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第 55 巻第 号 (6 年 9 月 ) (47)5 臨床 研究 Delt 吻合を用いた完全腹腔鏡下幽門側胃切除, Billroth-I 再建導入後の短期成績 The Surgicl Outcome of Delt-shped Anstomosis in Billroth-I reconstrction fter Distl Gstrectomy 會 澤 雅 樹 相 馬 大輝 山田泰史 八木亮磨 上 原 拓 明 勝 見 ちひろ 森岡伸浩 番場竹生 野 上 仁 松 木 淳 丸山 聡 野村達也 中 川 悟 瀧 井 康公 藪崎 裕 土屋嘉昭 Mski AIZAWA,Diki SOMA,Ysufumi YAMADA,Ryom YAGI Hiroki UEHARA,Chihiro KATSUMI,Nobuhiro MORIOKA,Tkeo BAMBA Hitoshi NOGAMI,Atsushi MATSUKI,Stoshi MARUYAMA,Ttsuy NOMURA Storu NAKAGAWA,Ysums TAKII,Hiroshi YABUSAKI nd Yoshiki TUCHIYA 要 旨 5 年 4 月より Delt 吻合を導入し, 早期胃癌に対し完全腹腔鏡下幽門側胃切除を 34 例に施行した Delt 吻合の手技を解説し, 術後短期成績について検討結果を報告する 手術時間中央値は 93 分で, 術中合併症は 例 (5.9%) で認め, うち 例で開腹手術を要した 術後合併症は 4 例 (.8%) で認め, リンパ節郭清操作に起因する膵液漏が主であり, 吻合部関連合併症は認めず, 術後在院期間中央値は 9 日であった 以前まで施行していた小切開下の三角吻合と比較すると手術時間が長い傾向を認めたが, リンパ節郭清レベルの差によるところが大きいと考えられた 合併症の頻度は同等であった Delt 吻合では残胃が比較的小さくなる M 領域の腫瘍に対しても Billroth-I 再建が可能であった Delt 吻合後の短期成績は良好で, 早期胃癌に対する開腹幽門側切除は, 完全腹腔鏡下幽門側胃切除に移行し得ることが示された はじめに 995 年以降, 当科では開腹幽門側胃切除後の Billroth-I 法 (B-I) 再建に三角吻合を採用しており, 習熟度による影響の少ない客観的均一性を伴う安全な吻合法であることを示してきた, ) 腹腔鏡補助下幽門側切除 (Lproscopy ssisted distl gstrectomy: LADG) の導入においても, 小切開下の狭い術野で比較的視認性に優れた三角吻合を用いて B-I 再建を行ってきた 3) 一方で, 年に金谷らにより体腔内吻合 (Delt 吻合 ) を用いた完全腹腔鏡下幽門側胃切除 (Lproscopic distl gstrectomy: LDG), B-I 再建が報告され 4), その有用性の認識に 伴い近年では広く普及している 当科においても, 5 年 4 月より Delt 吻合を用いた B-I 再建を導入しており, 今回 Delt 吻合の利便性と術後短期成績における安全性について検討を行ったので報告する 手術手技 胃, 十二指腸の離断幽門下領域のリンパ節郭清後, 幽門付近の肝十二指腸靭帯の間膜を切開し, 線状縫合器を用いて十二指腸を離断する 助手が胃壁を把持して胃の軸を回転させ, 断端の縫合線が前壁 ~ 後壁方向となるようにする ( 図,b) 続いて胃小弯側, 大網左側, 膵上縁のリンパ節郭清を施行し, 病変から十分な距 新潟県立がんセンター新潟病院消化器外科 Key words: 胃癌 (Gstric cncer), 腹腔鏡下幽門側胃切除 (lproscopic distl gstrectomy), Delt 吻合 (delt-shped nstomosis), 三角吻合 (tringulr nstomosis)

