発達学的水泳療法理論を利用したプール指導計画の作成と実践 岡山県立岡山支援学校中学部小山洋司 Ⅰ はじめに本校は, 肢体不自由教育の特別支援学校であり, H 24 年 12 月現在, 小学部 60 名, 中学部 33 名, 高等部 42 名, 計 135 名の児童生徒が在籍している 通学形態は自宅あるいは寄宿舎からの登校, 隣接している施設からの登校, そこに入所している児童生徒の病棟に教師が出向く訪問教育と多様である 実態としては, 知的障害を併せ有する児童生徒が多く, 心身とも障害が重度で医療的ケアを必要とする児童生徒も多い このような点から, 日々児童生徒の健康管理については特に留意しながら教育活動を行っている 本事例は, 中学部に在籍する生徒のうち, 重度重複障害を有する生徒に対してのプール授業計画立案と実践についての報告である Ⅱ プール指導の目的と効果肢体不自由を有する生徒に対するプール指導の目的は, 覚張 ( 2009) 1) によると図 1 のようにとらえることができる すなわち, プール指導は 水慣れ 水遊び のレクレーション的なレベルから, 身体機能向上 のリハビリテーション的な内容まで含んでいるといえる これらのうち, どれを重視して指導していくかは, 一人一人のニーズによって異なる 個別の教育支援計画, 個別の指導計画に取り入れていくことで, プールの指導だけでなく, その成果を日常生活に拡大していくことができると考えられる 図 1 障害がある子どものプール指導の目的 Ⅲ 重度心身障害児向けのプール指導理論前述のプール指導の目的を達成するための指導法について, 障害児者を対象とするプール指導法をまとめた実践や文献は少ないのが現状である 障害児者のプール指導法一つとして知られているものとして, ハロウィック法があげられる この指導法は, 浮き具を使用せず, マンツーマンでゲームプログラミングをとおして楽しみながら活動することが特徴である しかし, このプログラムは独歩可能な程度の障害であれば対応できるが, 重度重複障害のある児童生徒には難しい内容が含まれている 表 1 ハロウィック法における指導体系 浮き具を使用しない介助は, 姿勢が不安定になりやすく, 姿勢保持ができないことから不安感が生じ, 水中で緊張が強くなってしまうという問題がある また, 顔を水面につけることがプログラムとして求められているが, 重度重複障害のある児童生徒においては, 誤
嚥の可能性があること, 気管切開している児童生徒には不可能であるという問題点もある そのため, 本実践においては, 覚張秀樹 児玉和夫氏らによる重度重複障害児者を対象とする 発達学的水泳療法 をもとにし, 学校でのプール指導の実態に合わせた形でのプール指導計画を作成することとした 1 発達学的水泳療法の特徴覚張らが提唱する 発達学的水泳療法 とは, リラクセーションの獲得をとおして, 水への抵抗感をなくし, その先の泳ぎを目指していくものである この流れの中で, 水中での 快体験 を積み重ね, 介助者からの働きかけによる受動的な動きから, 本人の能動的な動きへとつなげていくものである 本人の 快体験 を導くために, 姿勢変化の進め方として日常的に最も多くの時間を過ごす背臥位に近い姿勢から, 徐々に立位姿勢に近づけていくこと, 障害が重い児童生徒ほど背臥位より腹臥位の時間を長くしている そのためには, 適切な補助具を 表 2 発達学的水泳療法における指導体系 使用し, 浮力を利用して多様な姿勢を経験することが大切である また, 水を運動の補助として用い, リラクセーション効果を高める工夫もされており, 上下 左右あるいはそれらの複合的な動きを 4 秒リズム ( 半分の 2 秒リズム ) で動き, 呼吸と動きを同期してリラクセーションの促進を行うことも特徴としてあげられる 2 指導内容の体系この特徴を生かすために, 指導内容は大きく 5 段階に分けられる 水を抵抗感なく受け止めることができる 水慣れ 段階, 外的アプローチとしての水流を受け止め自分の緊張を調整しようとする リラクセーションの獲得 段階, 介助者からの支持がなくても自分の体のバランスを調整しようとする 能動的な動き 段階, 自分でバランスを取りながら水中での動きにつなげようとする 自発的な動き 段階, 自力もしくは補助具を使いながら水中で動くことを目的とする 泳ぎ 段階である 重度重複障害の場合においては, 水慣れ リラクセーションの獲得 能動的な動き が重視され, 介助者とコミュニケーションを取りながら, 各段階に応じたプログラムを実施することとされている ただし, プログラム内容及び指導時間は, 本人の生活年齢やそれまでの養育環境, 運動機能レベル, プール経験などを考慮しながら判断する必要がある Ⅳ 岡山支援学校における指導と課題中学部の自立活動を中心とした Ⅲ 類型のプール授業では, 前述の 発達学的水泳療法 をもとにし, 実態に合わせた形でプール指導計画を作成している 1 プール指導計画 ( 指導の流れ ) の作成 本校でのプール授業は, 教育課程上は 自立活動 として割り当てられているため, 身 体の動き の ( 1 ) 姿勢と運動 動作の基本的技能, 環境の把握 の ( 1 ) 保有す
