ブロックチェーンと生産性向上 2017 年 12 月 21 日 国際大学グローバル コミュニケーション センター 准教授 / 主幹研究員 研究部長 高木聡一郎
自己紹介 国際大学 GLOCOM 研究部長 / 主幹研究員 / 准教授 GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ代表 (2016.3~) 経済産業省 ブロックチェーン技術を活用したシステムの評価軸整備検討委員会 委員長 2016-2017 総務省情報通信審議会情報通信政策部会 IoT 政策委員会基本戦略 WG ブロックチェーン活用検討サブワーキンググループ構成員 2017- ISO TC307(Blockchain and electronic distributed ledger technology) 国内審議委員会委員 2016- 専門は情報経済学 研究ドメインは 情報技術 経済学 オフショア開発と雇用 生産性 クラウドコンピューティングのマクロ経済への影響 IT と組織形態 ( オープンデータ マスコラボレションなど ) 情報経済学から見たブロックチェーン 1
高騰するビットコイン価格 1 BTC 450,000 円 (2017 年 8 月 23 日時点 ) 980,000 円 (2017 年 11 月 26 日 ) 1,280,000 円 (2017 年 12 月 4 日 ) 12000 Price 11789 ドル (2017/12/5) 10000 8000 6000 4000 2000 432 ドル (2016/1/1) 997 ドル (2017/1/1) 4043 ドル (2017/8/21) 0 2009/1/3 2010/1/3 2011/1/3 2012/1/3 2013/1/3 2014/1/3 2015/1/3 2016/1/3 2017/1/3 2
仮想通貨の種類 ビットコイン類似の仮想通貨は約 1,300 種類 合計の時価総額は約 2,800 億ドル ( 約 30 兆円 ) 約半分がビットコイン $160,000 $140,000 $120,000 $100,000 $80,000 $60,000 $40,000 $20,000 $0 Market Cap (m$) 3
ブロックチェーンの 3 大要素 ブロックチェーンの定義は定まっていないが 通常は以下の 3 要素が含まれる データの連結 + 情報資産とエンティティ ( 主体 ) の紐付け + P2P でのデータ管理 合意形成 改ざん困難 情報の所有 流通 用途の管理 信頼性向上中央管理者不要 4
ブロックチェーンがもたらしたもの ブロックチェーンとは インターネット技術の上に構築される価値 ( 資産 ) 交換の分散型インフラ技術である ブロックチェーン : 価値交換のネットワーク インターネット : 情報のネットワーク 5
スマート コントラクト 静的データの保存だけでなく ソフトウェアが動作するプラットフォームとしても機能 ブロックチェーンはネットワーク型コンピュータに ブロックチェーンに配置されたコード 処理ロジックをブロックチェーン上にデプロイ 共有された約束事 として存在 条件が整えば自動的に起動 処理を実行 基本的にどのような処理も記述可能 ( チューリング完全 ) 外部 API との連携も可能になりつつある 6
リーダーなき分散型台帳の世界 いかに台帳間の合意 ( コンセンサス ) を取るか バージョンA Block Block Header Header TX1 TX1 TX2 TX2 バージョンA Block Block Header Header TX1 TX1 TX2 TX2 Block Block Header Header TX1 TX1 TX2 TX2 バージョン B Block Block Header Header TX1 TX1 TX2 TX2 バージョン C 7
誰が新規ブロックを作成するか? Proof of Work( ビットコインの場合 ) ブロックができるまであえて時間 ( 労力 ) がかかるように設定 閾値をクリアするまで繰り返す 平均すると 10 分で閾値をクリアするよう設定 最初に新ブロックを作成した人には新規のビットコイン ( 現在は 12.5BTC) が発行される ブロックヘッダーの詳細 バージョン情報 前のブロックヘッダー 前のブロックのハッシュ値ハッシュ木のルート タイムスタンプ 難易度 H 難易度に指定された閾値と比較 大きい 小さい 新しいブロックとしてネットワークに提供 ナンス ( ランダムな値 ) ナンスを変更 8
価格と電力消費の関係 ビットコイン価格の上昇が電力消費の増大を招く 逆方向もあり得る 結果的に均衡 ビットコイン価格の上昇 電気代の増加 マイニングへの参入増加 競争激化 消費電力の増加 マイニング難易度の上昇 ハッシュ処理量の増加 9
合意形成の落とし穴 決定事項を強制するメカニズムがないため 常に分裂のリスクを持つ マイナーたち 賛成 賛成 賛成 反対 賛成 反対 賛成 賛成 ブロックチェーン一定期間のうち 割の賛成が得られたか? 賛成反対反対反対賛成賛成賛成賛成 10
