第 56 回日本視能矯正学会一般講演眼軸長によるトーリック眼内レンズの軸ずれの違い 村上嵩樹 蕪龍大 竹下 哲二 上天草市立上天草総合病院 Difference of Axial Gap of Toric Intraocular Lens by the Axial Length. Takashige Murakami, Ryota Kabura, Tetsuji Takeshita Department of Ophthalmology, Kamiamakusa General Hospital 要約 目的 正常眼軸長眼と長眼軸長眼で術翌日のトーリック眼内レンズ( 以下 T-IOL) の軸ずれに差があるか検討した 対象および方法 2013 年 1 月から2015 年 6 月までに AcrySof IQToric SN6AT3-9 を挿入した 22.00mm 以上 24.50mm 未満の正常眼軸長群 35 症例 56 眼 ( 平均 ± 標準偏差 74.7±5.5 歳 以下同様 ) と 24.50mm 以上の長眼軸長群 13 例 19 眼 (71.1±10.0 歳 ) 術翌日に術眼を散瞳し T-IOL の軸角度と挿入予定軸角度とのずれを比較した また術前と術後 1 週間の裸眼 矯正視力 自覚的 他覚的球面度数 自覚的 他覚的円柱度数を比較した 結果 術翌日の軸ずれは長眼軸長群が3.47±2.06 正常眼軸長群が3.86±3.04 で有意差は無かった (p=0.55) 術後の裸眼 矯正視力 自覚的 他覚的球面度数 自覚的 他覚的円柱度数に眼軸長による差はなかった 結論 長眼軸長群と正常眼軸長群で術後のT-IOL の軸ずれ及び術後成績に差は無かった 別冊請求先 ( 866-0293) 熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸 1419-19 上天草市立上天草総合病院眼科 Tel. 0969(62)1122 Fax. 0969(62)1546 E-mail:ganka@cityhosp-kamiamakusa.jp Key words: 眼軸長 トーリック眼内レンズ 軸ずれ axial length, toric intraocular lens, axial gap 265
日本視能訓練士協会誌 Abstract Purpose To compare the rotation of toric intraocular lenses (T-IOLs) on the day following surgery between eyes with normal axial length and those with long axial length. Subjects and Methods Comparisons were made between 56 eyes of 35 cases (mean (± standard deviation) age, 74.7 ± 5.5 years) who had undergone insertion of an AcrySof IQToric SN6AT3-9 inserted between January 2013 and June 2015 with normal axial length (22.00-24.50 mm) and 19 eyes of 13 cases (mean age, 71.1 ± 10.0 years) with long axial length (>24.50 mm). The day after operation, the pupil was dilated and the axis of the T-IOL was measured. Difference from the target axis was then calculated. Naked and corrected visual acuity, subjective and objective spherical power, and subjective and objective cylindrical power were compared between preoperatively and 1 week postoperatively. Results The mean difference between axial rotation after surgery and the target axis was 3.86 ± 3.04 in the normal axial length group and 3.47 ± 2.06 in the long axis group. No significant difference between groups was evident (p=0.55). At 1 week postoperatively, no significant differences were seen in naked and corrected visual acuity, subjective and objective spherical power, or subjective and objective cylindrical power. Conclusion No significant differences in rotation of the T-IOL or in postoperative results were evident between normal and long axial length groups. Ⅰ.緒言トーリック眼内レンズ ( 以下 T-IOL) は白内障手術時に乱視を矯正できるが その効果を最大に発揮させるにはレンズの軸を挿入予定軸角度に正確に合わせることが重要である また 手術時に軸を正確に合わせることができても挿入後にレンズが回転すればその効果は減弱するが どのような症例で挿入後にレンズが回転しやすいかについての報告はまだ少ない 1)~ 4) 眼軸長の長短によって術後のT-IOLの軸ずれに差があるか検討した Ⅱ. 対象および方法対象は2013 年 1 月から2015 年 6 月までに同一の術者によりAcrySof IQToric SN6AT3-9 を挿入された24.50mm 以上の長眼軸長群 13 例 19 眼 (71.1±10.0 歳 ) と 22.00mm 以上 24.50mm 未満の正常眼軸長群 35 症例 56 眼 (74.7±5.5 歳 ) と 5) した 眼軸長による群の分け方は島村らの報告に従った 挿入予定軸角度の決定は アクリソフ IQ ウェブカリキュレーターを用いて行った 術中の軸合わせは 術前に NIDEK 社製角膜形状 解析装置 ( 以下 OPD-ScanⅢ) と細隙灯顕微鏡カメラで撮影した前眼部画像を用いた パ 6-7) ネル法で行った 術翌日に術眼を散瞳し T-IOLの軸角度をOPD-Scan Ⅲ のToric IOL Summaryの徹照像画像を用いて計測し 挿入予定軸角度とのずれを算出した また 術前と術後 1 週間の裸眼 矯正視力 自覚的球面 円柱度数 他覚的球面 円柱度数についても比較した 球面度数は等価球面値を用いて平均及び標準偏差を算出し 円柱度数は絶対値に変換し平均及び標準偏差を算出した 目標屈折度数は全例で0Dとした 検定はWelchのt- 検定で行った Ⅲ.結果長眼軸長群の眼軸長は25.62±1.03mm 正常眼軸長群の眼軸長は22.94±0.57mmであった 術翌日の軸ずれは長眼軸長群が3.47±2.06 正常眼軸長群が3.86±3.04 で有意差はなかった (p=0.55) 裸眼視力は正常眼軸長群ではlogMAR 値で術前 0.61±0.42から術後 0.11±0.21と改善し (p<0.01 以下同じ) 長眼軸長群では同様に0.75±0.42から0.22±0.35と改善した ( 図 1 266
