2014年

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生物時計の安定性の秘密を解明

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

論文の内容の要旨

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

平成14年度研究報告

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

, 2008 * Measurements of Sleep-Related Hormones * 1. * 1 2.

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

研究から医療へ より医療への実利用が近いもの ゲノム医療研究推進ワーキンググループ報告書 (AMED) 臨床ゲノム情報統合データベース公募 対象疾患の考え方の方向性 第 1 グループ ( 主に を目指す ) 医療への実利用が近い疾患 領域の着実な推進 単一遺伝子疾患 希少疾患 難病 ( 生殖細胞系列

研究の背景近年 睡眠 覚醒リズムの異常を訴える患者さんが増加しています 自分が望む時刻に寝つき 朝に起床することが困難であるため 学校や会社でも遅刻を繰り返し 欠席や休職などで引きこもりがちな生活になると さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥ります 不眠症とは異なり自分の寝やすい時間帯では良眠で

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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博士学位論文審査報告書

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

出発前日の早起きで時差ボケを軽減 シフトワーカーのからだに優しい勤務スケジュールの作成に期待 [ 発表者 ] 郡宏 ( お茶の水女子大学基幹研究院准教授 ) 山口賀章 ( 京都大学薬学研究科助教 ) 岡村均 ( 京都大学薬学研究科教授 ) [ ポイント ] 時差ボケの原因を数学的に解明 東向きの長距

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

医療連携ガイドライン改

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

長期/島本1

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

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緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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解禁時間 ( ラジオ テレビ WEB): 平成 30 年 4 月 7 日 ( 土 ) 午後 1 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ): 平成 30 年 4 月 7 日 ( 土 ) 付夕刊 [PRESS RELEASE] 平成 30 年 4 月 3 日 夏の夜は心筋梗塞の増加に注意 日本 イタリアなど世

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し


卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

スライド 1

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

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[PRESS RELEASE] 平成 27 年 10 月 1 5 日 Rett 症候群患者の睡眠障害の治療法の確立に光 ~Rett 症候群モデルマウスに体内時計の異常を発見 ~ 1 概要本研究成果のポイント Rett 症候群 ( 注 1) は自閉症の一種であり MeCP2 遺伝子 ( 注 2) の変異が原因の多くを占めている Rett 症候群患者には睡眠障害が合併する確率が高いことが臨床的に知られていた MeCP2 遺伝子をゲノム編集技術 CRISPR/Cas9 法 ( 注 3) で欠失させた Rett 症候群モデルマウスで 体内時計の中枢である視交叉上核 ( 注 4) でリズム出力が低下していることを発見 Rett 症候群患者の睡眠障害は体内時計の異常による可能性を示唆しており治療法に道筋 京都府立医科大学大学院医学研究科八木田和弘 ( やぎたかずひろ ) 教授と土谷佳樹 ( つちやよしき ) 講師らの研究グループは 久留米大学名誉教授 現在 聖マリア病院レット症候群研究センター長の松石豊次郎 ( まついしとよじろう ) 教授らの研究グループと共同で 自閉症の一種である Rett 症候群のモデルマウスに体内時計の異常があることを明らかにしました これまで 臨床的に Rett 症候群患者では睡眠障害を合併する患者が非常に多く見られることが知られ 特に 夜間不眠と昼間の傾眠傾向があることから Rett 症候群の睡眠障害は概日リズム ( 約 1 日周期のリズム ) に異常があるのではないかと想像されていました しかし 概日リズムを生み出す体内時計との関連など 具体的なメカニズムはほとんど分かっておらず 睡眠障害に対する治療法に関しても確立されたものはありませんでした 今回 最近開発されたゲノム編集技術である CRISPR/Cas9 法を用いて 体内時計のモニターが可能かつ MeCP2 遺伝子を欠損した Rett 症候群モデルマウスを作成し 行動リズムおよび時計遺伝子の発現リズムを解析しました その結果 行動リズム解析では Rett 症候群様の概日リズムの乱れが見られるとともに 体内時計中枢において時計遺伝子発現リズムの減弱が認められました これらの結果から MeCP2 遺伝子欠損により 体内時計中枢のリズム出力の減弱が生じ それに伴って睡眠 覚醒リズム異常が引き起こされていることが示唆されました 本研究では Rett 症候群の睡眠障害には体内時計中枢のリズム出力障害が関与する可能性を示しており Rett 症候群患者に対する睡眠障害の治療を考える上で メラトニン等の概日リズム調節作用を持つ治療薬の効果をメカニズム面から支持する結果となりました 今後は 本研究の結果を受けて Rett 症候群患者の睡眠障害において治療法の確立に向けた臨床研究へと進むことが期待されます 本研究は 久留米大学医学部の松石豊次郎教授 ( 小児科学 ) 京都大学再生医科学研究所の近藤玄教授 ( 実験動物学 ) らと共同で行ったものです 本研究成果は 2015 年 10 月 12 日 ( 月 ) に Genes to Cells( ジーンズ トゥー セル ) 誌 のオンライン速報版に掲載されました

