ワクチン開発の現状について スライド1をご覧下さい 財団法人阪大微生物病研究会私は ご紹介頂きましたようにワクチンを製観音寺研究所造しているメーカーの人間でございまして 先いしかわとよかず副理事石川豊数程の3 人の先生方のようなアカデミックな話の内容とは少し異なりまして ワクチン製造メーカーが行っていますワクチン開発の現状というものと 問題点を紹介させて頂きたいと思います スライド2をご覧下さい このスライドは 国立感染症研究所のホームページからお借りしてきたスライドでございますが 皆さんご存じのように我が国の予防接種というものは 予防接種法に基づき勧奨接種と任意接種に分かれております 勧奨接種 いわゆる定期接種でございますけれども このスライドは 2006 年の4 月から施行される予定の予防接種スケジュールでございます 定期一類疾病としましては ポリオ生ワクチンがございます そして精製百日咳 ジフテリア 破傷風混合ワクチン ( 以下 DPTワクチン ) と略しますが DPTワクチンがございます そして来年の4 月からは麻疹 風疹の混合ワクチン ( 以下 MRワクチン ) と略しますが このワクチンが定期接種として使用され しかも2 回接種される予定でございます 定期一類疾病の中には日本脳炎ワクチンがございますが この日本脳炎ワクチンは厚生労働省によりますと ワクチン接種後に ごく稀に起こる急性の散在性脳脊髄炎 いわゆるA DEMと呼ばれてますけれども その発生がワクチン接種と必ずしも因果関係が否定できないということがございまして 今年の4 月から積極的に勧奨はしないということで 事実上定期接種が中止されているという状況でございます そして 定期二類としましては ご存じのように65 歳以上の高齢者へのインフルエンザワスライド1 ワクチン開発の現状について 財 ) 阪大微生物病研究会観音寺研究所 2005 年 12 月 20 日 222
スライド 2 223
クチンの接種がございます そして 結核予防法に基づきまして定期接種としてBCGがございます その他 任意接種のワクチンとしましては 65 歳以下の方に接種するインフルエンザ 現行は麻疹 風疹が定期接種ですけれども 来年からは麻疹 風疹が任意接種になります あと 水痘 おたふく風邪ワクチン A 型肝炎 B 型肝炎のワクチンがございます スライド3をご覧下さい 我が国で 承認を受けていますワクチンにつきまして ワクチンの種類別に そのワクチンの有効成分毎にまとめたスライドでございます 不活化ワクチンとしましては ウイルス粒子そのもの 或いは ウイルスの成分を用いたワクチンとしましてインフルエンザ 日本脳炎 狂犬病 A 型肝炎 B 型肝炎がございます そして 細菌のワクチンとしましては 先程申しましたDPTワクチン 厳密には 百日咳菌の成分とジフテリア 破傷風のトキソイドを混合したDPTワクチン 更にはコレラ 肺炎球菌のワクチンがございます この肺炎球菌のワクチンは 海外で製造されているものでございます その他 生ワクチンとしましては ウイルスワクチンにポリオ MR 麻疹 風疹ワクチン 水痘 おたふく風邪 痘瘡ワクチンがございます 痘瘡ワクチンは 1976 年から我が国では接種されておりません 細菌の生ワクチンとしてはBCGがございます そして 組換えDNA 技術を用いたワクチンとしましては B 型肝炎ワクチンがございますし トキソイドとしては ジフテリア 破傷風 抗毒素としてはガス壊疽 ジフテリア 破傷風の抗毒素がございます スライド3 日本で承認されているワクチン 不活化ワクチン生ワクチン組換えDNA トキソイド抗毒素 ウイルス細菌レストスピラウイルス細菌ウイルス細菌 ( 毒素 ) 毒素 インフルエンザ 日本脳炎狂犬病 A 型肝炎 B 型肝炎 DPT コレラ 肺炎球菌ワイル病秋やみポリオ MR( 麻しん 風しん ) 水痘 おたふくかぜ 痘瘡 BCG B 型肝炎ジフテリア 破傷風ガスえそ ジフテリア 破傷風等 224
