン (DPPE) 1,3- ビス ( ジフェニルホスフィノ ) プロパン (DPPP) ある いは 1,4- ビス ( ジフェニルホスフィノ ) ブタン (DPPB) の場合には反応が完結せず 収率の低下が認められた (Entries 3 5) また 単座配位子であるトリフェニルホス フィン (PPh 3 ) の添加により DPPF と同様に 3 の収率は 向上した (Entry 6) 一般に 電子密度が高くかさ高いホ スフィンはクロスカップリングのリガンドとして効果的 である 7) そこで ベンゼン環に電子供与性のメチル基あ るいはメトキシ基が置換したトリフェニルホスフィン誘

62 60 栁瀬考由ら : パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 導体 (Entries 7 11) リン原子に環状あるいは鎖状のアルキル基を導入したホスフィン類 (Entries 12 and 13) 及び Buchwald らが開発し 様々なクロスカップリング反応に使用されているホスフィン類 (Entries 14 and 15) 44) を順次検討したが メチル基の導入によるポジティブな効果は認められなかった (Entries 6 vs. 8 and 9) また ベンゼン環の 2 位にメチル基や 4 位あるいは 2 6 位にメトキシ基を導入したトリフェニルホスフィン誘導体 (Entries 7, 10, and 11) 並びにリン原子上にアルキル基が導入されたホスフィン類 (Entries 12 15) も検討したが 反応効率の向上には至らなかった Table 3. Effect of Ligands a 入したトリフェニルホスフィン誘導体 (4 及び 5) はリガンドとして有効に作用し (Entries 16 and 17) 特にトリス (4-フルオロフェニル) ホスフィン [(4-FC 6 H 4 ) 3 P](5) の添加により反応は 6 時間で完結 83% の収率で 3 を得ることができた (Entry 17) しかし ベンゼン環の全ての水素原子をフッ素原子で置換したトリス ( ペンタフルオロフェニル ) ホスフィン [(C 6 F 5 ) 3 P] の場合には反応効率の向上は認められず リン原子上の電子密度のコントロールが極めて重要であることが強く示された (Entry 18) これらの結果から ホスフィン 4 及び 5 をリガンド候補とした フッ化物イオンは強力な水素結合受容体であるため TBAF は吸湿性が高く 計量中に空気中の水分を相当量吸収しているものと考えられる そこで 本反応に対する水の影響を検討することとした Table 4. Effect of H 2 O as the Additive Entry Ligand Time (h) Yield (%) b 1 c ,1 -Bis(diphenylphosphino)ferrocene (DPPF) ,2-Bis(diphenylphosphino)ethane (DPPE) ,3-Bis(diphenylphosphino)propane (DPPP) ,4-Bis(diphenylphosphino)butane (DPPB) Triphenylphosphine (PPh 3 ) Tri-2-tolylphosphine Tri-3-tolylphosphine Tri-4-tolylphosphine Tris(4-methoxyphenyl)phosphine Tris(2, 6-dimethoxyphenyl)phosphine Tricyclohexylphosphine Isopropyldiphenylphosphine (Di-t-butylphosphino)biphenyl (Johnphos) (Dicyclohexylphosphino)biphenyl Tris(4-chlorophenyl)phosphine : (4) Tris(4-fluorophenyl)phosphine [(4-FC 6 H 4 ) 3 P]: (5) Tris(pentafluorophenyl)phosphine [(C 6 F 5 ) 3 P] 6 56 a 10 mol% of ligands were employed for Entries 2 5 and 20 mol% of ligands were employed for Entries b Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. c 2 equivalents of PhSi(OEt) 3 were used. 一方 ベンゼン環の 4 位に電気陰性度の高いハロゲンを導 Entry Ligand H 2 O (µl) Time (h) Yield (%) a 1 b (4.8%) c (9.1%) c (33%) c (4.8%) c (9.1%) c (17%) c a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. b TBAF 3H 2 O was dried at 90 C under reduced pressure for 30 min. c The percentage in parentheses indicates the water volume over the mixed solvent volume. TBAF 3H 2 O を十分に減圧乾燥した後 45) 無水トルエン(1 ml) 中 (4-ClC 6 H 4 ) 3 P(4) をリガンドとして 4- ヨードニ トロベンゼン (1) とフェニルトリエトキシシラン (2) と のクロスカップリングを実施したが 反応効率は顕著に低 下した (Table 4, Entries 1 vs. 2) 次に 1 ml の無水トルエ ンに水を添加したところ 4.8 容量 % の含水トルエン (5 µl の水を添加 ) 中で 4- ニトロビフェニル (3) の収率が大 幅に向上した (Entries 2 vs. 3) なお 添加する水を 100 µl ( 含水率 9.1%) に増量しても反応効率は変化しなかった が (Entry 4) 500 µl ( 含水率 33%) では反応が逆に阻害 され 24 時間後でも完結しなかった (Entry 5) また

63 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 61 (4-FC 6 H 4 ) 3 P(5) をリガンドとした場合にも 4.8% あるいは 9.1% の含水条件では反応時間の短縮が認められ 少量の水による反応加速効果を確認することができた (Entries 6 8) 従って 効率良くカップリング反応が進行した 4.8% 含水トルエンを溶媒 4 よりも安価な 5 をリガンドとして選択した 次に 5 mol% の 10% Pd/C を用いて リガンド 5 の至適量を検討した (Table 5, Entries 1 4) その結果 Pd 金属に対して 2 当量 すなわち 10 mol% まで減量できることが明らかとなった (Entry 3) 引き続き Pd と 5 のモル比を 1 : 2 に固定して 10% Pd/C の減量を試みたところ (Entries 5 11) 0.5 mol% でも反応効率は低下することなく 90% の収率で 3 が得られた (Entry 9) 従って 0.5 mol% の 10% Pd/C と 1 mol% の 5 を組み合わせて以下検討することとした Table 5. Usage of Pd and Phosphine Ligand 品番号による影響を受けない頑健性が高い手法であるこ とが明らかとなった Table 6. Comparison of Catalyst Activity among 10% Pd/Cs Produced by Different Suppliers Entry Supplier Time (h) Yield (%) a 1 Aldrich Acros Wako N.E. Chemcat (NXtype) N.E. Chemcat (K type) 6 90 a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. 続いて反応温度を検討した (Table 7) 25 C では反応は 全く進行しなかったが 昇温に伴って反応の変換率は向上 し 120 C で最も効率良く進行した (Entry 1 4) よって これまでと同様に 120 o C で加熱還流することとした Entry Pd (X mol%) 5 (Y mol %) Time (h) Yield (%) a b b b a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. b 1 mmol of 1 was employed in 2 ml of toluene (anhydrous) and 100 µl of H 2 O. Pd/C の担体である活性炭は天然由来であり 原材料の 産地や種類及び賦活化を含む製造工程の相違により 極微 量含有元素 細孔径や表面積などの物性が微妙に異なり 反応に影響を及ぼすことが知られている 46) そこで檜山カ ップリングにおける触媒の製造元や製品番号の違いによ る活性の差異を確認するため これまでに使用してきた N.E. Chemcat 社製の K-type 10% Pd/C とともに他社 並び に N.E. Chemcat 社製でも調製法が K-type とは異なる 10% Pd/C (NX type) の比較を行った (Table 6) その結果 反応はいずれも良好に進行し 顕著な差異は確認されなか った 従って 本反応は触媒 (Pd/C) の製造元あるいは製 Table 7. Effect of Temperature Entry Bath ( C) temperature Time (h) Yield (%) a (83 b ) a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. b Isolated yield. Scheme 1. Optimized Conditions for Pd/C-Catalyzed Hiyama Cross-Coupling Reaction 以上 0.5 mol% の 10% Pd/C 10 mol% の (4-FC 6 H 4 ) 3 P 及び 2 当量の TBAF 3H 2 O 存在下 ハロゲン化アリールと 1.5 当量の有機ケイ素試薬を 4.8% 含水トルエン中で加熱還流 する 条件が適当であると結論した (Scheme 1) 2 2. 基質適用 前節で確立した反応条件を用いて 様々なアリールトリ

