これからの学芸員に求められる専門性について 九州産業大学美術館緒方泉 1 ある学芸員のつぶやき 学芸員専門講座に行きたいです * 講座に期待すること = 様々な分野とのつながり 博物館運営に関する情報共有 2 学芸員とは? 学芸員は 博物館資料の収集 保管 展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる ( 博物館法第 4 条 ) 国家資格であり任用資格 ( 特定の職業ないし職位に任用されるための資格 ) である 3 欧米の学芸員そして博物館で働く人々の職種は? Curator= 学芸員 Educator( 教育担当者 )/Conservator( 保存技術者 )/Restorer( 修復技術者 )/ Registrar( 登録担当者 )/Documentarist( 文書管理者 )/Courier( 文書伝達者 )/ Archivist( デジタルデータ管理者 )Exhibition Designer( 展示デザイナー )/ Grant Writer( 目録作成者 )/Evaluator( 評価担当者 ) ( 資料 ) 国際博物館会議職員研修国際委員会 (ICOM-ICTOP) の Museum Career Development Tree 4 日本で働く学芸系職員の数は? 1 文部科学省 社会教育調査 平成 20 年度 1 館当たり 1.18 人 ( 登録 相当 3.20 人 )( 類似 0.62 人 )N=5,775 館 2 長崎県の事例学芸員のいない館は全体の約 70%(2010 年文化環境研究所調査 ) 1 館当たり 0.48 人 ( 県内学芸員総数 79 人 博物館総数 166 館 ) 3 就職率 1% の現実 毎年およそ1 万人が学芸員の資格を取得していながら 学部卒で博物館に就職している者は1% に満たない (2008 年 9 月文部科学省生涯学習局社会教育課調べ ) 345 大学 短大で開講 (2009 年 4 月 1 日現在 文部科学省生涯学習局社会教育課調べ ) 5 戦後の博物館及び学芸員養成に関する施策の推移年内容昭和 22(1947) 年教育基本法 学校教育法公布昭和 24(1949) 年社会教育法の制定 ( 学校教育以外のすべての教育を社会教育とする 博物館は社会教育の機関であると規定 ) 昭和 25(1950) 年図書館法公布 文化財保護法公布昭和 26(1951) 年博物館法公布昭和 27(1952) 年博物館法施行規則の制定 ( 学芸員養成 :5 科目 10 単位とする 博物館学 4 単位 教育原理 1 単位 社会教育概論 1 単位 視聴覚教育 1 単位 博物館実習 3 単位 ) 併せて学芸員講習開始 ( 昭和 30 年までの 3 年間で人文科学系 182 名 自然科学系 100 人を養成 ) 昭和 30(1955) 年 * 博物館法の一部改正 ( 博物館の設置主体の範囲を広げる 学芸員講習廃止 - 1 -
試験認定とする 相当施設の認可を文部大臣が行う ) 平成 23 年度博物館学芸員専門講座資料 2011.10.12 * 博物館法施行規則改正 ( 学芸員養成 :5 科目 10 単位以上 試験認定科目とその 実施方法 ) 昭和 40(1965) 年国立社会教育研修所 ( 現 : 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター ) 設置 昭和 41(1966) 年国立社会教育研修所第 1 回学芸員研修開催 昭和 46(1971) 年認可許可等の整理に関する法律により博物館法第 29 条の改正 ( 従来文部大臣が行っていた博物館に相当する施設の指定は 国の設置する 施設を除き 当該施設の所在する都道府県の教育委員会が行う ) 昭和 48(1973) 年公立博物館の設置及び運営に関する基準の文部大臣告示 昭和 50(1975) 年文化財保護法の改正 ( 各種開発事業の進展から埋蔵文化財の保護を強化するための 制度充実 ) 昭和 61(1986) 年 * 国立社会教育研究所を特殊法人国立教育会館に統合 平成 2(1990) 年 