熊本地震災害調査レポート(速報)

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この資料は速報値であり 後日の調査で変更されることがあります 時間帯 最大震度別回数 震度 1 以上を観測した回数 弱 5 強 6 弱 6 強 7 回数 累計 4/14 21 時 -24 時 /15 00 時 -24 時 30

【集約版】国土地理院の最近の取組

2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

熊本地震の緊急調査報告

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

平成28年4月 地震・火山月報(防災編)

した 気象庁は その報告を受け 今後は余震確率の公表方法を改めることとしたという 2. 被害状況 被害要因等の分析 (1) 調査方針本委員会は 以下の調査方針で 被害調査と要因分析を行っている 1 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して検討を進め

平成 28 年 4 月 16 日 01 時 25 分頃の熊本県熊本地方の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

熊本地震に係る対応について

地震の概要 検知時刻 : 1 月 3 日 18 時分 10 発生時刻 : 1 月 3 日 18 時 10 分 マグニチュード: 5.1( 暫定値 ; 速報値 5.0から更新 ) 場所および深さ: 熊本県熊本地方 深さ10km( 暫定値 ) 発震機構 : 南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型 ( 速報

平成28年熊本地震八次調査報告(HPアップ版v3)反映

スライド 1

Microsoft Word - 2章170327

新潟県中越沖地震を踏まえた地下構造特性調査結果および駿河湾の地震で敷地内の揺れに違いが生じた要因の分析状況について

日向灘 佐伯市で震度 2 を観測 8 日 08 時 33 分に日向灘で発生した M3.9 の地震 ( 深さ 31km) により 佐伯市 愛媛県西予市 高知県宿毛市などで震度 2 を観測したほか 大分県 宮崎県 愛媛県および高知県で震度 1 を観測しました ( 図 1) 今回の地震の震源付近 ( 図

目次 ページ 1. はじめに 1 2. 現地調査 調査概要 調査地域の地震動特性 建築物の被害調査結果 各種構造物の被害調査結果 課題とまとめ 14 参考文献 15

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(/9) 07 年に発生した地震の概要. 佐賀県の地震活動 07 年に佐賀県で震度 以上を観測した地震は 9 回 (06 年は 85 回 ) でした ( 表 図 3) このうち 震度 3 以上を観測した地震はありませんでした (06 年は 9 回 ) 表 07 年に佐賀県内で震度 以上を観測した地震

4:10 防災科学技術研究所第 2 回災害対策本部会議を開催 各班による状況報告による情報共有等を実施 9:34 防災科学技術研究所第 3 回災害対策本部会議を開催 各班による状況報告による情報共有等を実施 11:50 防災科学技術研究所職員が熊本県庁 ( 熊本県災害対策本部 ) に到着 16:00

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177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

202 国土地理院時報 影の違いなどを総合的に判断して取得した また 今回の地震で生じた亀裂かどうか容易に識別できな い場合は 地震発生前に撮影された空中写真と比較 して確認を行った ただし すべての範囲を同じ縮 尺レベルで判読できている訳ではないうえ 判読者 の違いにより取得基準に若干のぶれがある

Microsoft PowerPoint HirataP

平成28年熊本地震一次調査報告 (HPアップ版v4)反映

図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

累積火災件数 本震震最大震度 6 強の揺れを伴う地震の発生日時前累積火災件数 最大震度 7 の揺れを伴う地震の発生日時 0 4/14 4/15 4/16 4/17 4/18 4/19 4/20 4/21 図 地震の発生日時と火災の出火推定日時の関係

2016年熊本地震調査 第1報 2016年4月18日

土木学会西部支部・調査報告

1.1 阪神 淡路大震災環境省は 阪神 淡路大震災 ( 平成 7 年 1 月 17 日発生 ) の際に兵庫県及び神戸市の協力を得て 大気中の石綿濃度のモニタリング調査を実施した 当時の被災地における一般環境大気中 (17 地点 ) の石綿濃度の調査結果を表 R2.1 に 解体工事現場の敷地境界付近に

Microsoft Word - 概要版(案)_ docx

基礎 Q 地震の原因や特徴は? A 活断層の横ずれで発生し 余震の規模が大きいのが特徴です 日の熊本地震 M6.5) は 活断層 日奈久 ひなぐ ) 断層帯 の北側の一部がずれて起きました 余震が多発し その規模が大きいのも特徴です 同時多発的な地震が起きている九州中央部では活断層が連なる 別府 島