6 48 新潟がんセンター病院医誌 離を確保して胃の離断線をデザインし 図c 線 状縫合器を用いて胃を離断する 図d 完全腹腔 鏡下幽門側胃切除では 触診や胃切開による病変ま たはマーキングクリップの確認が行えないため 必 要に応じて口側胃離断線の決定に術中透視を併用す る 摘出した標本は臍部のport創を拡大して摘出す る 吻合部緊張の確認 吻合に先立って胃と十二指腸の断端を牽引して引 き寄せ 吻合時の緊張を確認する 図 僅かな 緊張は十二指腸の授動や胃脾間膜の切開で軽減し 得るが 緊張が残存する場合は吻合部合併症や術 後の逆流症状の原因となるため Roux en-y再建や Billroth-II再建を選択する 3 吻合操作 胃 十二指腸断端の小孔作成 術者は患者右側に 助手は左側に立って行う 十二指腸断端の前壁側の十二指腸壁 図b 胃 断端の大弯側の胃壁 図c を切開し小孔を作成 する 小孔作成後は胃内容を吸引し 胃液の漏出 による操作部の汚染を防止する b 器械挿入孔の作成と縫合器の挿入 助手の左手portより線状縫合器を挿入し 術者 が両手の鉗子で胃壁を誘導してCrtridge側を胃壁 の小孔に挿入する その後 胃断端の縫合線を時 計回り回転して縫合器を残胃後壁側へ移動させる 助手右手の鉗子にて胃断端の縫合線を把持し 縫 合器と胃壁の位置を保持しながら 胃断端を吻合 予定部へ移動する 続いて術者が両手の鉗子で 十二指腸の小孔付近を把持して十二指腸をAnvil fork側にかぶせる様に 器械を挿入する c 縫合 術者は右手鉗子で十二指腸小孔付近を保持し 左手鉗子で十二指腸断端の縫合線を把持し十二指 図 十二指腸球部を授動後 離断 図b 前後方向に形成された十二指腸断端の縫合線 図c 病変口側マーキングの口側に胃離断線を設定 図d 胃の離断 図 断端同士を引き寄せ吻合部予定部の緊張を確認 図b 十二指腸断端の器械挿入孔作成 図c 胃断端の器械挿入孔作成 図d 線状吻合器を挿入し 胃壁と十二指腸の後壁を接合

第 55 巻 腸後壁を引き出すように十二指腸を反時計回りに 回転させ 胃と十二指腸の後壁同士を接合する 図 d 縫合器の深さが4 45mmになるように小 孔の位置を調整し 縫合を行う この操作により 後壁側/3周のV字型の全層内翻吻合が形成される 図3 縫合後は器械挿入孔より吻合口内側の止 血を確認する 近年の縫合器では縫合先端部の股 のStple間隙は広がらないため 補強は行ってい ない d 器械挿入孔の閉鎖 器械挿入孔に全層支持縫合を3針置いて牽引 し 図3b 線状縫合器で縫合 切離する 図3c 内翻縫合線同士がなるべく離れるよう 胃十二指 腸縫合端が末端となる方向に縫合線を設定する V字型に形成された吻合口の残り/3周は外翻全層 縫合で閉鎖され 三角形の吻合口が形成される 全周において完全な全層縫合が形成されているこ とを確認し吻合完成とする 図3d 原則として リークテストは行っていない 対象と方法 5年4月から6年4月までの期間に当科におい て胃癌に対しLDG Delt吻合を施行した34例を対 象とした Delt吻合導入後3例目までは 経験豊富 な他院の内視鏡外科技術認定医が第一助手として手 術に参加した 臨床病理学的因子 術後経過につい て後方視的に検討した 腫瘍局在 リンパ節郭清に ついては胃癌取扱い規約第4版に準じた 結 49 7 第 号 6 年 9 月 果 対象症例の年齢中央値 範囲 は67 38-86 歳 で 男性は例 女性は4例 BMI中央値 範囲 は.8 7.8-7. であった 腫瘍局在はM領域が 8例で最も多く L領域が7例 ML領域が9例であっ た 手 術 時 間 中 央 値 範 囲 は93-47 分 で 33例でD郭清を施行していた 術中合併症は 例 5.9% に認め リンパ節郭清中の脾被膜損傷と 吻合操作の支持糸縫合の運針中に損傷をきたした動 脈性出血であった 前者は圧迫 電気凝固焼灼にて 完全止血を得たが 後者は圧迫止血後に手術を終了 したところ全身麻酔覚醒中に再出血のためショック 状態となり 開腹止血術を要した 術後合併症は4 例.8% で認め 膵液漏が例 腹腔内膿瘍が 例 麻痺性イレウスが名であった 吻合部に関連 する合併症は認められず 術後在院期間中央値 範 囲 は9 6-64 日であった 考 察 幽門側胃切除の再建法にはそれぞれ一長一短が あるが 開腹と腹腔鏡を問わずB-I再建の際に留意 すべき点として吻合部の過緊張に起因する術後縫 合不全や吻合部狭窄が知られている Delt吻合は Functionl end-to-end nstomosis FEEA の原理を 胃十二指腸吻合に応用して開発された手法で 優れ た術後成績が報告されている5 三角吻合と同様に 