スライド 4 日本で承認されていないワクチン 不活化ワクチン 生ワクチン 組換え DNA ウイルス細菌ウイルス細菌細菌 ポリオ ( 注射用 ) ダニ脳炎インフルエンザ b 菌 髄膜炎菌 腸チフス DPTを基礎とする混合ワクチン MMR 黄熱 日本脳炎腸チフスライム病 スライド4をご覧下さい 一方 海外では使用されておりますけれども日本では承認されておらず 現在 海外渡航時等に使用されているワクチンとしまして このようなワクチンがございます 不活化ワクチンとしては 今では先進国のほとんどで使用されていますが 不活化ポリオワクチン ロシア等で使われていますダニ脳炎ワクチンがございます 細菌のワクチンとしましては インフルエンザB 菌 或いは髄膜炎菌 腸チフスまたDP Tを基礎とする各種の混合ワクチンがございます 例えば DPTに不活化ポリオを混ぜましたDPTIPVであるとか そのワクチンに 更にインフルエンザB 菌であるとかB 型肝炎を混合しました5 価 或いは6 価のワクチンが使われております そして 生ワクチンとしましてはMMR 黄熱 日本脳炎ワクチンが使用されております そして 細菌の生ワクチンとしては腸チフスワクチン 或いは組換えDNAワクチンとしてはライム病のワクチンがございます スライド5をご覧下さい 現在 開発が求められているワクチンとしましては このようなものが挙げられると思います まず先程も 河岡先生のお話がありましたけれども 国際的に今最も開発が求められているワクチンとして 新型インフルエンザワクチンがございます そして先程ご紹介がありましたマラリアワクチン ロタ ウエストナイル熱 デング熱 SARSがあろうかと思います そしてまた このようなワクチンと 最近ではがんの予防ということで 海外におきましては 子宮頸癌に対して ヒトパピロマウイルスワクチンが非常に有効であるということが証明されまして 近く実用にいたるであろうと考えられております スライド 6 をご覧下さい 225
スライド 5 開発が求められている新規のワクチン ワクチン名 ねらい 新型インフルエンザ 流行地の未感染者 マラリア 旅行者 流行地の居住者 ロタ 特に幼児 発展途上国用 ウエストナイル熱 旅行者 流行地の未感染者 デング熱 旅行者 流行地の小児 SARS 旅行者 流行地の居住者 C 型肝炎 ハイリスクの未感染者 エイズ ハイリスクの未感染者 感染地域での蔓延阻止 腎症候性出血熱 流行地のハイリスク成人 癌 癌の予防 ( 子宮頸癌等 ) スライド 6 改良 開発が求められているワクチン ワクチン名インフルエンザワクチン日本脳炎ワクチンポリオワクチン麻しんワクチンおたふくかぜワクチン B 型肝炎ワクチン狂犬病ワクチンコレラワクチン BCGワクチン混合ワクチン化 改良点有効性 接種方法副反応 品質管理毒性復帰 陽性率 耐熱性有効性 副反応無菌性髄膜炎等の副反応 有効性有効性 生産コスト有効性 生産コスト有効性 接種方法有効性 保存方法各種混合ワクチン (DPTIPV MRV,MMRV) また 現在我が国で使用されておりますワクチンにおきましてもいろいろな問題があり 改良が求められております 特に 現行のインフルエンザワクチンは 他のワクチンと比べますと有効性が非常に低くて感染阻止効果に問題があり より有効なワクチンの開発が求められております 日本脳炎ワクチンにつきましては 冒頭述べましたけれども安全性に疑義があるのではないかと言われております そして 我が国で使われてますポリオワクチンは ワクチン投与後にごく稀でございますけれども ワクチンウイルスに由来するマヒが被接種者であるとか 保護者に認められることで問題になっております 226
麻疹ワクチンは 麻疹の流行が少なくなった現状におきましては 抗体の持続期間が短いということで いわゆるセカンダリーワクチンフェーラということが問題になっておりましたけれども 先程述べましたように 今後はMRワクチンが使われるということで こういった問題も解決できるのではないかと考えております そして おたふく風邪ワクチンですけれども これは 自然感染におけます発生頻度と比べますと非常に低いのではありますけれども やはり ワクチン接種後に無菌性髄膜炎が発生するという問題がございます また 海外におきましては 先程言いましたように各種混合ワクチンが使われておりまして 日本におきましても小児へのワクチン接種回数の軽減という観点から 