いても示すこととした 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して被害調査と分析等の検討を進めることとした 規模の大きな鉄骨造や鉄筋コンクリート造 鉄骨鉄筋コンクリート造( 以下 鉄筋コンクリート造等 という ) の建築物については 熊本市内などの地域

鹿児島大学 地域防災教育研究センター 平成28年度報告書

00 表紙・目次

合同委員会概要(サマリー)160929最終+0930修正反映

(2/ 8) 4 月の地震活動概要 4 月に内の震度観測点で震度 1 以上を観測した地震は5 回 (3 月は1 回 ) でした 平成 28 年 (2016 年 ) 熊本地震続報 28 日 14 時 08 分に熊本県熊本地方で発生した M3.6 の地震 ( 深さ 12km) により 熊本県の八代市 宇

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平成28年(2016年)熊本地震の評価

分野毎の検討における体制・検討フロー(案)

平成28 年4 月16 日熊本県熊本地方の地震の評価(平成28年4月17日)

9 箇所名 江戸川区 -1 都道府県東京都 市区町村江戸川区 地区 清新町, 臨海町 2/6 発生面積 中 地形分類 盛土地 液状化発生履歴 近傍では1855 安政江戸地震 1894 東京湾北部地震 1923 大正関東地震の際に履歴あり 土地改変履歴 国道 367 号より北側は昭和 46~5 年 南

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防災情報のページ

図 年 [ 高度利用者向け ] 半月ごとの緊急地震速報発報回数 東北地方太平洋沖地震からほぼ単調に減少していた緊急地震速報の発報回数は 2015 年のほぼ安定した発報回数分布が 2016 年は急増しました 熊本地震直後では半月で最大 158 回 福島県沖の地震の後には 98 回となり

住宅地盤 熊本地震の教訓

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令和元年6月 地震・火山月報(防災編)

平成 28 年熊本地震における対応 平成 28 年熊本地震 ( 前震 :4/14 本震 :4/16) において 電力 ガス等の分野で供給支障等の被害が発生 関係事業者が広域的な資機材 人員の融通を実施するなど 迅速な復旧に努めた結果 当初の想定よりも 早期の復旧が実現 また 復旧見通しを早い段階で提

2. 調査手法 Google 3. 調査結果 3. 1 概要.. 表 1 表 1 / / / /

第 1 章熊本地震の概要 執筆 : 阿部直樹 ( 国立研究開発法人防災科学技術研究所 ) 1-1 熊本地震動の概要 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃 熊本県熊本地方の深さ約 11km を震源とする M6.5 の地震が発生し 熊本県上益城郡益城町において震度 7を観測した また約

1. 地震情報発生日時 :2018 年 6 月 18 日午前 7 時 58 分震源地 : 大阪府北部 ( 北緯 34.8 度 東経 度 ) 震源深さ: 約 13km 地震の規模 ( マグニチュード ):6.1 震度 6 弱の地域 :* 印は気象庁以外の震度観測点についての情報 大阪府震度

平成 30 年 4 月 9 日 01 時 32 分頃の島根県西部の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

2016年10月21日鳥取県中部の地震の評価(平成28年10月22日)

九州地方の主な地震活動

01A

リスクマネジメント最前線 2016 l No.11 そして 16 日 1 時 25 分には M7.3 の本震が発生した 本震では 再び益城町にて震度 7 を観測し 西 原村でも震度 7 となった また 熊本市内の各地で震度 6 強となり 市内は前震より大きな揺れに見 舞われた 震度観測点での震度の分

地震の将来予測への取組 -地震調査研究の成果を防災に活かすために-

被害情報 平成 29 年 11 月 13 日 16 時 30 分発表熊本県危機管理防災課 平成 28(2016) 年熊本地震等に係る被害状況について 第 258 報 1 この数値は 現段階の速報値であって 確定値ではありません 速報値 1 1 被害状況 ( 平成 29 年 11 月 13 日 13:

地震災害、正しい知識と備え

分野毎の検討における体制・検討フロー(案)

Microsoft PowerPoint 「平成28年熊本地震活動記録(第17報) 案-2.pptx

資料6 2016年熊本地震と関連する活動に関する総合調査

2016年(平成28年) 熊本地震

5

2 活断層との関係 第 1 章熊本地震の概要第 1 節熊本地震の発生状況や特徴等 2 活断層との関係 熊本地震の地震活動領域には 布田川断層帯 日奈久断層帯が存在しており 国の地震調査研究推進本部地震調査委員会によると M6.5 の前震は日奈久断層帯の高野 白旗区間の活動 M7.3 の本震は布田川断

