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Transcription:

Ⅰ 緒言 カンキツ 清見 をコルヒチン処理して得られた個体の特性 津村哲宏 山尾正実 德永忠士 Characteristics of kiyomi tangors treated by the colchicine solution TSUMURA,T.,M.yamao,T.tokunaga 清見 ( 西浦ら 1983) はそれ自身も優秀な品種であるが 育種親としても優秀な品種であり 今までに 不知火 ( 松本 2001) をはじめ多数の品種の種子親となっている ( 松本ら 1991; 奥代ら 1991; 三股ら 1997 ; 吉田ら 2000; 松本ら 2001) 清見 の特徴として 単胚性 雄性不稔で単為結果性があり無核果実が 得られるが 雌性稔性が強く 交配されると沢山の種子が形成される この雌性稔性が強いという形質は後 代にも遺伝し 交配組み合わせによっては多数の種子が形成される ( 山本ら 1992) 無核系が求められてい る現状では 品質が良くても種子が多いと普及品種として認められにくい 無核になる要因としては 単為結果性 雄性不稔性 雌性不稔性 自家不和合性等 多数の要因が関連し ている 無核系育種の手法として 含核数の少ない品種同士の組み合わせでその出現率が高いこと ( 山本ら 1992) 無核紀州 及び 無核紀州 の後代を花粉親に用いることにより無核系統が高確率で得られること ( 根角ら 1992) 3 倍体カンキツは無核 または 少核になること ( Soost ら 1980) との報告がある 無核系作成の一手法である 3 倍体の育成について カンキツでは 3 倍体を獲得する方法として 2 倍体の 種子の中から小粒種子を播種すると3 倍体が得られることが知られており ( 岩政 1976) イヨカン や アンコール に含まれる小粒種子を播種することにより多数の3 倍体が得られている ( 喜多ら 1987) しか し 3 倍体の育成には 4 倍体と 2 倍体の交雑が基本となる 単胚性 2 倍体カンキツに 4 倍体カンキツを交 配すると3 倍体が得られるがほとんどの種子は しいな となり ( 立川ら 1961) また 4 倍体や6 倍体も 得られる ( 生山ら 1992) この 2 倍体カンキツに4 倍体カンキツを交配して4 倍体が得られる原因として 非還元性雌性配偶子の存在を指摘しており ( 生山ら 1992) 単胚性 2 倍体カンキツと2 倍体カンキツとの交 配から 3 倍体が得られる現象も非還元性雌性配偶子の存在によるものであると考えられる 非還元性雌性配 偶子の形成は品種によってその程度が異なり ( 生山ら 1992) 清見 に4 倍体カンキツを交配して得られ た種子から4 倍体が得られなかった ( 生山ら 1992 ) ことは 清見 は非還元性雌性配偶子が形成されにく い品種であると考えられ 清見 に2 倍体カンキツを交配しても3 倍体カンキツは得られないと推測される カンキツについても 効率的に3 倍体を得るには4 倍体が必要である 3 倍体カンキツ育成事例について キンカンでは 珠心胚実生変異から得られた 4 倍体ニンポウキンカンを花粉親に単胚性の 2 倍体長実キンカ ンに交配を行い 3 倍体キンカンの ぷちまる が育成されている ( 根角ら 2000) しかし 単胚性 2 倍体 カンキツを種子親とした場合 胚乳が退化し 種子がしいなになる ( 立川ら 1961) ため胚培養が必要とな る スダチでは 枝変わりで得られた 4 倍体スダチ ( 多胚性 ) を種子親に 2 倍体スダチを花粉親として交配 を行い 3 倍体スダチ 徳島 3x1 号 が育成されている ( 德永ら 2000) 4 倍体多胚性カンキツを種子親 とした場合 同品種の2 倍体カンキツを種子親とした場合よりも胚数が減少する ( 立川ら 1961) が 珠心 胚の生育が旺盛で交雑胚は退化してしまう場合が多く ( 生山ら 1992) 交雑実生獲得のためにはやはり胚培 養が必要となる さらに効率的に 3 倍体を獲得するためには 完全種子が得られる単胚性 4 倍体カンキツの存在が必要であ る しかし 4 倍体カンキツの報告は 単胚性では枝変わりによる4 倍体 日向夏 ( 下郡ら 1987) コル

