アレルギーの臨床 2010年7月号 (立ち読み)

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

スライド 1

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

スギ花粉の捕捉Ys ver7.00

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

アトピー性皮膚炎におけるバリア異常と易湿疹化アトピー性皮膚炎における最近の話題に 角層のバリア障害があります アトピー性皮膚炎の 15-25% くらい あるいはそれ以上の患者で フィラグリンというタンパク質をコードする遺伝子に異常があることが明らかになりました フィラグラインは 角層の天然保湿因子の

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

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Pittner らは 7 種の精製またはリコンビナントのヤケヒョウヒダニコンポーネントを用いて室内塵ダニアレルギー患者のコンポーネント感作プロファイルを検討しました その結果 95% の室内塵ダニアレルギー患者は Der p 1 または Der p 2 特異的 IgE により診断が可能と報告していま

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

序 蕁麻疹は, 皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎, 接触皮膚炎などの湿疹 皮膚炎群, せつとびひ, 癤などの感染症と並ぶ, ありふれた疾患 ( コモンディジーズ )( 群 ) である. その病態は, 皮膚マスト細胞の急激な脱顆粒により説明され, 多くの場合は抗ヒスタミン薬の内服によりマスト細胞から遊離

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら


脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

アレルギーの臨床 2010年1月号 (立ち読み)


ルノンホーム (アレルブロック®)

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

2009年8月17日

ごあいさつ バイオシミラーの課題 バイオ医薬品は 20 世紀後半に開発されて以来 癌や血液疾患 自己免疫疾患等多くの難治性疾患に卓抜した治療効果を示し また一般にベネフィット リスク評価が高いと言われています しかしその一方で しばしば高額となる薬剤費用が 患者の経済的負担や社会保障費の増大に繋がる

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

2005年 vol.17-2/1     目次・広告

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01-02(先-1)(別紙1-1)血清TARC迅速測定法を用いた重症薬疹の早期診断

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

生物時計の安定性の秘密を解明

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

汎発性膿庖性乾癬の解明

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 5. 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G010. 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク

様式S-1-11 応募内容ファイル

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

耐性菌届出基準

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

Transcription:

特 集 アレルゲン解析の最前線 - 特集に寄せて - 国立病院機構相模原病院 秋山一男 1973 年東京大学卒業, 東大物療内科入局 88 年国立相模原病院アレルギー科医長,94 年臨床研究部長,2010 年現在, 同病院院長兼臨床研究センター長 研究テーマ : 真菌アレルギー, 気管支喘息における気道過敏性の病態機序 秋山 一男 Key words: アレルギー疾患の増加, アレルゲン, 解析法, 免疫療法 アレルギー疾患は, 外部環境中のアレルゲンへの暴露に対して, ヒト体内の免疫システムが作動して,IgE 抗体産生系あるいは T 細胞系システムが働き, アレルギー反応を起こし, その後各臓器における臓器過敏性に応じて, 各種アレルギー疾患が発現することになる 即ち, アレルゲンに対する IgE 抗体産生, あるいは T 細胞の認識がアレルギー疾患の出発点であることは, すでに周知のことである しかしながら, あるアレルゲンに対して同じ程度の IgE 抗体産生反応を示しながら, アレルギー疾患を発症する人としない人があることはよく経験することである これまでは, 臓器特異的過敏性の有無が発症するかしないかを決定すると考えられてきた しかしながら, 近年のアレルゲン 抗原分析研究の進歩とともに, いわば多数の異なった抗原部分の集合からなる粗抗原のみならず, 精製抗原さらには抗原エピトープの研究が進み, アレルギー反応のより詳細な研究がアレルゲンの側からもなされるようになってきた その結果, 同じ粗抗原に対する反応でもそれを構成するコンポーネントである精製抗原に対する反応は異なる場合が少なからずあることが明らかになり, アレルゲン毎に疾患発現に関わるコンポーネントと疾患発現には関わらないコンポーネントの存在が推定されるようになってきた 筆者自身もかつてコンポーネントによるアレルギー疾患発現の差異について検討した ヒト体内常在真菌である Candida albicans は, 気管支喘息患者に対しての即時型皮膚反応では, その陽性率はダニ, スギに次いで高い頻度を示す しかしながら, コマーシャルベースで測定する抗原特異的 IgE 抗体価陽性例は少 なく, 吸入誘発試験での陽性例はさらに少ない その理由として,C.albicans には, 非特異的反応が多い,IgE 抗体との親和性が低く in vitro 検査法である RAST 法では, その測定過程で抗体との結合がはずれるため, 等々がいわれてきた 一般に真菌抗原は非常に多くの抗原コンポーネントから成り立っており, 培養条件, 抗原抽出方法により得られる抗原コンポーネントが異なることが分かってきた その結果, 誘導分泌酵素である酸性プロテアーゼ ( 現在はアスパラギン酸プロテアーゼ ) が気管支喘息などの粘膜アトピー反応の原因アレルゲンとして関わり, 一方, 細胞壁構成多糖体であるマンナン A/B は,C.albicans 粗抗原に対する IgG 抗体反応の主抗原コンポーネントであるが,IgE 抗体反応においては, 真菌間の交叉抗原ではあるが, 粘膜アトピー反応には関与していないということが明らかになった また, 市販のアレルゲンエキスでは, 培養ろ液からの抽出アレルゲンエキスである鳥居薬品製カンジダ抗原液には, 酸性プロテアーゼが含まれているが, 菌体成分からの抽出液である Hollister-Stier 社あるいは Greer 社製のカンジダ抗原液には, 酸性プロテアーゼが含まれていないことが明らかになっている 以上のように, アレルゲン / 抗原については, 同じ粗抗原抽出液でも含まれるコンポーネントが異なる可能性があること, それらに対する抗体反応の特異性により発現する臨床病態が異なる可能性があることが, 明らかになってきた このような中で, 本特集が, コンポーネント解析について取り上げたことは, 今後のアレルギー研究に多くの示唆を与えるものと期待している 16 (586) アレルギーの臨床 30(7), 2010

