リグラフ検査による前夜の睡眠の客観的評価を行う また睡眠ポリグラフ検査時の入眠後 15 分以内にみられる REM 睡眠 (sleep onset REM period: SOREMP) は診断上重要な指標となる 睡眠を妨げる可能性のある睡眠時無呼吸 周期性四肢運動障害 てんかん発作などの同定とその影

Similar documents
医療連携ガイドライン改

過眠を呈する患者における2夜連続終夜睡眠ポリグラフ検査での周期性四肢運動についての研究

cover

REM Rapid Eye Movement REM Zzz Non-REM

手技, 各種イベントの定義, 判定基準は AASM のマニュアル version 2.1, 各種疾患の診断 基準の多くは ICSD-3 に従って記載されている. 本書は, 英文サブタイトルが Clinical Evaluation of Sleep Disorders とあるとおり, 各種の睡眠障害

または Type 3 PM を用いる 脳波記録の誘導数が睡眠ポリグラフ検査と同等であっても 検査室外で非監視下 ( アテンドなし ) に行う場合は Type 2 PM 検査とし アテンドによる睡眠ポリグラフ検査 (Type 1) とは区別する Type 3 PM では気流 呼吸努力 酸素飽和度の連続

日本内科学会雑誌第103巻第8号

章 a 図 b 口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 uvulopalatopharyngoplasty UPPP a 術前 b 術後 睡眠障害 睡眠呼吸障害クリニックの つではないかと思われる 当初多かった不眠症にかわって 睡眠呼吸障害が漸増し 耳鼻咽喉科などと連携し 病因の解明や治療法に向けた研究がスタートし

虎ノ門医学セミナー


研究成果報告書

Microsoft Word - 02角谷.doc

2014 年 1 月 24 日 独立行政法人国立精神 神経医療研究センター (NCNP) Tel: ( 総務部広報係 ) 国立精神 神経医療研究センター 三島和夫部長らの研究グループが 睡眠医療 睡眠研究用プラットフォーム PASM を開発 本成果のポイント 1. 睡眠医療およ

図 1 短時間睡眠や睡眠障害の身体への影響 1) 認知症における睡眠障害認知症では非認知症に比し睡眠障害の有病率は高い 3) アルツハイマー病やレビー小体型認知症では大脳皮質の萎縮 睡眠覚醒系の神経核と投射系および生物時計中枢の視交叉上核にも器質障害があり 不眠 過眠症状を呈する 認知症に合併しやす

第六部 その他の検査 第3章 野田 睡眠検査 明子 1) 宮田 聖子 2) 1) 中部大学大学院生命健康科学研究科 ) 名古屋大学大学院医学系研究科睡眠医学寄附講座 要 愛知県春日井市松本町 1200 旨 睡眠障害 睡眠不足は認知症のリスクファクターであり 認知症の発症 重症化の


睡眠研修セミナー ( 医師編 ) プログラム概要 5 日間コース タイトル 講師 1 睡眠 生体リズムの総論 駒田陽子 2 睡眠障害診断 ( 総論 ) 碓氷章 3 睡眠障害治療総論 井上雄一 4 睡眠時呼吸障害の病態 診断と治療 伊藤永喜 5 ポリノソムノグラフィ実施法と解析 (Ⅰ) 難波一義 6


第 6 回 ISMSJ 学術集会サテライトシンポジウム 社会と個人のために これからの睡眠 を医療に広げるには? どんな患者を睡眠専門医へ紹介するべきか? 大阪回生病院睡眠医療センター 谷口充孝

睡眠計スリープスキャン 専用データ管理ソフト取扱説明書

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

ren

P01-16

研究の背景近年 睡眠 覚醒リズムの異常を訴える患者さんが増加しています 自分が望む時刻に寝つき 朝に起床することが困難であるため 学校や会社でも遅刻を繰り返し 欠席や休職などで引きこもりがちな生活になると さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥ります 不眠症とは異なり自分の寝やすい時間帯では良眠で