平成 8(1996) 年 平成 9(1997) 年 * 社会教育審議会社会教育施設分科会報告 社会教育施設におけるボランティア 活動の促進について 社会教育審議会社会教育施設分科会報告 博物館の整備 運営の在り方について ( 生涯学習時代において期待される役割を果たし 親しまれる 開かれた博物館とし て発展 ) 学術審議会学術情報資料分科会学術資料部会報告 ユニバーシティ ミュージア ムの設置について ( 大学における学術標本の展示 公開等を行うユニバーシティ ミュージアムの設置促進を提言 ) * 私立博物館における青少年に対する学習機会の充実に関する基準の告示 ( 設置 運営民法法人が特定公益増進法人として税制優遇措置を受ける前提として ) * 博物館法施行規則の一部改正 ( 学芸員資格取得に必要な 大学において習得す べき博物館に関する科目及び単位数の整備等 学芸員養成 :8 科目 12 単位以上と する 生涯学習概論 1 単位 博物館概論 2 単位 博物館経営論 1 単位 博物館資料論 2 単位 博物館情報論 1 単位 博物館実習 3 単位 視聴覚教育メディア論 1 単位 教育学概論 1 単位 ) 平成 10(1998) 年 * 都道府県教育委員会教育長宛生涯学習局長通知 博物館に相当する施設の指定 の取り扱いについて ( 地方公共団体の長等が所管する施設についても 博物館相当 施設として指定することが適当 ) * 生涯学習審議会答申 社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方につ いて ( 博物館の望ましい基準の大綱化 弾力化と公立博物館の学芸員定数規定の廃 止等 ) 平成 12(2000) 年 * 地方自治法の一部改正施行 ( 博物館の登録 博物館相当施設の指定などの事務が 国の機関委任事務から都道府県の自治事務に ) * 文化財保護法の一部改正施行 ( 地方公共団体による埋蔵文化財の発掘 埋蔵文化財 の都道府県帰属等 ) 平成 13(2001) 年 * 国立美術館 国立美術館 国立科学博物館などの 16 独立行政法人の設立 国 立社会教育研修所は 国立教育政策研究所社会教育実践教育センターに * 文化芸術振興基本法公布 施行 * 対話と連携 の博物館 ( 日本博物館協会 ) - 2 -
平成 14(2002) 年完全学校週 5 日制の実施 小 中学校新学習指導要領の全面実施 ( 教育内容の精選 総合的な学習の時間の創設 授業時間数の縮減等 ) ゆとり教育の開始 平成 15(2003) 年 * 公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準の告示 ( 昭和 48 年の公立博物館の 設置及び運営に関する基準 文部省告示の全面改訂 地方分権推進に伴う定量的 画一的な基準の大綱化 弾力化 事業の自己評価の努力規定等 ) * 地方自治法の一部改正 ( 指定管理者制度の導入 これまでの地方自治体出資財団による運営委託の廃止 ) * 博物館の望ましい姿 市民とともに創る新時代博物館 ( 日本博物館協会 ) * 文化財燻蒸に係る臭化メチルの取扱いについて ( 文化庁次長通知 ) 平成 16(2004) 年末までに原則全廃 代替品への移行平成 18(2006) 年改正教育基本法の公布 施行平成 19(2007) 年 * これからの博物館のあり方に関する検討協力者会議報告 新しい時代の博物館制度の在り方について ( 博物館登録制度 学芸員制度 博物館運営の見直しを提言 ) * 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部改正 ( 条例により 地方公共団体の長が 文化に関すること ( 文化財の保護に関することを除く ) を管理執行することができる ) 平成 20(2008) 年 * 中央教育審議会答申 新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について * 博物館法の一部改正 ( 文部科学大臣 