慢性心不全に立ち向かう ~ 予防から治療までの包括ケア ~ 鹿児島厚生連病院 心不全チームプロジェクト 鹿児島厚生連病院循環器科 早川裕 平成 29 年 8 月 19 日鹿児島厚生連病院平成 29 年度健康塾鹿児島厚生連病院 3 階研修室
心臓静脈動脈体循環 心臓の働き 肺循環 心臓は 全身に血液を送り出すポンプの働きをしています 生命維持に必要な酸素や栄養素などを含む血液を 拍動によって肺や全身へめぐらせます 肺循環心臓と肺のあいだをめぐる血液循環です 肺で酸素を取り入れ 二酸化炭素を放出します 体循環心臓と全身のあいだをめぐる血液循環です 酸素や栄養素を全身へ届け 二酸化炭素や老廃物を運び去ります
慢性心不全とは 心臓が機能を果たせず 体に症状が現れた状態です ポンプ機能の低下が徐々に進行します 心臓の機能低下がゆっくりと進行し 症状のある状態が長期間続きます 普段は安定していても 過労などにより症状が悪化しやすい状態です 高齢者に多い病気です 高齢者に多い高血圧や心筋梗塞などが 原因となり発症します 心筋の病気や弁の異常も原因となります
各年齢層の患者割上Tsutsui H, et al. Circ J 2007; 71: 449-454 わが国の慢性心不全患者 ( 外来 ) の年齢分布 -JCARE-GENERAL 研究 - (%) 50 男性女性 40 30 20 10 0 ~40 ~39 49 合病院通院患者開業医通院患者各50 ~59 60 ~69 70 ~79 80 ~89 90 以年齢層の患者割合上50 男性 女性 40 30 20 10 ( 歳 ) 0 ~40 ~50 ~60 ~70 ~80 ~90 以39 ( 歳 ) 49 59 69 79 89 (%)
患者数20 わが国の慢性心不全患者 ( 入院 ) の年齢分布 -JCARE-CARD 研究 - ( 人 ) 120 100 n=2,675 71.0±13.4 歳 (Mean±SD) 80 歳以上 28.6% 80 60 40 0 0 10 20 30 40 50 年齢 60 70 80 90 100( 歳 ) Hamaguchi S, et al. Circ J 2011; 75: 2403-2410 改変
世界の高齢化率の推移
わが国における心不全患者数の予測 人口および年齢構造と心不全患者数の将来推計 (2015 ~2055 年 )
慢性心不全の分類と症状 左心不全原因 : 全身へ血液を送り出す心臓の左側の機能が低下 症状 : 十分な血液が届かないことによる全身倦怠感のほか 肺に血液がたまることによる呼吸困難や咳などが現れます 肺へ 肺から 全身から 全身へ 肺へ 肺から 左心房 右心不全原因 : 全身から戻る血液を肺へ送り出す心臓の右側の機能が低下 症状 : 体に血液がたまることによる体重増加やむくみ 食欲不振などが現れます 右心房 全身から 右心室 左心室
慢性心不全の原因 基礎疾患 - 心筋梗塞 心臓に酸素や栄養を運ぶ冠動脈の血管が閉塞して 筋肉の働きが低下します 高血圧 血圧が高くなると心臓に負担がかかります 心筋症 原因不明で心臓の筋肉の働きが低下します 弁膜症 心臓の血流を仕切る弁の働きが悪くなり 血液が逆流したり流れにくくなったりします 不整脈 心房細動などの不整脈が長期間持続することによって心臓の機能が低下することがあります 先天性心疾患 心臓やその周りの血管の生まれつきの異常により 心臓の機能が低下します
わが国の慢性心不全患者の基礎疾患 -JCARE-GENERAL 研究 JCARE-CARD 研究 - 外来 (JCARE-GENERAL) 入院 (JCARE-CARD) 虚血性心疾患 30% 虚血性心疾患 32% 高血圧性心疾患 35% 高血圧性心疾患 24% 弁膜症 26% 弁膜症 28% 心筋症 15% 心筋症 20% その他 不明 5% 12 % 0 10 20 30 40 (%) 0 10 20 30 40 (%) Tsutsui H, et al. Circ J 2007;71:449-454 Hamaguchi S, et al. Circ J 2009; 73: 2084-2090 より作成
