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転移を認めた 転移率は 13~80% であった 立細胞株をヌードマウス皮下で ~1l 増殖させ, その組

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EGFR-TKI を使用した場合と第 2 世代 EGFR-TKI を使用した場合とでその後のタグリッソの効果が同等であるかは明らかではありません 両者の間で EGFR 以外の癌に関する遺伝子の状態にも違いが生じている可能性もあります そこで今回私たちは EGFR-TKI に対する耐性獲得時に T79

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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学位論文 : 転移性乳癌における EZH2 発現の臨床的意義 Expression of enhancer of zeste homolog 2 correlates with survival outcome in patients with metastatic breast cancer: exploratory study using primary and paired metastatic lesions 論文内容の要旨 : 背景と目的 ヒストン修飾酵素 enhancer of zeste homolog 2 (EZH2) は,polycomb repressive complex 2 の構成分子であり, ヒストン H3 の 27 番目のリジンをメチル化し 他の転写因子と協調して癌抑制遺伝子発現を抑制する 様々な癌腫で EZH2 が増殖能や浸潤能に関与することが示されている. 乳癌においては,EZH2 が原発巣の悪性度の指標となっていること, 原発巣の EZH2 の発現が予後因子となること, および原発巣のサブタイプ別の EZH2 の発現に関して報告があるが, 乳癌の転移巣における EZH2 発現を検討したものは少ない. 本研究では乳癌の転移巣における EZH2 の発現の臨床的意義を明らかにする目的で解析を行った. 方法 対象は,1990 年から 2014 年までの間に, 神奈川県立がんセンターで原発巣手術後に転移再発巣を切除もしくは生検した転移再発乳癌症例 96 例とした. 各症例で原発巣および転移巣の EZH2 および既知のバイオマーカー発現を免疫染色で評価し, 同一症例の原発巣および転移巣における EZH2 の発現の比較,EZH2 と臨床病理学的因子との相関,EZH2 発現と予後との関係, 再発後生存期間における予後因子を解析した. 結果 原発巣と転移巣における EZH2 の発現の比較では転移巣で発現が増加していた (p<0.001). EZH2 発現と臨床病理学的因子の検討では, 原発巣の EZH2 発現は, 原発巣のリンパ節転移, 原発巣 ER 陰性例, 原発巣 HER2 陽性例, 原発巣 Ki-67 高発現症例,2 年以内に再発した症例と相関しており, 転移巣の EZH2 発現は, 転移巣 Ki-67 高発現症例と相関していた. 転移巣の EZH2 の発現は, 再発後生存期間と有意に相関しており 高発現例で予後不良であった (P=0.014). 再発後生存期間の予後解析では, 転移巣の EZH2 発現は, 独立した予後不良因子 (HR 2.047; 95% CI 1.074 3.902, P= 0.029) であった. 考察 転移巣での EZH2 の発現状況を確認するため, 原発巣と転移巣での EZH2 の発現を比較し, 転移性乳癌において EZH2 の発現が原発巣と比較して転移巣で増加することを示した. そのメカニズムについては十分に明らかにはなっていないが, これまでに二つの報告がある. 一つ目は,EGFR(epidermal growth factor receptor) ならびに, その下流の MAPK (Mitogen activated protein kinase) 経路の中の Elk-1 が EZH2 の発現を促進することが報告されている. 二つ目は, 転移性乳癌では CDK4/6 (cyclin dependent kinase) やサイクリン D が高発現になってお