<4D F736F F D E7396AF8CF68A4A8D758DC091E5924A90E690B681408FB4985E>

発表雑誌 PLOS ONE 論文名 Association between oor glycemic control, imaired slee quality, and increased arterial thickening in tye 2 diabetic atients 2 型糖尿病患者

総 説 我が国における睡眠ポリグラフ検査 PSG の現状 八木 朝子 1) 1) 太田総合病院記念研究所附属診療所 要 太田睡眠科学センター 神奈川県川崎市川崎区日進町 1 サンスクエア川崎 7 号棟 2F 旨 睡眠ポリグラフ検査 PSG とは 脳波 顎筋電図 眼球運動 気流 呼吸

居眠り事故を未然に防止するための睡眠・覚醒管理技術の開発

第二問 : 睡眠障害 ( 不眠症 ) の種類は大きく分けて 入眠障害 中途覚醒 熟眠障害 早朝覚醒 の四つがあります それぞれの種類についてどのような症状であるか それぞれの図を参考に説明 してください 入眠障害 床についてもなかなか寝付けない症状が入眠障害である 日常的に 1 時間以上眠れずに苦痛


aeeg 入門 この項は以下のウェブサイトより翻訳 作成しています by Denis Azzopardi aeeg モニターについて Olympic CFM

のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

健康と社会 健康長寿と口腔科学1(2008年度)

) km 200 m ) ) ) ) ) ) ) kg kg ) 017 x y x 2 y 5x 5 y )

<8CF68F4F897190B68E478E8F82548AAA82518D E656339>

56: * 睡眠関連疾患, レム睡眠行動異常症, 下肢静止不能症候群, 睡眠時周期性下肢運動, 睡眠ポリグラフ検査 睡眠に関連する運動 行動異常 (sleep related movement and behavior disorders; SRMBD) は, 睡眠関連疾患国際分類第

DSM A A A 1 1 A A p A A A A A 15 64

こうしたことから 特発性 RBD は存在せず 潜在性 RBD とよぶべきであるという主張もみられる 2) 続発性 RBD は基礎疾患に RBD の併発した病態である 基礎疾患としては神経変性疾患 脳幹腫瘍 聴神経腫瘍 ナルコレプシー アルコール 薬剤などが関係している 特に神経変性疾患として syn


2 4 診断推論講座 各論 腹痛 1 腹痛の主な原因 表 1 症例 70 2 numeric rating scale NRS mmHg X 2 重篤な血管性疾患 表

概要 特別養護老人ホーム大原ホーム 社会福祉法人行風会 平成 9 年開設 長期入所 :100 床 短期入所 : 20 床 併設大原ホーム老人デイサービスセンター大原地域包括支援センター 隣接京都大原記念病院

ADHD と過眠症の新たな指標の解析 脳波定量解析からみる ADHD と過眠症の関係 伊東若子 1) 本多真 1)2) 1) 成澤元 1) 神経研究所附属晴和病院 2) 東京都医学総合研究所 < 要旨 > 注意欠如多動性障害 (ADHD) は 夜間の睡眠の問題が多く 眠気も強いとされている さらに

< F2D8BC68A4582A082C42E6A7464>

第1 総 括 的 事 項


b. OSAS 45 MRI 3 8 AHI 15/h OSAS 173 AHI 5/h 19 MRI 9 II movement disorders 1. Parkinson PD PD PD rapid eye movement sleep behavior disorder RBD

日本内科学会雑誌第105巻第8号

wslist01

研究成果報告書


WSS 睡眠専門医への道 ISMSJ 広報 HP 委員会作成 (2018 年 1 月作成第 2.0 版 ) 免責事項 : 本スライドの情報は 2018 年 1 月時点での World Sleep Society (WSS) ウェブサイトの記載内容に基づいています 随時アップデートするよう努めますが

Microsoft Word - MSLT練習デモプログラム.DOC

目次 はじめに 4 不眠症とは 6 睡眠のサイクル 12 不眠症の原因 19 不眠症になりやすい人 29 不眠症の危険性 33 不眠症の診断 38 睡眠障害外来 43 不眠症に効果的な薬 49 不眠症の自然療法 62 睡眠衛生学 69 ストレス管理とリラクゼーション 73 認知行動療法 81 漸進的

, 2008 * Measurements of Sleep-Related Hormones * 1. * 1 2.

Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤

Epilepsy2015

untitled

助となることを目的に この認定医制度を制定した 日本睡眠歯科学会会員各位におかれては 上記趣旨を理解いただき 以下のカリキュラムに沿って研鑽を積み ぜひ日本睡眠歯科学会認定医の取得を目指していただきたい 教育カリキュラム 1. 一般目標睡眠医療の基礎的な知識を備え 睡眠医療に携わる医師 歯科医師 臨

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)

たたら製鉄についてのまとめ

日本てんかん学会ガイドライン作成委員会報告

要件の判定に必要な事項 1. 患者数約 400 人 ( 徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症及びランドウ クレフナー症候群の総数 ) 2. 発病の機構不明 ( 先天性あるいは早期の後天性脳病変がみられることはあるが発病にかかわる機序は不明 遺伝子異常が関係するという報告もあり ) 3. 効果的

漢方薬

もちろん単独では診断も除外も難しいが それ以外の所見はさらに感度も特異度も落ちる 所見では鼓膜の混濁 (adjusted LR, 34; 95% confidence interval [CI], 28-42) や明らかな発赤 (adjusted LR, 8.4; 95% CI, ) が

中高生を中心とした子供の睡眠習慣に関する科学的知見の整理分科会 第1回 配付資料その2

01 表紙

 

英和対照表

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

千葉テストセンター発行 心理検査カタログ

Other Neurodevelopmental Disorders 他 の 神 経 発 達 症 群 / 他 の 神 経 発 達 障 害 群 Ⅱ.Schizophrenia Spectrum and Other Psychotic Disorders 統 合 失 調 症 スペクトラム 障 害 および

睡 眠 研 修 セミナー( 医 師 編 )プログラム 概 要 5 日 間 コース タイトル 講 師 1 睡 眠 生 体 リズムの 総 論 駒 田 陽 子 2 睡 眠 障 害 診 断 総 論 井 上 雄 一 3 睡 眠 障 害 治 療 総 論 井 上 雄 一 4 睡 眠 関 連 運 動 障 害 中 村

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

スライド 1

日本睡眠学会の学会認定に関する規約

後であるのに比べ, スリープスキャンは₃ 万円前後と安価であることから, 今後活用拡大が期待できる しかし, スリープスキャンは2010 年に商品化されたものでありその有用性については, 不眠を訴えることが可能な一般成人や睡眠 覚醒リズムに乱れが少ない青年期を対象とした研究が数例あるのみで 5),

『潜在的睡眠不足』の解消が内分泌機能改善につながることを明らかに

ROCKY NOTE 心不全患者 (+ チェーンストークス呼吸を伴う閉塞性睡眠時無呼吸 ) に対する ASV(adaptive servo-ventilation) の効果 (110406) 心不全 + 睡眠時

Aripiprazole の睡眠短縮効果 特集 / シンポジウム 7: 日内リズムによる問題症状とその対応 1 夜間睡眠の延長と睡眠相後退症候群に対する aripiprazole の有効性の検討 * 神林崇 **, *** 大森佑貴 ** 今西彩 ** 高木学 **** 佐川洋平 ** 筒井幸 **

青森県2012-初校.indd

11総法不審第120号

の補助にもなるといえよう 翌年 Sistoらは CFS 患者に対して運動負荷をおこない その前後における活動量の変化を検討している その結果 運動負荷 1 ~ 4 日までは明らかな変化はないものの5 ~ 7 日まで活動量が減少することを示した 4) CFS 患者においては運動によって筋肉中のATPが

