Microsoft Word - 08 相談室紀要_AT1
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- としなり すえがら
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1 性 的 自 己 決 定 と 性 経 験 の 関 連 性 について 田 原 歩 美 福 山 大 学 大 学 院 人 間 科 学 研 究 科 キーワード: 性 的 自 己 決 定, 性 経 験, 性 意 識, 性 行 動 はじめに 近 年, 性 行 動 の 低 年 齢 化 や 活 発 化 にともなう,10 代 の 人 工 妊 娠 中 絶 や 性 感 染 症 の 増 加, 恋 愛 中 のカップルの 支 配 従 属 関 係 によるデート DV, 性 関 係 の 多 様 化 に 即 応 しない 性 的 マイノリティへの 偏 見 など, 性 にまつわる 問 題 は 多 様 である その 原 因 のひとつとして, 性 に 対 する 正 しい 知 識 を 有 していないことがあげられる 若 者 の 性 に 関 する 相 談 相 手 や 情 報 の 入 手 経 路 は, 友 人 やマスメディアが 多 く, 性 に 関 する 情 報 の 入 手 は 容 易 になってきて いる( 忠 津 梶 原 篠 原 長 尾 進 藤 新 山 高 谷,2008) しかし,マスメディアによる 情 報 は 興 味 本 位 のもの が 多 く, 正 しい 知 識 ばかりでないにも 関 わらず, 若 者 たちは 情 報 をうまく 取 捨 選 択 できずにいる そのため, 若 者 たちは, 友 人 やマスメディアの 情 報 に 翻 弄 され, 性 に 関 わることを 自 らの 意 思 で 決 定 できず, 自 らの 性 と 他 者 の 性 を 物 象 化 することによる 性 の 商 品 化, 性 的 な 関 係 における 暴 力 の 被 害 と 加 害, 性 にまつわる 多 くのタブーや 偏 見 の 再 生 産 など,さまざまな 問 題 を 抱 えていると 考 えられる( 青 野,2006) 特 に, 若 者 間 の 妊 娠 や 人 工 妊 娠 中 絶 など, 女 性 の 性 に 関 する 問 題 は 社 会 問 題 として 取 り 上 げられることが 多 く, 今 野 (2003)は, 大 学 生 に 避 妊 に 対 する 意 識 と 知 識 の 調 査 を 行 った 結 果, 避 妊 に 対 する 意 識 は 高 く 知 識 も 持 って いながら, 相 手 任 せになっている 面 が 多 く, 確 実 な 避 妊 行 動 をとっているとは 言 いがたいことを 指 摘 している また, 曽 我 部 大 井 岸 早 川 高 村 (2000)は, 性 行 動 から 中 絶 に 至 る 前 の 避 妊 に 女 性 自 身 が 自 覚 を 持 ち, 健 康 に 関 する 管 理 能 力 や 自 己 決 定 能 力 を 高 め, 望 まない 妊 娠 を 避 け, 繰 り 返 さないための 自 己 決 定 と 避 妊 行 動 がと れる 機 会, 動 機 づけとなるような 援 助 が 必 要 であることを 主 張 している このように, 妊 娠 や 中 絶 に 関 すること は, 女 性 に 焦 点 を 当 てられ, 子 どもを 産 み 育 てることが 女 性 の 役 割 であると 捉 えられることが 多 いが, 妊 娠 や 中 絶 は 女 性 だけの 問 題 ではない 妊 娠 は 女 性 と 男 性 の 双 方 に 責 任 があり, 男 性 は 孕 ませる( 産 ませる) 性 であ ることを 自 覚 し, 自 己 の 性 的 衝 動 をコントロールしたり, 相 手 の 自 己 決 定 権 を 尊 重 するなど, 男 性 自 身 の 性 的 自 己 決 定 も 必 要 であろう( 沼 崎,2000) また, 若 者 同 士 のカップル 間 で 問 題 視 されているデート DV についても, 世 間 の 関 心 が 高 まりつつある DV とは, 広 義 の 意 味 では 家 庭 内 でおこる 暴 力 のことであるが, 狭 義 の 意 味 では 配 偶 者 間 や 恋 人 間 でおこる 暴 力 のこ とであり, 身 体 的 暴 力, 精 神 的 暴 力, 性 的 暴 力, 経 済 的 支 配 などさまざまな 暴 力 がある 近 年 は, 一 般 的 に 狭 義 の 意 味 での