特集 ひえき国内のサービス業 農林水産業に裨益する ことも考えられる 第三に インフラは現地のものであり 最 終的には 現地の文化に根付いた現地の人による運営サービスが行われる 日々利用する交通機関において 日本のシステム サービスの導入により より快適なサービスが提供されるようになれば 中長期にわ

Similar documents
ラ関係受注額を約 30 兆円 ( 現状約 10 兆円 ) とすることを目指している. そのための施策の柱として,1 企業のグローバル競争力強化に向けた官民連携の推進,2 インフラシステムの海外展開の担い手となる企業 地方公共団体や人材の発掘 育成支援,3 先進的な技術 知見等を活かした国際標準の獲得

新興国市場開拓事業平成 27 年度概算要求額 15.0 億円 (15.0 億円 ) うち優先課題推進枠 15.0 億円 通商政策局国際経済課 商務情報政策局生活文化創造産業課 /1750 事業の内容 事業の概要 目的 急速に拡大する世界市場を獲得するためには 対象となる国 地

併せて 先進事例を統一的なフォーマットでデータベース化する また 意欲ある地域が先進的な取組みを行った人材に 目的に応じて容易に相談できるよう 内閣官房において 各省の人材システムを再点検し 総合的なコンシェルジュ機能を強化する 各種の既存施策に加え 当面 今通常国会に提出を予定している 都市再生法

企画書タイトル - 企画書サブタイトル -

資料 2-2 成長戦略改訂に向けた地域活性化の取組みについて ( 案 ) 内閣官房地域活性化統合事務局 成長戦略の改訂に向け これまでの施策の成果が実感できない地方において 新たな活力ある地域づくりと地域産業の成長のためのビジョンを提供しその具体化を図る 超高齢化 人口減少社会における持続可能な都市

貿易特化指数を用いた 日本の製造業の 国際競争力の推移

仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

⑴ ⑵ ⑶ ⑷ 1



⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

資料 5 総務省提出資料 平成 30 年 12 月 21 日 総務省情報流通行政局

4-(1)-ウ①

国際協力銀行 (JBIC) の海外インフラ支援事業に関する要望 わが国政府は 成長戦略の重要な柱の 1 つとしてインフラシステム輸出を位置づけており 2016 年 5 月に公表した 質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ においても 今後 5 年間にインフラ分野に対して 約 2,000 億ドルの資金

⑵ ⑶ ⑷ ⑸ ⑴ ⑵



Microsoft Word - 5_‚æ3ŁÒ.doc


別紙 1 1. 日 セネガル官民インフラ会議 (1 月 9 日 ) (1) 日時 : 平成 30 年 1 月 9 日 ( 火 ) (2) 場所 : セネガル共和国ダカール市内国際会議場 CICAD(Centre international de conférences Abdou Diouf) (3


-2 -


社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

( 参考様式 1) ( 新 ) 事業計画書 1 事業名 : 2 補助事業者名 : 3 事業実施主体名 : Ⅰ 事業計画 1 事業計画期間 : 年 月 ~ 年 月 記載要領 事業計画期間とは 補助事業の開始から事業計画で掲げる目標を達成するまでに要する期間とし その期限は事業実施年 度の翌年度から 3

( 財 ) 運輸政策研究機構国際問題研究所 立命館アジア太平洋大学主催国際セミナー 海外インフラ PPP 事業における日本企業の取組みとその課題 2011 年 8 月 1 日住友商事山崎亜也

企画書タイトル - 企画書サブタイトル -

関経連_事業報告書CS4.indd

Microsoft PowerPoint - Itoh_IEEJ(150410)_rev

<4D F736F F F696E74202D A F95BD90AC E31308C8E8AFA5F8C888E5A90E096BE89EF81408DC58F4994C530362E70707

スライド 1

<4D F736F F D B A815B836782CC8A C98C5782E9834B C4>

学生確保の見通し及び申請者としての取組状況

平成 30 年 8 月 31 日 平成 31 年度の財政投融資計画要求書 ( 機関名 : 株式会社日本政策金融公庫 ( 特定事業等促進円滑化業務 )) 1. 平成 31 年度の財政投融資計画要求額 ( 単位 : 億円 %) 平成 31 年度平成 30 年度対前年度比区分要求額当初計画額金額伸率 (1