Taro-地震防災マップQ&A集.jtd

地震発生後の九州地方整備局の活動 4 月 16 日の夜明け 本震の後に再度調査を実施しておりま す その際は 道路崩壊の調査 土砂崩壊の箇所の調査 被 災地に入るための安全ルートの確認等を実施しております 次に九州地方整備局の活動について紹介させていただき ます まず最初に地震発生後の初動体制につい

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溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

特集大規模自然災害からの復旧 復興 参考 警察が検視により確認している死者数 50 名 災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的負担による死者数 106 名 6 月 日に発生した豪雨による被害のうち熊本地震と関連が認められた死者数 5 名建物被害全壊 8,360 棟, 半壊 3

旧耐震(1981 年 5 月以前 ) 1981 年 5 月に建築基準法が改正され 木造住宅に必要とされている性能が大幅に引き上げられた そのため これ以前の木造住宅においては その性能が現行基準のものと比べて大きく下回っていることがわかっている 新耐震(1981 年 6 月以降 年 5

0900167 立命館大学様‐災害10号/★トップ‐目次

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平成 30 年 6 月 18 日 07 時 58 分頃の大阪府北部の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

報告書

三郷市地震ハザードマップ

図 年に発生した被害地震の震源位置 1/14 浦河沖 (M6.7) (2)6/16 内浦湾 (M5.3) (4)11/22 福島県沖 (M7.4) (5)12/28 茨城県北部 (M6.3) 5/16 茨城県南部 (M5.5) (3)10/21 鳥取県中部 (M6.6) (1)4/14

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5. 被害の概要札幌市東区東 15 丁目 ( 屯田通り ) では約 3.0km にわたって道路陥没が発生し, 交通障害が生じた. 加えて, 札幌市北区の西 4 丁目北 34 条 ~37 条においても道路陥没が発生した. 札幌市清田区里塚 1 条では宅地造成地盤の液状化が生じ, 道路や家屋に著しい沈下

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「2016年熊本地震と関連する活動に関する総合調査」への科学研究費補助金(特別研究促進費)の交付について

建築物等震災対策事業について

熊本市耐震改修促進計画 骨子(案)


2. 地震と地震被害の概要 年熊本地震の概要 4 月 14 日 21 時 26 分に熊本県熊本地方の深さ 11km でマグニチュード M6.5 の地震が発生し, 益城町で最大震度 7を観測した その後も, 活発な地震活動が継続し,4 月 16 日 01 時 25 分に熊本県熊本地方

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2

平成 28 年 4 月 22 日 ( 一財 ) 国土技術研究センター 平成 28 年熊本地震による河川堤防の被災調査結果 ( 速報 ) 1. 調査の概要平成 28 年 4 月 14 日に熊本県熊本地方で発生した マグニチュード 6.5 と推定される前震 平成 28 年 4 月 16 日に同じく熊本県

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大震災の時のような大都市ではなかったことが大きいと考えられる 地震発生時刻は夕食の準備をしている可能性の高い時間帯であったが 比較的火災も少なく済んでいる この地震でクローズアップされたのは震災関連死 というものであった 内閣府の防災情報に掲載されている死者の死因を見てみると 地震による家屋の倒壊な

多数回繰返し外力に対するRC造建物の 設計法(風WG)

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 14 日 17 時 50 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベルを1( 活火山であることに留意 ) から2( 火口周辺規制 ) に引上げ> 阿蘇山では 火山性微動の振幅が 3 月 15 日以降 小さい状態

2018 年6月18 日大阪府北部の地震の評価

報道発表 平成 30 年 9 月 6 日 05 時 10 分地震火山部 平成 30 年 9 月 6 日 03 時 08 分頃の胆振地方中東部の地震について 地震の概要検知時刻 : 9 月 6 日 03 時 08 分 ( 最初に地震を検知した時刻 ) 発生時刻 : 9 月 6 日 03 時 07 分

Transcription:

平成 28 年熊本地震災害調査レポート ( 速報 ) 2016 年 4 月 応用アール エム エス株式会社

目次 1 地震 地震動の概要... 2 2 被害の概要... 3 3 現地被害調査報告 ( 速報 )... 4 3-1 調査概要... 4 3-2 益城町の被害状況... 5 3-3 西原村の被害状況... 7 3-4 熊本市東区 宇土市役所... 9 3-5 地表断層... 11 4 企業の被害状況 ( 速報 )... 13 5 おわりに... 15 1

