大腿筋群の発達状態がサイドカッティングにおける 膝関節動態に及ぼす影響 Effects of developed state of thigh muscles on the knee joint dynamics during side cutting 12M40217 馮超然 Feng Chaoran 指導教員 : 丸山剛生准教授 審査員 : 林直亨教授 須田和裕教授 本研究では 大腿四頭筋および大腿二頭筋の発達状態がサイドカッティング動作における膝関節動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした 被験者は健康な男子 8 名 ( 年齢 :24. 6±1.5 歳 身長 :175.8±3.5cm 体重:65.4±7.7kg) であった 大腿筋群の発達状態を評価するため 座位姿勢による膝関節の伸展と屈曲動作における最大等尺性筋力を計測し 被験者の両足における大腿四頭筋に対する大腿二頭筋の筋力の割合 (H/Q 比 ) を求めた 次は高さ 24cm の台から着地してカッティングする動作と助走してからサイドカッティングする実験を行った どちらか左右の片足を床反力計に接地し その後接地した足の反対方向に 45 度前方に方向転換を行った その時の膝関節の運動学的及び動力学的動態と大腿筋群における筋活動量を計測し H/Q 比との関係を評価した その結果 両脚の大腿筋群の発達状態には左右差があり 左足の H/Q 比は 0.94 右足の H/Q は 0.67 有意水準 5% で有意差が認められた ドロップ着地からのサイドカッティングにおいて 左足と右足の膝関節の最大屈曲角度と最大外反角度には 有意な差が認められなかった 両足の大腿四頭筋とハムストリング筋活動量を比較し 左足のハムストリングは右足のハムストリングより活動していたことから 左足の膝関節への負荷を減尐させたことが考えられた 助走からのサイドカッティングにおいて 左足と右足の膝関節の最大屈曲角度と最大外反角度は 有意な差が認められなかった 最大関節間力は 左足が 11.69N/kg 右足が 10.74N/kg であり 前方方向の速度の影響により 膝関節前方方向への作用力がドロップ着地からのサイドカッティング実験より大きくなった 助走からのサイドカッティングの最大関節モーメントの平均値は左足が 24.57Nm/kg 右足が 18.89Nm/kg であり 有意水準 5% で有意差が認められた このの原因として 左足のハムストリングが大腿四頭筋の活動と同程度に活動していることが考えられた 大腿四頭筋とハムストリングがバランスよく活動することがカッティング時に膝関節障害を抑えることに貢献できると考えられた
Effects of developed state of thigh muscles on the knee joint dynamics during side cutting The purpose of this study was to investigate the effects of developed state of thigh muscles on the knee joint dynamics during side cutting. The subjects were eight healthy male students(age: 24.6±1.5 years,height:175.8±3.5 cm, weight:65.4±7.7 kg). To investigate the effects developed state of thigh muscles, the maximum isometric muscle strengths in flexion and extension motion of the knee joint were measured while subjects seated on chair holding subject s hands on the shoulder, and the ratio between flexion forces to extension force was calculated. In this study, it was defined that this ration was equal to the ratio between hamstrings to quadricep; the H/Q ratio. Then, subjects performed two experiments of one-legged side cutting exercise. One was named the drop side cutting that subject turned diagonally in front to the opposite direction of landing foot as quickly as possible after landing from the box heighted 24 cm. The other one was named the running side cutting that subject turned diagonally in front to the opposite direction of landing foot as quickly as possible after running on the 4m runway at speed of 3.1 m/s. The dynamics and kinematics of the knee joint and amount of muscle activity in the thigh muscles were measured, and the relationships between the H / Q ratio and these parameters were evaluated. The findings of this study were follows. The H/Q ratio was 0.94 in the left leg and 0.67 in the right leg. There was a significant difference at the 5% level between right and left legs in the developmental state of the thigh muscles. It was suggested that the development state of the thigh muscles in the left leg was better than one in the right leg. The maximum flexion and valgus angles of the knee joint showed no significant difference between the right and left legs for the drop side cutting and the running side cutting. However, compared with the the amount of muscle activity between hamstring and quadriceps of both legs, since the hamstring of left leg was more active than the right leg, it was suggested that the load on the knee joint of left leg was reduced. For the running side cutting, the maximum anterior force of knee joint in the left leg was 11.69 N/kg and one in the right leg was 10.74 N/kg. These values were larger than the drop side cutting. So it was suggested that run-up pre side cutting influenced on the knee joint force. Then, the maximum joint extension moment in the left leg was 24.57 Nm/kg and one in the right leg was 18.89 Nm/kg. There was a significant difference at the 5% level. It was suggested that the hamstring of left leg was working enough in the side cutting. In conclusion, a well-balanced activity of the hamstring and quadriceps could contribute to reduce the knee joint injury during turning diagonally in front.
