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遺伝子組み換えを使わない簡便な花粉管の遺伝子制御法の開発-育種や農業分野への応用に期待-

生物は繁殖において 近い種類の他種にまちがって悪影響を与えることがあり これは繁殖干渉と呼ばれています 西田准教授らのグループは今まで野外調査などで タンポポをはじめとする日本の在来植物が外来種から繁殖干渉を受けていることを研究してきましたが 今回 タンポポでその直接のメカニズムを明らかにすることに

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

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図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

生物時計の安定性の秘密を解明

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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TuMV 720 nm 1 RNA 9,830 1 P1 HC Pro a NIa Pro 10 P1 HC Pro 3 P36 1 6K1 CI 6 2 6K2VPgNIa Pro b NIb CP HC Pro NIb CP TuMV Y OGAWA et al.,

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

080308 植物育種の現在・未来と大学の役割に関するシンポジウム(1)

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

という特殊な細胞から分泌されるルアーと呼ばれる誘引物質が分泌され 同種の花粉管が正確に誘引されます (Higashiyama et al., 2001, Science; Okuda, Tsutsui et al., 2009, Nature) モデル植物であるシロイヌナズナにおいてもルアーが発見さ

報道関係者各位 平成 29 年 2 月 23 日 国立大学法人筑波大学 高効率植物形質転換が可能に ~ 新規アグロバクテリウムの分子育種に成功 ~ 研究成果のポイント 1. 植物への形質転換効率向上を目指し 新規のアグロバクテリウム菌株の分子育種に成功しました 2. アグロバクテリウムを介した植物へ

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※ 教科 理科テキスト 小5 2学期 9月 生命のつながり(5) 植物の花のつくりと実や種子

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

論文の内容の要旨

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

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受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

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回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体

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地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS) 研究課題別中間評価報告書 1. 研究課題名 テーラーメード育種と栽培技術開発のための稲作研究プロジェクト (2013 年 5 月 ~ 2018 年 5 月 ) 2. 研究代表者 2.1. 日本側研究代表者 : 山内章 ( 名古屋大学大学

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

アズキはなぜ赤い?

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

イネは日の長さを測るための正確な体内時計を持っていた! - イネの精密な開花制御につながる成果 -

図、表、写真等

ダー大王の時代に遡り 進化論のダーウィンが晩年 草分け的な膨大な観察研究を行いました 昨年度ノーベル生理学医学賞の受賞対象となった生物時計は 18 世紀に 植物の就眠運動から発見されました このように 就眠運動は 太古の昔から人類の知的好奇心を刺激し 重要な科学的発見をもたらしました しかし その分

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みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

報道発表資料 2006 年 11 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 植物の 硫黄代謝 を調節する転写因子を発見 - 転写因子 SLIM1 が がん予防効果のある天然硫黄成分量を調節 - ポイント 硫黄代謝に異常があるシロイヌナズナの突然変異株を見出す 転写因子 SLIM1 は植物の硫黄代謝全体

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

( 写真 )MS1 と転写抑制ドメインとの融合遺伝子導入で野生型を雄性不稔に改変

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

スチック その他の化学物質を生産する化学工業ではなく 生命最強のツールである酵素を使って化学反応を触媒し さらには 新しい酵素を設計して作り出すことによって 物質生産を根本的に変えることができると考えていました 当時 世界的なバイオテクノロジーブームが盛り上がる中で アーノルド博士と同様のことを多く

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

長期/島本1

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ


研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

平成 28 年 7 月 25 日国立研究開発法人国際農林水産業研究センター国立大学法人京都大学公益財団法人かずさ DNA 研究所石川県公立大学法人石川県立大学株式会社アクトリー キヌアのゲノム配列の解読に世界で初めて成功 優れた環境適応性や栄養特性の謎を解き活用への道を切り拓く ポイント キヌアのゲ

生物の形質改良を加速する新しいゲノム改良技術の発明 大規模ゲノムシャフリング技術 TAQing システム 1. 発表者 : 小田有沙 ( 東京大学大学院総合文化研究科特任助教 ) 中村隆宏 ( 東京大学大学院総合文化研究科助教 ) 太田邦史 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授東京大学生

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本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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記載例 : ウイルス マウス ( 感染実験 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 組

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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遺伝学的手法を用いたロクアイタンポポ ( 仮称 ) の同定法について 神戸市立六甲アイランド高校 井上真緒沙原杏樹辻青空 1. 研究背景 2004 年六甲アイランド高校の校内と周辺で発見されたロクアイタンホポ ( 仮称 ) は 雑種タンポポの可能性が高いが いまだにはっきりした定義がされていない 特

Transcription:

ダーウィンが提唱した自殖の進化 を解く鍵は花粉遺伝子の変異 ( シロイヌナズナの自殖性は花粉側自他識別因子の変異が原因だった ) 1. 発表概要 : シロイヌナズナの自殖能力の獲得は 花粉自家不和合性遺伝子 SCR(SP11) の突然変異が原因 SCR(SP11) の突然変異を元に戻した遺伝子を導入したシロイヌナズナは 自己花粉を排除 応用的には 作物の品種改良の効率を高めたり 野生植物種の保全への貢献の可能性 2. 発表内容 : 概要 近交弱勢を防ぎ 植物種の多様化に寄与したしくみのひとつである 自殖 1( 注と 他殖 を制御する 自家不和合性 ) 標記研究では その自家不和合性の鍵遺伝子の変異が アブラナ科植物シロイヌナズナを自殖可能な自家和合性種に進化させたことを証明し またその鍵遺伝子を改変することで再び自家不和合性にすることに世界で初めて成功しました この成果は 東京大学大学院総合文化研究科 土松隆志大学院生のほか 東北大学大学院生命科学研究科 五十川祥代大学院生 諏訪部圭太博士研究員 渡辺正夫教授と スイス チューリヒ大学の清水健太郎准教授ら国内外の 8 つの大学の共同研究によるものです 自由に移動することができない植物は 様々な環境に適応する能力を進化させてきました このような遺伝的多様性は進化の素材となるものであり 自家不和合性 はその維持機構のひとつといえます 自家不和合性は 自己花粉を排除し 非自己花粉で受粉 受精するシステムで 様々な植物種が有していま 2( 注す アブラナ科植物 ) の祖先はもともと自家不和合性で 現在ではキャベツ ハクサイ ダイコンなどの自家不和合性の種 ( しゅ ) と シロイヌナズナ ( アブラナ科モデル植物 ) ナズナ( ぺんぺん草 ) などの自家和合性の種が知られています アブラナ科植物の自家不和合性は めしべの先端にある柱頭細胞表面のめしべ側自家不和合性因子である受容体タンパク質 SRK と花粉側自家不和合性因子である花粉表面のタンパク質 SCR(SP11) が同じ対立遺伝子特異的に結合すること ( 同じハプログループ同士で結合すること ) で誘起されることを 東北大のグループはこれまでに明らかにしてきました しかしながら どのような過程を経てシロイヌナズナやナズナなどが自家和合性になったのか その進化にはどのような遺伝子が関係しているのかという問題は 現在まで謎でした 今回 この研究グループは 19 のシロイヌナズナの自然変異種で交配実験を行い 7 つの変異種でめしべ側自家不和合性因子である SRK 遺伝子が機能していることを明らかにしました さらに 花粉側自家不和合性因子の SCR(SP11) 遺伝子内において生じていた 2 つの変異を人工的に修復し 花粉を包むおしべの最 1

内層の細胞 ( タペート細胞 ) で働くプロモーターに連結して めしべ側自家不和合性因子 SRK が機能している自然変異種に遺伝子導入しました その結果 自家和合性であったシロイヌナズナを自家不和合性にすることに 世界で初めて成功しました ダーウィンは 1876 年に 交配相手が少ない条件下では自殖が繁殖に有利な性質となるという仮説を提唱していました 今回明らかにした遺伝子配列から シロイヌナズナの自家和合性の広まった時期を推定したところ 氷河期と間氷期の周期によって分布が急速に変化し 交配相手が少なかったと考えられる時期に一致することがわかりました この結果はダーウィンの仮説を裏付けるものです 将来的にこの実験成果を応用することにより 作物の品種改良の効率を高めたり 野生植物種の保全への貢献の可能性が期待できます 本研究成果は 英国の科学雑誌 Nature の電子版 (Advance Online Publication, AOP): (http://www.nature.com/nature/index.html) に 日本時間の 4 月 19 日午前 2 時 ( ロンドン時間の 4 月 18 日午後 6 時 ) に掲載予定です 背景 ハクサイ キャベツ ダイコンなど多くのアブラナ科作物は 自家不和合性 という自殖を妨げ他殖を促進するメカニズムを持っています 実際に ハクサイ キャベツ ダイコンなどの品種改良には 自家不和合性の形質を利用した効率的な F 1 雑種育種が行われています 一般に自殖によってできた種子は 近 3( 注交弱勢 ) の効果により成長が悪く 繁殖能力が低いことが知られています 自家不和合性は自分の花粉を排除して自殖による種子が形成されるのを防ぎ 同種の別個体由来の花粉による種子を積極的に作るシステムであり 様々な植物種を用いて世界中で精力的に研究されてきました アブラナ科植物では おしべとめしべの間の分子認識反応によりこのメカニズムが誘起されます この認識に関与するおしべ側自家不和合性遺伝子 SCR(SP11) とめしべ側自家不和合性遺伝子 SRK は 東北大のグループによって明らかにされました 一方 同じアブラナ科に属するモデル植物シロイヌナズナは自家和合性であり 主に自殖で繁殖します シロイヌナズナの自殖性への進化には SCR(SP11) や SRK の突然変異が関わっていたことが予想されていましたが それが実際にどのような遺伝子変異であったのかは明らかにされていませんでした 進化論を唱えたダーウィンも注目していた 自家不和合性から自家和合性への進化の最初のステップは何なのか? 世界中の植物科学研究者が長年追いかけてきた謎のひとつです 研究内容 本研究ではまず シロイヌナズナの自然変異種のめしべに シロイヌナズナの近縁野生種であるハクサンハタザオ (Arabidopsis halleri) の 2 種類のハプログループ ( 対立遺伝子のタイプ ) をもつ花粉の交配実験を行いました そのうちハプログループ A タイプのハクサンハタザオの花粉管は 19 のうち 7 つのシロイヌナズナ自然変異種のめしべに侵入できませんでした これら 7 つの自然変異種では めしべ表面で花粉の自他識別を行うハプログループ A タイプの SRK 遺伝子 2