1 地震 地震動の概要 2016 年 4 月 14 日 ( 金 ) 午後 9 時 26 分 熊本県上益城郡益城町で震度 7 を観測する地震が発生しました ( 前震 ) さらに 2016 年 4 月 16 日 ( 日 ) 午前 1 時 25 分 熊本県上益城郡益城町 西原村で震度 7 を観測する地震が発生しました ( 本震 ) 気象庁はこれらの地震を 平成 28 年熊本地震 と命名しました 地震の規模は 前震はマグニチュード 6.5 本震はマグニチュード 7.3 で 本震は 1995 年兵庫県南部地震 ( 阪神 淡路大震災 ) と同じマグニチュードです 今回の地震は 地震調査研究推進本部の長期評価の対象となっている活断層 ( 日奈久断層帯 布田川断層帯 ) によるものと考えられます 防災科学技術研究所の強震観測網 (K-NET kik-net) や気象庁 熊本県の観測波形を利用して推定した本震 (M7.3) の震度分布をみると 益城町から西原村西部にかけての震源断層周辺に震度 7 の地域が分布するとともに 宇土市東部から阿蘇市西部にかけての地域で震度 6 強の地域が広がっています 木造建物の被害に影響を与える周期 1~2 秒の疑似速度応答スペクトル (psv) を求めると 益城町震度計の値は 1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取や 2004 年新潟県中越地震の川口町震度計の記録よりもやや大きなレベルの値を示しています h=5% 阿蘇市 宇土市 熊本市 益城町 西原村 南阿蘇村 図 1 推定震度分布 ( ともに本震 (M7.3) のもの ) 図 2 疑似速度応答スペクトル 2

2 被害の概要熊本県内の被害状況は 4 月 26 日現在 死者 63 名 ( 内 震災関連死 14 名 ) 行方不明者 1 名 重軽傷者 1,391 名以上 住家全壊 1,750 棟 半壊 1,715 棟 一部損壊 2,537 棟となっています 本震の断層に近い嘉島町から南阿蘇村にかけての地域と宇土市で住家全壊棟数が 100 棟を超えています 特に益城町では 1,000 棟を超え 地震全体の被害の半分以上を占めています また 死者数は益城町と南阿蘇村で多く 死者 ( 震災関連死を除く ) の約 7 割が 65 歳以上の高齢者で占められています 図 3 住家全壊棟数の分布 図 4 死者の年齢区分別構成比 3

3 現地被害調査報告 ( 速報 ) 3-1 調査概要平成 28 年熊本地震で大きな被害が発生した熊本県上益城郡益城町 西原村を中心に 建物の被害状況調査を実施しました 調査日時 2016 年 4 月 22 日 ( 金 )~4 月 23 日 ( 土 ) 調査地域 1 上益城郡益城町 2 上益城郡西原村 3 熊本市 4 宇土市 2 西原村 3 熊本市 1 益城町 4 宇土市 図 5 調査地点概略図 ( 背景図には国土地理院の地理院地図を使用した ) 4

3-2 益城町の被害状況益城町は 熊本市の東側に隣接する町で 震源断層の真上に位置し 今回の地震で最も大きな被害を出した地域の一つです 町役場にある震度計では 前震 本震ともに震度 7 を観測しました 益城町では 1kik-net 益城 ( 防災科学技術研究所の強震観測点 ) 周辺 2 益城町役場周辺 3 県道 28 号線沿い 4 県道と秋津川の間の地域 の 4 地域を中心に現地調査を実施しました 今回調査した地域は kik-net 益城から秋津川に向かって地表面が傾斜しています ( 下り坂 ) 地形分類では kik-net 益城や益城町役場周辺は火砕流台地面 県道 28 号線周辺が段丘面 秋津川周辺が谷底低地に属しています 建物被害の大きい地域は 県道 28 号線沿いや県道 28 号線から秋津川の間の地域です これらの地域では 1 階部分が圧潰している建物も複数確認されました 特に 瓦葺など屋根材の重い建物や古い建物で被害が大きくなっています ( 国土地理院の基盤地図情報を使用した ) 2 益城町役場周辺 3 県道 28 号線沿い 4 県道 28 号線と 秋津川の間の地域 1kik-net 益城周辺 図 6 調査範囲 ( 益城町 ) と断面位置図 B A 益城町震度計 h=5% kik-net 益城 h=5% 建物被害が特に大きい地域 psv[1s] = 436kine psv[1s] = 382kine 秋津川 A 県道 28 号線 益城町木山交差点 益城町役場 B (Kik-net 益城 ) この測線上に位置していないため実際には さらに標高が高い場所にある 谷底低地 低地堆積物 段丘面 段丘堆積物 火砕流台地面 火山灰細屑物 図 7 位置図と調査範囲の位置関係 5