DV が 用 いられており,2001 年 には DV 防 止 法 が 施 行 され,それまで 潜 んでいた 家 庭 内 暴 力,とりわ け, 夫 婦 間 の 暴 力 が 顕 在 化 されてきた 内 閣 府 の 調 査 では, 配 偶 者 による 暴 力 の 被 害 経 験 は 女 性 24.9%, 男 性 13.6% であることが 明 らかになっており,その 被 害 のほとんどは 女 性 であることが 多 く, 重 要 な 社 会 問 題 となっている しかし,DV 防 止 法 には, 配 偶 者 間 の 暴 力 にのみ 焦 点 が 当 てられており, 婚 姻 関 係 の 有 無 を 前 提 としているため, 交 際 中 のパートナーに 対 する 暴 力 に 対 して 法 は 適 用 されない 小 泉 吉 武 (2008)は, 青 年 期 男 女 におけるデート DV に 関 する 認 識 について 調 査 した 結 果, 男 女 ともに 被 害 者 にも 加 害 者 にもなりうる 可 能 性 があり,DV 神 話 に 関 する 思 い 込 みが DV に 対 する 対 応 や 認 識 を 遅 らせている 可 能 性 を 指 摘 し,DV,デート DV に 関 する 意 識 改 革 や 正 しい 知 識 を 深 めることが 重 要 であることを 示 唆 している また, 山 口 (2004)は, 女 性 差 別 を 温 存 し, 女 性 の 自 立 を 阻 む 社 会 の 仕 組 みを 変 えることや,ジェンダーバイア スに 基 づく 人 々の 意 識 を 改 めることなしにデート DV の 根 絶 はないと 述 べ, 伊 田 (2007)は,デート DV の 被 害 者 は 暴 力 を 愛 と 勘 違 いして 別 れられないという 傾 向 があることを 指 摘 し, 親 密 な 関 係 の 構 築 と 自 己 防 衛 との 両 立
2 が 重 要 な 課 題 だと 考 えられる そこで, 思 春 期 にある 若 者 たちのリプロダクティブ ヘルス/ライツ( 以 下,リプロ ヘルス/ライツ)に 基 づいた 性 教 育 の 重 要 性 が 主 張 されている リプロ ヘルス/ライツとは, 人 間 の 生 殖 システム,その 機 能 と( 活 動 ) 過 程 のすべての 側 面 において, 単 に 疾 病, 障 害 がないというばかりでなく, 身 体 的, 精 神 的, 社 会 的 に 完 全 に 良 好 な 状 態 にあり, 性 に 関 することを 自 ら 管 理 し, 自 由 かつ 責 任 を 持 って 決 定 する 権 利 という 概 念 である( 柘 植,2000) 日 本 の 現 状 は,リプロ ヘルス/ライツの 根 幹 にある 女 性 の 自 己 決 定 権 という 概 念 が 理 解 されて おらず, 生 殖 やセクシュアリティにおける 問 題 や 困 難 を 抱 えた 人 々が 自 己 決 定 する 状 況 を 保 障 するための 制 度 や, 自 分 のことを 自 分 で 決 めても 良 い と 考 えられるようになれる 人 的 なサポートが 必 要 なのである しかし, 性 に 関 する 問 題 は, 女 性 の 性 に 関 するものだけではない 近 年 では, 性 同 一 性 障 害 や 同 性 愛 といった 性 的 マイノリティの 人 権 を 守 る 立 場 から, 性 的 マイノリティの 社 会 的 認 知 度 や 関 心 も 高 まっている 一 般 にマイ ノリティは 偏 見 や 差 別 の 対 象 になることが 多 く, 対 人 的 にも 経 済 的 にも 社 会 の 中 で 周 辺 的 な 地 位 に 甘 んじている そのため,カミングアウトをするのが 困 難 であり,ますます 偏 見 を 増 大 させている( 石 丸,2004) 杉 山 (2006) は, 同 性 愛 者 である 高 校 生 の 自 己 形 成 過 程 について 調 査 を 行 い, 同 性 愛 の 高 校 生 らは 情 報 アクセスを, 学 校 外 部 にしか 求 められない 状 況 にあり, 問 題 予 知 力 を 備 える 性 的 自 己 決 定 能 力 を 育 むことが 保 障 されずに 性 的 自 己 決 定 を 迫 られることを 示 唆 している また, 和 田 (1996)は, 同 性 愛 に 対 する 態 度 を 調 査 し, 男 性 は 女 性 よりも 同 性 愛 に 否 定 的 であり, 社 会 的 