特集 アレルゲン解析の最前線 コンポーネント解析 1 アレルゲン解析の最新情報 UP-to-date of analysis for allergens 阪口 雅弘 1978 年大阪府立大学獣医学科卒業 84 年東京大学大学院農学研究科博士課程 修了 東京大学医科学研究所 ラホ ヤ アレルギー免疫研究所 国立感染 症研究所 理化学研究所等を経て 2007 年より現職 1 麻布大学獣医学部獣医学科微生物学第 1 研究室 2 理化学研究所 免疫 アレルギー科学総合研究 センター 免疫制御研究グループ さかぐち 阪口 まさひろ ふじむら 雅弘 1 藤村 た か し 孝志 2 Key words allergen, IgE, mite, pollen, animal 発のためには アレルゲンの同定および解析 は不可欠である Abstract 最近 アレルゲンコンポーネントすなわち 近年 アレルゲンの解析は飛躍的に進歩し てきた 最近 アレルゲンコンポーネントに 対する IgE を測定することでアレルギーの診 断を行う方法が注目されるようになり さら にアレルゲンの解析は重要なものになってき た 本稿では花粉アレルゲン ダニ 動物 真菌 食物における代表的なアレルゲンの同 定と解析について解説する 精製したアレルゲンごとに特異的 IgE を測定 す る こ と で 診 断 を 行 う 方 法 CRD Component Resolved Diagnostics が注目され てきた アレルギー患者間で精製アレルゲン 特異的 IgE の反応性のプロファイルに違いが 認められ その差異によってアレルギー症状 の重篤度や症状の発現に違いがあることが報 告されてきたからである 今後 アレルゲン の解析は重要なものになると考えられる 本 稿では解析の進んでいる主なアレルゲンを中 心にその同定と解析を解説する はじめに 1. 花粉 アレルゲンの解析は 1980 年代のヤケヒョ ウヒダニアレルゲン Der p 1 の同定 精製に 始まる Der p 1 がクローニングされた以降 1)スギ花粉アレルゲン スギ花粉の主要アレルゲンとして Cry j 1 と 分子生物学的手法により アレルゲンの解析 Cry j 2 が報告されてきたが 最近 新しいア は飛躍的に進歩してきた これまでに 花粉 レルゲンも報告されている 表 1 1983 年 ダニ 動物 真菌 食物などの多くのアレル に安枝らによってスギ花粉より Cry j 1 アレル ゲンが同定されてきた 治療および診断用ア ゲンが初めて分離 同定された Cry j l は レルゲンエキス標準化 アレルギー疾患の診 45-50 kda の分子量を示す塩基性糖タンパク 断法の確立 新しい抗原特異的免疫療法の開 質である スギ花粉症患者の 90 程度が IgE アレルギーの臨床 30(7), 2010 (587) 17

