86 解 説 表面技術 汚れなどに分けられる また水にも有機溶剤にも溶解しない固体汚れは, その表面の性質によって親水性汚れと疎水性汚れに分けられる 3. 分離型洗浄 分離型洗浄には主として界面活性剤とアルカリ剤が関与する 界面活性剤は疎水基と親水基からなる分子構造で, 洗浄液 / 被洗物, 洗浄液

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Vol. 60, 2, 2009 85 洗浄のメカニズム 大矢 勝 横浜国立大学教育人間科学部 ( 240 8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台 79 2) Clening Mechnism Msru OYA Fculty of Eduction nd Humn Sciences, Yokohm Ntionl University (79-2, Tokiwdi, Hogogy-ku, Yokohm-shi, Kngw 240-8501) Keywords : Wshing, Clening, Detergent, Surfctnt 1. はじめに 洗浄は各種製造業から生活分野に至るまで, 非常に幅広い分野で必要とされるプロセスである 筆者も洗浄性評価をメインテーマの一つとしている研究者であるため, 過去に衣類の洗濯をはじめ, 水系洗浄剤による金属加工用油剤の洗浄, 自動食器洗浄機とその専用洗剤, ジェット洗浄での路面洗浄, カーペットのスチーム洗浄, シャワーによる皮膚表面に付着した複合汚れの洗浄などのさまざまな洗浄試験を行ってきた 近年は精密洗浄などの相談を受けることが多くなってきたように思われる それらの経験の中で, 他分野の洗浄技術を参考にしたり応用することが, 問題解決のために比較的有益であることを感じた 洗浄に対する関心の大部分はその実用性にあり, 特に洗浄技術の改善や, 全く異なる切り口からの洗浄技術の開発に対しての需要が大きいが, 異なる分野の洗浄技術などから新たなヒントを得る可能性が高い 各分野別に専門の洗浄技術は発展しており, それぞれの分野の専門家による洗浄関連の書籍 も出版されてきたが, 種々の洗浄の全体像を見渡した真の 洗浄学 と呼べるものはあまりみられない そこで, 本稿では種々の洗浄分野を包括した洗浄の全体像についてメカニズムの側面から解説したい 2. 洗浄の基本パターンと汚れの種類 2.1 分離型 溶解型 分解型の 3 パターンの洗浄洗浄は不要な物質を被洗物から取り除く操作であり, その操作が被洗物にダメージを与えないことが必要条件になる 洗浄は, そのメカニズムから図 1に示すように, 分離型洗浄, 溶解型洗浄, 分解型洗浄の 3 タイプに分類される 分離型洗浄とは基本的に汚れの性状などを変化させずに引き剥がすタイプの洗浄であり, 界面活性剤を利用した水系洗浄などで有効に作用する 溶解型洗浄は水系洗浄剤や有機溶剤に汚れを溶解して除去する 汚れ分子の結晶を破壊して凝集を解いて除去するが, 汚れの分子内レベルでの変化はない 分解型洗 3 浄は酸化剤や強アルカリなどの作用で汚れの分子のレベルでの化学反応によって, 汚れではないもの, または非常に除去が容易な汚れに変化させる 分解型洗浄は汚れ除去のパフォーマンスからみて最も好ましい洗浄であるが, 被洗物に対する負荷が大きい 分離型洗浄は基本的に洗浄効率が低く, 汚れの再付着などへの配慮も必要となるが, 被洗物に対しての影響は少ない 汚れ除去を目的とした界面活性剤主体型の洗浄は, 汚れの除去性能よりもむしろ被洗物に対する悪影響を少なくすることを主眼においた洗浄であると捉えることができる 2.2 汚れの種類汚れを除去する洗浄操作は, 汚れの種類によってその除去方法は大きく異なる 表 1に一般的な汚れの分類法について示す 汚れはその性状から水溶性汚れ, 油性汚れ, 固体汚れの 3 種に分けられ, 水溶性汚れはさらに単なる水で容易に溶解除去できる食塩, 糖分などの易溶性汚れと, 比較的弱い酸化剤や弱酸 弱アルカリなどの水溶液で除去できる難溶性汚れに分けられる 油性汚れは水ではほとんど溶解しない, または非常に溶解しにくいが, 有機溶剤で容易に溶解する油性成分であり, その極性によって, 脂肪酸などの強極性汚れ, 中性脂肪 油脂などの中極性汚れ, パラフィンなどの無極性 図 1 3 種の洗浄パターン

