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学位論文本審査報告書 平成 29 年 12 月 7 日 論文題目 ピア サポート プログラムの長期的実践が男子高校生の対人関係能力, 自尊感情, 精神的健康度へ及ぼす影響 Effects of Longitudinal Practice of Peer-Support Program on High School Boys Ability of Relationships, Self-Esteem and Mental Health 論文提出者 近藤充代 1. 論文内容の要旨 1-1. 本論文の特色近藤充代氏の学位申請論文は, 査読制度が確立した日本ピア サポート学会学術誌 ピア サポート研究 に発表された ピア サポート プログラムの長期的実践が男子高校生の対人関係能力, 自尊感情, 精神的健康度へ及ぼす影響 ( 第 13 巻 :11-23,2016) に基づくものである. この論文は, 男子高校生に対しピア サポート プログラムを実施し, 客観的評価の難しいピア サポートを, 対人関係能力, 自尊感情, 精神的健康度の変化について評価尺度を用いて数値で評価したという画期的なものであり, ピア サポートの有効性と今後の可能性を示唆するものである. 1-2. 本論文の要旨本論文ではまず研究の背景と目的が述べられ, 続いて研究方法において対象, ピア サポート プログラムの内容, 評価尺度の測定方法, 統計学的解析法等が詳しく記されている. 結果においては, ピア サポート プログラムは, 男子高校生に対してもその特性を考慮して実施すれば, 対人関係能力を早期に改善させる可能性を示した. また, 対人関係能力は能力の高低に関わらず効果があるが, 自尊感情, 精神的健康度では, 低い者はより改善が大きくなり, 高い者には反映されにくいことも示した. 以下, 項目ごとにその要旨を述べる. 1) 目的ピア サポート研究の課題は, 長期的実践が比較対照群を設けて効果検証した研究がないことと, 男子の効果を量的に検証した研究が少ないことであった. 男子の適応が良くないのは, ピア サポート プログラムの支援活動に対する男子特有の心理的特性が影響しているが, この問題を克服するためには, 支援活動への工夫が必要とされていた. これらの課題に資することを目的として, 男子高校生を対象に, 支援活動への心理的負担に配慮した実践を, 長期にわたって継続して取り組み (2005 年 ~2011 年 ), 対照群を設けて比較することで効果を検証し, 男子への適応についての可能性を検討した. 2) 方法 -1-

(1) 対象対象は地方都市の大規模公立工業高校 ( 定員数 840 名, 男女共学で男子の在籍率 95%) の男子高校生である. ピア サポート プログラムに参加した 1~3 年生の保健委員を介入群, 同時期に美化委員となった高校生を対照群とした. 調査期間は 2005 年 ~2011 年の 7 年間である. 但し 2006 年は活動が続けられていたが, 対照群を設けた調査はしていなかったため分析対象から除外した. よって,6 年間分のデータを分析した. 分析対象は各年度において初めて参加した者とした.6 年間の延べ参加人数は, 介入群 138 名, 対照群 119 名で, 分析対象の初回参加者は介入群 121 名, 対照群 108 名であった. また, 介入群でトレーニング参加 3 回未満は 6 名 (4.3%) であった. (2) ピア サポート プログラムの PDCA サイクル (plan-do-check-act cycle) トレーニングは, 基礎コース 10 セッション (4~10 月 ), レベルアップコース 3 セッション (11 ~1 月 ) の 13 セッション行い, トレーニングと並行して支援活動に取り組んだ. 振り返りは二回行われ, 一回目は 11 月の文化祭で, 基礎コースで学んだスキルを生かした文化発表を行うことで, これまでの活動を振り返り評価した. 二回目は, 全セッション終了の 1 月に, 全活動を振り返るためのアンケートを実施した. (3) 支援活動の工夫従来から行っていた生徒保健委員会活動をピア サポート プログラムの支援活動としてシフトさせた. また 自分でプランを立てて支援活動を行なう際には, 身近で自分でできそうなことから始めることを奨め, 授業での取り組みや学校行事も, 支援活動の一つとして関与させた. (4) 効果測定対人関係能力として人間関係尺度 6 領域, 自尊感情としてローゼンバーグ自尊感情尺度 10 項目版 (RSES10: Rosenberg Self Esteem Scale 10 items), 精神的健康度として精神健康調査票短縮版 (GHQ28: General Health Questionnaire 28 items) を用いて効果測定した. 1トレーニング実施時期に伴う変化の比較トレーニング実施前 (4 月 ), トレーニング基礎コース実施後 (7 ヶ月後 ), レベルアップコース実施後 (10 ヶ月後 ) の三時点を, 各年度と全体 ( 総経年と記載 ) について時系列で分析した. 