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Transcription:

3. 陸域生態系における炭素循環解析陸域生態系の CO2 吸収 / 放出量を推定する方法として 大別すると 以下の2 種類があります いずれの方法も利点 欠点があるため それぞれの欠点を補完しながら観測を進めています 1 地上観測 : 地上において 生物や土壌 大気の観測を行うことにより 炭素収支量を把握する方法です 観測点で長期的に測定するため 比較的高精度である反面 広域推定は難しくなります 2リモートセンシング観測 : 飛行機や衛星から行う遠隔観測 ( 写真やレーダーなど ) によって地表面状態などを把握することにより 炭素収支量を推定する方法です 事象を面的に捉えるため 広域での測定に適していますが 精度が低く技術的にも十分確立されていません

3.1 地上観測による炭素循環解析陸域生態系における炭素循環観測の方法として 地上観測は古くから実施されてきており 図のような目視による観察 植物体の形状計測や分析 土壌の分析などが一般的な観測手法でした しかし この方法は時に植物体や土壌を破壊しなくてはならず 原状復帰ができません また 人力に頼っているため多大な労力を必要とする上に 観測結果を多く取得することができず 少ない観測例から生態系全体の結果を推定することによる誤差が問題となっていました 国立環境研究所では 図のような従来の観測方法の利点を生かしながら 新しい観測手法も使用して陸域生態系の炭素循環観測を実施しています 図陸域生態系における従来の炭素循環観測方法

3.1.1 光合成量 呼吸量の測定 大気中の CO2 は植物体の光合成によって固定され 呼吸によって放出されます また 根や微生物の呼吸により 土壌表面からも CO2 が放出されます この光合成 / 呼吸量の測定方法としては 対象を同化箱 ( チャンバー ) の中に密封し 箱の中の CO2 の増減を測定するチャンバー法が一般的に用いられています しかし 長時間チャンバーを密閉すると 内部環境 ( 温湿度や二酸化炭素濃度など ) が変化するため その測定結果は自然状態での光合成 / 呼吸量とはいえません 図は 国立環境研究所が開発した 長期間の測定が可能な土壌呼吸測定用チャンバーです このチャンバーは 測定時には蓋を短時間閉鎖して土壌呼吸量を測定しますが 残りの時間は上部を開放して内部環境の変化を抑えています この方法を応用して 幹 枝の呼吸量や葉の光合成量などを測定する機器も開発しています

3.1.2 落葉 落枝や流出による炭素移動の観測 植物体によって取り込まれた炭素は 落葉 落枝となって土壌へと移動します この炭素移動量は リタートラップと呼ばれる捕集網を設置し 一定期間ごとに内容物を回収することによって把握できます また 土壌中の炭素のうち一部は 溶存態有機炭素 (DOC) や溶存態無機炭素 (DIC) 粒子態有機炭素(POC) として 地下水 渓流水を通して系外へ流出します この炭素移動量は 量水堰において測定することができます グラフは 北海道大学天塩研究林において観測された炭素流出量です この観測地は冬期間 (11~4 月 ) には雪に覆われるため 炭素が無積雪期に多く流出していたことがわかります 図落葉 落枝や流出による炭素移動

3.1.3 観測塔による地域全体の二酸化炭素収支量観測の原理 近年 陸域生態系の二酸化炭素吸収 放出量を測定する方法として 陸域生態系と大気間の CO2 交換量 (CO2 フラックス ) を直接測定する方法が使用されるようになりました 図は 森林の CO2 吸収によって低 CO2 濃度となった空気が 上層の高 CO2 濃度の大気と混合しているところを示しました この大気の混合は 一定条件下では一定速度で行われるため 2 高度で CO2 濃度を測定すれば CO2 フラックスを計算することができます この方法を傾度法といいます 一方 CO2 の移動量を測定するのが 渦相関法です ある一点で風向風速と CO2 濃度の変動を高精度で計測し その場所での CO2 フラックスを直接測定します 例えば 上向きの風の時に低濃度 下向きの風の時に高濃度の CO2 が観測されれば その下部では CO2 が吸収されていることになります 渦相関法は精度が高く 現在 世界的に使用されています 図森林の二酸化炭素収支量観測方 : 傾度法 ( 上 ) と渦相関法 ( 下 )

3.1.4 森林における二酸化炭素フラックスの観測例 国立環境研究所では 公的試験研究機関 大学 地方公共団体などと共同で 北海道苫小牧市のカラマツ林に観測塔を設置し 森林直上の CO2 フラックスの長期モニタリングを実施してきました グラフは 2002 年 1 月から 12 月までの 苫小牧フラックスリサーチサイトにおける 森林全体の CO2 収支量 ( 純生態系生産 NEP) 生態系呼吸(Re) 及び総一次生産 (GPP) の観測結果を示しています この結果により 春から秋にかけては 増大する呼吸量を上回る光合成が行われたため 森林全体では CO2 を吸収していたことがわかります 一方 冬期においては 光合成が行われないため 草木や微生物 動物の呼吸による CO2 が森林から放出していたことがわかります なお 苫小牧国有林の観測施設が 2004 年 9 月に来襲した台風 18 号により全壊したため 観測は終了しました 図苫小牧サイトにおける二酸化炭素フラックスの観測例

