水害による日本初の道路啓開 中島央人 関東地方整備局常陸河川国道事務所道路管理第二課 ( 310-0851 茨城県水戸市千波町 1962-2) 昨年の 平成 27 年 9 月関東 東北豪雨 により茨城県常総市の鬼怒川堤防が決壊し広範囲にわたり浸水被害が発生したため常総市は 9 月 12 日に市内全域の市道について 災害対策基本法 76 条の 6 第 1 項に基づく指定を実施した 関東地方整備局は 常総市長からの要請を受け緊急輸送路の確保のため 放置車両等の移動 ( 道路啓開 ) を目的に テックフォースの派遣を行った 2014 年 11 月の災害対策基本法改正以降 水害による道路啓開を行ったのは日本初であることから 実施内容や課題についてとりまとめを報告する また 決壊の前日に実施した川島橋通行止めの状況報告を行う キーワード平成 27 年 9 月関東 東北豪雨 道路啓開 災害 1. はじめに平成 27 年 9 月関東 東北豪雨の当事務所の対応として鬼怒川に架かる国道 50 号川島橋の通行止めの実施 その後 常総市での道路啓開実施の2 点の対応についてとりまとめた (1) 道路啓開とは緊急車両等の通行のため 1 車線でもとにかく通れるように早急に最低限の瓦礫処理を行い 簡易な段差修正により救援ルートを開けることをいう 大規模災害では 応急復旧を実施する前に救援ルートを確保する道路啓開が必要である 今回の常総市の道路啓開では放置車両の撤去を実施した (2) 道路啓開実施の背景 平成 27 年 9 月関東 東北豪雨 により茨城県常総市では鬼怒川の堤防が決壊し広範囲にわたり浸水被害が発生 道路上に多くの放置車両が溢れた 関東地方整備局は 常総市長からの要請を受け緊急輸送路の確保のため 放置車両等の移動 ( 道路啓開 ) を行った (3) 川島橋の通行止めの背景国道 50 号川島橋 ( 昭和 28 年完成 ) は老朽橋化が進行していることなどから 結城市で 震度 5 弱以上 の地震が発生した場合や鬼怒川 ( 川島観測所 ) の水位が はん濫危険水位 に達した場合には一時的に通行止めを行い 安全性の確認をすることとしている 平成 27 年 9 月関東 東北豪雨 により堤防決壊の前日 (9 月 9 日 23:00) に川島橋水位観測所にて鬼怒川の水位上昇が確認されたことから川島橋の通行止めを実施した 2. 道路啓開内容 9 月 12 日 4:00 常総市は道路区間の指定を行い 1
常総市から国へ支援要請 ( 市管理道路の啓開 ) また 同日 茨城県も常総市内の県管理道路を指定 9 月 14 日茨城県から国への協力要請 ( 県管理道路の啓開 ) (1) 現地調査道路啓開を行うにあたり 現地状況の情報不足が問題となった 現地の詳しい状況がほとんど入ってきていなかったため現地の被害情報 放置車両の数 位置 道路啓開の必要な範囲などがわからなかったためである そのため 9 月 11 日の夜間から翌日にかけて現地調査を行うこととなった そこで 調査のために現地に職員を派遣したが 浸水の影響で移動に車を使えなかったことから徒歩での調査を余儀なくされ調査に困難を要した ( 写真 -1 2) 図 -2 道路啓開の実施範囲 写真 -1 現地調査時写真 -2 現地調査時 (2) 道路啓開の実施範囲現地調査の結果から道路啓開の実施範囲を決めた 市道の道路啓開を行うことから図 -2 のとおり常総市役所周辺と破堤箇所周辺の常総市北側を実施範囲とした (3) 道路啓開の実施状況道路啓開にかかる職員や作業員 使用機材などの実施状況については表 -1 に記載のとおりである 日時内容 9 月 10 日利根川水系鬼怒川左岸 ( 常総市三坂 12:50 町地先 ) が決壊 9 月 12 日常総市が市全域を指定道路区間に指定する これにより道路啓開が実施可能となる 現地調査のため職員 4 名派遣 9 月 13 日前日の現地調査を受け放置車両の移動を実施 職員 7 名の 3 班体制 維持業者 3 社 作業員 15 名 ユニック 4 台 バックホウ 4 台が出動し 5 台の放置車両を移動した 9 月 14 日 B 型バリケードの設置のために維持業者が出動した 9 月 15 日放置車両の移動を実施 職員 8 名の 3 班体制 維持業者 3 社 2
作業員 9 名 バックホウ 3 台が出動し 15 台の放置車両を移動した 9 月 18 日 9 月 14 日に設置したB 型バリケードを撤去するため維持業者が出動した 9 月 19 日側溝清掃を行うために職員 1 名が現地へ派遣された 9 月 24 日常総市が指定道路区間の解除表 -1 実施状況 (3) 現地での作業内容について現場作業を行うにあたっては 3 班体制で現地作業を実施した 各班 職員 2 名 維持作業員 2~3 名 重機 1 台 レッカー 1 台を割り振った 職員 2 名で記録 車両の状況の確認等を行った ( 写真 -3) また 今回水害ということから車両移動にレッカーだけでは厳しいことが予想され重機を用意したが実際に現地で使うことはなく レッカーのみで車両を移動となった 実際の作業としては放置車両を 1 台移動するためには 1 時間ほどの時間を要した また 職員 1 名を車両保管所 ( 