分裂と時価総額の動向 BTC と BCH の分裂に際して BTC の値下がりは見られなかった 仮想通貨そのものには価値は無く 何と交換するかで価格は決まる ( 交換媒体 ) その後 Bitcoin Gold Bitcoin Diamond UnitedBitcoin 等 6 種類が分岐 120,000,000,000 BTC と BCH の時価総額 ( 積み上げ ) 100,000,000,000 BCH 80,000,000,000 60,000,000,000 40,000,000,000 20,000,000,000 0 1-Mar-17 1-Apr-17 1-May-17 1-Jun-17 1-Jul-17 1-Aug-17 1-Sep-17 1-Oct-17 BTC Market Cap BCH Market Cap 11
ユースケースの展開 分散型組織への期待は高いものの 実際は暗号通貨に関するものも多い BC1.0 BC1.5 BC2.0 スマートコントラクト 電力取引 土地登記 シェアリング クラウドソーシング 台帳 ダイヤモンド 著作権 サプライチェーン 学歴 投票 公証 食品偽装 チケット 医療 難民 ID 暗号通貨 ビットコイン カラードコイン オルトコイン ICO 地域通貨 社内通貨 社会保障 クラウドファンディング データ売買 IoT プラットフォーム Bitcoin Bitcoin, Ethereum Bitcoin, Ethereum+ 12
暗号通貨の応用 : 社会保障給付 英国の労働年金省 (Department of Work and Pensions) が マンチェスター市において生活保護費の支給に仮想通貨を使う実証実験を実施中 トレーサビリティ 透明性の強化行政 Govcoinで支給 ポンドと固定レートで交換する仮想通貨 (Govcoin) を用いて生活保護費を支給 生活保護費で買える対象を限定し 制度の目的に合致しない支出を抑制 Govcoin で購入 Bitcoinベースのカラードコインで実装 フィアットマネーとの交換 商店が使えるコインか確認 13
スウェーデンにおける不動産登記 & 売買 スウェーデン土地管理局が参加したスマートコントラクトによる土地売買 登記システムの検討 幅広いステークホルダーのシームレスな連携 出典 :https://chromaway.com/landregistry/ http://www.coindesk.com/sweden-moves-next-stage-blockchain-land-registry/ GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ 売主がリードしてスマートコントラクト利用を開始 売買の交渉 価格決定 銀行によるコミット 登記所による登記変更までカバーする 対象となるプロパティの指定については公的な ID を利用 不動産登記については ホンジュラス ジョージア ガーナ等でも検討 ステークホルダーは広く 載せる情報は小さくがポイント 14
21.co の Machine Payable Web 既存の API に課金を組み込む仕組みを提供 21 のネットワーク API Data API 21.coが提供しているもの APIのマーケットプレイス ユーザー間のネットワーク Buffer API のマネタイズ化のためのライブラリ ビットコインのブロックチェーン 15
環境データの収集 + マネタイズ 出典 :21.co https://21.co/learn/sensor21/#sensor21-earn-bitcoin-by-collecting-environmental-data 16
分断されたサービスの つなぎ役 CircleのCENTREは各モバイルペイメントを跨いだ支払いを目指す UBSのユーティリティ セトルメント コインは組織と金融商品を越えた価値交換を目指す いずれも分断された仕組みの つなぎ役 として相互運用性を志向 Circle の CENTRE UBS のユーティリティ セトルメント コイン WeChat Pay Paytm 組織 A 株式 組織 B 債権 Alipay 組織 C 金融商品 17
コミュニケーションによる発行される地域通貨 会津若松市で行われた 萌貨 実証実験 円 では実現しにくい価値交換の促進 参加者間のコミュニケーションにより新規発行される 通貨発行によりコミュニケーションを活性化 住民 ( 参加者 ) はその通貨の価値を高めるインセンティブを共有するステークホルダーとなる 通貨発行 価値の増加 Source: Takagi et al. (2017) Blockchain-Based Digital Currencies for Community Building, GLOCOM Discussion Paper Series 17-004 18