容 認 度 が 低 く, 同 性 愛 者 と 心 理 的 に 距 離 を 置 いていることを 明 らかにし, 石 丸 (2008) は, 同 性 愛 に 対 する 態 度 についてより 詳 細 な 調 査 を 行 い, 同 性 愛 に 対 して, 肯 定 的 な 態 度 であるのは, 女 性 で, 性 的 マイノリティの 知 り 合 いがおり, 固 定 的 な 性 役 割 にとらわれない 考 えをもった 人 で, 状 態 自 尊 感 情 の 高 い 人 であることを 明 らかにした 性 的 マイノリティの 人 々のように, 性 役 割 に 縛 られない 多 様 な 性 の 在 り 方 を 理 解 し 受 容 することは, 自 己 の 性 について 問 い 直 し 柔 軟 な 生 き 方 や 関 係 性 を 考 える 機 会 になるだろう( 上 野,2008) このように, 性 に 関 する 問 題 は 多 面 的 であると 同 時 に,それぞれの 問 題 には 性 的 自 己 決 定 能 力 の 必 要 性 が 問 わ れている 性 的 自 己 決 定 とは, 性 ( 生 殖 と 関 係 した 性 だけでなく, 生 殖 を 目 的 としない 性 も 含 む)に 関 わる 事 柄 について 自 らの 責 任 で 選 択 し 決 定 できることである( 東,2008; 中 里 見,2007) 性 行 動 や 性 意 識 は, 自 分 自 身 の ものであり, 自 分 で 培 っていくべきものである 自 分 自 身 のからだや 心 に 関 する 性 的 変 化 について 理 解 すること や, 自 分 の 性 行 動 をどのように 管 理 し, 自 分 がどのように 性 と 生 について 考 え, 決 定 していくか,そのすべての 決 定 権 は, 自 分 自 身 にある つまり, 性 に 関 することについて, 誰 かに 合 わせたり 従 ったりするのではなく, 自 らが 考 えて 決 定 し, 行 動 するために, 性 的 自 己 決 定 能 力 が 必 要 なのである 草 野 (2006)は, 自 らの 性 を 自 己 管 理 し 決 定 すると 同 時 に, 相 手 との 関 係 をよりよくするためのコミュニケー ション 能 力 を 高 めることで 性 的 リスク 対 処 への 意 識 が 高 まり, 実 際 にパートナーを 得 て,セックスの 関 係 を 持 つ ことは, 性 的 魅 力 に 対 する 自 信 を 高 め, 望 まない 妊 娠 や 性 感 染 症 など 性 的 リスクの 認 識 や 相 手 に 対 する 認 識 を 促 し,リスク 対 処 への 積 極 的 な 態 度 や 自 信 を 育 てることへ 繋 がることを 明 らかにしている また, 薹 荒 賀 (2006) は, 性 的 なパートナーとの 会 話 は,お 互 いの 性 の 情 報 伝 達 の 機 会 となるだけでなく, 適 切 な 性 行 動 のための 自 己 決 定 をする 場 面 であることから,パートナーとのコミュニケーション 能 力 を 高 め, 性 的 自 己 決 定 能 力 を 育 む 必 要 性 があることを 指 摘 している このようなことから, 性 的 なパートナーを 持 つことによって, 性 的 自 己 決 定 が 高 まるのではないかと 考 えられる そこで, 本 研 究 では, 現 在, 若 者 に 求 められている 性 的 自 己 決 定 を 測 定 するための 尺 度 を 作 成 し, 性 経 験 の 有 無 が, 性 的 自 己 決 定 に 関 係 があるかどうかについて 検 討 することを 目 的 とする なお,ここでは 性 的 自 己 決 定 を1 自 分 の 性 を 自 らで 選 択 し 享 受 すること( 性 の 自 己 受 容 )2 性 に 対 してオープンな 態 度 であり, 他 者 と 語 り 合 えること( 性 の 解 放 性 )3 性 の 健 康 や 権 利 について 把 握 し 理 解 すること( 性 の 健 康 と 権 利 )4 多 様 な 性 の 在 り
