< 内容 > 乳がんは女性の罹患率が第一位のがんで 日本人女性の約 11 人に 1 人がかかり 近年患者数は上昇傾向にあります 乳がんの約 60 70% は 女性ホルモンであるエストロゲンと結合して細胞増殖に働くエストロゲン受容体 (ER) を生産 ( 発現 ) しています そのため エストロゲンの

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

生物時計の安定性の秘密を解明

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構


報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

長期/島本1

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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平成14年度研究報告

Microsoft Word - 01.doc

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

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Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

学位論文の要約

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

4. 研究の背景 : エストロゲン受容体陽性で その増殖にエストロゲンを必要とする Luminal A [3] と呼ばれるタイプの乳がんは 乳がん全体の約 7 割を占め 抗エストロゲン療法が効果的で比較的予後良好です しかし 抗エストロゲン剤の効果が低く手術をしても将来的に再発する高リスク群が 約

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Microsoft Word - PRESS_

核内受容体遺伝子の分子生物学

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

Microsoft Word CREST中山(確定版)


Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

06. 【送付】プレスリリース原稿 LCZ696

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

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ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

平成 25 年 10 月 7 日 (3303: 上皮管腔組織形成 ) 菊池章殿 生物系委員会主査 平成 25 年度科学研究費補助金 新学術領域研究 ( 研究領域提案型 ) の 中間評価結果について 平成 25 年 9 月 5 日に実施した生物系委員会における中間評価の結果 あなたを領域代表者とする研

2. ポイント EGFR 陽性肺腺癌の患者さんにおいて EGFR 阻害剤治療中に T790M 耐性変異による増悪がみられた際にはオシメルチニブ ( タグリッソ ) を使用することが推奨されており 今後も多くの患者さんがオシメルチニブによる治療を受けることが想定されます オシメルチニブによる治療中に約

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

研究成果報告書

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

平成24年7月x日

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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2018 年 10 月 12 日 報道関係各位 公益財団法人がん研究会国立大学法人熊本大学国立大学法人九州大学大豆エナジー株式会社 大豆グリセオリン I が再発乳がんモデル細胞の増殖を抑える - エストロゲン療法に関わる新たなメカニズムを解明 - ポイント 1 ポイント1: 内分泌療法抵抗性を獲得した再発乳がんは 治療困難となることが問題ですが 大量のエストロゲンの投与により寛解することがあります ポイント2: 大豆から抽出 精製したグリセオリン I が エレノア RNA 2 ESR1 3 の転写を阻害し 再発乳がんモデル細胞の増殖を抑制しました ポイント 3: グリセオリン I の作用機序はエストロゲンやレスベラトロール 4 と異なり エストロ ゲン受容体を介さずに細胞死 ( アポトーシス ) を誘導する新規な機序で 新たな乳がん治療薬 の開発につながる可能性を示しました 1: 乳がんの増殖に必要な女性ホルモン エストロゲンの作用を抑制する薬剤による治療 2: 再発乳がんで高発現するノンコーディング RNA 細胞核内で遺伝子を活性化する 3: エストロゲンと結合して活性化するエストロゲン受容体をコードする遺伝子 4: ポリフェノールの一種でエストロゲンと類似構造を持ちエストロゲン様の働きをする 公益財団法人がん研究会 ( 理事長 : 馬田一 所在地 : 東京都江東区 ) の斉藤典子 ( がん研究所がん生物部 / 熊本大学 ) らの研究グループは 国立大学法人熊本大学 ( 学長 : 原田信志 所在地 : 熊本市 ) 国立大学法人九州大学( 総長 : 久保千春 所在地 : 福岡市 ) 大豆エナジー株式会社 ( 代表取締役社長 : 井出剛 所在地 : 熊本市 ) らとの共同研究で 大豆から得られたフィトアレキシンの1 種であるグリセオリン I という天然小分子化合物が 治療抵抗性となった再発乳がんを模した培養細胞の細胞死を誘導し 増殖をおさえる生理活性を持つ機序を明らかにしました その機序として グリセオリン I は エレノアとよばれる RNA 分子 およびエストロゲン受容体の遺伝子の働きを抑制しました 本研究者らは 女性ホルモンのエストロゲンや ポリフェノールの一種のレスベラトロールにも同様の生理活性のあることをすでに見出しておりますが グリセオリン I はそれらと異なるメカニズムで作用することから グリセオリン I の作用機序が再発乳がんの新たな治療薬の開発につながる可能性を示しました 本研究成果は Scientific Reports 誌に英国時間平成 30 年 10 月 12 日 10:00 ( 日本時間 10 月 12 日 18:00) に掲載されます

