3. 記録管理プログラムの作成記録管理のプログラムとは 組織ごとの記録管理の方針からルール ( 管理規則 実施手順など ) 教育計画 監査基準まで すべてがセットになったものであり 組織における包括的な記録管理の仕組みである この項では ISO15489の考え方をベースに国際標準に基づいた記録管理プログラムとはどのようなものか示す 記録管理のプログラムを作成する場合 先に述べた基本的な記録管理の要求事項 (1) 記録の品質( 2 ) を満たしていることが前提となるのはいうまでもない 通常 記録管理プログラム ( 仕組み ) 作りは次のようなステップを取る 図 5-1 記録管理プログラムのステップ ステップ 1 : 現状調査 ステップ 2 : 業務活動の分析 ステップ 3 : 記録に関する要求事項の明確化 103
ステップ 4 : 記録管理の方針と責任の明確化ステップ 5 : 記録のライフサイクル管理のルール作りステップ 6 : 教育 研修ステップ 7 : 記録のライフサイクル管理ルールの導入ステップ 8 : 監査と維持管理以下 各ステップの内容 留意点等を少し詳しく見ていこう ステップ1: 現状調査組織内の文書発生源である各部門 ( 通常 課レベルが中心となる ) に対するアンケート調査 ヒアリング 目視調査などを通じて情報を収集する これにより各課の業務内容及び情報量 ( 例えば一人当たりの記録保有量 * ) を調査し 記録に関する部門ごとの問題点 課題を把握し整理する 併せて現行の記録管理システムの評価を行い 現状の不具合及び良い点を把握する これらの結果から この後のステップである記録管理方針及びライフサイクル管理のルール作りのための材料を得る * 通常ファイルメーター ( 紙文書を縦に積み上げた高さをメーターで表す ) という単位を使用ステップ2: 業務活動の分析このステップの目的は 記録が組織の各業務及び業務プロセスとどのように関わりあっているかを把握することである そのため各課の業務活動 機能とプロセスを体系的に分析し 業務と記録との間の関係を明らかにすると同時に 組織全体の業務の関連性 法規制及びリスク対応上の要件を明らかにする このプロセスで作成する成果物 1 組織の業務 機能 活動 業務処理を記述した文書 2 上記の業務処理 業務プロセスの階層的な関係を明らかにした業務分類体系 3 業務活動の結果の記録が作成 受領される時点を示す業務フロー図 4 記録のタイトルやインデックス作りに役立つ用語のシソーラス 104
5 記録の保存期間や処分行動を決定する際に必要な処分権限ステップ3: 記録に対する要求事項の明確化このプロセスの目的は 組織の業務活動の証拠となる記録を作成し 取得し 保存するための組織の要求事項を明らかにすることである 言い換えると 組織内部の効率的な業務の推進のみでなく 組織の規制環境の分析から 組織が記録を作成 保存していなければどのようなリスクが発生するかを評価することである つまり経営上又はコンプライアンスの観点から 組織内外の利害関係者にいつでも説明責任が果たせるようにするための記録の要件を明らかにすることである ステップ4: 記録管理の方針と責任の明確化このステップの目的は 組織が必要な業務活動の記録を確実に作成 保存するための方針と責任を明確にすることである 方針を明確化することで 組織の記録管理の目的 どこに記録管理の重点を置くのかといったことが分かる 方針が明確になれば 責任が明確になる 責任には方針を実行するための体制作りを含む 良いルールを作り またそのルールを組織内で浸透させるためには やはり何のために記録管理を行うのかという理念 方針が明確になっていないといけない 組織全体で記録管理を徹底し 成果を上げるためには 記録管理の方針と責任体制が欠かせない 方針は文書化され組織の全員に浸透させなければならない 方針の決定に当たっては次の点を考慮する 1 組織の目的及び歴史を含む組織の特性 2 組織が遂行する業務のタイプの特徴 3 組織が業務活動を行う方法 4 組織としての社会的責任 ( 企業の場合はCSRなど ) 5ベースとなっている組織風土 企業文化ステップ5: 記録のライフサイクル管理のルール作りこのステップの目的は 決定された方針を基に 記録のライフサイクル管理のルールを作成することである 組織はこれらルール ( 規則 手順 基 105
準 ガイドライン ) により 記録の作成 取込み 活用 保管 保存 処分という記録のプロセス管理を計画的 体系的に 適切なアプローチで行うことが可能となる このステップの成果物には次のものが含まれる 1 記録管理規則 ( 分類基準 保存期間基準含む ) 2 記録管理実施手順書 ( マニュアル ) 3 教育用テキスト 資料ステップ6: 教育 研修このステップの目的は 決定した記録管理方針 ルールを組織の構成員に教育し 徹底を図ることである この場合 記録管理の担当者のみならず 管理職を含む組織の構成員全員 ( 派遣社員 契約社員含む ) に対し教育を実施することが重要である ステップ7: 記録のライフサイクル管理ルールの導入このステップの目的はステップ 4 5 で作成された方針 ルールを実行するための方法論を 戦略的に正しく位置づけ 体系的に実行に移すことである その前提としてステップ 6 の教育 研修が重要となる 導入のためには それぞれの部門がどのような連携 ( プロセス 手順 人及び技術など ) を取るべきかを含む 導入計画書が必要となる また新しいルールの導入の前に 必要となるのが基礎整備といわれるプロセスである つまりこれまでに溜まった重複文書等の不要な文書 保存期間の経過した記録などを処分し 未登録のファイルを整備し記録として取り込むようにするなどの作業が必要となる いわば組織の贅肉を落とし すっきりとしたところで新ルールを導入するわけだ このプロセスの成果物は 1 成果報告書 2 経営幹部への報告書ステップ8: 監査と維持管理このステップの目的は 導入した記録管理プログラムの効果を測定し もし不具合があれば直ちに修正を行い さらにこの記録管理プログラムが継 106
続している間 定期的な監査 ( モニター ) 体制を確立することである このステップに含まれるもの 1 記録が業務活動の必要性から作成され 保存されているかどうかの分析 2 経営幹部 従業員その他の関係者からのヒアリング調査 3 運用状況の観察とランダムなチェック 4 監査 調査結果に 改善勧告を加えた報告書を作成し 経営幹部へ提出 4. 記録管理方針の明確化記録管理を導入 実施しようとする組織は まず組織の記録管理方針を立案しなければならない 従来の日本のファイリングシステムあるいは文書管理では この文書管理方針を明確にせずに いきなり分類体系や保存期間などの手順作りに入るものが少なくない これでは何のために文書管理を導入するのか 何に重点をおいた文書管理を実施するのかが不明確で 実効が伴わない 国際的な基準では 組織ごとの記録管理方針を策定し それに基づいて記録管理のルールや手順を決めることになっている 第 4 章の記録管理の目的で見てきたアカウンタビリティ ナレッジマネジメント リスクマネジメントの要求事項はすべての組織に共通するものであるから 基本的にはこれらがベースになっていなければならないが やはり業種業務によりその組織活動の重点の置き方が違ってくる また たとえ業種業務が同じでも組織ごとの組織風土や経営方針が違う筈だ これらの点を加味した組織ごとの記録管理方針をトップの方針として明確にしておく必要があるわけだ 例えば国であれば国民の権利を守り 国民に対する現在及び将来の説明責任を果たすための記録管理でなければならない 電力会社であれば 原子力発電所における安全確保に必要な記録の管理が最重点となるであろう メーカーであれば市場におけるクレーム情報や品質情報が速やかにトップを初めとした関 107