第 3 章 有価証券 有形固定資産 有価証券や有形固定資産については 購入時 及び売却時の仕訳を行える必要があります また 有形固定資産については 建物や機械のように減価償却を行う償却資産と土地のように償却計算を行わない非償却資産とがあります 本章では 減価償却の手続きについても学習します 1. 有価証券の種類有価証券は 一定の権利を表章する証券 で 購入に要した価額で貸借対照表の資産の部に計上されます 小切手や約束手形 株式を表章する株券 投資信託の受益証券 国債証券など様々な有価証券があり また 保有目的や保有割合などによって 名称や貸借対照表の表示場所も変わってきますが 日商簿記 3 級では 売買目的で保有する以下のものだけを取り扱います 有価証券 株式 : 株式会社の持分を表象する証券国債 : 国が必要な資金を調達するために発行する債券公社債地方債 : 地方公共団体が必要な資金を調達するために発行する債券社債 : 会社が必要な資金を調達するために発行する債券 1-1 有価証券の購入と売却 有価証券の購入や売却時には購入手数料や売却手数料が発生しますが これらの処理方法は 商品仕入時の仕入諸掛や販売時における当店負担の発送費と同様に処理します すなわち 購入手数料は有価証券の購入原価に算入し 売却手数料は費用処理します 購入先当店売却先 証券取引所 A 社株式 購入 購入手数料 A 社株式 売却 売却手数料 証券取引所 購入手数料は取得原価に算入 売却手数料は費用処理 (1) 売買目的で F 社株式 100 株を 1 株 500 円で購入し 購入手数料 600 円とともに現金で支払った 1 株あたり購入原価 =(@500 100 株 +600 円 ) 100 株 = @506 円 / 株 (2) 売買目的でI 社社債 額面総額 100,000 円を1 口 100 円につき98 円で購入し 購入手数料 1,000 円とともに現金で支払った 1 口あたり購入原価 =(@98 1,000 口 +1,000 円 ) 1,000 口 = @99 円 / 口
第 3 章有価証券 有形固定資産 P02 (3) 売買目的で保有していたF 社株式 60 株を1 株 580 円で売却した その際 証券会社に売却手数料 500 円を現金で支払った 現金 34,800 円 (=@580 円 / 株 60 株 ) を受け取り 有価証券 30,360 円 (=@506 円 / 株 60 株 ) を手放しています この差額 4,440 円 (=(@580-@506) 60 株 ) が有価証券売却益です また この他に 売却手数料の支払仕訳とまとめて 次のように仕訳を行うこともあります (4) 売買目的で保有していたI 社社債のうち 額面 60,000 円を1 口 100 円につき 96 円で売却し 売却代金を現金で受け取った この際 証券会社に売却手数料 400 円を現金で支払った まず 購入単価 @99 円 / 口の有価証券を @96 円 / 口でしか売却できなかったため 売却損が 600 口分で (@99/ 口 -@96 円 / 口 ) 600 口 = 1,800 円発生します 購入手数料は 商品のときと同じように 取得原価に含めるのかぁ 売却手数料は費用処理よ 1-2 受取配当と有価証券利息 有価証券 株式 : 配当を受け取った場合 受取配当金勘定 で処理します 国債公社債地方債利息を受け取った場合 有価証券利息勘定 で社債処理します (1) 売買目的で保有するF 社株式 40 株について 配当金 800 円を受け取り 普通預金口座に預け入れた (2) I 社社債 ( 額面総額 40,000 円 年利率 6% 利払いは年 2 回 ) について 半年分の利息を受け取り 郵便貯金口座に貯金した 6 ヶ月有価証券利息 = 40,000 円 6% = 1,200 円
第 3 章有価証券 有形固定資産 P03 2. 有形固定資産の種類 建 物 償却資産 備 品 車両運搬具 有形固定資産 機 械 非償却資産 土 地 骨董品 2-1 有形固定資産の購入 有形固定資産を購入した場合には 商品や有価証券と同様に 有形固定資産を事業の用に供する日までにかかる付随費用を取得原価に算入する必要があります 土地の取得原価の計算例 6/3 6/9 7/1 契約 引渡し 事業供用 土地をA 社から購入する契 A 社に残金 115,000 円を支払うととも 約を結び 手付金 5,000 円 に 登記費用 300 円と仲介手数料 700 を支払い 残金 115,000 円 円を業者等に支払った は未払とした 6/3 の当店の仕訳 6/9 の当店の仕訳 借方科目金額貸方科目金額借方科目金額貸方科目金額 ( 前払金 ) 