最近の海外情勢と今後の景気見通し

Transcription

1 Bank of Japan SHIMONOSEKI BRANCH 最近の海外情勢と 今後の景気見通し 金曜会にて 216 年 3 月 24 日日本銀行下関支店長 鈴木純一 当資料から文章 計数 図表等を引用される場合には 予め 日本銀行下関支店まで連絡いただきますようお願いいたします

2 I. 最近の海外情勢 II. 今後の景気見通し 2

3 日銀の景気判断 (216 年 3 月 15 日 ) わが国の景気は 新興国経済の減速の影響などから輸出 生産面に鈍 さがみられるものの 基調としては緩やかな回復を続けている リスク要因としては 中国をはじめとする新興国や資源国に関する不透明感に加え 米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融資本市場に及ぼす影響 欧州における債務問題の展開や景気 物価のモメンタム 地政学的リスクなどが挙げられる こうしたもとで 金融市場は世界的に不安定な動きが続いており 企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し 物価の基調に悪影響が及ぶリスクには引き続き注意する必要がある 3

4 IMF の世界経済見通し ( 1 月 ) 国 地域別の成長率見通し ( 前年比 %) 214 年 ( 実績 ) 215 年 ( 実績見込み ) 216 年 ( 見通し ) 217 年 ( 見通し ) 先進国 (.1) 2.1 (.1) 米国 (.2) 2.6 (.2) ユーロ圏 (.1) 1.7 (.) 英国 (.) 2.2 (.) 日本 (.).3 (.1) 新興国 途上国 (.2) 4.7 (.2) 新興アジア (.1) 6.2 (.1) 中国 (.) 6. (.) インド (.) 7.5 (.) ラ米 ( 1.1) 1.6 (.7) ブラジル ( 2.5). ( 2.3) 新興欧州 (.1) 3.4 (.) CIS 諸国 (.5) 1.7 (.3) ロシア (.4) 1. (.) 世界計 (.2) 3.6 (.2) ( 注 )216 年 1 月時点 ( ) 内は 215 年 1 月時点の見通しとの差 インドは年度ベース ( 出所 )IMF 4

5 I M F 見通しの修正状況 先進国新興国 途上国世界計 ( 前年比 %) 年 216 年 年 /4 1 14/4 1 15/4 1 16/1月 ( 出所 )IMF 6.2 ( 前年比 %) 年 年 年 /4 1 14/4 1 15/4 1 16/1月 4.6 ( 前年比 %) 215 年 年 年 /4 1 14/4 1 15/4 1 16/1月 5

6 中国初の金融市場の混乱 上海総合指数と創業板指数 人民元スポットとオフショア人民元 (199/12/19=1) (215/5/31=1,) 5,5 5, 4,5 4, 3,5 3, 2,5 上海総合指数 2, 創業版指数 ( 右目盛 ) 1,5 15/1 15/5 15/9 16/1 ( 注 ) 直近は 2/1 日 4, 3,5 3, 2,5 2, 1,5 1, ( 元 / ドル ) スポットレート オフショア人民元 /1 15/5 15/9 16/1 ( 注 ) 直近は 2/1 日 6

7 (総固定資本形成 前年比 % 中国 過剰債務問題と積極的な財政支出 実質 GDP 資本ストック循環 財政支出 ( 前年比 %) 第 3 次産業 ( その他 ) 第 3 次産業 ( 金融 ) 第 2 次産業第 1 次産業 GDP 成長率 IMF 見通し % 成長 % 成長 95 年 1% 成長 9 年 15 年の I/K 比率 13 年)14 年 5 15 年 6% 成長 7% 成長 ( 前年のI/K 比率 %) ( 前年比 寄与度 %) 地方政府支出中央政府支出政府支出計 ( 注 ) 実績の直近は 4Q ( 出所 )CEIC IMF OECD 世銀 ( 出所 )CEIC HAVER Penn World Table ( 注 ) 実質資本ストックは Penn World Tableの推計値 (211 年まで ) を利用 (212 年以降は 総固定資本形成を用いた国際局試算値 ) 215 年については 1-9 月の実績を用いた試算値 財政支出の7 割強が政府最終消費支出 ( 注 ) 直近は4Q ( 出所 )CEIC WEOD 7

