Microsoft Word - p docx

Transcription

1 17.ALS 患者にむけた操作性と作業効率の向上を考慮した意思伝達装置の開発 松田健太 ( 神奈川県総合リハビリテーションセンター ) 菅野達也 ( 神奈川県総合リハビリテーションセンター ) はじめに 四肢に麻痺がある方は 個々の身体状況に合った方法でコミュニケーションをとっている 筋萎縮性側索硬化症 (amyotrophic lateral sclerosis, 以下 ALS) などの進行性の難病では 症状の進行状況を把握し そのときの身体状況に合わせたコミュニケーション方法を検討する必要がある ALS は進行の速度やどの部位から進行するかは個人差があり 身体状況や残存機能を的確に把握することが大切となる 現在 様々なコミュニケーション機器やスイッチが市販されている 進行が進み四肢を動かすことが困難になった場合でも視線を利用して入力が可能な機器や瞼の動きを感知するスイッチなどを使用することで周囲の人に対する意思表示や友人にメールを送るなど自分の意思でコミュニケーションをとることが可能となっている しかし そのようなハイテクをもちいた機器の導入には 明確な必要性や適合の評価をした上で公費の申請をする必要があり 支給され安定して導入するまで時間を要する場合もある 文字盤や透明文字盤はローテクな道具ではあるが実際に用いられることも多く 慣れた間柄になれば意思の疎通はスムーズであり有効な道具の一つである インターネット社会となった現代では インターネット上で買い物をすることや友人とのメールの交換 SNS を利用した交流や情報を得ることは日常生活の一部となっている 特に病気や障害により外出することが困難である方にとってインターネットを使用することで知りたい情報を容易に入手できることやメールや SNS によって気軽に連絡することができることは QOL の向上の一助となっている 目的 四肢の機能を完全に失った場合 頭部に残る機能を利用してコミュニケーション機器の操作やスイッチ操作をおこなう その中には視線の動きを利用したコミュニケーション機器や瞼の動きを利用したスイッチなどがある 今回開発する機器は前述した機器を使用する前の段階において 通常のマウスやキーボードでのパソコン操作をすることが困難になった時期からワンボタンでのパソコン操作が必要となる間の方を対象とした 症状の進行は個人差があるため2つのコンセプトを定め 2 種類のハードウェアを制作することとした また OS(Windows や Mac OS 等 ) にはソフトウェアキーボードが標準搭載されてい 81

2 るが 一つのスイッチを使用してカーソル操作等をしている方から使いづらいといった声 も聞かれたことからからコンパクトでシンプルな操作のソフトウェアキーボードの開発も おこなう 最近では ipad などのタブレット機器やスマートフォンなどで様々な形態のソフ トウェアキーボードが使われており それらを検証し開発を進める ハードウェア概要 ポイントマウス この機器は 感知部を接触しながらスライド することでカーソルを操作することができる たとえば感知部を移動する指先のわずかな動き クリックポイント でマウス操作が可能である クリック操作はク リックポイントをタッチすることで反応する そのほかに外部スイッチを接続してクリック操 作することも可能である このマウスはレーザ 感知部 ー式のマウスを採用している レーザーマウス とブルートラックマウスの動作を比較したとこ ろ レーザーマウスの方がスムーズであった アングルマウス こちらの機器はセンサー部を可動部位に装着 ポイントマウス し傾けることでカーソルを移動させることがで きる 手指の細かい動きを失っても角度をつけ ることのできる可動部があれば操作することが できる クリック操作は クリックポイントを タッチすることで可能 この機器においても外 部スイッチを接続してクリックすることも可能 である 機器評価 パレットマウス 通常のマウスと比較して小さな動作での操作 が可能である 身体状況に合わせてマウス周囲 にパット等で可動部の位置調整することで操作 性が向上する 課題としては カーソルの繰り 返し移動や他の方向へ動かす際に感知部を通過 するとカーソルが動いてしまうので その際は 浮かす必要がある これは麻痺のある利用者に 82 操作イメージ

