頸椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)

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平成 29 年度九段坂病院病院指標 年齢階級別退院患者数 年代 10 代未満 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代以上 総計 平成 29 年度 ,034 平成 28 年度 -

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痛が増悪することがあります この原因は 多くの場合 仕事のやりがいや緊張感がなくなり 気持ちの張りが衰えると同時に足腰の筋力が急激に弱るためと考えられます できれば仕事以外に 普段から気の合う仲間と適度な運動やスポーツを楽しむ時間を作り ストレスを発散し 気持ちを萎えさせず 足腰の力を衰えさせないよ

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症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

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70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

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( けいついしょうせいせきずいしょう ) 頚椎症性脊髄症 Cervical spondylotic myelopathy 執筆者 : 星地亜都司 概要 頚椎の椎間板変性 骨棘形成 椎間関節の変性 脊柱靭帯 ( 後縦靭帯か黄色靭帯 ) の肥厚 さらにこれらの変化に伴って発生する脊椎不安定性など 脊椎の加齢現象によって疼痛や神経症状が生じた状態を ( 変形性 ) 頚椎症と呼ぶ このような変形性頚椎症とよばれる状態によって 頚椎内の脊髄の通り道である脊柱管に狭小化が生じ 内部の脊髄組織が圧迫されることによって 四肢体幹のしびれ 筋力低下 膀胱直腸障害などの神経症状が発生した病態が 頚椎症性脊髄症 である 日本人の頚椎手術対象疾患のなかでも もっとも手術頻度の高い疾患である 病因 椎間板の変性 椎間関節の変性 それらに起因する頚椎異常可動性 ( 不安定性 ) や頚椎弯曲異常などが頚椎 症の実態である いずれも脊椎の加齢現象であるが そのような加齢現象の起きやすさ 重症化しやすさの原 因はまったく不明である 病態生理 四肢の麻痺症状 ( 脊髄症状 ) 発生のメカニズムとしては 変性した椎間板の後方突出 椎体隅角部での骨棘形 成が前方からの脊髄圧迫因子となる ( 図 1) ( 図 1) 頚椎症性脊髄症の MRIT2 強調画像前方からは骨棘 ( 骨の突出 : 矢印 ) と椎間板 ( 矢頭 ) 後方からは肥 1

厚した黄色靭帯 ( 点線矢印 ) による脊髄圧迫があり 頚髄内の高輝度変化がある 先天的あるいは発育性に頚部脊柱管前後径が狭いものに脊髄症状が発生しやすい 肥厚した黄色靭帯が頚椎後屈時に硬膜管側にたわむこと 頚椎の動きによって頚椎椎体隅角部と後方の黄色靭帯 椎弓との距離が狭まり硬膜管の狭小化が増強されること ( ピンサーメカニズムと専門用語では呼ばれている ) など後方要素をも含めた動的因子も脊髄症悪化要因となる 脊髄腫瘍に比して 頚髄症患者の頚髄圧迫の程度は重度ではない にもかかわらず麻痺が進行してゆく要因として 神経そのものへの障害のほか 血液循環障害が大きく関与するという考え方がある 頚髄症とは 繰り返し受ける動的な圧迫により微小な脊髄損傷の蓄積状態であるという説もある 臨床症状 自覚症状 手足のしびれ 脱力感 手指の使いにくさ ( ボタンがかけにくい 字を書きにくいなど : 巧緻運動障害という ) 歩きにくさが典型例での症状となる 進行例では四肢麻痺がより重症化し 膀胱障害 ( おしっこができらない 回数が多い 残尿感 失禁 ) や便秘が出現する しびれの範囲 筋力低下の部位は 頸髄の障害高位によって個人差がある 他覚症状 軽症例では手指の狭い範囲での感覚低下と下肢の腱反射 ( 膝のおさらの下を打腱器で叩くと下腿が反応する 手技 ) が強くでるだけであるが 進行するほど四肢筋力低下が明らかとなる 手指の握ったり開いたりを早く行う よう指示してもうまくできないことを検知できる 診断 鑑別診断 頚椎症性脊髄症では X 線写真と MRI にて椎体後方隅角部の骨棘 変性膨隆した椎間板 肥厚した黄色靭帯 などによる頚髄圧迫の所見があり 多くの場合 MRI の T2 強調画像で脊髄内に高輝度信号変化を伴い ( 図 1) 画像所見と神経所見との整合性があれば診断できる 先に述べたように 手指の巧緻運動障害 歩行障害 膀胱直腸障害などが進行例の主症状であり 四肢のしびれや知覚障害を伴う 経過や神経学的所見から多発性硬化症 パーキンソン病 運動ニューロン疾患 脳障害 脊髄サルコイドーシスなど神経内科的疾患を除外する必要があり 迷ったら専門医 ( 日本脊椎脊髄病学会指導医など ) の診断を仰ぐべきである 四肢不全麻痺があっても知覚障害がない場合 運動ニューロン疾患やパーキンソン病を疑う必要がある 麻痺が重度でも MRI で頚髄圧迫に伴う髄内輝度変化がなければ他疾患を疑う根拠となる 2