りそれらの働きで RB(Retinoblastoma) タンパクがリン酸化を受けると E2F との結合能が失われ, その E2F が EZH2 発現亢進へと導くことが報告されている. 次に我々は,Cox 回帰モデルを用いて各臨床病理学的因子, ならびに原発巣, 転移巣の各バイオマーカーの発現と再発後の予後との関係を検討し, その結果, 転移巣の EZH2 が独立した予後不良因子になるということを示した.EZH2 により様々な癌抑制遺伝子が抑制されることで, 複数の細胞増殖経路が活性化されることは報告されており, 一つの経路が抑制されても, 別の経路で細胞が増殖する そのため転移性乳癌では転移巣の EZH2 の発現が独立した予後不良因子となることが考えられた. 審査結果の要旨 : 上記の論文要旨の説明に続いて, 以下の質疑応答がなされた. まず, 仙石徹副査より以下の質問がなされた. 1) 多変量解析の P 値とは一般にどのような意味を持つのか 2) EZH2 と癌の増殖 転移との関連についてどの様に考察したか 3) 多変量解析で今回選択した因子について詳しく説明せよ 4) 実際の乳癌に対する,EZH2 阻害薬の効果を検討した報告はあるのかこれらの質問に対して以下の回答がなされた. 1) 帰無仮説は予後において共変量の影響がないことであり,Cox 回帰分析で検定し有意水準 (P=0.05) 以下の確率であれば帰無仮説を棄却し, その共変量は, 予後に影響ありと分かる.P 値が小さければ小さいほど, 帰無仮説を棄却する強力な根拠となる. 2) EZH2 は E カドヘリンを抑制し上皮間葉転換 (EMT) に関与するので, 転移に働きかける作用とともに, 複数の癌の増殖経路にも関与する可能性が高いと考えている. 3) 単変量解析で選択された因子 すなわち原発巣の ER,PR,Ki-67,DFI2 年以内, 転移巣の Ki67 と EZH2 のうち,ER と PR の発現は相互に相関関係がみられていたので,ER を選択し, また EZH2 と Ki67 も相関していたので,EZH2 をその次のステップとして選択した. その結果, 原発巣 ER,DFI2 年以内, 転移巣の EZH2 を抽出し多変量解析を行ってみた. 4) 乳癌細胞株の実験や, トリプルネガティブ乳癌の細胞株をマウスに移植した系での研究報告は既になされており,EZH2 阻害薬の効果が確認されている. 次に成井一隆副査より以下の質問がなされた. 1) EZH2 によって細胞増殖が導かれるのか, もしくは細胞増殖の結果 EZH2 が高発現となるのか この点はどの様に考察できるか 2) EZH2 は治療予測因子になりうるか. また, その場合,EZH2 に固有な治療薬はあるのか 3) EZH2 を抑制し, エストロゲンレセプターの発現が増加した場合, ホルモン

治療の効果は期待できるか これらの質問に対して以下の回答がなされた. 1) 両方のメカニズムが考えられる. 悪性度が高いサブタイプの乳癌では MEK-ERK 経路などの細胞増殖経路を介して EZH2 が高発現となる. 一方, 細胞周期に関する E2F により,EZH2 が増加することは示されているので, 細胞増殖の結果 EZH2 が高発現となると思われる. 2) EZH2 の増殖メカニズムから考えると, 現在日常臨床で使用されている抗がん剤の治療効果予測因子となり得ると考えている. また PERP 阻害薬と現在開発中の EZH2 阻害薬の相乗効果も報告されている. 3) エストロゲン陽性細胞の増殖経路は複数あり,EZH2 を抑制したとしても, 別の増殖経路で増殖するかもしれないが, ホルモン治療の効果は期待できる可能性はあると考えている. 最後に矢尾正祐主査より以下の質問がなされた. 1) 本研究全体のうちで申請者が実際に行ったところはどこか. 2) 乳癌の腫瘍内において組織型の heterogeneity は認められるのか. 3) 乳癌の heterogeneity と組織マイクロアレイでの EZH2 発現の評価はどうだったか. 4) 原発巣と転移巣での組織型の一致, 不一致に関して知見は得られたか 5) 単変量解析で HER2 が予後不良因子として検出されなかった理由はどの様に考察しているか 6) Ki-67 と EZH2 の因子だけで多変量解析を行ってみたか 7) EZH2 遺伝子の mutation についてはどの様な知見が既に得られているか 8) 単変量解析で選択された因子を全て含んで多変量解析は行ってみたか これらの質問に対して以下の回答がなされた. 1) データベース作成, 組織マイクロアレイの場所の選定, 免疫染色の評価, 結果の解析, 論文作成を行った. 2) 細胞の増殖能が低ければ, 均一な組織型であるし, 細胞の増殖能が高ければ,heterogeneity は認められる. 3) 比較的新しい症例は, 腫瘍の先進部で評価し, 古い症例ではホルマリン固定状態のよい部位で評価した. 4) 転移巣では生検のみの標本も多く, 組織型までは評価できなかった 5) 一般に,HER2 陽性は予後不良因子と考えられているが, 最近では抗 HER2 薬剤が使用可能であり良好な治療効果を示しているので, 今回の解析患者群でも予後因子として検出されなかった可能性が考えられる. 6) 解析したところ, いずれも予後不良因子として選択されなかった.

7) 悪性リンパ腫などの血液系腫瘍では,EZH2 mutation を持つ症例はより悪性度が高いことが報告されている. 一方乳癌では EZH2 mutation の報告はほとんどなされていない. 8) 学位論文にはその解析のデータを Additional File として掲載しており, 閲覧可能なかたちとなっている. その他にもいくつかの質問があったが, 申請者によりいずれも適切な回答がなされた. 申請者は本課題に対して深い理解と洞察力を持って研究に取り組み, 新たな学術的知見を得たことを証明した. よって博士の学位授与に値すると総合的に判断された.