64 62 栁瀬考由ら : パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 アルコキシシランとハロゲン化アリールとのクロスカッ プリング反応を検討した (Table 8) Table 8. Pd/C-Catalyzed Hiyama Cross-Coupling between Various Aryl Halides and Aryltriethoxysilanes a した (Scheme 2) その結果 使用量の 3.8%(11 ppm) に相当する金属 Pd の溶出が確認された しかし ろ過後にシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したカップリング生成物からは Pd は検出されず [<1 ppm(icp-aes, 検出限界未満 ), Scheme 3] 生成物から容易に除去されることが明らかとなった Entry Aryl X R Time (h) Yield (%) b 1 4-NO 2 -C 6 H 4 I H NO 2 -C 6 H 4 I 4-Me NO 2 -C 6 H 4 I 4-Cl MeO-C 6 H 4 I H MeO-C 6 H 4 I 4-Me MeO-C 6 H 4 I 4-Cl NO 2 -C 6 H 4 Br H Ac-C 6 H 4 Br H CHO-C 6 H 4 Br H CN-C 6 H 4 Br H MeO-C 6 H 4 Br H MeO-C 6 H 4 Br H MeO-C 6 H 4 Br H MeO-C 6 H 4 Br 4-Me Iodopyridine H Bromopyridine H NO 2 -C 6 H 4 Cl H c a The reactions were carried out in the presence of 0.5 mol% of 10% Pd/C, 1.0 mol% of (4-FC 6 H 4 ) 3 P, and 2 equiv of TBAF 3H 2 O. b Isolated yield. c Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. ベンゼン環の置換基に依存した電子的性質に左右される ことなく ヨードあるいはブロモベンゼン誘導体はいずれ もアリールトリエトキシシランと効率良くクロスカップ リングし 良好な収率で目的生成物を与えた (Entries 1 14) ヘテロ環はヘテロ原子の孤立電子対が Pd と配位して触媒 活性を低下させる いわゆる触媒毒作用を示す場合がある しかし本反応では ヘテロ環を母核とした 3- ヨードまたは 3- ブロモピリジンを基質とした場合にも 対応する複素環 ビアリール体が高収率で得られた (Entries 15 and 16) 一 方 4- クロロニトロベンゼンのフェニル化反応の場合には 反応性の大幅な低下が認められた (Entry 17) この原因と しては 芳香族塩素化合物の Pd への酸化的付加が進行し にくいためであると考えている 不均一系 Pd 触媒によるクロスカップリング反応では 反応溶液中に溶出した Pd 金属が触媒の活性種として作用 する可能性が指摘されている 47)-53) そこで 反応終了後 に Pd/C をメンブランフィルターでろ去し ろ液中への Pd の溶出量を誘導結合プラズマ発光分析 (ICP-AES) で測定 Scheme 2. Measurement of Leached Palladium Species in the Filtrate after Removal of the Catalyst Scheme 3. Measurement of Leached Palladium Species in the Product Obtained after Column Chromatography 2 3. 反応機構の考察 本反応は少量の水と電子不足のホスフィンリガンド (4-FC 6 H 4 ) 3 P の添加により効率良く進行する 少量の水が 反応系中に存在すると アルコキシ置換ケイ素試薬 (A) が加熱条件下加水分解され シラノール誘導体 (B) に変 換する (Figure 1) アルコキシ基と比較すると水酸基は立 体遮蔽効果や電子供与性が低いので B のケイ素原子は TBAF 由来のフッ化物イオンによる求核攻撃を受け易く なり 活性なアート錯体 (C) が効率的に生成するため反 応効率が向上したものと考えている 一方 多量の水を添 加した場合には 複数の A が重合して籠状あるいは多環 式シロキサン誘導体 (D) に変換される 54) D は立体障害 が大きくアート錯体を形成し難いため 反応効率が低下し たと考えると合理的である 檜山クロスカップリング反応は 炭素 ハロゲン結合へ の Pd の挿入により炭素 Pd ハロゲン (E) を生成する 酸化的付加 (oxidative addition) に引き続き E のハロゲ ンと C の Ar 2 が交換する金属交換 (transmetallation, E F) そして F から Pd が脱離して炭素 炭素結合が形成する還 元的脱離 (reductive elimination) をサイクルとして進行す る Buchwald らは Pd 触媒を用いたアリールノナフラー トと第二級アミドとのクロスカップリングにおいて トリ フェニルホスフィン誘導体のベンゼン環に電子求引性ト リフルオロメチル基 (CF 3 基 ) が導入された JackiePhos (Figure 2) をリガンドとすると触媒活性が向上すること を報告している 55) さらに理論計算の結果から JackiePhos

65 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 63 の CF 3 基が触媒サイクルの金属交換とそれに続く還元的 脱離を促進することを示している これらの背景から (4-FC 6 H 4 ) 3 P の場合もベンゼン環上のフッ素原子の電子求 引効果が良好に作用し 金属交換あるいは還元的脱離の過 程が促進されたものと推察している Fig. 1. Plausible Mechanism of the Pd/C-Catalyzed Hiyama Cross-Coupling Reaction 3 entry 1 and Scheme 4) これを応用して反応条件を最適化 することで 報告例のない Pd/C を触媒とするリガンドフ リー檜山クロスカップリング反応を開発できるものと考 えた Scheme 4. Formation of Cross-Coupled 4-Nitrobiphenyl in the Absence of Ligand 3 1. リガンドフリー反応条件の最適化 Pd/C を触媒とする檜山クロスカップリング反応は リ ガンドフリーで実施すると溶媒効果が強く発現した (Table 9) Table 9. Screening of Solvents and Fluoride Sources Fig. 2. JackiePhos 以上 Pd/C を触媒とした檜山クロスカップリング反応の開発経緯を示した この反応は 少量の水の添加と (4-FC 6 H 4 ) 3 P 配位子の使用に特徴があり 芳香環の電子的性質や置換基の位置に関わらず効率良く進行する Pd の溶出も少ないことから非対称ビアリール合成における実用的手法として期待される 3. 