る感覚の活用に関すること を中心としながらも, 人間関係の形成 や コミュニケーション の項目も意識して取り組みを行っている 教師との関係だけでなく, 集団を意識するために集団での課題も取り入れ, 他者とのかかわりをもてる内容としている また, 水圧による呼気補助や浮力による運動抵抗の調整, 温水によるリラクセーション効果など, 水の特性を効果的に利用できる授業にするために, それぞれの生徒の実態に即した個別課題を設定して取り組んでいる 指導内容の設定には, 発達学的水泳療法 ( 水中運動療法 ) を中心としながら, 身体機能向上に関する部分では W.A.P.T 療法 ( 水治運動療法 ) 等の手法も参考にして行っている ( 図 2 参照 ) 2 指導の実際 ( 1 ) 対象とする生徒本実践における授業で対象とした Ⅲ 類型の生徒 図 2 岡山支援学校におけるプール指導体系 の多くは, 教師からの働きかけや外的刺激に発声や表情, 身振りで応答することで気持ちを表現する乳児期 ~ 幼児期前半程度の発達段階である 身体機能の面では, 車いすをこいで移動できる生徒も在籍しており, 教師の補助を受けて不安定ながらも歩行を行うことができる生徒もいる M E P A - Ⅱ による発達段階では, 個人差はあるが, 姿勢項目についてはよつばい位, 立位, 立位から座る動作ができる状態である また, 移動については, よつばい移動, 支持歩行ができる 操作については, 物を持って振ったりたたいたりする, つまんだり取り出したりすることができる程度である コミュニケーションについては, 呼ぶとこちらに来る, 簡単な指示を理解できる段階に到達していると考えられる ( 2 ) 題材に関する実態および個別目標 生徒 A 生徒 B 生徒 C ( 日常生活での実態 ) ( 日常生活での実態 ) ( 日常生活での実態 ) 日常生活は車いすで過ごすが, 支持歩行が可能 一日をとおして覚醒レベルが低いことが多く, 肘 ひざ 股関節など関節可動域の制限が大き である 発作が起きることもある い 右凸の側わんがあるためコルセットを装着して 日常生活は車いすで過ごすが, ウォーカーで移 体を動かそうとすると緊張が入り, 反り返るこ 生いる 動することもできる とが多い 徒 姿勢が不安定なときに支えになるものをつかむ 車いすをこいで移動することもある 快 不快を表情や声で表すことができる のことはあるが, 教師が提示したものには手を出そ実うとしないことが多い 態 ( プールでの実態 ) ( プールでの実態 ) ( プールでの実態 ) 水中での活動は好きで, 活動に積極的に取り組 プールに入るとうれしくて笑顔を見せ, 水面を プールに入るとうれしくて笑顔を見せ, 声を出 むことができる たたいて喜ぶ すことが多いが, うれしさのあまり緊張が強くな 身長が低いため, 通常のプールの水深では足が 水中で立位をとろうとすると緊張が強くなるることもある 届かない が, 伏し浮きでは緊張がゆるみやすい 浮き具を使用した伏し浮きでは, 上下肢を自発的に動かそうとすることがある ( 個別目標 ) ( 個別目標 ) ( 個別目標 ) 1 浮力を利用して立位を保持することができる 1 水中で浮き具を使用した伏し浮き姿勢で, 1 水中で浮き具を使用した背浮き姿勢で, 上下肢 2 浮き具を使用して肩や腰をゆるめることができ上肢の力を抜くことができる の力を抜くことができる る 2 浮き具を使用して自発的に体を動かすことがで 題 3 浮き具を使用して自発的に体を動かすことがで きる 材きる
