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Transcription:

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1. 傷病の確定 患者を治療する上で最も重要な点は 診断 であると思います 日頃の業務で腰痛患者の占める割合が非常に多い私達の業務の中で 簡単にぎっくり腰や腰椎椎間板ヘルニアなど頻度の高い疾患に診断し治療に走ってしまう事は大きな落とし穴ではないでしょうか 解剖学 生理学に基づいた根拠のある診断こそが治療の第一歩です 全てはそこから始まります 診断の第一は 詳細な問診 固定観念を除外した謙虚な気持ちで患者の訴えを聞き 症状から導き出される傷病をピックアップします 視診 触診で確認絞込みを行い徒手検査や計測によって証明をします 他科疾患 詐病など特に重篤な疾患由来の腰痛が疑われる場合 速やかに専門医への紹介が必要となります 医科の様な画像診断 電気診断 生化学検査 血液学検査など 私達にはありませんので 如何に多くの傷病 症状 ( トリアス ) を知っているか 徒手検査法を知っているかが重要になってきます 徒手検査法 SLR テスト Straight Leg Raising Test [ 図 1] 背臥位 ( 仰臥位 ) にて膝関節伸展位で下肢をゆっくり挙上 90 度または痛みが現れる位置まで挙上する 理論的根拠 : 局所痛は椎間板損傷 放散痛は坐骨神経根症を示唆する 大腿後面の鈍い痛みは膝関節屈筋の緊張を表す ラセーグテスト ブラガードテストも行うこと ラセーグテスト Lasegue s test [ 図 2] 背臥位 ( 仰臥位 ) にて膝関節と股関節を屈曲させておき そのままで膝関節のみ伸展させる 理論的根拠 : 股関節 膝関節屈曲時に痛みがなく伸展時に痛みがあれば陽性 膝曲り兆候 Buckling Sign [ 図 3] SLRにて挙上時膝が曲がってしまう 理論的根拠 : 坐骨神経を牽引する事になる 坐骨神経根症の患者は 増強した坐骨神経痛を和らげるため膝を曲げてしまう 2

ブラガードテスト Bragard s Test [ 図 4] 背臥位にて痛みが現れる位置まで挙上 それより5 下げて足関節を背屈する 理論的根拠 : 足関節背屈は 坐骨神経を牽引することになり 大腿後面と下肢のどちらか または両方に痛みがある時は坐骨神経根症を示唆する シカールテスト Sicard s test [ 図 5] ブラガードテストと同様で足関節ではなく拇趾を背屈する 理論的根拠 : ブラガードテストと同様である チュリンテスト Turyn s Test [ 図 6] 背臥位にて足の拇趾を背屈する 理論的根拠 : 臀部の痛みと放散痛のどちらか または両方がある時は坐骨神経根症を示唆する フェジェルツタインテスト Fajersztajn s Test [ 図 7] 背臥位にて 健側を75 度か 痛みが現れる位置まで 挙上し 足関節を背屈する 理論的根拠 : 患側に放散痛が起これば 椎間板損傷の疑いがある ベヒテルテスト Bechterew s Test [ 図 8] 診察台の横に座位にて下肢下垂 片方ずつ膝関節を伸展させる 陽性結果が出ない場合は 両方同時に伸展させる 理論的根拠 : 痛みの為 このテストが出来ない時や 後方に体幹をそらして挙げる時は 椎間板脱出に良くみられるような 椎間板損傷を示唆する 3

マイナー徴候 Minor s Sign [ 図 9] 腰掛座位から立ち上がるよう指示 理論的根拠 : 坐骨神経根症の患者は 患側肢を屈曲したままで健側肢で体を起こそうとする 図 9はの患者は右下肢に坐骨神経根症の痛みが存在することを表している ボウストリング徴候 Bowstring Sign [ 図 10] 背臥位にて 足を検者の肩に乗せ膝屈曲筋を両母指でギュッと圧迫 痛みが無ければ膝窩に移って同様に圧迫 理論的根拠 : 腰部の痛みや神経根症は神経コンが圧迫されている徴候である ケンプテスト Kemp s Test[ 図 11] 腰掛座位もしくは立位で 斜め後ろに腰椎を倒して曲げさせる 理論的根拠 : 腰椎椎間板ヘルニアの検査である 下肢への放散痛など神経根症を伴った曲げた側の痛みは椎間板外側部の損傷を 伸ばした側の痛みは椎間板内側部の損傷を示唆する リンドナー徴候 Lindner s Sign [ 図 12] 背臥位にて 患者の後頭部を持上げるようにして頸部を屈曲する 理論的根拠 : 坐骨神経痛の再現は陽性所見となり坐骨神経根症を示唆する また 鋭い痛みは髄膜刺激症状を意味する バルサルバ検査 Valsalva s Maneuver [ 図 13] 腰掛座位で患者に排便時のように力ませる 理論的根拠 : 局所痛は占拠性病変 ( 椎間板ヘルニア 腫瘍 骨棘等 ) を表す デジェリン三徴候 Dejerine s Triad 背臥位にて 3 つの動作を指示する 排便時の力み くしゃみ 咳である 理論的根拠 : 腰部の局所痛は占拠性病変によって髄内圧が上昇していることを示唆する 4