混合ワクチンの開発が求められております スライド7をご覧下さい 今 述べましたように個々のワクチンの改良に加えまして 現在使われておりますワクチンにおきましても 全体的に見ると また別の意味でこういった問題がございます ワクチンは 生物由来製品ということで 有効成分であるウイルスであるとか細菌を増殖させるために 動物由来の原料をいろいろと使用いたします 例えば 日本脳炎でありますとマウス脳を使いますし インフルエンザワクチンですと発育鶏卵を使用します また 生ワクチンにおきましては各種の動物細胞を用いますし そういった動物細胞 或いは 細菌を増殖させるために牛由来のいろいろな成分を使います 高分子の試薬であるとか酵素を用いる場合がございます そういったことで BSEの原因となりますプリオンや動物そのものに 原料に由来する未知の感染性因子の混入の可能性が問題視されておりまして できるだけこのような原料を使わないワクチンの開発が求められております 現在のワクチンではもうほとんど 一部のワクチンを除きまして使用されなくなりましたけれども ワクチンの安定剤として 過去にはアルブミン ゼラチンが使用されておりました これらのゼラチン 或いは アルブミンによるアナフィラキシーというものが非常に問題 スライド 7 現行ワクチンの問題 動物由来原料保存剤剤型有効性生産コスト 動物 発育鶏卵 細胞 牛血清 トリプシン 各種培養液アルブミン ゼラチン 界面活性剤等チメロサール 2PE ホルマリン等省力化 ( プレフィルドシリンジ ) 混合ワクチン 1 人用小分け / 包装ワクチン接種後罹患計画生産 / 安定供給 / コストダウン 227
となりまして 現在では ほとんど使われなくなったという状況でございます しかしながら 海外のワクチンにおきましては まだこれらの安定剤を使用しておりまして 海外で使用実績があるということで 日本に導入する場合でもやはり これらの問題も考慮する必要があろうと考えております また 保存剤といたしましてエチル水銀 チメロサールが長年使用されてきましたけれども こういった防腐剤につきましても使用しない方向で改良 開発が望まれております 更に 使用する医療機関側の問題として あらかじめ注射器にワクチンが充填されているワクチンということで プレフィルドシリンジと呼ばれていますけど そういったものの開発も求められております 我々 ワクチン製造メーカーとしましては これらの問題をできるだけ解決する方向で新しいワクチン 或いは 現在使用されているワクチンの改良に取り組んでいるところでございます スライド8をご覧下さい また ご存じのように 新しいワクチンを開発する場合 ここに示すような薬事法下でのいろいろな法規制を遵守していかなければなりません 今年 4 月から新しい薬事法が施行されましたけれども 開発段階におきましてはGLP GCP 或いは 治験薬 GMPといった基準を遵守して 開発していかなければなりませんし 製造段階 或いは 流通 使用段階におきましては このような規制下にあっていろいスライド8 ワクチンの開発 製造 使用段階の法規制 薬事法 : 開発段階製造段階流通 使用段階 製造販売業の許可 製造販売承認 製造業の許可 再審査 GPSP 市販後調査 再評価 GLP GCP 非臨床試験臨床試験治験届 GQP 品質管理 GVP 安全管理 国家検定 治験薬 GMP 医薬品 GMP 生物学的製剤基準 治験薬の製造管理 品質管理 製造管理 品質管理 生物由来製品 / 生物由来原料基準 カルタヘナ法 : 遺伝子組換え生物等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 228