慢性心不全の原因 リモデリングと心機能障害 - 収縮機能障害 拡張型心筋症 冠動脈疾患 正常な心臓 拡張機能障害 高血圧性心肥大
心不全の症状 体が要求する血液を送り出せないために起こる症状 体に血液が滞ってしまう うっ血 によって起こる症状 坂道 階段での息切れ 日中の尿量 回数の減少 体重の増加 (2~3kg 以上の増加 ) 夜間の尿量の増加 食欲不振 手足が冷たい感じ 全身倦怠感 むくみ 夜間の呼吸困難や咳
慢性心不全の重症度 NYHA 心機能分類 Ⅰ 度 ( 無症候性 ) Ⅱ 度 ( 軽症 ) Ⅲ 度 ( 中等症 ~ 重症 ) Ⅳ 度 ( 難治性 ) 心臓に疾患があるが 日常生活では症状が現れない安静時には症状が現れないが 日常生活の労作で症状が現れる安静時には症状が現れないが 歩くなど軽い労作でも症状が現れる安静時にも症状が現れ ごく軽い労作で症状が悪化する NYHA:New York Heart Association
難治性心不全心臓の構造的異常が進行する心不全治療が難しくなる心不全の症状が現れる現れる心不全リスクが高い 慢性心不全のステージ分類 心不全リスクあり 心不全 ステージ A ステージ B ステージ C ステージ D 構造的異常なし症状なし 構造的異常あり症状なし 構造的異常あり症状あり 安静時にも症状が特別な治療が必要な 高血圧 動脈硬化性の疾患 糖尿病 肥満 メタボリックシンドローム 心毒性のある薬剤の使用歴 心筋症の家族歴 心筋梗塞の既往 左室肥大や収縮機能低下を含む左室リモデリング 無症候性の弁膜症 構造的異常が明らかで 息切れと疲れやすさ 運動耐容能の低下がある 最大限の薬物治療にもかかわらず 安静時に著しい症状がある ( 繰り返し入院している 特別な治療なしでは安全に退院できないなど ) ACC/AHA 2005 心不全診療ガイドライン 2009 年改訂版 ( 米国 )
慢性心不全の診断のための検査 心電図検査 胸部 X 線検査 血液検査 (BNP など ) 尿検査 心エコー検査 CT MRI 心臓核医学検査 運動負荷検査 心臓カテーテル検査心内圧測定 左室造影冠動脈造影など
慢性心不全の治療 重症度に応じた治療 - 無症候性 (NYHAⅠ 度 ) 軽症 (NYHAⅡ 度 ) 中等症 ~ 重症 (NYHAⅢ 度 ) 難治性 (NYHA Ⅳ 度 ) ステージ A ステージ B ステージ C ステージ D ACE 阻害薬 ARB 薬物療法 β 遮断薬 利尿薬 ジギタリス製剤 経口強心薬 抗アルドステロン薬 静注強心薬 h-anp 日常生活の管理 植込み型除細動器 (ICD) 心臓再同期療法 (CRT) 医療機器の使用手術療法 循環補助左室形成術 僧帽弁形成術心臓移植 生活習慣の改善 規則正しい服薬など
慢性心不全の治療 薬物療法 - ACE 阻害薬血圧や体液量を調節するホルモンの生成を抑える薬 このホルモンによる心筋の病的変化を防ぐことで 症状を改善します アンジオテンシン Ⅱ 受容体拮抗薬 (ARB) 血圧や体液量を調節するホルモンの働きを抑える薬 ACE 阻害薬と同様に ホルモンによる心筋の病的変化を防ぎます β 遮断薬心臓に対する交感神経の作用を抑える薬 心臓の働きを穏やかにすることで心筋を保護し 症状を改善します
慢性心不全の治療 薬物療法 - 利尿薬水分やナトリウムを尿として出すことで 体液の量を減らして 心臓の負担を軽減する薬 抗アルドステロン薬体液量を調節するホルモンを抑える薬 余分な水分やナトリウムを尿として出すことで心臓の負担を減らし 症状を改善します ジギタリス製剤心臓の筋肉に作用し ポンプの力を強める薬 心臓の速すぎるリズムを抑える働きもあります
慢性心不全の治療 非薬物療法 - 運動療法症状に合わせた適度な運動が 心臓や体の機能を 改善します 和温療法低温のサウナや温水浴が 血行状態などを 改善します 酸素療法睡眠時の無呼吸に対して 呼吸の補助を行います 在宅酸素療法 (HOT) や 圧力をかけるマスク (CPAP ASV) などがあります 乾式遠赤外線低温サウナ 在宅酸素療法 (HOT)
