リグラフ検査による前夜の睡眠の客観的評価を行う また睡眠ポリグラフ検査時の入眠後 15 分以内にみられる REM 睡眠 (sleep onset REM period: SOREMP) は診断上重要な指標となる 睡眠を妨げる可能性のある睡眠時無呼吸 周期性四肢運動障害 てんかん発作などの同定とその影

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手技, 各種イベントの定義, 判定基準は AASM のマニュアル version 2.1, 各種疾患の診断 基準の多くは ICSD-3 に従って記載されている. 本書は, 英文サブタイトルが Clinical Evaluation of Sleep Disorders とあるとおり, 各種の睡眠障害

または Type 3 PM を用いる 脳波記録の誘導数が睡眠ポリグラフ検査と同等であっても 検査室外で非監視下 ( アテンドなし ) に行う場合は Type 2 PM 検査とし アテンドによる睡眠ポリグラフ検査 (Type 1) とは区別する Type 3 PM では気流 呼吸努力 酸素飽和度の連続

日本内科学会雑誌第103巻第8号

章 a 図 b 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 uvulopalatopharyngoplasty UPPP a 術前 b 術後 睡眠障害 睡眠呼吸障害クリニックの つではないかと思われる 当初多かった不眠症にかわって 睡眠呼吸障害が漸増し 耳鼻咽喉科などと連携し 病因の解明や治療法に向けた研究がスタートし

虎ノ門医学セミナー


第六部 その他の検査 第3章 野田 睡眠検査 明子 1) 宮田 聖子 2) 1) 中部大学大学院生命健康科学研究科 ) 名古屋大学大学院医学系研究科睡眠医学寄附講座 要 愛知県春日井市松本町 1200 旨 睡眠障害 睡眠不足は認知症のリスクファクターであり 認知症の発症 重症化の



3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

P01-16

発表雑誌 PLOS ONE 論文名 Association between oor glycemic control, imaired slee quality, and increased arterial thickening in tye 2 diabetic atients 2 型糖尿病患者

総 説 我が国における睡眠ポリグラフ検査 PSG の現状 八木 朝子 1) 1) 太田総合病院記念研究所附属診療所 要 太田睡眠科学センター 神奈川県川崎市川崎区日進町 1 サンスクエア川崎 7 号棟 2F 旨 睡眠ポリグラフ検査 PSG とは 脳波 顎筋電図 眼球運動 気流 呼吸

居眠り事故を未然に防止するための睡眠・覚醒管理技術の開発

第二問 : 睡眠障害 ( 不眠症 ) の種類は大きく分けて 入眠障害 中途覚醒 熟眠障害 早朝覚醒 の四つがあります それぞれの種類についてどのような症状であるか それぞれの図を参考に説明 してください 入眠障害 床についてもなかなか寝付けない症状が入眠障害である 日常的に 1 時間以上眠れずに苦痛


aeeg 入門 この項は以下のウェブサイトより翻訳 作成しています by Denis Azzopardi aeeg モニターについて Olympic CFM

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DSM A A A 1 1 A A p A A A A A 15 64

こうしたことから 特発性 RBD は存在せず 潜在性 RBD とよぶべきであるという主張もみられる 2) 続発性 RBD は基礎疾患に RBD の併発した病態である 基礎疾患としては神経変性疾患 脳幹腫瘍 聴神経腫瘍 ナルコレプシー アルコール 薬剤などが関係している 特に神経変性疾患として syn


ADHD と過眠症の新たな指標の解析 脳波定量解析からみる ADHD と過眠症の関係 伊東若子 1) 本多真 1)2) 1) 成澤元 1) 神経研究所附属晴和病院 2) 東京都医学総合研究所 < 要旨 > 注意欠如多動性障害 (ADHD) は 夜間の睡眠の問題が多く 眠気も強いとされている さらに


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もちろん単独では診断も除外も難しいが それ以外の所見はさらに感度も特異度も落ちる 所見では鼓膜の混濁 (adjusted LR, 34; 95% confidence interval [CI], 28-42) や明らかな発赤 (adjusted LR, 8.4; 95% CI, ) が

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

日本睡眠学会の学会認定に関する規約

ROCKY NOTE 心不全患者 (+ チェーンストークス呼吸を伴う閉塞性睡眠時無呼吸 ) に対する ASV(adaptive servo-ventilation) の効果 (110406) 心不全 + 睡眠時

Aripiprazole の睡眠短縮効果 特集 / シンポジウム 7: 日内リズムによる問題症状とその対応 1 夜間睡眠の延長と睡眠相後退症候群に対する aripiprazole の有効性の検討 * 神林崇 **, *** 大森佑貴 ** 今西彩 ** 高木学 **** 佐川洋平 ** 筒井幸 **

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Contents 01 睡眠とは何か? 03 青年期 大学生 大学院生の睡眠 05 睡眠障害について 06 睡眠の改善に向けたアプローチ 08 睡眠障害の薬物療法 09 おわりに 保健のしおり vol.42

幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

賀茂精神医療センターにおける精神科臨床研修プログラム 1. 研修の理念当院の理念である 共に生きる 社会の実現を目指す に則り 本来あるべき精神医療とは何かを 共に考えて実践していくことを最大の目標とする 将来いずれの診療科に進むことになっても リエゾン精神医学が普及した今日においては 精神疾患 症


Transcription:

エキスパートコンセンサス 3(EC3) 睡眠呼吸障害以外の睡眠障害における睡眠ポリグラフ検査 1. 睡眠ポリグラフ検査の位置づけ睡眠ポリグラフ検査は OSAS などの睡眠呼吸障害と同様に 睡眠および夜間の行動異常に対する臨床診断および治療効果判定におけるゴールドスタンダード ( 標準 ) 検査である 2. 睡眠ポリグラフ検査の定義睡眠ポリグラフ検査の定義と仕様は エキスパートコンセンサス 1 と同様であるが 睡眠関連てんかん 睡眠時随伴症に対する睡眠ポリグラフ検査では アテンドによる慎重なモニター中の安全管理対策が必要である 3. 睡眠ポリグラフ検査が必要な疾患 a. 不眠症 ( insomnia) 1 目的 : 不眠症において自覚的評価と他覚的評価との間に大きな乖離を認めることが多く 2 ),3) 睡眠覚醒リズム表 ( 睡眠日誌 ) などの自己記入式調査票に加え睡眠ポリグラフ検査を行う またうつ病および他の精神障害 ( 不安障害 統合失調症など ) に伴う不眠の場合 睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害 レストレスレッグス症候群などの関与を鑑別するために睡眠ポリグラフ検査を施行する 4,5,6, 7,8 ) 2 検査 : オプションとしてビデオ監視記録 下肢運動記録を追加し 睡眠ポリグラフ検査中の精神症状の変化への対応のためアテンドにて施行する 3 予想される検査結果 : 客観的睡眠の持続や質の低下 ( 睡眠潜時の延長 総睡眠時間の短縮 睡眠効率の低下 中途覚醒回数の減少 中途覚醒時間の延長 ) b. 中枢性過眠障害 ( central disorder of hypersomnolence; ナルコレプシー, 特発性過眠症 ) 1 目的 : 日中の眠気を評価するためには反復睡眠潜時検査 ( multiple sleep latency test;mslt) が必要となるが 日中の眠気は測定前夜の睡眠内容 ( 時間や質 ) が大いに関与するため 睡眠が十分にとれているかどうか 睡眠ポ 1

リグラフ検査による前夜の睡眠の客観的評価を行う また睡眠ポリグラフ検査時の入眠後 15 分以内にみられる REM 睡眠 (sleep onset REM period: SOREMP) は診断上重要な指標となる 睡眠を妨げる可能性のある睡眠時無呼吸 周期性四肢運動障害 てんかん発作などの同定とその影響の評価が必須である 2 検査 :MSLT 施行の前夜に睡眠ポリグラフ検査を行い 6 時間以上の睡眠時間が確保されていることを確認する 翌日の昼間に反復睡眠潜時検査 (MSLT) を 2 時間おきに 4 5 回 ( 各 2 0 分 ) 施行する 2) 3 予想される結果 : 睡眠ポリグラフ検査において 入眠時間の短縮 SOREMP 中途覚醒回数の増加 徐波睡眠時間の低下を認める 翌日の MSLT 検査により 平均入眠潜時が 8 分以下かつ 2 回以上の SOREMP が認められれば ナルコレプシーと診断される ( ナルコレプシーのガイドラインン HP 参照 ) c. 概日リズム睡眠覚醒障害 ( circadian rhythm sleep-wake disorders) 1 目的 : 概日リズム睡眠覚醒障害の診断 2) にはアクチグラムや睡眠日誌 メ ラトニン濃度測定などのほか 睡眠覚醒リズムの客観的評価を行うため睡眠ポリグラフ検査を施行する 2 検査 : 測定時間は 24 時間から 48 時間行う 3 予想される結果 : 睡眠時刻は夜間帯から外れているものの ほぼ正常範囲の睡眠時間 内容の睡眠を認める 他の睡眠障害の合併の有無 d. 睡眠時随伴症 ( parasomnias; 夢中遊行 レム睡眠行動障害など ) 1 目的 : 睡眠時随伴症には夜間の行動異常が生じた睡眠段階により ノンレム期に関連するもの ( 夢中遊行や睡眠関連摂食障害など ) レム期に関連するもの ( レム睡眠行動障害など ) に分類されるため 行動障害が出現した時の睡眠段階を特定する必要がある 2) また他の睡眠障害による覚醒反応として生じることもあるため 睡眠ポリグラフ検査による確認を要する 2 検査 : 睡眠ポリグラフ検査と随伴行動の確認のためのビデオ動画の同時記録を行い 睡眠関連てんかんと鑑別する オプションとして下肢運動記録を行う 異常行動に伴い負傷するなどの危険性もあることから 睡眠ポリグラフ検査の実施時にはアテンドによる慎重なモニター中の安全管理対策が必須である 2