都道府県教育委員会による学芸員等に対する研修の及び博物館による運営状況の評価とその結果の活用の努力義務 ) * 教育振興基本計画 ( 閣議決定 )( 学芸員の資質向上のため その修得すべき科目の見直し等養成科目の改善を図る ) 平成 21(2009) 年 * これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議報告 学芸員養成の充実方策について ( 第 2 次報告書 ) ( 学芸員養成科目の見直しを具体的に提言 ) * 博物館法施行規則の一部改正 ( 学芸員養成 9 科目 19 単位以上 生涯学習概論 2 単位 博物館概論 2 単位 博物館経営論 2 単位 博物館資料論 2 単位 博物館資料保存論 2 単位 博物館展示論 2 単位 博物館情報 メディア論 2 単位 博物館教育論 2 単位 博物館実習 3 単位 ) * 博物館実習ガイドライン 文部科学省( 学内実習 60 90 時間 館園実習 30 45 時間 館園実習内容の例示 ) 平成 23(2011) 年 * 新学習指導要領全面実施 ( ゆとり教育の終焉 博物館との連携協力を明記 ) * 文化芸術の振興に関する基本的な方針( 第 3 次 ) 閣議決定 ( 専門職員の研修の充実をあげる ) * 研修の充実 ( 文化庁 ミュージアム エデュケーター研修 8 月 日本展示学会 博物館展示論対策講座 9 月 日本ミュージアム マネージメント学会 博物館経営論 博物館教育論対策講座 ( 仮称 ) 11 月 東京文化財研究所 博物館資料保存論対策講座 3 月平成 24(2012) 年新学芸員養成課程開始 6 改正教育基本法と 生涯学習の理念 1947 年の制定から半世紀以上を経て 2006 年 12 月公布施行された 改正教育基本法 第 3 条には 初めて生涯学習の理念が規定された 国民一人一人が 自己の人格を磨き 豊かな人生を送ることができるよう その生涯にわた - 3 -
って あらゆる機会に あらゆる場所において学習することができ その成果を適切に生かすことができる社会の実現を図らなければならない * 生涯学習社会における社会教育機関としての博物館の役割を見直す必要が出てきた 7 学芸員に求められる専門性 新しい時代の博物館制度の在り方について 2007 年 6 月 資料及び専門分野に必要な知識及び研究能力 資料に関する収集 保管 展示等の実践技術を有すること 資料等を介して あるいは来館者との直接的な対話等において高いコミュニケーション能力を有し 地域課題の解決に寄与する教育活動等を展開できること 住民ニーズの的確な把握と住民参画の促進 これに答える事業等の企画 立案から評価 改善まで 一連の博物館活動を運営管理できる能力を備えていること * コミュニケーション力 マネージメント力にも言及する ( 資料 ) 博物館利用者の学芸員等に対する意識 学習を支える専門職員等に期待すること 1 豊富な専門知識 2 気軽に学習相談ができる3 問い合わせ等の柔軟な対応等の学習支援 学習者の不満 1 学習相談に応じること (36.4%)2 コミュニケーション力 (43.4%) の不足出典 : 学習活動やスポーツ 文化活動等に係るニーズと社会教育施設等に関する調査報告書 2006 年 8 学芸員制度の見直しに向けた動き 中央教育審議会答申 新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について 2008 年 2 月 近年 国際的な博物館間の交流や相互貸借 協力等が進展している状況を踏まえ 学芸員が現代的な課題に対応し 国際的に遜色のない高い専門性と実践力を備えた質の高い人材として育成されるよう 大学等における養成課程等において履修すべき科目 単位についての舞台的な見直しを含め 今後の在り方について検討が必要である 教育振興基本計画 2008 年 7 月閣議決定 地域住民の参画を得ながら 地域の自然 歴史 文化等に関する質の高い博物館 美術館活動が行われるよう 子どもや地域住民が地域の美術品や文化財に触れる機会等の提供を支援するとともに 広域的な地域連携や館種を超えたネットワークの構築等を促す