2 研究の背景地球上のほとんどの生物に備わる体内時計 ( 生物時計 概日時計 ) は 昼と夜 という地球の環境周期を予測し これに先んじて身体の機能を適応させることで生体機能を維持する役割を担っています ヒトをはじめとする哺乳類では 睡眠覚醒リズムのみならず 内分泌やエネルギー代謝 循環器機能や消化器機能など様々な生理機能の約 24 時間周期のリズム ( 概日リズム ) を生み出し 心身の健康維持に必須の生命機能です シフトワーカーなど 不規則な生活を長年続けることによる体内時計の乱れは 様々な健康問題を引き起こすことが分かっています Rett( レット ) 症候群は 精神発達遅滞および特有の常同行動 ( 手もみ運動 ) を伴う自閉症スペクトラムに分類される発達障害の一種です 原因として MeCP2( メチル化 CpG 結合タンパク質 2) 遺伝子の変異が約 90% の Rett 症候群患者に見られます さらに 大きな特徴として 夜間の不眠と昼間の傾眠傾向を伴う睡眠障害が高率に合併することが知られています この睡眠障害は 睡眠 覚醒リズム障害であり 認知症の睡眠障害と同様に 本人の QOL の低下のみならず介護者の負担も増加させるため 臨床上の大きな問題となっています この睡眠障害の原因として 以前から睡眠リズムつまり概日リズム異常であることから体内時計との関連が指摘されていました しかし これまでは体内時計メカニズムとの関連についてはほとんど報告がありませんでした 哺乳類の体内時計は 司令塔である視交叉上核のみならず全身のほとんどの細胞に備わっている 普遍的な細胞機能でもあります 体内時計は一生にわたって時を刻み続けますが 最初から備わっているわけではなく 発生過程を通して形成されることがわかっています 八木田教授は これまで 哺乳類体内時計の発生メカニズム研究を通して 発生に伴う細胞分化と体内時計の形成に密接な関連があることを発見してきました (Yagita et al, PNAS, 2010; Umemura et al, PNAS, 2014) Rett 症候群を含む発達障害に概日リズム障害が多く見られるという指摘もされている中で 発生過程で形成される体内時計とこれらの疾患との関連メカニズムの解明は極めて重要な医学生物学上の課題です しかし その実体はほとんど分かっておらず メカニズムの解明が待たれていました 3 研究の内容 Rett 症候群と体内時計の分子機構との関連を調べるために 体内時計をモニターできる MeCP2 欠損マウスの作製に取り組んだ 体内時計のモニターには 時計遺伝子 mper2 にホタルのルシフェラーゼ遺伝子を融合させた mper2:luc ノックインマウスを用いるが MeCP2 欠損マウスは生後平均 8 10 週間程度しか生存できないため 通常の MeCP2 欠損マウスとの掛け合わせでは研究に必要なマウスを取得することが困難でした そこで 八木田教授らは 最近開発されたゲノム編集技術 CRISPR/Cas9 法を用いてワン ステップで mper2:luc / MeCP2 欠損マウスを作製する方法を確立しました ( 図 1) 具体的には mper2:luc マウスの受精卵を多数採取しておき これに MeCP2 遺伝子を標的としたガイド RNA(sgRNA) とゲノム DNA 切断酵素 Cas9 遺伝子を導入し MeCP2 遺伝子が欠損したマウスを取得する という方法です CRISPR/Cas9 法で得られた MeCP2 欠損マウスを行動リズム解析したところ 概日リズムは見られるものの 対照群のマウスと比較して行動リズムが不明瞭で活動期と休眠期のメリハリが低下していることがわかりました ( 図 2) これは Rett 症候群の患者に見られる睡眠パターンとよく似ています さらに mper2:luc / MeCP2 欠損マウスの視交叉上核における体内時計を分子レベルで解析したところ