3 方 を 理 解 し 受 容 すること( 性 の 多 様 性 )の 側 面 から 構 成 されるものとする 方 法 調 査 対 象 者 H 県 内 の 私 立 大 学 で, 心 理 学 に 関 連 する 授 業 を 受 講 している 学 生 のうち, 無 回 答, 記 入 漏 れなどのあるも のを 除 いた, 女 性 60 名 ( 年 齢 :X =20.1, SD=1.24), 男 性 57 名 ( 年 齢 :X =20.4, SD=1.26), 合 計 117 名 ( 年 齢 :X =20.2, SD=1.25)であり, 回 答 率 は 64%(183 名 中 117 名 )であった 調 査 内 容 1. 調 査 対 象 者 の 属 性 について 現 在 もしくは 過 去 にパートナーを 持 つ 人 に 対 しては,デート DV( 身 体 的 言 語 的 心 理 的 暴 力 )の 被 害 経 験 加 害 経 験 があるかどうか( ある ない の 二 件 法 )について 尋 ねた また,パートナーの 有 無 に 関 係 なく, 性 経 験 があるか どうか( ある ない の 二 件 法 )について 尋 ねた 2. 性 的 自 己 決 定 尺 度 について 性 的 自 己 決 定 尺 度 の 項 目 は, 性 に 関 する 意 識 や 行 動 に 関 する 研 究 や 調 査 で 用 いられた 既 存 の 尺 度 や 文 献,また,KJ 法 による 情 報 収 集 により 作 成 した 性 の 自 己 受 容 ( 例 : 自 分 自 身 のことを 理 解 しているなど), 性 の 多 様 性 ( 例 : 女 だ から 男 だからといわれることには 抵 抗 感 があるなど), 性 の 健 康 と 権 利 ( 例 :セックスの 相 手 とエイズ 性 感 染 症 の 予 防 について 話 し 合 うことができると 思 うなど), 性 に 関 する 他 者 とのかかわり ( 例 : 相 手 からの 性 的 な 誘 いを 断 ること ができないなど)の 4 つのカテゴリーに 分 類 し, 合 計 39 項 目 を 性 的 自 己 決 定 尺 度 とした なお, 回 答 は あてはま らない(1) ~ あてはまる(5) の 5 段 階 評 定 とした 3. デート DV に 対 する 自 分 の 行 動 態 度 について 作 成 した 性 的 自 己 決 定 尺 度 に 妥 当 性 があるかどうかの 検 討 を 行 うため, 性 的 自 己 決 定 と 関 連 していると 考 えられる DV に 対 する 行 動 態 度 ( 以 下,デート DV 尺 度 ) ( 例 : 相 手 が, 自 分 の 意 見 に 従 わないとイライラしたり 怒 ったりす るなど)を 測 定 する 尺 度 を 用 いた( 山 口,2004) 回 答 は あてはまらない(1) ~ あてはまる(5) の 5 段 階 評 定 と し,パートナーを 持 ったことがない 調 査 対 象 者 には, 想 像 で 回 答 してもらった 手 続 き 2009 年 7 月 下 旬, 事 前 に 授 業 を 受 け 持 つ 教 員 へ 調 査 依 頼 の 旨 を 伝 え, 許 可 が 得 られた 授 業 で 質 問 紙 を 配 布 し, 授 業 の 初 めもしくは 終 わりに 実 施 した なお, 授 業 時 間 の 関 係 により, 授 業 中 に 実 施 できなかったところについては, 質 問 紙 を 封 筒 に 入 れて 配 布 し, 自 宅 で 回 答 してもらい, 後 日 回 収 もしくは 質 問 紙 回 収 箱 に 投 函 してもらった 質 問 紙 を 配 布 する 際 に, 調 査 内 容 について 理 解 し, 回 答 者 の 同 意 のもとで 回 答 を 行 い, 回 答 したくない 項 目 があった 場 合 は, 無 回 答 無 記 入 でもよいことを 説 明 した 結 果 と 考 察 1. 性 的 自 己 決 定 尺 度 の 因 子 分 析 結 果 まず, 調 査 対 象 者 の 属 性 について,パートナーのいる( 過 去 にパートナーがいるものを 含 む) 女 性 は 51 名 (85%), 男 性 は 37 名 (65%)であり,その 中 でデート DV の 被 害 経 験 があるものは, 女 性 10 名 (20%), 男 性 4 名 (11%), デート DV 経 験 の 加 害 経 験 があるものは, 女 性 6 名 (12%), 男 性 3 名 (8%)であった デート DV の 被 害 経 験, 加 害 経 験 については, 十 分 な 人 数 が 得 られなかったため, 今 回 の 分 析 からは 除 外 した 性 経 験 があるものは, 女 性 39 名 (65%), 男 性 25 名 (44%)であった 次 に, 性 的 自 己 決 定 尺 度 39 項 目 の 平 均 値, 標 準 偏 差 を 算 出 し, 天 井 効 果 およびフロア 効 果 のみられた1 項 目 (Q.4) を 以 降 の 分 析 から 除 外 した 次 に 残 りの 38 項 目 に 対 して 主 因 子 法 Promax 回 転 による 因 子 分 析 を 行 った 固 有 値 の 変 化 は,4.82,3.63,2.75,2.01,1.90, というものであり, 性 的 自 己 決 定 の 解 釈 として 妥 当 であると 考 え
