エキスパートコンセンサス 3(EC3) 睡眠呼吸障害以外の睡眠障害における睡眠ポリグラフ検査 1. 睡眠ポリグラフ検査の位置づけ睡眠ポリグラフ検査は OSAS などの睡眠呼吸障害と同様に 睡眠および夜間の行動異常に対する臨床診断および治療効果判定におけるゴールドスタンダード ( 標準 ) 検査である 2. 睡眠ポリグラフ検査の定義睡眠ポリグラフ検査の定義と仕様は エキスパートコンセンサス 1 と同様であるが 睡眠関連てんかん 睡眠時随伴症に対する睡眠ポリグラフ検査では アテンドによる慎重なモニター中の安全管理対策が必要である 3. 睡眠ポリグラフ検査が必要な疾患 a. 不眠症 ( insomnia) 1 目的 : 不眠症において自覚的評価と他覚的評価との間に大きな乖離を認めることが多く 2 ),3) 睡眠覚醒リズム表 ( 睡眠日誌 ) などの自己記入式調査票に加え睡眠ポリグラフ検査を行う またうつ病および他の精神障害 ( 不安障害 統合失調症など ) に伴う不眠の場合 睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害 レストレスレッグス症候群などの関与を鑑別するために睡眠ポリグラフ検査を施行する 4,5,6, 7,8 ) 2 検査 : オプションとしてビデオ監視記録 下肢運動記録を追加し 睡眠ポリグラフ検査中の精神症状の変化への対応のためアテンドにて施行する 3 予想される検査結果 : 客観的睡眠の持続や質の低下 ( 睡眠潜時の延長 総睡眠時間の短縮 睡眠効率の低下 中途覚醒回数の減少 中途覚醒時間の延長 ) b. 中枢性過眠障害 ( central disorder of hypersomnolence; ナルコレプシー, 特発性過眠症 ) 1 目的 : 日中の眠気を評価するためには反復睡眠潜時検査 ( multiple sleep latency test;mslt) が必要となるが 日中の眠気は測定前夜の睡眠内容 ( 時間や質 ) が大いに関与するため 睡眠が十分にとれているかどうか 睡眠ポ 1
リグラフ検査による前夜の睡眠の客観的評価を行う また睡眠ポリグラフ検査時の入眠後 15 分以内にみられる REM 睡眠 (sleep onset REM period: SOREMP) は診断上重要な指標となる 睡眠を妨げる可能性のある睡眠時無呼吸 周期性四肢運動障害 てんかん発作などの同定とその影響の評価が必須である 2 検査 :MSLT 施行の前夜に睡眠ポリグラフ検査を行い 6 時間以上の睡眠時間が確保されていることを確認する 翌日の昼間に反復睡眠潜時検査 (MSLT) を 2 時間おきに 4 5 回 ( 各 2 0 分 ) 施行する 2) 3 予想される結果 : 睡眠ポリグラフ検査において 入眠時間の短縮 SOREMP 中途覚醒回数の増加 徐波睡眠時間の低下を認める 翌日の MSLT 検査により 平均入眠潜時が 8 分以下かつ 2 回以上の SOREMP が認められれば ナルコレプシーと診断される ( ナルコレプシーのガイドラインン HP 参照 ) c. 概日リズム睡眠覚醒障害 ( circadian rhythm sleep-wake disorders) 1 目的 : 概日リズム睡眠覚醒障害の診断 2) にはアクチグラムや睡眠日誌 メ ラトニン濃度測定などのほか 睡眠覚醒リズムの客観的評価を行うため睡眠ポリグラフ検査を施行する 2 検査 : 測定時間は 24 時間から 48 時間行う 3 予想される結果 : 睡眠時刻は夜間帯から外れているものの ほぼ正常範囲の睡眠時間 内容の睡眠を認める 他の睡眠障害の合併の有無 d. 睡眠時随伴症 ( parasomnias; 夢中遊行 レム睡眠行動障害など ) 1 目的 : 睡眠時随伴症には夜間の行動異常が生じた睡眠段階により ノンレム期に関連するもの ( 夢中遊行や睡眠関連摂食障害など ) レム期に関連するもの ( レム睡眠行動障害など ) に分類されるため 行動障害が出現した時の睡眠段階を特定する必要がある 2) また他の睡眠障害による覚醒反応として生じることもあるため 睡眠ポリグラフ検査による確認を要する 2 検査 : 睡眠ポリグラフ検査と随伴行動の確認のためのビデオ動画の同時記録を行い 睡眠関連てんかんと鑑別する オプションとして下肢運動記録を行う 異常行動に伴い負傷するなどの危険性もあることから 睡眠ポリグラフ検査の実施時にはアテンドによる慎重なモニター中の安全管理対策が必須である 2