弱酸性条件下でのリガンドフリー檜山クロスカップリング反応環境負荷と反応コストの低減を目的としたホスフィンリガンドを使用しない遷移金属触媒反応の開発研究が注目されている 27)-38) 著者は 前 2 4 節で示した (4-FC 6 H 4 ) 3 P 存在下の Pd/C 触媒的檜山カップリングの開発過程で 反応効率は低下するものの ホスフィンリガンドを添加しなくとも 4-ヨードニトロベンゼンとフェニルトリエトキシシランとの反応が進行し 目的とする 4-ニトロビフェニルが中程度の収率 (52%) で生成することを見出した (Table Br NO 2 10% Pd/C (5 mol%) Si(OEt) 3 NO 2 reflux, 24 h 1.5 equiv Entry Solvent F source Yield (%) a 1 Toluene TBAF 3H 2 O 65 c 2 b DMF TBAF 3H 2 O 5 3 MeCN TBAF 3H 2 O 14 4 EtOH TBAF 3H 2 O 44 5 THF TBAF 3H 2 O Butanone TBAF 3H 2 O 55 7 b o-xylene TBAF 3H 2 O 58 8 Toluene none 0 9 Toluene LiF 0 10 Toluene KF 0 11 Toluene CsF 0 a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. b The reaction was carried out at 120 C. c A trace amount of 4-ethoxynitrobenzene was generated by the cross-coupling between the ethoxide anion derived from phenyltriethoxysilane and 4-bromonitrobenzene. たとえ TBAF 3H 2 O を添加しても DMF や MeCN 中では 反応はほとんど進行しないが (Entries 2 and 3) エタノー ル THF 2- ブタノン o- キシレンあるいはトルエン中で は中程度の収率で目的とするクロスカップリング体が生 成した (Entries 1 and 4 7) 反応効率が最も高いトルエン を溶媒として フッ素活性化剤の違いによる反応性をスク リーニングしたところ 有機溶媒に対する溶解性が高い TBAF 3H 2 O のみがポジティブな添加効果を示した (Entry 1) なお ほとんど溶解しない金属フッ化物塩を添加した 場合には 無添加の場合と同様に反応は全く進行しなかっ た (Entries 8 11) 従って 以下の最適化は TBAF 3H 2 O と トルエンを組み合わせて検討することとした

66 64 栁瀬考由ら : パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 Kwong らは TBAF 存在下 Pd(OAc) 2 を触媒とするアリ ールメシラートの檜山カップリング反応中に トリメトキ シフェニルシランを起源とするメトキシドアニオンが遊 離することを見出している 56) また Clarke らは TBAF あ るいは NaOH を活性化剤とした場合に ビニルエトキシシ ランあるいはテトラエトキシシラン由来のエトキシドア ニオンと 4- ブロモアセトフェノンが Pd 触媒存在下クロス カップリングすることを報告している 57) 我々の反応は Pd/C を触媒としているが Table 9, Entry 1 の検討過程で 目的とする 4- ニトロビフェニルの生成 ( 収率 65%) とと もに微量の 4- エトキシニトロベンゼンが副生することを 確認している (Scheme 5) Scheme 5. Formation of 4-Ethoxynitrobenzene during the Course of the Pd/C-Catalyzed Cross-Coupling between 4-Bromonitrobenzene and Phenyltriethoxysilane 一方 水や安息香酸を添加しても 反応効率はほとんど改善されなかった (Entries 3 and 4) また 1.5 当量の酢酸存在下 10% Pd/C よりも Pd の活性炭に対する分散度が高い 5% Pd/C を触媒としたところ 僅かではあるが反応性が向上した (Entry 6) これは 5% Pd/C の反応場が大きい ( 活性点が多い ) ことに起因するものと考察している なお 1.0 当量あるいは 2.0 当量に増減したところ反応効率が低下したことから (Entries 7 and 8) 5% Pd/C を触媒として 1.5 当量の酢酸を添加する条件が適当であると決定した 本反応は Pd/C を添加しないと全く進行しないことから Pd/C 触媒を介した反応であることは明らかである (Table 11, Entry 1) そこで触媒量の最適化を実施した 5 mol% から 0.5 mol% まで順次減量したところ 目的とするクロスカップリング体の収率が 0.5 mol%~1 mol% を頂点として若干ではあるが向上した (81% から 88%, Entries 2 5) これは 微量ではあるものの副反応として併発するハロゲン化アリールのホモカップリングが抑制され クロスカップリングの選択性が向上した結果であると考えている しかし Pd/C の使用量をさらに 0.1 mol% まで減量したところ (Entry 6) 反応効率の低下傾向が認められたため 0.5 mol% を適量と判断した この副反応は フェニルエトキシシランから遊離するエト キシドアニオンの捕捉により回避できるはずである そこ で 酢酸を 4- ブロモニトロベンゼンに対して 1.5 当量添加 したところ 4- エトキシニトロベンゼンは全く副生せず 目的とする 4- ニトロビフェニルの収率が 77% に向上した (Table 10, Entry 2 vs Entry 1) Table 10. The Effect of Additive on the Pd/C-Catalyzed Cross-Coupling Reaction between 4-Bromonitrobenzene and Phenytriethoxysilane Entry Pd/C Additive Additive Quantity Yield (%) a 1 10% % Acetic acid 1.5 equiv % H 2 O 5.6 equiv (50 µl) % Benzoic acid 1.5 equiv % % Acetic acid 1.5 equiv % Acetic acid 1.0 equiv % Acetic acid 2.0 equiv 70 a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. Table 11. Usage of 5% Pd/C Entry 5% Pd/C (mol%) Yield (%) a a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard. 本反応は室温ではほとんど進行しないが (Table 12, Entry 1) 外部加熱装置の温度を 120 C として還流した場 合に目的生成物が最高の収率 (88%) で得られた (Entries 2 6) 以上詳細な最適化検討の結果 0.5 mol% の 5% Pd/C 2 当量の TBAF 3H 2 O 及び 1.5 当量の酢酸存在下 ハロゲン 化アリールと 1.5 当量の有機ケイ素試薬をトルエン中 120 C で加熱還流する 反応条件が至適であると結論した

67 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 65 Table 12. Effect of Temperature Entry Temperature ( C, external heating apparatus) Yield (%) a a Determined by 1 H NMR using 1,4-dioxane as an internal standard 基質適用性の検討 前節で確立した至適反応条件を用いて 様々なアリール トリアルコキシシランと臭化アリールとのクロスカップ リング反応を検討した (Table 13) Table 13. Pd/C-Catalyzed Ligand-Free Hiyama Cross-Coupling between Various Aryl Halides and Aryltriethoxysilanes とができた (Entries 1 14) なお 2-ブロモアニソールの場合は例外的に反応性が低く 満足いく結果を得ることはできなかった (Entry 15) これはメトキシ基の強力な電子供与性に Pd への酸化的付加抑制効果に加え 臭素原子の隣接 ( オルト ) 位置換基による立体障害が相加的に作用した結果であると考えている また Pd への酸化的付加が進行しにくい芳香族塩素化合物 すなわち 4-クロロニトロベンゼンや 3-クロロアニソールのクロスカップリングはほとんど進行しなかった (Entries 16 and 17) 3 3. 触媒の再利用 Pd/C を触媒とした檜山クロスカップリング反応では 貴金属である Pd の再利用による使用量削減は 実用視点から重要な課題である 本項では 4-ブロモニトロベンゼンとフェニルトリエトキシシランのカップリング反応における 5% Pd/C の回収と再利用を検討した (Table 14) その結果 2 回目までは触媒活性の低下なく再利用することができたが (Entries 1 and 2) 3 回目に大幅な反応効率の低下が認められた (Entry 3) Table 14. Reuse Test of 5% Pd/C Entry X R 1 R 2 Yield (%) a 1 Br 4-Ac H b 87 2 Br 4-Ac H 81 3 Br 4-Ac Cl 85 4 Br 4-Ac Me 84 5 Br 4-Ac OMe 90 6 Br 4-NO 2 H 85 7 Br 4-CN H 65 8 Br 4-CHO H 80 9 Br 2-CHO H Br 4-COOH H Br 4-F H Br 4-Me H c Br 3-OMe H d Br 4-OMe H Br 2-OMe H Cl 4-NO 2 H 7 17 Cl 3-OMe H 0 a Isolated yield. b Phenyltrimethoxysilane was employed. c 1 M solution of 3-bromoanisole in toluene was used. d For 48 h. Entry Run Yield (%) a a Determined by 1 H NMR using 1, 4 dioxane as an internal standard パラジウムの溶出試験 5% Pd/C を繰り返し再利用することで触媒活性が低下す る原因として Pd 種の反応液中への溶出が考えられる この点を確認するため まず 至適反応条件下 4- ブロモニ トロベンゼンとフェニルトリエトキシシランを 24 時間撹 拌し 室温に冷却後 メンブランフィルターで Pd/C をろ 去して ろ液中の Pd 含有量を ICP-AES で測定した (Scheme 6) Scheme 6. Measurement of Leached Palladium Species for the Ligand-Free Hiyama Cross-Coupling Reaction ベンゼン環に電子求引性あるいは電子供与性官能基のい ずれが置換したブロモベンゼン誘導体も 置換位置に関わ らず良好に反応し 目的とするビアリール誘導体を得るこ

