図 3 ハイテン材板厚と強度比の関係. 図 5 車体各部位の必要特性. 図 4 高ハイテン化による重量削減効果.. ハイテン材の適用効果 ハイテン材の適用による軽量化効果は主に等価強度の考え方による板厚減少に拠るところが大きい. 図 にハイテン板厚と同一形状に対する強度変化比の関係を示す. 図 3

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自動車用ハイテン材の現状 齋藤和也. はじめに近年, 自動車業界では燃費性能の向上策の一つとして, 車体の軽量化 が進められている. 同時に衝突安全のニーズも高まっており, 骨格部品の高強度化が求められている. この 車体の軽量化 と 高強度化 を両立させるために, 自動車車体構造への高張力鋼板 ( ハイテンションスチール板, 以後ハイテン材 ) が積極的に適用されてきた. 本稿では, 自動車用ハイテン材の適用状況について解説する.. 自動車車体軽量化の必要性近年の環境問題の高まりに対し,CO 2 排出量の削減のため, 世界各国で燃費基準が定められている. 我が日本においても同様であり, 自動車からの CO 2 排出量は, 我が国全体の排出量の約 2 割を占めており, 地球温暖化対策を推進するため, 自動車からの CO 2 排出量を削減することが重要な課題となっている. その対策の一つとして, 自動車の燃費性能を改善させることは, 極めて重要である (1). 図 に車両重 量と燃費の関係を示す. 図 1 より, 変速機形式や駆動形式に拠らず, 車体重量の増加と共に燃費が悪化していく状況が読取れる. このことから, 車体の軽量化が燃費向上の有効な手段であることが解る.. 自動車車体軽量化の考え方一般的に, 車両重量の約 200~300 kg を占める車体重量において,100 kg の軽量化は 1km/Lの燃費向上に寄与すると言われている. このことから, 車体の軽量化は, ハイブリッド車のような大幅な燃費向上には寄与し難いものの, 図 に示すように, 骨格配置の進化や 継ぎ手部 断面の進化, 或いは 材料の進化による重量削減が期待できることから, 大きな投資や部品調達方法の変化を伴わない燃費向上の手法として, ニーズが高い. これらの手法において, ハイテン材の適用は図 2 における 材料の進化中の高強度化に該当する. 図 1 車両重量と燃費の関係 ( 国土交通省ホームページ ). 図 2 車体軽量化の考え方. ホンダエンジニアリング株式会社生産技術部車体生産技術 BL6Gr 技術主任 ( 321 3395 栃木県芳賀郡芳賀町芳賀台 6 1) The Current Application Situation of High tensile Strength Steel Sheet for Automotive Body; Kazuya Saito(Body Production Engineering Block, Production Engineering Division, Honda Engineering Co., Ltd., Haga Gun, Tochigi) Keywords: high tensile strength steel, weight reduction for automotive body, tailor weld blank, hotstamping 2014 年 7 月 24 日受理 [doi:10.2320/materia.53.584]

図 3 ハイテン材板厚と強度比の関係. 図 5 車体各部位の必要特性. 図 4 高ハイテン化による重量削減効果.. ハイテン材の適用効果 ハイテン材の適用による軽量化効果は主に等価強度の考え方による板厚減少に拠るところが大きい. 図 にハイテン板厚と同一形状に対する強度変化比の関係を示す. 図 3 において,590 MPa 級ハイテン材と 1500 MPa 級ハイテン材の強度比を等価とすると考えた場合,590 MPa 級では 2.4 mm 必要であった板厚が,1500 MPa 級に置換することにより 1.6 mm で同じ強度を持たせることが出来ることを示している. 言い換えれば, 強度を約 2.5 倍にすれば, 約 33 の板厚 = 重量が削減できるという事である. 図 に 590 MPa 級ハイテン材を100とした場合の, 高強度化による重量削減効果の例を示す. 図からも明らかなように, 材料の強度が高くなるほど重量削減効果が大きくなる. この事象を逆に考えれば, 高ハイテン材を活用すれば, 板厚を厚くしない ( 車体重量を増加させない ) で, 車体の高強度化, つまり衝突安全性の向上が図れるということである. これらの理由が, 自動車車体へのハイテン材の適用増加の一因となっている.. 自動車車体へのハイテン適用の考え方先述したように, 高強度材を適用することで車体の軽量化は促進される部分はあるものの, 車体の特性から鑑みると単純な高強度化は困難である. 