ヒチン処理と簡易茎頂接ぎ木を合わせた方法により育成された クレメンティン ハッサク 日向夏 宮内イヨカン 平紀州 ( 生山ら 1992) の6 品種しかない また 多胚性 4 倍体カンキツについても 4 倍体珠心胚実生 2 倍体と4 倍体との交雑による4 倍体交雑実生 ( 生山ら 1992) 2 倍体カンキツのカルス と体細胞との細胞融合による4 倍体体細胞雑種 ( Kobayasi ら 1988) 等であり 2 倍体カンキツの多様性に 比べてはるかに劣る 枝変わりによる4 倍体の出現 ( 下郡ら 1987; 德永ら 2000) は希だと考えられ 単 胚性 4 倍体カンキツとなると その人為的作成にはコルヒチン処理しかない そこで 2 倍体同士の交配では 3 倍体を得ることが難しく また 優秀な育種親である 清見 を種子親 として無核系作成の一手法である3 倍体を育成するために コルヒチン処理 ( 生山ら 1992) により 4 倍 体清見 を作成し 4 倍体清見 を種子親として2 倍体カンキツとの交配による3 倍体カンキツの獲得を試 みた Ⅱ 材料及び方法 コルヒチン処理 ( 生山ら 1992) は 1997 年 5 月に未硬化枝の腋芽を切り取り 0.1 % コルヒチン溶液に室 温で2~6 時間浸責後 暗黒下 28 で2 週間生育させたカラタチ実生に簡易茎頂接ぎ木を行い 温度 28 4000 ルクス 16 時間照明下の室内培養室に置いた 発芽した個体は 1998 年 5 月に2 年生カラタチに寄接を 行い生育を促進させた ( 高原ら 1981; 生山ら 1992) その中から倍数化していると思われる2 個体につい て 1999 年 2 月にフローサイトメーターによる倍数性調査 ( 竹中ら 1997) を行った 2001 年 5 月に倍数化 していると思われる1 個体 清見 コルヒチン処理個体 に着花が認められたので 阿波オレンジ ( 日 向夏 トロビタオレンジ ) 及び チャンドラポメロ ( ブンタン類 ) を花粉親として交配を行った 果実は2001 年 10 月に収穫し 得られた種子は各交配組み合わせ 18 粒について 種皮を剥いてロックウール状の培地に 播種した 実生は播種 1ヶ月後に 暗黒下 28 で2 週間生育させたカラタチに割り接ぎ木を行い 温度 28 4000 ルクス 16 時間照明下の室内培養室で3ヶ月生育させた後 2002 年 4 月にガラス室に移し生育さ せた なお 得られた実生について 2002 年 2 月にフローサイトメーターによる倍数性調査を行った Ⅲ 結果 コルヒチン処理した個体は ほとんどが枯死したが 十数個体が発芽してきた そのほとんどが 2 倍体と 変わらない形状であったが その内 2 個体が2 倍体に比べて葉が厚く倍数化している ( 生山ら 1992) と思 われた この2 個体について染色体数を顕微鏡で調査したところ4 倍体の細胞が認められた ( 写真 1) また フローサイトメーターによる倍数性調査を行ったところ 1 個体は 4 培体の細胞よりも 2 倍体の細胞が多い キメラ個体であった ( 図 1) が 1 個体はほぼ倍数化していると思われる個体 ( 以下 清見 コルヒチン処 理個体 ) であった ( 図 2 ) 生育した 清見 コルヒチン処理個体 ( 写真 2) は2 倍体 清見 に比べて 葉が厚く幅があり トゲが大きく 枝数は少ない傾向であり ( 表 1 写真 3 ) 果実は 2 倍体 清見 と外観 上差は認められず 果皮の厚さにも大きな違いは認められなかった ( 写真 4 ) 阿波オレンジ 及び チャ ンドラポメロ を花粉親として交配を行った果実からは多数の種子が得られ 全てが 2 倍体の清見の種子に 比べて小さかった ( 写真 5 ) 各交配組み合わせについてそれぞれ種子 18 粒を播種したところ全て正常に発 芽 成長した ( 写真 6 ) これらの実生の倍数性についてフローサイトメーターで調査したところ 花粉親が 阿波オレンジ では6 個体が3 倍体 ( 図 3 ) 12 個体は2 倍体であり 花粉親が チャンドラポメロ で

は 18 個体全てが2 倍体 ( 図 4) であった ( 表 2 ) 表 1 清見 及び 清見 コルヒチン処理個体の外観特性 葉の厚さ葉身指数 * トゲの大きさ枝数 清見 ( 2 倍体 ) 0.33mm 2.4 無 ~ 小中 清見コルヒチン処理個体 0.45mm 1.8 小 ~ 中少 *: 葉身指数 = 葉身長 / 葉身幅 表 2 清見 コルヒチン処理個体から得られた後代実生の倍数性 交配組み合わせ 出現個体数 2 倍体 3 倍体 4 倍体 合計 清見コルヒチン処理個体 阿波オレンジ 12 6 0 18 清見コルヒチン処理個体 チャンドラポメロ 18 0 0 18 写真 1 清見 コルヒチン処理個体の染色体数 (2n=36) 写真 2 清見 コルヒチン処理個体の樹 ( 二代目 )

写真 3 清見 及び 清見 コルヒチン処理個体の葉の形状 右 : 清見 左 : 清見 コルヒチン処理個体 写真 4 清見 及び 清見 コルヒチン処理個体の果実 上段 : 清見 コルヒチン処理個体 下段 : 清見 写真 5 清見 及び 清見 コルヒチン処理個体の種子 右 : 清見 左 : 清見 コルヒチン処理個体

写真 6 清見 コルヒチン処理個体 阿波オレンジ から得られた 3 倍体実生 図 1 2 倍体と 4 倍体細胞が混在する 清見 キメラ個体 図 2 清見 コルヒチン処理個体