システムの開発は 国内において 今後の普及拡大を視野に入れた安全性の検証等に係る研究開発が進められている 一方 海外展開については 海外の事業環境等は我が国と異なる場合が多く 相手国のユーザーニーズ 介護 医療事情 法令 規制等に合致したきめ細かい開発や保守 運用までも含めた一体的なサービスの提供が

西アフリカ 3億人ビジネス市場マップ ―2035年5億人市場に向けて―

Microsoft Word - 【外務省】インフラ長寿命化(行動計画)



untitled

参考資料 5 用語集 SPC( 特別目的会社 ) SPC(Special Purpose Company) は特別目的会社ともいわれ プロジェクトファイナンスにおいては 特定のプロジェクトから生み出されるキャッシュフローを親会社の信用とは切り離す事がポイントであるが その独立性を法人格的に担保すべく

日本の国際競争力調査

資料 2 平成 27 年度の政策対話等の実施実績及び予定について ( 未定稿 ) 1. 概要 平成 27 年度は 以下の取組につき 各国の状況に応じ組み合わせて実施 (1) 各国との政策対話の実施 (2) 対話の場を活用した 我が国食関連産業と先方政府 先方民間企業のとの情報共有 マッチングの促進

sangi_p2

平成19年6月  日

JCM1211特集01.indd

規制 制度改革に関する閣議決定事項に係るフォローアップ調査の結果 ( 抜粋 ) 規制 制度改革に係る追加方針 ( 抜粋 ) 平成 23 年 7 月 22 日閣議決定 番号 規制 制度改革に係る追加方針 ( 平成 23 年 7 月 22 日閣議決定 ) における決定内容 規制 制度改革事項 規制 制度

(CANACINTRA) 等と連携を図りつつ設置する案を有しており 国家中小企業コンサルタント養成 認定制度を具現化するためにいかにして事業を進めていくかが課題となっている (2) 相手国政府国家政策上の位置づけカルデロン大統領は 近代的かつ競争力のある経済の強化及び雇用の創出 を 治安 貧困撲滅

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

平成 25 年 12 月 12 日 各位 株式会社みちのく銀行 株式会社民間資金等活用事業推進機構 への出資および 地方公共団体向け PFI セミナー の開催について ~PFI に関する内閣府 日本政策投資銀行との共催セミナーは 県内金融機関で初の取組み ~ みちのく銀行 ( 頭取髙田邦洋 ) は

01-02_入稿_0415

Rev

政策目標 6-2: 開発途上国における安定的な経済社会の発展に資するための資金協力 知的支援を含む多様な協力の推進 1. 政策目標の内容自由かつ公正な国際経済社会の実現やその安定的発展に向け 開発途上国における貧困の問題や気候変動等の地球環境問題等の課題への対応を含む国際的な協力に積極的に取り組むこ

手法 という ) を検討するものとする この場合において 唯一の手法を選択することが困難であるときは 複数の手法を選択できるものとする なお 本規程の対象とする PPP/PFI 手法は次に掲げるものとする イ民間事業者が公共施設等の運営等を担う手法ロ民間事業者が公共施設等の設計 建設又は製造及び運営

内閣府告示第二百三十二号民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律 ( 平成十一年法律第百十七号 ) 第五十三条第一項の規定に基づき株式会社民間資金等活用事業推進機構支援基準を次のとおり定めたので同条第 三項の規定に基づきこれを公表する 平成二十五年十月四日内閣総理大臣安倍晋三株式会

政策目標 5-2: 多角的自由貿易体制の維持 強化及び経済連携の推進並びに税関分野における貿易円滑化の推進 1. 政策目標の内容自由貿易の推進は我が国の対外経済政策の柱であり 力強い経済成長を実現するためには 自由貿易体制を強化し 諸外国の活力を我が国の成長に取り込む必要があるというのが 政府全体と

2014年度 日本の国際競争力調査結果

公共工事等における新技術活用システムについて 別添 公共工事等に関する優れた技術は 公共工事等の品質の確保に貢献し 良質な社会資本の整備を通じて 豊かな国民生活の実現及びその安全の確保 環境の保全 良好な環境の創出 自立的で個性豊かな地域社会の形成等に寄与するものであり 優れた技術を持続的に創出して