4 られる 4 因 子 とした そこで, 再 度 4 因 子 構 造 を 仮 定 して 主 因 子 法 Promax 回 転 による 因 子 分 析 を 行 い, 因 子 負 荷 量.400 を 基 準 として 項 目 を 取 捨 選 択 した その 結 果,.400 に 満 たなかった 19 項 目 を 除 外 し, 残 りの 19 項 目 で 最 終 の 因 子 分 析 を 行 った( 表 1) 因 子 寄 与 率 は 37.40%であった 表 1 性 的 自 己 決 定 尺 度 の 因 子 分 析 結 果 項 目 内 容 平 均 値 (SD ) 因 子 Ⅰ 因 子 Ⅱ 因 子 Ⅲ 因 子 Ⅳ 8 性 別 は 女 性 男 性 の2つでなくてもいいと 思 う 3.49 (1.42) 性 的 マイノリティの 人 のそのままを 認 めることができると 思 う 3.80 (1.12) 同 性 を 好 きになるのは 異 常 なことである(R) 3.93 (1.19) 女 だから 男 だからといわれることには 抵 抗 感 がある 3.38 (1.42) 性 的 マイノリティの 人 が 現 実 にたくさんいると 困 る(R) 2.85 (1.35) 性 的 マイノリティの 人 がカミングアウトすることは 望 ましいことだと 思 う 3.58 (1.15) 自 分 自 身 のことを 理 解 している 3.43 (1.15) 自 分 自 身 の 身 体 を 把 握 している 3.46 (1.15) 自 分 の 身 体 を 大 切 にしている 3.37 (1.28) らしさ ではなく ありのまま の 自 分 を 受 け 入 れている 3.21 (1.23) エイズ 性 感 染 症 などのリスクから 身 を 守 るために 情 報 を 収 集 していると 思 う 2.83 (1.30) 自 分 が 望 んでいる 性 的 刺 激 を 与 えてくれるように 相 手 に 頼 むことができる 3.00 (1.23) 性 についてオープンに 話 せる 人 がいる 3.68 (1.42) 性 的 な 嫌 がらせをされた 場 合 誰 かに 相 談 できる 3.50 (1.29) セックスの 場 面 では 相 手 任 せになってしまうと 思 う(R) 3.02 (1.20) 性 的 なことについて 自 分 とは 異 なる 考 え 方 を 持 っている 人 がいても 認 めることができる 4.11 (1.02) セックスの 相 手 とエイズ 性 感 染 症 の 予 防 について 話 し 合 うことができると 思 う 3.80 (1.25) いつ 誰 と 性 関 係 を 持 つか 持 たないかを 自 分 の 意 志 で 決 めることができると 思 う 3.97 (1.13) 女 性 が 子 どもを 産 むにせよ 産 まないにせよよく 考 えてから 責 任 ある 行 動 をとれると 思 う 3.97 (1.08) *(R)は 逆 転 項 目 因 子 間 相 関 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ -.10 Ⅳ - 表 1 より, 第 1 因 子 は 6 項 目 で 構 成 されており, 性 別 は 女 性, 男 性 の 2 つでなくてもいいと 思 う, 性 的 マイノリティの 人 のそのままを 認 めることができると 思 う, 同 性 を 好 きになるのは 異 常 なことである( 逆 転 項 目 ) など, 性 に 対 する 多 様 な 考 え 方 や 態 度 についての 傾 向 がみられるため, 性 の 多 様 性 因 子 と 命 名 した 第 2 因 子 は 5 項 目 で 構 成 されており, 自 分 自 身 のことを 理 解 している, 自 分 自 身 の 身 体 を 把 握 している, 自 分 の 身 体 を 大 切 にしている などであり, 自 分 自 身 と 向 き 合 い, 受 容 している 傾 向 がみられるため, 