2 高適応群と低適応群の変化の比較介入群を適応の高いグループと低いグループに分け, 両群に差があるか比較検証するために, 3 つの尺度それぞれにおいて, 介入群の実施前の得点について平均値折半を行い高適応群と低適応群に分けて分析した. 3) 結果 (1) トレーニング実施時期に伴う変化の比較人間関係尺度で, 交互作用が認められたのは 2005 年 (F(2, 35)=8.96, p<.05),2007 年 (F(2, 37)=5.79, p<.01), 総計年 (F(2, 227)=9.99, p<.01) で, 時期の主効果が認められたのは,2005 年 (F(2, 35)=8.96, p<.01),2007 年 (F(2, 37)=2.87,p <.10),2008 年 (F(2, 32)=5.06, p<.01), 2009 年 (F(2, 32)=8.34, p<.01),2010 年 (F(2, 33)= 5.88, p<.01),2011 年 (F(2, 48)=4.30, p<.05) であった. この内, 介入群は全ての年度で有意な上昇が認められ, 対照群では 2009 年, 2010 年に有意な上昇があり, 総計年は有意傾向を認めた. RSES10 で, 交互作用が認められたのは 2005 年 (F(2, 35)=8.25, p <.01),2011 年 (F(2, -2-

48)=3.85,p <.10) で, 時期の主効果が認められたのは 2005 年 (F(2, 35)=3.39, p<.05),2009 年 (F(2, 32)=7.66, p<.01),2011 年 (F(2, 48)=7.5, p<.01), 総計年 (F(2, 22)=10.22,p<.01) であった. この内, 介入群に有意な上昇が認められたのは 2005 年,2009 年, 総計年で, 対照群に有意な上昇が認められたのは 2009 年,2011 年, 総計年であった. GHQ28 では, 交互作用はすべての年度で認められなかった. 時期の主効果は 2007 年 (F(2, 37)=3.55, p<.05), 総計年 (F(2, 227)=3.21, p<.05) で認められた. 両年とも介入群で有意に下降しており, 対照群に変化は認められなかった. (2) 高適応群と低適応群の変化の比較人間関係尺度では, 交互作用 (F(2, 119)=16.36, p<.01) 及び, 時期の主効果 (F(2, 119)=48.16, p<.01) が認められ, 低適応群は 7 ヶ月後 (p<.01),10 ヶ月後 (p<.01) で有意に上昇し, 高適応群は,7 ヶ月後 (p<.01) で有意に上昇していた. RSES10 では, 交互作用 (F(2, 119)=14.97, p<.01) 及び, 時期の主効果 (F(2, 119)=5.01, p<.01) が認められ, 低適応群の 7 ヶ月後 (p<.01),10 ヶ月後 (p<.01) が有意に上昇していた. 対して高適応群では, すべての時期で有意な変化は認められなかった. GHQ28 では, 交互作用 (F(2, 119)=20.33, p<.01) 及び時期の主効果 (F(2, 119)=8.35, p<.01) が認められ, 低適応群で 7 ヶ月後 (p<.01),10 ヶ月後 (p<.01) でトレーニング実施前より有意に下降していた. 対して高適応群は, すべての時期で有意な変化は認められなかった. 4) 考察 (1) トレーニング実施時期に伴う変化の比較人間関係尺度では, 対人関係能力の向上に肯定的な効果があった. 対照群も上昇を認められており, ピア サポート プログラム以外の影響もあったと考えられる. ピア サポート プログラムは, 学校に潜在する教育効果を補強する構成になっており, しかも PDCA サイクルの トレーニング - プランニング - 支援活動 - 振り返り ( それぞれが,act,plan,do,check に相当 ) が,7 ヶ月後の時点で一巡する構造になっているため, 学校機能とピア サポート プログラムの相乗効果で, 介入群は早期に変化が現れ, 対照群は通常の学校教育効果の影響で得点が上昇した年度があったと推察する. また, 介入群の活動が, 対照群に影響を与えていた可能性もある. RSES10 では, 自尊感情への影響を論じた国内外の短期縦断的研究において, 向上が認められなかったケースは,PDCA サイクル全般への介入が不十分な傾向があった. 本研究では, 初年度はイギリスの女子中等学校生を対象にした研究と同レベルの向上があり, その後は充実した活動が行われた年度でも向上に至らなかった. これらの事実から考えられるのは,PDCA サイクルを円滑に回すことのできているピア サポート プログラムは自尊感情を高める効果はありそうだが, 恒常的なものではなく, また積極的に活動すれば向上するものもでもない. 自尊感情は学習に因る行動変容が, 評価を受けることによって育っていくものであるから, 活動の都度きちんとした振り返りを行い, 十分な PDCA サイクルを回すという意識が指導者に求められると推察した. GHQ28 では, なんとなく効果はありそうだ程度の, 三尺度の内で最も低い分析結果であった. 精神的健康度が比較的高い集団であったため, 変化が出にくかった可能性がある.GHQ28 は精神疾患を早期に発見するために開発された尺度であるため得点が低くなったと考えられる. また, 下位尺度の 身体症状 の質問内容から類推すると, 季節性感染症の流行の影響を受けて, 年度 -3-