写真 1 1 階の壁面に亀裂が入った建物 (1kik-net 益城周辺 ) 写真 2 石垣 石積擁壁 ブロック塀の被害 状況 (2 益城町役場周辺 ) 写真 3 1 階に大きな残留変形が残る共同 住宅 (2 益城町役場周辺 ) 写真 4 1 階が圧潰した木造住宅 (3 県道 28 号線沿い ) 写真 5 1 階に大きな残留変形が残る S 造 店舗 (3 県道 28 号線沿い ) 写真 6 木山橋付近の被害状況 (4 県道 28 号線と秋津川の間の地域 ) 6

3-3 西原村の被害状況 西原村は 益城町と南阿蘇村の間に位置する村で 村の中部を北東 - 南東走向の布田川断 層帯が走っています 村役場にある震度計では 前震では震度 6 弱 本震では震度 7 を観 測しました かざ西原村では 1 村役場周辺 2 風 て 当 こが地区 3 古閑 みょうがさこ 地区 4 名ヶ迫地区を中心に現地調査 を行いました このうち 風当地区では瓦葺屋根の建物を中心に 多くの建物が倒壊して いるのを確認しました この地区は大峯山麓の傾斜地に位置していることもあり 家を建 てるための整地に伴って作られた石垣や擁壁の被害が多くみられました そのため 建物 の基礎の損傷など 地盤の変形が建物に影響を与えていると考えられる箇所が多数ありま した 一方で 村役場では 本震で震度 7 を観測していますが 調査した範囲では村役場 周辺に倒壊した住家は見られませんでした 3 古閑 4 名ヶ迫 2 風当 1 村役場 h=5% 図 8 調査位置図 ( 西原村 ) 図 9 疑似速度応答スペクトル 7

写真 7 壁の被害 (1 役場付近 ) 写真 8 外観上は被害が無く 営業を再開し ている郵便局 (1 村役場付近 ) 写真 9 完全に倒壊した建物 (2 風当地区 ) 写真 10 建物は外観上の被害はないが敷 地が崩落した建物 (2 風当地区 ) 写真 11 1 階部分が圧潰した建物 (3 名ヶ迫地区 ) 写真 12 道路法面の崩壊により土砂が家 屋に入り込んでいる (4 古閑地区 ) 8

3-4 熊本市東区 宇土市役所熊本市東区の健軍 保田窪 西原地区の建物被害状況及び宇土市庁舎の被害を調査しました 防災科学技術研究所の観測点 K-NET 熊本 ( 熊本市東区 ) K-NET 宇土ともに 本震で震度 6 強を観測しました 健軍地区では 健軍商店街にあった 3 階建店舗の 1 階部分が圧潰し 建物が商店街のアーケードの支柱に寄り掛かっている状況でした また 商店街内及びその周辺の建物も 1 階部分に大きな残留変形の残っている建物や外壁に被害のある建物も複数確認されました 保田窪 西原地区では 非木造建物を中心に調査を行いました 西原 1 丁目では 5 階建マンションの 1 階部分が圧潰しているのが確認されました この他にも 高層マンションの中間階の壁面にせん断クラックが入ったマンションや外壁が落下した中低層建物等がみられました 本震の震源断層から少し離れた宇土市庁舎の被害状況を確認しましたが 5 階建庁舎の 4 階部分が圧潰していました 市役所周辺は低層建物がほとんどで市庁舎と同じような高さの建物はありません 周辺の被害としては 一部で瓦屋根が落下した木造住宅もありますが ほとんど被害はありませんでした 2 保田窪 西原 h=5% 上江津湖 下江津湖 1 健軍 ( 基盤地図情報 国土数値情報を使用した ) 図 10 調査位置図 ( 熊本市 ) 図 11 疑似速度応答スペクトル 9

写真 13 1 階が圧潰したマンション ( 熊本市東区西原 1 丁目 ) 写真 14 写真 13 の 1 階部分の損傷状況 写真 15 マンション中間階の壁面に入っ たクラック ( 熊本市東区保田窪 ) 写真 16 宇土市役所 ( 宇土市 ) 写真 17 1 階が圧潰しアーケードの支柱に寄り掛かった建物 ( 熊本市東区健軍町 ) 10