図 に車体各部位の求められる特性を示す. 図 5 より, 車体のフロントおよびリア側には衝突エネルギーを吸収するための安定した圧壊特性が求められる. これに対し, 車体中央のキャビン部分には乗員を保護するために, 高い変形耐性が求められる. これら車体の必要特性からハイテン材の適用を考慮した場合, 一般的な金属材料と同様 図 6 各種ハイテン材の引張強度と伸びの関係. にハイテン材でも, 引張強度の向上と共に伸びが低下する特性があるため, 材料特性を考慮した適用検討が必要となる. 各種ハイテン材の引張強度と伸びの関係を図 に示す. 車体のフロント リア側には伸びを活かした衝撃吸収性能が求められるため,780 MPa 以下のハイテン材の適用が主に検討される. 反対にキャビン側には変形耐性が高い高ハイテン材の適用が優先的に検討される. これらの考え方を最適化することが軽量化と衝突安全性の両立には重要である.. ハイテン材適用の課題上述してきた様に, ハイテン材適用を最適化することにより自動車車体の軽量化に貢献するものの, 高強度化 伸びの低下に伴う成形性の課題が発生する. 表 に代表的な自動車用軟鋼板である 270 MPa 級材と中強度のハイテン材である 590 MPa 級の代表的な成形性指標の比較および発生する問題点を示す. シワ キレツハイテン化による, キレツ シワの発生についてはシミュレーションを活用した成形予測による成形形状の最適化等の対応が図られている. また, 材料の改良による成形性の向上 (n 値,r 値の改善 ) も図られている. 最近の事例では, これまでに採用してきた 980 MPa 級ハイテン材に対し, 同等以 まてりあ第 53 巻第 12 号 (2014) Materia Japan

上の延性を有する 1180 MPa 級高成形性超ハイテン材が開発されている. この開発においては, 材料組織を極限まで微細化させる技術により, 強度と延性を同時に向上させる事に成功した (2). また, 高ハイテン材に於いて問題となる遅れ破壊特性についても向上が図られている (3). 金型寿命 金型の摩耗, カジリによる寿命低下に対しては, 金型材質の高強度化や金型表面処理による高硬度化, 低 m 化等の施策を最適化し高寿命化が図られている. スプリングバック スプリングバックとは, 金型によって決定される形状と実際に加工された製品の形状との差の事であり, 一般的には材 表 1 ハイテン化による成形性の問題点. JAC270F JAC590R 主な問題点 n 値 0.25 0.13 キレツ限界低下 r 値 1.98 0.78 シワ限界低下 引張強度 270 MPa 590 MPa 金型寿命低下スプリングバック増大 料強度が高い程, スプリングバック量が大きくなるとされている ( 図 ). スプリングバックの増大に対しては, 金型見込みによる対応が取られる事が多い. 金型見込みとは, スプリングバックとは逆方向に形状変形を行い, プレス成形後に製品形状を出すようにする金型調整法のことである. 見込み量の設定は, 過去のノウハウの蓄積により行われる事が多い.270 MPa 級の軟鋼板の場合, 各社とも過去の膨大な実績があるため, 類似形状から部位毎の見込み量を事前予測することは比較的容易であり, 通常はスプリングバック量に対して, 逆方向にスプリングバックと同じ量の見込み設定を行う. しかし, ハイテン材の場合はノウハウの蓄積が十分ではなく, またスプリングバック量が大きいため, 見込み量の事前予測が難しい. シミュレーションによるスプリングバックの事前予測も行われているが, 高ハイテン材ほど現物と合致しない事が多い. このため, 見込み量の改修を数度繰り返す事もあり, 金型調整工数の増大が各メーカーの問題となっている. いずれの成形性課題についても, 高ハイテン化に従って問題事象が顕著化してきており, 完全に解決されたとは言い難い. 各社とも精力的に課題解決に取り組みつつ, 適用部品を拡大, 推進しているのが実情である.. 自動車車体へのハイテン適用事例 ハイテン材適用の変遷 図 7 引張強度とスプリングバック量の関係. 弊社の基幹車種である ACCORD の車体におけるハイテン材適用状況の変遷について, 図 に示す. 2003 年度モデルのハイテン化比率は約 40 程度であったのに対し,2008 年度モデルでは48,2013 年度モデルでは約 56 と年々ハイテン材の適用比率が増加してきている事が解る. 一方, 使用ハイテン材のグレードで見た場合, 2003 年度モデルでは 590 MPa 級の使用比率が13 であったのに対し,2008 年度モデルでは42 にまで拡大している. さらに,2013 年度モデルでは590 MPa 級の使用比率が約 図 8 ACCORD におけるハイテン適用状況の変遷.