治療 保存的治療 ( 頚椎装具と薬物治療 ) を行う余地があるかどうかの初期決定がまず必要となる 麻痺が進行性であったり 日常生活に大きな支障をきたしたりする場合に手術適応となり漫然と保存治療を続けるべきではない 椎弓形成術という安定した術式が確立されてきていることが積極的に手術を薦める大きな要因となっている 壮年者 前期高齢者の場合 麻痺が軽度の場合でも MRI 上圧迫が強く脊髄内の信号変化がある場合には 早期の手術を考慮することがある 罹病期間が長いこと 術前重症度が高いことが手術成績を落とす要因であることは 疑いの余地が少ない 手術方法については頚椎の後方からアプローチする椎弓形成術 ( 図 2) と前方からアプローチする前方除圧固定術 ( 図 3) がある 頚椎脊柱管が全般的に狭い症例が日本人には多いため 後方法が選択されることが多い 両術式とも手術成績は概して良好といえる 5% 程度に術後の上肢筋力低下 ( 肩があがりにくくなるなど ) が発生することが知られているが数ヶ月以内に回復することが多い 頚部痛が残算するケースが 1 割から 2 割存在するといわれている 頚髄症であっても片側限局性の指のしびれや痛みが主症状の場合 保存治療 ( 薬物治療 頚椎装具治療 注射 ) が奏効することがある しかしながら頚髄症が顕在化していて MRI で脊髄病変が明らかである場合 保存療法を省略するのが最近の傾向にある 高齢者では手術適応を決める際に 虚血性心疾患 糖尿病 痴呆等の合併症の有無が問題となる リスク評価を含め他科との連携が重要である 軽度の頚髄症に対し 頚椎装具を主体とした保存治療と手術治療群とで 2 年成績に差がなかった というランダム化試験 (RCT) がある 頚椎装具が 軽症の頚髄症例に対し短期的には有効であることを中等度のエビデンスとして支持するものであるが 頚髄症自体が長期にわたって経過をみないと意味がない性質の疾患であり 脊髄の不可逆性が増えればいずれ手術になった場合の成績が不良となることも予想される 軽症例に対する手術のタイミングについては わが国の整形外科医と脳神経外科医とでも意見が分かれるのが現状である 手術を受けるべきか否か セカンドオピニオン外来で頻繁に問題となる 薬物療法として非ステロイド系消炎鎮痛剤, 筋弛緩剤 安定剤などが 疼痛 しびれ 四肢のこわばりなどに対し使用されてきている 付随する不安や不眠に対し 抗うつ剤を使用することがある これらの薬剤は対症療法として日常診療上 使わざるをえないが 頚髄症に対する効果は実際のところは不明である 最近 血行改善作用のあるプロスタグランディン製剤を使用する施設もあるがまだ有効性が証明されていないため保険適応となっていない 頚髄症悪化の予防策として 生活指導がある 頚部疾患の多くで 頚椎後屈位が症状悪化の要因となりやすいことが知られている うがい 洗濯物干し コンピュータ作業時などに顎を上げた頚部ポジションをとること 床屋での髭剃りなどが これに相当するため 避けるべき注意点として指導事項に含める 睡眠時の枕にも注意を払う必要があり 顎があがらないよう注意を喚起する 水泳と頚部の体操は中止してもらう 3

転倒 転落が頚髄症を悪化させ 手術成績を落とす要因である可能性があるので 転倒に対する注意を促すことは重要である 浴槽や段差がある場所が危ない しかしながら 一部の患者では 転倒による悪化のリスクを強調しすぎると過敏になりすぎて足がすくんでしまうということがある 表現に注意することが医師に求められるが 現実的には階段からの転落が最も問題となりやすいから エレベーターやエスカレーターを使用し階段などの危なそうなところは避ける というアドバイスが現実的であろう ただし以上のような生活指導は経験的なものに基づくものであって 有効性が証明できたものではない 生活指導以外で頚髄症の進行を予防できる手段は今のところない 頚椎の老化には椎間板の変性が大きく関 与していることは想像に難くないが サプリメントも含め食生活上も推奨できるものがない 頚髄症に対し運動療法が有効である科学的根拠はない 針灸を含めた代替医療についても根拠はない カイ ロプラクティスによる頚椎他動運動によって 頚髄障害が悪化して裁判となっている事例がある ( 図 2) 頚椎椎弓形成術頚椎の後方を拡大して せまくなった脊柱管 ( 脊髄の通り道 ) を拡大する ( 図 3) 頚椎前方除圧固定術前方から進入して圧迫因子を除去した後に 骨盤の骨を移植する 4

予後 頚椎椎弓形成術の 10 年以上フォローの長期成績がいくつも報告されており 成績は良好ではあるが しびれ が完全にとれるわけでもない 罹病期間が長かったり 術前に麻痺が重症であるほど 術後成績がやや落ちる 傾向にある 理学療法の位置付け 頚部愁訴に対しホットパックやスーパーライザーといった理学療法があるが 有効性については不明といわざるを得ない 軽症の頚髄症に対しては頚椎装具による局所安静治療が短期的には有効であることがあり 早期手術を希望しない患者に対し薬物治療と併用して試みる価値はある 装具着用時には通常 頚椎を軽度前屈した姿位をとらせると患者が楽であることが多い 足元が見にくくなる場合があるので注意を喚起する必要がある 外来で行う頚椎介達牽引では 10Kg を超える重量負荷を行っている施設が多い 頚髄症に対する外来牽引は麻痺悪化の症例報告があり かつ有効性は証明できていないので避けるべきである ガイドライン 医師向けに作成されたエビデンス集が 2005 年に発刊されている 1) 文献 1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 頚椎症性脊髄症ガイドライン策定委員会編集 : 頚椎症性脊 髄症診療ガイドライン南江堂 2005 5