ろと対応していかなければならないということでございます また ワクチンは先程述べましたように 生物由来製品であることから 生物由来原料基準というものも遵守して開発していかなければなりません ですから 開発段階から日本及び米国をはじめとするBSE 発生国の牛に由来するような原料は使用できませんし また そういったものを仮に使って開発された場合 後で非常に問題になるということがございます 更に 組換えDNA 技術を使った医薬品を開発する場合 ワクチンを開発する場合はカルタヘナ法という法律 遺伝子組換え生物等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 というのがございまして これに基づくいろいろな規制を受けるということにもなります また ワクチンは種類によっては非常に需要も少ないということ 或いは 単価も安いということから これらの法規制を遵守する中で膨大な開発費用 期間をかけて新しい製品を開発したとしましても なかなかそれらを回収するということが困難であるという問題も抱えております スライド9をご覧下さい そのような状況の中で 我々が現在行っております新しいワクチンの開発状況 或いは 改良状況について 具体的にその一部をご紹介したいと思います まず 新規のワクチンですけれども MRワクチンがございます 当会のMRワクチンは 新 GCP 下での治験を経て 今年 7 月に製造販売承認を得 ミールビックという販売名で今月から使われる予定でございます 同じMRワクチンとしまして 武田薬品工業さんも最近製造承認を取得しておりまして 来年の4 月からは私どもとこの2 種類のMRワクチンが定期接種として使用される予定でございます また現在 製造承認申請中のワクチンとしましては マウス脳に代わる細胞培養不活化日本脳炎ワクチンがございます スライド9 ワクチンの新規開発 改良状況 MRワクチン( 麻しん 風しん混合生ワクチン ) 販売名 : ミールビック 細胞培養不活化日本脳炎ワクチン 新型インフルエンザワクチン DPTIPV 混合ワクチン マラリアワクチン 細胞培養/ 経鼻投与型インフルエンザワクチン 生ウイルス混合ワクチン(MRV MMRV) 西ナイル熱ワクチン 防腐剤を使用しないワクチン 牛血清を使用しない生ワクチン( 麻しん 風しん ) 229
それからまた 新型インフルエンザワクチンについても開発を行っております それから 経口生ポリオウイルスの種ウイルスでありますセービン株のいわゆる 弱毒株を不活化したポリオワクチンを私どものDPTに混合したDPTIPV 混合ワクチンの開発も行っております 更に研究段階でございますけれども 細胞培養法によるインフルエンザワクチン 或いは それを用いた経鼻投与型の粘膜ワクチンの検討も行っております それから 更には生ウイルス混合ワクチンとして麻疹 風疹に水痘を加えたワクチンであるとか 更におたふくを加えたMMRVワクチンの開発も検討しております 更には 長崎大学の熱帯医学研究所の森田教授らとともに 西ナイル熱ワクチンに関する開発も行っておりまして このワクチンにつきましては 現在臨床試験の手前まで終了している状況でございます 一方 既存ワクチンの改良としましては チメロサール等の防腐剤を一切使用しないワクチンであるとか 牛血清を使用しない製造方法による生ワクチンの開発ということもやっております スライド10をご覧下さい 具体的にその一例をご紹介しますけれども これが今月から販売が予定されておりますM Rワクチン ミールビック でございます このような包装で市場に出る予定でございます 230 スライド11をご覧下さい ミールビックMRワクチンの特徴ですけれども 1 回の皮下投与によって 麻疹及び風疹の二つの免疫を同時に付与することができるということと あと 二つのワクチンが1 回の接種で終わりますからワクチン接種スケジュールの軽減につながるし 被接種者である小児の身体的負担が軽減されるということ ワクチン接種にかかる保護者の要する時間であるとか経費が節減できるということ 更には 混合ワクチンとすることにより ひいては麻疹 風疹の接種率の向上につながるのではないかということで大いに期待されているワクチンスライド10 スライド11 ミールビック < 乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン> ミールビックの特徴 < 乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン > 一度の皮下接種で麻しん及び風しんに対する免疫を同時に誘導する 接種回数が減少することにより ワクチン接種スケジュールの緩和 非接種者である小児の身体的負担の軽減 保護者のワクチン接種に要する時間 経費の節減 麻しん及び風しんワクチンの接種率の向上 副反応発現率は 現行の麻しんワクチン及び風しんワクチンと同程度