86 解 説 表面技術 汚れなどに分けられる また水にも有機溶剤にも溶解しない固体汚れは, その表面の性質によって親水性汚れと疎水性汚れに分けられる 3. 分離型洗浄 分離型洗浄には主として界面活性剤とアルカリ剤が関与する 界面活性剤は疎水基と親水基からなる分子構造で, 洗浄液 / 被洗物, 洗浄液 / 汚れの界面に吸着して汚れを離脱させ, 乳化作用, 分散作用などで汚れを洗液中に保持し, 被洗物への汚れの再付着を防いで系外へ排出する 洗浄剤の成分としては一般にはアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤が用いられる 界面活性剤による分離作用の典型的なものは, 液状油性汚れに対する巻き上げ作用 (rolling-up) にみられる これは, 図 2に示すように, 洗剤液中で油滴が縮まり, 浮力で浮き上がって除去される挙動であるが, 油 / 水, 油 / 固体, 水 / 固体のそれぞれの界面張力の関係で説明される 界面活性剤は油 / 水界面張力 γ ow と水 / 固体界面張力 γ sw を小さくするが, 油 / 固体界面張力 γ os は一定である すると,3 相の交点は (3 相界線の断面 ) は油滴の内側に向かって移動し, 油滴の接触角は大きくなり, 巻き上げ作用を進行させる また, アルカリ剤は被洗物基質および汚れの負の表面電位を高めて静電的反発力を増大して分離型洗浄に寄与する タンパク質は等電点が ph3 ~ 5 であり, それより ph が高いと陰イオン,pH が低いと陽イオンの性質を帯びる これは, 主としてタンパク質内に豊富に存在するカルボキシル基とア 水溶性汚れ 油性汚れ ( 有機溶剤に 可溶 ) 固体汚れ 易溶性食塩, 糖分水系洗浄では除去自体は問題なし すすぎ の効果に注意 非水系洗浄では除去困難 難溶性変性蛋白質弱アルカリ 弱酸 弱い酸化剤などの処理 など強極性脂肪酸 で可溶に 弱アルカリ液や界面活性剤水溶液で除去可 能 中極性動植物油脂非水系洗浄で除去容易 界面活性剤水溶液 無極性鉱油 表 1 汚れの性状別分類 での分離型洗浄可だが, 強アルカリ液での 処理で洗浄効果大 水系洗浄では除去困難 非水系洗浄か高濃 度の界面活性剤処理が有効 親水性泥, 酸化鉄弱アルカリ 界面活性剤液での洗浄で分散 ( 水, 有機溶剤に不溶 ) 性大 酸や還元剤での処理も有効 疎水性カーボンブ界面活性剤水溶液が必要 弱アルカリ条件 ラック で効果大 ミノ基に起因し, アルカリ液中でカルボン酸塩 (R-COOH R-COO - ) としてアニオン性を帯び, 酸液中ではアミン塩 (R-NH 2 R-NH + 3 ) としてカチオン性を帯びる よって, 中性よりアルカリ側に片寄った水溶液中ではアニオン性を帯びる傾向がある その他の有機物の多くもカルボキシル基を有しているが, タンパク質の場合と同様に中性以上の水中では陰イオン性を帯びる (R-COOH R-COO - ) セルロースなどはもともとカルボキシル基を有していないが, 漂白処理や空気中の酸素による酸化作用によってカルボキシル基が生じる ポリエステルなどの比較的安定な物質も紫外線処理などによってカルボキシル基が生じる 無機物も ph によって表面電位が変化し, 酸化鉄は ph が 7 ~ 8, シリカは 2.5 前後, アルミナは 9 前後, ムライト ( アルミノケイ酸塩鉱物 ) は 6 ~ 8 で表面電位が 0 となり, それより ph が高いと負の表面電位を帯びる よって,pH10 よりアルカリ側では多くの物質が負の表面電位を帯びる 