視交叉上核を構成する神経細胞で mper2:luc の発光リズムが著明に減弱していることが確認されました ( 図 3) これらの結果から MeCP2 欠損マウスでは 体内時計中枢の視交叉上核におけるリズム発振が障害され これに伴うリズム出力の低下が行動リズムの減弱につながっていることが示唆されました つまり Rett 症候群における睡眠障害の原因が 体内時計の異常にあるという可能性を支持する結果となりました MeCP2 欠損による神経細胞の発生異常は様々なメカニズムが関与しており 視交叉上核の神経細胞にどのような機能的異常が生じ 体内時計の発振障害につながっているのかは より詳細な今後の研究が必要になります しかし 体内時計の中枢の異常が明らかとなったことで Rett 症候群の睡眠障害の治療は視交叉上核における概日リズム調節を標的とすることで改善できる可能性が示唆されました 4 まとめと今後の展開本研究成果から Rett 症候群の睡眠障害には メラトニンなどの視交叉上核に直接作用する概日リズム改善薬が有効である可能性が示されました 実際 一部の専門的な医療機関から メラトニンの投与により睡眠障害が改善したという報告も出されています 今後は 本研究の基礎的な成果に基づいて臨床研究がデザインされ 効果を検証していくことが必要になります 用語解説 ( 注 1) Rett( レット ) 症候群精神発達遅滞や失調性歩行 特有の常同運動 ( 手もみ動作 ) を特徴とする自閉症スペクトラムのひとつ Rett 症候群の80 90% に MeCP2 遺伝子の変異がある X 染色体連鎖遺伝病ではあるがほとんどが de novo 変異 ( 親が保因者ではなく 生殖細胞もしくは発生初期に新たに生じる変異 ) で生じる疾患である 男性は胎生致死であり 女児のみが罹患する ( 注 2) MeCP2 遺伝子メチル化 CpG 結合タンパク質 2(Methyl-CpG-binding protein 2) の略で X 染色体上に存在する メチル化された遺伝子のプロモーター領域 ( メチル化 CpG) を標的として結合し 遺伝子発現を抑制するタンパク質として発見された 他の自閉症 双極性障害 統合失調症にもこの遺伝子の変異が認められる場合がある ( 注 3) CRISPR/Cas9 法細菌が獲得免疫機能として持つ ウイルスやファージなど外来微生物由来の DNA を塩基配列依存的に切断する酵素 Cas9 を応用した 新たなゲノム編集技術 様々な生物で遺伝子破壊や変異導入など 新たな遺伝子改変ツールとして広く利用されている ( 注 4) 視交叉上核脳の視床下部という部位にある神経核 ( 神経細胞の集まり ) 視神経が交叉する視交叉の上に乗っているような形から 視交叉上核と名付けられた

5 参考図 ( 図 1)CRISPR/Cas9 法を応用した mper2:luciferase ノックイン MeCP2 欠損マウスの作製 ( 図 2)MeCP2 欠損マウス ( 右 ) で見られた行動リズムの乱れ ( 右下図 )

( 図 3)MeCP2 欠損マウス視交叉上核における mper2:luc 発光リズムの減弱 対照群の視交叉上核における mper2:luc 発光リズム (A,C 上段 ) MeCP2 欠損マウス視交叉上核における mper2:luc 発光リズム (B,C 下段 ) 発表雑誌 1) 掲載雑誌名 Genes to Cells 誌 [2015 年 10 月 12 日 ( 月 ) オンライン速報版掲載 ] 2) 論文タイトル CRISPR/Cas9 法による MeCP2 遺伝子破壊で作成した Rett 症候群モデルマウスにおける概日リズム障害 Disruption of MeCP2 attenuates circadian rhythm in CRISPR/Cas9-based Rett syndrome model mouse by Tsuchiya et al.

著者 土谷佳樹 1 南陽一 1 梅村康浩 1 渡邊仁美 2 小野大輔 3 中村渉 4 高橋知之 5 本間さと 3 近藤 玄 2 松石豊次郎 5 八木田和弘 1 ( 著者所属 ) 1 京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学 2 京都大学再生医科学研究所再生実験動物研究室 3 北海道大学医学研究科時間医学講座 4 大阪大学大学院歯学研究科口腔時間生物学講座 5 久留米大学医学部小児科学教室 問い合わせ先 京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学教授八木田和弘 ( 電話 ) 075-251-5313 e-mail: kyagita@koto.kpu-m.ac.jp