特集 / アレルゲン解析の最前線 コンポーネント解析 表 1 これまでに報告のあったスギ花粉アレルゲン 反応性を示す主要アレルゲンである この Cry j1とブタクサ花粉由来の主要アレルゲンである Amb a1はpectate lyase とアミノ酸レベルで相同性があり,Cry j 1 自身もペクチンを分解する Pectate lyase 活性を有している スギ花粉において 2 番目の同定されたアレルゲンは 1990 年に著者らにより報告された Cry j2である Cry j 2 は SDS-PAGE の還元下で 45 kda, 非還元下で 37 kda と異なった分子量を示す塩基性タンパク質で, スギ花粉症患者の 90% 程度と反応する主要アレルゲンである Cry j2のアミノ酸配列はトマトやトウモロコシ花粉の polymethyl-galacturonase と相同性があり, その活性を有していることも明らかになっている 最近, 著者らにより,Cry j3というアレルゲンが分離, 同定された Cry j 3 は27 kda 分子量を示し, スギ花粉症患者血清 lge と 30% 程度の反応頻度を有するアレルゲンである Cry j 3 はそのアミノ酸の解析から植物生体防御タンパクである PR(Pathogenesis-Related) タンパク質の 1 種であることが分かった そのほかに同定されたアレルゲンとして, アレ ルゲノーム解析によって CJP-4,CPA-63, スギ花粉 cdna ライブラリーからスクリーニングされた CJP-6 が同定されている 2) ヒノキ花粉アレルゲンスギ花粉症患者では花粉特異 IgE 抗体レベルにおいてヒノキ花粉アレルゲンに対する IgE 抗体が検出されている これはヒノキ花粉アレルゲンそのものの感作とスギ花粉とヒノキ花粉の交差性の 2つが考えられている スギ花粉アレルゲンの交差反応性はヒノキ花粉アレルゲンと Cry j 1, Cry j 2 でよく知られている Cry j 1, Cry j 2 に対応するヒノキの花粉アレルゲンは Cha o 1,Cha o 2 であり, それぞれのアミノ酸配列は 80%,74% が一致している 3) イネ科花粉アレルゲンイネ花粉アレルゲンは多くのアレルゲンが分離 同定されている ( 表 2) イネ科花粉アレルゲンの特徴として, 同じイネ科であれば異なる属間でも強い抗原交差性をもつことが判っている そのため, 他の属の花粉でもよく似たアレルゲンであれば,1つのグループ 18 (588) アレルギーの臨床 30(7), 2010

特集 / アレルゲン解析の最前線 コンポーネント解析 2 なぜ今, アレルゲンコンポーネント解析か? Why is it allergy component analysis now? 1) 国立病院機構相模原病院小児科 2) 国立病院機構相模原病院臨床研究センター こまた小俣 たかつぐえびさわ貴嗣 1) 海老澤 もとひろ元宏 2) 小俣貴嗣 1998 年東京慈恵会医科大学卒業 同年同大学小児科学教室入局,2004 年国立病院機構相模原病院小児科, 現在に至る 研究テーマ : 食物アレルギー Key words: コンポーネント,OAS, アレルゲン,IgE Abstract 食物アレルギー, 気管支喘息, アトピ 性皮膚炎といった各種アレルギーに対する検査は複数のタンパク質で構成された粗抽出の抗原により行なわれるのが一般的である しかしその実際は感度が高く特異度が低いという欠点があり, 多くの抗原では診断効率が悪い しかしその各々を構成するタンパク質にまで分解しこれらに対する IgE 抗体を測定することでより診断効率が高くなることが考えられる はじめに 合する 遺伝子的近縁性から同機能のタンパク質の相同性が存在する IgE 抗体産生が, その相同性をもったアミノ酸配列に対して起こるとアレルゲン間の交叉反応性が起こる 食物アレルギーでは数多くの交差反応性が報告されている そのため実際に誘発症状がなくても検査結果が陽性になってしまうことがしばしば認められる またアレルゲン粗抽出エキス中には種々の成分が含まれている その IgE 結合成分をコンポーネントとよび, 特に食物アレルギーの分野では症状発現に強く関与するコンポーネントの IgE 抗体を測定することで臨床的特異度が向上することが期待されている 1. ダニアレルゲン解析 食物アレルゲンとなる物質の多くは食物中に含まれるタンパク質あるいはタンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質である 特異的 IgE 抗体は, タンパク質のアミノ酸配列の特定の構造, すなわちエピトープを認識して結 気管支喘息の悪化因子として代表的な室内塵であるヒョウヒダニの粗抽出液の中には 30 種類以上のアレルゲンの存在が確認されている その中でも重要とされているのが主要アレルゲンであるヤケヒョウヒダニの Der アレルギーの臨床 30(7), 2010 (593) 23