3-5 地表断層益城町および西原村にかけての 3 か所で地表面の変位を調査しました これらは周辺の地形とは関係なく連続していることから 地すべり等の質量移動ではなく 震源断層の延長が地上に露出した地表断層であると考えられます これらの地表断層の多くは北東 - 南東方向で 地震のメカニズムと整合しています 一方で 益城町下陳地区では北西 - 南東走向の亀裂も見られました 3 西原村小森 2 西原村堂園 1 西原村下棟 図 12 調査位置図 ( 地表断層 ) 図 13 下陳地区の地表に露出する亀裂 変位 11

写真 18 西原村小森での変位 右横ずれ約 1m 写真 19 益城町堂園での水平変位 右横ずれ約 190 cm 写真 20 写真 19 の拡大 写真 21 益城町堂園での右横ずれ変位と 周辺の建物被害 写真 22 益城町下陳地区での右横ずれ変 位 ( 約 1m) 写真 23 北西 - 南東走向の亀裂 垂直変位 を伴い 畔による段差を越えて連続する 12

4 企業の被害状況 ( 速報 ) 今回の地震では 熊本県を中心とした地域の企業の生産活動に影響が出ています 各企業の公表資料や報道等からは 建屋や生産設備の被害 設備の点検 ライフラインの供給停止 従業員の自宅の被災等の様々な原因により 工場の操業が中断されたことがわかります 今回の地震で何らかの理由で操業を中断した工場と震度 ( 本震 前震の大きい方の震度 ) の関係を業種別に整理した結果 震度 6 弱以上となると 様々な原因で操業が停止していることがわかります このうち 電機 精密機械産業は震度 5 弱程度でも操業が停止するケースがみられます この現象は 東日本大震災でも確認されており 高い加工精度が必要な製造設備の場合 小さな揺れでも調整や修理が必要になることが一因と考えられます 生産拠点の操業が中断する業種間の相対的な差は 東日本大震災の場合とほぼ同様の傾向を示しており 電機 精密機械 自動車 鉄鋼 非鉄 素材 化学産業などが比較的低い震度から操業が中断する一方 医療 食品産業等は操業停止となる震度がやや高い傾向にありました なお これらのデータはあくまで公表されたもののうち現時点で弊社が把握できたものだけを対象にしており 同程度の震度であっても操業が中断していない工場や 逆に低い震度であっても何らかの理由で操業が中断した工場もあることを念頭において見る必要があります 凡例業種 今回の地震で操業が中断した各工場の震度東日本大震災で操業が中断した震度の範囲 ( 業種別 ) 図 14 操業が中断した震度の業種別の比較 13

図 15 操業中断が確認された工場の位置と推定震度分布 また 2007 年新潟県中越沖地震 2011 年の東日本大震災に続き 地震被害によってサプライチェーンは大きな影響を受けています 自動車産業では 熊本県の部品メーカーの被災により 熊本県外に所在する大手自動車メーカーの複数の工場で操業停止となりました この影響は 海外大手自動車メーカーの北米の複数の工場にまで影響が及んでいます 14

5 おわりに本資料は 2016 年 4 月 22~23 日に実施した現地調査や 2016 年 4 月 26 日時点までに判明した情報を元に 平成 28 年熊本地震の被害概況を整理したものです 今回の地震は 東日本大震災と比較すると被災範囲は限定的かもしれません しかし 企業活動への影響は大きく その影響範囲は海外へも及んでいます 様々な活動が複雑に影響し合う社会において 企業が地震に対してどのように備えるべきか改めて考えていく必要があります 弊社では 今後も 今回の地震に関する情報や事例の収集 整理 分析を行い 情報を発信していきたいと考えております 最後になりましたが 2016 年熊本地震では 現時点で 50 名を超える方がお亡くなりになり 多くの方が被災されました 亡くなられた方およびそのご遺族の方にはに謹んでお悔やみを申し上げますとともに 被災された方々に 心よりお見舞い申し上げます 謝辞 本資料の作成にあたっては 国立研究開発法人防災科学技術研究所の強震観測網 (K-NET kik-net) 気象庁震度計 熊本県震度計 鉄道総合技術研究所の観測波形を利用させていただきました また 国土地理院の基盤地図情報 地理院地図 国土交通省国土政策局の国土数値情報を利用させていただきました ここに記して御礼申し上げます - 免責事項 - 本報告書の使用に起因して本報告書使用者または第三者に発生しうる損害賠償責任等その他一切の法 的問題から OYORMS およびその関係会社 従業員は免責されます 15