1 序論サッカーやバスケットボールといった球技スポーツにおいて 進行方向を変更するカッティング動作が用いられる しかし そのカッティング動作中に膝の怪我が発生しやすい (1) と報告されている 膝の怪我の中でも特に 非接触前十字靭帯損傷 (ACL 傷害 ) に関する研究が多く報告されている Heweet ら (2) は ACL 損傷した選手たちが着地時の膝関節外反角度が有意に大きいことと膝関節外反モーメントピーク値が大きいことを示した Renstrom ら (3) は 膝屈曲角度が 30 を超えないと 大腿四頭筋による前方方向の作用力により ACL の負荷が増加することを示した Brophy ら (4) は サッカー選手において カッティング動作中に ACL 傷害の発生率について 蹴り足が多いことを報告している 大腿四頭筋とハムストリング筋活動の不均衡が ACL 傷害につながると報告する研究もいくつかある そこで 本研究の目的は次の二つとした : 1. 両脚の大腿四頭筋とハムストリングの筋力に着目し 伸展力と屈曲力を調査し 大腿筋群の発達状態を分析する 2.2 種類のサイドカッティング動作を用いる実験を行い 膝関節屈曲角度 外反角度 関節間力 関節モーメントの調査及びカッティング時の大腿直筋と大腿二頭筋の筋活動を測定し 大腿筋群の発達状態が膝関節動態に及ぼす影響を評価する 2 大腿筋群の発達状態の分析 2.1 被験者被験者は蹴り足が右足で スポーツ経験 8 年以上 健康な男子学生 8 名 ( 年齢 :24.6± 1.4years 身長 :175.8±3.5cm 体重:65.4 ±7.7kg) であった 2.2 実験 2.2.1 実験手順被験者は膝関節が 90 屈曲位姿勢で椅子に座り ベルトで被験者の体幹と大腿が固定され 両手を肩の上に組み その姿勢で下腿を前方に振り上げるようにすることで膝関節の伸展力を計測した (Fig.2-1) また 逆に下腿を後方に引き寄せるようにすることで膝関節の屈曲力を計測した (Fig.2-2) 本実験では 伸展力は主に大腿四頭筋によって発揮された筋力と定義し 屈曲力は主にハムストリングによって発揮された筋力と定義した 試技を三回実行し そのうちの最大値を被験者の最大筋力とした 伸展動作屈曲動作 Fig.2-1, Fig.2-2 大腿筋群の発達状態の計測実験 2.2.2 測定項目 a. 筋力測定膝関節伸展力と屈曲力はサンプリング周波数 1000Hz で記録したひずみゲージ式ロードセルを用いて計測した b. 筋電計計測膝関節の伸展と屈曲動作及びサイドカッティング動作における大腿筋群の活動状態を観察するため 大腿直筋と大腿二頭筋短頭における筋電位を計測した サンプリング周波数 1000Hz で取得した
2.2.3 解析区間 1ロードセルのデータ 6 秒間で測定したロードセルのデータは 測定値がプラトーとなった 1 秒間を抽出し その 1 秒間のデータの平均値を被験者の最大の伸展力と屈曲力とした 2 筋電図のデータロードセルのデータから抽出した 1 秒間と同時刻の筋電図データの平均値を被験者の最大等尺性収縮時の大腿直筋と大腿二頭筋の筋活動量とした ( 以下 mvc という ) 2.2.4 統計処理両足における大腿四頭筋とハムストリング筋の筋力 H/Q 比の比較には paired t 検定を用い 有意水準は5% 未満とした 統計ソフトとして SPSS(ver.15.0,SPSS Inc.) を用いた 2.3 結果と考察 2.3.1 伸展力と屈曲力筋力発揮が安定していたと判断した1 秒間の値の平均値を最大筋力とした (Fig.2-3) Table2.1 平均伸展力と屈曲力 2.3.2 大腿直筋と大腿二頭筋の筋活動最大等尺性収縮実験における抽出された 1 秒間で大腿直筋と大腿二頭筋の筋活動量の平均値を mvc とした 結果を Table2.2 に示した Table2.2 平均筋活動量 2.3.3 考察蹴り足 ( 右足 ) の大腿四頭筋の筋力は 有意に大きいことを示した H/Q 比は 支持足 ( 左足 ) が 0.94 蹴り足( 右足 ) が 0.67 で 蹴り足 ( 右足 ) が 有意に小さいことを示した この結果により 蹴り足 ( 右足 ) の大腿筋群の発達状態は バランスが悪く 支持足 ( 左足 ) と比較して膝関節損傷の可能性が高いことが考えられた Fig.2-3 両足の伸展力と屈曲力全被験者の平均伸展力と屈曲力を Table2.1 に示した 左足と右足の H/Q 比について 有意水準 5% で有意差が認められ, 右足の H/Q 比が左足より小さい結果であった 3 サイドカッティング動作における膝関節動態の分析 3.1 被験者前回の被験者と同じである 3.2 実験 1) ドロップ着地からのサイドカッティング助走の速度, 仕方, 歩幅などの影響を排除し, 着地までを統一するため ドロップ着地からのサイドカッティング実験を行った 高さ 24cm の台から片足で降りて着地し 着地後