ミリグラムテスト Milgram s Test [ 図 14] 背臥位にて 膝を伸ばして下肢を診察台より5から 7センチ上げさせる 理論的根拠 : 正常で在れば30 秒間は腰痛を起こさず持続可能である 痛みがあれば脊柱管内もしくは外の占拠性病変の疑いがある 通常椎間板ヘルニアの症例には陽性となる ナフツィガーテスト Naffziger s Test [ 図 15] 腰掛座位にて 頚静脈を圧迫する 静脈の位置は 気管軟骨から約 2,5センチ横である 1 分間圧迫を続ける 理論的根拠 : 形状脈の圧迫により 髄内圧上昇が起きる 腰部位の局所痛は通常 椎間板ヘルニア 占拠性病変があることを示す VAS(Visual analogue scale) 痛みの測定法として患者に痛みの程度を ( 想像できる ) 最大の痛みを 10, 痛みなし を 0 として指でさしてもらって記録する 問題点個々の患者によって痛みの感じ方が異なるので比較は困難であるが, 一患者の治療前後の痛みの程度は良く反映する 当院では負傷日の痛み ( 最初の痛み ) を10として評価 医科への紹介の際 徒手検査の結果を記載することが重要です また 経過報告に評 価を記載することも大切です 5

ゴルドスウェートテスト Goldthwaith s Test [ 図 17] 背臥位にて一方の手を腰椎の下へあてがう 各々の手を棘突起間に差し当て もう一方の手でSLRテストを行い 痛みが起こるのが棘突起が開き始める前か 後かを良く感じ取る 理論的根拠 : 棘突起が開く前に痛みが起これば仙腸関節損傷を意味する 開いていくにつれての痛みは腰椎損傷である 放散痛は坐骨神経根症があり股関節屈曲と損傷位置の関係は次のようになる 0~30 度 : 仙腸骨部 30~60 度 : 腰仙骨部 60~90 度 :L1~L4の椎間板損傷を示唆する 支持前屈テスト Supported Forward Bending Test [ 図 18] 立位にて前屈を指示する 次に 腰で患者の坐骨を固定し調骨を手で補佐しながら再度前屈を指示する 理論的根拠 : 腰椎の損傷は どちらの場合も痛みを引き起こすが 仙腸骨部損傷は骨盤を固定しない時のみに起きる ナクラステスト Nachlas Test [ 図 19] 復臥位にて患者の踵を同じ側の臀部に近づける 理論的根拠 : 臀部の痛みは仙腸関節の損傷を 腰椎部位の痛みは 腰椎椎間板損傷を示唆する 注 : 大腿前部の痛みは大腿四頭筋が張っている為である イヨーマンテスト Yeoman s Test [ 図 20] 復臥位にて 膝を屈曲させたままで大腿を持上げる 理論的根拠 : 深部の仙腸関節部痛は 前仙腸靭帯の捻挫を表す 仙腸関節ストレッチテスト Sacroiliac Stretch Test [ 図 21] 背臥位にて 検者は腕を交差して患者の腸骨の上前腸骨棘を下と横方向に押す 理論的根拠 : 片側の深い痛みは その側に前仙腸靭帯の捻挫があることを表す 6

仙腸関節外転抵抗テスト Sacroiliac Resisted Abduction Test [ 図 22] 側臥位にて 下側の膝を屈曲させる 上側の膝はまっすぐ伸ばし外転させ このとき上から圧力をかけ 患者に抵抗させる 理論的根拠 : 仙腸関節の痛みは 上側の仙腸関節捻挫である ヒップテスト Hibb s Test [ 図 23] 復臥位にて 膝を屈曲させ それを外側へ押し広げる 理論的根拠 : この手技は 股関節の内旋をすることになる 仙腸関節が痛いときはその部の障害を 股関節の痛みはその部の障害を意味する 骨盤不安定性テスト Pelvic Rock Test [ 図 24] 側臥位にて腸骨を下方に強く押し圧迫する 両側とも行う 理論的根拠 : 仙腸関節の痛みはその側の障害を示唆する ルイン ゲンスレンテスト Lewin-Gaenslen s Test [ 図 25] 側臥位にて 下側の膝を屈曲させ 一方の手で仙腸関節を固定し上側の足を伸展する 理論的根拠 : 仙腸関節の痛みは その関節や周囲の障害を示唆する 注 : 背臥位で行うゲレンテスト ( 図 26) と同じ意味を持つ ゲンスレンテスト Gaenslen s Test [ 図 26] 患側が診察台の端に来るように背臥位にて 患者に健側の膝を胸に近づけさせる 次に患側の大腿を診察台へ押し付けて伸展させる 理論的根拠 : 仙腸関節の痛みは その関節と周囲の障害を示唆する 7