スライド 12 現行日本脳炎ワクチンの問題点 マウス脳由来ワクチン 1. 迷入ウイルス, 脳成分の残存が完全に否定できない 2. 原料であるマウスの品質管理が困難 3. 動物愛護 4. 緊急なワクチン製造 バイオハザード対策 でございます スライド12をご覧下さい 次に 日本脳炎ワクチンですけれども 現行の日本脳炎ワクチンは安全性 有効性ともに非常に優れたワクチンでありまして 国際的にも認められた唯一のワクチンでございます しかしながら マウス脳を原料に使うということから ここに書いてございますようにマウス由来の迷入ウイルスであるとか マウスの脳成分の残存が完全に否定できないというふうな問題がございます 冒頭に述べましたように 厚生労働省は 現行ワクチンを接種した後で ごく稀に起こる百数十万人に一人という比率で起こるADEMが ワクチン接種に由来することが否定できないということで 定期接種を勧奨しないということになっております また その他にこのワクチンにつきましては 大量のマウスを使うということから 動物愛護の問題もございます このような問題を解決するため 我々は 10 年ほど前から新しいワクチンの開発を行ってまいりまして やっと今年 製造承認申請を行ったという状況でございます スライド13をご覧下さい 新しいワクチンはマウスに代わりまして ここに示しますようにマイクロキャリアと呼ばれる デキストランでできたビーズですけれども 直径約 150マイクロメーターのビーズの表面に vero 細胞と呼ばれますアフリカ緑猿腎臓由来の細胞をこうして付着して こうした培養タンクで浮遊して培養増殖させます そして増殖させた細胞に日本脳炎ウイルスを接種して それをワクチンにするというものでございまして 本質的には現行ワクチンとウイルスを増殖させる宿主のみが違うというワクチンでございます こういった技術を開発することによりまして 他のワクチンの開発にも応用できるというふうに考えております 231
スライド 13 Vero 細胞由来ワクチンの利点 Vero 細胞 1. マウス脳由来ワクチンの問題点を解決 2. 製造工程におけるバイオハザード管理が容易 3. 製造技術を他のワクチンへ応用できる スライド 14 Vero 細胞由来日本脳炎 西ナイル熱ワクチン 日本脳炎ワクチン 西ナイル熱ワクチン スライド14をご覧下さい これは 新しいvero 細胞を使ったワクチンの一例でございますが 左が日本脳炎ワクチンでございます 西ナイルウイルスは 日本脳炎ウイルスと非常に近縁であるということで 西ナイル熱ワクチンも全く同じ方法で製造を行いますと このように右が西ナイル熱ワクチンの電子顕微鏡像ですけれども 同様にちゃんとしたものができるということでございます スライド15をご覧下さい vero 細胞を用いて製造した日本脳炎及び ウエストナイル熱ワクチンをそれぞれ単独或いは混合して マウスに免疫したときのそれぞれのウイルスに対する抗体の状況をお示しした成績でございます 232
スライド 15 マウスにおける抗体産生能 ワクチン 抗原量 ( 蛋白質含量 / マウス ) 中和抗体価 (log 10) 抗 WNV 抗体 HI 抗体価 ( 倍 ) 蛍光抗体価 ( 倍 ) 抗 JEV 抗体 中和抗体価 (log10) JEV 62.5ng 1.13 20 640 3.75 JEV+WNV 62.5+62.5ng 2.41 160 2560 3.61 31+31ng 2.66 160 1280 3.40 62.5ng 2.81 160 1280 1.59 WNV 31ng 2.73 80 640 1.07 16ng 2.45 80 640 n.d. 8ng 1.90 10 <40 n.d. PBS <1.0 <10 <40 <1.0 日本脳炎ワクチンを接種した場合は 日本脳炎ウイルスに対する高い中和抗体を産生しますし 近縁でありますウエストナイルウイルスに対しましては