34 に低下, その代わりに 780 MPa 級や 980 MPa 級, またホットスタンプ材 (1500 MPa 級 ) 等が適用されてきている. これらの事から, 年々車体の高ハイテン化が推進されてきたことが解る. この高ハイテン材の適用化により2013 年度モデルでは, 前モデル比 8kgの車体の軽量化及び同等以上衝突安全性の確保を実現している. テーラードブランクへのハイテン材の活用テーラードブランク (Tailor Welded Blank 以下 TWB) は, 板厚や材質の異なる複数の鋼板をプレス成形前に溶接し, 1 枚のブランクとしたものである.TWB の適用は, 素材の最適配置を可能とし, 車体の軽量化と高剛性化を両立できるため, 国内においては1990 年代以降そのニーズが高まり, ドアインナ, サイドパネルインナ, サイドメンバなどの各種部品への適用が増加している (4) (6). 最近の弊社としてのハイテン材と TWB の組合せ事例として, 軽自動車である NBOX のサイドパネルアウタ(Side Panel Outer 以下 SPO) への適用が挙げられる ( 図 ). SPO では, アウタ前側のフロントピラ下部と下側のサイドシルに繋がる範囲と, 前側のフロントピラ上部からルーフそして後ろのリアパネルにつながる範囲で, 必要機能が分かれている. 前者は衝突時の変形を抑制する必要があるエリアである一方, 後者は耐デント性を満足する必要があるエリアである. また,SPO は人目に触れる部品でもあるため, 特に後者は, 意匠性が求められ成形性が必要となる. そこで板厚と材料強度および成形性の異なる TWB が求められた. 従来の一般的な手法は,SPO 全体を薄板で成形し,SPO 前側のフロントピラ下部と下側のサイドシルに別部品のスチフナ で補強する手法がとられているが,TWB で一体成形することにより, 部品点数が削減でき,4kgの軽量化と合理化による低コスト化が実現した. また, この SPO の適用においては, 人目に触れる部品であることから外観要件が適用される. そのため接合線の一部に特殊な平滑化処理を施し, 見栄え向上を図っている (7).2013 年に発売した NWGN では更にこれらの技術を発展させ,SPO 前側のフロントピラ下部から下側のサイドシル, リアのホイルアーチの一部にかけて 780 MPa 級ハイテン材を適用し, 更なる軽量化と衝突安全性の向上に寄与した.. ホットスタンプ材の適用ホットスタンプ製法とは, オーステナイト変態点 (830 C) 以上に加熱した鋼板を金型にて成形と急冷却を同時に行うことにより, 成形と焼入れ処理を同時に行う成形技術のことである ( 図 ). 焼入れ処理を行った製品は 1500 MPa 級の引張強度を有する. ホットスタンプ製法の長所と短所を表 に示す. 表 2 に示すようにホットスタンプ製法は, 高ハイテンの成形性課題を解決する長所があり欧米では広く普及, 様々な部品に適用されてきた ( 図 ). しかし, 日本ではあまり普及してこなかった. この要因としては, 衝突安全性能要求値の差により 1500 MPa 級ハイテン材の適用までは求められてこなかったこと, また欧米に比して高い成形性を有するハイテン材の入手が容易であったことが挙げられる. しかし, 最たる要因はホットスタンプ製表 2 ホットスタンプ製法の長所と短所. 長所短所 図 9 SPO への TWB ハイテン材適用事例. 成形と焼入れ熱処理を同時に行うため,1500 MPa の高強度成形部材が得られる. 高温成形のため冷間の高張力鋼板に対し材料伸びが高く成形限界が高い. 