商品や固定資産を購入する場合に 契約時に手付金を請求される場合があります 手付金を支払うと 現金 ( 資産 ) が減少するため 現金勘定を貸方に記入することになります このときの相手勘定に用いられるのが 前払金勘定 です なお 不動産購入時の手付金については 前払金勘定 ではなく 前渡金勘定 や 建設仮勘定 を利用する場合もあります 6/3のA 社の仕訳 6/9のA 社の仕訳借方科目金額貸方科目金額借方科目金額貸方科目金額現金 5,000 前受金 5,000 現金 115,000 土地 前受金 5,000 売却益 ( 前受金 ) 手付金を受け取ると 現金 ( 資産 ) が増加するため 現金勘定を借方に記入すること になります このときの相手勘定に用いられるのが 前受金 勘定です
第 3 章有価証券 有形固定資産 P04 2-2 非償却資産の売却 建物や機械のような償却資産の売却仕訳は後回しにして ここでは 非償却資産である土地の売却仕訳を学習します 土地売却 土地売却 800,000 円 900,000 円 F 商店 I 商店 N 商店 設例 1 売却時の仕訳 ~ 売却益が生じるケース I 商店は 前期に 800,000 円で購入した土地を当期に 900,000 円で N 商店に売却した 売却 額は未収であるが 売却手数料 10,000 円を仲介業者に現金で支払った 当該取引の仕訳を示し なさい I 商店の仕訳 ( 参考 ) 商品の場合 ( 分記法 ) ( 借方 ) 売掛金 900,000 ( 貸方 ) 商 品 800,000 商品売却益 100,000 ( 参考 ) 商品の場合 (3 分割法 ) ( 借方 ) 売掛金 900,000 ( 貸方 ) 売 上 900,000 設例 2 購入時の仕訳 N 商店は I 商店から 900,000 円で土地を購入した 購入代価は未払であるが 購入手数料 10,000 円を仲介業者に現金で支払った 当該取引の仕訳を示しなさい N 商店の仕訳 設例 3 売却時の仕訳 ~ 売却損が生じるケース I 商店は 前期に 800,000 円で購入した土地を当期に 650,000 円で N 商店に売却した 売却 額は未収であるが 売却手数料 10,000 円を仲介業者に現金で支払った 当該取引の仕訳を示し なさい I 商店の仕訳
第 3 章有価証券 有形固定資産 P05 2-3 減価償却有形固定資産のうち 建物や備品 機械などは償却資産と呼ばれ それらの取得原価は 減価償却 の手続きを通じて 費用化されていきます 会計の学習を始めたばかりですから 少し難しく感じるかもしれませんが 減価償却 は 商業簿記だけでなく 工業簿記や原価計算 あるいは 税理士の法人税や所得税 公認会計士の管理会計論や租税法でも重要な学習分野になるため 考え方なども含めて説明していきます (1) 減価償却とは? ( 設例 ) 期首に 360 万円の機械を現金で購入し これを利用することで 毎年 300 万円の売上げを計上する予定である この機械は耐久性に乏しく 3 年間しか利用できない そこで 3 年間の損益計算書を作成してみることにした なお この資料以外の費用 及び収益は生じないものとする ( 処理 1) 機械の取得原価は 収益獲得の犠牲として 購入時に全額費用とすべきである 1 年目のP/L 2 年目のP/L 3 年目のP/L 費用 売上 費用 0 売上 費用 0 売上 360 万円 300 万円 利益 300 万円 利益 300 万円 300 万円 300 万円 損失 60 万円 機械の資産計上額購入時 1 年後 2 年後 3 年後 機械 0 機械 0 機械 0 機械 0 処理 1 の問題点 3 年間 同じ機械を同じように利用して売上を同額計上しているにもかかわらず 計算される利益が大きく変動しているため 企業の経営成績をうまく反映できているとはいえません また 機械の資産計上額が3 年間を通じてゼロとなっており 財政状態も貸借対照表にうまく反映できていません ( 処理 2) 機械の取得原価 360 万円は資産として貸借対照表に全額計上すべきである 1 年目のP/L 2 年目のP/L 3 年目のP/L 費用 0 売上 費用 0 売上 費用 0 売上 利益 300 万円 利益 300 万円 利益 300 万円 300 万円 300 万円 300 万円 機械の資産計上額 購入時 1 年後 2 年後 3 年後 機械 機械 機械 機械 360 万円 360 万円 360 万円 360 万円 処理 2 の 問題点 機械の取得原価 360 万円が3 年後の貸借対照表にもそのまま計上されています この機械は3 年後には利用価値 すなわち資産価値がゼロになるため 企業の財政状態を貸借対照表にうまく反映できていません また 損益計算書においても 機械を利用しながら 収益を獲得している状況がうまく反映されていません