3 予想される結果 : 上記の通り異常行動が出現した睡眠段階により鑑別する e. 睡眠関連運動障害 ( sleep related movement disorders; 周期性四肢運動障害, レストレスレッグス症候群など ) 1 目的 : レストレスレッグス症候群 ( restless legs syndrome; RLS むずむず脚症候群 ) は 睡眠中にも周期性四肢または下肢運動 ( periodic limb or leg movements in sleep; PLMS) の併存が高率にみられ 不眠の原因となる 2),9) ため 確定診断には 問診を含め 睡眠ポリグラフ検査による PLMS の検出を行う 2),9) また RLS や PLMS に伴う脚の運動は 睡眠中の異常な運動や行動を主症状とする障害 ( 睡眠時随伴症 睡眠時無呼吸症候群の呼吸イベントに伴い頻発する脚動 睡眠関連てんかんの睡眠中のてんかん発作に伴う脚の異常運動 ) との鑑別が不可欠となる 10) 2 検査 : ビデオの同時記録と監視下で 呼吸と心電図の記録を含めた脳波 眼電図 筋電図の記録とともに PLMS などの脚動を含めた四肢の運動の評価のため脚 ( 場合により腕を含む ) の筋電図の記録が必要となる 3 予想される結果 : PLMS の検出 脚動と呼吸や脳波上イベントとの関連からみた上記疾患の鑑別 f. 睡眠関連てんかん ( sleep related epilepsy) 1 目的 : てんかんの臨床症状は多彩であり 診断には詳細な病歴聴取と脳波検査が施行される 日中の脳波検査 ( 記録時間 30 分程度 ) で異常所見が認められないことも多く 睡眠中に発作が出現しやすいてんかん ( 睡眠関連てんかん ) は全体の 10-45% を占め 2) アテンドによる睡眠ポリグラフ検査と安全管理対策が必須となる 2 検査 : 長時間ビデオ脳波モニタリングを行う 検出が困難な時は脳波電極を増やし 必要に応じて 10-20 電極法 (ten-twenty electrode system) での脳波測定を行う 3 予想される結果 : 睡眠中における異常脳波の確認によるてんかんの確定診断 睡眠中に異常行動を呈する疾患 ( 睡眠時随伴症や睡眠関連運動障害など ) との鑑別 11 ),1 2) 最近の睡眠ポリグラフ検査は睡眠呼吸障害に焦点を当てた検査法として 3
用いられる機会が多いが 睡眠中には上述したいずれの疾患も併存症として潜在している可能性が高く ベッドパートナーや本人では確認できない異常な現象をとらえるツールとして重要である また 睡眠障害国際分類では診断基準の項目に睡眠パラメータが求められており 睡眠ポリグラフ検査は診断する上でも欠かすことができない さらに検査中の異常行動や発語 病状の急変の可能性を考慮してアテンド下に行う必要がある 参考文献 : 1) Thorpy, M, Chesson A, Ferber R, et al: Practice Parameters for the Use of Portable Recording in the Assessment of Obstructive Sleep Apnea. SLEEP 1994; 17: 372-377. 2) American Academy of Sleep Medicine. International classification of sleep disorders, 3rd ed. Darien, IL: American Academy of Sleep Medicine, 2014. 3) 遠藤四郎 : 神経質症性不眠の精神生理学的研究, 精神経誌, 64 673 (1962). 4) Sharafkhaneh A, Giray N, Richardson P, et al: Association of psychiatric disorders and sleep apnea in a large cohort. Sleep 28 : 1405 1411, 2005. 5) Peppard PE, Szklo Coxe M, Hla KM, et al : Longitudinal association of sleep-related breathing disorder and depression. Arch lntern Med 166 : 1709 1715, 2006. 6) Ohayon MM, Roth T. Prevalence of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder in the general population. J Psychosom Res. 2002; 53:547-554. 7) Kang SG, Lee HJ, Kim L: Restless legs syndrome and periodic limb movements during sleep probably associated with olanzapine. J Psychopharmacol 23; 597-601.2009. 4
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