公共経済分析I

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1 公共経済分析 I 1 講義ノート 8 佐藤主光 ( もとひろ ) 一橋大学経済学研究科 政策大学院

2 公的供給と非効率性 2

3 公的供給の非効率性 公共財 私的財を公共部門で生産することに伴う非効率性 生産の非効率性 費用最最小化 営利 を追求しない 費用最小化は利潤最大化の 必要条件 - 競争原理が働かない 共助 協働の理念は効率化を意味しない - 公共部門は ( 原則 ) 破綻しない 消費の非効率性 - 消費者のニーズに即した提供がなされない 3

4 ゴスプラン 方式の限界 政府 ( 公共部門 ) 内の従来の予算 ( 資源 ) 配分 - 政府 ( 官庁 ) が政策的意図 ( 例 : 僻地医療の拡充 均衡ある国土の発展 ) の下に 計画 中央優越主義 = Father Knows Everything 国が予算配分の効果の詳細を予め知ることは不可能 = 情報の 非対称性 不完全性 ー集権から分権へー計画から競争へー統制から誘因づけへー事前規制 ( 許認可 ) から事後評価 4

5 公共 ( 政府 ) 部門の効率性 効率性 ミクロ効率性 公共サービス 財供給費用の最小化 公共サービス 財配分の効率性 財源確保の効率性 マクロ効率性 公共部門規模の効率性

6 効率性あれこれ 効率性 含意 生産サイドの効率性 = 生産効率性生産と消費の効率性消費サイドの効率性 技術的効率性配分効率性 (= 費用最少化 ) ( 交換効率な ) 限界便益 =( 最少化された ) 限界費用交換効率性 配給 割当

7 図 1: 生産非効率性 産出量 =y A: 実行不可能 B y=f(l) アウトプットで測った非効率性 D = 同じインプットで増加可能なy インプットで測った C: 実行可能だが非効率的非効率性 = 同じy で節約可能なインプット 0 生産要素 7

8 K 図 2: 費用非効率性 費用最小化 =C(y, w, r) E 配分非効率 B A: 技術非効率 0 L 8

9 非効率性あれこれ 生産の非効率性 A 非効率的な限界費用 均衡 j MB j D E B C 最小化された限界費用 生産とニーズのミスマッチ e * X 0 X Xˆ X 9

10 公的供給と市場原理 10

11 公共と民間の二分論 目的 各人の行動原理 他の主体との関係 民間部門 営利 = 利潤 自己利益の追 求 = 利潤最大 化行動 競争関係 ( 弱肉強食 ) 公共部門 非営利 社会厚生 ( 公益 )? 公益の追求 連帯 共助 11

12 通念 (?) と実際 公共部門は非営利 = 公共の利益を追求 営利を追求しないことは公共の利益を追求することは意味しない 余剰金は社会に還元されるのではなく理事長室の 分厚い絨毯 に消えるかもしれない 公共部門に競争原理は馴染まない 競争原理の導入 = 民営化 ( アメリカ化 ) 公共部門内でも補助金や予算を巡る 競争 原理はある ( パイの奪い合い= 悪い競争 ) 民間委託 PFI 市場化テストなど公共施設の建設 運営 政策の執行に民間のノウハウと競争を取り入れる試みは欧州 12 諸国 ( 福祉国家 ) でもある

13 公共部門の効率化 公的供給 公的生産例 : 公的医療 介護制度は民間 ( 営利を含む ) 事業者によるサービス提供を排除しない 官と民の役割分担 - 政策立案 ( グランドデザイン ) 主体としての公共部門と執行主体としての民間部門 (NPM) 政策手段としての市場原理の活用 政策評価 = 公共サービスの質への評価と事後的規制 公共部門からの執行部門の切り離し ( 人員 施設の所有から契約へ ) 柔軟な行財政運営が可能 13

14 参考 : 異文化交流? 公共 お金の使い方 評価の視点 結果責任 (?) 予算は年度内に消化 ( 使い切る ) 手続き重視 自己評価 取らない ( 純然たる ) 民間 経費は節約 = 利益を出す 成果重視 市場 ( 外部 ) が評価 取らされる 民間の公共部門への算入 公共部門の人材の民間での活用 ( 相互交流 ) を困難にする? 14

15 政策実験と 失敗する権利 異なった事業主体 ( 自治体 保険者など ) が公共サービス ( 教育 医療など ) の質の向上 費用の適正化に向けて様々な試みを行う 政策実験 ( 試行錯誤 ) が可能 政策実験を通じて適正なサービス提供を 発見 = ベスト プラクティス 例 : 一定の成果を挙げている保健事業 ( 事後指導等 ) の取り組みについて検証を行ったうえで 科学的根拠に基づいた効果的な手法の管理 普及を図る 検証のためのサンプルを提供 15