8 メキシコタイ香港韓国台湾中国チリブラジルインド南アフリカポーランドトルコオーストラリアフィリピンハンガリーシア(16 年初 ~ 直近までの騰落率 %) ーシアネシアポール中国 資源国など新興国への連鎖 新興国通貨騰落率 ( 対ドル ) 中東のフォワードレート ( 対ドル ) ロシンガインドマレ ( リヤル ディルハム ) ドル高 自国通貨安 サウジアラビア リヤル UAE ディルハム 4. 14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 ( 注 ) 直近は 2/1 日 ( 出所 )Bloomberg ( 注 1) 直近は 2/1 日 ( 注 2) フォワードレートは 2 年もの ( 出所 )Bloomberg Rightmove plc 8

9 中国 原油価格 新興国への波及 原油価格 ( ブレント ) ( ドル / バレル ) 直近安値 :27.88 ドル (1 月 2 日 ) 直近終値 :34.24 ドル 需 要 中国減速懸念 リスクプレミアム金融市場の不安定化 新興国の減速懸念 資金フロー投資家のリスクアペタイト ドル (8 年 12 月 ) ドル (1 年 11 月 ) 原油安 生産競争の長期化懸念 サウジ イランの対立激化 = O P E C の 合意困難化 ( 注 ) 直近は 2/1 日 ( 出所 )Bloomberg 9

10 ロシア 厳しい経済情勢 実質 GDP 生産と自動車販売 財政収入 ( 前期比年率 %) ( 月平均 対名目 GDP 比 %) ( ドル / バレル ) 12 その他収入資源関連収入 1 原油価格 ( 右目盛 ) 個人消費 政府消費 総固定資本形成 純輸出 GDP 成長率 IMF 見通し ( 注 ) 実績の直近は 3Q ( 出所 )CEIC IMF 世銀 ( 注 ) 直近は 4Q ( 出所 )CEIC HAVER ロシア中央銀行 ( 注 ) 直近は原油価格が 4Q(1 月 ) その他が 3Q ( 出所 )CEIC HAVER Bloomberg 1

11 ブラジル より厳しい経済情勢 実質 GDP 生産と自動車販売消費者物価 1 5 ( 前期比年率 %) ( 前年比 %) ( 月平均 万台 ) 自動車販売 ( 右目盛 ) 鉱工業生産 純輸出 総固定資本形成 政府消費 個人消費 -1 GDP 成長率 IMF 見通し ( 注 ) 実績の直近は 3Q ( 出所 )CEIC IMF 世銀 ( 注 ) 直近は鉱工業生産が 4Q(1-11 月 ) 自動車販売が 4Q ( 出所 )CEIC ブラジル中央銀行 11

12 米国 欧州 株価 長期金利 為替レート 米 ユーロ圏株価米 独 1 年債金利米ドル ユーロ相場 (215 年初 =1) 米国 ユーロ圏 (%) (%) (215 年初 =1) 米ドル ユーロ 米国ドイツ ( 右目盛 ) /1 15/4 15/7 15/1 16/ /1 15/4 15/7 15/1 16/ /1 15/4 15/7 15/1 16/1 ( 注 ) 直近は2/1 日 ( 出所 )Bloomberg ( 注 ) 直近は2/1 日 ( 注 ) 直近は2/1 日 ( 出所 )Bloomberg ( 注 ) 名目実効レート 12

13 米国 輸出は弱いが 内需は良好 実質 GDP 実質輸出 雇用者報酬 ( 前期比年率 %) 鉱業投資 家計支出 純輸出 その他 GDP 成長率 IMF 見通し ( 前期比 %) 国外経済要因為替要因実質輸出 ( 実績値 ) 実質輸出 ( 推計値 ) 見通し ( 前年比 %) 労働時間 時間当たり賃金 雇用者数 名目雇用者報酬 実質雇用者報酬 ( 注 1) 鉱業投資は 鉱業構造物投資と鉱業機械投資の合計 家計支出は 個人消費と住宅投資の合計 ( 注 2) 実績の直近は 4Q ( 注 1) 先行きは 国外経済要因を 215/4Q まで 為替要因を 216/1Q まで外挿 ( 出所 )HAVER BEA Census Bureau FRB ( 注 ) 直近は 4Q ( 出所 )BEA BLS ( 出所 )BEA FRB IMF OECD 13