慢性心不全の治療 非薬物療法 ( 医療機器を使用した治療 )- 心臓再同期療法 (CRT) 左右の心室の収縮タイミングを合わせるペースメーカーによる治療です ICD 機能を持った CRT もあります 植込み型除細動器 (ICD) 命にかかわる不整脈の発生を感知して正常なリズムに戻します 補助循環装置体内または体外に置いた装置により心臓のポンプ機能を補います 大動脈内バルーンパンピング 経皮的心肺補助装置 補助人工心臓などがあります 動脈へ 大動脈内バルーンパンピング 経皮的心肺補助装置 静脈から 補助人工心臓
慢性心不全の治療 非薬物療法 ( 手術による治療 )- 冠血行再建術冠動脈を再建し血行障害を改善する治療です 経皮的冠動脈形成術 (PCI) や冠動脈バイパス術などがあります 左室形成術心室を小さく作り直す手術です ドール手術やオーバーラッピング手術などがあります ドール手術 冠動脈ステント ( 経皮的冠動脈形成術 [PCI]) 冠動脈バイパス術僧帽弁形成術僧帽弁を形成して逆流を改善する手術です 心臓移植
日常生活における注意 安静と運動 - 十分な休養と睡眠 症状に合わせた適度な運動 精神的 身体的ストレスの回避 十分な休息と適度な運動を心がけ 無理のない生活をおくりましょう
服用回数 服用量 飲み忘れた時 副作用 日常生活における注意 薬の服用 - 指示された服用回数に従い 毎日できるだけ同じ時間に服用します 指示された薬ごとの服用量を間違わないように管理しましょう 気づいたらできるだけ早く飲んでください 次の時間が近づいている場合には飲まないようにしましょう 副作用症状に気づいたら できるだけ早く医師に伝えてください 医師の指示どおりに服用し 自己判断での中止や変更はしないでください
心不全は再発を繰り返し心機能を低下させる 心不全患者は入退院を繰り返す 疾病管理疾病管理プログラムプログラム の作成 QOLの評価評価と精神精神ケア 心不全増悪の誘因 1 治療コンプライアンスの欠如 46% 食事 34% 薬物療法 12% 身体活動の制限 11% 2 感染症 20% 3 不整脈 11% 4 身体的 精神的ストレス 5% 5 心筋虚血 5% 6 高血圧症のコントロール不良 4% 7 その他 7%
心不全の管理 再悪化予防心不全心不全心不全心不全の問題点問題点問題点問題点 コントロールがコントロールがコントロールがコントロールが出来出来出来出来なければなければなければなければ再発再発再発再発を繰り返す 予後予後予後予後が悪い疾患疾患疾患疾患 管理管理管理管理 予防予防予防予防が重要重要重要重要となるとなるとなるとなる! 薬物療法薬物療法薬物療法薬物療法生活習慣改善生活習慣改善生活習慣改善生活習慣改善社会福祉的介入社会福祉的介入社会福祉的介入社会福祉的介入リハビリテーションリハビリテーションリハビリテーションリハビリテーションアドヒアランスアドヒアランスアドヒアランスアドヒアランス, フレイル サルコペニアフレイル サルコペニアフレイル サルコペニアフレイル サルコペニア, 経済的困窮経済的困窮経済的困窮経済的困窮, 認知機能認知機能認知機能認知機能, 精神精神精神精神 心理的問題心理的問題心理的問題心理的問題多職種多職種多職種多職種チームチームチームチーム医療医療医療医療の価値価値価値価値
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不全を悪化させないために 慢性 不全 帳 ( 患者さん向け ) 不全を急性増悪させないために 分管理には注意が必要です 監修兵庫県 尼崎病院循環器内科佐藤幸人
患者中心としたチーム医療 専門医 薬剤師 患者さん かかりつけ医 看護師 患者さんを中心としたチーム医療の連携が重要
多職種介入に包括的管理におけるチームアプローチの流れ
他職種介入による包括的管理