左 ) 矯正視力は正常眼軸長群では0.23±0.41 から-0.01±0.10と改善 長眼軸長群では 0.22 ±0.25から0.01 ±0.15 と改善した ( 図 1 右 ) 自覚的球面度数は正常眼軸長群では-0.08±1.88D から0.24±1.21Dと改善し 長眼軸長群では -3.47±4.06Dから-0.32 ± 1.08D と改善した ( 図 2 左 ) 他覚的球面度数は正常眼軸長群で2.10± 1.23Dから0.54±0.79Dと改善 長眼軸長群で 2.26±1.47Dから0.66 ± 0.51D と改善した ( 図 2 右 ) 自覚的円柱度数は正常眼軸長群では0.21 ±1.78Dから-0.17±0.61D と改善し 長眼軸長群では-3.34±3.76D から -0.43D±1.25D と改善した ( 図 3 左 ) 他覚的円柱度数は正常眼軸長群で1.95±1.28D から 0.54 ± 0.79D と改善 長眼軸長群で2.26±1.36D から 0.68 ± 1.28D と改善した ( 図 3 右 ) いずれの術後成績も両群間に有意差はなかった -6.00D 以上の強度近視眼が2 症例 3 眼あったが 軸ずれには正常眼軸長群と大きな差がなかった ( 表 ) Ⅳ.考察 T-IOLの軸ずれには 挿入時の軸合わせが正しく行われずに予定軸角度からずれたものと 挿入後経時的にT-IOLが水晶体嚢内あるいは水晶体嚢ごと開店したために生じるずれがある 後者を見た論文のうち 林ら 8) は術翌日のT-IOLの軸と1 年後のT-IOLの軸の差が3 未満に収まったものが61% で全体でも9 を超 図 1 長眼軸長群と正常眼軸長群の術前と術後の裸眼視力及び矯正視力の変化 図 2 長眼軸長群と正常眼軸長群の術前と術後の自覚的及び他覚的球面度数の変化 267
日本視能訓練士協会誌 図 3 長眼軸長群と正常眼軸長群の術前と術後の自覚的及び他覚的円柱度数の変化 表 強度近視眼 2 症例 3 眼の術翌日の軸ずれ なかった このことから SN6AT 挿入眼でも眼軸長による術中軸合わせの精度に差がないことと 少なくとも術後 1 日でのT-IOLの回転には差がないことが示された 過去の報告のようにSN6AT 挿入眼では長眼軸長群と正常眼軸長群において長期的な軸ずれに差が出るかどうか今後検討していく必要がある える症例はなかったとしている しかし長眼軸長眼では挿入後にレンズが回転しやすいのではないかという懸念もある Shahら 1) は SN6AT 挿入術後 6か月で長眼軸長眼は正常眼軸長群に対して有意に回転し 軸ずれの変化が大きかったのは術後 1 週間から1か月としている Zhu ら 3) やMiyakeら 4) も同じくSN6AT 挿入術後 1 年で長眼軸長群は正常眼軸長群に対して有意に回転したとしている 一方 Hirnschallら 2) は TECNIS toric ZCT 挿入術後 1 時間と3か月の軸角度に大きな変化はなかったとしている この違いは用いたT-IOLが異なるメーカーのものであったためかもしれない 今回我々は挿入翌日に軸角度を測定することにより 予定軸角度からどの程度ずれたかについて検討した 長眼軸長眼の症例は術前から前房深度が深く 術中はその変動が大きい 細心の注意を払って軸合わせを行っても 術後に前房深度が変化してT-IOLが回転してしまうことも考えられる しかし長眼軸長群と正常眼軸長群の間に挿入予定軸角度からのずれに有意差が 参考文献 1 )Shah G, Praveen M, Vosavada A, Vosavada V, Rampal G, Shastry L: Rotational stability of a toric intraocular lens: Influence of axial length and alignment in the capsular bag. J Cataract Refract Surg 38: 54-59, 2012. 2 )Hirnschall N, Maedel S, Weber M, Findl O: Rotational stability of a single-piece toric acrylic intraocular lens: a pilot study. Am J Ophthalmol. 157: 405-411, 2014. 3 )Zhu X, He W, Zhang K, Lu Y: Factors influencing 1-year rotational stability of AcrySof toric intraocular lenses. Br J Ophthalmol. 100: 263-268, 2016. 4 )Miyake T, Kamiya K, Amano R, Iida Y, Tsunehiro S, Shimizu K.: Long-term clinical outcomes of toric intraocular lens implantation in cataract cases with preexisting astigmatism. J Cataract Refract Surg 40: 1654-1660, 2014. 268
5 ) 島村恵美子 須藤史子 菊池里香 高橋智子 佐藤千秋 徳田芳浩 : 眼内レンズ度数予測のための生体計測の検者別精度. 日視会誌 32: 163-168, 2003. 6 ) 竹下哲二 : トーリック眼内レンズ軸合わせ分度器の製作. 眼科手術 25: 97-100, 2012. 7 ) 小野晶嗣 蕪龍大 竹下哲二 : パネル法を用いてトーリック眼内レンズの軸合わせを行なった手術成績. 日視会誌 41: 195-199, 2012. 8 ) 林泰博 : トーリック眼内レンズ挿入眼の軸回転の評価. 臨眼 67: 1213-1216, 2013. 269