68 66 栁瀬考由ら : パラジウム炭素を触媒とした檜山クロスカップリング反応 その結果 68%(60 ppm) に相当する Pd 種が漏洩してい yuukigouseihenoouyou, Tokyokagakudojin, Tokyo, ることが明らかとなった しかし 酢酸を添加しなければ 99) Nishimura S., Handbook of Heterogeneous Catalytic 溶出はわずか 0.97%(1.7 ppm) であるため 酢酸が Pd の Hydrogenation for Organic Synthesis, Wiley-Interscience, New York, 溶出を促進していることが明らかとなった 110) Larock R. C., Comprehensive Organic Transformation; 2 nd 以上 Pd の効率的な再利用は困難であったが 微少量 ed., Wiley-VCH, New York, (0.5 mol%) の不均一系 5% Pd/C を活性 Pd 種の媒体 (medium) としたリガンドの添加を全く必要としない檜 111) de Meijere A., Diederich F., Metal-catalyzed Cross-coupling Reactions; 2n ed., Wiley-VCH, Weinheim, 山クロスカップリング反応を開発することができた この 112) Kurosukappuringuhannou kisotosangyououyou, CMC 反応は 1.5 当量と極めて少量の酢酸存在下で進行するため 基質芳香環上の官能基耐性に優れている さらに Pd Publishing Co., Tokyo, ) Hiyama T., Shirakawa E., in Handbook of Organopalladium Chemistry for Organic Synthesis, Vol. 1 ed. by Negishi E., de 触媒の中では金属重量当たりの単価が低く 大気中安定で Meijere A., Wiley-Interscience, New York, 2002, pp 取り扱い易い汎用試薬である 5% Pd/C を触媒として使用 114) Denmark S. E., Ober M. H., Aldrichim. Acta, 36, することから コストパフォーマンスに優れた実用的方法 (2003). としての展開が期待される 115) Denmark S. E., Liu J. H.-C., Angew. Chem. Int. Ed., 49, 2 11 (2010). 4. 結論 116) Elsayed-Ali H. E., Waldbusser E., U.S. Patent (2004). 本研究では 接触水素化反応における Pd/C を触媒とした 効率的で一般性ある檜山クロスカップリング反応を確立することができた Pd/C の効率的な再利用の構築には 117) Boller E. R., U.S. Patent (1970). 118) Hatanaka Y., Hiyama T., J. Org. Chem., 54, (1989). 119) Denmark S. E., Werner N. S., J. Am. Chem. Soc., 132, (2010). 至らなかったが リガンドの添加を全く必要としない Pd/C 220) Denmark S. E., Smith R. C., Chang W. T. T., Muhuhi J. M., J. を活性 Pd 種の提供源として極微量使用する 簡便な反応 Am. Chem. Soc., 131, (2009). を開発することができた 221) Denmark S. E., Regens C. S., Acc. Chem. Res., 41, (2008). 5. 謝辞 222) Denmark S. E., Sweis R. F., Acc. Chem. Res., 35, (2002). 本研究に関して種々の貴重な御助言並びに御協力頂き 223) Mowery E. M., DeShong P., J. Org. Chem., 64, ました岐阜薬科大学薬品化学研究室各位に感謝致します (1999). 触媒分析及び溶出パラジウムの測定をしていただきまし 224) Nakao Y., Imanaka H., Sahoo A. K., Yada A., Hiyama T., J. Am. Chem. Soc., 127, (2005). たエヌ イーケムキャット株式会社 高木由起夫氏並びに 225) Seki M., J. Syn. Org. Chem. Jpn., 64, (2006). 水﨑智照氏に深謝致します 226) Seki M., Synthesis, (2006). 227) Sajiki H., Ikawa T., Hirota K., Org. Lett., 6, 引用文献 (2004). 228) Sajiki H., Kurita T., Kozaki A., Zhang G., Kitamura Y., 1) Shibasaki M., Akaike A., Hashida M., Iyakuhinkaihatsuron, Hirokawa Shoren Co., Tokyo, Maegawa T., Hirota K., J. Chem. Res., (2004). [Erratum: J. Chem. Res., 344 (2005).]. 2) Shioiri T., Izawa K., Konoike T. Pharmaceutical Process 229) Sajiki H., Kurita T., Kozaki A., Zhang G., Kitamura Y., Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, ) Yasuda N., The Art of Process Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, ) Anderson N. G., Practical Process Research and Development Maegawa T., Hirota K., Synthesis, (2005). [Erratum: Synthesis, 852 (2005).]. 330) Sajiki H., Zhang G., Kitamura Y., Maegawa T., Hirota K., Synlett, (2005). [Erratum: Synlett, 1046(2005).]. A guide for Organic Chemists; 2 nd ed., Academic Press, 331) Maegawa T., Kitamura Y., Sako S., Udzu T., Sakurai A., Massachusetts, Tanaka A., Kobayashi Y., Endo K., Bora U., Kurita T., Kozaki 5) Iyakuhin-no-purosesukagaku," ed. by Japan Society for Process Chemistry, Kagaku-Dojin Publishing Co., Kyoto, A., Monguchi Y., Sajiki H., Chem. Eur. J., 13, (2007). 6) Sheldon R. A., Arends I., Hanefeld U., Green Chemistry and 332) Kitamura Y., Sakurai A., Udzu T., Maegawa T., Monguchi Y., Catalysis, Wiley-VCH, Weinheim, Sajiki H., Tetrahedron, 63, (2007). 7) Tsuji J., Yuukigouseinotamenosenikinzokusyokubaihannou, 333) Kitamura Y., Sako S., Udzu T., Tsutsui A., Maegawa T., Tokyokagakudojin, Tokyo, Monguchi Y., Sajiki H., Chem. Commun., (2007). 8) Nishimura S., Takagi Y., Sessyokusuisokahannou 334) Mori S., Yanase T., Aoyagi S., Maegawa T., Monguchi Y.,