3 予想される結果 : 上記の通り異常行動が出現した睡眠段階により鑑別する e. 睡眠関連運動障害 ( sleep related movement disorders; 周期性四肢運動障害, レストレスレッグス症候群など ) 1 目的 : レストレスレッグス症候群 ( restless legs syndrome; RLS むずむず脚症候群 ) は 睡眠中にも周期性四肢または下肢運動 ( periodic limb or leg movements in sleep; PLMS) の併存が高率にみられ 不眠の原因となる 2),9) ため 確定診断には 問診を含め 睡眠ポリグラフ検査による PLMS の検出を行う 2),9) また RLS や PLMS に伴う脚の運動は 睡眠中の異常な運動や行動を主症状とする障害 ( 睡眠時随伴症 睡眠時無呼吸症候群の呼吸イベントに伴い頻発する脚動 睡眠関連てんかんの睡眠中のてんかん発作に伴う脚の異常運動 ) との鑑別が不可欠となる 10) 2 検査 : ビデオの同時記録と監視下で 呼吸と心電図の記録を含めた脳波 眼電図 筋電図の記録とともに PLMS などの脚動を含めた四肢の運動の評価のため脚 ( 場合により腕を含む ) の筋電図の記録が必要となる 3 予想される結果 : PLMS の検出 脚動と呼吸や脳波上イベントとの関連からみた上記疾患の鑑別 f. 睡眠関連てんかん ( sleep related epilepsy) 1 目的 : てんかんの臨床症状は多彩であり 診断には詳細な病歴聴取と脳波検査が施行される 日中の脳波検査 ( 記録時間 30 分程度 ) で異常所見が認められないことも多く 睡眠中に発作が出現しやすいてんかん ( 睡眠関連てんかん ) は全体の 10-45% を占め 2) アテンドによる睡眠ポリグラフ検査と安全管理対策が必須となる 2 検査 : 長時間ビデオ脳波モニタリングを行う 検出が困難な時は脳波電極を増やし 必要に応じて 10-20 電極法 (ten-twenty electrode system) での脳波測定を行う 3 予想される結果 : 睡眠中における異常脳波の確認によるてんかんの確定診断 睡眠中に異常行動を呈する疾患 ( 睡眠時随伴症や睡眠関連運動障害など ) との鑑別 11 ),1 2) 最近の睡眠ポリグラフ検査は睡眠呼吸障害に焦点を当てた検査法として 3

用いられる機会が多いが 睡眠中には上述したいずれの疾患も併存症として潜在している可能性が高く ベッドパートナーや本人では確認できない異常な現象をとらえるツールとして重要である また 睡眠障害国際分類では診断基準の項目に睡眠パラメータが求められており 睡眠ポリグラフ検査は診断する上でも欠かすことができない さらに検査中の異常行動や発語 病状の急変の可能性を考慮してアテンド下に行う必要がある 参考文献 : 1) Thorpy, M, Chesson A, Ferber R, et al: Practice Parameters for the Use of Portable Recording in the Assessment of Obstructive Sleep Apnea. SLEEP 1994; 17: 372-377. 2) American Academy of Sleep Medicine. International classification of sleep disorders, 3rd ed. Darien, IL: American Academy of Sleep Medicine, 2014. 3) 遠藤四郎 : 神経質症性不眠の精神生理学的研究, 精神経誌, 64 673 (1962). 4) Sharafkhaneh A, Giray N, Richardson P, et al: Association of psychiatric disorders and sleep apnea in a large cohort. Sleep 28 : 1405 1411, 2005. 5) Peppard PE, Szklo Coxe M, Hla KM, et al : Longitudinal association of sleep-related breathing disorder and depression. Arch lntern Med 166 : 1709 1715, 2006. 6) Ohayon MM, Roth T. Prevalence of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder in the general population. J Psychosom Res. 2002; 53:547-554. 7) Kang SG, Lee HJ, Kim L: Restless legs syndrome and periodic limb movements during sleep probably associated with olanzapine. J Psychopharmacol 23; 597-601.2009. 4

8) Rottach KG, Schaner BM, Kirch MH, et al: Restless legs syndrome as side effect of second-generation antidepressants. Journal of psychiatric research 43; 70-75.2008. 9) Allen RP, Picchietti DL, Garcia-Borreguero D, et al: International Restless Legs Syndrome Study Group. Restless legs syndrome/willis-ekbom disease diagnostic criteria: updated International Restless Legs Syndrome Study Group (IRLSSG) consensus criteria--history, rationale, description, and significance. Sleep Med. 2014; 15 (8): 860-873. 10) 宮本雅之, 宮本智之, 井上雄一, 清水徹男. 睡眠関連運動障害 (SRMD) の診断 治療 連携ガイドライン. 睡眠医療 2008; 2(3): 290-295. 11) 17) 千葉茂, 田村義之 : 初老期 老年期の側頭葉てんかんにおけるビデオ脳波モニタリング.Clinical Neuroscience 26: 441-443, 2008. 12) 千葉茂 : 睡眠時随伴症. 最新医学 別冊新しい診断と治療の ABC 56, 最新医学社, 東京,129-143, 2008. 5