わずかですけれども中和抗体を産生します なおかつ HI 或いは蛍光抗体も上昇させます ウエストナイルワクチンは 用量を変量して免疫しますと 特異的に ウエストナイルウイルスに対する中和抗体価を上昇させるということで 当然ですけれども日本脳炎とウエストナイルを混合して免疫した場合には それぞれ単独で接種したものと同等の中和抗体も与えるということで ウエストナイルワクチンが一応 実用化ができるのではないかと考えております そういうことで 一応現時点では ウエストナイルワクチンにつきましては 非臨床試験の終了まで進んでいるわけですけれども 残念ながら日本におきましては 有効性を評価することができないということで 今後開発をどう進めていくかが課題として残っております スライド16をご覧下さい 次に パンデミックインフルエンザワクチンについてですが 先程河岡先生もお話がありましたけれども 厚生労働省から最近 新型インフルエンザ対策行動計画というものが示されておりまして その一環としまして 厚生労働省 国立感染症研究所 また私ども細菌製剤協会のインフルエンザワクチンを製造している4 社のメーカーの共同開発ということで 現在 新型インフルエンザワクチンの開発を行っております パンデミックインフルエンザワクチン開発の国際的な考え方としましては ヒトは新型インフルエンザに対して 全く免疫を有していないということを前提にしまして より少ない抗原量 より多くの人に投与できて しかもより高い免疫を付与することを目的に 不活化 233
スライド 16 新型インフルエンザワクチン 新型インフルエンザワクチン開発の戦略 モックアップ ( 模擬 ) ワクチンによる製造承認 H5 亜型弱毒ウイルス全粒子アジュバント ( アルミニウムゲル ) + またはHA アジュバント比添加 非臨床試験 臨床試験 承認 新型インフルエンザ流行株の弱毒株を用いた不活化ワクチン スライド 17 インフルエンザワクチン H5N1 全粒子ワクチン 現行 HA ワクチン ウイルスの全粒子または HAの抗原にアジバントとしまして アルミニウムゲルを転化したワクチンを開発しようという流れとして進んでおりまして 我が国におきましては 先程河岡先生から話がございましたけれども H5 型の弱毒ウイルスを使って その全粒子にアジバントとして アルミニウムを加えたワクチンを開発しようということで進んでおりまして 現在 非臨床試験の終了一歩手前というところまで進んでいます それで こういった考え方の中で 製造承認を頂きまして 新しい本当のパンデミックが起こった場合は そのウイルスを弱毒化して不活化ワクチンを作ろうということで進んでおります スライド 17 をご覧下さい 234
左がその不活化 H5N1ウイルスの全粒子の電子顕微鏡写真でございますが これにアルミニウムゲルを加えたものをワクチンとしようとしているわけでございます 右が私どもの現行のHAワクチンでございます HAワクチンは ウイルスをエーテルで分解した後 抗原の再結合をさせたものですけれども このように1ドーズあたり 1 株あたりHA 抗原として15μg NA 抗原として3から4μg そして その他のものとしては RNPが含まれているというワクチンでございます インフルエンザワクチンにつきましては その他に やはり有効性を向上させるということと あと 緊急時に対応できるワクチンの製造方法を確立するということから 細胞培養法によるワクチン開発が各国において精力的に行われております 海外ではすでに オランダにおきまして細胞培養ワクチンが使用されております 使用する細胞もいろいろな種類の細胞が検討されておりますけれども 我々はインフルエンザウイルスに対して 最も感受性が高くて造腫瘍性が低い細胞ということで 付着性のM DCK 細胞を用いて 開発しようということでやっておりまして 現在数百リットルの規模まで培養が可能であるということを経験しております スライド18をご覧下さい 左がその顕微鏡写真でございますが このMDCK 細胞は このようにクラスターを形成して非常によく増殖します そして このクラスターをほぐしたのが右のスライドですけれども 