ICO:Initial Coin Offering ICO: ブロックチェーンを活用したサービスを新規に開始するにあたり そこで使われるコイン ( トークン ) を売り出し 資金を調達すること 順位企業名 ICO 終了日 調達額上位 15 社 (2017 年 10 月時点 ) 金額 ( 百万ドル ) 日本円換算 ( 億円 ) 1 Tezos 7/13/2017 232 260 プラットフォーム 2 Bancor 6/12/2017 153 171 プラットフォーム / トークン連携 3 The DAO 5/1/2016 152 170 投資ファンド 4 Status 6/21/2017 95 106 プラットフォーム / モバイル対応 5 TenX 6/24/2017 83.11 93 送金 決済 6 PressOne 7/15/2017 82 92 ICOプラットフォーム 7 MobileGo 5/25/2017 53.07 59 ゲーム 8 SONM 7/15/2017 42 47 フォグコンピューティング 9 Basic Attention Token 5/31/2017 35 39 広告 10 Civic 6/22/2017 33 37 ID 11 Polybius 7/5/2017 31.65 35 バンキング 12 Storj 5/25/2017 29.22 33 クラウドストレージ 13 Agrello 8/17/2017 26.14 29 スマートコントラクト支援 14 Tierion 8/10/2017 25.04 28 データ認証 管理 15 Aragon 5/17/2017 24.75 28 プラットフォーム / 分散型組織 内容 出典 :Coindesk ICO Database 及び筆者作成 19
ICO による資金調達 ( 累積 ) ICO による資金調達は活況を呈しており 累積で 2,000 億円に上る Cummulative ($m) 2000 約 2,000 億円 1800 Tezos 1600 1400 1200 1000 800 600 The DAO 400 200 0 2/3/2014 9/2/2014 2/21/2015 10/1/2015 3/28/2016 5/1/2016 6/1/2016 7/30/2016 9/5/2016 10/2/2016 11/9/2016 11/29/2016 12/4/2016 12/21/2016 12/31/2016 2/14/2017 2/27/2017 3/21/2017 4/3/2017 4/10/2017 4/27/2017 4/30/2017 5/8/2017 5/15/2017 5/22/2017 5/26/2017 5/31/2017 6/6/2017 6/11/2017 6/14/2017 6/22/2017 6/24/2017 6/26/2017 6/29/2017 7/1/2017 7/4/2017 7/6/2017 7/13/2017 7/15/2017 7/17/2017 7/21/2017 7/26/2017 7/31/2017 8/7/2017 8/24/2017 ( 参考 ) 日本国内のベンチャー投資は年間 950 億円 米国は 7 兆円 20
一般的な活用法から見るメリット デメリット ブロックチェーンの要素 中 改ざん耐性性産の管理可能 資央管理者不要性 使い方の重点応用例メリットデメリット 課題 複数組織で使用する場合 スピード デーに特定の他組織に依存し 土地 法人登記タ量 セキュリない サプライチェーンティに問題 利用履歴 信用情報 情報の信頼性が組織に クローズドで使依存しない オープン型であればコスうならRDBと要トが安い比較 一般的なデータベースの代わりとして使う 仮想通貨 トークンの機能を中心に使う 自律的なサービス稼働の仕組みとして使う 仮想通貨 電力取引 銀行間決済 中央銀行デジタル通貨 社会保障支給 IoT デバイス間決済 クラウドソーシング マーケットプレイス シェアリング 通貨の信頼が組織の信頼に依存しない 低コスト スピーディに開発できる 決済処理をコード化しやすい (IoT への応用 ) マネーに機能を付けやすい ( 使途制限等 ) 従来より安いコストで決済 送金できる場合がある 個人がより自律的に経済活動を行える 手数料が安くなる場合がある アルゴリズム上の安全性を確認できるか オープンに運用する場合のインセンティブ クローズ的に運用する場合の信頼の源泉 イノベーションの担い手の報酬 運用の担い手 改善の意思決定と実施等 21
ブロックチェーンはインフラになれるか? DLT/ パーミッションド個別の公開インフラ標準化されたインフラ 22
マクロレベルでの経済的変容 信頼の脱組織化 情報の信頼性が組織に依存しない アルゴリズムが担保する 誰でも信頼できる価値交換の仕組みを提供可能 多様でミクロな経済圏が誕生 分散化インセンティブ メカニズム 分散型 = トークン発行により 契約関係にない相手にインセンティブを生じさせることで業務を回す仕組み 何に対して発行するか によってインセンティブを設計可能 経済活動の自動化 仮想通貨 トークン スマートコントラクトによりマシンが自動的 自律的に経済活動を行う 23
生産性を巡る論点 企業体としての組織を不要とするブロックチェーンの生産性 組織運営にかかるコストの削減 ( 組織運営 雇用契約にかかる取引費用等 ) 例 : デジタル通貨の生産性 フィアットマネー : 中央銀行の運営費用 デジタル通貨 : マイニングにかかるコスト エネルギーコストの増大 但しマイニングの方式は発展途上 ブロックチェーンを利用する企業の生産性 ハードウェア ミドルウェアのコスト 参考 : 日本取引所レポート 情報セキュリティ対策費の一部削減 但し クローズドのブロックチェーンの影響は限定的 新たな経済活動の促進 多様な価値を取引可能にする媒介手段の提供 ミクロな経済取引の実現 (IoT と決済の融合等 ) 24