今月の話題 住宅ローン利用者実態調査から見るアドバイザーの役割 住宅金融支援機構から昨年 12 月 12 日に公表された 住宅ローン利用者の実態調査 によると 住宅の取得に当たっては 耐震性 や 耐久性 を重視すると考える割合が増加している 東日本大震災以降の動きとして 住宅ローン利用予定者の住宅取得の意識の変化を見ていくとともに 住宅ローンアドバイザーの役割について考察する 特定非営利活動法人金融検定協会試験部忽滑谷大士 耐震性 耐久性の重視 東日本大震災による社会的 経済的環境への影響は大きく 生活者の意識にも大きな影響を与えたようだ 特に 東海 東南海 南海地震に加え 数年以内の首都圏での大地震の発生を予測する声も多く 全国的に 震災後の生活者の意識は 震災前よりも 安全 安定志向 節電 節約志向が顕著となっており ( 株式会社ジャパン マーケティング エージェンシー 震災後生活意識調査 電通総研 震災一ヶ月後の生活者意識 ほか ) 現在でもその傾向は続いているようである 住宅の購入に対する意識にも震災の影響が見られており 住宅金融支援機構が平成 23 年 12 月 12 日に公表している 平成 23 年度民間住宅ローン利用者の実態調査 ( 民間住宅ローン利用予定者編 ) においても 住宅取得にあたって 耐震性能 耐久性 を重視するという人の割合が 震災前よりも大きく増加している ( 図表 1) 住宅取得時に特に重視するものとして 価格 費用 の割合が大きく下がる一方で (72.0% 56.5%) 耐震性能 の割合が大きく上がっている (20.5% 47.4%) 立地( 災害などに対する安全性 ) 耐久性 などの項目についてもいずれも上がっており 震災後の住宅取得への意識の変化が窺われる ただ 震災直後は とにかくナーバスなまでに耐震性や耐久性を気にしていた人が多かったが 現在は 住宅を選ぶ際に 地盤や地質 建物の耐久性などを当然のように調査対象の一つとする人が多い と話すのは 住宅業界の動向に詳しい 不動産コンサルタント - 1 -
の長嶋修氏 東日本大震災からおよそ 1 年が経過して 震災を一つのリスクと捉えて 冷静に住宅を選ぶ人が増えているようだ また 同時に 購入者の意識の変化に伴い 耐震性や耐久性に対する 業界側の意識も大きく変わった 購入者への情報提供を丁寧に行うことにより 安心感を醸成するよう意識するようになった といい 業界の姿勢も大きく変わってきている 図表 1 住宅取得時に特に重視するもの ( 東日本大震災発生前後 ) 震災後 震災前 価格 費用 56.5 72.0 耐震性能 47.4 20.5 立地 ( 災害などに対する安全性 ) 26.0 15.7 耐久性 22.8 13.9 省エネ性能 21.9 16.0 間取り 21.1 33.0 構造 工法 15.6 9.5 住宅の広さ 10.2 17.6 数字は % 項目については抜粋した また 住宅金融支援機構の同調査では 住宅取得時に 耐震性能 を重視するとした人のうち 半数 (50.0%) が コストアップしても 耐震性能を高めたい と答えている ( 図表 2) 経済環境の悪化に伴い 費用負担に敏感な消費者が多くなっている一方で 生命や財産への危機感を身近に感じ 多少のコストアップを許容してでも 安全や安心を得ようとする動きが窺える コストはかかるが 地震の揺れを大幅に軽減できるとされる 免震構造 住宅への関心が高いことからもそれが分かる ただ 耐震性に関心がある人も 免震構造自体を知らない人も多い ( 都内銀行住宅ローン担当者 ) とも言われ 今後さらに拡大の余地があると言える 同時に 東日本大震災でも 地盤構造により被害に大きな差が出たことや 沿岸部や河川流域の砂地盤の液状化現象による被害が大きく報道されたこともあり 地盤調査や地盤改良工事を望む声も強いが 前述のとおり 地盤や地質については すでに一定のリスクとして織り込んでいることが窺える (44.1% 38.2%) - 2 -
図表 2 耐震性能を高めるためにどのようなことを考えているか 平成 23 年 10 月 平成 23 年 6 月 コストアップしても 耐震性能を高めたい 50.0 48.8 コストアップしても 地盤調査 地盤改良工事を行いたいコストアップしても 免震構造の住宅にしたい 38.2 44.1 34.1 40.3 数字は % 項目については抜粋した また 特に 中古住宅の取得においても 耐震性能を重視する人が顕著に増えている 住宅金融支援機構による同調査でも 中古住宅を取得予定の人の 41.1% が 耐震性能 を重視するとしており 震災前と比較しても大幅な増加となっている そのうちの 56.9% が 新耐震基準施行後に建築された住宅に住みたい としている ( 図表 3 4) 昭和 56 年に施行され 大規模な地震を想定して従前の基準を厳格化した 建築基準法による 新耐震基準 に沿って建築された住宅については 東日本大震災でも その規模の大きさに比べて 倒壊などの被害が少なかったともいわれており ( 津波 火災等による被害を除く ) 中古住宅の取得においても 一つの目安として考慮している人が多い( 図表 4) 図表 3 住宅取得時に特に重視するもの ( 中古住宅取得予定者 ) 震災後 震災前 価格 費用 69.1 80.0 耐震性能 41.1 14.9 立地 ( 災害などに対する安全性 ) 32.0 20.0 間取り 23.4 36.6 耐久性 21.7 9.7 数字は % - 3 -