< 内容 > 乳がんは女性の罹患率が第一位のがんで 日本人女性の約 11 人に 1 人がかかり 近年患者数は上昇傾向にあります 乳がんの約 60 70% は 女性ホルモンであるエストロゲンと結合して細胞増殖に働くエストロゲン受容体 (ER) を生産 ( 発現 ) しています そのため エストロゲンの作用を抑える内分泌療法が効果的です しかし 一部の乳がんでは抵抗性を獲得し 治療が効かなくなり再発することが問題になっています 2015 年に斉藤らは 内分泌療法抵抗性の乳がんモデル培養細胞 ( 抵抗性乳がん細胞 ) で ノンコーディング RNA であるエレノア (Eleanors; ESR1 locus enhancing and activating non-coding RNAs) を発見し このエレノアが抵抗性乳がん細胞で ER をコードする ESR1 遺伝子を過剰に活性化し 細胞増殖に関わることを見出しました (Nature Communications, 2015.04.29) また 抵抗性乳がん細胞に エストロゲンとよく似たレスベラトロールを投与すると ER を介してエレノアと ESR1 の働きが抑えられ 抵抗性乳がん細胞が増殖しにくくなることも見出しました これは 治療抵抗性再発乳がんにエストロゲンを投与することで寛解するエストロゲン療法を 細胞実験で反映した結果と見ることができます ただしまだ不明なことが多く 再発乳がん治療法の改良のためには詳細な仕組みを理解することが重要です そこで今回 山本らは レスベラトロールのような効果を持つ天然化合物がないか 大豆に着目して研究を進めました 大量の大豆を多様な植物生理活性物質 ( フィトアレキシン ) を誘導するようにストレス刺激処理してからすり潰し 抽出液を分画して抵抗性乳がん細胞に加えたところ 一部の画分の添加によって エレノアと ESR1 の転写が抑制され 細胞の増殖が抑えられました この画分を NMR( 核磁気共鳴分光法 ) と TOF-MS( 質量分析法 ) により解析したところ 大豆の二次代謝物質であるグリセオリン I が活性成分であることがわかりました グリセオリン I は レスベラトロールよりも効果的に治療抵抗性乳がん細胞の増殖を抑え また 正常線維芽細胞よりも強く抵抗性乳がん細胞の増殖を阻害し 細胞死 ( アポトーシス ) を誘導しました 一方で グリセオリン I は エストロゲンやレスベラトロールと異なり ER を介さずにエレノ 2

アを阻害することを見出しました 構造解析を進めたところ グリセオリン I は ER のアミノ酸 (404 番目のフェニルアラニン残基 ) に立体障害を起こすことが示唆されました これらの結果から グリセオリン I が有する治療抵抗性乳がん細胞の増殖抑制作用は新しい機序であること また ポリフェノールが細胞死を誘導する際には ER の介在と非介在の様式があること さらに 抵抗性乳がん細胞は適切なポリフェノール処理が引き金となって細胞死が誘導される脆弱な性質があることが示されました この新たに見出されたグリセオリン I の作用機序が 内分泌療法抵抗性乳がんの新たな治療薬を開発する契機につながることが期待されます なお 本研究は 高濃度 (50μM) のグリセオリン I を培養乳がん細胞に暴露させて作用機序を調べた基礎研究であり グリセオリン I が抗がん剤となることや 大豆を食べることで再発乳がん治療につながることを直接的に示すものではありません < 論文名 掲載誌 著者およびその所属等 > 論文名 Endocrine therapy-resistant breast cancer model cells are inhibited by soybean glyceollin I through Eleanor non-coding RNA 掲載誌 Scientific Report 2018 Oct 12 doi: 10.1038/s41598-018-33227-y 著者 Tatsuro Yamamoto1, 2, 6, Chiyomi Sakamoto1, Hiroaki Tachiwana2, Mitsuru Kumabe1, Toshiro Matsui3, Tadatoshi Yamashita4, Masatoshi Shinagawa5, Koji Ochiai5, Noriko Saitoh1,2, and Mitsuyoshi Nakao1 3

著者の所属機関 1 国立大学法人熊本大学発生医学研究所 2 公益財団法人がん研究会がん研究所 3 国立大学法人九州大学大学院農学研究院 4 株式会社常磐植物化学研究所 5 株式会社果実堂 / 大豆エナジー株式会社 6 国立大学法人熊本大学大学院生命科学研究部 〇本研究の助成金 1. 文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル 2. 経済産業省中小企業庁戦略的基盤技術高度化支援事業 3. 科学研究費補助金基盤研究 (B) 挑戦的研究( 萌芽 ) 4. アステラス病態代謝研究会研究助成金 5. 上原記念生命科学財団研究助成金 6. 三菱財団研究助成金 4

本研究の説明図 < 報道機関からのお問い合わせ先 > 本研究内容に関すること 公益財団法人がん研究会がん研究所がん生物部斉藤典子 TEL:03-3570-0471 e-mail: noriko.saito@jfcr.or.jp 国立大学法人熊本大学発生医学研究所細胞医学分野 中尾光善 TEL: 096-373-6800 e-mail: mnakao@gpo.kumamoto-u.ac.jp 5

がん研究会に関すること 公益財団法人がん研究会広報部 TEL:03-3570-0775 e-mail: kouhouka@jfcr.or.jp 熊本大学に関するすこと 国立大学法人熊本大学総務部総務課広報戦略室 TEL:096-342-3271 e-mail: sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp 大豆エナジーに関すること 大豆エナジー株式会社取締役小板橋達也 TEL 096-289-8883 ( 親会社株式会社果実堂代表電話 ) e-mail koitabashi@kajitsudo.co.jp 6