14 欧州 個人消費が改善傾向 ユーロ圏の実質 GDP ユーロ圏の実質可処分所得と実質個人消費 ( 前年比 寄与度 %) (DI % ポイント ) 純輸出 内需 GDP 成長率 IMF 見通し 複合 PMI( 右目盛 ) ( 注 ) 直近はGDPが3Q PMIが1Q(1 月 ) ( 注 1) 実質可処分所得は名目値 ( 出所 )HAVER Markit ( and database を民間最終消費デフレータでデフ right Markit Economics Ltd 216. All レート rights reserved.) IMF ECB 欧州委員会 ( 注 2) 直近は3Q 14 ( 出所 )HAVER ( 前年比 %) 実質個人消費実質可処分所得実質個人消費 ( 欧州委員会見通し )

15 欧州 英国の国民投票と難民流入 英国の国民投票 ドイツにおける難民申請件数 年 15

16 インド +ASEAN4 緑 : 堅調黄 : 横ばい ~ やや改善橙 : 弱め 16

17 I. 最近の海外情勢 II. 今後の景気見通し 17

18 マイナス金利付き量的 質的金融緩和 日本銀行は 金融政策を行う際には 物価の安定を図ることを通じて国民経済の 健全な発展に資すること ( 日本銀行法第 2 条 ) を理念に掲げている 現在 2% の物価上昇率が 物価安定の目標 となっている理由は 実質金利 = 名目金利 - 予想物価上昇率 金融政策手段 の低下によって投資を促すため 経済 好転 大規模な長期国債買入れ 名目金利 実質金利 現実の物価上昇率 低下 低下 上昇 マイナス金利 2% の 物価安定の目標 への強く明確なコミットメント 上昇 予想物価上昇率 18

19 マイナス金利導入後の長短金利の変化 19

20 日本経済と物価の見通し (1 月 29 日 ) 日銀政策委員の大勢見通し ( 前年比 消費税率引き上げの影響を除く ) 年度 実質 GDP 成長率 消費者物価上昇率 215 年度 +1.1% +.1 % 216 年度 +1.5% +.8 % 217 年度 +.3% +1.8 % 2

21 日本経済 物価の見通しとリスク評価 実質 GDP 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 消費税 ) ( 注 )1. 実線は実績値 点線は政策委員見通しの中央値を示す 2. は 各政策委員が最も蓋然性が高いと考える見通しの数値を示すとともに その形状で各政策委員が考えるリスクバランスを示している は リスクは概ね上下にバランスしている は 上振れリスクが大きい は 下振れリスクが大きい と各政策委員が考えていることを示している 21

22 物価と賃金の関係 賃金と物価は バランス良く増加することが不可欠 日本銀行としては 従来から申し上げている通り この金融緩和のもとで企業収益や雇用 賃金の増加を伴いながら 物価上昇率が次第に高まっていくという好循環を作り出すことを目指しています ( 黒田総裁記者会見 216 年 3 月 15 日 ) 実質所得 = 名目所得 物価 の維持 増加 ( 参考 ) 米国の中央銀行にあたる FRB では 使命 (mission) の一つとして 雇用の最大化 物価の安定 適度な長期金利を目指し 金融および信用状況に 影響を与えることで金融政策を遂行する ことが掲げられています 賃金と物価のバランスを欠くと 景気回復にとってのリスクとなる 賃金の払い不足 : 個人消費の低迷 賃金の払い過ぎ : 企業投資の減少 22

23 実質賃金 デフレが続いたこの十数年間は 実質賃金が目減りしていた時期が目立つ ( 前年比 %) ( 前年比 %) 時間当たり実質賃金 ( 総合除く生鮮食品 エネルギーで実質化 右目盛 ) 時間当たり名目賃金 ( 左目盛 ) 消費者物価指数 ( 総合除く生鮮食品 エネルギー 左目盛 ) 実質賃金増加 年 ( 出所 ) 厚生労働省 総務省 -4 実質賃金減少 23