図 3に示すように, 負の表面電位はカチオンを引きつけ, 特に表面近辺ではカチオンが密集し, 距離が離れるとカチオンの密度が小さくなる いわばカチオンの雲状雰囲気を有している 負の表面電位を有した粒子同士, または粒子と平面基質との距離が接近するとカチオン雰囲気の重なりによって反発力が生まれる これが, 洗浄理論で静電的斥力として定義されるものである 一方, 微小粒子間, または微小粒子と平面基質間にはファンデルワールス力に起因する引力が作用するので, この引力と静電的斥力との関係から洗浄作用が説明される これはヘテロ凝集に関する DLVO 理論から導かれる考え方である 図 4に示すように, この引力と斥力の和の曲線は粒子間距離が大きいとほぼゼロであるが, 距離が接近すると徐々に斥力が増してくる よって, 水中の浮遊粒子は基本的には凝集しにくく分散状態を保つ傾向にあるが, 水流などの影響で斥力のピークを超える機会を得ると, 粒子間には大きな引力が作用して凝集してしまう そして, そのままの状態では再びポテンシャル障壁を超えて分散することはない 粒子間の引力は, 基本的に粒子の分子量によって決定するので, 洗浄剤などの成分を調整して洗浄効率を高めるためには静電的斥力を高める以外にない 静電的斥力を高めて離脱のためのポテンシャル障壁を低くするとともに, 凝集のポテ sw os ow 図 2 巻き上げ作用と界面張力 図 3 陽イオン同士の反発力 4

Vol. 60, 2, 2009 洗浄のメカニズム 87 ンシャル障壁自体はより高く保つことによって再付着を防ぐことが求められる この目的のためには, 結局は負の表面電位を高めることが決め手となる 一般には洗浄液をアルカリ側に保って汚れおよび被洗物の表面電位を負に保つことが有効で, 特にアニオン界面活性剤などを用いる場合には界面活性剤の吸着によって被洗物および汚れの表面に吸着した界面活性剤の親水基 (-SO - 3 など ) が負の表面電位を高める推進力となる なお, 注意すべき点は, ファンデルワールス力をもとに一旦付着した状態は, いくら静電的斥力を高めても, それだけで自然に離脱することはないということである 離脱時のポテンシャル障壁は低くはなるが, それを超えるための乱れを外部から与えてやらなければ洗浄は進まない 具体的には, 液流や被洗物間摩擦, また超音波などによる機械力を作用させることが必要である このような洗浄における機械力を有効に作用させるためには, 洗浄液の界面張力低下がかえってマイナス要素となる場合もある 液流を利用する場合など, 界面張力の低下は機械力の低下を意味する 一般には機械力が大きく左右する洗浄系では界面活性剤濃度は cmc の 2 ~ 3 倍程度に設定することが多いが, このレベルの界面活性剤濃度では動的界面張力は静的界面張力をかなり上回る よって, 洗浄に加わる機械力の低下を少なくして洗浄することができる cwc( 臨界洗浄濃度 ) は, このような理由によって発現する場合があると考えられる 4. 溶解型洗浄 溶解型洗浄は, 汚れを水や有機溶剤に溶解する洗浄方式であり, その汚れの種類によって選択すべき洗浄液の種類など, 洗浄方法が大きく異なる 水溶性汚れの中の易溶性汚れは, 水系洗浄であれば容易に溶解され除去が進行する よって, 水系洗浄では溶解した汚れが残存しないため, すすぎ効率を高めること等が問題となる程度である 精密洗浄等で微量の汚れ残留が問題となる場合には, シャワー方式などですすぎ液の交換効率を高めることが求められる 水溶性汚れの中でも難溶性のものは, 酸, アルカリ, 酸化剤, 還元剤, キレート剤などを用いて水溶性を高めて洗浄する タンパク質, 脂肪酸, 金属類などが溶解型洗浄の対象となる タンパク質汚れは弱アルカリ液で処理すると, 分子間の反発力が増して水を含んで膨潤し, 溶解性が高まる 脂肪酸汚れも弱アルカリ液の処理で石けんに変化し, 溶解して除去される 人体の皮脂汚れは, その油性成分中の 