69 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 67 Sajiki H., Chem. Eur. J., 14, (2008). 35) Kurita T., Abe M., Maegawa T., Monguchi Y., Sajiki H., Synlett, (2007). 36) Monguchi Y., Kitamoto K., Ikawa T., Maegawa T., Sajiki H., Adv. Synth. Catal., 350, (2008). 37) Monguchi Y., Takahashi T., Iida Y., Fujiwara Y., Inagaki Y., Maegawa T., Sajiki H., Synlett, (2008). 38) Yabe Y., Maegawa T., Monguchi Y., Sajiki H., Tetrahedron, 66, (2010). 39) Komáromi A., Szabó F., Novák Z., Tetrahedron Lett., 51, (2010). 40) Yanase T., Mori, S., Monguchi Y., Sajiki H. Chem. Lett., 40, (2011). 41) Monguchi Y., Yanase T., Mori S., Sajiki H., Synthesis, 45, (2013). 42) Yanase T., Monguchi Y., Sajiki H. RSC Adv., 2, (2011). 43) Seganish W. M., Mowery M. E., Riggleman S., DeShong P., Tetrahedron, 61, (2005). 44) Wolfe J. P., Tomori H., Sadighi J. P., Yin J., Buchwald S. L., J. Org. Chem., 65, (2000). 45) The procedure for the preparation of dried TBAF: Kim D. W., Jeong H.-J., Lim S. T., Sohn M.-H., Angew. Chem. Int. Ed., 47, (2008). 46) Köhler K., Heidenreich R. G., Krauter J. G. E., Pietsch U., Chem. Eur. J. 8, , (2002). 47) Davies I. W., Matty L., Hughes D. L., Reider P. J., J. Am. Chem. Soc., 123, (2001). 48) Bergbreiter D. E., Chen B., Weatherford D., J. Mol. Catal., 74, (1992). 49) Jayasree S., Seayad A., Chaudhari R. V., Chem. Commun., (1999). 50) Zhao F., Bhanage B. M., Shirai M., Arai M., Chem. Eur. J., 6, (2000). 51) Biffis A., Zecca M., Basato M., Eur. J. Inorg. Chem., (2001). 52) Colon D. A., Izzo B., Collins P., Ho G.-J., Williams J. M., Shi Y.-J., Sun Y., Adv. Synth. Catal., 345, (2003). 53) Kitamura Y., Sako S., Tsutsui A., Monguchi Y., Maegawa T., Kitade Y., Sajiki H., Adv. Synth Catal., 352, (2010). 54) Hasegawa I., Ino K., Ohnishi H., Appl. Organomet. Chem., 17, (2003). 55) Hicks J. D., Hyde A. M., Cuezva A. M., Buchwald S. L., J. Am. Chem. Soc., 131, (2009). 56) So C. M., Lee H. W., Lau C. P., Kwong F. Y., Org. Lett., 11, (2009). 57) Milton E. J., Fuentes J. A., Clarke M. L., Org. Biomol. Chem., 7, (2009). 7. 特記事項 本総説は 岐阜薬科大学博士論文 ( 甲 131 号 ) の内容を 中心にまとめたものである

70 68 横山雄一ら :AMPK を介した糖 脂質代謝調節に関する研究 総説 AMPK を介した糖 脂質代謝調節に関する研究 a), 横山雄一 b), 井口和弘 a), 臼井茂之 a), 平野和行 a)* 要約 : グリセロールは肝臓における糖新生や脂質合成の材料であるため 肝臓へのグリセロール流入量の変化は様々な代謝経路に変調をきたす アクアポリン 9(AQP9) は 主に肝臓において発現が見られ 水分子のみならず グリセロールや尿素などの低分子溶質をも透過させるチャネル型膜蛋白質である AMP-activated protein kinase(ampk) は生体内のエネルギーセンサーであり 糖 脂質代謝の恒常性維持に働くセリン / スレオニンキナーゼである 本研究では AMPK の活性化剤である 5-aminoimidazole-4-carboxamide-1- -D-ribonucleoside(AICAR) を ヒト肝癌由来 HepG2 細胞に作用させたところ AQP9 mrna の発現量が顕著に減少することを確認した レポータージーンアッセイや転写因子 forkhead box a2(foxa2) 遺伝子をノックダウンさせた実験の結果から Foxa2 は AICAR による AQP9 遺伝子発現抑制に関わる重要な転写調節因子であることを見出した AICAR により活性化された AMPK は Akt の Thr-308 残基と Ser-473 残基のリン酸化を促し それに伴い Foxa2 がリン酸化されて核内から核外へと移行することを明らかにした したがって 肝臓でのグリセロール輸送の観点から AMPK によるコントロールのもとに AQP9 は肝臓へのグリセロールの流入量を変化させ 糖 脂質代謝調節に寄与している可能性が示唆された 索引用語 :AMP-activated protein kinase(ampk) アクアポリン 9(AQP9) forkhead box a2(foxa2) Akt/PKB 核外輸送 Regulation of Glucose and Lipid Metabolism via AMPK Yuichi YOKOYAMA a, b), Kazuhiro IGUCHI a), Shigeyuki USUI a), Kazuyuki HIRANO a)* Abstract: Change in glycerol influx into the liver causes metabolic alternations in many pathways since glycerol is a substrate for gluconeogenesis and lipogenesis in the liver. Aquaporin 9 (AQP9), a channel membrane protein, is expressed mainly in the liver and permeable to water and small molecular weight solutes such as glycerol and urea. AMP-activated protein kinase, AMPK, functioning as a serine/threonine kinase acts as an energy sensor in the homeostasis of glyco- and lipid-metabolism. In this study, we found that 5-aminoimidazole-4-carboxamide-1- -D-ribonucleoside (AICAR), an AMPK activator, significantly down-regulated AQP9 mrna expression in human hepatoma HepG2 cells. Forkhead box a2 (Foxa2) was demonstrated to be one of the transcriptional regulators of AQP9 gene expression repressed by AICAR from the results of a reporter gene assay and knock-down of the Foxa2 gene by sirna. Activation of AMPK by AICAR promoted the phosphorylation of Akt at Thr-308 and Ser-473 residues and subsequently phosphorylated and excluded Foxa2 from the nucleus. These results suggest the possibility that AQP9 is under AMPK control in the influx of glycerol into the liver and that AQP9 contributes to the glycol- and lipid-metabolism of glycerol transport in the liver. Key phrases: AMP-activated protein kinase (AMPK), Aquaporin 9 (AQP9), forkhead box a2 (Foxa2), Akt/PKB, nuclear exclusion 1. 