の 自立活動指導内容との関連 自立活動指導内容との関連 自立活動指導内容との関連 個 2-1,3-1,4-1,5-1,5-2, 2-1,3-1,4-1,5-1,5-2 2-1,3-1,4-1,5-1 別 6-1 目 ( 評価の観点 ) ( 評価の観点 ) ( 評価の観点 ) 標 1 水流が起きても支持立位を保つことができた 1 教師の言葉かけや水流を受け止めて, 浮き具に 1 教師の言葉かけや水流を受け止めて, 浮き具に か 体をあずけて腕を伸ばすことができたか 体をあずけて腕や足を伸ばすことができたか 2 縦揺れや横揺れを繰り返すことで緊張がゆるん 2 教師の言葉かけや動作の促しを受けて, 腕を伸 だか ばしたり曲げたりすることができたか 3 教師の言葉かけに応じて体を動かすことができたか 配 プールの水面をたたいたり, 不意に大きな声を 浮き具を使用したうつ伏せでは顔に水がかかる 不意に顔に水がかかると緊張が強くなり, 姿勢 慮出したりするため, 周囲の状況に注意する ため, 口元に注意して水を飲まないようにする がくずれることがあるので, 支持部位に気をつけ 事 発作が起きやすいため, 生徒の様子をよく観察る 項 する 生徒 A は, 実態表からも分かるように側わんがあるため, 日常生活では側わんの進行予防のためコルセットを使用している また, 自力で立位を保持することはできるが, 自力で足を進めることはまだ難しい状態である 課題 ( 自立活動 ) の授業時間で減圧ボールを利用して側わんの進行予防を行っている この生徒 A を図 2 の指導体系に当てはめてプールの課題設定を行うと, 変形の予防 と 身体機能向上 の課題が当てはまる 変形の予防 課題では, 側わんが進行している周辺部の筋緊張をゆるめることで, 側わんの進行予防につながるといわれている 浮き具を使った腰のゆるめ, 浮力の差を利用したドルフィン, 全身の緊張をゆるめるスイングなどの活動が効果的であると考えられる 身体機能向上 課題では, 水中での立位保持を水深を変えたり負荷をかけたりしながら行うことで, 陸上では不安定になりがちな立位を, 安全にかつ効果的に経験することができると考えられる ( 3 ) 指導案 学習活動 教師の支援および配慮事項 備考 生徒 A 生徒 B 生徒 C 1. あいさつ 健康観察, 着替えの終わった生徒からプールサイドに移動し, 授業開始準備をする 切手マット 準備ができたら, 授業の始まりを意識できるように, 日直の号令であいさつをする 2. 準備運動 活動開始が意識できるように, 歌に合わせて体をタッピングし, 準備運動を行う ラジカセ CD 3. 水浴準備 シャワーに近い生徒から順番にシャワーを浴びる シャワーは心臓から遠い部分 ( 手 足 ) から温水をかけるようにする シャワー, 入水 安全面を考慮し, 生徒 B, 生徒 Cは教員 2 人で介助を行う 4. 集団活動 共通メニューの音楽に合わせて集団で活動を行う 1 水慣れ ( 活動内容 ) ( 抱っこ移動 ) 1 体を立てた状態で前後の移動を行い, 水流を感じる 2リラクセーション 3 伏し浮き 背浮きなどリラックスしやすい姿勢で, 水流を感じるとともに体をゆるめる ( 横揺れ運動 ) 3 体を立てた状態で前後の移動に加え, 上下の動きのある移動を行う 4 縦揺れ運動 4 体を立てた状態で前後の移動を行うとともに, 回転したり, 水をかけ合ったりする 5 前後運動 ( 指導上の留意点 ) 1 脇やあご, 首を支え顔が水につからないようにするとともに, 生徒の表情にも注意する 2 生徒の体が水平になるように支えるとともに, 水流による無理な力がかからないようにする 3 生徒の顔が水につからないようにする 4 集団が意識できるように言葉かけを行う ( 共通メニューの評価の観点 ) 横揺れ運動 前後運動 横揺れ運動
水流を感じながら, 全身の力を抜くことが 体を立てた状態でも緊張せずに活動がで 水流を感じながら, 全身の力を抜くこと できたか きたか ができたか 5. 個別活動 陸上では弛緩しにくい部分について温水プールのリラクセーション効果を利用しながらゆるめていく ヘッドフロート リラクセーション リラクセーションができた生徒については, 能動的な動き, 自発的な動きにつながる課題設定を行い, 活動の幅を広げていく アームヘルパー 筋緊張の緩和 主指導者は全体を見ながら評価を行うようにするとともに, 必要に応じて支援に入ったり, 助言を行ったりする フロートマット 自発的な動き スイング 肩のゆるめ 肩 腰のゆるめ 浮き輪など 姿勢保持 横揺れの水流を受け止め, 全身の力を抜く 浮き具を使用し, 浮力を利用しながら肩 浮き具を使用し, 浮力を利用しながら肩 水中歩行 支持立位 の緊張をゆるめる 腰の緊張をゆるめる 高さの違う台を使用しながらプールサイド 泳ぎ スイング を持ち, 立位を保つ 浮き具を使用し, 自発的に動くことで泳 横揺れの水流を受け止め, 全身の力を抜 ぐ く ( 