着地足の逆方向 45 にサイドカッティングする実験を行った (Fig.3-1) Fig.3-1 実験の様子 2) 助走からのサイドカッティング助走距離を4mとし 平均助走速度が 3.1 m/s で指定されたフォースプレートを踏んで 踏んだ足の逆方向 45 にサイドカッティング実験を行わせた 被験者には最大努力で方向変換を行うように指示した (Fig.3-2) Fig.3-2 実験の様子計測時間は 5 秒 試技は 3 回実施した 3 回のうち床反力が最大値の試技を解析した 3.3 測定項目サイドカッティング時に両足の膝関節動態と大腿筋群の筋活動量を解析するため カッティング時の関節角度 関節間力 関節モーメント 大腿直筋及び大腿二頭筋の筋活動量を求めた 3.4 解析区間解析区間は床反力の Z 軸方向の値が 0 以上の区間及び膝関節が屈曲運動の区間とした 3.5 統計処理本研究では 両足の膝関節屈曲角度と外反角度 関節間力 関節モーメントについて paired t 検定を用い 有意水準は5% 未満とした 統計ソフトとして SPSS(ver.15.0,SPSS Inc.) を用いた 3.6 結果と考察 3.6.1 ドロップ着地からのサイドカッティング実験の結果と考察 Table 3-1 ドロップカッティング実験の結果最大屈曲角度は 両足が有意水準 5% で有意差が認められなかった 最大外反角度は 両足が有意水準 5% で有意差が認められなかった 右足は 8 という閾値を超えていることを示した 膝関節外反荷重負荷による受動的な角度が増加し 膝関節障害につながると考えられた 最大関節間力は両足が有意水準 5% で有意差が認められなかった 左足と右足の最大関節モーメントは有意水準 5% で有意差が認められなかった 大腿二頭筋は 支持足 ( 左足 ) が蹴り足 ( 右足 ) よりも活動し 支持足 ( 左足 ) の膝関節への負荷が減尐し 膝関節損傷の発生リスクは低いことが考えられた 3.6.2 助走からのサイドカッティング実験の結果と考察 Table 3-2 助走カッティング実験の結果
最大屈曲角度 最大外反角度は両足が有意水準 5% で有意差が認められなかった また ドロップカッティングと比較して 前方への作用力が大きい この原因は助走による前方への速度が影響したことが考えられた 支持足 ( 左足 ) の関節モーメントが有意に大きい この原因は支持足 ( 左足 ) でのサイドカッティングで大きな力を発揮したことが考えられた 最後 蹴り足 ( 右足 ) の大腿二頭筋の筋活動が 有意に小さい この原因は蹴り足 ( 右足 ) でのサイドカッティングでは 大腿四頭筋とハムストリングの活動が不均衡であることが考えられた 4 総合考察支持足 ( 左足 ) でのカッティング時は大腿直筋と大腿二頭筋がバランス良く活動している また 蹴り足 ( 右足 ) でのカッティング時は大腿直筋が優位に活動している このことにより 支持足 ( 左足 ) の大腿筋群の発達状態は 蹴り足 ( 右足 ) よりバランスが良いことが考えられた 助走による前方への速度が大きいことから 助走からのサイドカッティングでは 前方への作用力が大きいことが考えられた 大腿直筋に対する大腿二頭筋の筋活動量は 蹴り足 ( 右足 ) よりも支持足 ( 左足 ) が大きい また 支持足 ( 左足 ) では 大腿二頭筋も大腿直筋とほぼ同等の力発揮をしている このことにより 支持足 ( 左足 ) の関節モーメントが 有意に大きいことが考えられた 5 結論 1. 両足の大腿筋群の発達状態 蹴り足( 右足 ) の大腿四頭筋の筋力は 他よりも有意に大きい 支持足 ( 左足 ) の大腿筋群の発達状態は 蹴り足 ( 右足 ) よりも バランスが良い 2. ドロップ着地からのサイドカッティング支持足 ( 左足 ) では 大腿直筋と大腿二頭筋が同程度活動している 蹴り足 ( 右足 ) では 大腿直筋が大腿二頭筋よりも優位に活動している 3. 助走からのサイドカッティング 助走速度の影響から 前方への作用力が大きい 支持足 ( 左足 ) の関節モーメントが 蹴り足 ( 右足 ) よりも有意に大きい 支持足 ( 左足 ) では 大腿直筋および大腿二頭筋が同程度活動している 蹴り足 ( 右足 ) では 大腿直筋が大腿二頭筋よりも優位に活動している 参考文献 1.B.P. Boden, Mechanismsof anterior cruciate ligament injury, Orthopedics 23 (2000) 573 578. 2. Hewett, T., et al. (2005). Biomechanical measures of neuromuscular control and valgus loading of the knee predict anterior cruciate ligament injury risk in female athletes. The American Journal of Sports Medicine, 33(4), 492-501 3. Renstrom, P., (1986). Strain within the anterior cruciate ligament during hamstring and quadriceps activity.the American Journal of Sports Medicine, 14(1), 83-87. 4. Brophy,1 Holly Jacinda Silvers,2 Tyler Gonzales,2 Bert R Mandelbaum2, Gender infl uences: the role of leg dominance in ACL injury among soccer players. 2013