第13回 沖縄PSGセミナー 過眠症の診断と治療

睡眠関連疾患と歯科−ブラキシズム(歯ぎしり)について知ろう−

Contents 01 睡眠とは何か? 03 青年期 大学生 大学院生の睡眠 05 睡眠障害について 06 睡眠の改善に向けたアプローチ 08 睡眠障害の薬物療法 09 おわりに 保健のしおり vol.42

幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

特集 井上 他 睡眠関連食行動障害 913 表 1 睡眠関連食行動障害の診断基準 文献 1) A. 主たる夜間睡眠中に 不随意的に飲食するエピソ ードが反復性に出現する B. 反復性の不随意的な食行動により 以下の 1つ以 上が生じる i. 奇妙な取り合わせの食物 もしくは食べられ ない物や毒性のあ

Microsoft Word - 「閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置に関する診療ガイドライン」

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

賀茂精神医療センターにおける精神科臨床研修プログラム 1. 研修の理念当院の理念である 共に生きる 社会の実現を目指す に則り 本来あるべき精神医療とは何かを 共に考えて実践していくことを最大の目標とする 将来いずれの診療科に進むことになっても リエゾン精神医学が普及した今日においては 精神疾患 症


02原著-1.indd

2014年

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

 

診療所ごとの診療状況 一方 診療所では 外来診療を実施 と回答した診療所は 73 か所 (36.3%) 入院診療を実施 と回答した病院は 2 か所 (1.0%) となっており いずれも実施していない との回答が 124 か所 (61.7%) であった 診療所のてんかん診療実施状況 ( 有効回答数 =

insomnia: a meta-analysis. Sleep Biol Rhythms. 16(1): 総説 1. 松井健太郎, 井上雄一 : 睡眠障害と運転を巡る問題. 精神科 30(4): 井上雄一, 笹井妙子 : 睡眠

Transcription:

エキスパートコンセンサス 3(EC3) 睡眠呼吸障害以外の睡眠障害における睡眠ポリグラフ検査 1. 睡眠ポリグラフ検査の位置づけ睡眠ポリグラフ検査は OSAS などの睡眠呼吸障害と同様に 睡眠および夜間の行動異常に対する臨床診断および治療効果判定におけるゴールドスタンダード ( 標準 ) 検査である 2. 睡眠ポリグラフ検査の定義睡眠ポリグラフ検査の定義と仕様は エキスパートコンセンサス 1 と同様であるが 睡眠関連てんかん 睡眠時随伴症に対する睡眠ポリグラフ検査では アテンドによる慎重なモニター中の安全管理対策が必要である 3. 睡眠ポリグラフ検査が必要な疾患 a. 不眠症 ( insomnia) 1 目的 : 不眠症において自覚的評価と他覚的評価との間に大きな乖離を認めることが多く 2 ),3) 睡眠覚醒リズム表 ( 睡眠日誌 ) などの自己記入式調査票に加え睡眠ポリグラフ検査を行う またうつ病および他の精神障害 ( 不安障害 統合失調症など ) に伴う不眠の場合 睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害 レストレスレッグス症候群などの関与を鑑別するために睡眠ポリグラフ検査を施行する 4,5,6, 7,8 ) 2 検査 : オプションとしてビデオ監視記録 下肢運動記録を追加し 睡眠ポリグラフ検査中の精神症状の変化への対応のためアテンドにて施行する 3 予想される検査結果 : 客観的睡眠の持続や質の低下 ( 睡眠潜時の延長 総睡眠時間の短縮 睡眠効率の低下 中途覚醒回数の減少 中途覚醒時間の延長 ) b. 中枢性過眠障害 ( central disorder of hypersomnolence; ナルコレプシー, 特発性過眠症 ) 1 目的 : 日中の眠気を評価するためには反復睡眠潜時検査 ( multiple sleep latency test;mslt) が必要となるが 日中の眠気は測定前夜の睡眠内容 ( 時間や質 ) が大いに関与するため 睡眠が十分にとれているかどうか 睡眠ポ 1