3 とっては疲労や誤動作の原因となる 現在はパソコンとの接続が有線接続となっているが設置場所の自由度を増やすためにも無線接続を考慮する必要がある アングルマウス手に限らず頭部等でも操作が可能であり センサーの取り付け位置には自由度がある 傾けるだけで操作が可能なので筋力の落ちている方において疲労を抑えることができる 不随意運動がある方の場合 マウスの誤動作が増えてしまうため適応ではない ポイントマウス同様に無線接続を考慮する必要がある クリック用外部スイッチ センサー部 アングルマウス ソフトウェア概要 OS に付属しているソフトウェアキーボードは 一般のキーボードの文字配列になっており カーソルで操作するには移動距離が長いといったことがある それと比較してスマートフォンなどのソフトウェアキーボードでは画面が小さいことから コンパクトな文字配列のソフトウェアキーボードも付属されている 今回 それらを参考に小さなスペースと動作で入力ができるソフトウェアキーボードの作成おこなった ベースとなる文字配列はスマートフォン等でも使用されている従来の携帯電話のものを模範した その配列は多くの人が使用したことがあり 新たな文字配列を覚えるよりも容易に使いこなすことができると考えられる あ~わ行の頭文字をクリックするとその上部に扇形になるようにその行の文字が表示され 任意の文字をクリックすると文字が入力される 入力された文字はサブボックスに一旦表示され必要な変換等をおこない 決定すると文字入力が完了する ソフトウェア評価 キーボード配列のものと比較して 入力時の移動量は減少した 文字選択が2 段階になっているため 入力速度には明確な差はみられなかった 今後の課題としては 定型句を入力ができるようにすることや予測変換機能を搭載するなどが挙げられる OS に搭載されているソフトウェアキーボード 83

4 スマートフォンのソフトウェアキーボード例 サブボックス 製作中のソフトウェアキーボード文字列 考察 小さな動きや残存機能を活かしたマウス操作は一つの可能性を提案できたと考えている 機能低下により普段使用していたパソコンからコミュニケーション機器への切り替え時期は精神的なダメージも考慮しなければならず 選択肢が増えることはそれらの緩和剤となることを期待している 個々による残存機能の違いなどから1つの機器で適合できる方は限られ販売台数が予測しづらいといったことから 今回製作したような機器の市販化には課題がある 評価で挙げた課題をクリアするとともに自由度と応用力のある機器を目指したいと考えている ソフトウェアキーボードに関しては 入力速度の向上のため異なる文字配置や入力方法の検討が必要である その後 定型句の入力や予測変換等のオプションを加えられるよう開発を継続していきたいと考えている おわりに コミュニケーション機器を有効に活用することは 障害のある方にとって QOL の向上を図るために不可欠である それらの機器を活かすためには 個々に合わせたセッティングや適合が必要であり それには支援技術が重要である 最近では スマートフォンやタブレット機器の普及により様々なアプリケーションがあることや音声入力の性能向上 外部 84

5 スイッチでの操作の可能性が高まるなど利用者にとっては選択肢が広がっている そういった最新機器やソフトウェアの動向を把握し活用することは大切であるが パソコンが使えるようになることや操作性の向上を目指したマウスやキーボードを工夫するニーズもなくならないと考えている 今後はさらにハイテクとローテクを組み合わせたコミュニケーション支援が増加すると思われる 参考文献 1) 河合俊宏 :ALS に対する埼玉県内保健所の情報提供に関する調査第 15 回リハ工学カンファレンス講演論文集, ,2000 2) 河合俊宏 :ALS に対する埼玉県内保健所の方法提供に関する調査第 2 報第 16 回リハ工学カンファレンス講演論文集,99-100,2001 3) 河合俊宏 : 重度障害者用意思伝達装置に関する支援過程とフォローアップに関する検討第 24 回リハ工学カンファレンス講演論文集, ,2009 4) 河合俊宏 : 筋萎縮性側索硬化症患者用の開眼随意動作計測装置の開発第 25 回リハ工学カンファレンス講演論文集, ,2010 5) 六名泰彦 : 頸髄損傷者のための片手操作マウスの開発, 第 23 回リハ工学カンファレンス講演論文集,81-82,2008 6) 重度障害者用意思伝達装置 導入ガイドライン検討委員会: 重度障害者用意思伝達装置 導入ガイドライン ~ 公正 適切な判定のために~, 平成 22 年度改訂版 経費使途明細 使途内容 金額 電子部品購入費 ( マウス 各種センサ 基盤 ) 48,000 試作製作費 ( 試作関連の各種材料等 ) 89,000 ソフトウェア開発費 ( 調査費 書籍 ライセンス等 ) 112,500 記録用機材購入費 ( カメラ カメラ付属品等 ) 52,800 合計 302,300 85