緒言 近年 食の欧米化に伴う栄養の過剰摂取が メタボリッ クシンドロームを誘発する要因になっていると問題視さ れている メタボリックシンドロームの診断基準となる肥 満や高血糖などの生活習慣病は 悪性新生物 脳血管疾患 a) 岐阜薬科大学医療薬剤学大講座薬剤学研究室 ( 岐阜市大学西 1 丁目 25-4) Laboratory of Pharmaceutics, Gifu Pharmaceutical University ( Daigaku-nishi, Gifu , JAPAN) b) 名古屋大学医学部附属病院薬剤部 ( 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町 65) Department of Pharmacy, Nagoya University Hospital (65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Aichi , JAPAN)

71 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 69 心疾患等の重篤な疾病を引き起こすリスクファクターである 高齢化が進む昨今においては 健康に長生きをすることへの関心が高まっており 食や健康や疾病がメディアの題材として取り上げられる機会も多い このような状況の中で 近年 エネルギー代謝調節に重要な役割を果たし それが持つ運動疑似効果や 食欲調節効果によって 抗メタボリックシンドローム効果が期待されている分子に AMP-activated protein kinase(ampk) がある 1) AMPK は 細胞内の AMP/ATP 比の上昇に伴って活性化されるセリン スレオニンキナーゼである 2) AMPK が活性化されると phosphofruktkinase-2 の活性化 acetyl-coa carboxylase の阻害 および骨格筋での glucose transporter 4 の細胞膜へのトランスロケーションの促進などによって 解糖 脂肪酸酸化 さらに糖取り込みの促進といった ATP を産生する経路が亢進する また同時に AMPK が活性化されると糖新生酵素の phosphoenolpyruvate carboxykinase glucose-6-phosphatase および転写因子 sterol regulatory element-binding protein 1 の発現抑制などによって 糖新生や脂肪合成等の ATP を消費する経路は抑制される このような作用によって AMPK は血糖降下作用や抗肥満効果を示すことが期待されている 本研究では AMPK の活性化によって発現調節される糖 脂質代謝関連遺伝子として 糖新生や脂質合成の材料となるグリセロールを透過する aquaporin 9(AQP9) に着目した ヒトの AQP には AQP0~12 の 13 種類のサブタイプが存在し 透過する分子の違いによって 2 つのグループに分類される 一方は水分子のみを透過する分子種であり 他方は水分子以外にグリセロールや尿素のような低分子溶質も透過する分子種である 特に後者は aquagulyceroporin(aqgp) と総称され ヒトでは AQP である 3) 現在 ヒトにおいてグリセロールチャネルとして知られる蛋白質は AQGP のみであり 糖新生や脂質合成が盛んにおこなわれる肝臓には AQP9 が多く発現している 4, 5) AQP9 によって肝臓に取り込まれるグリセロールは 糖新生や脂肪合成の材料となるため 糖新生や脂肪合成が抑制される AMPK 活性化時には AQP9 の発現が抑制されることが推察される そこで ヒト肝癌由来 HepG2 細胞に AMPK 活性化剤である 5-Aminoimidazole-4-carboxamide ribonucleoside(aicar) を処理したところ AQP9 mrna の発現抑制が認められたので AICAR による AQP9 転写調節機序を詳細に検討した 2.AQP9 遺伝子発現に及ぼす AICAR の影響 AICAR が AQP9 遺伝子発現にどのような影響を及ぼすかを HepG2 細胞において検討した HepG2 細胞に 各濃 度の AICAR を 24 時間処理した時 または 1 mm の AICAR を各時間処理した時の AQP9 mrna 発現量を real-time RT-PCR 法にて測定した AQP9 mrna 発現は 1 mm の AICAR を 12 時間処理することで有意に抑制された (Fig. 1A B) Fig. 1. Effect of AICAR on the AQP9 mrna expression in HepG2 cells. HepG2 cells were incubated with (A) various concentrations of AICAR for 24 h and (B) 1 mm AICAR for the period indicated. HepG2 cells incubated without AICAR were used as a control. The expression of mrna was quantified by the real-time RT-PCR method after total RNA was extracted. The results were normalized with the 2-microglobulin mrna levels and the mrna level of the control was taken as 100%. Data show the mean ± S.D. from five experiments. ** p<0.01, *** p<0.001 vs. control. 3.AICAR による AMPK の活性化を介した AQP9 mrna 遺伝子発現抑制 3.1.AMPK のリン酸化およびその活性に及ぼす AICAR の影響 AICAR は AMPK の活性化剤として用いられるが AICAR の作用発現に AMPK の活性化を介さないという報 告も少数存在する そこで HepG2 細胞において AICAR が実際に AMPK を活性化するかどうか また AICAR に よる AQP9 mrna 発現抑制に AMPK の活性化が関連して

72 70 横山雄一ら :AMPK を介した糖 脂質代謝調節に関する研究 いるか否かについて検討した 1 mm AICAR で処理すると AMPK のリン酸化は時間依存的に亢進した (Fig. 2A) また 100 M~5 mm の AICAR で 1 時間処理し AMPK 活性を測定したところ 1 mm と 5 mm の処理濃度にて AMPK 活性の有意な上昇が認められ その活性は AMPK 阻害剤 Compound C の前処理によって阻害された (Fig. 2B) Fig. 2. Effect of AICAR on the AMPK activation. (A) HepG2 cells were incubated with 1 mm AICAR for the period indicated. Cell lysate was prepared with lysis buffer containing SDS and 2-mercaptoethanol and forty g of protein from the lysate was separated by electrophoresis with a 10% SDS-polyacrylamide gel. After proteins in the gel were electroblotted on a PVDF membrane, AMPK alpha subunit (AMPK ) and phosphorylated AMPK were probed with anti-ampk antibody and anti-phospho-ampk (Thr-172) antibody, respectively, and visualized using a secondary antibody-peroxidase conjugate and the ECL system. (B) HepG2 cells were incubated with (open column) or without (filled column) 10 M Compound C for 1 h and subsequently treated with various concentration of AICAR for 1 h. Cell lysates were prepared with lysis buffer and relative AMPK activities were measured