成形中に導入される歪が高温により回復されるため, 残留応力が小さく, スプリングバックがほとんど無い. 成形精度が良い 金型内での冷却には 10 秒程度の時間が必要であるため, 冷間成形に対し生産性が低い. 焼入れ後の製品は高強度であるため, 金型による後加工では刃具の損耗が激しい. レーザによる後加工が必要となり, 設備投資 ランニングコストが高い. 大型連続加熱炉やレーザ設備の投資額が大きい. 図 10 ホットスタンプ製法概略. まてりあ第 53 巻第 12 号 (2014) Materia Japan

(carbon fiber reinforced plastic, CFRP) の適用等様々なアプローチでの取組がなされてきたものの, 軽量 高強度材料への置換の考え方自体に大きな変化は起こっていない. 近年になって, 駆動方式の電動化のように自動車としてのパラダイムシフトが起こっていても, 車体の軽量化の重要性においての変化はなく, むしろ重要度を増していると言っても過言ではない. これからも, 様々な開発や取組みが成果を上げ, 更なる車体軽量化, 安全性能の向上が図られていくことを期待する. 文 献 図 11 欧米でのホットスタンプ製法適用事例. 法の短所により製品コストが高いことにあった. 筆者らはこのような生産技術課題を解決するため, 高効率ホットスタンプ技術を開発し, NBOX ( 図 9) に適用,2kgの車体軽量化と衝突安全性の向上に貢献した. 開発項目としては従来のホットスタンプ製法に対し, 加熱炉長短縮のための短時間加熱 ハイサイクル成形技術 レーザ加工レス金型技術の技術開発に取り組み, 高効率化を実現した. 開発技術の概略を図 に示す.. おわりに自動車車体の軽量化は, 自動車会社にとっては環境問題がクローズアップされる以前からの重要な課題である. 材料側から見た軽量化手法としては, 時代によりアルミニウム等の軽量材料への置換, 本稿で解説してきた軟鋼板からハイテン材への置換, また, 最近では炭素繊維強化プラスチック ( 1 ) 国土交通省ホームページ, 自動車燃費目標基準について. http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr10_000005.html ( 2 ) 日産自動車株式会社ホームページ,1.2 GPa 級高成形性超ハイテン材. http://www.nissan global.com/jp/technology/over- VIEW/high_ten.html ( 3 ) 株式会社神戸製鋼所ホームページ, 自動車用冷延ハイテンの開発 採用について. http://www.kobelco.co.jp/releases/2011/10/1186711_12093. html ( 4 ) 夏見文章 プレス技術,34(1996),18 25. ( 5 ) 桜井寛 212nd 塑性加工シンポジウム,(2002),61 68. 千葉大学. ( 6 ) JFE 技報 No. 16 (2007),62 63. ( 7 ) 横山鎮 塑性と加工,54(2013), 309 313. 齋藤和也 1992 年富山大学工学部金属工学科卒昭和アルミニウム株式会社 ( 現昭和電工株式会社 ) においてアルミニウム押出加工の生産技術開発業務に従事. 2002 年 3 月 現職専門分野 金属薄板の熱間成形加工技術 アルミニウムの超塑性特性を活かした熱間ブロー成形技術の開発と応用に従事し, トランクリッドやフェンダーパネルの量産化に貢献してきた. その後, 鋼板のホットスタンプ成形加工技術開発を中心に活動, 現在に至る. 図 12 高効率ホットスタンプ技術概略.