3.1.5 二酸化炭素フラックスの世界観測網 陸域生態系の CO2 吸収 / 放出量を正確に見積もるために 様々な生態系での CO2 フラックスの長期観測体制が必要とされています FLUXNET は 大気 - 陸域生態系間の CO2 水蒸気 エネルギー交換を長期観測する観測サイトの世界的ネットワークであり この下部組織である AsiaFlux( アジア域担当 ) の事務局は国立環境研究所に設置されています 表は CO2 フラックス観測サイトにおいて得られた年間の純生態系生産 (NEP) 総一次生産 (GPP) 生態系呼吸(Re) データの例を示したものです NEP は亜寒帯及び冷温帯林よりも温帯林及び熱帯雨林で大きい傾向にあり GPP 及び Re は熱帯雨林で特に大きな値を示しています NEP は生態系の生産性と呼吸の微妙なバランスによって決まるため 予測は非常に難しいです

3.2 リモートセンシングによる炭素循環解析近年 地球上の炭素循環の観測に 航空機や人工衛星を利用したいわゆるリモートセンシング ( 遠隔計測 ) の技術が広く用いられるようになってきました リモートセンシングとは 離れた場所から光や電磁波を利用して物質の情報を読みとる技術のことです 航空機や人工衛星に搭載したセンサによるリモートセンシングでは 土地や海面などの地球表面に関する情報の他 大気 気象などの様々な情報を捉えることが可能です 図に示す衛星画像は 人工衛星 Landsat がアマゾンにおける森林伐採地が拡大していく様子をとらえた例です 森林の伐採が 道に沿って整然と魚の骨のように広がっていったことが分かります この例では 健全な森林は赤く 森林が伐採された地域は青白く画像処理されています

3.2.1 リモートセンシングの原理 リモートセンシング観測に用いられるセンサには 大別して受動型センサと能動型センサの2 種類があります 受動型センサは自然に放出されている電磁波を捕捉するセンサであり 太陽光の反射 散乱を利用した光学センサが典型的な例です 一方 能動型センサは センサ側から電磁波を出し 地表などからの反射や散乱を観測します リモートセンシングでは これらのセンサを測定対象や条件によって使い分けています 例えば 可視光を用いた受動型の光学センサによる観測は 地表面の様子を分かりやすく再現するのに適していますが 画像例にあるように雲に影響されやすいほか 太陽光の当たらない時間帯のデータが得られないといった短所があります 一方 マイクロ波を用いた能動型センサによる観測は 雲や昼夜による影響を受けにくいものの 地表物質の状態を把握する際に光学センサよりも複雑な信号処理段階を必要とします

3.2.2 衛星画像センサを用いた植生の観測 :NDVI 植生指数 (NDVI) とは リモートセンシングによって森林の面積やバイオマスを評価する際に最もよく用いられる指標の一つです NDVI は 近赤外光領域 (NIR) 及び可視光赤領域 (VIS) の反射率データから以下の演算式を用いて算出されます NDVI = (NIR - VIS) / (NIR + VIS) これは 植物が近赤外領域では太陽光をよく反射するのに対して 可視光赤領域の光はほとんど反射しないことを利用しています この方法を使って画像処理を行うと 森林の状態 ( 着葉や落葉など ) や植生の違いをある程度判別できるため 世界中で使用されています

3.2.3 NDVI を用いた純一次生産量評価 植生指数 (NDVI) は現地の気象状況とも強い相関を示します 例えば ある経度と緯度にとったトランセクト ( 断面 ) 上で年間積算 NDVI と降水量の関係を調べると 両者の間に明確な相関関係が見られます これは 植物が降水量などの気象条件により成長が左右されることが原因です 植物による炭素吸収量を解析する手段として 植物の水バランス 光合成 呼吸などのメカニズムを組み込んだ物質循環モデル (Biome-BGC モデルなど ) に NDVI データのほか 植生分布 気象 土壌などのパラメータを入力して植物による有機物生産量を算出し 純一次生産 (NPP) が推定されています 図の NPP 推定結果は NDVI データを用いたモデル計算により 1997 年の東アジア地域における NPP を見積もったもので 緑の濃い部分ほど NPP が大きいことを示しています

図 NDVI データを用いたモデル計算による NPP 推定結果

3.2.4 レーザー樹高計による森林の樹高 樹冠形状計測 森林の地上バイオマスは 一部の樹木の幹の直径や樹高を測定し その結果を森林全体の代表値として推定する方法が一般的ですが この計測方法には多くの人力と時間が必要です これを正確かつ広範囲に計測するため レーザー距離計測技術を応用したリモートセンシング手法が開発されています レーザー距離計測とは レーザー光を観測対象に発射し 反射光が戻るまでの時間から対象までの距離を計測する技術のことです これを航空機やヘリコプターに搭載して計測すると レーザー光は木漏れ日の様に葉の間を通過できるため 反射波の中には樹木上部で反射されたものと地表面で反射されたものが混在しています これらを分離して解析することにより 樹高やバイオマスを算出する事が可能となります 画像は苫小牧カラマツ林における観測例です 図苫小牧カラマツ林におけるレーザー樹高計による樹高観測画像例

3.2.5 レーザースキャナによる森林の炭素量測定 これまで 樹木の形状や生物量 ( バイオマス ) などの森林状態を計測するためには 多くの人力と時間を費やし 伐採などの各種調査を行う必要がありました このような制約を解決するため開発されたのが レーザースキャナによる森林計測技術 です レーザースキャナは レーザー距離計測技術の一種であり 半径 100 m 内の物体の形状を精密に測定することができます これに 最新の画像処理技術を組み合わせることで 迅速かつ広範囲に森林の地上バイオマスや三次元構造を求めることが可能となります 図は センサから得られた距離画像から樹木を個体別に識別し さらに枝や葉を除去して幹部分のみを自動抽出する過程を示しています 図レーザースキャナによる固体識別例 : 森林の幹のみ抽出