によってばらつきが出てしまった可能性もある. (2) 高適応群と低適応群の変化の比較対人関係能力の低い者は大きく能力が向上し, 能力の高い者も向上することがわかった. また, 自尊感情, 精神的健康度については, 低い者は向上するが, 高い者には反映されないことが示された. (3) 支援活動の工夫保健委員の仕事を, 日常の身近なことを支援活動したことで心理的負担が軽減された. 学校資源に連動させてトレーニングを行い, 支援活動として関与したことで, 支援のプランが立てやすくなった上に教育活動の質が上がり, 対外的な幅広い支援活動が可能になった. 保健委員を指導する立場の養護教諭が主にピア サポート プログラムの PDCA サイクルを回したことが, 高いトレーニング出席率を生み, 活動が長続きする基になった. この積み重ねが, ピア サポーターの能力を向上させることにつながったと考えられた. (4) 課題 1 保健委員とよく似た委員会活動を行う美化委員を対照群に設定したが, 対照群の変化も確認されており, その変化が介入によるものなのか, 介入がなくても学校生活を送っていればおきてくる変化なのか, 研究者の情熱によっておきる Hawthorne 効果なのか判断しがたいところがあり, 学校環境のなかで適切な対照群を設ける困難さがあった. 2 青少年の精神的健康度を評価するにふさわしい尺度を検討する必要がある. 3RSES10,GHQ28 で統計的に有意な変化があまり出なかったのは, 変化の大きい低適応群のデータと, ほとんど変化のない高適応群のデータを合算して分析しているために, 低適応群の変化が, 高適応群のデータによって消されてしまった可能性がある. 低適応群に絞って分析を試みれば, 鮮明な結果が出る可能性があり, 稿を改め研究を進める必要がある. 5) 結論男子高校生の特性を考慮して活動計画を立てた長期間にわたるピア サポート プログラムの実践は, 対人関係能力を早期に改善させる可能性があったが, 自尊感情, 精神的健康度については恒常的に能力を向上させるには至らなかった. また, 対人関係能力は能力の高低に関わらず効果があり, 自尊感情, 精神的健康度では, 低い者は, より改善が大きくなり, 高い者には反映されないことが示唆された. 2. 審査結果の要旨本論文によって, 以下のことが示された. ピア サポート プログラムは, 男子高校生に対してもその特性を考慮して実施すれば可能であり, 対照群と比較して対人関係能力を早期に改善させる可能性を示した. しかし, 自尊感情や精神的健康度においては, 対照群との違いを明らかにできなかった. また, 対人関係能力は能力の高低に関わらず効果があるが, 自尊感情, 精神的健康度では, 低い者はより改善が大きくなり, 高い者には反映されにくいことも示した. 本論文は, すでに妥当性と信頼性が証明された尺度を用いて,250 名以上を対象とし長期的なピア サポート プログラムの効果を対照群と比較することで検証したという意義のある研究である. 従来より指摘されていた客観的評価の難しさは改めて確認されたが, ピア サポート プログラムの適用と限界を示し, 今後の研究の方向性とピア サポート プログラムの発展性を本 -4-

論文は適切に指摘した. 今後も引き続き実践と検討が必要である. 3. 口述試験および語学試験の結果 3-1. 口述試験平成 29 年 12 月 7 日 ( 木 )17 時より 14106 教室において公開審査会を開催した. この審査会の開催については, ポスター掲示と共に大学ホームページへの掲載によって情報周知に努めた. 公開審査会では, 近藤充代氏はパワーポイントを用いて研究内容について詳細に説明した. その後, 質疑応答に移り審査員のみでなく多くの参加者から活発な質問が寄せられた. 近藤充代氏はこれらの質問に概ね的確に回答した. 公開審査会終了後, 審査委員のみで協議を実施した. その結果, 審査員全員が論文内容を評価し高い評点を与えた. また, 近藤充代氏が論文内容だけでなく健康科学全般について十分な知識と理解を有していると判断した. さらに, 審査員の合議の結果, 近藤充代氏は論文内容と関連分野に関する知識と理解のいずれにおいても, 博士 ( 健康科学 ) を受けるに値すると判定した. 3-2. 語学試験論文提出者近藤充代氏は, 平成 25 年 10 月 16 日に博士候補者試験合格が認定されており, 提出論文においても外国語文献を的確に引用していることでも明らかなように, 外国語に関して十分な能力を有するものと判定される. 4. 結論論文提出者近藤充代氏の本論文は, 愛知学院大学学位規則第 3 条 2 項により, 博士 ( 健康科学 ) の学位を受けるに値すると判断し, 学位申請論文を合格と判断した. 審査委員 主査 : 愛知学院大学心身科学部教授 山本正彦 副査 : 愛知学院大学心身科学部教授 大澤功 副査 : 愛知学院大学心身科学部教授 伊藤高行 副査 : 東海学園大学スポーツ健康科学部教授 村松常司 -5-