リグラフ検査による前夜の睡眠の客観的評価を行う また睡眠ポリグラフ検査時の入眠後 15 分以内にみられる REM 睡眠 (sleep onset REM period: SOREMP) は診断上重要な指標となる 睡眠を妨げる可能性のある睡眠時無呼吸 周期性四肢運動障害 てんかん発作などの同定とその影響の評価が必須である 2 検査 :MSLT 施行の前夜に睡眠ポリグラフ検査を行い 6 時間以上の睡眠時間が確保されていることを確認する 翌日の昼間に反復睡眠潜時検査 (MSLT) を 2 時間おきに 4 5 回 ( 各 2 0 分 ) 施行する 2) 3 予想される結果 : 睡眠ポリグラフ検査において 入眠時間の短縮 SOREMP 中途覚醒回数の増加 徐波睡眠時間の低下を認める 翌日の MSLT 検査により 平均入眠潜時が 8 分以下かつ 2 回以上の SOREMP が認められれば ナルコレプシーと診断される ( ナルコレプシーのガイドラインン HP 参照 ) c. 概日リズム睡眠覚醒障害 ( circadian rhythm sleep-wake disorders) 1 目的 : 概日リズム睡眠覚醒障害の診断 2) にはアクチグラムや睡眠日誌 メ ラトニン濃度測定などのほか 睡眠覚醒リズムの客観的評価を行うため睡眠ポリグラフ検査を施行する 2 検査 : 測定時間は 24 時間から 48 時間行う 3 予想される結果 : 睡眠時刻は夜間帯から外れているものの ほぼ正常範囲の睡眠時間 内容の睡眠を認める 他の睡眠障害の合併の有無 d. 睡眠時随伴症 ( parasomnias; 夢中遊行 レム睡眠行動障害など ) 1 目的 : 睡眠時随伴症には夜間の行動異常が生じた睡眠段階により ノンレム期に関連するもの ( 夢中遊行や睡眠関連摂食障害など ) レム期に関連するもの ( レム睡眠行動障害など ) に分類されるため 行動障害が出現した時の睡眠段階を特定する必要がある 2) また他の睡眠障害による覚醒反応として生じることもあるため 睡眠ポリグラフ検査による確認を要する 2 検査 : 睡眠ポリグラフ検査と随伴行動の確認のためのビデオ動画の同時記録を行い 睡眠関連てんかんと鑑別する オプションとして下肢運動記録を行う 異常行動に伴い負傷するなどの危険性もあることから 睡眠ポリグラフ検査の実施時にはアテンドによる慎重なモニター中の安全管理対策が必須である 2

3 予想される結果 : 上記の通り異常行動が出現した睡眠段階により鑑別する e. 睡眠関連運動障害 ( sleep related movement disorders; 周期性四肢運動障害, レストレスレッグス症候群など ) 1 目的 : レストレスレッグス症候群 ( restless legs syndrome; RLS むずむず脚症候群 ) は 睡眠中にも周期性四肢または下肢運動 ( periodic limb or leg movements in sleep; PLMS) の併存が高率にみられ 不眠の原因となる 2),9) ため 確定診断には 問診を含め 睡眠ポリグラフ検査による PLMS の検出を行う 2),9) また RLS や PLMS に伴う脚の運動は 睡眠中の異常な運動や行動を主症状とする障害 ( 睡眠時随伴症 睡眠時無呼吸症候群の呼吸イベントに伴い頻発する脚動 睡眠関連てんかんの睡眠中のてんかん発作に伴う脚の異常運動 ) との鑑別が不可欠となる 10) 2 検査 : ビデオの同時記録と監視下で 呼吸と心電図の記録を含めた脳波 眼電図 筋電図の記録とともに PLMS などの脚動を含めた四肢の運動の評価のため脚 ( 場合により腕を含む ) の筋電図の記録が必要となる 3 予想される結果 : PLMS の検出 脚動と呼吸や脳波上イベントとの関連からみた上記疾患の鑑別 f. 睡眠関連てんかん ( sleep related epilepsy) 1 目的 : てんかんの臨床症状は多彩であり 診断には詳細な病歴聴取と脳波検査が施行される 日中の脳波検査 ( 記録時間 30 分程度 ) で異常所見が認められないことも多く 睡眠中に発作が出現しやすいてんかん ( 睡眠関連てんかん ) は全体の 10-45% を占め 2) アテンドによる睡眠ポリグラフ検査と安全管理対策が必須となる 2 検査 : 長時間ビデオ脳波モニタリングを行う 検出が困難な時は脳波電極を増やし 必要に応じて 10-20 電極法 (ten-twenty electrode system) での脳波測定を行う 3 予想される結果 : 睡眠中における異常脳波の確認によるてんかんの確定診断 睡眠中に異常行動を呈する疾患 ( 睡眠時随伴症や睡眠関連運動障害など ) との鑑別 11 ),1 2) 最近の睡眠ポリグラフ検査は睡眠呼吸障害に焦点を当てた検査法として 3