with AMPK Kinase Assay Kit. The data were indicated by measurement of dual wavelengths of 450/570 nm absorbance. Data show the mean ± S.D. from three experiments. ** p<0.01, *** p<0.001 vs. the cells treated without AICAR and Compound C. 3.2.AQP9 mrna 遺伝子発現に及ぼす AMPK 活性化 の影響 AICAR 処理によって抑制された AQP9 mrna 発現は Compound C の前処理によって有意に回復した (Fig. 3A) また 2 型糖尿病治療薬の metformin(mf) は AMPK の 活性化を介して血糖低下作用を示す そこで MF も AICAR と同様に AQP9 mrna 発現を抑制するかどうかを 調べた結果 MF は AQP9 mrna 発現を濃度依存的に抑制 した (Fig. 3B) Fig. 3. Effect of AMPK on the AQP9 mrna expression. (A) HepG2 cells were incubated with various concentrations of Compound C for 1 h and subsequently treated with 1 mm AICAR for 24 h. HepG2 cells incubated without AICAR and Compound C were used as a control. The mrna expression of AQP9 was analyzed by the real-time RT-PCR method after total RNA was extracted. The results were normalized with the -microglobulin mrna levels and the mrna level of the control was taken as 100%. Data show the mean ± S.D. from three experiments. ** p<0.01 vs. control, p<0.01 vs. the cells treated with AICAR and without Compound C. (B) HepG2 cells were incubated with various concentrations of metformin for 24 h. HepG2 cells incubated without metformin were used as a control. The expression of mrna was quantified by the real-time RT-PCR method after total RNA was extracted. The results were normalized with the -microglobulin mrna levels and the mrna level of the control was taken as 100%. Data show the mean ± S.D. from five experiments. ** p<0.01, *** p<0.001 vs. control. 4.AQP9 転写活性に及ぼす AICAR の影響 AQP9 転写開始点から上流 bp bp bp および -278 bp から +80 bp までのプロモーター領 域を pgl3 ルシフェラーゼベクターにクローニングし そ れぞれ プラスミド 2000pGL3 1480pGL3 512pGL3 および 278pGL3 とした これらを HepG2 細胞に導入し AICAR の AQP9 プロモーター活性に及ぼす影響について 調べた AICAR は完全には AQP9 転写活性を抑制しなか ったが AQP9 プロモーター配列の内 bp から bp までの領域 および -512 bp から -278 bp まで の領域に AICAR の関与によって調節を受ける DNA 配列 が存在することが示唆された (Fig. 4A) 従って 上記の 2 種類の配列間に結合領域を持ち かつ AICAR によって 活性調節される転写因子を検索したところ Foxa2 を見出 した そこで Foxa2 が AQP9 の転写活性を調節するかど うかを確認するため HepG2 細胞に Foxa2 sirna をトラ ンスフェクトし Foxa2 発現を抑制したところ AQP9 mrna 発現は有意に抑制された (Fig. 4B) 従って 転写 因子 Foxa2 は AQP9 mrna の転写亢進に寄与していること が示唆された

73 岐阜薬科大学紀要 Vol. 62, (2013) 71 現量の変化を real-time RT-PCR 法にて測定した (Fig. 4C) Foxa2 mrna 量は AICAR 処理開始から 16 時間後までは変化せず 24 時間処理後に わずかに減少した AICAR による AQP9 mrna 発現の抑制作用は AICAR 処理 12 時間後には確認されているので AICAR による Foxa2 発現調節が AQP9 の発現抑制には関与しないことが示された 5.AICAR による AQP9 遺伝子発現への PI3K/Akt 経路 の関与 5.1.AICAR による Akt のリン酸化 Leclercら 6) は 急性リンパ性白血病細胞において AICARによってAMPKが活性化されると AktのThr-308 残基 およびSer-473 残基のリン酸化が亢進することを報告している そこで 本実験系における AICARによるAktのリン酸化亢進について検討した Fig. 5に示すように Akt の2つのリン酸化部位 ( Thr-308 Ser-473) は 1 mm AICAR 処理開始から6 時間後をピークとして リン酸化されることが確認された Fig. 4. Transcriptional regulation of AQP9 gene by AICAR. (A) HepG2 cells were co-transfected with the reporter vector containing the promoter region of AQP9 gene and a reference plasmid, phrl-tk. Transfected cells were maintained in the regular culture medium for 24 h and further cultured with or without 1 mm AICAR for 24 h. Cell lysates were prepared after the incubation and luciferase activities were measured with a Dual-Luciferase Reporter Assay System. Firefly luciferase activity was normalized with Renilla luciferase activity and is expressed relative to the control treated without AICAR. Data represent the mean ± S.D. from five experiments. ** p<0.01, *** p<0.001 vs. 2000pGL3 treated with AICAR. (B) Foxa2 sirna and control sirna were transfected to HepG2 cells with lipofectamine 2000 and incubated for 24h. The suppression of Foxa2 mrna levels was measured by RT-PCR and AQP9 mrna levels were quantified by the real-time RT-PCR method after total RNA was extracted. The results were normalized with the 2-microglobulin mrna levels and the mrna level of control sirna treatment gruoup was taken as 100%. Data show the mean ± S.D. from three experiments. ** p<0.01 vs. cells treated with control sirna. (C) HepG2 cells were incubated with 1 mm AICAR for the period indicated. The expression of Foxa2 mrna was quantified by the real-time RT-PCR method after total RNA was extracted. The results were normalized with the 2-microglobulin mrna levels and the mrna level of 0 h was taken as 100%. Data show the mean ± S.D. from