性 の 自 己 受 容 因 子 と 命 名 した 第 3 因 子 は 6 項 目 で 構 成 されており, 自 分 が 望 んでいる 性 的 刺 激 を 与 えてくれるように 相 手 に 頼 むことができ る, 性 についてオープンに 話 せる 人 がいる, 性 的 な 嫌 がらせをされた 場 合 誰 かに 相 談 できる など, 性 に 関 することにおいて, 他 者 に 対 して 解 放 的 である 傾 向 がみられるため, 性 の 解 放 性 因 子 と 命 名 した 第 4 因 子 は 2 項 目 で 構 成 されており, いつ 誰 と 性 関 係 を 持 つか 持 たないかを 自 分 の 意 志 で 決 めることができる と 思 う, 女 性 が 子 どもを 産 むにせよ 産 まないにせよよく 考 えてから 責 任 ある 行 動 をとれると 思 う と, 性 の 健 康 問 題 について, 自 分 自 身 で 決 定 している 傾 向 がみられるため, 性 の 健 康 と 権 利 因 子 と 命 名 した 以 上 より, 性 的 自 己 決 定 尺 度 は, 性 の 多 様 性, 性 の 自 己 受 容, 性 の 解 放 性, 性 の 健 康 と 権 利 の 4 因 子 構 造 となった これは, 当 初 から 想 定 していた 4 因 子 構 造 と 同 様 であり, 性 的 自 己 決 定 には,このような 4 つの 要 素 が 大 き く 関 係 していると 考 えられる それぞれの 下 位 尺 度 の 信 頼 性 について 検 討 するため, 内 的 整 合 性 (α 係 数 )による 方 法 を 用 いて 検 討 を 行 った その 結 果, 性 の 多 様 性 α=.75, 性 の 自 己 受 容 α=.74, 性 の 解 放 性 α=.70, 性 の 健 康 と 権 利 α=.58 であり,
5 十 分 な 信 頼 性 は 認 められなかった そのため, 本 尺 度 を 性 的 自 己 決 定 尺 度 として 使 用 するには, 不 十 分 であると 考 えられるため, 下 位 尺 度 の 項 目 を 増 やすなどして, 精 度 を 高 めていく 必 要 があるだろう また, 性 の 健 康 と 権 利 の 項 目 は 2 つであり, 性 の 自 己 受 容 との 相 関 が r=.23, 性 の 解 放 性 との 相 関 が r=.22 と, 弱 い 正 の 相 関 がみられた このことから, 本 来 性 の 健 康 と 権 利 に 含 まれる 項 目 だったものが, 性 の 自 己 受 容 と 性 の 解 放 性 に 分 散 したのではないかと 考 えられる そのため, 性 の 健 康 と 権 利 因 子 が, 独 自 の 因 子 として 成 立 する かどうかについても 検 討 する 必 要 があるだろう 妥 当 性 については, 基 準 関 連 妥 当 性 による 方 法 を 用 いて 検 討 を 行 った その 結 果, 性 的 自 己 決 定 尺 度 全 体 とデ ート DV 尺 度 の 相 関 は,r=.18 であり, 十 分 な 妥 当 性 は 認 められなかった デート DV 尺 度 と 性 的 自 己 決 定 尺 度 の 下 位 尺 度 である 性 の 健 康 と 権 利 の 相 関 が r=.31 と 正 の 相 関 がみられたことから,デート DV 尺 度 は 自 分 を 守 るために 特 化 しているのに 対 し, 性 的 自 己 決 定 尺 度 は, 自 分 を 守 ることだけではなく, 他 者 の 性 の 理 解 や 自 分 の 性 意 識, 性 行 動 への 決 定 権 を 持 っている,という 多 面 的 な 構 成 となっているためではないかと 考 えられる 2. 性 経 験 の 有 無 と 性 別 による 性 的 自 己 決 定 の 差 についての 検 討 性 経 験 の 有 無 による 性 的 自 己 決 定 の 差 について 検 討 を 行 うため, 性 的 自 己 決 定 の 各 下 位 尺 度 とデート DV 尺 度 について, 性 別 性 経 験 の 2 要 因 分 散 分 析 を 行 った その 結 果 を 表 2 に 示 す 表 2 性 別 性 経 験 の 2 要 因 分 散 分 析 の 結 果 性 別 主 効 果 性 経 験 女 性 男 性 性 別 経 験 交 互 作 用 平 均 SD 平 均 SD F 値 F 値 F 値 多 様 性 有 * * 無 自 己 受 容 有 無 解 放 性 有 無 * * 0.25 健 康 と 権 利 デ ー ト D V 有 有 無 無 * p.