16 NEW PUBLIC MANAGEMENT とは? 業績 成果に基づくコントロール : 経営資源の使用に関する裁量を広げる一方 業績 成果に基づくマネジメント 市場によるコントロール : 民間委託 民営化 市場化テスト等市場メカニズムの採用 顧客主義への転換 : 顧客としての住民 組織内ヒエラヒーの簡素化 執行部門と企画部門の分離 ( 執行部門に市場原理 ) 規制 から 契約 へ( 民間委託 PFI, 市場化テスト等 ) 事前的規制 ( 許認可 ) から事後的規制 ( モニタリング ) へ 手続き から 成果 に基づく予算運営へ 16

17 公的生産の範囲 公的供給 生産 資産の保有 国防 学校 設備 = 民間生産 公的保有人員 = 公的雇用 医療 民間病院 設備 = 民間生産 民間保有 住宅 賃貸借り上げ 公共部門と契約 公共施設 (PFI) 施設 = 民間生産 民間運営施設 = 公的保有 17

18 K 公的供給と民間委託 C = 費用の節約 民間委託 = 費用最小化の工夫 公的供給 =X の確保 K 0 E K 1 w / r 0 L 0 L 1 L F X = F( K, L) 18

19 公的供給と公的生産 ( その 2) 費用最小化問題 : - アウトプット ( 最低水準 ) の選択 = 公共 - インプットの選択 費用最小化 = 民間 Min { K, L } subject to rk + wl F( K, L) y 民間生産 公的供給 最小費用 = 費用関数 19

20 新しい公共経営 閉鎖系 から 開放系 へ 公共と民間の区分を開放 (= 文化の統一 ) 限界 のコントロールから 最低水準 ( ナショナル ミニマム ) の担保へ 国 官の役割 = 重要な公共サービス ( 例 : 医療 介護 義務教育 ) の成果 (= 質 ) で測った最低水準の確保 地方 民間の役割 = 住民のニーズの発見とそれに即したサービス供給 ( 柔軟性 効率性 ) 20

21 政策の 3 段階 政策従来型新しい公共経営 企画 =デザイン 公共 ( 国 ) 公共 ( グランド デザイ ン ) 財源確保 = ファイナンス 執行 = 運営 ( 施設の保有 人員の雇用 ) 公共 ( 国 ) 公共 ( 国の出先機関 地方 ) 民間も可 (PFI) 民間 ( 委託等 ) 21

22 NPM の基本的アイディア 出所 : 大住 ( フィナンシャル 22 レビュー 2005 年 5 月号 )

23 民間活用あれこれ 執行段階における民間活用の形態民間委託指定管理者制度 市場化テスト PFI 特徴 公共施設 ( 病院等を含む ) の管理 運営を民間事業者に委託委託先は競争入札で決定 政策執行の契約を公共 ( 従来の事業主体 ) と民間 ( 新規参入主体 ) で競争例 : 社会保険料の徴収保育施設運営 施設 事業の建設 資金調達 管理 運営を一括的に民間事業者に委託例 : 公共施設 ( 官庁等 ) 公立病院 学校 23

24 スポンサーとしての国 自治体 管理競争 の視点 =Supplier( 当事者 ) から Sponsor( レフリー ) へ 公共サービスの 生産者 から 供給者 へ例 : 病院 福祉施設の民間委託 = 公的供給 民間生産 国 自治体の役割 競争 契約のルールの作成 誰が提供しているかではなく 何を提供しているかに拠る スタンダード ( 最低基準 ) の設定 事業者の監視 パフォーマンスの評価 利用者への情報提供 利害対立の仲裁 24

25 民間委託はうまくいかない? 民間委託に加えて 補足的改革 が必要 事後的モニタリング ( 成果評価 ) 民間委託事後的モニタリングなし なし 現状 あり 質の低下 高コスト? あり サービスの質の向上 効率化 25

26 PFI(PRIVATE FINANCE INITIATIVE) 26

27 出所 :PFI 推進委員会資料 27

28 要するに 費用最小化の前提条件 = 所定のアウトプットに対してあらゆる ( 可変 ) 生産要素を選択可能 一括契約で実現! 仕様契約 ( 事業の詳細を規制 ) から性能契約 ( 成果の水準を契約 ) へ 事前規制から事後規制 結果 ( 成果 ) を評価 行政の機能 = 委託事業者の契約の履行を監視 サービス購入型公共セクターからの支払い 道路 官庁施設など 独立採算型料金収入で運営公共施設 28