図 3 清見 コルヒチン処理個体 阿波オレンジ (3 倍体 ) 図 4 清見 コルヒチン処理個体 チャンドラポメロ (2 倍体 ) Ⅳ 考察 今回 コルヒチン処理により作成した 清見 コルヒチン処理個体 は2 倍体に比べて葉が厚く丸みがあ り また トゲも大きく倍数 (4 倍体 ) 化している ( 生山ら 1992) と思われ フローサイトメーターによ る倍数性調査からもほぼ倍数化していると思われた この 清見 コルヒチン処理個体 に2 倍体カンキツ を交配したところ全て小粒ではあるが完全種子が得られた 阿波オレンジ を花粉親とした場合は3 分の1 の確率で3 倍体個体が獲得できたが チャンドラポメロ を花粉親とした場合は2 倍体個体しか得られなか った 阿波オレンジ を交配した果実より得られた種子から3 倍体と2 倍体の個体が発生した原因として 4 倍体個体が得られなかったことから 清見 コルヒチン処理個体 は2 倍体と4 倍体の細胞が混在するキ メラであることが考えられる チャンドラポメロ を交配した果実より得られた種子から2 倍体の個体しか 発生しなかった原因として 清見 コルヒチン処理個体 は2 倍体と4 倍体の細胞が混在するキメラであ ると考えられるため このようなキメラは不安定なために部分的に 4 倍体の細胞が少ないこと また 単胚

性 2 倍体カンキツに 4 倍体 川野ナツダイダイ 及び 4 倍体 フナドコ を花粉親として交配した場合 非 還元性雌性配偶子による4 倍体の出現率が花粉親により異なること ( 生山ら 1992 ) から 清見 コルヒ チン処理個体 についても花粉親の違いによる影響があることも考えられる 多胚性 4 倍体カンキツに 2 倍体カンキツを交配すると 3 倍体 ( 交雑 ) または 4 倍体 ( 珠心胚 ) が得られる が 受精胚は3 倍体となるため珠心胚が形成されても全て小粒種子となる ( 生山ら 1992) 清見 コルヒ チン処理個体 は 4 倍体と 2 倍体の細胞が混在するキメラと推測されるが 得られた 2 倍体の種子も 3 倍体 と同様に小粒種子であった原因は不明である 清見 コルヒチン処理個体 に2 倍体カンキツ 阿波オレンジ を交配して得られた3 倍体獲得率は1 果実当たり 6 個体 完全種子数当たり 33.3 % であった 清見 に4 倍体 フナドコ を交配して得られた 3 倍体獲得率は 1 果実当たり 0.6 個体 完全種子数当たり 100 %( 生山ら 1992) であるが 多数得られ ている しいな 等の不完全種子についての胚培養は行われてなおらず もし 胚培養を行ったとした場合 1 果実当たりの 3 倍体獲得数はもう少し高い値であったと考えられる このことを考慮すると 今回の数値 は高いとは言えないが 清見 コルヒチン処理個体 から胚培養の手間が必要としない3 倍体完全種子が 1 果実当たり 30 % の確率で得られたことは高確率であると言える カンキツ等の木本性殖物へのコルヒチン 処理は4 倍体と2 倍体の細胞が混在するキメラになることが多いと言う報告もあり ( Sanford. 1983) 清 見 コルヒチン処理個体 も 4 倍体と 2 倍体の細胞が混在するキメラであると考えられる キメラ個体から 完全な 4 倍体を得るためには コルヒチン処理を重ねることにより 2 倍体の細胞を減らしていくことが必要 であると考える 清見 に限らず 完全な単胚性 4 倍体カンキツを作出する事ができれば 高確率で3 倍体 カンキツが獲得できると考える Ⅴ 摘要 無核カンキツ作成の一手法である3 倍体を育成する目的で 清見 にコルヒチン処理を行い4 倍体を作出 し 2 倍体カンキツとの交配により 3 倍体個体の獲得を試みた 1. 清見 コルヒチン処理個体 は2 倍体 清見 に比べて葉が厚く幅があり トゲが大きく 枝数は少 ない傾向であった 2. フローサイトメーターによる倍数性調査を行ったところ 清見 コルヒチン処理個体 はほぼ倍数化 していると思われた 3. 交配を行った果実からは多数の種子が得られ 全てが 2 倍体の清見の種子に比べて小さい小粒種子であ ったが 正常に発芽 成長した 4. 清見 コルヒチン処理個体に 阿波オレンジ を交配して得られた実生 18 個体について倍数性をフロ ーサイトメーターで調査したところ 6 個体の 3 倍体実生が得られた 5. 今回作成した 清見 コルヒチン処理個体 は2 倍体と4 倍体の細胞が混在するキメラであると考えら れる Ⅵ 参考文献 岩政正男. 1976. カンキツの品種. 静岡, 静岡県柑橘農業組合連合会. 喜多景治 佐川正典 窪田聖一 松本英紀. 1987.3 倍体利用によるカンキツ類の無核品種育成に関する研

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