第 3 章有価証券 有形固定資産 P06 ( 処理 3) 機械の取得原価 360 万円は 利用期間にわたって均等に費用計上すべきである 1 年目のP/L 2 年目のP/L 3 年目のP/L 費用 売上 費用 売上 費用 売上 120 万円 300 万円 120 万円 300 万円 120 万円 300 万円 利益 180 万円 利益 180 万円 利益 180 万円 購入時 1 年後 2 年後 3 年後 機械機械機械 120 万円機械 0 万円 360 万円 240 万円 機械の取得原価 360 万円が3 年間に渡って 均等に費用化され 毎年 180 万円の利益が計上されています この結果は 3 年間同じ機械を利用して 同じ経済活動を行っていたことをうまく損益計算書に反映できていることを示しているといえます また 360 万円で取得した機械が3 年間で資産価値がゼロになっていく状況も貸借対照表にうまく反映できています B/Sにある 360 万円を 120 万円ずつP/Lへ振り替えていくの 直接法の仕訳は こんな感じ ( 借 ) 減価償却費 120 万円 / ( 貸 ) 機械 120 万円 減価償却とは 適正な期間損益計算を行うために 資産の取得原価を期間配分する手続き をいいます 設例 4 I 商店は 第 13 期の7 月 1 日に機械装置を 600,000 円で取得した 当機械装置の耐用年数は 4 年 残存価額を 0 円として 定額法によって減価償却費の計算を行うこととする この場合の各年度の減価償却費 及び各年度末の機械装置勘定の残高を計算しなさい なお I 商店の決算日は 12 月 31 日である 1. 当会計期間の減価償却費 600,000 円 4 年 6ヶ月 12ヶ月 = 75,000 円 2. 当会計年度末の機械装置勘定の残高 600,000 円 - 減価償却費 75,000 円 = 525,000 円 3. 各年度の減価償却費と機械装置勘定の残高 第 13 期 第 14 期 第 15 期 第 16 期 第 17 期 7/1 1/1 取得 12/31 12/31 12/31 12/31 6/30 12/31 600,000 円 減価償却費減価償却費減価償却費減価償却費 減価償却費 150,000 円 150,000 円 150,000 円 75,000 円 75,000 円 期末残高 期末残高 期末残高 期末残高 期末残高 525,000 円 375,000 円 225,000 円 75,000 円 0 円
第 3 章有価証券 有形固定資産 P07 (2) 直接法と間接法 1. 直接法 : 減価償却費の相手勘定を資産勘定とする方法です 直接法による第 13 期の仕訳と財務諸表の各金額は 次のようになります 損益計算書 ( 第 13 期 ) 貸借対照表 ( 第 13 期末 ) 減価償却費 75,000 機械装置 525,000 損益計算書 ( 第 14 期 ) 貸借対照表 ( 第 14 期末 ) 減価償却費 150,000 機械装置 375,000 損益計算書 ( 第 15 期 ) 貸借対照表 ( 第 15 期末 ) 減価償却費 150,000 機械装置 225,000 2. 間接法 : 減価償却費の相手勘定を 減価償却累計額 とする方法です 間接法による第 13 期の仕訳と財務諸表の各金額は 次のようになります 損益計算書 ( 第 13 期 ) 貸借対照表 ( 第 13 期末 ) 減価償却費 75,000 機械装置 600,000 減価償却累計額 75,000 損益計算書 ( 第 14 期 ) 貸借対照表 ( 第 14 期末 ) 減価償却費 150,000 機械装置 600,000 減価償却累計額 225,000 損益計算書 ( 第 15 期 ) 貸借対照表 ( 第 15 期末 ) 減価償却費 150,000 機械装置 600,000 減価償却累計額 375,000