常総市の駐車場 ) に配置し移動した車両の管理等を行った ていては作業効率が悪くなる そのため事前に記録表を複写式にしてまとめた 災害時の現場持ち出し書類 < 路上放置車両対策編 > を作り作業の簡素化を計った ( 図 -3,4,5) 車両移動記録表は次のような作りになっている 1 車両移動記録 ( 図 -3 右 ) 2 車両移動通知 ( 図 -4 左 ) 3 車両移動に関する通告 ( 図 -4 右 ) 4 車両移動伝票及び移送状況確認表 ( 図 -5 左 ) 5 移動車両個票 ( 図 -5 右 ) 図 -3 表紙 ( 左 ) 1 車両移動記録表 ( 右 ) 図 -4 2 車両移動通知 ( 左 ) 3 車両移動に関する通告 ( 右 ) 写真 -3 実施状況 a) 車両の写真撮影作業に着手する前に損傷状況を記録する これは移動時に新たに損傷を発生させていないかを記録するためのものである b) 車両移動の記録表について道路啓開で車両移動する際 記録表を毎回記載し 図 -5 4 車両移動伝票及び移送状況確認表 ( 左 ) 5 移動車両個票 ( 右 ) 3
1 車両移動記録に情報を記載し 2 車両移動通告を現地に残す この際に電柱など現地に掲示する場所がない場合には木杭などで現地に残すようにした 実際に今回の道路啓開では田んぼの中に放置車両があったため 木杭を打ち対応した 運転手が車内に残っていて車の移動に応じない場合には3 車両移動に関する通告を行う 今回道路啓開を行った中では持ち主が近くにいることはなかった現地で記載した4 車両移動伝票及び移送状況確認表を保管場所 ( 駐車場 ) にいる職員に渡す 5 車両移動個表は移動車両のフロントガラス等に掲示した (1.1m) から氾濫危険水位 (2.3m) へ移行した (2) 現場状況現地到着時にはすでに警察が通行止めをしている状況だった 図 -1 の位置にバリケードを設置し 通行止めについての説明を行った 通行止めを開始してから数時間後 鬼怒川の西側にある田川が決壊し通行止め箇所である川島橋の左岸側は冠水し水が腰の位置まで達した 川島橋の右岸側は堤防が低いため家などが水に浸かってしまっている状況であった ( 写真 -4) (4) 移動車両の引渡しについて道路啓開で移動した車両については 2.(3) に記載のとおり車両移送運転手から保管所の職員に車両移動確認表を渡し道路啓開で移動した車両であることを確認した その後 保管所職員から国道事務所に車両諸元についての連絡をし 国道事務所から茨城県公安委員会へ移動車両の情報提供を行った また 保管所にある車両を引き渡す際の車両所有者との確認書の取り交わしについては常総市に対応をしてもらった 図 -1 川島橋位置図 ( 出典 : 参考文献 1) 3. 川島橋の通行止めの実施 (1) 通行止めの判断基準川島橋の通行止めをするための基準について事前に設定しており水防団待機水位 (0m) で注意体制 氾濫注意体制 (1.1m) で維持業者が現場待機 事務所から出張所への応援 氾濫危険水位 (2.3m) で警戒体制に入り通行止めとしていた 今回の場合 氾濫注意水位 (1.1m) に達したため常陸河川国道事務所から職員 2 名が岩瀬国道出張所へ向かった 事務所から出張所まで向かう 1 時間ほどの間に氾濫注意水位 写真 -4 川島橋の右岸 4. 成果 (1) 課題 a) 現地に車両がない 4
今回の道路啓開は大雪などの場合と違い 対象範囲が広範囲に点在している状況であった そのため 事前に調査を行ったが 実際に車両移動の場所に向かうと車両がないといったことが起きた 指示された場所に車両がないため 指示内容が間違っていたのか すでに車両が移動済みであるかを確かめるために現地と地図を何度も確認することなり作業に時間を要することとなった b) 保管所の警備今回の道路啓開では常総市役所の南側の駐車場に 道路啓開で国 県 自治体が移動した車両を停めていた また 車両移動後の管理は常総市でもらっていた 駐車場には 放置車両を買い取るために業者が何社もおり買い取り車両と間違えて違う車両を持って行かれる事などが考えられた また 移動した車両が盗まれる恐れもあり駐車場の警備等に課題が見られた 駐車場には道路啓開で移動した車両以外にも駐車してあり 駐車場の門は閉められないといった状況であった そのため警備が手薄な状況ではあった 実際には警備を付けるなどした方が良いと思われた が現場にそこまで人手を割ける余裕はなかったと予想される (2) 対策 a) 現地に車両がない車両がない場合には 写真等で現地に車両がないことを記録し報告した b) 保管所の警備盗難防止を呼びかけるため 保管してある車両のフロントガラスに日本語と英語で書いてある注意喚起の張り紙を張った (3) 感想 9 月 9 日川島橋通行止めから始まり休むことなく常総市の道路啓開へ移行したため指定道路区間の解除となる 9 月 24 日まで 昼夜なく対応にあたり体力的にも非常に厳しい中での災害対応となった また 今回のような貴重な実体験によって得られた知見に基づいて 課題や問題点の解消に向け検討を進め 今後の災害対応 対策に役立てていきたい 参考文献 1) Google:Google マッフ 5