私は思う 病薬診連携の展望 The prospects of cooperation between hospitals clinics and pharmacies 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 こ ま せ 駒瀬 呼吸器内科 ゆ う こ Key words 専門医 非専門医 地域医療連携 吸入指 導 アドヒアランス 裕子 Abstract 病診 病薬連携は 地域の実情に合わせ 互いに共通の認識の上で一定のルールを作 り 役割分担をすることが必要である ツー ルとしての連携パスは必須ではないが 考え を統一するためには有用である 病診連携に よって 専門医の意思を非専門医に伝えるこ とがより容易となり ガイドラインを更に普 及する可能性がある 薬剤師には吸入法の指 導のみを求めがちであるが アドヒアランス の確認など更に大きな役割を果たすことがで きる 医師と薬剤師の連携はまだ不十分であ るが これを密にすることで喘息死をさらに 減らすことが可能である 1. なぜ今連携か 気管支喘息患者は増加していると考えられ ている 1) 日本の人口から推計して 現在約 600 万人の喘息患者がいるが アレルギー専 門医は 内科小児科をあわせて約 2100 名 また呼吸器専門医の数は 4000 名あまりであ る 喘息管理治療ガイドライン JGL2009 では 非発作時の治療を継続することが推奨されて いるが 1) 足立らの AIRJ2005 2)では継続加療 が必要な軽症持続型以上が 45.2 で 300 万 人以上が含まれる これを約 4000 人の専門 94 (664) 駒瀬 裕子 信州大学医学部卒業 東京大学医学系大 学院修了 国立国際医療センター呼吸器 内科レジデントを経て聖マリアンナ医科 大学第一内科勤務 1992 年 1993 年ドイ ツヴェルツブルグ大学留学 2007 年より 聖マリアンナ医科大学呼吸器感染症内科 准教授 同大学横浜市西部病院部長 医で診療すると一人で 750 人の喘息患者を治 療しなければならず 現実には一人で治療が できる数ではない 一方 非専門医にとって 喘息の管理が容 易になっているとはいうものの 時に発作を 起こす可能性のある疾患を見ていることは不 安であり かつ変化する治療の変遷を全て把 握することは困難である 病診連携には 1 役割分担することで より多くの患者がガイ ドラインにそった治療の恩恵にあずかること ができ 2 患者の重症度にそって専門医が 診療する体制をとることで患者も非専門医も 安全かつ安心でき 3 専門医の治療に直接 ふれることで 非専門医にもガイドラインを より広く普及させる などの意味があると私 は考える また 喘息治療は吸入療法が中心であり 吸入の巧稚により治療の効率が変わってく る 指導する薬剤師の役割も極めて重要であ る 診療報酬上 指導管理料は調剤薬局に加 算され 専門性を生かした役割分担と連携が 必要である 2. 病診連携の現状と課題 病診連携については なかなか進まないの が現状である 患者の治療を決定し実地医家 に紹介するだけでは 患者は病院から見放さ れたと考え さらに治療を継続する重要性を 理解せず通院を中断してしまう 現在連携が 軌道に乗っている地域として 1 西濃地域 アレルギーの臨床 30(7), 2010