four experiments. ** p<0.01 vs. 0 h. AICAR による Foxa2 を介した AQP9 mrna 発現抑制機 構を調べるため 先ず AICAR 処理による Foxa2 mrna 発 Fig. 5. Phosphorylation of Akt by AICAR in HepG2 cells. HepG2 cells were treated with 1 mm AICAR for the period indicated. Cell lysate was prepared with lysis buffercontaining SDS and 2-mercaptoethanol, and 40 g protein from the lysate was separated by electrophoresis with a 10% SDS polyacrylamide gel. After proteins in the gel were electroblotted on a PVDF membrane, phosphorylated Akt (Thr-308), phosphorylated Akt (Ser-473), and Akt were probed with anti-phospho-akt (Thr-308) antibody, antiphospho-akt (Ser-473) antibody, and anti-akt antibody, respectively, and visualized using a secondary antibody-peroxidase conjugate and the ECL system PI3K/Akt 経路に及ぼす AICAR の影響 血糖降下ホルモンである insulin は PI3K/Akt 経路を活性化 することが良く知られている また insulin は AQP3 AQP7 AQP9 の mrna 発現を抑制することが報告されている そ こで HepG2 細胞において insulin の AQP9 mrna 発現に及 ぼす影響を確認したところ AQP9 mrna 発現量は insulin 処理によって濃度依存的に抑制された (Fig. 6A) さらに AICAR による AQP9 mrna 発現の抑制への Akt1/2 インヒビターと PI3K 阻害剤である Wortmannin の影 響について検討した (Fig. 6B) その結果 AICAR 処理に よって抑制された AQP9 mrna 発現は Akt1/2 インヒビタ

74 72 横山雄一ら :AMPK を介した糖 脂質代謝調節に関する研究 ーの前処理により回復が見られたが Wortmanninでは回復しなかった この結果から AICARはAMPKの活性化を介してAktのリン酸化を亢進するが insulinのようにpi3k 経路の活性化を介さないことが示唆された Fig. 6. Effects of PI3K and Akt on AQP9 mrna expression. (A) HepG2 cellswere incubated with various concentrations of insulin for 12 h or (B) preincubated with inhibitors for 1 h and then treated with 1 mm AICAR for 24 h. HepG2 cells incubated without insulin, AICAR, and inhibitors were used as a control. The expression of AQP9 mrna was quantified by real-time RT-PCR after total RNA was extracted. The results were normalized with the 2-microglobulin mrna levels and the mrna level of the control was taken as 100%. Data show the mean ± S.D. of four experiments. *** p < vs. control, p < 0.01 vs. cells treated with AICAR and without Akt inhibitor. 6.AICAR による Foxa2 の調節 Fig. 4 では AICAR による AQP9 遺伝子発現の抑制に 転写因子 Foxa2 が関与していることを示したが 1 mm AICAR 24 時間処理は Foxa2 mrna 発現を 35% 程度しか抑制させなかったため Foxa2 による AQP9 mrna 発現調節は転写因子の量的な制御機構では無く Howell と Stoffel ら 7) の報告のように Foxa2 の核外輸送による制御が行われているのではないかと考えられた そこで HepG2 細胞内の Foxa2 の局在性を調べるため Foxa2 抗体を用いた免疫染色法および細胞分画を行った各画分について Western blotting を行った (Fig. 7A B) HepG2 細胞に 1 mm の AICAR を 12 時間処理することで Foxa2 は核画分から細胞質画分へ移行した Foxa2 タンパクの核外移行メカニズムとして 核外輸送体 CRM1 が Foxa2 分子中の核外輸送シグナル (NES) に結合することで Foxa2 タンパクを核外に輸送することが知られている そこで AICAR による Foxa2 の核外移行に対する CRM1 の関与について検討した CRM1 の阻害剤である leptomycin B(LMB) を HepG2 細胞に 1 時間前処理し その後 AICAR で 12 時間処理した その結果 AICAR による Foxa2 の核外移行は LMB によって阻害されることが確認された (Fig. 7D) さらに Fig. 7C Fig. 7. CRM1-dependent nuclear export of Foxa2 by AICAR. (A) HepG2 cells were treated with or without 1 mm AICAR for 12 h. After permeabilizing and blocking the fixed preparation with 0.05% Triton-X and 1% BSA, respectively, cells were probed with anti-foxa2 antibody and subsequently visualized using a secondary antibody-rhodamine conjugate (red). Nuclear staining was performed with Hoechst (blue). The preparation was examined under a confocal laser scanning microscope. (B) HepG2 cells were treated with 1 mm AICAR for the period indicated, (C) preincubated with or without 10 ng/ml leptomycin B (LMB) for 1 h and then treated with 1 mm AICAR for 12 h. HepG2 cells incubated without AICAR and LMB were used as a control. Cells were subsequently fractionated to cytosol and nuclear fractions. Ten micrograms of protein from cytosol fraction and 5 lg protein from nuclear fraction were separated by electrophoresis with a 10% SDS polyacrylamide gel. (D, E) HepG2 cells were treated with 1 mm AICAR for 12 h or without AICAR as a control. Cell lysate was prepared with lysis buffer and was subsequent to immunoprecipitation with anti-foxa2 antibody. The precipitant was collected by protein A/G agarose and separated by electrophoresis with a 10% SDS polyacrylamide gel. After proteins in the gel were electroblotted on a PVDF membrane, PARP, GAPDH, Foxa2 and phosphorylated threonine residues in Foxa2 were probed with corresponding specific antibodies and visualized using a secondary antibody-peroxidase conjugate and the ECL system.

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