31 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 岡本真知 倉澤佳奈 ( 病理形態研究グループ 指導教員 : 覚道健一 ) 目的今回 いくつかの臓器の癌取り扱い規約を比較検討した結果 臓器ごとに異なっている点があることがわかった その中でも 細胞診を行っていく上で検体数が多く 診断する機会も多い婦人科臓器である子宮 卵巣の癌取り扱い規約について今回はその中から進行期分類の相違点を重点的に調べたので報告する 癌取り扱い規約とは各種癌の臨床的あるいは病理学的診断 進行期の決定 治療法および治療成績の算出 ( 統計 ) などに際して用いられる用語等が定義されたガイドラインである 癌の治療成績の向上を図るために 臓器ごとにカルテ記載 画像診断 手術記録 病理診断などで用いられる専門用語等を定義し 専門家同士が正確に情報交換できるように工夫され どの施設で行われる診断 治療であっても定められた分類に沿ったものが行われるように全国共通に決められたものである 癌取り扱い規約の中の臨床的取り扱いとして進行期分類があり 進行期分類は治療法の決定や予後の推定あるいは治療成績の評価に際し 比較可能なものとするために用いられており 術前においては臨床進行期分類 術後においては病理組織診断に基づくTNM 分類が採用されている 細胞診 病理組織診断は 良性悪性の診断とともに 癌の進行期判定にも用いられる 各々の進行期分類 ( 後述 ) 3 臓器比較 子宮頚癌子宮体癌卵巣癌 好発年齢 20~60 歳 40~60 歳 20~60 歳 主な組織型 扁平上皮癌 腺癌 表層上皮性 間質性腫瘍 早期発見 早期での治療 温存手術 全摘 一側切除 進展様式 局所浸潤 局所浸潤 腹膜播種 解剖学的特色 骨盤臓器 骨盤臓器 腹膜内臓器 腹膜播種 進行癌 進行癌 早期癌 リンパ節転移の関与
32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法や 予後などは 癌の直接浸潤の程度 / 範囲で変わってくるため リンパ節転移よりも重要視されている 一方 体癌 卵巣癌ではリンパ節転移があればⅢ 期と判定する 2 子宮体癌では腹水細胞診陽性だとⅢ 期となるが 卵巣癌では腹水細胞診陽性でもⅠc 期に止める 卵巣は腹膜内臓器 子宮は骨盤臓器である そのため 卵巣で発生した腫瘍は早期癌であっても直接腹水内に癌細胞が出現しやすい 一方 子宮体癌では卵管まで進展し 腹水内に腫瘍細胞が出現するか 筋層 子宮漿膜を破って直接腹膜内に進展するなど進行癌にならないと腹水内に癌細胞は出現しない 腹水細胞診について本来 腺癌細胞が腹水内に検出されると その癌は進行末期の状態であり 手術は行われない ( 例 : 子宮体癌 胃癌 大腸癌 膵癌 肺癌 など ) 一方卵巣癌では例外的に腹水内に腺癌細胞が検出されても進行期分類ではⅠ 期と初期段階であり 原則的に手術が適応される しかし 卵巣癌は初期段階では無症状であることが多く この段階で発見されることは少なく 自覚症状などが出現し 発見される頃にはⅢ Ⅳ 期など進行癌であることが多い まとめ以上 子宮頚癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点は 腹膜浸潤の有無 リンパ節転移の有無や癌の直接浸潤など進展様式によって判定が異なることが判明しました その進行期判定基準の異なる原因として 腹膜内臓器であるか 骨盤臓器であるかの解剖学的特色によるものと考えられました 最後に私たちはこの研究を通して 婦人科臓器の進行期分類について学びました 細胞検査士は細胞診を行うことで 結果的に患者の進行期を診断することとなります 進行期によっては治療法や予後も変化するため 患者の治療法決定に重要な役割を持っています 医療従事者として 医療チームの一員として これからも精進していきたいと思います
33 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類 子宮頸部 0 期 : 上皮内癌 (CIS) 基底膜 ( 血管 リンパ管 ) を超えないため 転移は起きない Ⅰ 期 : 癌が子宮頸部に限局するもの ( 体部浸潤の有無は考慮しない ) Ⅰa 期 組織学的にのみ診断できる癌肉眼的に明らかな病巣はたとえ表層浸潤であってもⅠb 期とする 浸潤は計測による間質浸潤の深さが 5mm 以内で 縦軸方向の広がりが 7mm を超えないものとする Ⅰa-1 期 : 間質浸潤の深さが 3mm 以内で 広がりが 7mm を超えないもの Ⅰa-2 期 : 間質浸潤の深さが 3mm をこえるが 5mm 以内で 広がりが 7mm を超えないもの Ⅰb 期 臨床的に明らかな病巣が子宮頸部に限局するもの 又は臨床的に明らかではないがⅠa 期を超えるもの Ⅰb-1 期 : 病巣が 4cm 以内のもの Ⅰb-2 期 : 病巣が 4cm をこえるもの Ⅱ 期 : 癌が頸部をこえて広がっているが 骨盤壁または膣壁下 1/3 には達していないもの Ⅱa 期 : 膣壁浸潤が認められるが 子宮傍組織浸潤は認められないもの Ⅱb 期 : 子宮傍組織浸潤の認められるもの Ⅲ 期 : 浸潤癌が骨盤壁まで達しているもので 腫瘍塊と骨盤壁の間に cancer free space を残さない 又は 膣壁浸潤が下 1/3 に達するもの