個別メニューの評価の観点 ) 腰のゆるめ 肩のゆるめ 肩 腰のゆるめ 教師の言葉かけや, 浮力による体の動きを 教師の言葉かけや, 浮力による体の動き 教師の言葉かけや, 浮力による体の動き 受け止め, 緊張がゆるんだか を受け止め, 緊張がゆるんだか を受け止め, 緊張がゆるんだか 支持立位 泳ぎ スイング 水深が変わることで浮力が弱まっても, 立 自発的に体を動かそうとする様子が見ら 教師の言葉かけや水流を受け止め, 緊張 位を保持することができたか れたか がゆるんだか 6. あいさつ 今日の授業でがんばったことを, 評価の観点を入れながら, 教師といっしょに発表する 授業の反省 終わりを意識できるように, 日直の号令であいさつをする 7. 退水準備 順番に退水し, 上がり湯用のビニールプールにつかった後, シャワーを浴びるようにする 上がり湯用ビニ 体温調整 安全面を考慮し, 生徒 B, 生徒 C は教員 2 人で介助を行う ールプール シャワーを浴びる 更衣室で着替え後, 教室に戻って健康観察, 体温チェック, 水分補給などを行う 3 活動の様子と生徒の変容生徒 A の実態から設定した個別課題を, 指導案の中の 個別活動 として実施した 腰のゆるめでは, 図 3 のように本人が安心しやすいように大きめのフロートマットを利用した 腰を押さえることで, 上半身と下半身との浮力の差が生じ, 浮き上がる速度の違いから, 無理なく腰の曲げ伸ばしができる また, 浮力の差を利用したドルフィンでは, 側わんの凸側の足にフロートを入れることで, 左右の浮力差ができ, 側わんが矯正される方向に浮力が発生する この状態で腰の前後屈を行うことで, 自然な形で側わんを予防する筋肉の動きを促すことができるとされている 担任からのコメントでは, これらの動きを繰り返すことにより, 水流に身を任せ緊張をゆるめるだけでなく, 心身ともにリラックスすることができるようになってきているようである これは水中での表情からも見て取れるが, 実際にプール授業後の車いすでの座位姿勢では, 側わん方向への体の傾きが軽減されていることからも分かる また, 水中での立位保持では, 水中に高さの違う台を沈め, 水深を変化させることで浮力による支持を変えられるようにしている 本人の体調に応じて, 高さを変えながら支持立位を行うことにより, 授業後だけでなく, 日常での立位保持もバランスを取ろうと意識する場面がが見られるようになってきている このよう 図 3 腰のゆるめの様子図 4 浮力の差を利用したドルフィン図 5 水中での立位の様子
に, 水中だけでなく, 陸上での活動にもプール授業で身につけた動きを生かすことができ るようになってきているといえる Ⅴ おわりに自立活動の取り組みを考える中で, プール授業は単に水中での活動だけでなく, 日常生活においても学習内容を身体コントロールに生かすことができるなど, その効果は大きい そのため, プール授業を毎週継続的に行うのが理想ではあるが, 全学部が一つのプールを使用するため, 隔週実施とせざるを得ないのが現状である また, 指導内容の設定については, 指導体系を整備し, 段階的に行うことができるようにしているが, 細かい課題設定については個々の指導者に任されている さらに, 定期的な実技研修を行っているが, 効果的な実技を全指導者が身につけているとは言い難い 全指導者が生徒の実態に応じて, 自立活動の指導内容と照らし合わせながら課題設定ができるように, 意識して実技技能を身につけていくことが今後の課題となっている また, 今回の指導実践で利用した 発達学的水泳療法 では, 重度重複障害者を対象として リラクセーションの獲得 から 泳ぎ を身につけていくことを主な目的としているため, 独歩可能な児童生徒やステージの軽い筋ジストロフィー症の児童生徒にとっては障害の特性を考えると課題設定が難しい そのため, このような児童生徒の自立活動の指導の中での泳ぎの指導のあり方, 身体機能向上のための効果的な指導については, 体育的な要素も含めてまとめていくのが今後の課題である < 引用 参考文献 > 1) 覚張秀樹 障害児の水泳療法 小児内科 vol.41 No.8, 2009-8, P.1219 覚張秀樹 脳性麻痺児の水泳療法 小児看護 12, 1989 覚張秀樹 肢体不自由児 病虚弱児の学齢期のプール活動について はげみ No.337, 日本肢体不自由児協会, 2011 香川県立高松養護学校肢体不自由教育のヒント 肢体不自由のある子どものプール指導 http://www.kagawa-edu.jp/takayo01/