29 出所 :PFI 推進委員会資料 29

30 VFM= 費用の軽減 30

31 PFI の基本的な仕組み PFI= 設計 建設 維持管理 運営の全ての業務を長期一括契約 既存の公共事業 = 設計 建設 維持管理 運営等各業務を分割 年度ごとに発注 画一的 五月雨的 な着工 31 出所 :

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33 出所 :PFI 推進委員会資料 33

34 出所 :PFI 推進委員会資料 34

35 PFI の事例 既存施設を改修もしくは増設した事業 多摩地域ユース プラザ ( 仮称 ) 整備等事業 ( 東京都 ) 四日市市立小中学校施設整備事業 ( 三重県四日市市 ) 新総合福祉 ボランティア NPO 会館 ( 仮称 ) 等整備事業 ( 岡山県 ) 横浜市下水道局改良土プラント増設 運営事業 ( 神奈川県横浜市 ) 町村による事業 留辺蘂町外 2 町一般廃棄物最終処分場整備及び運営事業 ( 北海道留辺蘂町 ) とがやま温泉施設整備事業 ( 兵庫県 / 八鹿町 ) 山陽町新型ケアハウス整備事業 ( 山口県山陽町 ) 八雲村学校給食センター施設整備事業 ( 島根県八雲村 ) など 出所 : 35

36 出所 :PFI 推進委員会資料 36

37 PFI はうまくいかない? PFI の失敗事例もあり : - タラソ福岡 ( 代表企業 : 大木建設 他 19 社が出資 ) - 高知医療センター整備運営事業 - ひびきコンテナターミナル PFI 事業 ( 北九州市 ) - 名古屋港イタリア村 PFI は 万能薬 ではない PFI だから失敗が 露呈 した? 従来型の公共施設であれば 税金 ( 一般会計 ) からの補てんで赤字隠しが可能 = 問題の先送り PFI の問題か 既存の規制の問題か? 37

38 現実 は間違える? 進まない PFI 事業 民間委託の弊害の現在化 現実 が間違える? 現実 = 周辺の現行体制 規制 ( 許認可 ) 行政の監視能力 公務員人事制度 旧来型公共事業 現行体制 改革 PFI 等民間活用 弊害 不活発 38

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40 民間事業者の許認可に関する意見 SPC が警備業の許可を取得しなければならない 警備業法第 4 条 給食センター PFI 事業における食品営業許可の取得に関して事業会社 (SPC) が取得 食品衛生法第 52 条及び第 53 条 高度管理医療機器等の販売業 賃貸業の許可を SPC が取得 管理さを設置 薬事法第 39 条 常駐の有資格者をSPCに配置する必要が生じ 定期的な講習会への出席が義務づけられているため 継続的に交通費等が発生することとなった 警備業法第 4 条 SPC に 食品衛生責任者 の有資格者が在籍しなければならいが 通常 SPC は各構成企業から派遣された取締役 監査役のみの在籍となっており 給食センター運営の実務者でない者が在籍することがほとんどであることから SPC 内での有資格者の在籍が皆無 AED( 自動体外式除細動器 ) を施設に設置する際 SPC で購入して納入する必要があった為 高度管理医療機器等販売業 賃貸業の許可を新たに取得しなければならなかった 40

41 何故 PFI か? 41

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43 何故 民間活用 (PFI 等 ) か? 大きな政府 ( 福祉国家 ) には効率的な公共経営が不可欠 所定のサービス水準を最小限のコストで実現 大きな政府 非効率な政府 福祉国家でも多くの活用事例 公共部門の財政悪化 無駄を許容する余地はない 今後見込まれる多額の社会インフラ更新と乏しい財政的余地 民間資金の活用 民間事業者と公共部門の 同床異夢? 民間が参入したい分野 ( 収益性の高い分野 ( 独立採算型 )) と公共が委託したい分野 ( コストの嵩む事業 ) が異なる? 43

44 小さな政府 効率的な政府 民間部門 = 市場財 A ( 相対的に ) 小さくて効率的な政府 D B 生産可能性フロンティア 小さくて非効率的な政府 C ( 相対的に ) 大きく効率的な政府 公共部門 = 政府提供財 44 0

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47 同床異夢? 民間 公共 ( 地方自治体等 ) PFI の目的 利益 ビジネス機会の追求 財政コスト ( 支出 ) の抑制 優先する事業 収益性の高い事業 コストの嵩む事業 47

48 収益性と公共性 収益性と公共性は矛盾しない 国 地方とも財政難 公共施設 サービス提供の 持続税 が問われている 公共施設に収益事業を抱き合わせ 公共性を持続させるための収益性の確保 48

49 公共施設の運営を通常のビジネス経営 財務戦略に近づける 施設に 擬似的 所有権を設定 49