先程の日本脳炎と同じマイクロキャリアを使った培養法でございますけれども すべてのマイクロキャリアにこのようにぎっしりと細胞が付着して増殖します こういった細胞でインフルエンザウイルスを増やしますと ほとんどのインフルエンザの株におきまして 発育鶏卵と同等以上のウイルス抗原が得られるということが確認されております そういった開発というものも進めております スライド19をご覧下さい 更には より有効性の高いインフルエンザワクチンを開発するという目的で 経鼻投与型の粘膜免疫ワクチンの検討も行っております これにつきましては 各機関においても精力スライド18 マイクロキャリア法によるMDCK 細胞 235
スライド 19 経鼻ワクチンの抗体応答 Immunization (0w & 3w) AntiNC HA Ab responses (3ld) Vaccine (N.C.; H1N1) (μg) Adjuvant (0.1μg) NWIgA (2 n ) SerumIgG (4 n ) Split (0.1) Split (0.2) Split (1.0) whole (0.01) whole (0.03) whole (0.1) whole (0.2) whole (1.0) whole (10.0) Split (0.1) CTB* < 1 2 3 4 5 6 7 8 < 1 2 3 4 5 6 7 8 的に検討がされておりますけれども 我々も検討を行っておりまして これはH1 型の成績の一部ですけれども H1のニューカレドニアという株のスプリットの抗原と ホールの抗原をBALB/Cマウスに3 週間隔で2 回経鼻投与しまして 鼻腔中のIgA 抗体と血中の IgG 抗体を調べたものですけれども スプリットワクチンにしますと1 匹あたり ⅠgA を投与してもほとんどIgA 抗体の産生が認められませんけれども ホールのウイルスですと0.1 或いは0.2μgの投与でも鼻腔中にIgAの産生が認められ しかもスプリットにコレラトキシン アジバントとして非常に有効なアジバントですけれども コレラトキシンを加えたものと同等レベルのIgAの産生が認められる しかも血中のIgG 抗体も産生するということで こういったホールワクチンの経鼻投与 或いはそれに 有効なアジバントを添加した経鼻投与型のワクチンということを目指して現在開発しております このように経鼻投与型のワクチンで感染局所のIgA 抗体を上げ しかも血中のIgG 抗体を上げることができますと 非常に有効なワクチンが開発できるのではないかというふうに考えております スライド20をご覧下さい 次に 最後になりましたが現行ワクチンの改良ということで すでに市販されているワクチンもございますが 使用する側の立場に立った剤形ということで 医療機関からはワクチンをあらかじめ注射器に充填したワクチン ( プレフィルドシリンジ ) ということで呼ばれていますけれども そういった製品の開発が望まれております 今後は ほとんどの液状ワクチンにおきましては このようなプレフィルドシリンジに変わっていくものであろうというふうに考えます 236
スライド 20 ワクチンのプレフィルドシリンジ化 現行 ( バイアル ) シリンジキット スライド 21 共同研究者 マラリアワクチン西ナイル熱ワクチン経鼻投与型インフルエンザワクチン生ウイルス混合ワクチン 大阪大学微生物病研究所堀井俊宏長崎大学熱帯医学研究所森田公一国立感染症研究所倉根一郎 高崎智彦 小島朝人国立感染症研究所田村慎一徳島大学木戸博 水野大独立行政法人医薬基盤研究所山西弘一 森康子 このようなシリンジキットになりますと 医療機関におきまして ワクチンをバイアルから注射器に吸引するときの時間というものが大幅に短縮されますし また 吸引した後のワクチンの誤使用であるとか 或いは 医療用の産業廃棄物の減少にもつながるのではないかということで開発が要求されております 以上 雑駁な話になりましたけれどもワクチンメーカーが行っていますワクチン開発の現状と 問題点をご理解頂ければ幸いと考えます スライド21をご覧下さい 最後になりましたが 私どもの共同をお願いしている先生方のリストでございます どうも有難うございました 237