34 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 Ⅲa 期 : 膣壁浸潤は下 1/3 に達するが 子宮傍組織浸潤は骨盤壁にまで達していないもの Ⅲb 期 : 子宮傍組織浸潤が骨盤壁にまで達しているもの 又は 明らかな水腎症や無機能腎を認めるもの Ⅳ 期 : 癌が小骨盤をこえて広がるか 膀胱 直腸の粘膜を侵すもの Ⅳa 期 : 膀胱 直腸の粘膜への浸潤があるもの Ⅳb 期 : 小骨盤をこえて広がるもの
35 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 子宮体癌 0 期子宮内膜異型増殖症 Ⅰ 期癌が子宮体部に限局するもの Ⅰa 期子宮内膜に限局するもの Ⅰb 期浸潤が子宮筋層 1/2 以内のもの Ⅰc 期浸潤が子宮筋層 1/2 以内をこえるもの Ⅱ 期癌が体部および頸部に及ぶもの Ⅱa 期頸管腺のみを侵すもの Ⅱb 期頸部間質浸潤のあるもの Ⅲ 期癌が子宮外に広がるが 小骨盤腔を超えていないもの または所属リンパ節転移のあるもの Ⅲa 期漿膜ならびに / あるいは付属器を侵す ならびに / あるいは腹腔細胞診陽性のもの Ⅲb 期膣転移のあるもの Ⅲc 期骨盤リンパ節ならびに / あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの Ⅳ 期癌が小骨盤腔をこえているか 明らかに膀胱または腸粘膜浸潤のあるもの Ⅳa 期膀胱ならびに / あるいは腸粘膜浸潤のあるもの Ⅳb 期腹腔ないならびに / あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの
36 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 卵巣癌 Ⅰ 期卵巣内限局発育 Ⅰa 期腫瘍が一側の卵巣に限局し 癌性腹水がなく 被膜表層への浸潤や被膜破綻の認められないもの Ⅰb 期腫瘍が両側の卵巣に限局し 癌性腹水がなく 被膜表層への浸潤や被膜破綻の認められないもの Ⅰc 期腫瘍は一側又は両側の卵巣に限局するが 被膜表層への浸潤や被膜破綻が認められたり 腹水又は洗浄液の細胞診にて悪性腫瘍の認められるもの Ⅱ 期腫瘍が一側又は両側の卵巣に存在し さらに骨盤内への進展を認められるもの Ⅱa 期進展ならびに / あるいは転移が 子宮ならびに / あるいは卵管に及ぶもの Ⅱb 期他の骨盤内簿臓器に進展するもの Ⅱc 期腫瘍発育がⅡa 又はⅡb で被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり 腹水又は洗浄液の細胞診にて悪性細胞の認められるもの Ⅲ 期腫瘍が一側又は両側の卵巣に存在し さらに骨盤外の腹膜播種ならびに / あるいは後腹膜又は 鼠径部のリンパ節転移を認められるもの また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや 肝表面への転移の認められるものをⅢ 期とする Ⅲa 期リンパ節転移陰性で腫瘍は肉眼的には小骨盤に限局しているが 腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの Ⅲb 期リンパ節転移陰性で 組織学的に確認された直径 2cm 以下の腹腔内播種を認めるもの Ⅲc 期直径 2cm をこえる腹腔内播種ならびに / あるいは後腹膜又は鼠径リンパ節に転移の認められるもの Ⅳ 期腫瘍が一側又は両側の卵巣に存在し 遠隔転移を伴うもの 胸水の存在により Ⅳ 期とする場合は胸水中に悪性細胞を認めなければならない また肝実質への転移は Ⅳ 期とする
37 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 参考文献 子宮頚癌癌取り扱い規約日本産科婦人科学会日本病理学会日本医学放射線学会 / 編 子宮体癌癌取り扱い規約日本産科婦人科学会日本病理学会日本医学放射線学会 / 編 卵巣腫瘍癌取り扱い規約日本産科婦人科学会日本病理学会 / 編 病気がみえる Vol.9 婦人科 乳腺外科医療情報科学研究所 / 編