また 学芸員の資質向上を図るため その履修すべき科目の見直し等養成課程の改善を図る 9 新しい学芸員養成教育の基本的な考え方 学芸員養成の充実方策について 平成 21 年 2 月大学における学芸員養成教育を 博物館のよき理解者 支援者の養成の場 と位置づけるのではなく 学芸員として必要な専門的な知識 技術を身に付けるための入口として位置づけ 汎用性のある基礎的な知識 (=Museum Basics) の習得を徹底する観点を重視した 10 学芸員制度に関する取得科目の改善博物館法施行規則の一部改正 ( 平成 24 年 4 月 1 日施行 博物館施行規則 ) 学芸員養成 9 科目 19 単位以上 生涯学習概論 2 単位 博物館概論 2 単位 博物館経営論 2 単位 博物館資料論 2 単位 博物館資料保存論 2 単位 博物館展示論 2 単位 博物館情報 メディア論 2 単位 博物館教育論 2 単位 博物館実習 3 単位 ) - 4 -
11 文化芸術の振興に関する基本的な方針 ( 第 3 次 ) 2011 年 2 月閣議決定 1 我が国の美術館, 博物館等が国際的に遜色のない活動を展開できるよう, 企画展示技術の向 上や文化財等の適切な保存管理の徹底を図るとともに, 適切な事業評価に取り組む また, 地域 の美術館, 博物館等の館種や設置者の枠を超えた連携 協力を促進する 2 美術館, 博物館等の質の高い活動を支える人材を確保するため, 学芸員や教育普及等を担う専 門職員の研修の充実を図る また, 美術館, 博物館等の管理 運営や美術作品等の保存 修復, 履歴の管理等を担う専門職員を養成するための研修の充実を図る *2011 年度研修事業 1 文化庁 ミュージアム エデュケーター研修 8 月 国立西洋美術館 2 日本展示学会 博物館展示論対策講座 9 月 国立民族学博物館 3 日本ミュージアム マネージメント学会 博物館経営論 博物館教育論対策講座 ( 仮称 ) 11 月 未定 4 東京文化財研究所 博物館資料保存論対策講座 3 月 12 博物館活動の事例紹介 博物館実習も想定しながら 九州大学総合研究博物館 ( 人文科学 / 自然科学系 ) 西南学院大学博物館( 歴史系 ) 九州産業大学美術館 ( 芸術系 ) の連携による新たな学芸員養成プログラム研究 九州産業大学美術館展示室でできること= 資料を通じたコミュニーション力の育成 資料及び専門分野に必要な知識及び研究能力 *VTS を用いた作品研究 異なる館種の異なる資料の研究 = 博物館資料論 資料に関する収集 保管 展示等の実践技術を有すること * 版画展 や 学芸員のお仕事展 における実験展示 = 博物館展示論 博物館資料論 九州産業大学美術館アートキャラバン隊派遣事業 教員免許状更新講習による学校との連携プログラム研究開発 企画実施 九州産業大学美術館アウトリーチ活動 = 教育プログラムを通じたマネージメント力 コミュンケーション力の育成 資料等を介して あるいは来館者との直接的な対話等において高いコミュニケーション能力を有し 地域課題の解決に寄与する教育活動等を展開できること * 幼稚園 小学校 老人ホーム 障がい者施設などで実施 = 博物館教育論 住民ニーズの的確な把握と住民参画の促進 これに答える事業等の企画 立案から評価 改善まで 一連の博物館活動を運営管理できる能力を備えていること * 行政と連携したプログラム開発 ( 福岡県 子どもアートキャンプ ) = 博物館教育論 博物館情報 メディア論 13 今後の課題 大学と大学 大学と博物館 大学と博物館と企業等が一体となった新時代学芸員養成の推進 学芸員専門講座で出会った全国の仲間を大切にしてください いつでも情報交換ができるネットワークを作ってください ご清聴ありがとうございました 緒方泉 ( 九州産業大学美術館 ogata@ip.kyusan-u.ac.jp,092-673-5157) - 5 -
( 資料 ) 国際博物館会議職員研修国際委員会 (ICOM-ICTOP) の Museum Career Development Tree - 6 -