1/4 ~ 1/3 が脂肪酸であり, この脂肪酸が弱アルカリ液で石けんに変化して溶解するとともに, 生じた石けんが洗浄に寄与するので, 炭酸水素ナトリウムなどの弱アルカリ液のみでも比較的高い洗浄性を示す また, 脂肪酸のように極性の強い油性汚れに濃度の高い界面活性剤水溶液を作用させると, 油性汚れが界面活性剤のミセル中に取り込まれ, いわゆる可溶化作用で除去される ほかに, 酸化鉄などは塩酸などの酸や還元性漂白剤などで溶解除去される また炭酸カルシウム, 炭酸マグネシウムなどの水アカ成分は, 塩酸や酢酸などの酸を作用させて塩化物や酢酸塩として溶解性の高い状態に変えて除去するか, キレート剤などを作用させてカルシウムやマグネシウムとナトリウムを交換して汚れの溶解性を高めて除去する 脂肪 油脂や機械油の除去には有機溶剤を用いての溶解洗浄が効果的である 塩化メチレン, トリクロロメチレン, テトラクロロメチレンなどの塩素系溶剤の溶解力が高い 炭化水素ではその一般的な油汚れの溶解力は, 芳香族 >シクロパラフィン ( ナフテン系 )> イソパラフィン> n- パラフィン, の順となる 塩素系溶剤では人体毒性と環境影響が, 炭化水素系では火気対策と防爆設備などが必要となるので洗浄設備に課題がある 5. 分解型洗浄分解型洗浄は分子レベルで汚れを分解するものであり, 作用が強力な化学変化をともなうために被洗物へのダメージを考慮せねばならない デリケートな被洗物に対しては分解型洗浄で処理することは困難となる 一般的な有機汚れは強アルカリと次亜塩素酸塩などの酸化剤によって分解除去される タンパク質汚れはアミノ酸に, 脂肪 油脂汚れも強アルカリによってケン化反応で石けんに分解され除去される また硫酸酸性の二クロム酸カリウム液などではポリエチレン, ポリプロピレンなどの安定性の高い合成高分子を除いて多くの有機物を酸化分解する 分解型洗浄では水系洗浄での化学物質による反応のみでは制限もあり, 他のメカニズムによる洗浄方法も多用される 火炎噴射洗浄は有機物を燃焼させて取り除くものである 光洗浄は紫外線照射による洗浄で, 紫外部吸収を有する有機物の分解除去に有効であり, 特に殺菌処理などに多用される 被洗物に酸化チタンなどの光触媒による処理を行った場合には, 太陽光などによっても活性酸素が生成され, 比較的反応性の高い有機物質を分解除去できる 除菌や臭気物の洗浄には気体状オゾンでの処理も効果的である プラズマ照射により有機物や金属酸化物を除去するプラズマ洗浄もあるが, この洗浄メカニズムは化学的 機械的な分解作用の複合型だと考えれらる 図 4 DLVO 理論による洗浄効果電気的反発力を増して 離脱の際のポテンシャル障壁を低くし, 再付着の障壁はより高くする 5 6. 洗浄の機械力 工業洗浄における洗浄方法の種類を表 2に示す 超音波洗浄はその周波数によって用途が異なる 50 ~ 100kHz では

88 解 説 表面技術 洗浄方式特徴超音波洗浄低周波 (50~100kHz): キャビテーションによる強 噴流洗浄 力な洗浄 高周波 ( 数百 khz~ メガ Hz): 水分子の加 速度運動による微小汚れの除去ポンプなどでの水流を利用 仕組が簡単, 複雑な形 状の被洗物には不適 揺動 回転洗浄 洗浄かごの揺動 回転 複雑形状の被洗物には不適 機械式振動攪拌洗浄 硬質の被洗物を振動 攪拌 バブリング 洗浄槽で気泡上昇 穏やかな作用 ブラッシング 洗浄力大だがブラシのメンテナンスが必要 シャワー スプレー 水流を当てる洗浄 低圧のシャワーはすすぎ操作に ジェット洗浄 表 2 工業洗浄の洗浄方式 スプレーとジェットの境目は 2MP( 20kgf/cm 2 ) 20MP 程度でペンキはく離等に利用可 蒸気洗浄有機溶剤の蒸気を利用する洗浄で装置は複雑 真空洗浄ぬれ性を高める 超音波洗浄などとの併用で効果大 液中バブルジェット洗浄気液界面の衝突などで洗浄 噴流洗浄よりも効果大 キャビテーションによる強力な機械力で大きな洗浄力を得る 