線状縫合器のみを用いて三角形の吻合口が形成され 線状縫合器を用いた吻合線では緊張に対する十分な 強度が確保でき 三角形の吻合口では内径が確実に 確保され狭窄しにくい 図4 この点は当科での 長年に渡る三角吻合の経験の中で実証されている 胃十二指腸縫合をFEEAで行った場合 十二指腸 の可動性が乏しいため吻合線と十二指腸断端が平行 に近接して吻合部十二指腸側の血流不全が生じてし まう 本法では予め前後方向に離断した十二指腸を 図3 縫合後に形成された後壁/3周のV字型吻合口 図3b 器械挿入孔の全層支持縫合糸を牽引 図3c 線状吻合器を用いた器械挿入孔の縫合閉鎖 図3d 吻合完成後

8(5) 新潟がんセンター病院医誌 回転させて後壁側に吻合口を形成して吻合部の血流不全を回避している 胃と十二指腸が可能な限り並んだ状態で縫合器を挿入する必要があるが, 腹腔鏡手術では縫合器の挿入角度が制限されており, Delt 吻合の V 字型縫合を作成するには術者と助手の協調が肝要である 特に十二指腸壁は筋層が薄いため高度な緊張下では壁損傷をきたし易いので注意を要する 体腔内吻合では体型の影響を受けにくい良好な視野が得られるため, 壁の色調, 緊張, 小血管が確認できる 鉗子を用いた臓器把持, 体内縫合, 体内での器械操作等の基本的な操作に習熟していれば小切開下の吻合よりも安全な B-I 再建が可能である また, 完全腹腔鏡下幽門側胃切除では創部の侵襲を軽減できる利点もある ( 図 4b) 以前の小切開下の三角吻合の検討結果との比較を表に示す 年齢, 性別,BMI に差は認めないが, 腫瘍局在には明らかな傾向があり,Delt 吻合では M 領域胃癌の頻度が高い 小切開下の三角吻合では断端を体外へ引き出す必要があるため, 残胃が小さくなる M 領域胃癌では施行困難となるが,Delt 吻合では開腹幽門側胃切除と同様に ML 領域全般の病変に対して B-I 再建が可能であった ただし, 高度な食道裂孔ヘルニアが併存している場合はいずれの吻 合法においても術後に難治性の逆流性食道炎を合併する危険性があり,Roux en-y 再建を検討すべきである 手術時間は Delt 吻合で長い傾向を認めたが, D 郭清の操作に時間を要したためであり,Delt 吻合の吻合時間は 5 分程度で三角吻合と同等であった 術後合併症は同等の頻度だが,Delt 吻合では吻合部関連合併症は認めなかった 諸家の報告によると, 吻合部関連合併症の頻度は小切開下の三角吻合で.5-3.% 3, 6),Delt 吻合で.7-.% 7-) であり, 本検討と同様に Delt 吻合で頻度が低いことが示されている Delt 吻合操作中の十二指腸壁損傷が報告されている 9) が, 当科での検討症例では認めなかった 十二指腸を十分に授動し,V 字型縫合作成の際に縫合器の方向と十二指腸軸を合わせるように努めたことで, 損傷が回避されたと考えられた しかし, 吻合操作時の支持糸縫合の際に針先で動脈を損傷した症例があり, 開腹止血術を要した 胃十二指腸動脈, 切離後の左胃大網動脈断端, 幽門下動脈断端, 上前膵頭十二指腸動脈は十二指腸断端後側に接していることがあり, 体腔内縫合の運針には細心の注意を払う必要がある 近年では体腔内操作での三角吻合による B-I 再建が報告されている, 3) 十二指腸の広範な授動を必要とせず, 従来の開腹手術で行っていた端々の胃十二指腸吻合が可能であり, より生理的な食物通過に近づく吻合として期待し得るが, 未だ施行症例の集積が十分ではなく今後の治療成績の検討結果を待つ必要がある おわりに b 当科にて Delt 吻合を用いた完全腹腔鏡下幽門側胃切除,B-I 再建を導入した 34 例の術後短期成績について検討した 残胃が小さくなる M 領域の病変に対しても B-I 再建が可能である点で小開腹下の三角吻合よりも優れており, 吻合部関連合併症は認めなかった 今回の結果により, 早期胃癌に対する開腹幽門側切除は, 完全腹腔鏡下幽門側胃切除に移行し得ることが示された 図 4: 術後 年の吻合部内視鏡写真図 4b: 術後 年の創部写真 文 献 ) 藪崎裕, 梨本篤, 中川悟. 自動吻合器 縫合器による消化管再建の標準手技と応用 幽門側胃切除後の三角吻合法. 臨床外科 6():45-5,5 ) 藪崎裕, 梨本篤, 中川悟. 消化管再建法合併症ゼロへの工夫 胃切除後再建法幽門側胃切除後 B-I 再建三角吻合. 手術 64():47-44, 3) 松木淳, 藪崎裕, 梨本篤, et l. 腹腔鏡補助下幽門側胃切除後の三角吻合によるBillroth-I 再建術. 新潟医学会雑誌 6(3):49-54, 4)Kny S, Gomi T, Momoi H, et l. Delt-shped nstomosis in totlly lproscopic Billroth I gstrectomy: new technique