2. 腰痛の原因と鑑別診断 1 脊椎疾患 : 骨折 脱臼 脊椎すべり症 骨多孔症 急性脊椎炎 脊椎カリエス 変形性脊椎症 原発 転移性腫瘍 2 脊椎 神経疾患 : 脊髄炎 脊髄膜炎 脊髄腫瘍 脊髄癆 神経根炎 単発 多発性神経炎 帯状疱疹 外傷性脊髄損傷 3 関節 椎間板疾患 : 強直性脊椎炎 椎間板ヘルニア 4 筋 筋膜 靭帯疾患 : 捻挫 裂傷 結合織炎 多発性筋炎 SLE, 多発性動脈炎 RA. 5 内臓疾患 : 虫垂炎 胆石症 急性肝炎の初期 十二指腸潰瘍 急性膵炎 尿路結石 尿路感染症 婦人科疾患 3. 主要症候と病態生理 1. 急性腰痛 1 腰椎捻挫ぎっくり腰とも呼ばれ 欧米では 魔女の一撃 とも称される 病態 : 筋 靭帯 関節の損傷 椎間板線維輪の断裂 椎間関節内への滑膜の嵌入 症候 : 急激な激しい痛み 疼痛による脱力以外神経学所見は正常 2 腰椎椎間板ヘルニア病態 : 線維輪に亀裂が入り 髄核 ( 及び線維輪 終板軟骨の一部 ) が後方又は後側方に脱出 症候 : 腰痛と片側の下肢痛 疼痛性跛行 疼痛性側弯 深部腱反射の低下 特徴として急性の場合は強い腰痛で発症し1~2 日経つと腰痛が軽快し 変わって圧迫された神経根の支配領域に放散する下肢痛と痺れが主体となる 3 腰椎圧迫骨折リスクファクター : 女性 閉経 痩せ 喫煙骨粗鬆症による圧迫骨折が多い 癌の転移 膠原病や腎疾患などのステロイド使用者も起こし易い 2. 慢性腰痛慢性腰痛は急性腰痛が慢性化したものと軽微な鈍痛が徐々にはじまり慢性化したものとある 1 椎間板変性症病態 : 加齢 軽微な外傷の反復によりゾル上の髄核が水分を失ってゲル化し 圧力の均等な分散が出来なくなり繊維輪も変性 亀裂をきたす 2 変形性脊椎症病態 : 椎骨の骨増殖性変化 骨棘形成 側弯 後弯変形による疼痛 3 骨粗鬆症病態 : リモデリングでの吸収率と形成率のバランスが負のため 症候 : 易骨折 易疲労性 腰背部重感 4 腰部脊柱管狭窄症病態 : 骨 軟骨 黄色靭帯など軟部組織による狭窄 症候 : 間欠性跛行 馬尾性と神経根性がある 血管性の間欠性跛行と鑑別が必要 8

5 脊椎分離症病態 : 腰椎椎弓を構成する上 下関節突起の間の関節突起間部の連続性が断たれた状態 腰椎の強い伸展屈曲による荷重が関節突起間部に繰り返し加わって生じるストレス骨折 6 脊椎すべり症病態 : 一つの椎骨が直下の椎骨に対し前方へ滑った状態の総称 * 先天的な形成異常に基づいて起こるL5 椎の高度なすべり症 症候 : 腰痛と大腿後面の痛み 後弯変形と代償性の腰椎前弯増強姿勢 * 脊椎分離を伴う分離性脊椎すべり症 症候 : 腰痛 腰椎前弯増強 労作で腰がずれるような不安感と憎悪 安静で緩快 大腿後面に重圧感 放散性の下肢痛は生じない * 椎間板 椎間関節など可動部分の変性による変性すべり症 症候 : 狭窄がなければ分離性と同様 狭窄があれば脊柱管狭窄症の症状 * 外傷性脊椎すべり症 * 悪性腫瘍や感染など骨破壊による病的脊椎すべり症 3. 脊柱機構の慢性疲労と加齢変化脊椎 椎間板 靭帯 筋などから構成される脊柱機構の疲労の蓄積と経年的変化 1 腰椎の加齢変化椎骨の骨粗鬆化と骨増殖性変化 椎間板変性 脊柱靭帯の変化 2 姿勢の変化腰部伸筋萎縮 椎間板変性 骨粗鬆化 圧迫骨折が加齢とともに進み腰椎前弯減少 平背 後弯となり不良姿勢が形成される ( 腰痛が高頻度で起こる ) 参考文献 * 橋本信也 丸山雄二編集 医学 医療総論 Ⅳ 主要症候とその病態生理 医歯薬出版株式会社 * ジョセフJシプリアーノ著 斉藤明義監修 渡辺一夫訳 写真で学ぶ整形外科テスト法 医道の日本社 * 飯塚正他著 疾患別治療大百科 シリーズ1 腰痛 医道の日本社 * 寺山和雄 辻陽雄監修 石井清一 平澤泰介 鳥巣岳彦 国分正一編集 標準整形外科学第 7 版 医学書院 9