図表 4 耐震性能を高めるためにどのようなことを考えているか ( 中古住宅取得予定者 ) 平成 23 年 10 月 平成 23 年 6 月 コストアップしても 耐震性能を高めたい 29.2 35.6 コストアップしても 地盤調査 地盤改良工事を行いたいコストアップしても 免震構造の住宅にしたい新耐震基準 ( 昭和 56 年 ) 施行後に建設された住宅にしたい ( 中古住宅の場合 ) 13.9 27.1 26.4 35.6 56.9 42.4 数字は % 項目については抜粋した アドバイス時の留意点 住宅ローンアドバイザーとしては 耐震住宅への具体的な相談をする場面は限定されるかもしれない それでも留意すべき点は少なくない この点 金融検定協会試験委員の金子千春氏は 大規模な震災に対しては防ぎようが無い部分もあるので 実際に被害が起きた際の補償について 十分に考慮するようアドバイスすることができる とする さらに 特にマンション等については 建物自体の被害が軽微でも 内部の損傷が大きくなる場合や 修復や立替えを独断で行うことができないなどの制約があるので この点のリスクを理解するようアドバイスができるのではないか と話す 省エネ住宅への期待 省エネ住宅購入への各種の政策的な支援もあり いわゆるエコ住宅への関心は高い 認定省エネ住宅制度 ( 仮 ) の創設や 住宅エコポイント制度の再開 フラット 35 S エコの創設など 省エネ住宅 エコ住宅拡大への政策的な意欲の強さが窺える 各種政策を呼び水として 購入者の関心も高まっており 住宅金融支援機構の前記調査においても 21.9% の人が震災以降 住宅取得時に 省エネ性能 を重視するとしている ( 図表 1) 省エネ住宅 は 太陽光パネルの設置などの機能面を強化する方法と 建物自体を省エネ化させるなど躯体面を強化する方法があるが 現在 商品化が進んでいるのは 前者の機能面を強化するものが主流となっている また 特に 太陽光発電に関しては 太陽光パネルの設置支援がいつまで続くのかや 電力買取制度の価格動向について購入者の関心が高いようだ - 4 -
省エネ住宅については 平成 32(2020) 年までに 全ての新築住宅 建築物について 省エネ基準への適合を義務付ける方針が国から示されており 太陽光発電システムや高効率給湯器などにより消費エネルギーをゼロにする ネット ゼロ エネルギー ハウス (ZEH) や CO 2 排出量を住宅建設時から廃棄時までに収支をマイナスにする ライフサイクル カーボン マイナス住宅 (LCCM 住宅 ) などの商品が今後充実してくることが予想される 省エネ住宅市場は今後 大きく拡大することが期待されている 図表 5 省エネ性能を高めるためにどのようなことを考えているか ( 震災後省エネ性能を 重視するとした人 ) 平成 23 年 10 月 平成 23 年 6 月 コストアップしても 太陽光発電設備を設 置したい 52.0 67.9 コストアップしても 断熱性能を高めたい 50.2 37.3 コストアップしても LED 照明を設置したい 39.2 34.2 コストアップしても 高効率給湯器を設置 したい 27.3 19.2 数字は % 項目については抜粋した アドバイス時の留意点 省エネ住宅の購入等にあたっては 各金融機関の住宅ローン金利の優遇やフラット 35S エコの金利引き下げ 国や自治体による太陽光発電に対する補助金等各種制度がある中で 前出の金子氏は どこまでの機能をつけるのか コストと採算性 ( どこまで投資コストを回収できるか ) も踏まえたうえで 選択するようアドバイスすることが重要 と話す また 現在では 省エネ化の有無やリフォームの程度によって 住宅の資産価値が変化することは無いが 今後 中古住宅市場の整備に伴って 住宅の厳格な評価が必要となってくる 前述長嶋氏も 今後は 新築住宅の販売が頭打ちとなる一方で 中古住宅市場は現在の 5 倍程度に膨らむ見込み 個別の住宅の評価は必ず必要となってくるので 金融機関にその役割を担って欲しい と金融機関への期待を話す 金融機関の住宅ローンアドバイザーを含めて 拡大する省エネ住宅や中古住宅市場へのアプローチについて考えていく必要があろう - 5 -