一方,1000kHz 程度になると液体分子の加速度運動により, 微小粒子の除去に有効な穏やかで均一な洗浄作用が得られる シャワー, スプレー, ジェット洗浄は, その水圧によって分けられる 水道圧を弱めたレベルの 1.5 ~ 2.5 kgf/cm 2 がシャワー洗浄,20 kgf/cm 2 までがスプレー洗浄, それ以上の圧力がジェット洗浄に分類される 洗車などに用いられる家庭用のジェット洗浄装置は 50kgf/cm 2 程度で,150 ~ 200 kgf/cm 2 になるとペンキはく離や舗装道路の表面処理などにも利用が可能となる 液中の気泡を利用する洗浄としては, バブリングと液中バブルジェット洗浄がある バブリングは気泡上昇時に被洗物表面に穏やかな機械力を与える 平滑な表面を気泡が接触すると気 / 液界面が固体基質に生じる そのまま気泡が上昇すると気 / 液界面が被洗物表面をこすり上げるように移動し, 汚れを捉えて除去すると考えられる バブルジェット洗浄は気泡を含んだ洗浄液の強力な流れを被洗物に当てるもので, 単なる液流よりも気 / 液界面を被洗物に衝突させることによって, より大きな機械力を得る 超音波で発生した真空に近い気泡を含んだ液を利用する手法も注目されているが, これは気泡の作用というよりも超音波作用の変化型であると捉えられる マイクロバブルの応用などが注目されているが, 気泡内の圧力がどの程度なのかでそのメカニズムは大きく異なる 他に, 泡沫を利用する洗浄もあるが, その用途は泡沫を利用して被洗物への衝撃を和らげて穏やかに洗う方法と, 泡沫を利用して洗浄力を高めるものの 2 種に大きく分けられる 衝撃を和らげるのはシャンプーによる洗髪が典型的な事例で, デリケートな毛髪への摩擦によるダメージを少なくするのに泡沫が役立つ 一方, 洗浄力を高める泡沫洗浄は, 泡沫の付着力を利用して少量の洗浄剤水溶液を広い面積に長く保持して化学作用を促進するものと, 付着した泡沫を強制的に移動させてせん断による洗浄作用を発現するものに分けられる 泡沫の付着力は平面基質と泡膜が接触する部分にできるプラトーボーダーに関係する プラトーボーダーは水相からみて凹型の曲面を有しており, そのためプラトーボーダー内部は他の部分に比して圧力が低くなって吸引力が生じる また, 泡沫は一種の気 / 液分散系の中の気体の割合が高いものを指 すが, そのため泡沫を形成する液体の密度が小さくなり, 少量の液体で広い面積をカバーすることができる 化学的作用のみを利用した洗浄機構ならば, 泡沫は洗浄液を節約する効果的な手段となる また, 泡膜と固体基質上に形成されたプラトーボーダーが固体基質上を移動するとき, 気 / 液界面が固体基質上を移動する 固体基質は気 / 固界面と液 / 固界面が連続的に交換することになるが, その際に非常に大きなせん断力が生じる 特にオリフィス内に強制的に泡沫を移動させる場合など, この作用が汚れを有効に除去する機械力となる ₇. 洗浄メカニズムと洗浄速度 実際の洗浄システムにおける洗浄メカニズムは, 洗浄剤の化学作用 物理化学作用と洗浄機器の機械作用などが複雑に絡み合っていると考えられるが, 全体的には洗浄率の変化として現れる 一般のバッチ式洗浄システムでは汚れ除去が進むと洗浄液中に汚れが保持され, 洗浄液のいわゆるスタミナが低下すことになるが, ここでは, このスタミナ低下の要素を除いて簡単に考えることとする すると, 洗浄速度は洗浄メカニズムによって図 5に示すように大きく 2 通りに分けられることになる 一つは汚れの表面から一定速度で汚れが洗浄液中に溶解していくようなメカニズムで, 洗浄液のスタミナが一定であるならば, 汚れの面積あたりの洗浄速度は常に一定で, 洗浄時間に対して洗浄率は比例して増大していくことになる いわゆる 0 次反応型の洗浄曲線である 二つ目のパターンは, 単位時間当たりに残存汚れの一定割合が除去されていくというタイプである たとえば 1 分間に 20% の除去性能があるとすると, 