<.05 表 2 より, 性 の 多 様 性 は, 性 別 の 主 効 果 が 有 意 であり(F(1,112)=40.68,p=.000), 男 性 より 女 性 のほう が 有 意 に 高 かった また, 交 互 作 用 も 有 意 であり(F(1,112)=9.35,p=.003), 男 女 別 に 性 経 験 の 下 位 検 定 を 行 った 結 果, 女 性 においてのみ 有 意 であり, 性 経 験 のある 女 性 より 性 経 験 のない 女 性 のほうが 有 意 に 高 かった(F (1,112)=10.07,p=.002) 性 経 験 の 有 無 別 に 性 別 の 下 位 検 定 を 行 った 結 果, 性 経 験 有 と 性 経 験 無 の 両 方 で 有 意 であった 性 経 験 のある 男 性 より 性 経 験 のある 女 性 のほうが, 有 意 に 高 く(F(1,112)=6.11,p=.015), 性 経 験 のない 男 性 より 性 経 験 のない 女 性 のほうが 有 意 に 高 かった(F(1,112)=40.55,p=.000) すなわち, 女 性, 特 に 性 経 験 のない 女 性 のほうが, 男 性 より 多 様 性 を 重 視 していることが 示 された 性 に 対 する 意 識 や 態 度 には, 社 会 からの 性 役 割 期 待 とそれに 結 びついたステレオタイプが 大 きく 影 響 しており, 特 に, 男 性 優 位 社 会 のなかでは, 男 性 に 期 待 される 役 割 を 持 った 者 同 士 が 恋 愛 ( 愛 情 ) 関 係 にあるというのは 非 常 に 結 びつきにくいため( 和 田, 1996), 男 性 のほうが 性 の 多 様 性 の 受 容 度 が 低 いのではないかと 考 えられる また, 林 (2007)の 研 究 では, 恋 愛 に 対 する 態 度 が 消 極 的 であることとジェンダー アイデンティティの 低 さに 関 係 性 があることが 示 唆 されている が,その 観 点 から 本 研 究 の 結 果 を 考 察 すれば, 性 経 験 のないものは, 自 己 の 性 について, 固 定 的 な 性 役 割 にとら
6 われず, 多 面 的 な 側 面 から 捉 えているためではないかと 考 えられる そのため, 性 経 験 のない 女 性 において, 性 の 多 様 性 を 重 視 しているのではないかと 考 えられる 性 の 解 放 性 は, 性 別 の 主 効 果 が 有 意 であり(F(1,112)=5.22,p=.024), 女 性 より 男 性 のほうが 有 意 に 高 かった また, 性 経 験 の 主 効 果 も 有 意 であり(F(1,112)=12.60,p=.001), 性 経 験 のないものより 性 経 験 のあ るもののほうが 有 意 に 高 かった すなわち, 男 性 のほうが 性 について 解 放 的 であり, 性 的 な 経 験 を 持 つ 人 のほう が 解 放 的 であると 考 えられる 解 放 性 において, 男 性 の 方 が 高 かったことは, 高 橋 (2003)が 指 摘 するように, 女 性 の 場 合, 性 に 対 する 羞 恥 心 やタブー 意 識 による 禁 欲 の 必 要 性 意 識 が, 否 定 的 セックス 観 に 結 びついており, 性 に 対 して 解 放 的 であることは 恥 ずかしいことであるといった 意 識 やステレオタイプをもっているためではな いかと 考 えられる また, 性 経 験 を 持 つ 人 のほうが 高 かったのは, 草 野 (2006)や 薹 荒 賀 (2006)の 指 摘 する ように, 実 際 にパートナーを 持 つことで,コミュニケーション 能 力 を 高 め,お 互 いに 性 的 リスク 対 処 への 意 識 を 促 すことができるためではないかと 考 えられる 以 上 の 結 果 より, 性 的 自 己 決 定 における 性 の 多 様 性, 性 の 解 放 性 という 点 においては, 性 経 験 の 有 無 が 関 連 し ているといえるだろう 性 的 自 己 決 定 を 高 めるために 重 要 なことは, 自 己 の 性 について, 性 役 割 にとらわれず, 多 面 的 な 存 在 としてとらえ, 性 について 他 者 と 語 り 合 える 関 係, 理 解 しあえる 関 係 を 築 いていくことが 重 要 であ ると 考 えられる 引 用 文 献 青 野 篤 子 (2006). 