市町村における住民自治や住民参加、協働に関する取組状況調査

新設 拡充又は延長を必要とする理地方公共団体の実施する一定の地方創生事業に対して企業が寄附を行うことを促すことにより 地方創生に取り組む地方を応援することを目的とする ⑴ 政策目的 ⑵ 施策の必要性 少子高齢化に歯止めをかけ 地域の人口減少と地域経済の縮小を克服するため 国及び地方公共団体は まち

11

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数


企業活動のグローバル化に伴う外貨調達手段の多様化に係る課題

財政投融資 財政投融資とは 租税ではなく 有償資金 すなわち金利を付して返済しなければならない資金を用いて 民間では困難な大規模 超長期プロジェクトを実施したり 民間金融では困難な長期資金を供給したりすることにより 財政政策のなかで有償資金の活用が適切な政策分野に効率的 効果的に対応する仕組みです

Microsoft Word - 19 ‚¾Šz”©fi®”Ô.doc

により 都市の魅力や付加価値の向上を図り もって持続可能なグローバル都 市形成に寄与することを目的とする活動を 総合的 戦略的に展開すること とする (2) シティマネジメントの目標とする姿中野駅周辺や西武新宿線沿線のまちづくりという将来に向けた大規模プロジェクトの推進 並びに産業振興 都市観光 地

我が国中小企業の課題と対応策

スライド 1

未来投資戦略2018(PFI関連部分抜粋)

平成30年度事業計画書(みだし:HP用)

アジア健康構想の推進に向けた提言

2 ( 178 9)

281


欠であり 運輸交通分野を中心に膨大なインフラ投資が必要になると見込まれる これらのインフラ整備にあたっては 案件ごとにマスタープランから工事まで段階を踏んで検討 建設が進められるが 対象地の地形などを確認 把握するため 検討段階に応じた精度の地図が必要となる 現在 同国では基本的な測地基準点網が整備

我が国不動産市場の国際化に関する施策について 土地 建設産業局国際課 平成 27 年 12 月 Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

インフラ輸出を支援する公的金融


CHIBA KOGYO BANK REPORT Contents Profile 01 CHIBA KOGYO BANK REPORT 2016

ダイバーシティ100選目次.indd

Microsoft Word - 02_21 衛星通信車調達仕様書

CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査結果《概要版》

知創の杜 2016 vol.10

<4D F736F F F696E74202D E291AB8E9197BF A F82CC8A A390698DF42E707074>

平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題

広島市障害者計画 2013 ー 2017 平成 25 年 3 月 広島市


平成23年度都市・土地・PFI税制改正に対する要望

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

[グループⅠ]公募仕様書案

また 関係省庁等においては 今般の措置も踏まえ 本スキームを前提とした以下のような制度を構築する予定である - 政府系金融機関による 災害対応型劣後ローン の供給 ( 三次補正 ) 政府系金融機関が 旧債務の負担等により新規融資を受けることが困難な被災中小企業に対して 資本性借入金 の条件に合致した

Taro jtd

資料 1-4 放送コンテンツの海外展開 平成 2 6 年 8 月総務省情報流通行政局

平成 31 事業年度 自平成 31 年 4 月 1 日 (2019 年 4 月 1 日 ) 至平成 32 年 3 月 31 日 (2020 年 3 月 31 日 ) 第 15 期 事業計画 ( 案 ) 本州四国連絡高速道路株式会社 - 0 -

Transcription:

特 集 交通インフラシステムの海外展開について 国土交通省総合政策局国際政策課長 おおたか 大髙 ごうた豪太 1. はじめに最近 東京の地下鉄 山手線などの近郊電車の中で スーツケースやお土産の袋を持った外国人観光客を見掛けることが多い 円安の進行や IT 機器の発達がハードルを下げているということも一つの要因だろうが 日本 を訪れる海外の観光客が 言葉のハンディをクリアして 東京だけではなくさらに遠く 長野県の山奥の温泉 北海道のスキー場といったところにまで気軽に出掛けるケースも多く見られるようになった 安全 安心で正確な運行を誇るわが国の公共交通システムがこのような事象の一翼を担っていることは 間違いないだろう また海外からの玄関口である国際空港は 他の先進国と比べても 非常に清潔であり 荷物のハンドリングも丁寧かつ正確であり ショッピングエリアも含めて 便利で快適なサービスを提供していると言ってもよいのではないだろうか このように わが国では当たり前である 便利で質の高い 公共交通サービスは そのインフラをつくるメーカーの製品自体の優秀性は言うまでもなく それを運営する民間事業者が一緒につくり上げているシステムである 昨今 このようなわが国の優れたイン フラシステムおよびサービスについて 積極 的かつ早急に世界に展開していくことが 以下の点で喫緊の課題となっている 第一に わが国は 世界に先駆けて 少子高齢化や国内市場の縮小などの課題に直面している一方で 世界のインフラ市場は アジアをはじめとする新興国の急速な都市化と経済成長により 今後 膨大な需要の拡大が見込まれている ( 注 ) わが国のインフラ関連産業が その旺盛な需要を取り込んで わが国の中期的な経済成長につなげることが極めて重要である また いくら優れたインフラシステム サービスであっても 国内で伸びる余地が限られてくれば 海外での現場で磨かれてこそ その技術サービスレベルの維持 さらなる改良 発展が見込まれる 第二に 製造業をはじめとするわが国の主要産業の企業が既に海外に大きく展開している中で 現地の交通インフラを整備 - 例えば物流のネットワークを整備 -することは 幅広いサプライチェーンを必要とする製造業の進出の土台を支え 側面支援することとなる また 製造業だけでなく わが国の生鮮食料品の冷蔵サービス等 新たな日本のサービス業自体の海外進出の可能性も出てきており 2015 年 3 月号 No.734 7

特集 ひえき国内のサービス業 農林水産業に裨益する ことも考えられる 第三に インフラは現地のものであり 最 終的には 現地の文化に根付いた現地の人による運営サービスが行われる 日々利用する交通機関において 日本のシステム サービスの導入により より快適なサービスが提供されるようになれば 中長期にわたって 日本ブランドのイメージをさらに高める効果も期待できる 本稿では 政府としても インフラ海外展開を成長戦略の重要な一つとして位置付ける中で 国土交通省としても 昨今 拡大しつつある PPP 事業にも官民連携して対応できるよう 官民ファンドである JOIN を設立するなど 積極的に動いているところであり その施策を中心に 昨今の動きについて 簡潔に述べてみたい ( 注 ) 経済協力開発機構 (OECD) の報告によると 交通インフラの整備需要は 現在の年平均 38 兆円が 2015-30 年には 5 割以上増加して年平均 59 兆円に上ると予想 また 地域別の戦略として ASEAN を 絶対に負けられない市場 と位置付け FULL 進出 がキーワードとなっている他 わが国企業の進出が相対的に遅れている 南西アジア 中東 ロシア CIS 中南米諸国 でも 重要案件の受注を勝ち取るべく 集中的に取り組むこととしている さらに進出が出遅れている アフリカ諸国 においても ODA とも連携して 一つでも多くの成功事例 を生み出すことが方針とされている このようにあらゆる施策を動員するとされた上記戦略であるが これまでの安倍総理の外遊実績が示しているように その頻度 地域的広がり 企業トップの同行といった点で これまで例を見ないレベルでトップセールスが行われている まさに総理をトップとして 政府一丸となって インフラの海外展開が推進されているところである 3. 国土交通省における交通インフラシステム の海外展開の考え方 2. 政府全体の動き政府においては 平成 25 年 3 月 官房長官を議長とし 関係大臣から構成される 経協インフラ戦略会議 を設置 同年 6 月に 日本再興戦略 を閣議決定するとともに 同戦略と一体となる文書として インフラシステム輸出戦略 をとりまとめた 上記戦略は 官民一体 でインフラ輸出に取り組むよう明記するとともに 2020 年におけるわが国企業のインフラ関係受注額を約 30 兆円 ( 現状約 10 兆円 ) とすることを目指している このような政府全体の方針に基づき 交通を所管する国土交通省においては 次の三つを柱として 交通インフラの海外展開を強力に推進している 1トップセールスや案件形成等の推進 情報発信の強化等 川上 からの参画 情報発信 2わが国の技術 基準の国際標準化や相手国でのスタンダード化を通じた ソフトインフラの展開 3インフラ輸出 海外展開に取り組む企業の支援 8 日本貿易会月報