が機能していました ( 図 1) この結果から 自家和合性のシロイヌナズナの中でも めしべ側自家不和合性因子はいまだに機能していることが明らかとなり 花粉側自家不和合性遺伝子の SCR(SP11) をおしべ側で機能させることさえできればシロイヌナズナを自家不和合性に戻すことができる可能性を示唆しました 次に この SRK が機能しているハプログループ A の SCR(SP11) の遺伝子構造を決定し 自家不和合性であるハクサンハタザオの SCR(SP11) 遺伝子と比較したところ 遺伝子のうち アミノ酸に翻訳される第 2 エクソンの部分で 213 塩基の逆位 ( 遺伝子配列がひっくり返る突然変異 ) と遺伝子重複変異が生じていることがわかりました ハプログループ A の SCR(SP11) 遺伝子からできるタンパク質には SCR(SP11) の機能に重要なアミノ酸である 8 個のシステインが配されています これらの突然変異が生じた SCR(SP11) では そのうち 5 つを欠落していました さらに これらの突然変異を元に戻せば 8 個のシステインを回復させられることがわかりました ( 図 2) そこで SRK 遺伝子が機能している自然変異種のひとつ Wei-1 系統を使って 変異を修復した SCR(SP11) を人工的に作成し おしべのタペート細胞で働くプロモーターに連結して 遺伝子導入を行いました その結果 自家和合性であった Wei-1 系統は自家不和合性となり シロイヌナズナの自己の遺伝子をひとつ改変しただけで自家不和合性に戻すことに 世界で初めて成功しました ( 図 3) 私たちはさらに 世界各地で採集したシロイヌナズナの DNA を網羅的に調査し ほとんどの個体がこの SCR (SP11) の逆位を持っていることを確かめました これらの結果は この SCR (SP11) の逆位がシロイヌナズナを自家和合性に進化させたことを示すものです 自家和合性の進化は野生植物の中で何度も繰り返し起きたことが古くから報告されてきましたが この研究はその進化を遺伝子配列のレベルで詳細に解明した世界で初めての報告になります 今後の発展 本研究では 自然界において自家不和合性から自家和合性が進化する過程の一端を明らかにしました ダーウィン以来 進化学者は生物が様々な環境に驚くほど精緻な適応を遂げてきたことを発見してきましたが その進化の道筋を遺伝子レベルで明らかにできた研究例はいまだにほとんどありません この研究のように実験室の中で蓄積されてきた分子生物学の知見を野生生物に応用することで 生物のめくるめく多様性の進化の謎を解き明かせるようになることが期待されます 人類による野生植物の栽培化における歴史の中でも同様に 自家不和合性を失った作物は数多くあります ここでの研究を応用してそのような作物に再び自家不和合性の形質を持たせられれば 品種改良の効率を高める可能性が期待されます また 自家和合性がどのような環境に適応してきたのかを理解することは 自家和合性の植物種の保全方法を考える上で重要な基礎ともなります 3