社 会 におけるジェンダーの 病 理 福 富 護 ( 編 ) ジェンダー 心 理 学 朝 倉 書 店 pp 薹 有 桂 荒 賀 直 子 (2006). 学 生 の 性 に 関 する 情 報 へのニーズとその 伝 達 経 路 医 療 看 護 研 究,2, 林 寛 子 (2007). ジェンダー アイデンティティと 恋 愛 に 対 する 態 度 臨 床 教 育 心 理 学 研 究,33,59. 東 優 子 (2008). HIV 感 染 への 脆 弱 性 とセクシュアル ヘルス/ライツ 社 會 問 題 研 究,57, 伊 田 広 行 (2007). デート DV をシングル 単 位 的 恋 愛 論 と 結 びつけて 伝 える SEXUALITY,32, 今 野 洋 子 (2003). 大 学 生 の 避 妊 に 対 する 意 識 行 動 に 関 する 報 告 A 大 学 の 学 生 を 対 象 とした 調 査 報 告 人 間 福 祉 研 究,6, 石 丸 径 一 郎 (2004). 性 的 マイノリティにおける 自 尊 心 維 持 他 者 からの 受 容 感 という 観 点 から 心 理 学 研 究,75, 石 丸 径 一 郎 (2008). 異 性 愛 者 がレズビアン ゲイ バイセクシュアルに 対 して 抱 いているイメージ 同 性 愛 者 に おける 他 者 からの 拒 絶 と 受 容 ダイアリー 法 と 質 問 紙 によるマルチメソッド アプローチ ミネルヴ ァ 書 房 pp 小 泉 奈 央 吉 武 久 美 子 (2008). 青 年 期 男 女 におけるデート DV に 関 する 認 識 についての 調 査 純 心 現 代 福 祉 研 究,12, 草 野 いづみ (2006). 大 学 生 の 性 的 自 己 意 識, 性 的 リスク 対 処 意 識 と 性 交 経 験 との 関 係 青 年 心 理 学 研 究,18, 中 里 見 博 (2007). ポスト ジェンダー 期 の 女 性 の 性 売 買 性 に 関 する 人 権 の 再 定 義 社 會 科 學 研 究,58, 沼 崎 一 郎 (2000). 男 性 にとってのリプロダクティブ ヘルス/ライツ < 産 ませる 性 >の 義 務 と 権 利 国 立 婦 人 教 育 会 館 研 究 紀 要,4, 曽 我 部 美 恵 子 大 井 けい 子 岸 恵 美 子 早 川 有 子 高 村 寿 子 (2000). 人 工 妊 娠 中 絶 を 決 定 するまでの 経 緯 と 心 理 的 変 化 日 本 女 性 心 身 医 学 会 雑 誌,5,
7 杉 山 貴 士 (2006). 性 的 違 和 を 抱 える 高 校 生 の 自 己 形 成 過 程 学 校 文 化 の 持 つジェンダー 規 範 同 性 愛 嫌 悪 再 生 産 の 視 点 から 技 術 マネジメント 研 究,5, 忠 津 佐 和 代 梶 原 京 子 篠 原 ひとみ 長 尾 憲 樹 進 藤 貴 子 新 山 悦 子 高 谷 知 美 (2008). 大 学 生 の 性 に 関 する 認 識 の 実 態 とピアカウンセリングへの 期 待 ピアによる 性 教 育 ニーズと 教 育 内 容 の 検 討 川 崎 医 療 福 祉 学 会 誌,17, 高 橋 久 美 子 (2003). 親 の 性 意 識 が 性 教 育 に 及 ぼす 影 響 父 親 と 母 親 のセックス 観 をもとに 日 本 家 政 学 会 誌,54, 柘 植 あづみ (2000). 女 性 の 人 権 としてのリプロダクティブ ヘルス/ライツ 国 立 婦 人 教 育 会 館 研 究 紀 要,4, 上 野 淳 子 (2008). セクシュアリティ 青 野 篤 子 赤 澤 淳 子 松 並 知 子 ( 編 ) ジェンダーの 心 理 学 ハンドブッ ク ナカニシヤ 出 版 pp 和 田 実 (1996). 青 年 の 同 性 愛 に 対 する 態 度 性 および 性 役 割 同 一 性 による 差 異 社 会 心 理 学 研 究,12, 山 口 のり 子 (2004). 愛 する, 愛 される デート DV をなくす 若 者 のためのレッスン 7 梨 の 木 舎
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