交通インフラシステムの海外展開について 具体的には わが国の技術の高い安全性 信頼性や費用対効果の優位性等について相手国の理解を深めるべく 大臣等政務によるトップセールスや要人の来日表敬対応 セミナー等を 官民一体となって実施している また構想段階から相手国側のニーズを把握しながら案件形成に取り組むなど 川上からの参画を図っている 例えば 太田国土交通大臣は ASEAN 10 ヵ国については 民間企業の幹部と共に 既に 7 ヵ国を訪問するなど トップセールスを精力的に実施し 実際の成果につながったケースも出始めている 国土交通副大臣 大臣政務官も アフリカのケニアでのモンバサ港 周辺道路開発事業へのトップセールスや インドでの高速鉄道セミナー主催など インフラ受注の可能性がある地域を重点的に訪問している さらに 各国の大臣 副大臣などの来日や国際会議の場も活用して 頻繁に何度も会議することにより大臣等リーダー間の親交 信頼関係を深めつつある また 国際標準化に関しては 国際規格の制定に向けた議論に積極的に参画することにより わが国規格を海外のインフラ整備 運営に反映させる他 相手国におけるわが国規格 標準のデファクト スタンダード化を進め わが国企業の進出 受注に向けて有利な環境整備を進めているところである しかしながら 世界各地のインフラ受注をしれつめぐる競争がますます熾烈になりつつあることから 本分野のわが国企業の支援をさらに強化するため 2014 年 10 月 国土交通省は 新たな政府出資機関である 海外交通 都市開発事業支援機構 ( 以下 JOIN という) を設立した 4. JOIN について ⑴ JOINの設立背景これまで先進国などの海外市場においては わが国のインフラ機器メーカーが その製品の優位性を前面に出して海外進出を果たしてきている 他方 新興国においては 急速な都市化と経済成長によりインフラ需要が急速に拡大し 現地政府の資金 不足やインフラ運営の経験不足が課題となってきている このため 新興国を中心に 民間の資金や運営ノウハウを活用した PPP 型事業 ( 事業権を付与して経験豊富な民間企業に事業運営を任せる形態 ) が急速に増えてきている また 中国や韓国など新興国のメーカーの製品等の競争力が向上してきたことや VEOLIA など欧州のインフラ運営企業がアジアを含め新興国へ積極的に進出していることなど 新興国のインフラをめぐる厳しい国際競争が繰り広げられている このような状況の下で わが国の強みである 機器システムの信頼性といったハード面だけでなく 安全かつ快適な運行サービスの提供といったソフト面に関してもアピール するため これまでのプレーヤー ( 商社 製造 建設業者 ) と共に わが国のインフラ運営事業者も一体となって 海外に進出していくことが強く求められている しかしながら 出資等を通じて民間企業が PPP 型事業に参画するに当たっては こ 2015 年 3 月号 No.734 9

特集 の分野特有のリスクがあることが大きな壁となっている つまり 巨額かつ長期にわたる投資リスク また 交通に特有の需要リスク ( 利用者の予測が困難 ) さらに突然のルール変更など相手国政府に由来する政治的リスク等である こうした状況を打破するため 2014 年 10 月 交通 都市関係の幅広い分野のインフラ事業者 商社 金融機関等の協力の下 出資 と 事業参画 を一体的に行う新たな官民ファンド JOIN が設立された ⑵ JOINの業務内容 JOIN は 主として以下の支援を行う 1 出資日本企業が海外で事業運営を行う現地事業体を設立する場合等に JOIN は これら関係企業と共同して出資する 2 事業参画 JOIN は 出資先の現地事業体に対して 日本の技術や経験を活かすため 必要に応じて役員 技術者等の人材派遣等により 事業参画を行う また 関係企業と連携して人材育成を行う等により事業体の能力を向上させる 3 相手国側との交渉共同出資者の中において 日本政府の出資機関として相手国等と交渉する ⑶ 支援事業の対象範囲 JOIN の支援対象は 鉄道 道路 物流 船舶 海洋開発 港湾 空港 都市 住宅開発などの幅広い分野にわたり それらの事業を支援する事業も含まれる 地域の制約要件はなく ブラウンフィールド ( 既存 ) の案件も支援対象となる ⑷ 予算政府の予算として 平成 26 年度財政投融資計画で 585 億円を計上 平成 27 年度についても 372 億円の予算が計上された 今後プロジェクトの進展に応じ 産業投資から JOIN に対し 追加的な出資が行われる なお この他 政府保証 ( 長期 ) として 26 年度は 510 億円 27 年度は 340 億円が計上されており 必要に応じて JOIN が政府保証債を発行して 民間セクターから資金調達を行うことができる ⑸ 支援決定までのプロセス法律上 JOIN は支援決定の際 国が定めた支援基準 ( 国土交通大臣告示 ) に従うことになっている そのポイントは 1わが国に蓄積された知識 技術および経験が活用され わが国企業の海外市場参入促進につながること 2 民業補完性に配慮し 民間企業と連携 調整して出資等の資金供給がなされること 3 適切な分散投資を行い 長期的な収益性を確保することであり これらを含む支援基準に従って JOIN の内部で具体的な検討を行い 支援決定を行う なお 決定の前に国土交通大臣の認可が必要となる ⑹ JOIN の活用今後 JOIN の積極的な活用が求められるが それに当たっては 世界の先行事例 10 日本貿易会月報