当初 100 の汚れが付着していたとして 1 分間で 20 の汚れが除去される すると, 残存する汚れは 80 であり, 次の 1 分間で 80 の汚れの中の 20% の 16 が除去され 80-16 = 64 が残存することになる このような挙動で除去が進むのが, いわゆる 1 次反応型の洗浄曲線である 均一な平面上に同一径の均一な粒子汚れが付着している基質を洗浄した場合などがこれに相当する このように, 比較的ミクロなモデル系洗浄を仮定して洗浄速度を捉えると, 洗浄時間とともに洗浄率が直線的に増大す 図 5 洗浄曲線の意味 6

Vol. 60, 2, 2009 洗浄のメカニズム 89 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0-4 -3-2 -1 0 1 2 3 4 図 6 洗浄に伴う汚れの付着力分布の変化 る 0 次反応型と, 初期は洗浄率が急激に高まるが洗浄時間と ともにその勾配が緩やかになる 1 次反応型が基本となる し かし, 実用系の洗浄曲線をみると,1 次反応型曲線よりも初 期の勾配が大きく, 洗浄時間とともに急激にその勾配が減少するという傾向がみられる 比較的濃度の高い界面活性剤水溶液で脂肪酸を除去する場合には可溶化作用が主体で, 汚れの面積単位でみると 0 次反応型の洗浄挙動が期待されるが, フィルムに付着した脂肪酸では, その脂肪酸汚れ / 界面活性剤水溶液の界面面積が時間とともに急激に減少するため, 洗浄曲線は 1 次反応型よりも更に勾配変化の大きな曲線となる 一方,1 次反応をもとに汚れに付着力の分布があるという前提で洗浄率変化を捉えると, 比較的広い範囲に適合が可能である 筆者らは布基質に油性色素 4), 酸化鉄を付着させたもの 5), また油 タンパク質 土 カーボンブラックの複合汚れが付着した汚染布 6) を用いて洗浄試験を行い, 汚れの付着力分布が正規分布に従うという前提で洗浄挙動を解析し, 洗浄率と洗浄力の関係を結びつける手法の可能性を示した この解析法は図 6に示すように, 汚れには除去されやすい付着力の小さなものから, 除去されにくい付着力の大きなものまで分布していることを前提とする そして, 一定の付着力の汚れについては一次反応型の洗浄挙動を示すと仮定する つまり, 付着力の大きな汚れは一定時間で残存汚れの 20% しか除去されないが, 付着力の小さな汚れは残存汚れの 80% が除去されるという考え方で, 反応速度論で速度定数に相当する単位時間内の汚れ除去率は, 汚れ付着力の大きなものから小さなものまで, 連続的に変化すると考える 実際にはこの単位時間内の除去率の変化も, 累積正規分布曲線として表現する 要するに, 汚れには付着力の大 ~ 小の分布があるという考え方をもとに洗浄率の時間変化を説明しようという試みであるが, この手法を拡張することによって, 酵素の利用で汚れの分布のピークを付着力の小さな方向にシフトするとか, 汚れのエイジングが汚れの分布ピークを付着力の大きな方向にシフトするなどの表現で理解できる可能性がある 洗浄のメカニズムをより科学的に理解するために非常に有効な手法であると考えられる ( 受理 :2008 10 31) 文献 1) 皆川基, 藤井冨美子, 大矢勝編 ; 洗剤 洗浄百科事典 ( 朝倉書店, 2003). 2) 奥山晴彦, 皆川基編 ; 洗剤 洗浄の事典 ( 朝倉書店, 1990). 3) 最新洗浄技術総覧編集委員会 ; 最新洗浄技術総覧 ( 産業技術サービスセンター, 1996). 4)Y.Ishikw, S.Orito nd M.Oy; J. Oleo Sci., 55, (10), 511(2006). 5)Y.Ishikw, S.Orito nd M.Oy; J. Oleo Sci., 56, (4), 163(2007). 6)Y.Ishikw nd M.Oy; J. Oleo Sci., 57, (2), 99(2008). 7