用いられる機会が多いが 睡眠中には上述したいずれの疾患も併存症として潜在している可能性が高く ベッドパートナーや本人では確認できない異常な現象をとらえるツールとして重要である また 睡眠障害国際分類では診断基準の項目に睡眠パラメータが求められており 睡眠ポリグラフ検査は診断する上でも欠かすことができない さらに検査中の異常行動や発語 病状の急変の可能性を考慮してアテンド下に行う必要がある 参考文献 : 1) Thorpy, M, Chesson A, Ferber R, et al: Practice Parameters for the Use of Portable Recording in the Assessment of Obstructive Sleep Apnea. SLEEP 1994; 17: 372-377. 2) American Academy of Sleep Medicine. International classification of sleep disorders, 3rd ed. Darien, IL: American Academy of Sleep Medicine, 2014. 3) 遠藤四郎 : 神経質症性不眠の精神生理学的研究, 精神経誌, 64 673 (1962). 4) Sharafkhaneh A, Giray N, Richardson P, et al: Association of psychiatric disorders and sleep apnea in a large cohort. Sleep 28 : 1405 1411, 2005. 5) Peppard PE, Szklo Coxe M, Hla KM, et al : Longitudinal association of sleep-related breathing disorder and depression. Arch lntern Med 166 : 1709 1715, 2006. 6) Ohayon MM, Roth T. Prevalence of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder in the general population. J Psychosom Res. 2002; 53:547-554. 7) Kang SG, Lee HJ, Kim L: Restless legs syndrome and periodic limb movements during sleep probably associated with olanzapine. J Psychopharmacol 23; 597-601.2009. 4

8) Rottach KG, Schaner BM, Kirch MH, et al: Restless legs syndrome as side effect of second-generation antidepressants. Journal of psychiatric research 43; 70-75.2008. 9) Allen RP, Picchietti DL, Garcia-Borreguero D, et al: International Restless Legs Syndrome Study Group. Restless legs syndrome/willis-ekbom disease diagnostic criteria: updated International Restless Legs Syndrome Study Group (IRLSSG) consensus criteria--history, rationale, description, and significance. Sleep Med. 2014; 15 (8): 860-873. 10) 宮本雅之, 宮本智之, 井上雄一, 清水徹男. 睡眠関連運動障害 (SRMD) の診断 治療 連携ガイドライン. 睡眠医療 2008; 2(3): 290-295. 11) 17) 千葉茂, 田村義之 : 初老期 老年期の側頭葉てんかんにおけるビデオ脳波モニタリング.Clinical Neuroscience 26: 441-443, 2008. 12) 千葉茂 : 睡眠時随伴症. 最新医学 別冊新しい診断と治療の ABC 56, 最新医学社, 東京,129-143, 2008. 5