第 55 巻第 号 (6 年 9 月 ) (5)9 of intrbdominl gstroduodenostomy. J Am Coll Surg 95 ():84-87, 5)Kny S, Kwmur Y, Kwd H, et l. The delt-shped nstomosis in lproscopic distl gstrectomy: nlysis of the initil consecutive procedures of intrcorporel gstroduodenostomy. Gstric Cncer 4(4):365-37, 6) 川村秀樹, 岡田邦明, 益子博幸, et l. 腹腔鏡補助下幽門側胃切除における三角吻合 Billroth-I 法再建. 日本内視鏡外科学会雑誌 (6):677-68, 7 7) 河村祐一郎, 金谷誠一郎, 小原和弘, et l. 胃癌手術における腹腔鏡下デルタ吻合 5 例の臨床評価術後アンケートから. 日本内視鏡外科学会雑誌 4(6):65-656, 9 8) 山崎公靖, 村上雅彦, 田嶋勇介, et l. 体腔内 Birrloth-I 法再建 ( デルタ吻合 ) を用いた腹腔鏡下幽門側胃切除術の検討. 昭和医学会雑誌 7(6):67-673, 9) 川田洋憲, 金谷誠一郎, 岡田俊裕, et l. 内視鏡外科手術の消化管吻合 コツとピットフォール 食道 胃領域腹 腔鏡下幽門側胃切除術における安全な体腔内吻合の工夫 B-I 再建 ( デルタ吻合 ). 手術 7():7-, 6 ) 太和田昌宏, 長尾成敏, 木山茂, et l. 腹腔鏡下幽門側胃切除術 ( デルタ吻合 ) 後の吻合部通過障害に対し腹腔鏡下胃空腸吻合術 (Roux-Y 法 ) を施行した 例. 手術 68 (9):47-5, 4 ) 北上英彦, 村上慶洋, 村川力彦, et l. 消化管再建法合併症ゼロへの工夫 胃切除後再建法幽門側胃切除術後 B-I 再建デルタ吻合. 手術 64():49-45, )Omori T, Msuzw T, Akmtsu H, et l. A simple nd sfe method for Billroth I reconstruction in single-incision lproscopic gstrectomy using novel intrcorporel tringulr nstomotic technique. J Gstrointest Surg 8(3):63-66,4 3) 沖英次, 池田哲夫, 佐伯浩司, et l. 腹腔鏡下胃切除後再建術 必修技術 腹腔鏡下幽門側胃切除におけるリニアステイプラーを用いたBillroth I 再建法デルタ吻合と book binding technique(bbt). 手術 67(5):55-53, 3 表患者背景, 腫瘍因子, 手術因子 ( 前回報告した三角吻合の検討結果を併記 ) Delt 吻合 3) 三角吻合 対象期間 5 年 4 月 ~ 6 年 4 月 9 年 月 ~ 年 8 月 症例数 34 3 年齢 ( 歳 ) 中央値 ( 範囲 ) 67(38-86) 69(36-89) 性別 男性女性 9 5 7 4 BMI 中央値 ( 範囲 ).8(7.8-7.).7(5.-8.8) 腫瘍局在 M ML L 8 7 8 3 原疾患 胃癌粘膜下腫瘍 34 3 手術時間 ( 分 ) 中央値 ( 範囲 ) 93(-47) (45-346) リンパ節郭清 D+ D 33 3 術中合併症 なしあり脾損傷動脈出血 3 3 術後合併症 なしあり吻合部狭窄吻合部出血縫合不全膵液瘻腹腔内膿瘍麻痺性イレウス肺炎急性胃腸炎創部感染 3 4 7 4 吻合部関連合併症症例数 術後在院日数中央値 ( 範囲 ) 9(6-64) (7-47)