24 労働生産性と賃金の関係 実質的な豊かさを享受するためには 物価上昇分に加え 労働生産性上昇分も 賃金に反映される必要がある 年 賃金上昇率 = 労働生産性上昇率 + 物価上昇率 ( 前年比 寄与度 %) GDP デフレーター (a) 潜在労働生産性 (b) (a)+(b) 時間当たり名目賃金 ( 注 ) 潜在労働生産性は 日本銀行調査統計局の試算値 215 年は 1~3Qの値 24 ( 出所 ) 総務省 厚生労働省 内閣府賃金上昇が遅れている時期

25 潜在成長率と労働生産性 潜在成長率の低下は 就業者数や労働時間が伸び悩んでいることに加えて 単位時間当たりの付加価値産出額 である労働生産性の伸びの低下が原因 労働生産性を高めるためには 製造 販売のための設備投資のほか 新商品開発や就業者のスキルアップなどを進めていく必要がある ( 前年比 寄与度 %) TFP 資本ストック 就業者数労働時間潜在成長率 ( 無形資産 ノウハウなど ) ( 有形資産 設備など ) ( 人数 ) ( 時間 ) 年度半期 25

26 高齢者や女性の就労 高齢者や女性の就労は 人手不足の解消や 潜在成長力の上昇に貢献する 高齢者の就業割合 ( 男性 212 年 ) 年齢別有業率 ( 女性 ) 6~64 歳 65~69 歳 7~74 歳 75 歳以上 (%) % 5% 1% 有業者就業希望者非就業希望者 15~19 歳 2~24 歳 25~29 歳 3~34 歳 35~39 歳 4~44 歳 45~49 歳 5~54 歳 55~59 歳 6~64 歳 65~69 歳 7~74 歳 75 歳以上 212 年 27 年 ( 出所 ) 総務省 平成 24 年就業構造基本調査 26

27 非正規雇用 ( 非自発的な ) 非正規雇用の長期化は 技術やノウハウの蓄積を遅らせ 労働生産性上昇の妨げになりかねない 非正規雇用の増加が低賃金労働者の増加に繋がっている限り 結婚率や出生率の低下 ひいては次世代人材の教育にも支障を与えかねない 有業者 無業者の推移 非正規雇用者の割合 ( 百万人 ) 有業者 無業者 (%) 全体男性女性 ( 出所 ) 総務省 平成 24 年就業構造基本調査 27

28 最低賃金引き上げの影響 最低賃金の引き上げは 最低賃金を上回る低賃金労働にも影響を与える 最低賃金額と影響率 ( 円 ) (%) 85 最低賃金額 ( 左目盛 ) 8 最低賃金の影響の試算 214 年の都道府県別パート時給の分布データを用いて 最低賃金が賃金分布に与える影響を推計 8 影響率 ( 右目盛 ) 年 ( 出所 ) 厚生労働省 (%).8.7 *** *** 1% の最低賃金上昇による 下位 X% の賃金の上昇率 ( 推計値 ) *** ** *** X= *

29 おわりに デフレ克服に向けた金融政策と潜在成長率の引き上げに向けた構造改革は 日本経済が持続的な成長軌道に復するために 車の両輪として進められなければならないと考えています ( 日銀中曽 < ナカソ > 副総裁 216 年 3 月 3 日 ) 216 年入り後 海外経済の不透明性が強まっていますが 日本経済は企業 家計とも 所得から支出への前向きの循環 が働いています マイナス金利付き量的 質的金融緩和 はこうした流れを持続させ 2% の物価安定の目標 の早期実現を目指すものです 29

30 記者会見 山口県金融経済情勢 ( 毎月 ) 山口県短観 ( 四半期毎 ) 出演番組 KRYラジオ おはようKRY そこが聞きたい!~ 担当 直入 ( 毎月 ) NHKテレビ 情報維新やまぐち ( 四半期毎 ) 3