本研究内容についてコメント出来る方 (1) 日向康吉 ( 東北大学名誉教授 ) (2) 矢原徹一 ( 九州大学大学院理学研究院教授 ) 3. 発表雑誌 : Tsuchimatsu, T*., Suwabe, K*., Shimizu-Inatsugi, R., Isokawa,S., Pavlidis, P., Städler, T., Suzuki, G., Takayama, S., Watanabe, M +, & Shimizu, K.K. + (2010) Evolution of self-compatibility in Arabidopsis by a mutation in the male specificity gene. Nature (doi:10.1038/nature08927). 1, 2, 土松隆志 * 3, 4,, 諏訪部圭太 *, 清水 ( 稲継 ) 理恵 1 3,, 五十川祥代 5, Pavlos Pavlidis 6, Thomas Städler 7, 鈴木剛 8, 高山誠司 9 3, 5,, 渡辺正夫 + 1,, 清水健太郎 + (1. スイス チューリヒ大学植物生物学研究所, 2. 東京大学大学院総合文化研究科, 3. 東北大学大学院生命科学研究科, 4. 三重大学大学院生物資源学研究科, 5. 東北大学理学部, 6. ミュンヘン大学, 7. スイス連邦工科大学チューリヒ校, 8. 大阪教育大学教養学科, 9. 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 ), 花粉側自家不和合性因子の変異によるシロイヌナズナの自家和合性への進化 *:2 名がいずれも第一筆頭者, +: 責任著者この研究は英国 科学雑誌 Nature 電子版(Advance Online Publication, AOP): (http://www.nature.com/nature/index.html) に 日本時間の 4 月 19 日午前 2 時 ( ロンドン時間の 4 月 18 日午後 6 時 ) に掲載予定です 4. 注意事項 : 本件の取り扱いについては 下記の解禁時間以降でお願い申し上げます 新聞 : 日本時間 4 月 19 日 ( 月 ) 朝刊テレビ ラジオ インターネット : 日本時間 4 月 19 日 ( 月 ) 午前 2 時 5. 問い合わせ先 : 伊藤元己 ( いとうもとみ ) 東京大学大学院総合文化研究科教授 153-8902 東京都目黒区駒場 3-8-1 6. 用語解説 : 1. 自家不和合性自家不和合性とは 雌雄両生殖器官が機能的 形態的に正常であるにもかかわらず 自己花粉を排除して非自己花粉で受精し結実する形質であり 近交弱勢の出やすい自殖由来の種子ができるのを防ぐシステムのひとつである 多くの被子植物ではひとつの花の中におしべとめしべが同居しているため 自己花粉がめしべに付きやすい構造をしている この構造は他個体の花粉を受粉 ( 他家受粉 ) させるには都合が良くない性質と言える 自家不和合性種では もし自己花粉がめしべについた場合に 4

でも ( 自家受粉 ) 積極的にこれを排除し 受精を回避できるよう分子レベルの自己 他者の認識機構を持っている アブラナ科植物の自家不和合性は S 遺伝子と呼ばれる遺伝子座によ って制御されている 自家不和合性の種内には複数のハプログループ (S 対立遺伝子 ) が存在し 異なるハプログループを持つ個体同士でしか受精できない S 遺伝子座の上には めしべ側自家不和合性遺伝子 SRK と花粉側自家不和合性遺伝子 SCR(SP11) とがある SP11 はおしべ先端の葯タペート細胞で発現し 花粉表面にそのタンパク質が移動する めしべの先端に花粉が付着したとき 自己 ( 同じハプログループ ) の SRK と SP11 は鍵と鍵穴のような関係で結合するが 非自己花粉 ( 異なるハプログループ ) の場合には結合しない 結合したというシグナルはめしべの細胞内に伝達され その花粉を排除する機構が働くため 結果的に自己花粉は受精できない 上に 東北大の研究グループが明らかにしてきた アブラナ科植物の自家不和合性の模式図を示す ( 図版ファイルは http://dolphin.c.u-tokyo.ac.jp/~t-tsu3/arabidopsis/ からダウンロードすることができます ) 5

2. アブラナ科植物アブラナ科植物には キャベツ ハクサイ ダイコンなどの多くの重要な作物が含まれる からし ワサビなど辛みを持つ野菜のほか 身近な雑草であるぺんぺん草 ( ナズナ ) もアブラナ科植物である 多くの研究者に頻繁に用いられるモデル植物であるシロイヌナズナもこの科に属しており 2000 年には高等植物として世界で初めて全遺伝子配列が決定された 上に典型的なアブラナ科の花の構造 ( ハクサイ ) を模式的に示す ( 図版ファイルは http://dolphin.c.u-tokyo.ac.jp/~t-tsu3/arabidopsis/ からダウンロードすることができます ) 3. 近交弱勢ヒトを含む多くの動植物において知られている 自殖や近親婚などの近親交配によってできた子孫の成長や繁殖能力が低下する現象を指す ダーウィンがさまざまな植物種を用いて膨大な交配実験を行った結果から 近交弱勢の存在を報告したことがよく知られている 6