第 3 章有価証券 有形固定資産 P08 (3) 残存価額 0 円とする場合 V.S 10% とする場合残存価額とは 耐用年数到来時における資産の見積売却価額をいいます もともと会計では 取得原価の10% を残存価額とすることが多かったのですが 現行税法が残存価額を 0 円で計算することから 近年では 会計でも残存価額 0 円で計算する問題が多くなりました 1. 残存価額 0 円とする場合 第 13 期の減価償却費 6 ヶ月 600,000 円 4 年 = 75,000 円 取得原価 減価償却費 75,000 円 要償却額 600,000 600,000 円円期末簿価 525,000 円 第 13 期第 14 期第 15 期第 16 期第 17 期 貸借対照表 ( 第 17 期末 ) 機械装置 600,000 減価償却累計額 600,000 第 17 期末の貸借対照表 2. 残存価額を取得原価の 10% とする場合 第 13 期の減価償却費 6 ヶ月 600,000 円 0.9 4 年 = 67,500 円 取得原価 減価償却費 67,500 円 要償却額 600,000 600,000 円 0.9 円期末簿価 = 540,000 円 547,500 円 残存価額 60,000 円 第 13 期第 14 期第 15 期第 16 期第 17 期 600,000 円 10% 貸借対照表 ( 第 17 期末 ) 機械装置 600,000 減価償却累計額 540,000 第 17 期末の貸借対照表
第 3 章有価証券 有形固定資産 P09 (4) 償却資産の売却償却資産の売却仕訳は おそらく日商簿記 3 級の中で一番難しく感じる方が多いと思います 売却した資産の売却時の簿価を正しく計算できれば うまくいくはずです そのためには 期首から売却時までの減価償却費を計算する必要があります 設例 5 期中売却 + 直接法 + 残存価額 0 円 I 商店は 第 13 期の7 月 1 日に 600,000 円で取得した機械装置を第 15 期の9 月 30 日に売却し 売却代金として 250,000 円の現金を受け取った 当機械装置の耐用年数は 4 年 残存価額を 0 円として 定額法による減価償却費の計算を行い 直接法で処理している この場合の第 15 期における当該機械装置の売却仕訳を行いなさい なお I 商店は12 月決算であり 第 15 期の機械装置の期首帳簿残高は 375,000 円であった 取得原価 9 ヶ月 600,000 円 4 年 = 112,500 円 600,000 円 期首簿価 減価償却費? 円 375,000 円 売却時簿価? 円 375,000 円 - 112,500 円 = 262,500 円 第 13 期第 14 期第 15 期第 16 期第 17 期 1. 第 15 期の1/1~9/30までの減価償却費 第 15 期の1/1~9/30までの減価償却費 = 600,000 円 4 年 9ヶ月 12ヶ月 = 112,500 円 減価償却費の計上仕訳 2. 第 15 期における売却時の機械装置の簿価 売却時簿価 = 第 15 期の期首簿価 375,000 円 - 売却までの減価償却費 112,500 円 = 262,500 円 3. 第 15 期における売却損の計算 売却損 = 262,500 円 - 250,000 円 = 12,500 円直接法による売却仕訳 2 つの仕訳をまとめると 売却時の仕訳
第 3 章有価証券 有形固定資産 P10 設例 6 期中売却 + 間接法 + 残存価額 0 円 設例 5 において I 商店が減価償却費を間接法によって処理していたとした場合の売却時の 仕訳を行いなさい なお 第 15 期の減価償却累計額の期首帳簿残高は 225,000 円であった 取得原価 9 ヶ月減価償却累計額 600,000 円 4 年 = 112,500 円 225,000 円 600,000 円 期首簿価 減価償却費? 円 375,000 円 売却時簿価? 円 375,000 円 - 112,500 円 = 262,500 円 第 13 期第 14 期第 15 期第 16 期第 17 期 貸借対照表 ( 第 15 期首 ) 機械装置 600,000 減価償却累計額 225,000 取得から第 15 期首までの減価償却費の累計額 期首簿価 375,000 円 期首簿価 (A) の減額 売却時の仕訳 2 期首時点の累計額の減額 1 取得原価の減額 3 期首 ~ 売却時までの減価償却費 (B) 4 売却代金の受取り 5=1-2-3-4 売却時の簿価 設例 7 期中売却 + 間接法 + 残存価額 10% 設例 6 において 残存価額を取得原価の 10% としていた場合の機械装置の売却仕訳を行いな さい なお 第 15 期の減価償却累計額の期首帳簿残高は 202,500 円であった 取得原価 9 ヶ月減価償却累計額 600,000 円 0.9 4 年 = 101,250 円 202,500 円 600,000 減価償却費? 円円期首簿価 397,500 円売却時簿価? 円 第 13 期第 14 期第 15 期第 16 期第 17 期 残存価額 60,000 円 600,000 円 10% 期首簿価 (A) の減額 売却時の仕訳 2 期首時点の累計額の減額 1 取得原価の減額 3 期首 ~ 売却時までの減価償却費 (B) 4 売却代金の受取り 5=1-2-3-4