交通インフラシステムの海外展開について を参考にすることも重要であると思われる 例えば 経験の浅い分野においては 先行企業との共同運営 現地事業の買収などを通じて わが国企業が経験 ノウハウを蓄積し 徐々にプロジェクトのコア部分を請け負うのを狙う等 段階的な進出も将来の大規模案件のわが国受注の獲得へのステップとして捉えるべきである また 今般の JOIN の設立は わが国の公的なファイナンス面の強化であるが その効果を最大限に生かすためにも JOIN は JICA JBIC NEXI などの既存の公的金融と緊密に連携し 例えば 複数の公的金融のパッケージの提示を考えるなど 日本全体としての競争力を強化していくことを念頭に置く必要がある 5. 今後の国際展開の方向性についてわが国は 交通分野で 安全で定時性を確保しつつ大量 高頻度の輸送を可能とする旅客鉄道の運営ノウハウ 世界に誇る長大橋 トンネル整備等の経験など 優れた技術ノウハウを有する 例えば 日本の大都市圏における郊外開発を伴った鉄道事業は 民間企業によって極めて効率的に運営されており 人口の多いアジアにおける都市の渋滞問題 環境問題において極めて有効な解決策となり得る 一方で 高い技術 サービスというだけで相手国に受け入れられるわけでないことは 言うまでもない 特に中国や韓国といった競合国と比較するとわが国は価格競争力が不十分とされており どう対応すべきだろうか インフラはあくまで現地のニーズに基づくもので その受注のためには それぞれの国 の発展段階や課題等の国内事情を踏まえて いかにきめ細かく対応 できるかが鍵である その上で 高い技術力 サービス だけでなく ライフサイクルコストの低さ 地元の雇用や経済への寄与 人材の育成 環境配慮 といった点をアピールし 信頼関係を構築し 相手国にとって真に資するインフラを共同で整備していくことが重要ではないだろうか こういった情勢の中 2014 年 11 月 安倍総理は APEC の閣僚会議 ASEAN 首脳会議や G20 において 質の高いインフラ整備 と強固で持続可能な経済成長の実現が 日本のインフラ整備支援に関するアプローチである旨言及した 質の高いインフラ とは 耐久性 信頼性 ライフサイクルコスト等に優れ 環境社会に配慮した技術システムであり そのシステムが長期にわたって運営されていくため 技術移転や人材育成を重視するということを目指している 今後 国際機関等との連携 国際会議での議論等を通じて 世界的な動きに結び付けていくことが必要である 国土交通省においても 2012 年以降 日 ASEAN 交通大臣会合および APEC 交通大臣会合において より安全安心で より環境に優しく 利用者利便の高い交通を目指し 質の高い交通 を提唱し推進してきたところである 引き続き このような取り組みを通じて わが国の交通関連産業の国際競争力強化や海外プロジェクトへの参入機会の拡大を図るとともに 海外において真に必要とされ 真に役立つインフラシステムの構築 JF に貢献してまいりたい TC 2015 年 3 月号 No.734 11